説明

電子写真機能部品用樹脂

【課題】負荷電性トナーと接触する電子写真機能部品の表面に使用することで、電子写真機能部品の正帯電性をより高くし、良好な画像を与えることができる電子写真機能部品用樹脂を提供する。
【解決手段】アミノ基及びフルオロアルキル基を含む正荷電制御樹脂を含有する電子写真機能部品用樹脂であって、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定した分子量1850までのトータルイオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の百分率Aが0.1%以上であり、且つ、分子量1850までのトータルイオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の百分率Bが1.0%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式電子写真法を適用した画像形成装置の機能部品を成形するために用いる電子写真機能部品用樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式電子写真法を適用した画像形成装置において、ブレード、ローラーなどの電子写真機能部品は、その表面においてトナーを加圧などによる摩擦力によって荷電させて担持している。したがって、電子写真機能部品の表面層には、トナーを正荷電させたい場合には負荷電性の材料を、また、トナーを負荷電させたい場合には正荷電性の材料を選定する必要がある。前者としては、フッ素系樹脂など、後者としてはナイロン系樹脂、ウレタン系樹脂などが提案されている。
【0003】
一方で、電子写真機能部品には、ニップ幅の向上、トナーストレスなどを削減するために、ゴム状材料で成形された柔軟な主基材層を用いることが好ましい。しかしながら、柔軟な主基材層を用いた場合、トナーと電子写真機能部品表面の摩擦力だけではトナーの荷電量が少なく、上記フッ素系樹脂、ナイロン系樹脂、ウレタン系樹脂の表面層を用いただけではトナーの荷電量が不足して良好な画像を得ることが困難となる場合もある。
【0004】
このために、積極的に電子写真機能部品表面層の荷電性の改質を行うことを考え、トナーと接触する電子写真機能部品に荷電制御剤を添加する手段がとられている。具体的には、荷電制御剤として、有機溶剤に可溶で現像ローラーや現像スリーブに塗工可能な荷電制御樹脂を用いる方法(特許文献1、特許文献2、特許文献3)が報告されている。これらはいずれも主として、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとメタクリル酸メチルとの共重合体を荷電制御樹脂として使用している。このような荷電制御樹脂は電子写真機能部品に適用されて表面層の荷電性をある程度改善できると期待されている。しかしながら、実際にアミノ基を含む正荷電制御樹脂が機能するためには、正荷電性を呈するアミノ基が電子写真機能部品の最表面に存在する必要がある。このため、電子写真機能部品の最表面に存在するアミノ基の最適値を特定する必要がある。
【0005】
更に、アミノ基を含む正荷電制御樹脂を添加した際、多量に添加すると電子写真機能部品の基材の樹脂本来が持つ諸特性が変化し、電子写真機能部品として使用する際に弊害を生じる場合がある。基材樹脂本来の物理特性を変化させないよう、少量の添加で電子写真機能部品の最表面に存在できる正荷電制御樹脂を設計する必要がある。
【0006】
本発明者らは、特許文献1、特許文献2、特許文献3記載の荷電制御樹脂のメタクリル酸メチルを炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーに代えて、アミノ基含有モノマーと共重合させることで、より大きな帯電量を与える荷電制御樹脂が得られることを既に開発している(特許文献4、特許文献5)。上記荷電制御樹脂において、(メタ)アクリル酸エステルモノマーに含まれる炭素数4以上のアルキル基が、アミノ基含有モノマーに含まれるアミノ基の表面配向を促し、帯電量が向上すると考えられる。更に、より少ない添加量で大きな帯電量を得られる、上記正荷電制御樹脂を超えるものが望まれている。
【特許文献1】特開2000−242033号公報
【特許文献2】特開2002−244426号公報
【特許文献3】特開2003−005507号公報
【特許文献4】特開2005−31657号公報
【特許文献5】特開2005−31658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、負帯電性トナーと接触する電子写真機能部品の表面を成形する材料として好適な正荷電制御樹脂を含有する電子写真機能部品用樹脂を提供することにある。具体的には、正荷電性を呈するアミノ基、及びアミノ基の表面配向を促すと考えられるフルオロアルキル基を電子写真機能部品の最表面に存在させ、樹脂本来の物理特性を変化させない少量の添加で、トナーの負荷電化を充分に達成できる電子写真機能部品用樹脂を提供することにある。更に、実際に電子写真機能部品を作製して評価することなく、飛行時間型二次イオン質量分析装置(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF−SIMSと称す。)による硬化樹脂の測定に基づき、一定の関連を満たすことにより、良好な画像が得られる電子写真機能部品を与え得ることを見定めることができる電子写真機能部品用樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アミノ基及びフルオロアルキル基を含む正荷電制御樹脂を含有する電子写真機能部品用樹脂であって、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定した分子量1850までのトータルイオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の百分率Aが0.1%以上であり、且つ、分子量1850までのトータルイオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の百分率Bが1.0%以上であることを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【0009】
また、本発明は、アミノ基、及びフルオロアルキル基を含む正荷電制御樹脂と、ポリオール成分及びイソシアネート成分を含む組成物をウレタン化して得られるウレタン樹脂とを含む電子写真機能部品用樹脂であって、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cが0.05以上、且つウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の比率Dが0.5以上であることを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【0010】
更に、本発明は、正荷電制御樹脂が、式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、式(2)で示されるアミノ基含有モノマー及び式(3)で示されるアミノ基含有モノマーから選ばれるいずれか1種以上とを重合して得られる共重合体を含むことを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1はフッ素原子を3個以上有する炭素数1〜14のフルオロアルキル基を表し、R2、R2a、R2bは独立して水素原子またはメチル基を表し、R3a、R3bは独立して炭素数1〜7の二価の有機基を表し、R4a、R4b、R5a、R5bは、独立して水素原子または炭素数1〜20の有機基を表し、またはR4aとR5a若しくはR4bとR5bが化学的に結合して4〜20員複素環構造、またはR4a及びR5a、若しくはR4b及びR5bがそれぞれ結合する窒素原子に加え、酸素原子、窒素原子、イオウ原子の少なくとも一種を含む4〜20員複素環構造を表す。)
更に、本発明は、正荷電制御樹脂が、更に、式(4)で示されるカルボキシル基含有モノマー及び式(5)で示されるカルボキシル基含有モノマーから選ばれるいずれか1種以上とを加えて重合して得られる共重合体を含むことを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R2c、R2dは独立して水素原子またはメチル基を表し、R6は炭素数2〜6のアルキレン基を表し、R7は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R8は、エチレン基、ビニレン基、1,2−シクロヘキシレン基、または1,2−フェニレン基を表し、nは0〜10のいずれかの整数を表す。)
更に、本発明は、ウレタン樹脂の質量に対する正荷電制御樹脂の質量の比率Eと、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cとが、C/Eとして5以上の関係を有することを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【0015】
更に、正荷電制御樹脂がアミノ基としてN(CH32を含み、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したアミノ基に由来する最大イオンが、[C24N]、[C38N]、または[C410N]のいずれかであることを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【0016】
更に、本発明は、正荷電制御樹脂がアミノ基としてN(C252を含み、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したアミノ基に由来する最大イオンが、[C24N]、[C36N]、[C512N]、または[C614N]のいずれかであることを特徴とする電子写真装置機能部品用樹脂に関する。
【0017】
更に、本発明は、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定した際に、フルオロアルキル基に由来する最大イオンが、[F]、[CF]、[CF2]、[CF3]、[C2F]、[C22]、[C23]、[C24]、[C25]、[C3F]、[C32]、[C33]、[C34]、[C35]、[C4F]、[C42]、[C43]、[C44]、[C45]、[C46]、[C47]、[C48]、[C49]、[C5F]、[C52]、[C53]、[C54]、[C55]、[C56]、[C57]、[C58]、[C59]、[C510]、または[C511]のいずれかであることを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【0018】
更に、本発明は、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したウレタン樹脂に由来する最大イオンが、[C35]、[C37]、[C23O]、[C25O]、[C37O]、[C47]、[C37O]、または[C49O]であることを特徴とする電子写真機能部品用樹脂に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子写真機能部品用樹脂は、正荷電性を呈するアミノ基、及びアミノ基の表面配向を促すと考えられるフルオロアルキル基を電子写真機能部品の最表面に存在させることができ、樹脂本来の物理特性を変化させない少量の添加で、トナーの負荷電化を充分に達成できる。更に、実際に電子写真機能部品を作製して評価することなく、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)による硬化樹脂の測定に基づき、一定の関連を満たすことにより、良好な画像が得られる電子写真機能部品を与え得ることを見定めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の電子写真機能部品用樹脂は、アミノ基及びフルオロアルキル基を含む正荷電制御樹脂を含有する電子写真機能部品用樹脂であって、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定した分子量1850までのトータルイオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の百分率Aが0.1%以上であり、且つ、分子量1850までのトータルイオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の百分率Bが1.0%以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明の電子写真機能部品用樹脂に含有されるアミノ基及びカルボキシル基を含む正電荷制御樹脂としては、式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、式(2)で示されるアミノ基含有モノマーまたは式(3)で示されるアミノ基含有モノマーのいずれか1種以上とを重合して得られる共重合体を挙げることができる。
【0022】
【化3】

【0023】
式中、R1はフッ素原子を3個以上有する炭素数1〜14のフルオロアルキル基を表し、R2、R2a、R2bは独立して水素原子またはメチル基を表し、R3a、R3bは独立して炭素数1〜7の二価の有機基を表し、R4a、R4b、R5a、R5bは、独立して水素原子または炭素数1〜20の有機基を表し、またはR4aとR5a若しくはR4bとR5bが化学的に結合して4〜20員複素環構造、またはR4a及びR5a、若しくはR4b及びR5bがそれぞれ結合する窒素原子に加え、酸素原子、窒素原子、イオウ原子の少なくとも一種を含む4〜20員複素環構造を表す。
【0024】
式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーにおいて、式(1)中、R1はフッ素原子を3個以上有する炭素数1〜14のフルオロアルキル基を示し、直鎖状であっても分枝状であってもよい。上記式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、具体的には、例えば、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−ヘンイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、5−トリフルオロメチル−3,3,4,4、5,6,6,6−オクタフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、7−トリフルオロメチル−3,3,4,4、5,5,6,6、7,8,8,8−ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、9−トリフルオロメチル−3,3,4,4、5,5,6,6、7,7,8,8、9,10,10,10−ヘキサデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、11−トリフルオロメチル−3,3,4,4、5,5,6,6、7,7,8,8、9,9,10,10、11,12,12,12−エイコサフルオロドデシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、2,2、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート等を例示することができる。ここで、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレートあるいはアクリレートを意味する(以下、同じ)。これらのモノマーは単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
式(2)で示されるアミノ基含有モノマーとしては、具体的には、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジメチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジエチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジプロピルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジブチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N−ラウリルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N−ステアリルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジメチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジエチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジプロピルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジブチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N−ラウリルアミノベンジル(メタ)アクリレート、p−N−ステアリルアミノベンジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらのモノマーは単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
式(3)で示されるアミノ基含有モノマーとしては、具体的には、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジメチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジエチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジプロピルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジブチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N−ラウリルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N−ステアリルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジメチルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジエチルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジプロピルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジブチルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N−ラウリルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド、p−N−ステアリルアミノベンジル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。これらのモノマーは単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。ここで「(メタ)アクリルアミド」は、メタクリルアミドあるいはアクリルアミドを意味する(以下、同じ)。
【0027】
式(2)で示されるアミノ基含有モノマーと式(3)で示されるアミノ基含有モノマーとは、式(2)で示されるアミノ基含有モノマーのみを用いることもでき、式(3)で示されるアミノ基含有モノマーのみを用いることもでき、式(2)で示されるアミノ基を含有モノマーと式(3)で示されるアミノ基を有するモノマーとを併用することもできる。
【0028】
このような式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体成分と、式(2)、(3)で示されるアミノ基含有単量体成分との共重合体中の含有量としては、例えば、式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体成分を2〜98質量%、式(2)、(3)で示されるアミノ基含有単量体成分の合計を2〜98質量%とすることができる。式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体成分の共重合体中の含有量が上記範囲であれば、成形体の表面にアミノ基を誘導させ、正電荷量を充分なものとすることができる。式(2)、(3)で示されるアミノ基含有単量体成分の共重合体中の含有量が上記範囲であれば、得られる電子写真機能部品の表面にアミノ基を誘導させることができる。
【0029】
本発明に用いるアミノ基及びカルボキシル基を含む正電荷制御樹脂には、上記式(1)〜(3)で示されるモノマーに係る単量体成分に、式(4)、式(5)で示されるカルボキシル基含有モノマーに係る単量体成分の1種または2種以上を含む共重合体が含まれていてもよい。
【0030】
【化4】

【0031】
式中、R2c、R2dは独立して水素原子またはメチル基を表し、R6は炭素数2〜6のアルキレン基を表し、R7は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R8は、エチレン基、ビニレン基、1,2−シクロヘキシレン基、または1,2−フェニレン基を表し、nは0〜10のいずれかの整数を表す。
【0032】
式(4)で示されるカルボキシル基含有モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート(ただし、カプロラクトンユニットが10以下のもの)等を挙げることができる。これらのモノマーは単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
式(5)で示されるカルボキシル基含有モノマーとしては、具体的には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフマル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等を挙げることができる。ここで、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、メタクリロイルオキシあるいはアクリロイルオキシを意味する(以下、同じ)。これらのモノマーは単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
式(4)または式(5)で示されるカルボキシル基含有モノマーとしては、式(4)で示されるカルボキシル基含有モノマーのみを用いることも、式(5)で示されるカルボキシル基含有モノマーのみを用いることも、式(4)で示されるカルボキシル基含有モノマー及び式(5)で示されるカルボキシル基含有モノマーを併用することもできる。
【0035】
このような式(4)、(5)で示されるカルボキシル基含有単量体成分の共重合体中の含有量としては、例えば、0.03〜50質量%とすることができる。式(4)、(5)で示されるカルボキシル基含有単量体成分の共重合体中の含有量が上記範囲であれば、正荷電制御樹脂を電子写真機能部品の表面層に添加することに由来する弊害を抑制することができる。
【0036】
本発明に用いられる正荷電制御樹脂に含有される共重合体には、上記式(1)〜(5)に示すモノマーに係る単量体成分の他、その機能を低下させない範囲において、これらモノマーと共重合可能なモノマーに係る単量体成分の1種または2種以上が含まれていてもよい。式(1)〜(5)で示されるモノマーに共重合可能なモノマーとしては、電子写真機能部品に要求される機能に応じて適宜選択することができ、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレンなどのスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、ギ酸ビニルなどのビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロピルケトンなどのビニルケトン等を挙げることができる。
【0037】
本発明に用いる正荷電制御樹脂を得るための上記モノマーの重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等を挙げることができる。反応を容易に制御できる点から溶液重合法が好ましい。溶液重合に用いる溶媒としては、具体的に、キシレン、トルエン、酢酸エチル、酢酸イソブチル、イソプロピルアルコール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等を例示することができる。溶媒の使用量としては、例えば、モノマー30〜400質量部に対し、溶媒100質量部を挙げることができる。
【0038】
上記重合に使用する重合開始剤としては、具体的には、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、クミルパーピバレート、t−ブチルパーオキシラウレート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等を挙げることができる。これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量としては、モノマー100質量部に対し、0.05〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15質量部である。
【0039】
上記重合の反応温度としては、使用する溶媒、開始剤、モノマーに応じて適宜設定することができるが、40℃〜150℃を好ましい範囲として挙げることができる。
【0040】
本発明の電子写真機能部品用樹脂としては、正荷電制御樹脂と共に他のいずれの樹脂を含有するものであってもよい。例えば、スチレン又はスチレン誘導体の単重合体又は共重合体などのスチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステルを含む単重合体又は共重合体などのアクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン−酢酸ビニル共重合体、ロジン変性マレイン酸樹脂、フエノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ケトン樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等を例示することができる。これらのうち、特に、ポリオール成分及びイソシアネート成分を加えた組成物をウレタン化して得られるウレタン樹脂が、実施上好ましい。
【0041】
本発明に用いるポリオール成分としては、ポリウレタンの材料としての一般的なポリオールを挙げることができる。具体的には、ポリエーテルポリオール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、THF−アルキレンオキサイド共重合体ポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分鹸化物、フォスフェート系ポリオール、ハロゲン含有ポリオール、アジペート系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリカプローラークトン系ポリオール、ポリブタジエンポリオール等を挙げることができる。これらは単独あるいは組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明に用いるイソシアネート成分としては、ポリウレタンの材料としての一般的なイソシアネート成分を挙げることができる。具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4´−メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、粗製−MDI(ポリメリックMDI)、および変性MDIや、特殊なイソシアネートを用いることができる。特殊なイソシアネートしては、例えば、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添−XDI、水添−MDI、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオフェスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロへプタントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、イソシアネートをブロック剤でマスクした構造のブロック型イソシアネートを用いることもできる。ブロック型イソシアネートは、常温では反応せず、ブロック剤が解離する温度まで加熱すると、イソシアネート基が再生する。
【0043】
上記イソシアネート成分としては、さらにイソシアネート末端プレポリマーを用いることができる。イソシアネート末端プレポリマーは、前記イソシアネート成分と前記ポリオール成分とを通常の反応条件で反応させて得られる反応生成物である。
【0044】
本発明の電子写真機能部品用樹脂は、上記樹脂の他、これらの機能を阻害しない範囲で、機能性成分、例えば、カーボンブラックや金属酸化物等の導電剤や各種安定剤等を含有していてもよい。
【0045】
本発明の電子写真機能部品用樹脂中の正荷電制御樹脂の含有量としては、0.05〜30質量%を挙げることができる。上記正荷電性樹脂の含有量が0.05質量%以上であれば、トナーの帯電量を充分なものとすることができ、30質量%以下であれば、樹脂の硬度や弾性などの特性が損なわれることを抑制することができる。
【0046】
本発明の電子写真機能部品用樹脂を得るには、前記正荷電制御樹脂と、その他の樹脂成分や、機能性成分等を、そのまま、若しくは溶液に溶解、または分散して添加し、混合する方法によることができる。また、前記正荷電制御樹脂と、上記ポリオール成分及びイソシアネート成分とを含む組成物をウレタン化する方法によることができる。ポリオール成分、イソシアネート成分を含む組成物には必要に応じて触媒や溶媒を加えることができる。触媒は、一般的にウレタン化に用いる触媒、例えばアミン化合物等を用いることができ、溶媒は、用途に応じて使用することができる。ウレタン化する組成物中の正荷電制御樹脂と、ポリオール成分、イソシアネート成分の混合比としては、例えば、ポリオール成分、イソシアネート成分の合計100質量部に対し、正荷電制御樹脂が0.05〜30質量部とすることができる。上記正荷電制御樹脂の含有量が0.05質量部以上であれば、トナーの帯電量を充分なものとすることができ、30質量部以下であれば、得られる電子写真機能部品において硬度や弾性などの特性を保持することができる。
【0047】
本発明の電子写真機能部品用樹脂において、硬化後の表面をTOF−SIMSで測定した際に検出されるアミノ基に由来する最大イオンは、使用した正荷電制御樹脂に含まれるアミノ基の構造に起因する。正荷電制御樹脂に含まれるアミノ基がN(CH32であれば[C24N]、[C38N]、[C410N]のいずれかが、N(C252であれば[C25N]、[C24N]、[C36N]、[C512N]、[C614N]のいずれかが最大ピークとして検出される。
【0048】
本発明の電子写真機能部品用樹脂において、硬化後の表面をTOF−SIMSで測定した際に検出されるフルオロアルキル基に由来する最大イオンは、使用した正荷電制御樹脂に含まれるフルオロアルキル基の構造に起因する。[F]、[CF]、[CF2]、[CF3]、[C2F]、[C22]、[C23]、[C24]、[C25]、[C3F]、[C32]、[C33]、[C34]、[C35]、[C4F]、[C42]、[C43]、[C44]、[C45]、[C46]、[C47]、[C48]、[C49]、[C5F]、[C52]、[C53]、[C54]、[C55]、[C56]、[C57]、[C58]、[C59]、[C510]、[C511]のいずれかが最大ピークとして検出される。
【0049】
本発明の電子写真機能部品用樹脂において、ウレタン樹脂を含有する場合、硬化後の表面をTOF−SIMSで測定した際に検出されるウレタン樹脂に由来するイオンは、ウレタン樹脂の構造に起因するが、[C23]、[C35]、[C37]、[C23O]、[C25O]、[C37O]、[C47]、[C37O]、[C49O]のいずれかが、最大イオンとして検出されることが多い。
【0050】
本発明の電子写真機能部品用樹脂において、硬化後の表面をTOF−SIMSで測定した際に検出されるアミノ基に由来する最大イオン強度が、分子量1850までのトータルイオン強度に対し、0.1%以上であり、分子量1850までのトータルイオン強度に対し、フルオロアルキル基に由来する最大イオン強度が1.0%以上である。アミノ基に由来するこれらの最大イオン強度が分子量1850までのトータルイオン強度に対し、0.1%以上であると、得られる電子写真機能部品の最表面の正荷電を充分なものとすることができ、良好な画像を得ることができる。また、フルオロアルキル基に由来するこれらの最大イオン強度が分子量1850までのトータルイオン強度に対し、1.0%以上であると、アミノ基の電子写真機能部品の表面への配向を促進させることができ、電子写真機能部品の最表面を効率よく正荷電させることができ、良好な画像を得ることができる。
【0051】
また、本発明の電子写真機能部品用樹脂が、正荷電制御樹脂と、ポリオール成分及びイソシアネート成分を含む組成物をウレタン化して得られるウレタン樹脂を含有する場合、硬化後の表面をTOF−SIMSで測定したウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cが0.05以上、且つウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の比率Dが0.5以上である。ウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cが0.05以上であれば、得られる電子写真機能部品において、アミノ基が充分に配向した表面とすることができ、トナーの荷電を充分に行い良好な画像を得ることができる。ウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の比率Dが0.5以上であれば、得られる電子写真機能部品において、アミノ基が効率よく配向した表面を得ることができ、トナーの荷電を充分に行い良好な画像を得ることができる。
【0052】
更に、硬化後の表面をTOF−SIMSで測定したウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cが、ウレタン樹脂の質量に対する正荷電制御樹脂の質量の比率Eに対して、C/Eとして5以上であることが好ましい。C/Eが5以上であれば、正荷電制御樹脂の添加量の低減を図ることができ、得られる電子写真機能部品においてウレタン樹脂が有する特性を保持することができる。
【0053】
本発明の電子写真機能部品用樹脂は、レーザープリンター等電子写真方式の画像形成装置や、そのプロセスカートリッジに用いられる各種機能部品に好適に適用することができる。各種機能部品として、具体的には、現像ローラー、帯電ローラー、転写ローラー等のローラータイプの部品や、現像ブレード、クリーニングブレード等のブレードタイプの部品などを挙げることができる。各機能部品の作製に当り、適性な帯電量を付与するように、本発明の電子写真機能部品用樹脂をその帯電量を調整して適用することが好ましい。本発明の電子写真機能部品用樹脂はこれら電子写真機能部品のうち特に、トナーと接触して負帯電化する現像ブレードや、現像ローラー等の機能部品の表面層に好適に使用され、その表面に高い正荷電性を付与することができる。
【0054】
本発明の電子写真機能部品用樹脂を用いて、ブレード、ローラー等の電子写真機能部品の表面層を形成する方法としては、例えば、成型や、フィルムを作成し、電子写真機能部品表面に貼着する、塗布液を作成し、部品表面に塗工するなどの方法を挙げることができる。
【実施例】
【0055】
本発明の電子写真機能部品用樹脂の実施の形態について以下に説明するが、本発明の電子写真機能部品用樹脂の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
[正荷電制御樹脂の構成モノマー]
以下の実施例において、フルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして式(5)〜(8)にそれぞれ構造式を示すA1〜A4を用いた。アミノ基含有モノマーとして式(9)〜(11)にそれぞれ構造式を示すB1〜B3を用いた。カルボキシル基含有モノマーとして式(12)、(13)にそれぞれ構造式を示すC1、C2を用いた。式(13)に示すカルボキシル基含有モノマーC2は、式(4)におけるn=1、n=2の化合物の混合物であり、その平均値が1.4である。
【0056】
【化5】

【0057】
[正荷電制御樹脂の製造]
[製造例1]
CCR1の製造
撹拌機、冷却器、温度計および窒素導入管を付した4つ口セパラブルフラスコに、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルモノマーとして3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルアクリレート(A1)15g、アミノ基含有モノマーとしてN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(B1)35g、溶媒としてトルエン37.5gおよびエタノール12.5g、重合開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)2.0gを仕込み、撹拌し、窒素下還流状態で8時間溶液重合した。その後、減圧乾燥し正荷電制御樹脂CCR1を得た。
【0058】
得られたCCR1のアミノ価、酸価、重量平均分子量(Mw)、Tgをそれぞれ全自動滴定装置(京都電子工業(株)製AT−510)、GPC測定(装置:東ソー(株)製HLC−8120GPC、カラム:昭和電工(株)製KF−805L×2本)、DSC測定(セイコーインスツルメンツ(株)製DSC6200)により測定した。結果を表1に示す。
【0059】
[製造例2〜6]
フルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、アミノ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーとして表1に示す化合物を使用した他は、製造例1と同様にして正電荷制御樹脂CCR2〜6を作製した。得られた正電荷制御樹脂CCR2〜6のアミノ価、酸価、Mw、Tgをそれぞれ製造例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
[実施例1]
ポリオール成分(商品名:ニッポランN5033、日本ポリウレタン社製)を固形分濃度10%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、製造例1で作製した正荷電制御樹脂CCR1を、ウレタン樹脂の質量(ポリオール成分の固形分とイソシアネート成分の固形分の合計)に対するCCR1の質量の比率Eが0.01となるよう添加した。さらに導電剤としてカーボンブラック(商品名:MA−100、三菱化学社製)をウレタン樹脂成分100質量部に対しを30質量部、表面粗し材として平均粒子径10μmのウレタン粒子(商品名:アートパールCF600T、根上工業製)をウレタン樹脂成分100質量部に対し2質量部添加した。各成分が十分に分散したものに、イソシアネート成分(変性TDI、商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)をポリオール成分100質量部に対し10質量部添加、攪拌し、塗液(樹脂1)を作製した。この塗液(樹脂1)をアルミニウム板に均一に塗り、80℃のオーブンで15分乾燥後、140℃のオーブンで2時間硬化した。得られた試料板を一辺5mmに切り出し、TOF−SIMS測定用の試料板とした。
[TOF−SIMS測定]
試料板の表面について、TOF−SIMS測定を以下の条件で行った。
測定機種:アルバックファイ社製TRIFT II
一次イオン種:69Ga+
一次イオン電流(DC):600[pA]
一次イオンエネルギー:15[kV]
試料電位:+3.2[kV]
二次イオン検出モード:Positive
測定真空度:1×10-7[Pa]
測定領域:100μm×100μm
測定積算時間:300秒
検出質量範囲:1.5〜1850amu
[実施例2〜7、比較例1]
表2に示す正荷電制御樹脂を使用した以外は実施例1と同様にして、塗液(樹脂2〜8)を作製し、これを用いて測定用試料板を作製し、TOF−SIMS測定を行った。
【0062】
[比較例2]
CCR1を使用しなかった以外は実施例1と同様に塗液(樹脂9)を作製し、これを用いて測定用試料板を作製し、TOF−SIMS測定を行った。
【0063】
[トータルイオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度百分率A]
実施例1の試料板(樹脂1)を測定して得られたマススペクトルを解析したところ、アミノ基含有モノマーB1に含まれるジメチルアミノ基に由来する最大イオンとして[C38N]がm/z=58に観測された。m/z=58付近の拡大図を図1に示す。
【0064】
実施例2〜6、比較例1の試料板(樹脂2〜6、8)を測定して得られたマススペクトルを解析したところ、アミノ基としてジメチルアミノ基を含有し、アミノ基に由来する最大イオンとして[C38N]がm/z=58に観測された。それぞれの分子量1850までのトータルイオン強度、及び[C38N]のイオン強度とトータルイオン強度に対する百分率Aを表2に示す。
【0065】
実施例7の試料板(樹脂7)を測定して得られたマススペクトルを解析したところ、アミノ基含有モノマーB3に含まれるジエチルアミノ基を含有し、アミノ基に由来する最大イオンとして[C512N]がm/z=86に観測された。m/z=86付近の拡大図を図2に示す。分子量1850までのトータルイオン強度、及び[C512N]のイオン強度とトータルイオン強度に対する百分率を表2に示す。
【0066】
[トータルイオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度百分率B]
実施例1の試料板(樹脂1)を測定して得られたマススペクトルを解析したところ、フルオロアルキル基含有アクリル酸エステルモノマーA1に含まれるフルオロアルキル基に由来する最大イオンとして[CF]がm/z=31に観測された。m/z=31付近の拡大図を図3に示す。
【0067】
実施例2〜7の試料板(樹脂2〜7)を測定して得られたマススペクトルを解析したところ、フルオロアルキル基に由来する最大イオンとして[CF]がm/z=31に観測された。実施例7におけるm/z=31付近の拡大図を図4に示す。
【0068】
それぞれの[CF]のイオン強度とトータルイオン強度に対する百分率Bを表2に示す。
【0069】
[ウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率C]
比較例2の正荷電制御樹脂を含有しない樹脂9の試料板のマススペクトルを解析したところ、ウレタン樹脂に由来する最大イオンとして[C37O]がm/z=59に観測された。m/z=59付近の拡大図を図5に示す。実施例1〜7、比較例1においても同様に、ウレタン樹脂に由来する最大イオンとして[C37O]がm/z=59に観測された。実施例7におけるm/z=59付近の拡大図を図6に示す。
【0070】
ウレタン樹脂に由来する最大イオン[C37O]のイオン強度に対する、アミノ基に由来する最大イオン強度、即ち[C38N]又は[C512N]のイオン強度の比率Cを表2に示す。
【0071】
[ウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の比率D]
ウレタン樹脂に由来する最大イオン[C37O]のイオン強度に対する、フルオロアルキル基に由来する最大イオン、即ち[CF]のイオン強度の比率Dを表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
[帯電量]
前記塗液(樹脂1〜9)を用いてSUS板にそれぞれ均一に塗り、80℃のオーブンで15分乾燥後、140℃のオーブンで2時間硬化して、帯電量測定用試料板を作製し、帯電量の測定を行った。
【0074】
得られた試料板の帯電量の測定は、N/N(22℃、55%RH)環境下、カスケード式表面帯電量測定装置(東芝ケミカル(株)製)により行った。カスケード式表面帯電量測定装置の概略を、図7に示す。図7中、1は基準粉体投入口、2は傾斜板(サンプル台)、3は基準粉体、4は受け皿、5は絶縁板、6はエレクロメーター、7はメーター接続端子である。
【0075】
まず、受け皿4の質量を測定し、W1[g]を得た。傾斜勾配60°の傾斜板2に帯電量測定用試料板を固定し、基準粉体投入口1から基準粉体3としてパウダーテック社製MF−60を20秒間落下させた。基準粉体落下後、帯電量測定用試料板の総帯電量をエレクロロメーター6で測定し、Q[nC]を得た。基準粉体落下後の受け皿4全体の質量を測定し、W2[g]を得た。単位質量当りの帯電量Q/Wを次式によって求めた。
【0076】
Q/W[nC/g]=Q/(W2−W1
1サンプルにつき3点とり、平均値を帯電量とした。結果を表3に示す。
[Tg測定]
前記塗液(樹脂1〜9)を用いてテフロンシャーレ上にキャストし、2時間後、140℃のオーブンで2時間硬化し、試料膜を作製した。得られた試料膜を動的粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ(株)製DMS6100)により、tanδのピーク温度Tgを測定した。結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
実施例1〜7においては、トータルイオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の百分率Aが0.1%以上、且つトータルイオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度Bが1%以上であり、ウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cが0.05以上、且つウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の比率Dが0.5以上であり、なおかつC/Eが5以上である。正荷電制御樹脂を含有しない比較例2と比較して、帯電量が増加する一方でTgは殆ど変化しない。少量の添加でアミノ基が最表面に存在するため、樹脂本来の物理特性を変化させずに帯電量を増加させることができた。
【0079】
比較例1においては、トータルイオン強度に対するアミノ基、及びフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の百分率Aが0.1%以上であり、ウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cが0.05以上であるが、フルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸モノマーを含有していない樹脂8を用いたため、百分率B、比率Dが0であり、またC/Eが5未満である。正荷電制御樹脂を含有しない比較例2と比較して、帯電量は増加せず、一方でTgが上昇し、樹脂本来の物理特性が変化してしまった。樹脂8を添加して帯電量を増加させるためには、正荷電制御樹脂を多量に添加せざるを得ず、樹脂本来の物理特性を損なうおそれがある。
【0080】
[電子写真機能部品における評価]
[実施例8〜14、比較例3、4]
[現像ローラーの製造]
下記の要領で、前記塗液(樹脂1〜9)を用いて、現像ローラーを作製した。図8(a)に現像ローラーの軸方向から見た図、(b)に現像ローラーの軸線に沿った断面図を示す。図8に示す現像ローラーは、芯金114a上に弾性層114b、表面層114cを設けたものである。
【0081】
外径8mmの芯金(SUM製)を内径16mmの円筒状金型内に同心となるように設置し、弾性層として液状導電性シリコーンゴム(東レダウシリコーン社製、AskerC硬度35度、体積固有抵抗1×109Ωcm)を注型後、130℃のオーブンに入れ20分加熱成型し、脱型後、200℃のオーブンで4時間2次加硫を行い、厚さ4mmの弾性層を成形した。
【0082】
次いで、上記塗液(樹脂1〜9)を用い、ディッピングにより弾性層上に膜厚20μmの塗布膜を形成し、80℃のオーブンで15分乾燥後、140℃で4時間硬化を行い、表面層を成形し、現像ローラー1〜9を得た。現像ローラー1〜7(実施例8〜14)は塗液(樹脂1〜7)を用い、現像ローラー8、9(比較例3、4)は塗液(樹脂8、9)を用いた。
[現像ローラーの評価]
得られた現像ローラー1〜9を、負帯電性の非磁性トナーからなる一成分現像剤を使用する評価用レーザービームプリンターに取付け、32.5℃×80%RHの環境下で所定の画像(文字パターン画像)を16000枚、連続的に印刷した後、ドラム上に付着しているトナーのカブリ量を求めた。結果を表4に示す。
【0083】
表中、1)樹脂は、表2の樹脂欄に示す樹脂を示す。5)カブリ指数は以下の方法により求めた数値である。
【0084】
白ベタ画像出力中にプリンターを停止し、感光体上に付着したトナーをテープではがし取り、反射濃度計(マクベス社製スペクトロアイ)にて基準に対する反射率の低下量(%)を測定した。比較例4の反射率の低下量(%)をカブリ指数100として、実施例8〜14、比較例3の反射率の低下量(%)からカブリ指数を求めた。
【0085】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の電子写真機能部品用樹脂の一例の硬化後のTOF−SIMSマススペクトルチャートを示す図である。
【図2】本発明の電子写真機能部品用樹脂の一例の硬化後のTOF−SIMSマススペクトルチャートを示す図である。
【図3】本発明の電子写真機能部品用樹脂の一例の硬化後のTOF−SIMSマススペクトルチャートを示す図である。
【図4】本発明の電子写真機能部品用樹脂の一例の硬化後のTOF−SIMSマススペクトルチャートを示す図である。
【図5】比較例の硬化樹脂のTOF−SIMSマススペクトルチャートを示す図である。
【図6】本発明の電子写真機能部品用樹脂の一例の硬化後のTOF−SIMSマススペクトルチャートを示す図である。
【図7】電子写真機能部品の現像ローラーを示す図である。
【図8】カスケード式表面帯電量測定装置の概略構成図を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1:基準粉体投入口
2:傾斜板(サンプル台)
3:基準粉
4:受け皿
5:エレクトロメーター
6:絶縁板
7:メーター接続端子
114a:芯金
114b:弾性層
114c:表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基及びフルオロアルキル基を含む正荷電制御樹脂を含有する電子写真機能部品用樹脂であって、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定した分子量1850までのトータルイオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の百分率Aが0.1%以上であり、且つ、分子量1850までのトータルイオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の百分率Bが1.0%以上であることを特徴とする電子写真機能部品用樹脂。
【請求項2】
アミノ基、及びフルオロアルキル基を含む正荷電制御樹脂と、ポリオール成分及びイソシアネート成分を含む組成物をウレタン化して得られるウレタン樹脂とを含む電子写真機能部品用樹脂であって、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cが0.05以上、且つウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するフルオロアルキル基に由来する最大イオン強度の比率Dが0.5以上であることを特徴とする電子写真機能部品用樹脂。
【請求項3】
正荷電制御樹脂が、式(1)で示されるフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、式(2)で示されるアミノ基含有モノマー及び式(3)で示されるアミノ基含有モノマーから選ばれるいずれか1種以上とを重合して得られる共重合体を含むことを特徴とする請求項1または2記載の電子写真機能部品用樹脂。
【化1】

(式中、R1はフッ素原子を3個以上有する炭素数1〜14のフルオロアルキル基を表し、R2、R2a、R2bは独立して水素原子またはメチル基を表し、R3a、R3bは独立して炭素数1〜7の二価の有機基を表し、R4a、R4b、R5a、R5bは、独立して水素原子または炭素数1〜20の有機基を表し、またはR4aとR5a若しくはR4bとR5bが化学的に結合して4〜20員複素環構造、またはR4a及びR5a、若しくはR4b及びR5bがそれぞれ結合する窒素原子に加え、酸素原子、窒素原子、イオウ原子の少なくとも一種を含む4〜20員複素環構造を表す。)
【請求項4】
正荷電制御樹脂が、更に、式(4)で示されるカルボキシル基含有モノマー及び式(5)で示されるカルボキシル基含有モノマーから選ばれるいずれか1種以上とを加えて重合して得られる共重合体を含むことを特徴とする請求項3記載の電子写真機能部品用樹脂。
【化2】

(式中、R2c、R2dは独立して水素原子またはメチル基を表し、R6は炭素数2〜6のアルキレン基を表し、R7は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R8は、エチレン基、ビニレン基、1,2−シクロヘキシレン基、または1,2−フェニレン基を表し、nは0〜10のいずれかの整数を表す。)
【請求項5】
ウレタン樹脂の質量に対する正荷電制御樹脂の質量の比率Eと、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したウレタン樹脂に由来する最大イオン強度に対するアミノ基に由来する最大イオン強度の比率Cとが、C/Eとして5以上の関係を有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか記載の電子写真機能部品用樹脂。
【請求項6】
正荷電制御樹脂がアミノ基としてN(CH32を含み、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したアミノ基に由来する最大イオンが、[C24N]、[C38N]、または[C410N]のいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の電子写真機能部品用樹脂。
【請求項7】
正荷電制御樹脂がアミノ基としてN(C252を含み、硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したアミノ基に由来する最大イオンが、[C24N]、[C36N]、[C512N]、または[C614N]のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の電子写真装置機能部品用樹脂。
【請求項8】
硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定した際に、フルオロアルキル基に由来する最大イオンが、[F]、[CF]、[CF2]、[CF3]、[C2F]、[C22]、[C23]、[C24]、[C25]、[C3F]、[C32]、[C33]、[C34]、[C35]、[C4F]、[C42]、[C43]、[C44]、[C45]、[C46]、[C47]、[C48]、[C49]、[C5F]、[C52]、[C53]、[C54]、[C55]、[C56]、[C57]、[C58]、[C59]、[C510]、または[C511]のいずれかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の電子写真機能部品用樹脂。
【請求項9】
硬化後の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)で測定したウレタン樹脂に由来する最大イオンが、[C35]、[C37]、[C23O]、[C25O]、[C37O]、[C47]、[C37O]、または[C49O]であることを特徴とする請求項2〜8のいずれか記載の電子写真機能部品用樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−40331(P2008−40331A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217073(P2006−217073)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】