説明

電圧測定装置

【課題】 多数の直列に接続された電池セルの個々の電圧を測定する電圧測定装置において、測定点切替えのためのスイッチ素子の削減を図る。
【解決手段】 複数の直列に接続された電池セルC1〜C9を3つずつ分割して、複数の群(ステージ)を設定する。電圧測定装置の入力回路10には、電圧を測定するための三つの入力端子と一つの接地端子が備えられている。群ごとにフォトMOSスイッチS1〜S9を切り替えることで、三つの入力端子と一つの接地端子を電池セルC(C1〜C3、C4〜C6、C7〜C9)に接続して、スキャン方式で電池セルの電圧を測定する。ここで、群と群の間の接続点は、共通のフォトMOSスイッチS4、S5によって、入力回路10の入力端子またはグランドと接続されるため、余分なフォトMOSスイッチを必要とせず、スイッチ素子の削減ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧測定装置に関し、特に多数の直列に接続された電池セルに対して、少数の入力端子でスキャンしながら電池セルの電圧を測定する電圧測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガスと酸素とを電気化学的に反応させて起電力を得る装置であり、単セルの起電力はせいぜい1V程度に過ぎないため、一般的に数十から数百セルを積層して一つの燃料電池スタックが構成され使用される。
【0003】
燃料電池スタックを構成する各セルが正常な状態にあるかどうかを知る手段として各セル電圧の測定が行われる。燃料電池の運転中に、一つのセルでも異常が生じた場合、そのセルの電圧が顕著に低下するため、個別セルの電圧を測定していれば異常が発生したことがわかり、直ちに発電量の制限や運転の停止をすることで、異常の拡大を防止することができる。
【0004】
各セルからその電圧を検出するため、各セル間のセパレータに突起状の電圧測定用端子を設けるようにして、個別セルの電圧を測定する例が報告されている(特許文献1参照)。これによって、セパレータの端面に穴を開ける必要がないため、セパレータの厚さが薄くなっても電圧測定用の端子を取り付け、これにリード線のソケットを接続できるので、燃料電池が小型になっても各セルの電圧を個別に測定することができる。
【特許文献1】特開平11−339828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際の測定では、燃料電池のようにセル数が多い場合には、時間差を作らないために複数の測定点を同時に測定できる多入力の電圧測定がどうしても必要になるし、接続や測定点の切替えに要する部品点数が非常に多いという問題がある。
本発明は、前記従来の問題点に鑑み、多数の直列に接続された電池セルの個々の電圧をスキャンして測定する電圧測定装置において、測定点切替えのためのスイッチ素子を削減して効率的な測定を廉価に実現できる電圧測定装置の実現を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、複数の直列に接続された電池セルを所定数の電池セルからなる群に分割し、群ごとの電池セルの接続点に対応した入力端子を有し、各電池セルの接続点にスイッチ手段が接続され、群ごとに前記スイッチ手段を切り替え、前記入力端子を電池の接続点に接続してスキャン方式で前記各電池セルの電圧を測定する電圧測定装置において、群と群の間の接続点には両群に共通に使用する共通のスイッチ手段が設けられているものとした。
【0007】
請求項2に記載の発明は、電圧測定装置の入力電圧に対し、オフセット電圧を加え、このオフセット電圧を高圧側に設置させた前記群に対しては高く設定するものとした。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記電池セルは燃料電池のセルであるものとした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多数の直列に接続された電池セルの個々の電圧をスキャンして測定する電圧測定装置において、群と群の間の接続点には両群に共通に使用する共通のスイッチ手段を設けることによって、測定点切替えのためのスイッチ素子を削減して効率的な測定を廉価に実現できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態について添付図面にそって説明する。
燃料電池のような個別セルの電圧測定など多数の直列接続された起電力素子の起電力を測定する場合、起電力素子の電極の測定点を複数の群に分けて複数の測定入力端子を有する電圧測定装置で群ごとに測定点の電圧を同時に測定するのが効率的である。このとき、測定点と測定入力端子との間にスイッチ素子を設けて、群別にオン、オフすることで、測定群の選択が可能になる。
【0011】
このような場合に従来から用いられている入力回路の例として、図1に示すような構成のものがある。図1において、符号10aは電圧測定装置の入力回路であり、符号B1〜B3はバッファ、符号C1〜C9は電圧測定対象である電池セル、符号D1〜D3は差動増幅器、F1〜F3は低域ろ波フィルタ(ローパスフィルタ)、符号S1〜S13はフォトMOSスイッチ、符号GNDは接地端子である。ここで低域ろ波フィルタF1〜F3は入力電圧信号の雑音除去と安定化のために、バッファB1〜B3は被測定側と測定器側の分離のために設けられている。なお、図1の例では入力回路10aの入力端子はGNDを含めて4端子で、3セル分を1群として、群ごとに測定が同時に行われるようになっているが、これはあくまで一例であってさらに多くの入力端子を有する構成を採ることもできる。
【0012】
この例で、フォトMOSスイッチS1〜S4を同時にオンにすると、図2に示すように電池セルC1の負極がGNDになって差動増幅器D1の−入力端に、電池セルC1の正極と電池セルC2の負極との接続点が低域ろ波フィルタF1とバッファB1を経て差動増幅器D1の+入力端と差動増幅器D2の−入力端に、電池セルC2の正極と電池セルC3の負極との接続点が低域ろ波フィルタF2とバッファB2を経て差動増幅器D2の+入力端と差動増幅器D3の−入力端に、電池セルC3の正極と電池セルC4の負極との接続点が低域ろ波フィルタF3とバッファB3を経て差動増幅器D3の+入力端に、それぞれ接続されることになる。そうして、差動増幅器D1の出力から電池セルC1の電圧が、差動増幅器D2の出力から電池セルC2の電圧が、差動増幅器D3の出力から電池セルC3の電圧が得られ、これらが図示しないCPUのA/D変換器に入力されて、第1ステージの電池セルC1、電池セルC2及び電池セルC3の電圧が測定される。
【0013】
第1ステージの電池セルC1、C2及びC3の電圧測定が終了すると、フォトMOSスイッチS1〜S4をオフにし、フォトMOSスイッチS5〜S8を同時にオンにする。すると、電池セルC4の負極がGNDに接続され、電池セルC4の正極と電池セルC5の負極との接続点が低域ろ波フィルタF1とバッファB1を経て差動増幅器D1の+入力端と差動増幅器D2の−入力端に、電池セルC5の正極と電池セルC6の負極との接続点が低域ろ波フィルタF2とバッファB2を経て差動増幅器D2の+入力端と差動増幅器D3の−入力端に、電池セルC6の正極と電池セルC7の負極との接続点が低域ろ波フィルタF3とバッファB3を経て差動増幅器D3の+入力端に、それぞれ接続され、差動増幅器D1の出力から電池セルC4の電圧が、差動増幅器D2の出力から電池セルC5の電圧が、差動増幅器D3の出力から電池セルC6の電圧が出力されて、第2ステージの電池セルC4、電池セルC5及び電池セルC6の電圧が測定される。
【0014】
第2ステージの電池セルC4、C5及びC6の電圧測定が終了すると、フォトMOSスイッチS5〜S8をオフにし、フォトMOSスイッチS9〜S12を同時にオンにする。これによって、同様に第3ステージの電池セルC7、電池セルC8及び電池セルC9の電圧が測定される。
このようにすると、図2に示すように各ステージの基準となる電池セル(ここではC1、C4、C7、…Ck)の負極がステージごとに順にGND(接地端子)に接続され、各電池セルの接続点の電圧が順序に同じ極性で差動増幅器(D1、D2、D3)に入力され、各電池セルの電圧が同じ極性で差動増幅器から出力されることになる。
【0015】
しかし、この方法では図1から分かるように、各ステージの基準となる電池セルC4、C7の負極側は2つのフォトMOSスイッチ(S4、S5、S8、S9)に接続された構造になっている。燃料電池のように数百セルものセル素子からなる電池セルの電圧を検出する場合、多くのフォトMOSスイッチが用意されねばならない。本発明は、したがって、ステージごとにこの2つのフォトMOSスイッチのうちの1つを省略させ、部品点数の削減を図る。
【0016】
図3は、本発明のセル電圧測定装置の一実施の形態の入力回路の構成を示す図である。図3において、図1と同じ機能の素子には同一の符号を振って説明を行う。ただし、フォトMOSスイッチS4はこの例では図1のS5と統合されており、フォトMOSスイッチS8は図1のS9と統合されているので、それぞれS4(S5)、S8(S9)として表した。また、符号R及びrは抵抗である。入力回路10は図1における入力回路10aと同様に各ステージの電池セルの電圧を検出する。
【0017】
図3に示す入力回路10でも、図1の例と同様に入力回路10の入力端子はGNDを含めて4端子で、3セル分ずつ測定が行われる場合で説明する。しかしこれはあくまで一つの例であって、低域ろ波フィルタ、バッファおよび差動増幅器を増やしてさらに多くの入力端子を有する構成を採ることもできる。
【0018】
この入力回路10の特徴は、奇数番目の測定ステージでは、前記した図1の入力回路10aと同様で、電池セルC1、C7の負極が接地するが、偶数番目の測定ステージでは、電圧の高い側を接地にし、出力電圧を反転させることで、基準となる電池セル(C4、C7)でもフォトMOSスイッチ(S4、S8)を共通に使って部品点数を削減するようにした点である。
【0019】
第1ステージでは、フォトMOSスイッチS1〜S4を同時にオンにすると、図1の場合と同様に電池セルC1の負極がGNDになって差動増幅器D1の−入力端に、電池セルC1の正極と電池セルC2の負極との接続点が差動増幅器D1の+入力端と差動増幅器D2の−入力端に、電池セルC2の正極と電池セルC3の負極との接続点が差動増幅器D2の+入力端と差動増幅器D3の−入力端に、電池セルC3の正極と電池セルC4の負極との接続点が差動増幅器D3の+入力端に、それぞれフィルタとバッファ増幅器を経て接続されることになる。これにより、電池セルC1、電池セルC2及び電池セルC3の電圧が測定される。ここで、このような測定を順方向測定と呼ぶことにする。
【0020】
第1ステージの電池セルC1、C2及びC3の電圧測定が終了すると、フォトMOSスイッチS1〜S3をオフにし、フォトMOSスイッチS4(S5)をオンにしたままで、フォトMOSスイッチS6〜S8(S9)を同時にオンにする。すると、電池セルC6の正極と電池セルC7の負極との接続点がGNDに接続され、電池セルC6の負極と電池セルC5の正極との接続点が低域ろ波フィルタF1とバッファB1を経て差動増幅器D1の+入力端と差動増幅器D2の−入力端に、電池セルC5の負極と電池セルC4の正極との接続点が低域ろ波フィルタF2とバッファB2を経て差動増幅器D2の+入力端と差動増幅器D3の−入力端にそれぞれ接続される。
【0021】
このとき、電池セルC4の負極と電池セルC3の正極との接続点が低域ろ波フィルタF3とバッファB3を経て差動増幅器D3の+入力端に接続されている。したがって、差動増幅器D1の出力から反転された電池セルC6の電圧が出力され、差動増幅器D2の出力から反転された電池セルC5の電圧が出力され、そして差動増幅器D3の出力から反転された電池セルC4の電圧が出力される。従って差動増幅器D1〜D3の出力の極性を反転することで、第2ステージの電池セルC4、電池セルC5及び電池セルC6の電圧が測定される。ここで、このような測定を仮に逆方向測定と呼ぶことにする。
【0022】
次の第3ステージでは、フォトMOSスイッチS8(S9)〜S12を同時にオンにすることによって、電池セルC6の正極と電池セルC7の負極との接続点がGNDに接続され、以後、電池セルC7、電池セルC8及び電池セルC9の電圧が順方向で測定される。
【0023】
図4は、この測定の電圧取り込みの関係の説明図である。図4に示すようにステージごとにGND(接地端子)位置を低圧側と高圧側で切り替え、奇数番目第(2n−1)ステージでは順方向測定を行い、偶数番目第(2n)ステージでは逆方向測定を行うことで、各ステージの端部でフォトMOSスイッチを共通化してフォトMOSスイッチを図1の場合に比べてステージの数−1だけ削減することができる。このとき、順方向測定ではより若い番号のセルCの電圧がより若い番号の差動増幅器Dから出力され、逆方向測定ではより若い番号のセルCの電圧がより後の番号の差動増幅器Dから逆極性で出力されることになる。
【0024】
この測定で、差動増幅器Dの出力が入力されるCPUのA/D変換器に入力される電圧が負側になるとA/D変換器に対する仕様がより厳しくなる。これを、オフセット電圧を切り替えることで避けることができる。仮に電池セルCの起電力が燃料電池の場合のように0V〜1.3V程度の値であるとすると、図3の例で順方向測定時のオフセット電圧を+1V、逆方向測定時のオフセット電圧を+5Vにすると、A/D変換器に入力される電圧が+1V〜+5Vの範囲に収まることになり、A/D変換器の仕様をより簡単なものにすることができる。
【0025】
本発明は、以上のように燃料電池のセルなど複数の直列に接続された電池セルの起電力を従来よりも少ない素子数で検出することができるので、燃料電池システムが用いられる広範な産業分野を中心に、このような起電力素子の監視が必要な分野で広範に用いる可能性を有している。例えば複数の電池セルを直列に接続してなる二次電池の場合も応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の複数入力の電圧測定装置の入力回路の回路図である。
【図2】図1に示す回路の測定電圧の極性の説明図である。
【図3】本発明の電圧測定装置の入力回路の回路図である。
【図4】図3に示す回路の測定電圧の極性の説明図である。
【符号の説明】
【0027】
10、10a 入力回路
B1,B2,B3 バッファ
C(C1〜C9) 電池セル
D(D1〜D3) 差動増幅器
F(F1〜F3) 低域ろ波フィルタ
S(S1〜S13) フォトMOSスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の直列に接続された電池セルを所定数の電池セルからなる群に分割し、
群ごとの電池セルの接続点に対応した入力端子を有し、各電池セルの接続点にスイッチ手段が接続され、群ごとに前記スイッチ手段を切り替え、前記入力端子を電池セルの接続点に接続してスキャン方式で前記各電池セルの電圧を測定する電圧測定装置において、
群と群の間の接続点には両群に共通に使用する共通のスイッチ手段が設けられていることを特徴とする電圧測定装置。
【請求項2】
電圧測定装置の入力電圧に対し、オフセット電圧を加え、このオフセット電圧を高圧側に設置させた前記群に対しては高く設定することを特徴とする請求項1に記載の電圧測定装置。
【請求項3】
前記電池セルは燃料電池のセルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電圧測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−153744(P2006−153744A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346959(P2004−346959)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】