説明

電子・電気機器用銅合金

【課題】コネクタやリードフレームなど、電子・電気機器の導電部品用のCu−Zn―Sn系銅合金として、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性が優れ、しかも強度や圧延性、曲げ加工性、導電率などの諸特性も優れた銅合金を提供する。
【解決手段】Znを15〜33%(mass%、以下同じ)、Snを0.1〜1.0%、Zrを0.01〜0.15%含有し、かつPの含有量が0.05%以下に規制され、かつZrの含有量Zr(%)と、Pの含有量P(%)とが、
Zr(%)−3P(%)≧0.01
を満たすように定められ、残部がCuおよび不可避的不純物よりなり、Cu−Zr−Sn系の金属間化合物が析出していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置のコネクタ、あるいはリードフレームやその他の端子などの電子・電気用の導電部品として使用される銅合金に関し、特に黄銅(Cu−Zn合金)にSnを添加してなるCu−Zn―Sn系の電子・電気機器用銅合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置のコネクタあるいはリードフレームやその他の端子部材などの電子・電気用の導電部品としては、銅もしくは銅合金が使用されており、そのうちでも、強度、加工性、コストのバランスなどの観点から、黄銅(Cu−Zn合金)が従来から広く使用されている。また特にコネクタの場合、主として相手側の導電部材との接触の信頼性を高めるため、Cu−Zn合金からなる基材(素板)の表面に錫(Sn)めっきを施して使用することが多くなっている。
上述のようにCu−Zn合金を基材としてその表面にSnめっきを施したコネクタなどの導電部品においては、Snめっき材のリサイクル性を向上させるとともに、強度を向上させるため、基材のCu−Zn合金自体についても、合金成分としてSnを添加したCu−Zn―Sn系合金を使用する場合がある。このような電子・電気機器導電部品用のCu−Zn―Sn系合金としては、従来から例えば特許文献1などに示すように、種々の提案がなされている。
【0003】
ところで半導体のコネクタやリードフレームなどの電子・電気機器導電部品の製造プロセスとしては、一般に素材の銅合金を圧延加工によって厚みが0.1〜1.0mm程度の薄板(条材)とし、打ち抜き加工によって所定の形状とし、さらにコネクタなどの場合はその少なくとも一部に曲げ加工を施すのが通常である。このような電子・電気機器導電部品においては、導電材の抵抗発熱を抑えるために導電性が優れていることはもちろん、強度が高く、かつ薄板(条材)に圧延して打ち抜き加工を施すことから、圧延性や打ち抜き加工が優れていることが望まれる。また特に曲げ加工を施してその曲げ部分で相手側導電材との電気的接続を得るために使用されるコネクタの場合は、曲げ加工性がすぐれており、しかも曲げ部分での相手側導電材との接触が長時間(あるいは高温雰囲気でも)良好に保たれるように耐応力緩和特性が優れていること、さらに曲げ部分の残留応力により応力腐食割れが生じないように耐応力腐食割れ性が優れていることが望まれる。
【0004】
上述のようにコネクタやリードフレームなどの電子・電気機器導電部品としては、種々の性能が要求されるが、従来のCu−Zn―Sn系合金は、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性の点で未だ不十分であり、そのためコネクタのごとく、薄板(条)に圧延して曲げ加工を施した曲げ部分を有しかつその曲げ部分で相手側導電部材との接触を得るような部品では、雰囲気によっては曲げ部分の残留応力によって腐食されて割れが生じたり、また経時的に残留応力が緩和されて相手側導電部材との接触圧が保たれなくなったりし、その結果、接触不良などの問題が生じやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−264039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、Snめっき付き黄銅条の基材として使用されている従来のCu−Zn―Sn系合金は、コネクタなど、主として曲げ加工を施して使用される薄板材料(条材)としては、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性が未だ不十分であり、そこでこれらの特性の改善が強く望まれている。
【0007】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、コネクタやリードフレームその他の端子など、電子・電気機器の導電部品として使用される銅合金、特にCu−Zn―Sn系合金として、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性が優れ、しかも強度や圧延性、曲げ加工性、導電率などの諸特性も優れた銅合金を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対する解決策について、鋭意実験・研究を重ねたところ、Cu−Zn―Sn系合金に適切な量のZr(ジルコニウム)を添加し、同時に合金中のP(リン)の含有量を適切に規制すれば、Cu−Zr−Sn系の金属間化合物を析出させ得ることを見い出した。そしてさらに研究を重ねた結果、Cu−Zr−Sn系金属間化合物を析出させたCu−Zn―Sn系合金では、Cu−Zr−Sn系金属間化合物を析出させていないCu−Zn―Sn系合金と比較して、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性が優れることを新規に知見し、同時にCu−Zr−Sn系金属間化合物生成のためのZrの添加量を適切に定めることにより、強度や圧延性、曲げ加工性、導電率など、コネクタやリードフレームその他の端子などに要求される諸特性も優れた銅合金が得られることを見い出し、本発明をなすに至ったのである。
【0009】
したがって本発明の基本的な形態(第1の形態)による電子・電気機器用銅合金は、Znを15〜33%(mass%、以下同じ)、Snを0.1〜1.0%、Zrを0.01〜0.15%含有し、かつPの含有量が0.05%以下に規制され、かつZrの含有量Zr(%)と、Pの含有量P(%)とが、
Zr(%)―3P(%)≧0.01
を満たすように定められ、残部がCuおよび不可避的不純物よりなり、Cu−Zr−Sn系の金属間化合物が析出していることを特徴としている。
【0010】
このような本発明の基本的な形態によれば、0.01〜0.15%のZrを添加しかつP量を適切に規制することにより、母相(α相)からCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出した組織のCu−Zn―Sn系合金を得ることができる。そしてこのようにCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出した組織を有するCu−Zn―Sn系合金では、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性が優れ、同時に強度や圧延性、曲げ加工性、導電率などの、コネクタやリードフレームその他の端子などに要求される諸特性も優れている。
ここで、Cu−Zn―Sn系合金に添加したZrは、Cuとの共存下でCu−Zr−Sn系金属間化合物を生成し得るが、Zrとの結合性が高いPがZrと同時に存在すれば、Zr−P系化合物が優先的に生成されてしまって、Cu−Zr−Sn系金属間化合物の生成に寄与するZrが少なくなってしまい、十分な量のCu−Zr−Sn系金属間化合物を析出させることが困難となるが、Pの絶対量および{Zr(%)―3P(%)}の値を適切に規制することによって、十分な量のCu−Zr−Sn系金属間化合物を析出させ、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性を確実に向上させることができる。
【0011】
また本発明の第2の形態による電子・電気機器用銅合金は、前記第1の形態の電子・電気機器用銅合金において、前記Cu−Zr−Sn系の金属間化合物として、走査型電子顕微鏡による観察において粒径が0.01μm以上の化合物が、1000μmあたり平均1個以上存在することを特徴とすることを特徴とするものである。
【0012】
この第2の形態による電子・電気機器用銅合金では、Cu−Zr−Sn系の金属間化合物の分散状態が適切であって、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性を確実かつ十分に向上させることができる。
【0013】
また本発明の第3の形態による電子・電気機器用銅合金は、前記第1の形態の電子・電気機器用銅合金において、Zrが0.01〜0.10%の範囲内とされていることを特徴とするものである。
【0014】
この第3の形態による電子・電気機器用銅合金では、Zrの過剰添加による圧延性、曲げ加工性の低下を確実に回避することができる。すなわち、Zrは、前述のように耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性の向上に寄与するCu−Zr−Sn系金属間化合物の生成のために添加されるZrの添加量が過剰であれば、圧延性、曲げ加工性が低下してしまうおそれがあり、従って薄板(条)として曲げ加工を施して使用される用途には好ましくなくなるが、Zrの添加量を0.10%以下に抑えることによって、圧延性、曲げ加工性の低下を確実に防止することができる。
【0015】
さらに本発明の第4の形態による電子・電気機器用銅合金は、前記第1〜第3の形態のうちいずれか1の形態の電子・電気機器用銅合金において、B(ホウ素)の含有量が0.005%以下に規制されていることを特徴とするものである。
【0016】
この第4の形態による電子・電気機器用銅合金では、Bの含有量を規制することによって、確実にCu−Zr−Sn系金属間化合物を析出させることが可能となった。すなわち、Bは、Pと同様にZrとの結合性が高く、そのためZrとBが共存すれば、ZrBなどのZr―B系化合物が優先的に生成されてしまって、Cu−Zr−Sn系金属間化合物の生成に寄与するZrが少なくなり、十分な量のCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出しなくなってしまい、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性の向上が十分に図れなくなるおそれがあるが、Bの含有量を0.005%以下に規制することによって、ZrBなどのZr―B系化合物の生成を抑制し、十分な量のCu−Zr−Sn系金属間化合物を析出させることができる。
【0017】
さらに本発明の第5の形態による電子・電気機器用銅合金薄板は、前記第1〜第4の形態のうちいずれか1の形態の電子・電気機器用銅合金の圧延材からなり、厚みが0.1〜1.0mmの範囲内にあることを特徴とするものである。
【0018】
このような厚みの圧延板薄板(条材)は、コネクタやリードフレームなどに好適に使用することができる。
【0019】
さらに本発明の第6の形態による電子・電気機器用銅合金薄板は、前記第4の形態の電子・電気機器用銅合金薄板の表面にSnめっきが施されていることを特徴とするものである。
【0020】
この場合、Snめっきの下地の基材は0.1〜1.0%のSnを含有するCu−Zn―Sn系合金で構成されているため、使用済みの部品をSnめっき黄銅系合金のスクラップとして回収して良好なリサイクル性を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、適切な量のZrを添加しかつP量を適切に規制することにより、母相(α相)からCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出した組織のCu−Zn―Sn系合金を得ることができ、そしてこのようにCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出した組織を有するCu−Zn―Sn系合金では、耐応力腐食割れ性および耐応力緩和特性が優れ、同時に強度や圧延性、曲げ加工性、導電率などの、コネクタやリードフレームその他の端子などに要求される諸特性も優れており、特に薄板条材として曲げ加工を施しかつその曲げ部分で相手側の導電部材に接するコネクタなどの用途において、応力腐食割れや応力緩和が生じることなく、長期間確実な接触状態をたもつことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例のNo.6の合金についての走査型電子顕微鏡による組織観察結果を示す組織写真である。
【図2】本発明の実施例のNo.6の合金についての走査型電子顕微鏡観察による析出物を含む部位を拡大した組織写真である。
【図3】図2中の析出物についてのEDX分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の電子・電気機器用銅合金についてより詳細に説明する。
本発明の電子・電気機器用銅合金は、基本的には、Znを15〜33%(mass%、以下同じ)、Snを0.1〜1.0%、Zrを0.01〜0.15%含有し、かつPの含有量が0.05%以下に規制され、かつZrの含有量Zr(%)と、Pの含有量P(%)とが、
Zr(%)―3P(%)≧0.01
を満たすように定められ、残部がCuおよび不可避的不純物よりなり、Cu−Zr−Sn系の金属間化合物が析出していることを特徴とするものである。
またここで、Zrの含有量は、好ましくは0.01〜0.10%の範囲内としている。
さらに、好ましくはBの含有量を0.005%以下に規制することとしている。
そこで先ずこれらの本発明銅合金の成分組成の限定理由について説明する。
【0024】
Zn 15〜33%:
Znは本発明で対象としている銅合金(黄銅)において基本的な合金元素であり、強度およびばね性の向上に有効な元素である。またZnはCuより安価であるため、銅合金の材料コストの低減にも効果がある。Znが15%未満ではこれらの効果が十分に得られない。一方Znが33%を越えれば、β相が生じて、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性が著しく低下してしまうため、後述するように本発明に従ってZrを添加しても、十分な耐応力腐食割れ性、耐応力腐食割れ性を確保することが困難となり、また耐食性、冷間圧延性および曲げ加工性も低下してしまう。したがってZnの含有量は15〜33%の範囲内とした。
【0025】
Sn 0.1〜1.0%:
Snの添加は強度向上に効果があり、またSnめっきを施して使用する電子・電気機器材料の母材黄銅合金として、Snを添加しておくことが、Snめっき付き黄銅材のリサイクル性の向上に有利となる。Snが0.1%未満ではこれらの効果が十分に得られず、一方Snが1.0%を越えれば、熱間加工性および冷間圧延性が低下してしまい、熱間圧延および冷間圧延で割れが発生してしまうおそれがあり、また導電率も低下してしまう。そこでSnの添加量は0.1〜1.0%の範囲内とした。
【0026】
Zr 0.01〜0.15%(好ましくは0.01〜0.10%):
Zrは本発明において特徴的な添加元素であり、Cu−Zn―Sn合金に適量のZrを添加することによって、Cu−Zr−Sn系金属間化合物を析出させることができ、さらにこのようなCu−Zr−Sn系金属間化合物の析出によって、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性を大幅に向上させることができる。すなわち、Cu−Zn―Sn合金の基本的な合金成分であるZnの添加は、前述のように強度、コストの点で有効であるが、15%以上のZnを添加した本系合金では、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性が劣る問題がある。しかるに、15%以上のZnを添加したCu−Zn―Sn合金でも、適切な量のZrを添加してCu−Zr−Sn系金属間化合物を析出させることにより、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性を向上させることが可能となるのである。またZrの添加は強度向上にも効果がある。ここで、Zrの添加量が0.01%未満では、十分な量のCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出されず、そのため耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性を十分に向上させることができない。一方Zrの添加量が0.15%を越えれば、圧延性、加工性が低下して、冷間圧延で割れが発生したり、曲げ加工で割れが発生してしまうおそれがある。そこでZrの添加量は0.01〜0.15%の範囲内とした。なおZrの添加量は、特に0.01〜0.10%の範囲内とすることが好ましい。すなわち、Zrの添加量上限を0.10%とすることによって、圧延性、加工性の低下を、より確実に抑制して、圧延割れや、曲げ割れの発生を、より確実に防止することができる。
【0027】
P 0.05%以下;Zr(%)―3P(%)≧0.01%:
Pは、Zrとの結合性が高く、Pを多量に含有すれば、ZrPなどのZr―P系化合物が生成されてしまって、Cu−Zr−Sn系金属間化合物の析出に寄与するZrが少なくなり、結果的にCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出されないか、またはその析出量が少なくなって、Zrの添加による耐応力腐食割れ性を向上させる効果が発揮されなくなってしまう。耐応力腐食割れ性の向上効果を発揮させるために必要なCu−Zr−Sn系金属間化合物を確保するためには、Pの絶対的な含有量の上限を規制すると同時に、Zr量とP量の3倍との差{Zr(%)―3P(%)}の下限を規制する必要がある。P量が0.05%を越えれば、また{Zr(%)―3P(%)}が0.01%未満となれば、Zr―P系化合物の生成によりCu−Zr−Sn系金属間化合物の析出に寄与するZrが少なくなって、Cu−Zr−Sn系金属間化合物が析出されないかまたはCu−Zr−Sn系金属間化合物の析出量が少なくなり、耐応力腐食割れ性を向上させ得なくなる。そこでP量は0.05%以下、{Zr(%)―3P(%)}は0.01%以上に、それぞれ規制することとした。なおP量は、0.01%以下に規制することが望ましく、また{Zr(%)―3P(%)}は、0.02%以上とすることが好ましい。P量を0.01%以下に規制しかつ{Zr(%)―3P(%)}を0.02%以上とすれば、Zr―P系化合物の生成を確実に抑制して、耐応力腐食割れ性の向上に寄与するCu−Zr−Sn系金属間化合物を、より一層確実に析出させることができる。
なおまた、Pは、銅合金の溶解原料から不可避的に混入することが多い元素であり、従ってP量を上述のように規制するためには、溶解原料を適切に選定することが望ましい。
【0028】
B 0.005%以下:
BもZrとの結合性が高く、Bを多量に含有すれば、Cu−Zr−Sn系金属間化合物の析出に寄与するZrが少なくなり、結果的にCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出されないかまたはCu−Zr−Sn系金属間化合物の析出量が少なくなって、Zrの添加による耐応力腐食割れ性を向上させる効果が発揮されなくなってしまう。B量が0.005%以下であれば、BがCu−Zr−Sn系金属間化合物の析出を阻害するおそれがないから、B量は0.005%以下に規制することが望ましい。
【0029】
以上の各元素の残部は、基本的にはCuおよび不可避的不純物とすればよい。ここで、上記のP,B以外の不可避的不純物としては、Mg,Al, Mn, Si, Ni, Fe,Co,Cr,Ag,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Re,Ru,Os,Se,Te,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Cd,Ga,In,Li,Ge,As,Sb,Ti,Tl,Pb,Bi,S,O,C,Be,N,H,Hg, 希土類等が挙げられるが、これらの不可避不純物は、総量で0.3質量%以下であることが望ましい。
【0030】
なお上述の不可避的不純物のうちでも、O(酸素)およびS(硫黄)は、溶解原料から、あるいは溶解鋳造時に混入しやすい不純物元素であるが、いずれもZrとの結合性が高く、これらが過剰に含有されていれば、ZrOなどのZr―O系化合物もしくはZrSなどのZr−S系化合物が生成されて、Cu−Zr−Sn系金属間化合物の析出に寄与するZrが少なくなり、結果的にCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出されないかまたはCu−Zr−Sn系金属間化合物の析出量が少なくなって、Zrの添加による耐応力腐食割れ性を向上させる効果が発揮されなくなってしまい、またZr―O系化合物やZr−S系化合物により圧延性、加工性が低下して、圧延割れや曲げ割れが発生してしまうおそれがある。そこでこれらの不純物のうちでも特にOは0.01%以下、好ましくは0.005%以下に規制し、Sも同様に0.01%以下、好ましくは0.005%以下に規制することが望ましい。
【0031】
さらに本発明の電子・電気機器用銅合金は、以上のような成分組成を有するばかりでなく、金属組織として、母相(α相)にCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出したものであることが必要である。すなわち、母相に固溶したZrは、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性の向上に寄与しないばかりか、導電率を低下させてしまう傾向を示すが、ZrがCuとの共存によってCu−Zr−Sn系金属間化合物として析出することにより、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性の向上、さらには強度向上に寄与し、またZrがCu−Zr−Sn系金属間化合物として析出することにより、導電率の低下を抑えることができる。
【0032】
なお、上記のCu−Zr−Sn系金属間化合物とは、Cu、ZrおよびSnからなる三元系金属間化合物が代表的であるが、それに限らず、Cu、Zr、Snを主体として、例えばZnを含有する金属間化合物を含むものとする。
【0033】
ここで、Cu−Zr−Sn系金属間化合物の析出分散状態については、加工方向と平行な断面(加工方向と平行な表面からエッチングした表面を含む)、したがって圧延材による薄板の場合は圧延面と平行な断面、もしくは圧延面からエッチングした面での走査型電子顕微鏡により、粒径が0.01μm以上のものが、平均で1000μmあたり1個以上の密度で分散していることが好ましい。粒径が0.01μm未満のCu−Zr−Sn系金属間化合物では、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性の向上への寄与が少なく、またその分布密度が1個/1000μm未満でも、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性を十分に向上させ得なくなるおそれがある。なお、粒径が0.01μm以上のCu−Zr−Sn系金属間化合物の分散密度は、より好ましくは、平均で1000μmあたり5個以上であることが望ましい。この場合、耐応力腐食割れ性、耐応力緩和特性を、より一層確実に向上させることができる。
なおまた、金属間化合物の粒径とは、金属間化合物の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値で規定した。
【0034】
次に、本発明の電子・電気機器用銅合金の製造方法の好ましい例について、厚みが0.1〜1.0mm程度の薄板(条材)を製造する場合を例にとって説明する。
【0035】
先ず前述のような成分組成の銅合金溶湯を溶製する。ここで、溶解原料のうち銅原料しては、純度が99.99%以上とされたいわゆる4NCu、例えば無酸素銅を使用することが望ましいが、スクラップを原料として用いてもよいことはもちろんである。また溶解工程では、ZnおよびZrの酸化を抑制するために、真空炉、あるいは、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気とされた雰囲気炉を用いることが好ましい。
【0036】
次いで成分調整された銅合金溶湯を、適宜の鋳造法、例えば金型鋳造などのバッチ式鋳造法、あるいは連続鋳造法、半連続鋳造法などによって鋳造して、鋳塊(スラブ状鋳塊など)とする。
その後、必要に応じて偏析を解消して鋳塊組織を均一化するとともに、β相を消失させるために均質化処理を行なう。この均質化処理の条件は特に限定しないが、通常は600〜950℃において5分〜24時間加熱すればよい。均質化処理温度が600℃未満、あるいは均質化処理時間が5分未満では、十分な均質化効果が得られないおそれがあり、一方均質化処理温度が950℃を越えれば、偏析部位が一部溶解してしまうおそれがあり、さらに均質化処理時間が24時間を越えることはコスト上昇を招くだけである。均質化処理後の冷却条件は、適宜定めれば良いが、通常は水焼入れすればよい。なお均質化処理後には、必要に応じて面削を行なう。
【0037】
次いで、鋳塊に対して熱間圧延を行い、板厚0.5〜50mm程度の熱延板を得る。この熱間圧延の条件も特に限定されないが、通常は、開始温度600〜950℃、終了温度300〜850℃、圧延率10〜90%程度とすることが好ましい。なお熱間圧延開始温度までの鋳塊加熱は、前述の鋳塊均質化処理と兼ねて行なってもよい。すなわち均質化処理後に室温近くまで冷却せずに、熱間圧延開始温度まで冷却された状態で熱間圧延を開始してもよい。
【0038】
熱間圧延後には、一次冷間圧延を施して、板厚0.1〜5mm程度の中間板厚とする。この一次冷間圧延の圧延率は特に限定されないが、通常は20〜99%程度とする。一時冷間圧延後には、中間熱処理を施す。この中間熱処理は、組織を再結晶させると同時に、Cu−Zr−Sn系の金属間化合物を析出させるために重要な工程であり、Cu−Zr−Sn系の金属間化合物が析出するような加熱温度、加熱時間の条件を適用する。Cu−Zr−Sn系金属間化合物が析出する温度域は、300〜900℃であり、従って中間熱処理は、この温度域内で行なえばよい。またその温度域での加熱時間は、Cu−Zr−Sn系金属間化合物が十分に析出する時間、すなわち通常は1秒〜24時間とすればよいが、好ましい加熱温度、加熱時間は、次に説明するように、具体的な熱処理の手法によっても異なる。
すなわち中間熱処理の具体的手法としては、バッチ式の加熱炉を用いても、あるいは連続焼鈍ラインを用いて連続的に加熱しても良い。そして中間熱処理の好ましい加熱条件は、バッチ式の加熱炉を使用する場合は、300〜900℃の温度で、5分〜24時間加熱することが望ましく、また連続焼鈍ラインを用いる場合は、加熱到達温度300〜900℃とし、かつその範囲内の温度で、保持なし、もしくは1秒〜5分程度保持することが好ましい。またこの中間熱処理の雰囲気は、非酸化性雰囲気(窒素ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、あるいは還元性雰囲気)とすることが好ましい。
中間熱処理後の冷却条件は、特に限定しないが、通常は2000℃/秒〜100℃/時間程度の冷却速度で冷却すればよい。
【0039】
中間熱処理の後には、製品板板厚(0.1〜1.0mm程度)まで仕上げ、同時に加工硬化により所要の強度を得るために、再び冷間圧延(仕上げ冷間圧延)を行なう。この仕上げ冷間圧延の圧延率は、通常は10〜99%とすることが好ましい。仕上げ冷間圧延率が10%未満では最終板として十分な強度が得られなくなるおそれがあり、一方99%を越えれば、耳割れ発生のおそれがある。
【0040】
仕上げ冷間圧延後には、必要に応じて歪み取り焼鈍として、低温熱処理(仕上げ焼鈍)を行なう。この低温熱処理は、50〜500℃の範囲内の温度で、1秒〜24時間行なうことが望ましい。低温熱処理の温度が50℃未満、または低温熱処理の時間が1秒未満では、十分な歪み取りの効果が得られなくなるおそれがあり、一方低温熱処理の温度が500℃を超える場合は再結晶のおそれがあり、さらに低温熱処理の時間が24時間を越えることは、コスト上昇を招くだけである。
【0041】
以上のようにして、母相のα相からCu−Zr−Sn系金属間化合物が析出した、板厚0.1〜1.0mm程度のCu−Zn―Sn系合金薄板(条材)を得ることができる。このような薄板は、これをそのまま電子・電気機器用導電部品に使用しても良いが、通常は板面の一方、もしくは両面に、膜厚0.1〜10μm程度のSnめっきを施し、Snめっき付き銅合金条として、コネクタその他の端子などの電子・電気機器用導電部品に使用するのが通常である。この場合のSnめっきの方法は特に限定されないが、常法に従って電解めっきを適用したり、また場合によっては電解めっき後にリフロー処理を施してもよい。
【0042】
なお実際に電子・電気機器用導電部品、例えばコネクタに使用するにあたっては、薄板に曲げ加工を施すことが多いのは既に述べたとおりであり、またその曲げ加工部分で、相手側導電部材に圧接させて、その圧接部分(曲げ部)で相手側導電部材との電気的導通を確保するような態様で使用することが多く、このような態様での使用に対して、本発明の銅合金は最適である。
【0043】
以下、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果を本発明の実施例として、比較例とともに示す。なお以下の実施例は、本発明の効果を説明するためのものであって、実施例に記載された構成、プロセス、条件が本発明の技術的範囲を限定するものでないことはもちろんである。
【実施例】
【0044】
Cu−35Zn母合金および純度99.99質量%以上の無酸素銅(ASTM B152 C10100)からなる原料を準備し、これを高純度グラファイト坩堝内に装入して、N2ガス雰囲気において電気炉を用いて溶解した。銅合金溶湯内に、各種添加元素を添加して、本発明例としての表1のNo.1〜No.12に示す成分組成の合金、および比較例としての表1のNo.21〜No.28に示す成分組成の合金溶湯を溶製し、カーボン鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約40mm×幅約40mm×長さ約100〜120mmとした。各鋳塊について、表2に示すような条件で処理した。すなわち、先ず鋳塊に対する均質化処理として、Arガス雰囲気中において、850℃で所定時間保持後、水焼き入れを実施した。
次に、熱間圧延開始温度が850℃となるように再加熱して、圧延率50%の熱間圧延を行い、圧延終了温度600〜700℃から水焼入れを行い、表面研削実施後、厚さ18mm×幅約40mmの熱間圧延材を製出した。
その後、一次冷間圧延(表2中の中間圧延)として圧延率50%の圧延を行なった後、中間熱処理として、400℃で5時間の熱処理を実施した。
さらに、その後、表2に記載された圧延率で仕上げの冷間圧延を実施し、厚さ約0.5mm×幅約40mmの条材(薄板)を製出した。
最後に、仕上げの歪み取り焼鈍(低温熱処理)として、Arガス雰囲気中において、200℃で1時間保持後、水焼き入れを実施し、表面研削を実施した後、特性評価用条材を製出した。
【0045】
これらの特性評価用条材について、圧延性、導電率、機械的特性(耐力)、曲げ加工性を調べるとともに、耐応力腐食割れ性を調べ、さらに組織観察を行なって、Cu−Zr−Sn系金属間化合物の析出状態を調べた。各評価項目についての試験方法、測定方法は次の通りであり、またその結果を表3に示す。
【0046】
〔圧延性評価〕
圧延性の評価としては、前述の仕上げ冷間圧延時における耳割れの有無を観察した。目視で耳割れが全く、あるいはほとんど認められなかったものを◎、長さ1mm未満の小さな耳割れが発生したものを○、長さ1mm以上3mm未満の耳割れが発生したものを△、長さ3mm以上の大きな耳割れが発生し、特性評価が著しく困難なものを×と、それぞれ評価した。なお、耳割れの長さとは、圧延材の幅方向端部から幅方向中央部に向かう耳割れの長さのことである。
【0047】
〔機械的特性〕
特性評価用条材からJIS Z 2201に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力σ0.2を測定した。なお、試験片は、引張試験の引張方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
【0048】
〔導電率〕
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
【0049】
〔耐応力腐食割れ性〕
耐応力腐食割れ性は、本来は、耐応力緩和特性とは異なる評価項目ではあるが、腐食性雰囲気での耐応力緩和特性の試験によれば、応力腐食割れ性をも評価できることから、この実施例においては、応力腐食割れ性の評価を、耐応力緩和特性試験に準じて行なった。
すなわち、日本伸銅協会技術標準JCBA−T309:2004の片持ちはりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、アンモニア雰囲気で種々の時間暴露後の残留応力率を測定した。
試験方法としては、各供試材から長手方向から平行に試験片(幅10mm)を採取し、試験片の表面最大応力が耐力の80%となるよう、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面最大応力(MPa)=1.5Etδ0/Ls2
ただし、
E:たわみ係数(MPa)
t:試料の厚み(t=0.5mm)
δ:初期たわみ変位(2mm)
:スパン長さ(mm)
である。
この状態の試験片を約3%のアンモニア水を入れたデシケーター内で室温において種々の時間暴露した。暴露時間は、供試材のZn量に応じて、20h、100h、200hとし、それぞれの時間の暴露後の曲げ癖から、残留応力率を測定し、その値が80%以上のものを○、80%よりも下のものを×として評価した。なお残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1-δt0)x100
ただし、
δ:暴露後の永久たわみ変位(mm)
δ:初期たわみ変位(mm)
である。
【0050】
〔耐応力緩和特性〕
耐応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準JCBA−T309:2004の片持ちはりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、150℃の温度で5h保持後の残留応力率を測定した。
試験方法としては、各供試材から長手方向から平行に試験片(幅10mm)を採取し、試験片の表面最大応力が耐力の80%となるよう、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面応力(MPa)=1.5Etδ0/Ls2
ただし、
E:たわみ係数(MPa)
t:試料の厚み(t=0.5mm)
δ:初期たわみ変位(2mm)
:スパン長さ(mm)
である。
150℃の温度で、5h保持後の曲げ癖から、残留応力率を測定し、その値が80%以上のものを○、80%よりも下のものを×として評価した。なお残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1-δt0)x100
ただし、
δ:150℃×5h保持後の永久たわみ変位(mm)
δ:初期たわみ変位(mm)
である。
【0051】
〔曲げ加工性〕
日本伸銅協会技術標準JCBA−T307:2007の3試験方法に準拠して曲げ加工を行った。圧延方向と試験片の長手方向が平行になるように、特性評価用条材から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、曲げ半径が0.5mmのW型の治具を用い、W曲げ試験を行った。
そして、曲げ部の外周部を目視で確認し、破断した場合は×、破断せずに微細な割れのみが発生した場合は△、破断が起きずかつ微細な割れも生じなかった場合は○として判定を行った。
【0052】
〔組織観察〕
本発明例合金No.1〜12及び比較例合金22〜25による特性評価用条材について、金属間化合物の析出状況を調べるための組織観察を実施した。各試料の圧延面に対して、鏡面研磨、エッチングを行った。その金属間化合物の析出状態を確認するため、FE−SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)を用い、2500倍の視野(約3000μm/視野)で観察を行った。
次に、金属間化合物の析出状態が特異ではない2500倍の視野(約3000μm/視野)を選び、10視野(約30000μm)の撮影を行った。金属間化合物の粒径に関しては、必要に応じて50000倍まで拡大して、金属間化合物の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値とした。そして、粒径0.01μm以上のCu−Zr−Sn系金属間化合物(Cu,Zr、Snのほか、Znを含有する金属間化合物を含む)の個数が30個以上(1個以上/1000μm)の場合を○とし、それ未満の場合を×と評価した。また、金属間化合物の成分についてはEDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて確認した。
【0053】
上記の各評価結果について、表3中に示す。また、上述の組織観察の一例として、本発明例のNo.6のSEM観察写真を図1に示す。さらにその本発明例のNo.6における析出物の写真とEDX(エネルギー分散型X線分光法)による分析結果を図2、図3に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
図1において、白い点状の部分が析出物であり、また析出物を含む部位を拡大して示したのが図2である。そしてこの図2中の析出物についてのEDXによる分析結果(図3)から、その析出物が、微量のZnを含むCu−Zr−Sn系金属間化合物であることが理解できる。
【0058】
また表3に示すように、Zrの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例No.21においては仕上げ冷間圧延時に大きな耳割れが発生し、その後の特性評価を実施することが不可能であった。
Zrを含有しない比較例No.22〜24については、Cu−Zr−Sn系金属間化合物が少なく、応力腐食割れ判定がそれぞれの計測において×となった。
ZrとPの含有量がZr−3P≧0.01mass%の範囲から外れる比較例No.25については、Cu−Zr−Sn系金属間化合物からなる析出物が観察されず、応力腐食割れ判定が×となった。
Pの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例No.26においては、仕上げ冷間圧延時に大きな耳割れが発生し、その後の特性評価を実施することが不可能であった。
Snの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例No.27においては、仕上げ冷間圧延時に大きな耳割れが発生し、その後の特性評価を実施することが不可能であった。
Bの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例No.28においては、仕上げ冷間圧延時に大きな耳割れが発生し、その後の特性評価を実施することが不可能であった。
これに対して、本発明例のNo.1−12は、いずれも圧延性は良好であって、組織観察においてCu−Zr−Sn系金属間化合物が多く、応力腐食割れ判定が○で、耐応力腐食割れ性が良好であり、さらに耐応力緩和特性、曲げ加工性も良好であり、しかも強度もやや優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを15〜33%(mass%、以下同じ)、Snを0.1〜1.0%、Zrを0.01〜0.15%含有し、かつPの含有量が0.05%以下に規制され、かつZrの含有量Zr(%)と、Pの含有量P(%)とが、
Zr(%)―3P(%)≧0.01
を満たすように定められ、残部がCuおよび不可避的不純物よりなり、Cu−Zr―Sn系の金属間化合物が析出していることを特徴とする、電子・電気機器用銅合金。
【請求項2】
請求項1に記載の電子・電気機器用銅合金において、
前記Cu−Zr−Sn系の金属間化合物として、走査型電子顕微鏡による観察において粒径が0.01μm以上の化合物が、1000μmあたり平均1個以上存在することを特徴とする、電子・電気機器用銅合金。
【請求項3】
請求項1に記載の電子・電気機器用銅合金において、
Zrが0.01〜0.10%の範囲内とされていることを特徴とする、電子・電気機器用銅合金。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちのいずれか1の請求項に記載の電子・電気機器用銅合金において、
Bの含有量が0.005%以下に規制されていることを特徴とする、電子・電気機器用銅合金。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちのいずれか1の請求項に記載の銅合金の圧延材からなり、厚みが0.1〜1.0mmの範囲内にある、電子・電気機器用銅合金薄板。
【請求項6】
請求項5に記載の銅合金薄板の表面にSnめっきが施されている、電子・電気機器用銅合金薄板。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−126933(P2012−126933A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277220(P2010−277220)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】