説明

電子デバイス用バリアフィルム

【課題】従来よりもバリア性能を向上させることが可能な、新規かつ改良された電子デバイス用バリアフィルムを提供する。
【解決手段】電子デバイス用バリアフィルムは、帯電した無機板状粒子を含む無機板状粒子層と、前記無機板状粒子と反対の電荷に帯電したバインダ層と、が交互に積層された交互積層部と、前記無機板状粒子層のうち、前記無機板状粒子が欠落した箇所である欠陥部分に形成される充填部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス用バリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス用のフレキシブル基板として、樹脂フィルム上にバリア層が形成されたバリアフィルムが用いられている。これらバリアフィルムの用途は、従来、食品等の包装であったが、近年、電子デバイスに用いられるようになり、バリア性能の飛躍的な向上が求められていた。
【0003】
特許文献1にこのようなバリアフィルムが開示されている。特許文献1記載のバリアフィルムは、粘土粒子からなる粘土層とカチオン性樹脂とを交互吸着法によって積層したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/053037号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載のバリアフィルムでは、粘土粒子の密度(吸着密度)が粘土層内で不均一(不安定)となり、粘土粒子が樹脂フィルムに吸着しない欠陥部分が多数形成されていた。この欠陥部分は、水分等のガスの通り道となる。このため、特許文献1記載のバリアフィルムには、各粘土層のバリア性能が不十分になり易いという問題があった。この問題を解決する方法として、粘土層の積層数を増加させるという方法も考えられるが、この方法では、工程が複雑になり、かつ、バリアフィルムが厚くなってしまう。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、従来よりもバリア性能を向上させることが可能な、新規かつ改良された電子デバイス用バリアフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、樹脂フィルムに、帯電した無機板状粒子を含む無機板状粒子層と、無機板状粒子と反対の電荷に帯電したバインダ層と、が交互に積層された交互積層部と、無機板状粒子層のうち、無機板状粒子が欠落した箇所である欠陥部分に形成される充填部と、を有することを特徴とする、電子デバイス用バリアフィルムが提供される。
【0007】
この観点による電子デバイス用バリアフィルムは、欠陥部分に充填部が形成されるので、この充填部によって欠陥部分でのガスの透過を防止することができる。したがって、この観点による電子デバイス用バリアフィルムは、従来よりもバリア性能を向上させることができる。
【0008】
ここで、充填部は、金属酸化物を含んでもよい。
【0009】
これにより、電子デバイス用バリアフィルムは、欠陥部分でのガスの透過をより確実に防止することができる。
【0010】
また、金属酸化物を構成する金属は、バナジウム、タングステン、及びモリブデンのうち少なくとも1種であってもよい。
【0011】
これにより、電子デバイス用バリアフィルムは、欠陥部分でのガスの透過をより確実に防止することができる。
【0012】
また、金属酸化物を構成する元素には、リンが含まれてもよい。
【0013】
これにより、電子デバイス用バリアフィルムは、欠陥部分でのガスの透過をより確実に防止することができる。
【0014】
また、無機板状粒子は負に帯電し、バインダ層は正に帯電していてもよい。
【0015】
これにより、電子デバイス用バリアフィルムを構成する層同士がクーロン力により強固に吸着するので、バリア性能がより向上する。
【0016】
また、無機板状粒子は、粘土鉱物及びリン酸ジルコニウムのうち少なくとも1種を層分離することで得られるものであってもよい。
【0017】
これにより、無機板状粒子がガスの透過を防止するので、バリア性能がより向上する。
【0018】
また、粘土鉱物は、雲母、バーミュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、及びスチーブンサイトの少なくとも1種であってもよい。
【0019】
これにより、無機板状粒子がガスの透過を防止するので、バリア性能がより向上する。
【0020】
また、粘土鉱物は、モンモリロナイトであってもよい。
【0021】
モンモリロナイトは容易に層分離されるので、この観点によれば、無機板状粒子が容易に生成される。
【0022】
また、無機板状粒子は、リン酸ジルコニウムを層分離することで得られるものであってもよい。
【0023】
リン酸ジルコニウムは容易に層分離されるので、この観点によれば、無機板状粒子が容易に生成される。
【0024】
また、樹脂フィルムに形成され、樹脂フィルムを交互積層部に強力に吸着させる吸着層を備えるようにしてもよい。
【0025】
これにより、交互積層部と樹脂フィルムとが強力に吸着するので、バリア性能がより向上する。更に、吸着層がガスの透過を防止するので、バリア性能がより向上する。
【0026】
また、吸着層は、シリカ及びアルミナのうち、少なくとも1種を含んでもよい。
【0027】
これにより、交互積層部と樹脂フィルムとが強力に吸着するので、バリア性能がより向上する。
【0028】
また、吸着層は、交互積層部の最も外側の層である最外層と反対の電荷に帯電していてもよい。
【0029】
これにより、交互積層部と樹脂フィルムとが強力に吸着するので、バリア性能がより向上する。
【0030】
また、吸着層を帯電させる処理は、シランカップリング剤を用いることで行われるようにしてもよい。
【0031】
これにより、吸着層をより確実に帯電させることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように本発明によれば、欠陥部分に充填部が形成されるので、この充填部によって欠陥部分でのガスの透過を防止することができる。したがって、本発明による電子デバイス用バリアフィルムは、従来よりもバリア性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係るバリアフィルムを示す断面図である。
【図2】無機板状粒子が欠落した箇所である欠陥部分に充填部が形成(充填)される様子を示す模式図である。
【図3】タングステンのプールベダイアグラム(Pourbaix Diagram)である。
【図4】同実施形態にかかるバリアフィルムの製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0035】
[従来のバリアフィルムが有する問題点]
本発明者は、従来のバリアフィルム及びその問題点を精査し、この結果に基づいて、本実施の形態に係るバリアフィルムを完成させるに至った。そこで、まず、従来のバリアフィルム及びその問題点について説明する。
【0036】
電子デバイス用のフレキシブル基板として、バリア層が形成されたバリアフィルムが用いられている。これらバリアフィルムの用途は、従来、食品等の包装であったが、近年、電子デバイスに用いられるようになり、バリア性能の飛躍的な向上が求められていた。例えば、フレキシブルディスプレイに好適と言われている、全固体型の発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、必要とされるバリア性能は、透湿率(WVTR)で、1E−6(g/m/day)が要求されていた。
【0037】
このような高い性能を満たすバリアフィルムが各社より提案されている。例えば、米国バイテックス(Vitex)社は、樹脂フィルム及びアルミナ層の交互積層構造からなるバリアフィルムを開示している(http://www.vitexsys.com/barix_how_made.html)。バイテックス社によれば、このバリアフィルムは有機発光素子に適用可能な高い性能を有する。また、2008年2月20日の三菱樹脂株式会社の新聞発表(http://www.mpi.co.jp/info/360/index.html)によれば、WVTRが0.05(g/m/day)のバリアフィルムが上市されている。
【0038】
これら二つの技術を始め、多くの高性能バリアフィルムは、真空プロセスを用いて作製されている。真空プロセスは、概略的には、真空チャンバ内に設置したフィルム基板上に、バリアフィルムを構成する物質を付着させるプロセスである。真空プロセスは、巨大な真空チャンバを必要とするため、設備投資額が大きくなるという問題があった。また、真空プロセスは、真空チャンバの維持に過大なランニングコストが必要になるので、バリアフィルムの製造コストが高くなるという問題もあった。また、真空プロセスは、バリアフィルムのステップカバレージが悪いため、フィルム基板上の異物が原因でピンホールが生じやすいという問題もあった。
【0039】
一方、バリアフィルムの成膜方法として、湿式プロセスによる成膜方法も知られている。この製膜方法は、これら真空プロセスの問題を回避でき、低コストでピンホールの少ないバリアフィルムを形成できる。湿式プロセスとしては、ゾルゲル法や、ガス透過がほとんどない粘土の粒子を用いる方法が考えられる。これらの手法を用いたバリアフィルムの製造方法は、上述した特許文献1の他、特開2007−22075号公報(以下、「参考文献1」とも称する)、及び特開2003−41153号公報(以下、「参考文献2」とも称する)に開示されている。特許文献1に開示された技術及び当該技術に関する問題点については、上述したとおりである。
【0040】
参考文献1は、粘土粒子(後述する無機層状化合物の粒子)からなる粘土層と、ゾルゲル法により形成される無機層とが交互積層されたバリアフィルムを開示する。参考文献1に開示された技術では、粘土粒子が分散した分散液を静置することで、粘土層を形成する。しかし、このような方法で形成された粘土層は、他の層、即ち無機層との密着性が低いという問題があった。また、粘土層は、単に粘土粒子が堆積した層であるので、粘土層内の粘土粒子同士の結合も非常に弱い。例えば、水分が無機層を通って粘土層中に浸入すると、容易に粘土粒子間に水分子が入り込み、粘土層が膨潤し、バリアフィルムのバリア性能が著しく低下する。この問題を解決するためには、無機層の透湿率を低くすることが考えられるが、そのためには無機層を高温(100〜500℃)で焼成する必要があるので、工程が複雑になるという問題があった。
【0041】
参考文献2には、ゾルゲル材料と粘土粒子との混合物からなるバリアフィルムが開示される。この技術では、粘土粒子をゾルゲル材料中に高濃度に分散させることがバリアフィルムのバリア性能を高めるために重要な事項となる。粘土粒子のような層状化合物をゾルゲル材料中に分散させた場合に、バリアフィルムがどの程度バリア性能を高めることができるかについては、J. MACROMOL. SCI. (CHEM.), A1(5), 929−942 (1967)で試算されている。該文献の計算方法によれば、例えば、1μmの直径で1nmの厚さを持つ粘土粒子を用いた場合、混合するゾルゲル材料のWVTR、即ちバリアフィルムのWVTRを2桁下げるためには、バリアフィルムの総質量に対し約20質量%の粘土粒子をゾルゲル材料中に分散させる必要がある。粘土粒子のような非常に扁平な形状である粒子がゾルゲル材料中に分散した分散液はチクソトロピー性を示し、静置時の粘度が非常に高くなる。このような粘度の高さのため、20質量%もの粘土粒子をゾルゲル材料中に分散させるのは事実上困難であるという問題があった。また、仮に分散できたとしても、分散液の粘度が高いため、分散液を膜状に塗布するのは非常に困難であるという問題もあった。
【0042】
本発明者は、上記の問題点に鑑み、本実施の形態に記載のバリアフィルムを開発するに至った。以下、本実施の形態に係るバリアフィルムについて説明する。
【0043】
[バリアフィルムの構造]
まず、本実施の形態に係るバリアフィルムの構造を図1に基づいて説明する。本実施の形態に係るバリアフィルム1は、樹脂フィルム2と、無機板状粒子層3及びバインダ層5が交互に積層された交互積層部8と、無機板状粒子層3の欠陥部分7に形成される充填部4とを備える。なお、以下の説明において、バリアフィルム1を製造する途中過程で製造されるフィルム、即ち、樹脂フィルム2の表面に無機板状粒子層3及びバインダ層5のうち少なくとも一方が積層されたフィルムを「中間フィルム」とも称する。
【0044】
[樹脂フィルムの構成]
まず、樹脂フィルム2の構成について説明する。樹脂フィルム2は、既知の樹脂であればどのような樹脂で構成されていてもよいが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリイミド(PI)等で構成される。樹脂フィルム2は、これらの物質のうち、いずれか1種だけで構成されていても良く、これらの物質のうち、2種以上の物質で構成されていても良い。
【0045】
樹脂フィルム2の表面は、正または負に帯電している。図1では、樹脂フィルム2は正に帯電している。樹脂フィルム2を帯電させる処理としては特に制限されないが、例えば、物理的処理(例えば、コロナ処理、UV/O処理等)、EB処理(電子線処理)、及びシランカップリング剤等の薬液による化学的処理等を用いることができる。樹脂フィルム2の表面をコロナ処理することで、樹脂フィルム2の表面が負に帯電する。また、樹脂フィルム2の表面をシランカップリング剤で処理すると、樹脂フィルム2の表面が正に帯電する。更に、これら帯電処理の効果を高めるために、樹脂フィルム2上に吸着層を形成し、吸着層に帯電処理を行っても良い。吸着層は、樹脂フィルム2を無機板状粒子層3またはバインダ層5に強力に吸着するものであり、シリカ及びアルミナ等の金属酸化物で構成される。これら金属酸化物は、大気中でその表面にOH基を有しているので、金属酸化物にコロナ処理やUV/O処理を行うと、強力かつ均一に表面が帯電される。同様に、金属酸化物の表面をシランカップリング剤で帯電処理する場合、該シランカップリング剤が金属酸化物表面のOH基と結合する結果、強力かつ均一に表面が帯電される。
【0046】
樹脂フィルム2、無機板状粒子層3、及びバインダ層5がそれぞれ有する電荷によって、無機板状粒子層3、及びバインダ層5のうち、どちらを樹脂フィルム2に積層するかが決まる。例えば、樹脂フィルム2の表面を正に、無機板状粒子層3が負にそれぞれ帯電している場合は、無機板状粒子層3を樹脂フィルム2に積層し、バインダ層5を無機板状粒子層3に積層する。
【0047】
[無機板状粒子層の構成]
次に、バリアフィルム1を構成する無機板状粒子層3について説明する。無機板状粒子層3は、無機板状粒子で構成される。
【0048】
無機板状粒子は、無機層状化合物、例えば雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等の粘土鉱物、リン酸ジルコニウム、及び層状複水酸化物(LDH)等を層分離(層間剥離、Exfoliate)することで得られる。
【0049】
これらの無機層状化合物は、正または負に帯電した複数の無機板状粒子同士が、無機板状粒子と逆の電荷に帯電した層間イオン(例えばナトリウムイオン)を介して積層されたものである。無機層状化合物を層分離するためには、例えば、無機板状粒子間に層間イオンよりも粒径の大きな粒子、例えば水分子、カルシウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンを挿入すればよい。例えば、無機層状化合物を水に投入し、攪拌すればよい。
【0050】
無機板状粒子層3は、1種の無機板状粒子で構成されていても良く、同じ電荷を有する2種以上の無機板状粒子で構成されていても良い。
【0051】
なお、層分離のしやすさは、無機層状化合物の持つ電荷の密度に依存する。層分離のしやすい無機層状化合物として、モンモリロナイトや燐酸ジルコニウムが挙げられる。したがって、これらの無機層状化合物は、層分離がしやすいという点で好ましいといえる。
【0052】
無機板状粒子は、非常に扁平な形状をしており、金属酸化物等の無機物で構成される。無機板状粒子は、気体をほとんど透過させない。したがって、無機板状粒子を他の層に対して水平に配置することにより、バリアフィルム1のバリア性能が向上する。
【0053】
無機平板状化合物の寸法は、例えば、平面方向の直径が10nm〜10μm、厚さが1〜100nmとなる。なお、平面方向の直径は、例えば各粒子の相当径(粒子の平面方向の形状を円としたときの直径)を算術平均した値であり、厚さは、各粒子の厚さを算術平均した値である。無機平板状化合物粒子の平面方向の直径及び厚さは、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)、AFM(原子間力顕微鏡)、レーザー散乱式粒度分布計によって測定される。
【0054】
また、無機板状粒子は、上述したように、正または負に帯電している。具体的には、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等の粘土鉱物、及びリン酸ジルコニウムから取得される無機板状粒子は、負に帯電している。
【0055】
一方、層状複水酸化物から取得される無機板状粒子は、正に帯電している。即ち、層状複水酸化物は、以下の化学式1で表される。
[M2+1−x3+(OH)x+[Bn−x/n・yHO]x−・・・(化学式1)
化学式1中、M2+は2価金属、M3+は3価金属、Bはアニオン、nはアニオンの価数、xは0<x<0.4の実数、yは0より大きい実数である。すなわち、層状複水酸化物は、ブルーサイトと同様の構成を有し、正に帯電した無機板状粒子([M2+1−x3+(OH)x+)の層間に、アニオン及び層間水からなり、負に帯電した層間イオン([Bn−x/n・yHO]x−)が配置された無機層状化合物である。
【0056】
層状複水酸化物の結晶全体では電気的中性が保たれている。2価金属としてはMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等が知られており、3価金属としてはAl、Fe、Cr、Co、In等が知られている。また、アニオンとしては、OH、F、Cl、NO、SO2−、CO2−、Fe(CN)4−、CHCOO、V10286−、ドデシルSO等が知られている。
【0057】
無機板状粒子層3は、吸着法によって形成される。吸着法は、表面が帯電した基板を、基板と逆の電荷に帯電した粒子の分散液に浸漬する手法である。この手法では、クーロン力により基板表面に粒子が吸着する。本実施の形態では、樹脂フィルム2または表面がバインダ層5となる中間フィルムを、樹脂フィルム2または中間フィルムの表面電荷と逆の電荷に帯電した無機板状粒子の分散液に浸漬する。これにより、樹脂フィルム2または中間フィルムの表面に無機板状粒子が吸着する。このとき、無機板状粒子は、樹脂フィルム2または中間フィルムの表面と平行になるように吸着する。
【0058】
無機板状粒子の分散液は、水に無機層状化合物を投入し、撹拌することで生成される。ここで、無機層状化合物の濃度は、0.01〜10(g/L)が好適で、0.1〜1(g/L)が更に好適である。濃度が低すぎると、樹脂フィルム2または中間フィルムへの無機板状粒子の吸着が不十分となる。一方、濃度が高すぎると、分散液の粘度が高くなってしまう。分散液は、少なくとも水と無機層状化合物(具体的には、無機層状化合物が層分離することで形成される無機板状粒子及び層間イオン)からなるが、無機板状粒子の分散性を高めるための分散剤や、無機層状化合物の層分離を促進するためのインタカレート剤を含んでいても良い。
【0059】
[充填部の構成]
次に、充填部4の構成について説明する。図2に示すように、吸着法により無機板状粒子層3を形成した場合、無機板状粒子層3には、無機板状粒子が欠落した箇所である欠陥部分7が形成されうる。そこで、本実施の形態では、この欠陥部分7を充填部4で充填する。
【0060】
充填部4は、気体透過率の低い無機材料で構成される。このような無機材料としては、例えば、金属及び金属酸化物が挙げられる。
【0061】
ここで、充填部4を欠陥部分7に形成する方法を、欠陥部分7に充填部4として三酸化タングステン(WO)を形成する場合を一例として説明する。図3は、タングステンに関するプールベダイアグラムを示す。プールベダイアグラムは、水中における化学種(特に金属)の存在領域を電極電位とpHの2次元座標上に図示したものである。なお、図3は、25℃におけるタングステンの存在領域を示す。本実施の形態では、このプールベダイアグラムのうち、直線aと直線bとに挟まれた領域A1、A2が重要になるので、これらの領域について説明する。領域A1は、タングステンがタングステン酸イオン(WO2−)として存在する領域であり、領域A2は、タングステンが三酸化タングステンとして存在する領域である。これらの領域の境界線は、直線L1〜L4のいずれかで表される。即ち、水中におけるタングステンの濃度が1E−0(mol/L)となる場合には、境界線は直線L1となり、水中におけるタングステンの濃度が1E−2(mol/L)となる場合には、境界線は直線L2となり、濃度が1E−4(mol/L)となる場合には、境界線は直線L3となり、濃度が1E−6(mol/L)となる場合には、境界線は直線L4となる。なお、境界線は、領域A1に属する。
【0062】
このプールベダイアグラムによれば、電極電位及びpHが一定の下では、タングステンの濃度が高くなるほど、領域A2が広くなる(即ち、タングステンが三酸化タングステンとして析出しやすくなる)。例えば、点C(電極電位=0、pH=6.0)は、タングステンの濃度が1E−2以下であれば領域A1に属する。したがって、タングステン水溶液の電極電位が0、pHが6.0、濃度が1E−2以下となる場合、タングステンはタングステン酸イオンとして存在する。一方、点Cは、タングステンの濃度が1E−2より大きければ領域A2に属する。したがって、タングステン水溶液の電極電位が0、pHが6.0、濃度が1E−2より大きくなる場合、タングステンは三酸化タングステンとして存在する。
【0063】
本実施の形態では、この原理を利用して、充填部4を欠陥部分7に形成する。即ち、まず、三酸化タングステン水溶液、例えばタングステン酸アンモニウム((NH)WO)水溶液を用意する。この時、電極電位及びpHを示す点が領域A1内に属し、かつ領域A1と領域A2との境界線の近傍となるように、三酸化タングステン水溶液の電極電位(基本的にゼロとなる)、pH、及び濃度を調整する。次いで、図2に示すように、三酸化タングステン水溶液に、表面が無機板状粒子層3となる中間フィルム(即ち、樹脂フィルム2またはバインダ層5の表面に無機板状粒子層3が積層したフィルム)を浸漬する。ここで、樹脂フィルム2またはバインダ層5は、正に帯電し、無機板状粒子層3は負に帯電している。
【0064】
タングステン水溶液中のタングステン酸イオン10は、クーロン力により欠陥部分7に引きつけられ、凝集する。これにより、欠陥部分7でタングステンの濃度が高くなるため、欠陥部分7に三酸化タングステン11、即ち充填部4が析出する。なお、樹脂フィルム2またはバインダ層5の表面のうち、無機板状粒子層3が形成される部分には、タングステン酸イオン10は凝集しない。無機板状粒子層3が負に帯電しているからである。
【0065】
充填部4を構成する金属としては、アルミニウム、鉄、マグネシウム、及びカリウム等が挙げられる。充填部4を金属で構成する方法は、概略以下の通りである。即ち、まず、水溶性の金属化合物、例えば硫酸塩、塩化物、水酸化物等を水に溶解させることで金属水溶液を用意する。金属水溶液では、金属は、陽イオン(金属イオン)として存在する。次いで、この金属水溶液に表面が無機板状粒子層3となる中間フィルムを浸漬させる。この時、無機板状粒子層3は正に帯電し、樹脂フィルム2またはバインダ層5は負に帯電している。金属イオンは、クーロン力により欠陥部分7に引きつけられ、欠陥部分7に凝集する。これにより、欠陥部分7で金属イオンの濃度が高くなるので、欠陥部分7に金属、即ち充填部4が析出する。
【0066】
したがって、充填部4を構成する無機材料は、樹脂フィルム2またはバインダ層5の電荷に応じて選択されることになる。すなわち、樹脂フィルム2またはバインダ層5が正に帯電している場合、充填部4を構成する無機材料として金属酸化物が選択される。金属酸化物は、水溶液中で陰イオン(オキソ酸イオン)として存在するので、金属酸化物イオンがクーロン力により欠陥部分7に引きつけられるからである。一方、樹脂フィルム2またはバインダ層5が負に帯電している場合、充填部4を構成する無機材料として金属が選択される。金属は、水溶液中で陽イオン(金属イオン)として存在するので、金属イオンがクーロン力により欠陥部分7に引きつけられるからである。
【0067】
充填部4をアルミニウムで構成する場合、上記の金属化合物としては、AlK(SOやAlNH(SO等が挙げられる。充填部4を鉄で構成する場合、上記の金属化合物としては、FeK(SO等が挙げられる。充填部4をマグネシウムで構成する場合、上記の金属化合物としては、例えば、MgClやMg(NO等が挙げられる。充填部4をカリウムで構成する場合、上記の金属化合物としては、KOH、KSO、KClが挙げられる。
【0068】
一方、充填部4を構成する金属酸化物としては、上述したタングステンの他、バナジウム、及びモリブデンの酸化物が挙げられる。金属酸化物水溶液は、金属のオキソ酸塩を水に溶解させることで用意される。このようなオキソ酸塩としては、NaVO、(NHMoO、(NHWO等が挙げられる。なお、このような金属酸化物は、リンや珪素が含まれたヘテロポリ酸でもよい。リンを含む金属酸化物としては、例えば、HPMo1240・nHOが、珪素を含む金属酸化物としては、HSiMo1240・nHOが挙げられる。
【0069】
[バインダ層の構成]
バインダ層5は、無機板状粒子層3と逆の電荷に帯電可能なバインダ粒子で構成される。このようなバインダ粒子としては、例えば、高分子電解質イオン、金属イオン、金属化合物イオン、及び無機板状粒子が挙げられる。バインダ層5は、これらの物質のうち、いずれか1種だけで構成されていても良く、これらの物質のうち、同じ電荷を有する2つ以上の物質で構成されていても良い。
【0070】
高分子電解質イオンとしては、例えば、ポリアリルアミン及びポリアクリルアミドの窒素原子にプロトンが配位結合した高分子電解質イオンが挙げられる。金属イオンとしては、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、及び多価遷移金属等のイオンが挙げられる。多価遷移金属としては、鉄、コバルト、及びマンガン等が挙げられる。金属化合物イオンとしては、金属のオキソ酸イオン、例えば、VO、MoO2−、WO2−、TiO2+等が挙げられる。無機板状粒子は、上述した無機層状化合物を層分離することで得られるものである。即ち、無機板状粒子層3が粘土鉱物から得られる無機板状粒子で構成される場合、バインダ層5は、層状複水酸化物から得られる無機板状粒子で構成される。逆に、無機板状粒子層3が層状複水酸化物から得られる無機板状粒子で構成される場合、バインダ層5は、粘土鉱物から得られる無機板状粒子で構成される。
【0071】
バインダ層5は、無機板状粒子層3と同様に、吸着法によって形成される。本実施の形態では、樹脂フィルム2または表面が無機板状粒子層3となる中間フィルムを、樹脂フィルム2または中間フィルムの表面電荷と逆の電荷に帯電した無機材料の水溶液(または分散液)に浸漬する。これにより、樹脂フィルム2または中間フィルムの表面に無機材料が吸着する。即ち、樹脂フィルム2または中間フィルムの表面にバインダ層5が形成される。このとき、無機材料が無機板状粒子となる場合、無機板状粒子は、樹脂フィルム2または中間フィルムの表面と平行になるように吸着する。
【0072】
バインダ粒子水溶液(または分散液)は、水に各種の水溶性化合物または上述した無機層状化合物を溶解または分散させることで得られる。ここで、水溶性化合物または無機層状化合物の濃度は、100(nmol/L)〜1(mol/L)が好適で、1(μmol/L)〜100(μmol/L)が更に好適である。濃度が低すぎると、樹脂フィルム2または中間フィルムへのバインダ粒子の吸着が不十分となる。一方、濃度が高すぎると、バインダ粒子水溶液(または分散液)の粘度が高くなってしまう。バインダ粒子水溶液(または分散液)は、少なくとも水とバインダ粒子とからなるが、バインダ粒子が無機板状粒子となる場合、無機板状粒子の分散性を高めるための分散剤や、無機層状化合物の層分離を促進するためのインタカレート剤を含んでいても良い。
【0073】
なお、バインダ層5を高分子電解質イオンで構成する場合、水溶性化合物としては、例えば、ポリアリルアミンヒドロキシドやポリアクリル酸等のイオン性ポリマーが挙げられる。バインダ層5を金属イオンで構成する場合、水溶性化合物としては、金属の硫酸塩、塩化物、水酸化物、例えば、AlK(SO、AlNH(SO、MgCl、Mg(NO、KOH、KSO、KCl、FeK(SO、CoCl、Co(NO、MnCl,Mn(NO,NiCl,Ni(NO,CuCl,Cu(NO,ZnCl、Zn(NO、等が挙げられる。バインダ層5を金属化合物イオンで構成する場合、水溶性化合物としては、オキソ酸のナトリウム塩やアンモニウム塩等、例えば、NaVO、(NHMoO、(NHWO、TiOSO等が挙げられる。
【0074】
[バリアフィルムの製造方法]
次に、バリアフィルム1の製造方法を図4に基づいて説明する。なお、ここでは、製造方法の一例として、樹脂フィルム2に無機板状粒子層3を積層し、次いで無機板状粒子層3にバインダ層5を積層する製造方法について説明するが、樹脂フィルム2にバインダ層5を積層しても良いことは勿論である。
【0075】
[第1段階:樹脂フィルム2への帯電処理]
まず、図4(a)に示すように、樹脂フィルム2の表面を正に帯電する。または、樹脂フィルム2の表面に吸着層を形成し、吸着層を正に帯電する。樹脂フィルム2または吸着層を帯電させる方法としては、例えば、コロナ処理、UV/O処理、EB処理(電子線処理)、及びシランカップリング剤等の薬液による化学的処理等を用いることができる。
【0076】
[第2段階:無機板状粒子層を形成する処理]
次いで、図4(b)に示すように、樹脂フィルム2の表面に負に帯電した無機板状粒子層3を形成する。具体的には、まず、粘土鉱物及びリン酸ジルコニウムのうち、少なくとも一方を水に投入し、撹拌することで無機板状粒子の分散液を生成する。なお、粘土鉱物及びリン酸ジルコニウムは、負に帯電した無機板状粒子が層間イオンを介して積層されたものである。次いで、無機板状粒子の分散液に、樹脂フィルム2を浸漬する。これにより、樹脂フィルム2の表面に無機板状粒子が吸着する。即ち、樹脂フィルム2の表面に無機板状粒子層3が形成される。ただし、無機板状粒子層3には、無機板状粒子が欠落した箇所である欠陥部分7が形成される。
【0077】
[第3段階:充填部を形成する処理]
次いで、図4(c)に示すように、欠陥部分7に充填部4を形成(充填)する。具体的には、まず、金属酸化物を水に溶解させることで、金属酸化物水溶液を生成する。この金属酸化物水溶液中には、オキソ酸イオン(陰イオン)が存在する。ここで、金属酸化物に対応するプールベダイアグラムにおいて、電極電位及びpHを示す点がイオン領域(図3の領域A1に対応する領域)内に属し、かつイオン領域と固体領域(図3の領域A2に対応する領域)との境界線の近傍となるように、金属酸化物水溶液の電極電位(基本的にゼロとなる)、pH、及び濃度が調整される。
【0078】
次いで、金属酸化物水溶液に、表面が無機板状粒子層3となる中間フィルムを浸漬する。これにより、金属酸化物水溶液中のオキソ酸イオンは、クーロン力により欠陥部分7に引きつけられ、凝集する。これにより、欠陥部分7でオキソ酸イオンの濃度が高くなるため、欠陥部分7に金属酸化物、即ち充填部4が析出する。なお、樹脂フィルム2の表面のうち、無機板状粒子層3が形成される部分には、オキソ酸イオンは凝集しない。無機板状粒子層3が負に帯電しているからである。
【0079】
[第4段階:バインダ層を形成する処理]
次に、図4(d)に示すように、無機板状粒子層3にバインダ層5を形成する。具体的には、まず、正に帯電した高分子電解質イオン、金属イオン、金属化合物イオン、及び正に帯電した無機板状粒子のうち、少なくとも1種が溶解(または分散)したバインダ粒子水溶液(または分散液)を用意する。次いで、バインダ粒子水溶液(または分散液)に、表面が無機板状粒子層3となる中間フィルムを浸漬する。これにより、中間フィルムの表面にバインダ粒子が吸着する。即ち、中間フィルムの表面にバインダ層5が形成される。このとき、バインダ粒子が無機板状粒子となる場合、無機板状粒子は、中間フィルムの表面と平行になるように吸着する。
【0080】
[第5段階:繰り返し処理]
次いで、図4(e)に示すように、第2段階〜第4段階の処理を繰り返して行うことで、樹脂フィルム2上に無機板状粒子層3及びバインダ層5を交互に積層していく。なお、無機板状粒子層3及びバインダ層5の組が1つのユニット6を形成する。これにより、バリアフィルム1が製造される。
【0081】
[バリアフィルムの作用]
次に、図1等に基づいて、バリアフィルム1の作用(動作)について説明する。樹脂フィルム2を通って無機板状粒子層3に浸入した水分や酸素等のガスは、無機板状粒子層3を構成する無機板状粒子を通過できないため、図1に示すような透過経路100を通って拡散する可能性がある。バリアフィルム1のガス透過は、以下の式(1)に示すように、バインダ層5中の透過と充填部4の透過に分けられる。
【0082】
1/T=1/Tb+1/Tp・・・(1)
T:バリアフィルム1全体のガス透過率
Tb:バインダ層5全体のガス透過率
Tp:充填部4全体のガス透過率
【0083】
バインダ層5全体のガス透過率は、ガスの透過経路の長さ、バインダ層5のガス透過率、バインダ層5の透過断面(透過経路100に垂直な断面)の面積にそれぞれ比例する。バインダ層5の透過断面の面積は、バインダ層5の膜厚に比例するので、ガスの透過率は式(2)のように表せる。
【0084】
Tb∝L*Tb0*Db・・・(2)
Tb:バインダ層5全体のガス透過率
L:バインダ層5内の透過経路の長さ
Tb0:バインダ層5の単位長さ(単位厚さ)当たりのガス透過率
Db:バインダ層5の膜厚(例えば、各バインダ層5の膜厚を算術平均した値。膜厚は、例えばエリプソメーター、AFM等により測定される。以下同じ)
【0085】
一方、充填部4全体のガス透過率は、充填部の厚さ、充填部4の単位長さ(単位厚さ)当たりのガス透過率、欠陥部分7の透過断面(透過経路100に垂直な断面)の面積にそれぞれ比例するので、式(3)のように表せる。
【0086】
Tp∝Dp*Tp0*Sc・・・(3)
Tp:充填部4全体のガス透過率
Dp:充填部4の膜厚(例えば、各充填部4の膜厚を算術平均した値)
Tp0:単位長さ(単位厚さ)当たりの充填部4のガス透過率
Sc:欠陥部分7の透過断面の面積
【0087】
上述した特許文献1に開示された技術では、粘土層の欠陥部分に何も施されていないため、式(3)のTp0が非常に大きな値となる。つまり、Tpが非常に大きい値となり、その結果、Tの値も大きくなる。これに対し、バリアフィルム1は、無機板状粒子層3の欠陥部分7が充填部4、即ち無機材料で埋められているため、Tp0の値を小さくでき、その結果Tpの値も小さくなり、バリアフィルム1全体のガス透過率Tを小さくできる。したがって、バリアフィルム1は、特許文献1に開示された技術よりも、ガス透過率を低減(即ちバリア性能を向上)させることができる。さらに、バリアフィルム1は、交互吸着数(ユニット6の数)を従来よりも大幅に減らすことができるので、工程が簡便になる。
【0088】
また、本実施の形態では、バインダ層5が吸着法によって形成されるため、参考文献2に開示された技術に比べ、Dbが非常に小さくなる。例えば、参考文献2の実施例2では、3μmのゾルゲル材料中に膨潤性合成雲母からなる無機層状化合物を10質量%分散させている。この実施例2では、算術平均的な無機層状化合物間の間隔は300nm程度と見積もられる。これに対し、本実施の形態によるバインダ層5の膜厚は、1nm以下と見積もられるため、2桁以上Dbが小さいことになる。一方、バインダ層5に参考文献2と同じ無機層状化合物を用いた場合、Tbは同程度であるから、バリアフィルム1は、参考文献2に開示された技術よりも高いバリア性能を得ることができる。
【0089】
さらに、バリアフィルム1では、水分に弱い(即ち、水分によって膨潤する)無機層状化合物をそのまま無機板状粒子層3に用いるのではなく、無機層状化合物を層分離することで無機板状粒子を生成し、この無機板状粒子を用いて無機板状粒子層3を形成している。具体的には、本実施の形態では、無機層状化合物を水に投入して撹拌することで無機層状化合物を層分離させる。そして、この結果生成された無機板状粒子をイオン吸着法により樹脂フィルム2またはバインダ層5に吸着させることで、無機板状粒子層3を形成する。これにより、本実施の形態に係るバリアフィルム1は、水分等のガスが無機板状粒子層3の内部に侵入して無機板状粒子層3を膨潤させることを防止することができる。また、バリアフィルム1は、無機板状粒子がクーロン力により他の層に吸着しているので、無機板状粒子層3と他の層との間に水分等のガスが侵入することも防止することができる。したがって、バリアフィルム1は、参考文献1に開示された技術よりもバリア性能を向上させることができる。
【実施例】
【0090】
次に、本実施の形態の実施例を説明する。
【実施例1】
【0091】
実施例1は、樹脂フィルム2を正に帯電させ、負に帯電した無機板状粒子層3と正に帯電したバインダ層5とを樹脂フィルム2上に交互に積層したものである。
【0092】
1)樹脂フィルム2の洗浄
樹脂フィルム2として、0.1mm厚のPETフィルムを用意した。樹脂フィルム2を洗剤と純水とで洗浄し、エアブローで乾燥させた。
【0093】
2)無機板状粒子分散液の作製
モンモリロナイト(MMT)として、クニミネ工業製クニフィル−D36を0.5g、純水1L中に入れ、市販のスターラ(アズワン製KNS−T1)を用いて、1日間攪拌した。これにより、無機板状粒子が分散した無機板状粒子分散液を作製した。
【0094】
3)バインダ粒子水溶液の作製
ポリアリルアミンヒドロキシド(PAH)の30mmol/L水溶液を調整した。
【0095】
充填部水溶液の作製
4)NaVOの1mmol/L水溶液を調整しpHを測定したところ、5.9であった。この水溶液に、100mmol/LのNaOHを用いてpHを6.5に調整し、充填部水溶液を作製した。
【0096】
5)樹脂フィルム2の帯電処理
1)で洗浄した樹脂フィルム2を、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)の10mmol/Lのエタノール溶液に30分間浸漬した。その後、樹脂フィルム2をエタノールと純水で洗い流した後、エアブローで乾燥した。これにより、樹脂フィルム2を正に帯電させた。
【0097】
6)無機板状粒子層形成
5)で帯電処理した樹脂フィルム2を、2)で作製した無機板状粒子分散液に15分間浸漬した後、純水で十分洗い流し、エアブローで乾燥させた。これにより、樹脂フィルム2の表面に無機板状粒子層3を形成した。
【0098】
7)充填部形成
6)で無機板状粒子層3を形成した樹脂フィルム2を、4)で作製した充填部水溶液に15分間浸漬した後、純水で十分洗い流し、エアブローで乾燥した。これにより、無機板状粒子層3の欠陥部分7に充填部4を形成した。
【0099】
8)バインダ層形成
7)で無機板状粒子層3と充填部4とを形成した樹脂フィルム2を、3)で作製したバインダ粒子水溶液に15分間浸漬した後、純水で十分洗い流し、エアブローで乾燥した。これにより、無機板状粒子層3上にバインダ層5を形成した。
【0100】
9)交互吸着
6)〜8)の工程を、5、10、20回繰り返し、樹脂フィルム2にユニット6(無機板状粒子層3とバインダ層5との組)がそれぞれ5、10、20層形成されたバリアフィルム1を得た。
【0101】
10)WVTR測定
9)で作製した3枚のバリアフィルム1を、MOCON社製水蒸気透過率測定装置AQUATRANを用いて、WVTRを測定した。
【実施例2】
【0102】
次に、実施例2を説明する。実施例2は、実施例1で充填部4を変更したものである。即ち、実施例2では、実施例1の4)の工程を次のようにしたこと以外は、実施例1と同様の工程で、3つのバリアフィルム1を作製し、WVTRを測定した。
【0103】
4)充填部水溶液の作製
(NHWOの1mmol/L水溶液を調整しpHを測定したところ、5.5であった。この液に、100mmol/LのNaOHを用いてpHを6.0に調整し、充填部水溶液を作製した。
【実施例3】
【0104】
次に、実施例3を説明する。実施例3は、実施例1で充填部4を変更してものである。即ち、実施例3では、実施例1の4)の工程を次のようにしたこと以外は、実施例1と同様の工程で、3つのバリアフィルム1を作製し、WVTRを測定した。
【0105】
4)充填部水溶液の作製
(NHMoOの1mmol/L水溶液を調整しpHを測定したところ、5.0であった。この液に、100mmol/LのHClを用いてpHを4.0に調整し、充填部水溶液を作製した。
【実施例4】
【0106】
次に、実施例4を説明する。実施例4は、樹脂フィルム2を負に帯電させ、正に帯電した無機板状粒子層3と負に帯電したバインダ層5とを樹脂フィルム2上に交互に積層したものである。
【0107】
1)樹脂フィルム2の洗浄
樹脂フィルム2として、0.1mm厚のPETフィルムを用意し、樹脂フィルム2を洗剤と純水とで洗浄し、エアブローで乾燥させた。
【0108】
2)無機板状粒子分散液の作製
2+3+(OH)CO・nHO(M2+:Mg、M3+:Al、B:CO2−、x=4.5、y=2、n=13)からなる層状複水酸化物(LDH)を、LDH20mgにつき、塩化ナトリウム1mol/L、酢酸0.01mol/L、酢酸ナトリウム0.09mol/Lの混合水溶液20mLを添加し、市販のシェーカ(SH−B型、テラサワ)を用い2日間攪拌することにより、M2+3+(OH)Cl・nHO(M2+:Mg、M3+:Al、B:CO2−、x=4.5、y=2、n=13)からなるLDHを分散した無機板状粒子分散液を作製した。
【0109】
3)バインダ粒子水溶液の作製
ポリアクリル酸(PAA)の30mmol/L水溶液を調整することで、バインダ粒子水溶液を作製した。
【0110】
4)充填部水溶液の作製
AlK(SO4)2の30mmol/L水溶液を調整しBinder層液を作製した。
【0111】
5)樹脂フィルム2の帯電処理
1)で洗浄した樹脂フィルム2を、日本スタテック製HPS−101を用いて、10分間コロナ処理した。
【0112】
6)無機板状粒子層形成
5)で帯電処理した樹脂フィルム2を、2)で作製した無機板状粒子分散液に15分間浸漬した後、純水で十分洗い流し、エアブローで乾燥した。これにより、無機板状粒子層3を形成した。
【0113】
7)充填部形成
6)で無機板状粒子層3を形成した樹脂フィルム2を、4)で作製した充填部水溶液に15分間浸漬した後、純水で十分洗い流し、エアブローで乾燥した。これにより、無機板状粒子層3の欠陥部分7に充填部4を形成した。
【0114】
8)バインダ層形成
7)で無機板状粒子層3と充填部4とを形成した樹脂フィルム2を、3)で作製したバインダ粒子水溶液に15分間浸漬した後、純水で十分洗い流し、エアブローで乾燥した。これにより、バインダ層5を形成した。
【0115】
9)交互吸着
6)〜8)の工程を、5、10、20回繰り返し、樹脂フィルム2にユニット6(無機板状粒子層3とバインダ層5との組)がそれぞれ5、10、20層形成されたバリアフィルム1を得た。
【0116】
10)WVTR測定
9)で作製した3枚のバリアフィルム1を、MOCON社製水蒸気透過率測定装置AQUATRANを用いて、WVTRを測定した。
【実施例5】
【0117】
次に、実施例5を説明する。実施例5は、実施例1に、吸着層を追加したものである。具体的には、実施例5では、実施例1の5)の工程を、次のようにしたこと以外は、実施例2と同様の工程で3つのバリアフィルム1を作製し、WVTRを測定した。
【0118】
5)樹脂フィルム2の帯電処理
1)で洗浄した樹脂フィルム2に、ミカサ製MS−A150を用いて、AZエレクトロニックマテリアルズ製アクアミカNL100Aをスピンコーティングした。ついで、樹脂フィルム2を、120℃で1時間、続いて95℃−湿度80%の雰囲気下で3時間硬化した。これにより、樹脂フィルム2の表面に吸着層としてシリカ層を約0.2μmの厚さで形成した。この樹脂フィルム2を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)の10mmol/Lのエタノール溶液に30分間浸漬した。その後、樹脂フィルム2をエタノールと純水とで洗い流した後、エアブローで乾燥した。これにより、シリカ層を正に帯電した。
【0119】
[比較例1]
実施例1の4)と7)の工程を行わないこと以外は、実施例1と同様の工程を行なうことで、充填部4が形成されていない3つの比較用フィルムを作製し、WVTRを測定した。
【0120】
[WVTRの測定結果]
表1に、実施例1〜5、及び、比較例1で作製したバリアフィルム1及び比較用フィルムを40℃、90%RH(湿度)の環境下でWVTR測定した結果(単位:g/m/day)を示す。
【0121】
【表1】

【0122】
何れの実施例においても、比較例1に比べ、WVTRの値が小さくなっており、本実施形態によるバリアフィルム1が高いバリア性能を有することが分かる。例えば、10の−2乗(g/m/day)台のWVTRを得るためには、比較例では20対の交互吸着(即ち、20個のユニット)でも不可能だが、実施例では5対(即ち、5個のユニット6)で十分である。つまり、本実施形態による交互吸着を用いたバリアフィルム1は、従来の交互吸着を用いたバリアフィルムに比べ、高い性能を少ない積層数で実現できることが確認された。
【0123】
なお、実施例5によるバリアフィルム1のWVTRが実施例1よりも低いのは、実施例5において形成したシリカ層により帯電処理の効果が向上し、より完全に無機板状粒子層3が樹脂フィルム2に吸着したためと思われる。
【0124】
以上により、本実施の形態によれば、バリアフィルム1は、欠陥部分7に充填部4が形成されるので、この充填部4によって欠陥部分7でのガスの透過を防止することができる。したがって、バリアフィルム1は、従来よりもバリア性能を向上させることができる。
【0125】
ここで、充填部4は、金属酸化物を含むことができるので、バリアフィルム1は、欠陥部分7でのガスの透過をより確実に防止することができる。
【0126】
さらに、金属酸化物を構成する金属は、バナジウム、タングステン、及びモリブデンのうち少なくとも1種でありうるので、バリアフィルム1は、欠陥部分7でのガスの透過をより確実に防止することができる。
【0127】
さらに、金属酸化物を構成する元素には、リンが含まれうるので、バリアフィルム1は、欠陥部分7でのガスの透過をより確実に防止することができる。
【0128】
さらに、無機板状粒子層3は負に帯電し、バインダ層5は正に帯電しうるので、バリアフィルム1を構成する層同士がクーロン力により強固に吸着する。したがって、バリア性能がより向上する。
【0129】
さらに、無機板状粒子は、粘土鉱物及びリン酸ジルコニウムのうち少なくとも1種を層分離することで得られうる。したがって、無機板状粒子がガスの透過を防止するので、バリア性能がより向上する。
【0130】
さらに、粘土鉱物は、雲母、バーミュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、及びスチーブンサイトの少なくとも1種でありうるので、無機板状粒子がガスの透過を防止する。したがって、バリア性能がより向上する。
【0131】
さらに、粘土鉱物は、モンモリロナイトでありうる。この場合、モンモリロナイトは容易に層分離されるので、無機板状粒子が容易に生成される。
【0132】
さらに、無機板状粒子は、リン酸ジルコニウムを層分離することで得られうる。この場合、リン酸ジルコニウムは容易に層分離されるので、無機板状粒子が容易に生成される。
【0133】
また、樹脂フィルム2上に形成され、樹脂フィルム2を交互積層部に強力に吸着させる吸着層を備えうる。この場合、交互積層部と樹脂フィルム2とが強固に吸着するので、バリア性能がより向上する。更に、吸着層がガスの透過を防止するので、バリア性能がより向上する。
【0134】
また、吸着層は、シリカ及びアルミナのうち、少なくとも1種を含みうる。この場合、交互積層部と樹脂フィルム2とが強固に吸着するので、バリア性能がより向上する。
【0135】
また、吸着層は、交互積層部の最外層と反対の電荷に帯電しうる。これにより、交互積層部と樹脂フィルム2とが強固に吸着するので、バリア性能がより向上する。
【0136】
また、吸着層を帯電させる処理は、シランカップリング剤を用いることで行われうる。これにより、吸着層をより確実に帯電させることができる。
【0137】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0138】
1 バリアフィルム
2 樹脂フィルム
3 無機板状粒子層
4 充填部
5 バインダ層
6 ユニット
7 欠陥部分



【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムに、帯電した無機板状粒子を含む無機板状粒子層と、前記無機板状粒子と反対の電荷に帯電したバインダ層と、が交互に積層された交互積層部と、
前記無機板状粒子層のうち、前記無機板状粒子が欠落した箇所である欠陥部分に形成される充填部と、を有することを特徴とする、電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項2】
前記充填部は、金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項1記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項3】
前記金属酸化物を構成する金属は、バナジウム、タングステン、及びモリブデンのうち少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項4】
前記金属酸化物を構成する元素には、リンが含まれることを特徴とする、請求項2または3記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項5】
前記無機板状粒子は負に帯電し、前記バインダ層は正に帯電していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項6】
前記無機板状粒子は、粘土鉱物及びリン酸ジルコニウムのうち少なくとも1種を層分離することで得られることを特徴とする、請求項5記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項7】
前記粘土鉱物は、雲母、バーミュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、及びスチーブンサイトの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項8】
前記粘土鉱物は、モンモリロナイトであることを特徴とする、請求項7記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項9】
前記無機板状粒子は、リン酸ジルコニウムを層分離することで得られることを特徴とする、請求項6記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項10】
前記樹脂フィルムに形成され、前記樹脂フィルムを前記交互積層部に吸着させる吸着層を備えることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項11】
前記吸着層は、シリカ及びアルミナのうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項10記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項12】
前記吸着層は、前記交互積層部の最も外側の層である最外層と反対の電荷に帯電していることを特徴とする、請求項10または11に記載の電子デバイス用バリアフィルム。
【請求項13】
前記吸着層を帯電させる処理は、シランカップリング剤を用いることで行われることを特徴とする、請求項12記載の電子デバイス用バリアフィルム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−240358(P2012−240358A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114527(P2011−114527)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】