説明

電子写真トナー用外添剤及びその製造方法

【課題】充分な流動性を電子写真トナー粒子に対して付与することができるトナー用外添剤を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリルエステル系モノマーを、水性媒体中、イオン性高分子及び水溶性重合開始剤の存在下で乳化重合させることによって得られるアクリル系重合体粒子からなる電子写真トナー用外添剤の製造方法であって、前記イオン性高分子の4重量%水溶液の20℃における粘度が、2.0〜10.0mPa・sであり、前記イオン性高分子が、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して、0.03〜0.3重量部使用され、前記アクリル系重合体粒子が、0.1〜1.0μmの平均粒子径であることを特徴とする電子写真トナー用外添剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真トナー用外添剤及びその製造方法に関し、詳しくは、電子写真トナーに添加することにより、トナーに充分な流動性を付与することのできる電子写真トナー用外添剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法や静電記録法においては、感光体上や静電記録体上に静電荷像を形成し、この静電荷像を磁気ブラシ現像法、カスケード現像法等によって電子写真トナーを用いて現像することでトナー像を形成し、これを複写紙等に転写し定着させて複写物としている。そして、この電子写真法や静電記録法に用いられる電子写真トナーに、種々の添加剤(以下、「電子写真トナー用外添剤」、又は「トナー外添剤」と記す)を添加することにより、トナーの性能を向上できることが知られている。
【0003】
トナー外添剤として用いられる微粒子には、電子写真トナーより平均粒子径が小さいこと、形状や大きさが均一であること、トナーに充分な流動性や帯電性を付与できること等が要求される。このようなトナー外添剤は、トナー粒子間に入り込んでトナー粒子間の接着を防止し、あるいはトナーに流動性を付与することにより、トナーの種々の性能を向上することができる。
【0004】
従来、トナー外添剤に用いられる粒子としては、シリカ、チタニア、アルミナ等の無機微粒子又はこれらの無機微粒子の表面を疎水化処理した微粒子が用いられてきた。しかし、このような無機材料からなるトナー用外添剤は、粒子径が0.1μm以下と、トナー粒子に外添するには非常に小さすぎ、かつ硬すぎるために、攪拌によってトナー粒子中に埋没し易く、あるいはトナー粒子から脱離し易くなり、トナーに充分な流動性を付与できないという問題があった。
【0005】
このような問題点を解決するための技術として、スチレン系、あるいはアクリル系重合体粒子等からなるトナー外添剤が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。また、水溶性高分子あるいは反応性界面活性剤存在下で重合体粒子を製造し、トナー外添剤とすることが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−163985号公報
【特許文献2】特開2001−272821号公報
【特許文献3】特公平2−3172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2の方法において、重合体粒子は、乳化剤を使用しないソープフリー乳化重合によって製造されるため、重合時に凝集し易くなる。そのため、この重合体粒子をトナー外添剤として使用した場合に、トナー粒子に充分な流動性を付与できなかった。また、特許文献3の方法により、水溶性高分子を使用して得られた重合体粒子をトナー外添剤として使用しても、トナー粒子に充分な流動性を付与できなかった。トナー粒子に充分な流動性を付与できるようなトナー外添剤を実現するためには、まだまだ取り組むべき問題が多い。
本発明は、上述の問題を解決するものであり、その目的とするところは、充分な流動性を電子写真トナーに対して付与することができるトナー用外添剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして本発明によれば、(メタ)アクリルエステル系モノマーを、水性媒体中、イオン性高分子及び水溶性重合開始剤の存在下で乳化重合させることによって得られるアクリル系重合体粒子からなる電子写真トナー用外添剤の製造方法であって、
前記イオン性高分子の4重量%水溶液の20℃における粘度が、2.0〜10.0mPa・sであり、
前記イオン性高分子が、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して、0.03〜0.3重量部使用され、
前記アクリル系重合体粒子が、0.1〜1.0μmの平均粒子径であることを特徴とする電子写真トナー用外添剤の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記の製造方法により得られる電子写真トナー用外添剤が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子写真用トナーに用いられるトナー粒子に充分な流動性を付与することが可能となり、電子写真、静電記録、静電印刷等における静電潜像の良好な現像を実現することができるので、電子写真機用、複写機用、プリンター用等のトナーに好適に用いられる。
また、本発明に用いられるイオン性高分子が、イオン性のポリビニルアルコールである場合、本発明による電子写真トナー用外添剤は、トナー粒子に更に充分な流動性を付与することが可能となる。
また、本発明による電子写真トナー用外添剤は、電子写真トナー用バインダー樹脂粒子100重量部に対して0.01〜10.0重量部の量で前記電子写真トナー用外添剤を外添されて得られる樹脂粒子を、目開き45μmの篩通過率を75%以上にすることから、充分な流動性をトナー粒子に付与可能であることが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明により製造される電子写真トナー用外添剤は、(メタ)アクリルエステル系モノマーを、水性媒体中、イオン性高分子及び水溶性重合開始剤の存在下で乳化重合させることによって得られるアクリル系重合体粒子からなる。
本発明の発明者等は、特定範囲の粘度のイオン性高分子を特定量使用すれば、得られるアクリル系重合体粒子からなる電子写真トナー用外添剤が外添されたトナー粒子の流動性が向上することを意外にも見出した。本発明で特定されない条件の場合、すなわち、特定範囲にない粘度のイオン性高分子が使用された場合、ならびに特定量の範囲から外れてイオン性高分子が使用された場合には、上述した程の効果を得られないことも分かった。
【0012】
((メタ)アクリルエステル系モノマー)
本発明において用いられる(メタ)アクリルエステル系モノマーとは、アクリルエステル系モノマー及び/又はメタクリルエステル系モノマーを示す。
本発明において使用される(メタ)アクリルエステル系モノマーは、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリルエステル系モノマーは、単独で用いられても、あるいは併用されてもよい。
【0013】
本発明において使用される(メタ)アクリルエステル系モノマーには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他のモノマーや添加剤が添加されてもよい。
他のモノマーとしては、例えば、二官能性重合性ビニル系モノマーやスチレン系モノマーが挙げられる。具体的には、二官能性重合性ビニル系モノマーとしては、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート(アルキレンは炭素数2〜4の範囲が好ましい)等が挙げられ、スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。二官能性重合性ビニル系モノマーの混合割合は、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して50重量部以下であることが好ましく、0.1〜40重量部であることがより好ましい。
【0014】
他の添加剤としては、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、消泡剤、増粘剤、熱安定剤、レベリング剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0015】
(水性媒体)
本発明において使用される水性媒体としては、水又は水と有機溶媒(例えば、低級アルコール)との混合物が挙げられる。
【0016】
(イオン性高分子)
イオン性高分子のイオン性とは、試料5gを100gの蒸留水に溶解させた水溶液のゼータ電位の値が、+1mV以上(カチオン性)又は−1mV以下(アニオン性)の値を示すことができるものを示す。なお、ここでいうゼータ電位は、レーザードップラー速度測定法により測定される。物質に電荷がある場合、水溶液に電場をかけると、物質は電極に向かって移動する。物質の移動速度は、物質の荷電量に比例する。そのため、物質の移動速度を測定することによって、ゼータ電位を求めることができる。この測定は、市販の測定装置で簡便に測定可能であり、本発明においてはマルバーン社製の「ゼータサイザーナノZS」が使用される。
【0017】
本発明においてイオン性高分子は、特定範囲の粘度のものが使用される。特定範囲の粘度とは、イオン性高分子の4重量%水溶液の20℃における粘度が2.0〜10.0mPa・sであることを意味する。粘度が2.0mPa・sより小さいと、乳化重合において得られる重合体粒子の分散安定性を損なうことがある。この場合、重合後の重合体粒子の凝集が発生することで、トナーに充分な流動性を付与できないことがある。一方、粘度が10.0mPa・sより大きいと、重合体粒子の接着力が強くなりすぎるためにトナーに充分な流動性を付与できないことがある。従って、本発明におけるイオン性高分子の粘度は、上述した2.0〜10.0mPa・sの範囲が好ましく、2.4〜8.0mPa・sの範囲が特に好ましい。
【0018】
本発明において使用されるイオン性高分子としては、例えば、イオン性ポリビニルアルコール、イオン性セルロース、イオン性アクリル系樹脂、イオン性ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、特に高い流動性を付与することができることから、イオン性ポリビニルアルコールが特に好ましい。なお、ノニオン性の高分子が使用されると、乳化重合において電荷反発効果が得られないため、重合安定性が悪化することがある。この場合、重合後の重合体粒子の凝集が発生することで、トナーに充分な流動性を付与できないことがある。よって、本発明でノニオン性の高分子が使用されることは、好ましくない。
【0019】
上述のイオン性高分子の具体例としては、スルホン酸基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリグルタミン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸ナトリウム、ポリ乳酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも特に、スルホン酸基変性ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましい。これらは、単独で用いられても、あるいは併用されてもよい。
【0020】
本発明において、イオン性高分子の使用量は、少なすぎると粒子の分散安定性を損なうことがある。この場合、重合後の重合体粒子の凝集が発生することで、トナーに充分な流動性を付与できないことがある。一方、多すぎると重合体粒子の接着力が強くなりすぎるためにトナーに充分な流動性を付与できないことがある。従って、本発明におけるイオン性高分子の使用量は、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して0.03〜0.3重量部が好ましく、0.05〜0.2重量部が特に好ましい。
【0021】
(水溶性重合開始剤)
本発明では、重合開始剤に水溶性重合開始剤が使用される。本発明で使用される水溶性重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、公知なものとして例えば、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸二水和物、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩化水素、2,2−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩化水素、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩化水素、2,2−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物類、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物類が挙げられる。
【0022】
本発明で使用される水溶性重合開始剤の量は、水溶性重合開始剤の種類により異なるが、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して、0.1〜5重量部使用されることが好ましい。より好ましくは、0.3〜3重量部である。
【0023】
(乳化重合)
本発明において重合は、乳化重合により行われる。乳化重合は、水性媒体と、媒体に溶解し難いモノマーと乳化剤(界面活性剤)とを混合し、その混合物に媒体に溶解可能な重合開始剤を加えて行う重合方法である。乳化重合の利点としては、速い速度で高重合度のポリマーが容易に得られることや、水性媒体とするため温度調節が容易であることが挙げられる。
【0024】
本発明において乳化重合が行われるときに、連鎖移動剤が添加されてもよい。本発明で用いられる連鎖移動剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロロメタン、ジブロモメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物が挙げられる。連鎖移動剤の添加量は、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、より好ましくは、0.3〜3重量部である。
【0025】
本発明で行われる乳化重合において、(メタ)アクリルエステル系モノマーと水性媒体との使用割合は、1:20〜1:2(重量比)の範囲であることが好ましい。1:20より(メタ)アクリルエステル系モノマーの割合が少なくなると、生産性が悪くなる場合があり、1:2より(メタ)アクリルエステル系モノマーの割合が多くなると、重合中の粒子の安定性が悪くなり重合後に重合体粒子の凝集物が生じてしまう場合があるので好ましくない。より好ましい使用割合は1:15〜1:3(重量比)の範囲である。
【0026】
本発明で行われる乳化重合において、攪拌回転数は、例えば、5リットル容量の反応器が使用される場合、100〜500rpmであることが好ましい。また、重合温度は、使用されるモノマーや重合開始剤の種類により相違するが、30〜100℃であることが好ましい。重合時間は、2〜10時間であることが好ましい。
【0027】
本発明で行われる乳化重合により、得られるアクリル系重合体粒子の水性媒体からの単離方法は、特に限定されるものではないが、公知の方法として例えば、スプレードライヤーに代表される噴霧乾燥法、ドラムドライヤーに代表される加熱された回転ドラムに付着させて乾燥する方法又は凍結乾燥法が挙げられる。水性媒体から単離されたアクリル系重合体粒子は、粉砕機や解砕機等により凝集状態を解されることが望ましい。
【0028】
本発明で行われる乳化重合により、得られるアクリル系重合体粒子の平均粒子径は、0.1〜1.0μmである。0.1μm未満の場合、得られる重合体粒子が凝集しやすくなり、トナーに充分な流動性を付与できないことがある。一方、1.0μmより大きいと、トナーから脱離が起こりやすくなるために、トナーに充分な流動性を付与できないことがある。平均粒子径の測定方法については、後述の実施例において記載する。
【0029】
本発明で行われる乳化重合により、得られるアクリル系重合体粒子は、電子写真トナー用バインダー樹脂粒子100重量部に対して0.01〜10.0重量部の量でアクリル系重合体粒子を外添されて得られる樹脂粒子を、目開き45μmの篩通過率を75%以上にする電子写真トナー用外添剤となる。
【0030】
具体例を挙げると、電子写真トナー用バインダー樹脂として平均粒子径10μmのスチレン−アクリル樹脂100重量部に、本発明により得られるアクリル系重合体粒子を0.3重量部外添させた場合、このスチレン−アクリル樹脂の目開き45μmの篩通過率を測定すると75%以上となる。篩通過率が75%を下回ると、トナー粒子としての流動性が不充分となり、複写紙等に転写し定着させて複写物とした場合に、汚れが発生するなど、複写物の画質や濃度が悪化する場合がある。篩通過率の測定方法については、後述の実施例において記載する。
【0031】
電子写真トナー用バインダー樹脂粒子への電子写真トナー用外添剤の外添方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、機械式粉砕混合方法のような公知の方法・条件で実施されてもよい。具体的には、ミルミキサー、ヘンシェルミキサー、V型混合機、ターブラミキサー、ハイブリタイザー、ロッキングミキサー等を用いて、アクリル系重合体粒子と電子写真トナー用バインダー樹脂とを混合し、攪拌する。
【0032】
(電子写真トナー用バインダー樹脂粒子)
本発明において使用される電子写真トナー用バインダー樹脂粒子としては、特に限定されるものではないが、例えばスチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−マレイン樹脂、スチレン−ビニルメチルエーテル樹脂、スチレン−メタクリル酸エステル樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の合成樹脂が挙げられる。
【0033】
本発明における電子写真トナー用バインダー樹脂粒子への電子写真トナー用外添剤の添加量は、少なすぎると電子写真トナー用バインダー樹脂粒子に充分な流動性を付与できない場合がある。一方、多すぎると電子写真トナー用バインダー樹脂粒子からの脱離量が多くなってしまう場合がある。従って、電子写真トナー用バインダー樹脂粒子100重量部に対して、電子写真トナー用外添剤0.01〜10.0重量部を添加することが好ましく、より好ましくは、0.2〜5重量部である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
先ず、実施例及び比較例中の、イオン性高分子の粘度の測定方法、平均粒子径の測定方法ならびに重合安定性及び流動性の評価方法について説明する。
(イオン性高分子の粘度の測定方法)
イオン性高分子4gを純水100gに溶解させ、この水溶液の20℃における粘度を音叉型振動式粘度計(A&D社製、VIBRO VISCOMETER SV−10)により測定する。得られた値をイオン性高分子の4重量%水溶液の20℃における粘度とする。
【0036】
(平均粒子径の測定方法)
ここでいう平均粒子径とは、動的光散乱法あるいは光子相関法と呼ばれる方法を利用して測定した粒子径を意味する。具体的には、乳化重合により得られたアクリル系重合体粒子の水系分散液をイオン交換水で200倍に希釈することで0.1wt%に調製し、25℃においてレーザー光を照射し、重合体粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定する。測定された重合体樹脂粒子に起因する散乱強度の分布を、キュムラント解析法により算出された数値が平均粒子径となる。なお、キュムラント解析法とは、平均粒子径を算出するために正規分布に当てはめて解析する方法である。この方法による平均粒子径は、市販の測定装置により簡便に測定可能であり、本発明の実施例においては、マルバーン社製の「ゼータサイザーナノZS」が測定に使用される。このような市販の測定装置にはデータ解析ソフトが搭載されており、測定されたデータは自動的に解析される。
【0037】
(重合安定性の評価方法)
先ず、乳化重合により得られるアクリル系重合体粒子の水系分散液全量を目開き100μmのステンレス篩に通す。次に、篩上の残存物を50℃で24時間乾燥させて、乾燥後の残存物の重量を秤量する。この乾燥後の残存物の重量(Wa)を、乳化重合に使用された(メタ)アクリルエステル系モノマーの総重量で除して、これに100を乗じた値を凝集物生成率とする。
凝集物生成率(%)=(Wa/(メタ)アクリルエステル系モノマーの総重量)×100
この凝集物生成率が1%未満である場合は、重合安定性が非常に優れている(◎)と判断し、1%以上である場合は重合安定性が悪い(×)と判断する。
【0038】
(流動性の評価方法)
本発明において、流動性は篩通過率により評価される。本発明でいう篩通過率とは、ホソカワミクロン社製のパウダーテスターによる篩通過率の測定値を意味する。測定試料には、本発明の実施例、比較例で得られたアクリル系重合体粒子からなる電子写真トナー用外添剤をトナー用バインダー樹脂粒子に外添処理したもの(以下、これを「擬似トナー」と称する)が用いられる。この擬似トナーの篩通過率の測定値から評価する。
以下、擬似トナーの作製方法(a)、篩通過率の測定方法(b)について説明する。
【0039】
(a)擬似トナーの作製方法
5L容量のオートクレーブにおいて、水2600重量部にピロリン酸マグネシウム26重量部を分散させ、亜硝酸ナトリウム0.13重量部及びフォスファノールLO−529(東邦化学社製)1.3重量部を溶解させる。そこへ、アゾビスイソブチロニトリル10.4重量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3.9重量部を溶解させたスチレン910重量部、メタクリル酸ブチル390重量部の混合溶液を加え、ホモジナイザーにより4000rpmで乳化する。乳化されたものを、ナノマイザーシステムLA−33(ナノマイザー社製)により処理圧0.5MPaで処理することにより、分散液が得られる。得られた分散液を450rpmの攪拌回転数で攪拌しつつ、60℃で6時間に亘って加熱する。その後スルファミン酸1.3重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸Na2.6重量部を溶解させた水100重量部を加え、110℃まで加熱して更に1時間に亘って攪拌を続けながら重合を行う。その後、室温まで冷却し、脱水及び乾燥を行うことにより、トナー用バインダー樹脂が得られる。得られたトナー用バインダー樹脂の平均粒子径は10μmである。
上記トナー用バインダー樹脂15gと本発明の電子写真トナー用外添剤0.45gの混合物をミルミキサー(National社製 MX−X57−Y ファイバーミキサー)で5秒間混合処理し、その後1分間静置保管する。再度5秒間の混合と1分間の静置保管を行い、計5回この操作を繰り返すことにより擬似トナーが得られる。
【0040】
(b)篩通過率の測定方法
先ず、上記作製方法(a)により得られた擬似トナー2gを、目開き45μmの金属製の篩に載置する。次に、ホソカワミクロン社製のパウダーテスターに7.2Vのレオスタット電圧を印加して、この篩を93秒間振動させる。振動終了後、篩に残った粉体の重量を測定し、以下の式により算出した値を篩通過率とする。
篩通過率(%)=100−{(篩に残った粉体重量/2g)×100}
この擬似トナーの篩通過率の測定値について、以下の基準で評価する。
◎:非常に優れた流動性を付与できる(篩通過率85%以上)
○:優れた流動性を付与できる(篩通過率75%以上85%未満)
×:流動性付与に乏しい(篩通過率75%未満)
【0041】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却器及び温度計を備えた1Lの3つ口セパラブルフラスコに、イオン交換水400重量部、イオン性高分子として4重量%水溶液の20℃における粘度が2.5mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製、ゴーセランL−3266)を0.1重量部、メタクリル酸メチル30重量部及びメタクリル酸イソブチル70重量部を供給した。その後、攪拌回転数250rpmで攪拌しつつ70℃に加熱した。次に、水溶性重合開始剤として、過硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製)を0.5重量部を添加し、2時間に亘って攪拌を続けた。その後、80℃で1時間に亘ってさらに攪拌を続け、最後に室温まで冷却させることによりトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は0.32μmであり、凝集物生成率は0.6%であり、重合安定性は◎であった。得られたトナー用外添剤の水分散液をスプレードライヤによって乾燥した。乾燥後に残った粉末を気流式粉砕機で処理することにより、トナー用外添剤を取り出した。
得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、94%であり、「◎:非常に優れた流動性を付与できる」評価の範囲(85%以上)であった。
【0042】
(実施例2)
4重量%水溶液の20℃における粘度が2.5mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコールを0.2重量部使用したことを除き、全て実施例1と同条件でトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は0.29μmであり、凝集物生成率は0.5%であり、重合安定性は◎であった。得られたトナー用外添剤の水分散液から実施例1と同工程でトナー用外添剤を取り出した。続いて、得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、91%であり、「◎:非常に優れた流動性を付与できる」評価の範囲(85%以上)であった。
【0043】
(実施例3)
4重量%水溶液の20℃における粘度が2.5mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコールを0.05重量部使用したことを除き、全て実施例1と同条件でトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は0.36μmであり、凝集物生成率は0.8%であり、重合安定性は◎であった。得られたトナー用外添剤の水分散液から実施例1と同工程でトナー用外添剤を取り出した。続いて、得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、90%であり、「◎:非常に優れた流動性を付与できる」評価の範囲(85%以上)であった。
【0044】
(実施例4)
メタクリル酸メチル30重量部及びメタクリル酸イソブチル70重量部の代わりに、メタクリル酸メチル100重量部を使用したことを除き、全て実施例1と同条件でトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は0.28μmであり、凝集物生成率は0.4%であり、重合安定性は◎であった。得られたトナー用外添剤の水分散液から実施例1と同工程でトナー用外添剤を取り出した。続いて、得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、91%であり、「◎:非常に優れた流動性を付与できる」評価の範囲(85%以上)であった。
【0045】
(実施例5)
4重量%水溶液の20℃における粘度が2.5mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコールの代わりに、4重量%水溶液の20℃における粘度が6.4mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、KL−506)を使用したことを除き、全て実施例1と同条件でトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は0.29μmであり、凝集物生成率は0.7%であり、重合安定性は◎であった。得られたトナー用外添剤の水分散液から実施例1と同工程でトナー用外添剤を取り出した。続いて、得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、87%であり、「◎:非常に優れた流動性を付与できる」評価の範囲(85%以上)であった。
【0046】
(実施例6)
4重量%水溶液の20℃における粘度が2.5mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコールの代わりに、4重量%水溶液の20℃における粘度が9.5mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学社製、CMCダイセル1120)を使用したことを除き、全て実施例1と同条件でトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は0.34μmであり、凝集物生成率は0.8%であり、重合安定性は◎であった。得られたトナー用外添剤の水分散液から実施例1と同工程でトナー用外添剤を取り出した。続いて、得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、82%であり、「○:優れた流動性を付与できる」評価の範囲(75%以上85%未満)であった。
【0047】
(比較例1)
4重量%水溶液の20℃における粘度が2.5mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコールを0.01重量部使用したことを除き、全て実施例1と同条件でトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は1.2μmであり、凝集物生成率は3.5%であり、重合安定性は×であった。得られたトナー用外添剤の水分散液から実施例1と同工程でトナー用外添剤を取り出した。続いて、得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、73%であり、「×:流動性付与に乏しい」評価の範囲(75%未満)であった。
【0048】
(比較例2)
4重量%水溶液の20℃における粘度が2.5mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコールを0.5重量部使用したことを除き、全て実施例1と同条件でトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は0.28μmであり、凝集物生成率は0.7%であり、重合安定性は◎であった。得られたトナー用外添剤の水分散液から実施例1と同工程でトナー用外添剤を取り出した。続いて、得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、71%であり、「×:流動性付与に乏しい」評価の範囲(75%未満)であった。
【0049】
(比較例3)
4重量%水溶液の20℃における粘度が2.5mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコールの代わりに、4重量%水溶液の20℃における粘度が18mPa・sであるスルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製、L−0302)を使用したことを除き、全て実施例1と同条件でトナー用外添剤の水分散液を得た。得られたトナー用外添剤の平均粒子径は0.45μmであり、凝集物生成率は0.8%であり、重合安定性は◎であった。得られたトナー用外添剤の水分散液から実施例1と同工程でトナー用外添剤を取り出した。続いて、得られたトナー用外添剤を用いて擬似トナーを作製し、篩通過率を測定した。篩通過率は、66%であり、「×:流動性付与に乏しい」評価の範囲(75%未満)であった。
上述の実施例1〜6及び比較例1〜3を表1にまとめて示す。
【0050】
【表1】

IBMA:メタクリル酸イソブチル
MMA:メタクリル酸メチル
【0051】
比較例1及び2の結果(評価)は、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して使用されるイオン性高分子の範囲が本発明の範囲(0.03〜0.3重量部)外であったことに起因するものと考えられる。
比較例3の結果(評価)は、イオン性高分子の粘度が本発明の範囲(2.0〜10.0mPa・s)外であったことに起因すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルエステル系モノマーを、水性媒体中、イオン性高分子及び水溶性重合開始剤の存在下で乳化重合させることによって得られるアクリル系重合体粒子からなる電子写真トナー用外添剤の製造方法であって、
前記イオン性高分子の4重量%水溶液の20℃における粘度が、2.0〜10.0mPa・sであり、
前記イオン性高分子が、(メタ)アクリルエステル系モノマー100重量部に対して、0.03〜0.3重量部使用され、
前記アクリル系重合体粒子が、0.1〜1.0μmの平均粒子径であることを特徴とする電子写真トナー用外添剤の製造方法。
【請求項2】
前記イオン性高分子が、イオン性のポリビニルアルコールである請求項1に記載の電子写真トナー用外添剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法により得られる電子写真トナー用外添剤。
【請求項4】
前記電子写真トナー用外添剤が、電子写真トナー用バインダー樹脂粒子100重量部に対して0.01〜10.0重量部の量で前記電子写真トナー用外添剤を外添されて得られる樹脂粒子を、目開き45μmの篩通過率を75%以上にする請求項3に記載の電子写真トナー用外添剤。

【公開番号】特開2011−65058(P2011−65058A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217266(P2009−217266)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】