説明

電子写真感光体用基体の製造装置および製造方法

【課題】本発明は、メンテナンス性の向上および製造タクトタイムの短縮を図りながら、画像特性の向上した電子写真感光体を製造することを目的とし、そのための電子写真感光体用基体の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】電子写真感光体用の円筒状基体を切削する時に、バイトの送り方向において、バイトの後に設置され、前記バイトによる切削部の近傍を除く前記円筒状基体の表面に気体を吹き付けるためのノズルと、前記気体により円筒状基体の表面から吹き飛ばされる切削油を捕集する捕集口とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状基体の製造装置および製造方法に関する。特に、電子写真感光体に用いられる高精度な基体の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真方式を採用した画像形成装置は、電子写真感光体と、電子写真感光体を帯電するための帯電手段と、帯電された電子写真感光体に静電潜像を形成するための露光手段と、電子写真感光体に形成された静電潜像を現像剤担持体に担持された現像剤により現像してトナー像を形成するための現像手段と、電子写真感光体に形成されたトナー像を転写材(紙等)に転写するための転写手段とを有するものが一般的である。
このような画像形成装置において、高画質の画像を得るためには、電子写真感光体と現像剤担持体(現像ローラーや現像スリーブ等)との距離が一定に保たれていることが必要である。そして、電子写真感光体と現像剤担持体との距離を一定に保つためには、電子写真感光体および現像剤担持体の精度が高くなければならない。
【0003】
電子写真感光体は一般的に円筒状の基体が使用される。基体の端部には軸または軸受部を有する端部係合部材(ギヤやフランジ等)が係合され、基体を回転可能にする。端部係合部材を係合するために基体の端部にインロー加工が施されることもある。
基体の精度を高める方法の一つとして、押出、引抜加工後、所定の長さに切断された円筒状の金属素管に、切削装置での切削加工を施す方法が知られている。
切削加工では、円筒状金属素管の両端部に、外径に対して直角の端部加工面を形成する端面切削加工、円筒状金属素管の外径を所定の精度、面粗さに仕上げる外径切削加工等が知られている。
【0004】
また、円筒状金属素管の両端部の内周面を切削し、外周面を切削することによって支持体(基体)を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、円筒状素管に外径粗切削加工を施した後に、両端内面にインロー加工を実施し、さらに外径切削加工を施すことで高精度化する方法も提案されている(特許文献2参照)。
また、切削加工完了後に、ワークに切削油を噴出することで、加工中に生じてワーク等に残っている切粉を洗い流し除去する方法も提案されている。また、明細書中には、ワークにエアーを噴出することで切粉を吹き飛ばす方法も開示されている(特許文献3参照)。
また,切削加工後の基体を、水により洗浄する方法も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−110570号公報
【特許文献2】特登録3583272号公報
【特許文献3】実用新案登録3054115号公報
【特許文献4】特登録2991349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電子写真装置用のアモルファスシリコン感光体においては、電子写真装置のデジタル化、フルカラー化に伴い、電子写真装置の中の帯電システム、光学露光システム、現像システム等の改良がなされた。それに伴い、感光体においても従来以上の画像特性の向上が求められるようになった。
その結果、俗に「ポチ」と呼ばれる、白点状、黒点状の画像欠陥の減少、特に従来は問題にされなかった微小な「ポチ」の減少が求められるようになった。「ポチ」に関しては、その殆どが基体の表面に付着した塵埃等の異物を核として堆積膜が異常成長した「球状突起」が原因となっている。そのため、基体の表面に付着する異物を減らすことが要求されている。
【0007】
異物の一つとして、基体の表面の切削工程により生じる切粉の存在が挙げられる。前述の様に切削加工完了後に、エアー等の高圧気体を噴出することで、あるいは基体に切削液を噴出することで、ある程度除去されている。しかし微小な「ポチ」の核となる、微小な切粉に関しては、充分に除去されていない場合が存在する。
また、エアー等の高圧気体を噴出する場合、切削装置周辺部に切粉や切削液が飛散して、汚れてしまう場合があり、清掃等のメンテナンスが必要となってくる。さらに、切削加工完了後に、エアー等の高圧気体を噴出する工程が入る為、タクトタイムがアップしてしまう。
【0008】
さらに、異物の一つとして、基体の表面の微少な切削油残りの存在がある。切削工程終了後に基体表面に付着している切削油の大部分は、前述のような洗浄方法により洗い落とされる。このとき、洗浄時間の延長や、洗浄温度を上げることで、切削油に対しては洗浄能力が向上し、切削油残りを大幅に低減することができる。しかし、例えば、基体として安価で加工しやすい低純度のアルミニウム合金を用いた場合には、不純物として存在する鉄等が腐食して、穴状の欠陥が発生する場合がある。また前述の様に、基体に切削液をさらに噴出する場合には、基体表面に付着している切削油量が増加するので、さらに切削油の洗浄が不充分になる場合が発生する。
本発明は、メンテナンス性および、製造タクトタイムの向上を図りながら、画像特性の向上した電子写真感光体を製造することを目的とし、そのための電子写真感光体用基体の製造装置および製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明に係る電子写真感光体用基体の製造装置は、
電子写真感光体用の円筒状基体を回転させて、切削油を切削部に塗布しながら、バイトで前記円筒状基体の表面を切削加工する、電子写真感光体用基体の製造装置において、
前記バイトの送り方向において、前記バイトの後に設置され、前記バイトによる切削部の近傍を除く前記円筒状基体の表面に気体を吹き付けるためのノズルと、
前記気体により前記円筒状基体の表面から吹き飛ばされる切削油を捕集する捕集口とを具備することを特徴とする電子写真感光体用基体の製造装置である。
また、本発明に係る電子写真感光体用基体の製造方法は、
切削油を切削部に塗布しながら、バイトによる切削加工により、円筒状基体の表面を加工する電子写真感光体用基体の製造方法において、
少なくとも、以下の1から4までの処理が、前記円筒状基体を回転させながら順に行われることを特徴とする電子写真感光体用基体の製造方法である。
1:荒切削加工処理
2:仕上げ切削加工処理
3:前記1および2の処理の時における切削部の近傍を除く前記円筒状基体の表面に気体を吹き付けることで、前記円筒状基体の表面より切削油を吹き飛ばす処理
4:前記3の処理により、前記円筒状基体の表面より吹き飛ばされた切削油を、捕集する処理
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、切削と同時に基体表面から、気体による切削油の吹き飛ばしを行うことで、切粉および切削油残りに起因する「ポチ」が減少し、画像特性が大幅に向上する。
また、本発明によれば、切削と同時に気体による切削油の吹き飛ばしを行う為、製造タクトタイムを延ばすことなく、切削油および切粉の除去を行うことが出来る。
さらに、本発明によれば、気体により吹き飛ばされた切削油を捕集する手段が付設されているので、切削油および微小な切粉の飛散が抑えられる。このため、切削装置付近の汚れが減少し、メンテナンス性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の電子写真感光体用基体の切削装置の一例
【図2】本発明の電子写真感光体用基体の切削装置の一例
【図3】本発明の電子写真感光体用基体の切削装置の一例
【図4】実施例2で用いられる切削装置
【図5】本発明の電子写真感光体の製造方法で用いることができる高周波プラズマCVD装置の一例
【図6】本発明の電子写真感光体の層構成の一例
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の電子写真感光体用基体の表面切削加工を行う切削装置を示す。切削装置100は、床面等に固定されたベッド101と、ベッド101に固定されたテーブル102と、テーブル102に沿って移動可能なバイトホルダ103を有している。ベッド101には主軸ポスト104と芯押しポスト105が固定されており、それぞれ主軸ヤトイ106および芯押しヤトイ107を備えている。被切削物である円筒状基体1は主軸ヤトイ106と芯押しヤトイ107のテーパー面で左右から挟持され、主軸ヤトイ106の回転により回転され、バイトホルダ103に固定されたバイト(図示せず)により切削加工される。捕集口108は切削油を捕集可能である。
【0013】
図2、3は、バイトボルダ103の近傍を拡大した模式図で、図2は上からみた模式図、図3は横から見た模式図である。バイトホルダ103には、荒切削用バイト111および仕上げ切削用バイト112が固定されている。また、荒切削用バイト111および仕上げ切削用バイト112の刃先に切削油を供給する荒切削用配管113、仕上げ切削用配管114が付設されている。また、一方が高圧気体供給源(図示せず)に接続された、切削油を吹き飛ばす為の、気体吹き付け用ノズル110が付設されている。
切削により生じる切粉を回収する、切粉吸い込み口109が、荒切削用バイト111および仕上げ切削用バイト112の下に設けられている。
気体吹き付け用ノズル110から吹き付けられた気体によって吹き飛ばされた切削油を捕集する捕集口108が、気体吹き付け用ノズル110の下側に設けられている。
【0014】
以上のように構成された電子写真感光体用基体の表面切削加工を行う切削装置100を用いて行われる切削工程の一例について説明する。
切削装置100は、一般的な旋盤加工装置が用いられる。
本発明に使用される、電子写真感光体用の円筒状基体1の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、白金、鉛、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタン、ステンレス等を用いることができる。中でも、加工性や製造コストを考慮すると、アルミニウムが最適である。この場合、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金のいずれかを用いることが好ましい。
【0015】
円筒状基体1を製造する方法は、精度やコストなどが考慮されて決定されるが、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる場合、押出、引抜、矯正等の工程を経て製造された管材を所定の長さに切断する方法が一般的である。このように製造された円筒状基体1内部には、押出、引抜、矯正等の工程で多少の残留応力が生じている。このままの状態で円筒状基体1の切削加工を施したり、または円筒状基体1上に感光層を形成する際の加熱工程で残留応力が開放されたりすると、円筒状基体1が変形してしまう。したがって残留応力を除去するために、管材切断後基体に加熱処理(焼鈍)が行われる。加熱処理の温度は通常300〜430℃程度である。
【0016】
まず、円筒状基体1の振動防止のため、内部に例えば、ウレタンゴム製の円筒を、基体の内側に密着させるように挿入し、円筒状基体1の内周を主軸ヤトイ106と芯押しヤトイ107のテーパー面で左右から挟持する。
円筒状基体1の1回転あたりの送りピッチ、荒切削用バイト111の切込み量、仕上げ切削用バイト112の切込み量を設定し、切削終了後の円筒状基体1の外径が、所定の外径になるように設定する。
【0017】
次に、荒切削用配管113から荒切削用バイト111の刃先に、仕上げ切削用配管114から仕上げ切削用バイト112の刃先にそれぞれ切削油を供給する。
さらに、気体吹き付け用ノズル110から高圧の気体を噴出する。気体吹き付け用ノズル110は、図2のように、仕上げ切削用バイト112の送り方向に対して後に付設される。
次に、切粉吸い込み口109に接続されているブロアー(図示せず)および、切削油の捕集口108に接続されているブロアー(図示せず)を駆動させる。
【0018】
その後、円筒状基体1を回転させ、さらにバイトホルダ103の移動が始まり、円筒状基体1の端から、図1、図2に示す送り方向に、切削が実施される。
【0019】
切削が終了したら円筒状基体1を切削装置100から外し、洗浄機に移動させ、仕上げ洗浄が行われる。
切削により生じる切粉は、切粉吸い込み口109により回収される。切粉吸い込み口109は一方がブロアー(図示せず)に接続されており、切粉を吸引する構成となっている。切粉吸い込み口109は、バイトホルダ103と連動しており、バイトホルダ103が移動しても、荒切削用バイト111および仕上げ切削用バイト112とは常に相対的に同じ位置関係を保っている。
【0020】
本発明の構成により効果が得られるメカニズムとしては、以下のように考えられる。
切削と同時に基体表面から、気体による切削油の吹き飛ばしを行うことで、
(1)切削後の基体表面に付着している切削油の中には、切削により生じた、微小な切粉が存在している。この微小な切粉は、切削油中を浮遊し、時間が経つと、基体と直接接触する。基体に接触した切粉はその後の洗浄では取れ難くなる場合が存在する。本発明によれば、前記の微小な切粉が、基体に接触する前に吹き飛ばされる割合が大幅に増加するため、切粉に起因する「ポチ」が減少する。また、
(2)洗浄前に、基体表面に残留する切削油が大幅に減少する。そのため、洗浄によって切削油が充分に洗い流されるので、切削油残りに起因する「ポチ」が減少する。
これら、(1)、(2)により、切粉および切削油残りに起因する「ポチ」が減少し、画像特性が大幅に向上すると考えられる。
【0021】
気体吹き付け用ノズル110から噴出される気体の供給圧力としては、低すぎると、円筒状基体1の表面の切削油を効率よく吹き飛ばすことが出来ない場合があるため、0.05MPa以上が好ましい。一方、供給圧力を上げすぎると、油の飛散が激しくなり、補修口108が吹き飛ばされた切削油を充分に捕集することが出来ない場合があるので、0.5MPa以下が好ましい。
吹き付ける気体としては、特に制限が無く、エアー、窒素、アルゴン等が挙げられる。
気体吹き付け用ノズル110から噴出される気体の円筒状基体1の表面への当て方は、切削油が吹き飛ばされるのであれば特に制限はないが、例えば図3に示すように、円筒状基体1の接線方向に吹き付けることで、切削油の飛散方向をある程度限定することができるので、吹き飛ばされた切削油の捕集が容易となり好ましい。
このような構成にすることで、気体吹き付け用ノズル110の向いている先に、切削油の捕集口108を配置することが可能となり、簡単な構成で切削油の捕集が容易に行える。
【0022】
気体吹き付け用ノズル110の形状も特に制限は無く、噴出された気体の断面形状としては点状、扁平状、充円形状、楕円形状、四角形状などが挙げられる。
気体吹き付け用ノズル110の材質も特に制限は無く、例えば黄銅、ステンレス、プラスチックなどが利用可能であるが、耐摩耗性また耐食性の点からステンレスが好ましい。
【0023】
さらに、図3に示すように、円筒状基体1の回転方向に対して、相反する方向に気体を向ける方が、効率よく円筒状基体1の表面の切削油を吹き飛ばすことが可能となり好ましい。
また、気体吹き付け用ノズル110から供給される気体は、仕上げ切削用バイト112の切削部の近傍には、当てない方が好ましい。仕上げ切削用バイト112の切削部に気体が当たると、仕上げ切削用バイト112の刃先に充分切削油が供給されない場合が生じ、切削状況が変化して、所望の円筒状基体1の表面性が得られない場合がある。また、仕上げ切削用バイト112の切削部の近傍で切粉に当たると、切粉が円筒状基体1の表面に接触したり、あるいは切粉吸い込み口109による回収が充分に行えなかったりする場合がある。よって、気体の当て方としては、例えば、送り方向に対しては、気体吹き付け用ノズル110を仕上げ切削用バイト112側と反対側に向ける。あるいは、気体吹き付け用ノズル110の先端を、仕上げ切削用バイト112と円筒状基体1との接触部より、下側に位置させる等が挙げられる。
【0024】
「気体の当て方としては、例えば、送り方向に対しては、気体吹き付け用ノズル110を仕上げ切削用バイト112側と反対側に向ける。」を、図2を用いて説明する。図2の例では、送り方向は上向きであり、仕上げ切削用バイト112は気体吹き付け用ノズル110より上方に位置するから、気体吹き付け用ノズル110から吹き出す気体を下側(送り方向とは反対の方向)に向ける。
【0025】
気体吹き付け用ノズル110は、図2に示すように、例えばバイトホルダ103に設置され、荒切削用バイト111、仕上げ切削用バイト112と連動させることが好ましい。このようにすることで、切削から、切削油の吹き飛ばしまでが円筒状基体1の長手方向に対し、常に同じタイミングとなり、切削油の吹き飛ばしの均一性、再現性が向上する。
さらに、図2に示すように、送り方向に対して、気体吹き付け用ノズル110と仕上げ切削用バイト112とを近接して設けることで、切削終了直後から、切削油の円筒状基体1の表面からの吹き飛ばしを開始することが可能となる。よって、切削油中に含まれる微小な切粉が円筒状基体1の表面に接触する確率を大幅に低減することが可能となる。
このように、本発明の気体吹き付け用ノズル110から供給される気体は、切削後の円筒状基体1の表面上に残留する切削油を吹き飛ばすためのものであり、刃先に切削油を供給するための気体(例えば、切削油を噴霧状にするための気体)とは異なる。
【0026】
切削油の捕集口108の設置方法としては、特に制限は無く、図2に示すように、バイトホルダ103と連動させ、バイトホルダ103が移動しても、気体吹き付け用ノズル110とは常に相対的に同じ位置関係を保つようにしてもよい。また、図4に示すように、円筒状基体1の長手方向の全体をカバーできる大きさとして、固定させても良く、この場合、前記の切粉吸い込み口109と兼ねることにより、装置の簡略化が可能となる。
捕集方法としても特に制限は無く、例えば吹き飛ばされた切削油を、一度壁に衝突付着させ、壁の傾斜を利用して捕集しても良いし、ブロアー等で吸引して捕集しても良い。
切削油の捕集口108の形状としては、特に制限は無く、気体により吹き飛ばされた切削油が、周辺に飛散しなければ良い。
【0027】
荒切削用バイト111としては、荒切削の目的である、円筒状基体1の表面の異物(例えば析出物、焼失物、酸化物)の除去、さらには、打痕の除去が可能であれば特に制限がなく、形状としてはR形状、平形状が挙げられる。また材質としては、鋼、セラミックス、焼結ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドが挙げられる。
仕上げ切削用バイト112としては、円筒状基体1の表面を鏡面状態に加工可能であれば、特に制限は無く、形状としてはR形状、平形状が挙げられる。また材質としては、単結晶ダイヤモンドが好ましい例として挙げられる。
【0028】
荒切削用配管113、仕上げ切削用配管114から供給される切削油としては、特に制限は無く鉱物油に切削性能を向上させる目的で添加剤を加えた油性切削油や、油を溶剤によって水に溶かした水溶性切削油が挙げられる。
切削油の荒切削用配管113、仕上げ切削用配管114からの供給の仕方としては、特に制限は無く、切削油のみを供給してもよいし、必要に応じて気体を混合させ、噴霧状にして供給してもよい。
【0029】
次に、電子写真感光体の形成方法についての一例を述べる。
電子写真感光体は、基体の外周面に感光体層が形成されてなる。感光体層としてはCVD法等により形成したa−Si(アモルファスシリコン)感光体のような無機感光体や、電荷発生材料と電荷輸送材料とを組み合わせ塗布形成した有機感光体等が挙げられる。一例としてa−Si感光体の製造方法の概要について図5を参照して説明する。
a−Si感光体は、一般的に高周波プラズマCVD法により製造される。図5に示す装置は、a−Siの製造に使用する高周波プラズマCVD装置の一例である。この装置は、堆積装置500、原料ガス供給装置および排気装置(ともに不図示)を備えて構成されている。
【0030】
堆積装置500は、縦型の真空容器でカソード電極を兼ねた反応容器502を有する。この反応容器502の内部には容器の縦方向に延びる原料ガス導入管503が複数本配設され、ガス導入管503の側面には、長手方向に沿って多数の細孔(図示せず)が設けられている。
反応容器502の内部の中心には、ヒータ504が設けられている。電子写真感光体用の円筒状基体1は、基体ホルダ505に装着された状態で、反応容器502の上部の蓋506を開けて挿入され、ヒータ504を内側にして反応容器502の内側に縦方向に設置される。また、反応容器502の側面にマッチングボックス507を介して高周波電源514から高周波電力が供給される。
反応容器502の下部には、原料ガス導入管503に接続された原料ガス供給管508が取り付けられ、この供給管508は、供給バルブ509を介して図示しないガス供給装置に接続されている。また、反応容器502の下部には排気管510が取り付けられ、この排気管510は排気バルブ511を介して図示しない排気装置(真空ポンプ)に接続されている。反応容器502の下部には、他に、円筒状基体1が装着された基体ホルダ505を回転可能にするモータ512、真空計513が取り付けられている。
【0031】
上記の装置を用いた高周波プラズマCVD法によるa−Si感光体は次のように形成される。まず、反応容器502の内部に円筒状基体1が装着された基体ホルダ505をセットし蓋506を閉じる。図示しない排気装置により容器502の内部を所定の圧力まで排気する。以後、排気を続けながら、モータ512により円筒状基体1が装着された基体ホルダ505を回転させる。ヒータ504により円筒状基体1を内側から加熱して、円筒状基体1を所定の温度に制御する。円筒状基体1が所定の温度に維持されたら、所望の原料ガスをそれぞれの流量制御器(不図示)により調節しながら、原料ガス導入管503を通って反応容器502の内部に導入する。導入された原料ガスは反応容器502の内部を満たした後、排気管510を通って容器502の外に排気される。
原料ガスが満たされた反応容器502の内部が所定の圧力になって安定したことを真空計513により確認したら、高周波電源514により、高周波(例えば13.56MHzのRF帯域)を所望の投入電力量で反応容器502の内部に導入する。これにより反応容器502の内部にグロー放電を発生させ、このグロー放電のエネルギーによって、原料ガスが分解して円筒状基体1の表面にケイ素を主体としたa−Si堆積膜が形成される。
【0032】
このようにして、円筒状基体1の表面にa−Si堆積膜が所望の膜厚で形成されたら、高周波電力の供給を止め、供給バルブ509等を閉じて、反応容器502内への原料ガスの導入を停止し、一層分のa−Si堆積膜の形成を終える。ガス種、ガス導入量、ガス導入比率、圧力、基体温度、投入電力、膜厚などのパラメータを調整することにより様々な特性のa−Si堆積膜を形成することができ、電子写真感光体としての特性を制御することができる。同様の操作を複数回繰り返すことにより所望の構造のa−Si感光体が製造される。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の説明では上述した実施形態において示したのと同じ部分に対しては同じ符号を用いて説明する。
【実施例】
【0033】
以下の実施例および比較例では、切削加工される円筒状基体1としてマグネシウムを2.5重量%含有したAl−Mg合金の引抜管で、380℃で2時間の焼鈍処理を行った円筒状金属素管を使用した。円筒状基体1にはあらかじめ前加工として端面切削およびインロー加工が施されている。
円筒状基体1の形状は、肉厚3mm、全長は381mmとし、切削終了後の円筒状基体1の外径は、Φ83.93mmとした。
切削装置100としては、エグロ社製RL−550EXの改良を行った旋盤加工装置を用いた。
荒切削用バイト111としてR0.2の焼結ダイヤモンド製バイト(株式会社東京ダイヤモンド工具製作所製)を用い、仕上げ切削用バイト112としてミラクルバイト(株式会社東京ダイヤモンド工具製作所製)を用いた。
また、円筒状基体1を3000rpmで回転させ、円筒状基体1の1回転あたりの送りピッチを0.12mm/revとし、荒切削用バイト111の切込み量を、0.2mmとして荒切削を行った(荒切削加工処理)。また、仕上げ切削用バイト112の切込み量を、0.03mmとして仕上げ加工を行った(仕上げ切削加工処理)。
切削油として炭化水素系合成油ポリブデン(商品名;日石ポリブデンLV−7)を用いた。切削油はタンク(図示せず)から、ポンプ(図示せず)を用いて、荒切削用配管113または仕上げ切削用配管114を経由して、荒切削用バイト111の刃先または仕上げ切削用バイト112の刃先に供給した。
【0034】
(実施例1)
電子写真感光体用の円筒状基体1の切削を、前述の実施形態に記載した方法で行った。
このとき、気体吹き付け用ノズル110からは、0.1MPaの高圧エアーを円筒状基体1に吹き付けて、円筒状基体の表面より切削油を吹き飛ばすようにした。気体吹き付け用ノズル110は、ステンレス製で、内径4mmのパイプを用いた。
その後、円筒状基体1を以下のように洗浄する。洗浄液として40℃に加熱したアルミ用低侵食低起泡性液状脱脂剤(ヘンケルジャパン(株)社、商品名;almeco CT−29)を純水で30倍に希釈した洗浄液を用いる。この洗浄液に円筒状基体1を浸漬させ、超音波を印加して120秒洗浄する。次に常温の純水に基体を100秒浸漬させ円筒状基体1をすすぐ。次に50℃に加熱した純水に円筒状基体1を20秒浸漬させた後、600mm/minの速度で溶媒から引き上げ乾燥させる。
この基体の表面にa−Si堆積膜を形成し図6に示す層構成の電子写真感光体600を作製した。電子写真感光体600は円筒状基体1の表面に形成された下部阻止層601、光導電層602、表面層603からなる。それぞれのa−Si堆積膜は図5に示すプラズマCVD装置を用いて、表1に示す条件で形成した。
【0035】
【表1】

【0036】
作製した電子写真感光体に対して、「ポチレベル」の評価を行い、切削装置100に対して、「メンテ性」の評価を行った。各評価は、以下のようである。
「ポチレベル」
実施例1で作製したドラム20本を評価機に順に搭載して、評価を行った。評価機としてはキヤノン社製複写機iRC6880Nを反転現像に改造して、A3サイズの全面白地原稿を複写して、得られた画像を観察し、電子写真感光体の1周分当たりの、直径0.05mm以上のポチ(画像欠陥の部分)の個数を数えた。そして20回の平均をもって、「ポチレベル」とした。
評価は比較例2で得られた結果を100とした時の、相対評価で実施した。つまり、評価結果は数字が小さいほど良い。そして、評価結果に対して、以下に示す基準でランク付けを行った。
A ・・・70未満
B ・・・70以上80未満
C ・・・80以上90未満
D ・・・90超
「メンテ性」
電子写真感光体用の円筒状基体1の切削を20回連続して行った後、切削装置100の内部の汚れ(切粉および切削油の飛び散り具合)を観察し、この時点で切削装置100の清掃が必要かどうかを調べた。評価結果を表2に示す。
【0037】
(比較例1)
切削装置100として、気体吹き付け用ノズル110および、切削油の捕集口108の無い従来の切削装置を用いて、円筒状基体1の表面切削を行った。切削工程が終了した後、バイトホルダ103を端に寄せた状態で、円筒状基体1の回転のみ実施し、エアーガン(先端形状が、内径4mmのステンレス製のパイプ)で0.1MPaの高圧エアーを円筒状基体1の全面に吹き付け、表面の切削油を吹き飛ばした。
その後は、実施例1と同様にして、洗浄、堆積膜形成、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0038】
(比較例2)
切削装置100として、気体吹き付け用ノズル110および、切削油の捕集口108の無い従来の切削装置を用いて、円筒状基体1の表面切削を行った。切削工程が終了した後、円筒状基体1を切削装置100から取り外し、洗浄装置に移動させた。そして、洗浄前に、円筒状基体1に、エアーガン(先端形状が、内径4mmのステンレス製のパイプ)で0.1MPaの高圧エアーを全面に吹き付け、表面の切削油を吹き飛ばした。
その後は、実施例1と同様にして、洗浄、堆積膜形成、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0039】
(実施例2)
図4に示すように、円筒状基体1より長い、捕集口と吸い込み口を兼用する固定された捕集吸い込み口115が設けられた、切削装置100を用いた以外は、実施例1と同様に切削、洗浄、堆積膜形成、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
本発明によれば、画像特性が大幅に向上することが判った。
この理由は、切削と同時に基体表面からエアーによる切削油の吹き飛ばしを行うことで、切削油中に存在する微小な切粉が、基体に付着する前に除去される割合が大幅に増加し、その結果、切粉に起因する「ポチ」が減少したためと思われる。さらに、基体表面に残留する切削油が大幅に減少することで、洗浄によって切削油が充分に洗い流されるため、切削油残りに起因する「ポチ」が減少したためと思われる。
さらに、本発明によれば、画像特性の安定性が大幅に向上することが判った。
A3サイズ用紙の電子写真感光体1周分当たりの全面におけるポチの分布を観察したところ、比較例1では、ポチが集合して画像特性が劣る部分が発生する場合があった。その発生場所には、規則性が無く、作製された電子写真感光体毎でいろいろな位置で発生していた。
また、比較例2でも、比較例1と同様にポチが集合して画像特性が劣る場合が確認できた。その発生場所は、ほほ同じ特定の場所に発生していた。
一方、実施例1、2においては、ポチが集合している現象は無く、画像特性が非常に安定していた。
【0042】
この理由に関しては、明確ではないが、以下のように推測している。比較例1の場合は、切削工程が終了した後、エアーガンでエアーを吹き付けているので、吹き付け方、および吹き付けるまでの時間にバラツキが生じるためと考えられる。また、比較例2の場合は、切削工程が終了した後、円筒状基体1を切削装置100から取り外し、洗浄装置に移動させた後にエアーを吹き付けているため、切削油がある特定方向に流れることで、偏りが生じるためと考えられる。
一方、本発明によれば、気体吹き付け用ノズル110が、荒切削用バイト111、仕上げ切削用バイト112と連動しており、切削から、切削油吹き飛ばしまでが円筒状基体1の長手方向に対し、常に同一状況で実施されるため、画像特性が安定していると考えられる。
また、本発明によれば、切削と同時にエアーによる切削油の吹き飛ばしを行う為、製造タクトタイムを延ばすことなく、切削油および切粉の吹き飛ばしを行うことが出来る。
さらに、本発明によれば、気体により吹き飛ばされた切削油を、捕集する手段が付設されているので、切削油および微小な切粉の飛散が抑えられるので、切削装置付近の汚れが減少し、メンテナンス性が向上する。
【符号の説明】
【0043】
1 円筒状基体
100 切削装置
101 ベッド
102 テーブル
103 バイトホルダ
104 主軸ポスト
105 芯押しポスト
106 主軸ヤトイ
107 芯押しヤトイ
108 捕集口
109 切粉吸い込み口
110 気体吹き付け用ノズル
111 荒切削用バイト
112 仕上げ切削用バイト
113 荒切削用配管
114 仕上げ切削用配管
115 捕集吸い込み口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真感光体用の円筒状基体を回転させて、切削油を切削部に塗布しながら、バイトで前記円筒状基体の表面を切削加工する、電子写真感光体用基体の製造装置において、
前記バイトの送り方向において、前記バイトの後に設置され、前記バイトによる切削部の近傍を除く前記円筒状基体の表面に気体を吹き付けるためのノズルと、
前記気体により前記円筒状基体の表面から吹き飛ばされる切削油を捕集する捕集口とを具備することを特徴とする電子写真感光体用基体の製造装置。
【請求項2】
前記捕集口は、切粉の吸い込み口を兼ねることを特徴とする、請求項1に記載の電子写真感光体用基体の製造装置。
【請求項3】
切削油を切削部に塗布しながら、バイトによる切削加工により、円筒状基体の表面を加工する電子写真感光体用基体の製造方法において、
少なくとも、以下の1から4までの処理が、前記円筒状基体を回転させながら順に行われることを特徴とする電子写真感光体用基体の製造方法。
1:荒切削加工処理
2:仕上げ切削加工処理
3:前記1および2の処理の時における切削部の近傍を除く前記円筒状基体の表面に気体を吹き付けることで、前記円筒状基体の表面より切削油を吹き飛ばす処理
4:前記3の処理により、前記円筒状基体の表面より吹き飛ばされた切削油を、捕集する処理

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−276888(P2010−276888A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129723(P2009−129723)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】