説明

電子写真装置のシート状剥離部材およびその製造方法ならびに電子写真装置

【課題】高温条件下でも使用可能で、長期にわたって優れた用紙剥離性を維持できるシート状剥離部材およびその製造方法、ならびにこのシート状剥離部材を用いる電子写真装置を提供する。
【解決手段】電子写真装置の定着部材にシート状基材2の先端部2eを接触または近接させて、定着部材から用紙を剥離させるシート状剥離部材1であって、シート状基材2の通紙側表面に、フッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜2dが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機やレーザープリンタ等の電子写真装置に組み込まれた定着ローラや定着ベルト等の定着部材から用紙を剥離させるシート状の剥離部材およびその製造方法、ならびに電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザープリンタ等の電子写真装置には、感光ドラム上に形成された静電潜像をトナー等の現像剤を用いて用紙上に現像した後、用紙に転写された現像剤を定着ローラや定着ベルト等の定着部材により加熱溶融するとともに加圧して用紙に定着させる定着部がある。この定着部には、現像剤が定着した用紙を定着部材からスムーズに剥離させるためのシート状剥離部材が併設されていることが多い。
【0003】
上記シート状剥離部材は、シート状基材の先端部を定着部材に接触または近接させることにより、用紙を定着部材から剥離させるものである。ここで、接触とは、シート状基材の先端側の一辺が定着部材とその軸方向で線接触することをいい、近接とは、用紙の定着部材への巻き付きを防止できる程度に、基材の先端側の一辺が定着部材に接近配置されていることをいう。このような剥離部材としては、用紙剥離性を向上させるとともにトナー付着による用紙の汚れを防止するために、先端部をフッ素樹脂で覆ったものが増えてきている。
【0004】
フッ素樹脂で基材先端部を覆ったシート状剥離部材としては、例えば、フッ素樹脂フィルムをシリコーン系粘着剤で基材に貼り付けたもの(特許文献1参照)、基材表面にフッ素樹脂をコーティングして塗膜を形成したもの(特許文献2参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−235959号公報
【特許文献2】特開2003−248393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたシート状剥離部材は、印字速度の高速化等に伴い定着部材が200℃以上の高温になると、シリコーン系粘着剤の密着力が低下してフッ素樹脂フィルムが剥がれるおそれがある。
【0007】
また、特許文献2のシート状剥離部材は、フッ素樹脂塗膜が定着部材や用紙との摺動によって摩耗し、用紙が剥離しにくくなったり、トナーが付着しやすくなったりするおそれがある。特に、近年の粘着性の高いカラートナーを用いる場合では、よりトナーが付着しやすく用紙を汚染するという問題がある。
【0008】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高温条件下でも使用可能で、長期にわたって優れた用紙剥離性を維持できるシート状剥離部材およびその製造方法、ならびにこのシート状剥離部材を用いる電子写真装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子写真装置のシート状剥離部材は、電子写真装置の定着部材にシート状基材の先端部を接触または近接させて、定着部材から用紙を剥離させるシート状剥離部材であって、上記用紙が通過する側の少なくともシート状基材表面(通紙側表面)に、フッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜が形成されていることを特徴とする。
【0010】
フッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜の膜厚は、30μm〜100μmであることを特徴とする。また、フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAと記す)であることを特徴とする。
【0011】
本発明の電子写真装置のシート状剥離部材は、シート状基材表面にフッ素樹脂を含むプライマー被膜が形成され、このプライマー被膜の上からフッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜が形成されていることを特徴とする。
【0012】
このプライマー被膜を形成するフッ素樹脂は、PFA、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(以下、ETFEと記す)およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPと記す)から選ばれる少なくとも1つの共重合体であることを特徴とする。
【0013】
また、プライマー被膜は、フッ素樹脂を含むディスパージョン液から形成される被膜であることを特徴とする。このディスパージョン液がポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの先駆体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂が含まれることを特徴とする。
【0014】
本発明の電子写真装置のシート状剥離部材を構成する、静電塗装による樹脂被膜およびプライマー被膜から選ばれる少なくとも1つの被膜は、平均粒子径50μm〜500μmの球状充填材が含まれることを特徴とする。ここで、球状とは長径に対する短径の比が0.8〜1.0である球の形状をいう。本発明において、平均粒子径はマイクロトラック法により測定される平均粒子径を表す。
【0015】
また、上記球状充填材は、樹脂被膜またはプライマー被膜表面1cm2当たり30個〜1800個含まれることを特徴とする。また、上記球状充填材は、中空粒子状充填材または中実粒子状充填材であることを特徴とする。上記中空粒子状充填材が樹脂バルーン、セラミックバルーン、シラスバルーンまたはガラスバルーンのいずれかであることを特徴とし、上記中実粒子状充填材が樹脂ビーズ、セラミックスビーズ、シリカビーズ、ガラスビーズまたはカーボンビーズのいずれかであることを特徴とする。
【0016】
本発明の電子写真装置のシート状剥離部材を構成するシート状基材の先端部の厚さ方向断面が曲面とされていることを特徴とする。
【0017】
本発明の電子写真装置は、現像剤が定着した用紙を定着部材から剥離させるためのシート状剥離部材を有する電子写真装置であって、上記シート状剥離部材が上記本発明に係るシート状剥離部材であることを特徴とする。また、電子写真装置がカラートナーを用いるフルカラー電子写真装置であることを特徴とする。
【0018】
本発明の電子写真装置のシート状剥離部材の製造方法は、上記用紙が通過する側のシート状基材表面にフッ素樹脂を含むディスパージョン液を塗布し乾燥させた後、フッ素樹脂の静電塗装を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシート状剥離部材は、フッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜が形成されているので、被膜厚さが厚くかつ均一な樹脂被膜を形成することができる。特に樹脂被膜の膜厚を30μm〜100μmとすることで、また、PFAを主体とする樹脂被膜とすることで、樹脂被膜中に充填材を保持しやすくなる。その結果、耐久性に優れたシート状剥離部材が得られる。
【0020】
本発明のシート状剥離部材は、シート状基材表面にフッ素樹脂を含むプライマー被膜が形成され、このプライマー被膜の上からフッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜が形成されているので、特に、このプライマー被膜がPFA、ETFE、および/または、FEPを含むディスパージョン液から形成され、また、このディスパージョン液がポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、および/または、それらの先駆体樹脂を含むので、シート状基材表面との密着性に優れ、かつプライマー被膜と静電塗装による樹脂被膜との密着性に優れた表面被膜を有するシート状剥離部材が得られる。
【0021】
本発明のシート状剥離部材の上記表面被膜に平均粒子径50μm〜500μmの球状充填材を含むので、シート状基材の通紙側表面に形成される樹脂被膜における樹脂成分の膜厚よりも球状充填材の平均粒子径の方が大きくなる場合が生じるので、樹脂被膜から球状充填材が突き出たように形成され、シート状基材表面に球状充填材の凹凸が形成されることにより、シート状基材の放熱性が高くなる。また、用紙との接触面積が小さく用紙との低摩擦特性が優れる。
【0022】
また、球状充填材を表面被膜1cm2当たり30個〜1800個含むので、シート状基材表面に形成される球状充填材の凹凸部にシートが引っ掛かることがなくシートガイド性に優れる効果が得られる。
【0023】
また、球状充填材が樹脂バルーン、セラミックバルーン、シラスバルーンまたはガラスバルーンであるので放熱効果に優れ、また、樹脂ビーズ、セラミックスビーズ、シリカビーズ、ガラスビーズまたはカーボンビーズであるので、樹脂被膜の耐久性に優れる。
【0024】
また、シート状基材の先端部の厚さ方向断面が曲面とされているので、定着ローラや定着ベルト等の定着部材に対して定圧以上の圧接状態になった場合でも定着部材の表面を傷付けることがない。
【0025】
本発明の電子写真装置は、現像剤が定着した用紙を定着ローラや定着ベルト等の定着部材から剥離させるための剥離部材に、上記したシート状剥離部材を用いるので、シート剥離性に優れた電子写真装置となる。特に本発明のシート状剥離部材が粘着性の高いカラートナーに対する離型性に優れるので、フルカラー電子写真装置として好適に採用できる。
【0026】
本発明の電子写真装置のシート状剥離部材の製造方法は、フッ素樹脂を含むディスパージョン液を塗布し乾燥させた後、フッ素樹脂の静電塗装を行なうので、少ない塗装工程で均一な樹脂被膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】シート状剥離部材を用いた定着装置の概要図である。
【図2】図2(a)はシート状剥離部材の一例として示す斜視図、図2(b)は図2(a)のC部分の拡大正面図、図2(c)から図2(f)は図2(b)のD−D線で切断した部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のシート状剥離部材および電子写真装置の一例を図1を参照して説明する。図1はシート状剥離部材を用いた定着装置の概要図である。図1に示すように、定着装置は、ヒータ5aが内蔵され、矢印A方向に回転する定着ローラ5と、この定着ローラ5に接触して矢印B方向に回転する加圧ローラ6と、定着ローラ5および加圧ローラ6が接触して形成されるニップ部7の付近に配置されるシート状剥離部材1とから構成される。定着ローラ5は内部に発泡ゴム層を有するソフトローラである。用紙8上に形成されたトナー像がニップ部7で定着されて定着された画像となる。シート状剥離部材1はニップ部7を通過した用紙8を定着ローラ5から剥離できるように定着ローラ5に接触または近接する位置に設けられている。
【0029】
シート状剥離部材1を図2を参照して詳細に説明する。図2(a)はシート状剥離部材の一例を示す斜視図であり、図2(b)は図2(a)のC部分の拡大正面図であり、図2(c)〜図2(f)はそれぞれ図2(b)のD−D線で切断した一部拡大断面図である。図2(a)〜図2(f)に示すように、シート状剥離部材1は、取付部4を有する金属製の支持部材3と、金属薄板からなるシート状基材2と、離型層となる樹脂被膜2dとから構成されている。樹脂被膜2dは、フッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜(図2(c))、またシート状基材2と樹脂被膜2dとの間にプライマー被膜2d’を有している(図2(d))。さらに、中空粒子状充填材2c(図2(e))、中実粒子状充填材2c’(図2(f))をそれぞれ含んでいる。
【0030】
シート状基材2において、支持部材3と固定される側の反対側面が、用紙が通過する側の表面(通紙側表面)であり、この通紙側表面に樹脂被膜2dが形成されている。
【0031】
シート状基材2の一端(固定端)2bは、支持部材3に接着剤または溶接で固定されている。シート状基材2の他端は、自由端(先端)2aとなり、この自由端2aを定着ローラ5に接触または近接する位置に配置して、定着ローラ5から剥がれた用紙8の端部を拾い取る(図1参照)。
【0032】
支持部材3は金属製であり、シート状基材2は、金属製、合成樹脂製、セラミックス製の何れでもよいが、ばね鋼、ステンレス鋼、黄銅等の銅合金、アルミニウム合金等の金属製であれば加工が容易であり安価なため好ましい。
【0033】
シート状基材2の板厚は60〜500μmの範囲が好ましい。60μm未満では強度不足であり、取り扱い時において容易に変形するおそれがある。500μmをこえるとシート状剥離部材1の柔軟性が損なわれ、用紙がシート状剥離部材1に当たったときに排紙方向に用紙を円滑に逃がすことができず、跳ね返りが起こりジャミングの発生原因となるおそれがある。
【0034】
シート状基材2の用紙が通過する側の表面の反対側表面(反通紙表面)は、平滑面とすることが好ましい。シート状基材2は、金属製の支持部材3と接着剤または溶接によって一体化するため、シート状基材2の裏面が平滑面であると支持部材3と接着剤または溶接によって一体化する際に密着性が高くなり、特に先端部の水平精度が劣化しない。
【0035】
シート状基材2は、平面視長四角形であり、定着ローラ5の軸方向長さと略同じ長さの接触幅を有している。ここで、定着ローラの軸方向長さと略同じ長さとは、少なくとも定着ローラの軸方向長さの半分程度以上であって、定着ローラの軸方向長さと同じか僅かに長くてもよい。
【0036】
樹脂被膜2dは、フッ素樹脂の静電塗装によりシート状基材2の表面に形成されている。静電塗装としては、静電霧化して静電吸着させる原理に基づく塗装方法であれば使用できる。例えば、グリッド式、ベルト式、ディスク式、またはサイクロン式の固定式静電塗装機を用いる方法、エアまたはエアレス静電スプレー塗装機を用いる方法、吹付け方式または流動浸漬方式の粉体静電塗装機を用いる方法等が挙げられる。これらの中で、エアまたはエアレス静電スプレー塗装機を用いる方式が好ましい。
【0037】
樹脂被膜2dは、静電塗装により形成されたフッ素樹脂被膜である。フッ素樹脂としては、加熱により溶融して樹脂被膜を形成できるフッ素樹脂であれば使用できる。例えば、PFA、ETFE、FEP等が挙げられる。これらの中でPFAが好ましい。PFAを用いることで、静電塗装により樹脂被膜の形成が容易であり、また、シート状剥離部材としてトナーに対する離型性を長時間維持できる。
【0038】
樹脂被膜2dの樹脂成分の膜厚は、30μm〜100μmであり、好ましくは40μm〜70μmである。静電塗装によりこれらの膜厚は1回の塗装で容易にできる。樹脂被膜2dの樹脂成分の膜厚が30μmより薄膜であれば、後述する球状充填材2cの保持性が十分でない場合が生じる。100μmより厚膜であると、樹脂被膜2dの形成工程で割れやふくれ等の不具合が発生するおそれがあるため好ましくない。
【0039】
図2(d)に示すように、静電塗装により樹脂被膜2dを形成する前に、シート状基材2の表面にフッ素樹脂を含むプライマー被膜2d’を形成することが好ましい。プライマー被膜2d’を形成することにより、静電塗装による樹脂被膜2dの密着性をより向上させることができる。
【0040】
プライマー被膜2d’を構成するフッ素樹脂としては、上述したPFA、ETFE、FEP等が挙げられる。プライマー被膜2d’は、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの先駆体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂が含まれる樹脂溶液に上述したPFA、ETFE、FEP等からなるフッ素樹脂粒子を分散させたディスパージョン液を塗布して加熱することにより形成できる。
【0041】
プライマー被膜2d’の膜厚は、5μm〜20μmであり、好ましくは7μm〜15μmである。膜厚が5μmより薄膜であれば、後述する球状充填材の保持性が十分でない場合が生じる。20μmより厚膜であると、プライマー被膜2d’の形成工程で割れやふくれ等の不具合が発生するおそれがあるため好ましくない。
【0042】
図2(e)および図2(f)に示すように、シート状剥離部材1は、上述した静電塗装による樹脂被膜2dおよび/またはプライマー被膜2d’に平均粒子径50μm〜500μmの中空粒子状充填材2cまたは中実粒子状充填材2c’である球状充填材が含まれることが好ましい。球状充填材の平均粒子径が50μmより小径であれば、放熱効果が期待できず、500μmをこえる大径であればシートガイド性が低下する。
【0043】
球状充填剤を含んだ樹脂被膜2dを形成するための静電塗装用樹脂塗料組成物、またはプライマー被膜2d’を形成するためのディスパージョン液としては、(1)含フッ素重合体粉末を樹脂溶媒に分散してなる樹脂ワニスに球状充填材を配合して均一に撹拌する方法や、(2)含フッ素重合体粉末、球状充填材を樹脂溶媒に配合し、均一に撹拌する方法として製造することができる。
【0044】
また、静電気による紙剥離性の低下を防止するため、ケッチェンブラックやアセチレンブラック等のカーボン微粉末を上記樹脂塗料組成物に配合することが好ましい。また、上記ディスパージョン液をシート状基材2の通紙側表面に塗布する方法は、ディッピング法、ローラ塗布法、刷毛塗り法、スプレー塗布法、印刷塗布法など種々の方法を採用することができる。
【0045】
また、樹脂被膜2dの形成に静電粉体塗装を採用する場合、含フッ素重合体粉末と球状充填材を配合して均一に撹拌して粉体塗料とすることができる。
【0046】
シート状基材2の先端部2eの水平精度を高く維持するため、樹脂被膜2dにおいて、この先端部2eに形成される部分には、球状充填材を含まないことが好ましい。このように形成するには、先端部2eにあらかじめ球状充填材を含まない樹脂被膜を形成しておき、マスキング等でこの部分を被覆した後、通紙側表面に球状充填材を含む樹脂被膜を形成する等の方法によって行なうことができる。なお、シート状基材の先端部とは、電子写真装置の定着部材に接触または近接する部位であり、該シート状基材において定着部材との接触側となる先端から約1mm〜3mmの範囲である。
【0047】
樹脂被膜2dおよび/またはプライマー被膜2d’における樹脂成分の膜厚よりも球状充填材の平均粒子径の方を大きくすることが好ましい。中空粒子状充填材2cまたは中実粒子状充填材2c’である球状充填材の平均粒子径を樹脂被膜2d等の膜厚より大きくすることで、樹脂被膜2d等から球状充填材が突き出たように形成され、シート状基材2表面に球状充填材の凹凸が明確に形成されることにより、シート状基材2の放熱性が高くなる(図2(e)、(f)参照)。また、用紙との接触面積が小さく用紙との低摩擦特性が優れる。なお、樹脂製の球状充填材を使用する場合であっても樹脂製球状充填材は樹脂被膜(塗膜)における樹脂成分に該当しないこととする。
【0048】
樹脂被膜2dまたはプライマー被膜2d’中の球状充填材は、樹脂被膜1cm2当たり30個〜1800個含有させることが好ましい。球状充填材が樹脂被膜1cm2当たり30個未満であるとシートガイド性が低下するおそれがあり、1800個をこえる場合では球状充填材2cの凹凸が明確に形成されず放熱効果が期待できない。
【0049】
球状充填材としては、中空粒子状充填材2cおよび/または中実粒子状充填材2c’が挙げられる。中空粒子状充填材2cを用いることで樹脂被膜2dの放熱効果を向上でき、中実粒子状充填材2c’を用いることで樹脂被膜2dの耐久性を向上できる。
【0050】
中空粒子状充填材2cとしては、樹脂バルーン、セラミックバルーン、シラスバルーンまたはガラスバルーンが好ましい。また、中実粒子状充填材2c’としては、樹脂ビーズ、セラミックスビーズ、シリカビーズ、ガラスビーズまたはカーボンビーズが好ましい。上記中空粒子状充填材2cおよび中実粒子状充填材2c’は放熱効果が優れており、上述の平均粒子径50μm〜500μmのものが製造可能であり、さらに安価であるため好ましい。
【0051】
シート状基材2の先端部2eの厚さ方向断面を、エッジのない曲面とすることが好ましい(図2(c)〜(f)参照)。先端部の厚さ方向を曲面とすることで、定着ローラや定着ベルト等の定着部材に対して定圧以上の圧接状態になった場合でも定着部材の表面を傷付けることがない。上記曲面は金属製のシート状基材2を所定形状に加工した後で機械加工してもよいが、カッティングと同時に加圧成形することができるプレスカットにより加工することが望ましい。プレスカットにより先端部2eのプレス方向側のエッジはプレスダレによってR形状を形成するとともに、反プレス方向側のエッジは微小なバリの発生を防ぐために基材表面に対し45°傾斜したプレス板を押し付けることで面取り部を形成でき、先端部2eを曲面とできる。また、金属製のシート状基材において、先端部の厚さ方向の形状は、切断する際のダレ面を通紙側に設定し、バリ取りを片面だけにしたものであってもよい。
【0052】
フルカラー電子写真装置では、発色性を向上させるため、カラートナーの構成要素の一つであるバインダー(結着)樹脂として、透明度の高いポリエステル系バインダー樹脂などを用いる。この樹脂は、非常に粘着性の高いものである。本発明のシート状剥離部材は、シート状基材の通紙側表面に、球状充填材が配合された含フッ素重合体を主成分とする樹脂被膜を静電塗装を用いて形成することで、このようなカラートナーの付着を長期にわたり防止できるため、フルカラー電子写真装置に好適に利用できる。
【0053】
上述したシート状剥離部材は、以下の方法で製造できる。
(1)電子写真装置の定着部材の大きさに適応できる所定の形状に成形された、例えば長四角形状をした金属製のシート状基材を準備する。シート状基材はカッティングと同時に加圧成形することができるプレスカットにより先端部を加工して、シート状基材の定着部材に接触等する先端部の厚さ方向断面を、エッジのない曲面とする。
(2)定着部材から剥離される用紙が通過する側のシート状基材表面にフッ素樹脂を含むディスパージョン液を塗布し乾燥させる。
(3)ディスパージョン液は、PFA、ETFE、および/またはFEPから選ばれる少なくとも1つの共重合体の粉末をポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの先駆体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂溶液に分散させることにより製造できる。さらに、このディスパージョン液に平均粒子径50μm〜500μmの球状充填材を分散させることができる。
(4)シート状基材表面に塗布・乾燥することにより、ポリアミドイミド樹脂および/またはポリイミド樹脂被膜中にPFA粒子、球状充填材等が分散されているプライマー被膜が形成できる。
(5)その後、プライマー被膜上にフッ素樹脂、特にPFA樹脂の静電塗装を行なうことで、シート状剥離部材を製造できる。静電塗装時の塗液に平均粒子径50μm〜500μmの球状充填材を分散させることができる。静電塗装は静電法を用いることで容易に樹脂被膜を形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の電子写真装置のシート状剥離部材は、通紙側表面に、フッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜を形成したので、被膜厚さを厚くすることができ、用紙との低摩擦特性および耐久性に優れる。このため、定着部材が200℃以上の高温となるような条件で使用される、高速・フルカラー等の電子写真装置のシート状剥離部材として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 シート状剥離部材
2 シート状基材
2a 自由端(先端)
2b 固定端
2c 中空粒子状充填材
2c’中実粒子状充填材
2d 樹脂被膜
2d’プライマー被膜
2e 先端部
3 支持部材
4 取付部
5 定着ローラ
6 加圧ローラ
7 ニップ部
8 用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真装置の定着部材にシート状基材の先端部を接触または近接させて、定着部材から用紙を剥離させるシート状剥離部材であって、
前記用紙が通過する側の少なくとも前記シート状基材表面に、フッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜が形成されていることを特徴とする電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項2】
前記樹脂被膜の膜厚は、30μm〜100μmであることを特徴とする請求項1記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項3】
前記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項4】
前記シート状基材表面にフッ素樹脂を含むプライマー被膜が形成され、このプライマー被膜の上から前記フッ素樹脂の静電塗装による樹脂被膜が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項5】
前記プライマー被膜を形成するフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体から選ばれる少なくとも1つの共重合体であることを特徴とする請求項4記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項6】
前記プライマー被膜は、フッ素樹脂を含むディスパージョン液から形成される被膜であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項7】
前記ディスパージョン液は、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの先駆体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂が含まれることを特徴とする請求項6記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項8】
前記静電塗装による樹脂被膜および前記プライマー被膜から選ばれる少なくとも1つは、平均粒子径50μm〜500μmの球状充填材が含まれることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項9】
前記球状充填材は、前記樹脂被膜またはプライマー被膜表面1cm2当たり30個〜1800個含まれることを特徴とする請求項8記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項10】
前記球状充填材は、中空粒子状充填材または中実粒子状充填材であることを特徴とする請求項8または請求項9記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項11】
前記中空粒子状充填材は、樹脂バルーン、セラミックバルーン、シラスバルーンまたはガラスバルーンのいずれかであることを特徴とする請求項10記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項12】
前記中実粒子状充填材は、樹脂ビーズ、セラミックスビーズ、シリカビーズ、ガラスビーズまたはカーボンビーズのいずれかであることを特徴とする請求項10記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項13】
前記シート状基材の先端部の厚さ方向断面は、曲面とされていることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項記載の電子写真装置のシート状剥離部材。
【請求項14】
現像剤が定着した用紙を定着部材から剥離させるためのシート状剥離部材を有する電子写真装置であって、前記シート状剥離部材は、請求項1ないし請求項13のいずれか1項記載のシート状剥離部材であることを特徴とする電子写真装置。
【請求項15】
前記電子写真装置は、カラートナーを用いるフルカラー電子写真装置であることを特徴とする請求項14記載の電子写真装置。
【請求項16】
電子写真装置の定着部材にシート状基材の先端部を接触または近接させて、定着部材から用紙を剥離させるシート状剥離部材の製造方法において、
前記用紙が通過する側の前記シート状基材表面にフッ素樹脂を含むディスパージョン液を塗布し乾燥させた後、フッ素樹脂の静電塗装を行なうことを特徴とする電子写真装置のシート状剥離部材の製造方法。
【請求項17】
前記ディスパージョン液は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合から選ばれる少なくとも1つの共重合体の粉末と、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの先駆体樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂とが含まれることを特徴とする請求項16記載の電子写真装置のシート状剥離部材の製造方法。
【請求項18】
前記ディスパージョン液は、さらに平均粒子径50μm〜500μmの球状充填材を含むことを特徴とする請求項16または請求項17記載の電子写真装置のシート状剥離部材の製造方法。
【請求項19】
前記静電塗装のフッ素樹脂は、平均粒子径50μm〜500μmの球状充填材を含むテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体であることを特徴とする請求項16または請求項17記載の電子写真装置のシート状剥離部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−42787(P2012−42787A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184884(P2010−184884)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】