説明

電子制御装置

【課題】パワー基板等の部品を廃止することにより、装置の小型化およびコストの低減を図ることのできる電子制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置1は、ハウジング3と、このハウジング3一方の端部に取り付けられたヒートシンク5と、このヒートシンク5に搭載された半導体スイッチング素子2と、ヒートシンク5と対向して設けられている回路基板4と、回路基板4と半導体スイッチング素子2とを電気的に接続した複数個の導電板とを備え、ヒートシンク5は、ヒートシンク本体40と、このヒートシンク本体40の半導体スイッチング素子2が搭載される側の面の表面に少なくとも形成されたアルマイト膜25膜とから構成され、ヒートシンク本体40の外周端面と前記開口部の内壁面3dとが対向している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電動モータの回転力によって車両のステアリング装置に補助付勢する電動式パワーステアリング装置に使用する電子制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーデバイスである半導体スイッチング素子(FET)が金属基板上に実装されているとともに、金属基板と金属基板外の部品とを電気的に接続する接続部材が金属基板上に取付けられている電子制御装置が知られている。
例えば、特許文献1に記載の電子制御装置では、電動モータの電流を切り換えるための半導体スイッチング素子からなるブリッジ回路が搭載されたパワー基板と、導電板等が絶縁性樹脂にインサート成形されているとともに大電流部品が搭載されたハウジングと、マイクロコンピュータ等の小電流部品が搭載された制御基板と、パワー基板と上記ハウジング及び上記制御基板とを電気的に接続した接続部材と、パワー基板に密着されたヒートシンクと、パワー基板、ハウジング及び制御基板を覆い金属板でプレス成形されているとともにヒートシンクに取り付けられたケースとを備えている。
【0003】
【特許文献1】特許第3644835号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の電子制御装置では、半導体スイッチング素子を搭載するパワー基板が必要になる。
また、半田付け時に接続部材が浮遊しないようにするため、接続部材をパワー基板上に固定しているが、接続部材をパワー基板上に固定するときに発生する衝撃力が、パワー基板上の半田付け前の半導体スイッチング素子等の部品に伝達され、各部品の位置ズレが生じる。
その結果、部品点数が増加して電子制御装置が大型化するとともにコストが高くなり、またパワー基板上に実装される部品の半田接合の信頼性が低下するという問題点があった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、パワー基板等の部品を廃止することにより、小型化されるとともにコストが低減され、また電気的接続の信頼性が向上する等の電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る電子制御装置は、両端部にそれぞれ開口部を有する絶縁性樹脂製のハウジングと、このハウジングの一方の前記端部に取り付けられたヒートシンクと、このヒートシンクに搭載されたパワーデバイスと、前記ヒートシンクと対向して設けられているとともに、前記パワーデバイスを制御する制御回路を含む電子回路が形成された回路基板と、基礎部が前記ハウジングに保持されているとともに、前記回路基板と前記パワーデバイスとを電気的に接続した複数個の導電板とを備え、前記ヒートシンクは、ヒートシンク本体と、このヒートシンク本体の前記パワーデバイスが搭載される側の面の表面に少なくとも形成された絶縁皮膜とから構成され、前記ヒートシンク本体の外周端面と前記開口部の内壁面とが対向している。
【発明の効果】
【0007】
この発明の電子制御装置によれば、小型化されるとともにコストが低減され、また電気的接続の信頼性が向上する等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態を図に基づいて説明するが、各図において、同一、または相当部材、部位については同一符号を付して説明する。
実施の形態1.
この実施の形態では、電動モータの回転力によって車両のステアリング装置に補助付勢する電動式パワーステアリング装置に使用する電子制御装置1を例に説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係る電子制御装置1を示す断面図、図2は図1の切断断面に対して直角方向に沿って切断したときの断面図、図3は図1の電子制御装置1を示す分解斜視図、図4は図1の電動式パワーステアリング装置のブロック図、図5は図1の電子制御装置1の要部を示す斜視図である。
【0009】
電子制御装置1は、両端部にそれぞれ開口部を有する絶縁性樹脂製のハウジング3と、このハウジング3の一方の端部に取り付けられたアルミニウム製のヒートシンク5と、このヒートシンク5に搭載されたパワーデバイスである半導体スイッチング素子2と、ヒートシンク5と対向して設けられているとともに、半導体スイッチング素子2を制御する制御回路を含む電子回路が形成された回路基板4と、基礎部が絶縁性樹脂3aによるインサート成形でハウジング3と一体化されているとともに回路基板4と半導体スイッチング素子2とを電気的に接続した、パワー用導電板6a、出力用導電板6b及び信号用導電板6cと、ハウジング3の他方の端部に取り付けられ、ヒートシンク5と協同して半導体スイッチング素子2及び回路基板4を格納したカバー7とを備えている。
【0010】
また、電子制御装置1は、ハウジング3の一側面に設けられ、車両の配線と電気的に接続される車両コネクタ8及び電動モータ22と電気的に接続されるモータコネクタ9と、ハウジング3の他側面に設けられ、トルクセンサ23と電気的に接続されるセンサコネクタ10とを備えている。
車両コネクタ8は、車両のバッテリ24と電気的に接続される電源コネクタ端子11、及び車両の配線を介して信号が入出力されるセンサコネクタ端子12を備えている。センサコネクタ10は、車両コネクタ8と同一のセンサコネクタ端子12を備えている。
車両コネクタ8、モータコネクタ9及びセンサコネクタ10は、それぞれハウジング3がインサート成形により形成される際に、それぞれ同時に電源コネクタ端子11、出力用導電板6bのモータコネクタ端子部6bm及びセンサコネクタ端子12と一体化されて形成されている。
【0011】
また、ハウジング3の他方の端部、即ちヒートシンク5が取り付けられる開口部と反対側の開口部の近傍には、電子制御装置1を被取付体である車両に取り付けるための取付脚部3Lが形成されている。
【0012】
ヒートシンク5は、ヒートシンク本体40と、このヒートシンク本体40の表面に形成された絶縁皮膜であるアルマイト皮膜25とから構成されている。このヒートシンク5は、アルミニウムまたはアルミニウム合金をダイスから押し出して形成された長尺の押出形材の全面に予めアルマイト膜25を形成したヒートシンク素材を製造し、このヒートシンク素材を切断機で所望の長さに切断して形成される。切断機で切断されて形成された、ヒートシンク5の一方の両側外周端面は、外部に露出した切断面5aであり、他方の両側外周端面5bは、アルマイト膜25が形成されている。半導体スイッチング素子2が搭載される面、その裏面もアルマイト膜25が形成されている。
切断面5aは、図2に示すようにハウジング3の内壁面3dと対向している。
ここでは、ヒートシンク5は押出形材を用いて製造したが、熱間または冷間圧延された板材を用いて製造してもよい。
また、この実施の形態では、絶縁皮膜をアルマイト膜25としたが、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に絶縁性樹脂がプレコートされた絶縁性プレコートアルミニウム材を、ヒートシンク素材としてもよい。この場合には、絶縁性樹脂がプレコートされていない面、例えば外周端面の四面がそれぞれ内壁面3dと対向している。
また、絶縁皮膜がアルマイト膜25の場合でも、ヒートシンク本体40の外周端面の四面が外部に露出し、この露出面が内壁面3dと対向してよい。
【0013】
半導体スイッチング素子2の放熱部であるヒートスプレッダhsは、ヒートシンク5のアルマイト膜25が形成された面に、弾性体である板バネ21を介して、固定手段であるネジ20でヒートシンク5に密着させて固定されている。このとき、板バネ21は、半導体スイッチング素子2の樹脂パッケージ面を押し付けている。
半導体スイッチング素子2のヒートスプレッダhsは、ブリッジ出力端子OUTと電気的に繋がっているが、アルマイト膜25でヒートシンク5とは電気的に絶縁される。
ヒートスプレッダhsの表面は、小さな凹凸を有している。板バネ21で半導体スイッチング素子2のヒートスプレッダhsをヒートシンク5に密着させても僅かな隙間が発生するが、この隙間には高熱伝導のグリース(図示せず)が介在している。
なお、半導体スイッチング素子2のヒートスプレッダhsをヒートシンク5に密着、固定する手段として、高熱伝導性の第1の接着性樹脂を用いて密着、固定してもよい。
この場合には、ヒートスプレッタhsとヒートシンク5との隙間に介在した上記グリースは不要となる。
【0014】
半導体スイッチング素子2は、図4に示すように、ハイサイドMOSFET2HとローサイドMOSFET2Lが集積されてハーフブリッジが形成されている。そして、半導体スイッチング素子2は、ハーフブリッジが1つのパッケージに収納されているとともに、2個1組となって電動モータ22の電流を切り替えるためのブリッジ回路を構成している。
半導体スイッチング素子2の各端子は、図5において左側から供給電源端子VS、ハイサイドMOSFET2Hのゲート端子GT1、ブリッジ出力端子OUT、ローサイドMOSFET2Lのゲート端子GT2及びグランド端子GNDの順に並んで配置されている。
ここで、供給電圧端子VS、ブリッジ出力端子OUT、グランド端子GNDは、電動モータ22の大電流が流れる大電流用端子、ゲート端子GT1、ゲート端子GT2は、信号用の小さな電流が流れる小電流用端子であり、大電流用端子と小電流用端子とが交互に配置されている。
また、半導体スイッチング素子2の各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDは、ともに中間部の2箇所で直角に起立、倒伏した同一形状で、同一方向にそれぞれ導出している。
【0015】
回路基板4上の配線パターンには、マイクロコンピュータ13が、半田付けで実装されている。図3において図示されていないが、回路基板4上の配線パターンには、半導体スイッチング素子2のスイッチング動作時に発生する電磁ノイズを外部へ流出するのを防止するコイル、モータ電流のリップルを吸収するコンデンサ、シャント抵抗器を含むモータ電流検出回路及び周辺回路素子等が半田付けで実装されている。
また、回路基板4には、内面に銅メッキがなされて配線パターンと電気的に接続される複数のスルーホール4aが形成されている。
【0016】
パワー用導電板6aの基端部は、半導体スイッチング素子2の供給電源端子VS、グランド端子GNDの先端部にそれぞれ接続されている。出力用導電板6bの基端部は、ブリッジ出力端子OUTの先端部に接続されている。信号用導電板6cの基端部は、ゲート端子GT1,GT2の先端部にそれぞれ接続されている。
これらの導電板6a,6b,6cは、半導体スイッチング素子2の端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDが導出する導出方向に延びて重なって配置され、レーザ溶接により接合されている。
これらの導電板6a,6b,6cには、それぞれプレスフィット端子部6ap,6bp,6cpが形成されており、プレスフィット端子部6ap,6bp,6cpが回路基板4のそれぞれのスルーホール4aに圧入されて、半導体スイッチング素子2の端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDと回路基板4の配線パターンとが電気的に接続されている。
導電板6a,6b,6cは、大電流を通電するための導電率と、プレスフィット端子部6ap,6bp,6cpを形成するための機械的強度を考慮して、高強度の高導電銅合金またはりん青銅で構成されている。リン青銅は、モータ電流が例えば30A以下の電流で使用される。
【0017】
また、出力用導電板6bの先端部には、モータコネクタ端子部6bmが形成されており、半導体スイッチング素子2のブリッジ出力端子OUTからのモータ電流は、回路基板4を経由せず、直接モータコネクタ端子部6bmを経由して電動モータ22に流れるように構成されている。出力用導電板6bの中間部には、回路基板4に向かって延びたプレスフィット端子部6bpが形成されており、モータコネクタ端子部6bmの電圧をモニタするための信号が回路基板4へ出力される。
【0018】
半導体スイッチング素子2の端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDは、幅が0.8mm、厚さが0.5mm、端子の間隔が1.7mmで形成されている。大電流が流れる端子VS、OUT、GNDは、長さが長くなると電気抵抗が大きくなり、発熱が生じる。
この実施の形態では、発熱を抑制するために、供給電源端子VSとパワー用導電板6a、グランド端子GNDとパワー用導電板6a、ブリッジ出力端子OUTと出力用導電板6bは、それぞれ半導体スイッチング素子2に近接した位置で溶接されている。
また、各端子VS,GT1,OUT,GT2,GND間の間隔が狭い。
そのため、端子VS,GT1,OUT,GT2,GND間の短絡を防止するために、ゲート端子GT1と信号用導電板6c、ゲート端子GT2と信号用導電板6cとの溶接位置は、供給電源端子VSとパワー用導電板6a、グランド端子GNDとパワー用導電板6a、ブリッジ出力端子OUTと出力用導電板6bとのそれぞれの溶接位置と近接せず、また端子GT1,GT2に流れる電流が小電流のため、半導体スイッチング素子2から離れた位置にある。
これらの溶接位置は、図5中に黒丸で示している。
【0019】
図5に示すように、半導体スイッチング素子2の各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDと導電板6a,6b,6cとの位置決めを行なう位置決め部3bがハウジング3に形成されている。位置決め部3bは、半導体スイッチング素子2の各隣接した端子VS,GT1,OUT,GT2,GND間に突出しており、先端部にはテーパが形成されている。このテーパ部で半導体スイッチング素子2の各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDの先端部がそれぞれ案内されて位置決めされ、各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDと導電板6a,6b,6cとが溶接される。
【0020】
また、パワー用導電板6a、出力用導電板6bは、圧延された銅、または銅合金で形成されているが、導電板6a、6bのロール面(表面)と半導体スイッチング素子2の端子VS,OUT,GNDとを溶接する場合しようとした場合には、大電流が流れるため板厚を厚くする必要がある。
しかし、プレスフィット端子部の形成及びプレス加工の点からは、板厚を厚くすることが困難である。
この実施の形態では、パワー用導電板である導電板6a,6bの板厚を、端子VS,OUT,GNDの幅と同じ0.8mmとし、板厚より板幅を広く形成してロール面と直角方向の端面と半導体スイッチング素子2の端子VS,OUT,GNDとを溶接している。
即ち、導電板6a,6bは、端子VS,OUT,GNDとの接合方向の寸法が接合方向に対して直角方向(幅方向)の寸法よりも大きく形成されている。
【0021】
なお、信号用導電板6cは、小電流が流れるので、電気抵抗の低減化について考慮する必要性はないが、パワー用導電板6a、出力用導電板6bと同様の板材で形成されている。
また、レーザ溶接は、板厚の薄い半導体スイッチング素子2の端子VS,GT1,OUT,GT2,GND側からレーザ光が照射されている。
【0022】
パワー用導電板6aにはプレスフィット端子部6apが2個、出力用導電板6bにはプレスフィット端子部6bpが1個、信号用導電板6cにはプレスフィット端子部6cpが1個それぞれ形成されており、1つの半導体スイッチング素子2について7個のプレスフィット端子部6ap,6bp,6cpが配置されている。
半導体スイッチング素子2の端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDの間の距離は、前述のように1.7mmであり、プレスフィット端子部6ap,6bp,6cpが圧入される回路基板4のスルーホール4aの穴径は1.45mmに形成されている。
この実施の形態では、隣接する導電板6a,6b,6cのプレスフィット端子部6ap,6bp,6cpを千鳥状に配置して、半導体スイッチング素子2の端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDの間の距離より、プレスフィット端子部6ap,6bp,6cpの間の距離を長くしてある。
【0023】
また、パワー用導電板6a、出力用導電板6b、信号用導電板6cと、ヒートシンク5との間には、ハウジング3の絶縁性樹脂3aが介在している。
【0024】
また、車両コネクタ8の電源コネクタ端子11は、導電板6a,6b,6cと同様に板厚0.8mmの銅、または銅合金で形成され、プレスフィット端子部11pが2個形成されている。また、電源コネクタ端子11は、プレスフィット端子部11pの個数以外は出力用導電板6bと同一である。
モータコネクタ9及び車両コネクタ8は、図3に示すように並列に配設されており、図6に示すように、出力用導電板6b及び電源コネクタ端子11は、各々左右対称にそれぞれ2個配置されている。
図6において右側の出力用導電板6bRと左側の出力用導電板6bLとは、展開時の形状が同一であるが、折り曲げの方向を変えて形成されている。
同様に、右側の電源コネクタ端子11R及び左側の電源コネクタ端子11Lも、展開時の形状が同一であるが、折り曲げの方向を変えて形成されている。
【0025】
板厚が0.8mmの板材で形成される導電板6a,6b,6c及び電源コネクタ端子11は、パワー用導電板6a、右の出力用導電板6bR、左の出力用導電板6bL、信号用導電板6c、右の電源コネクタ端子11R及び左の電源コネクタ端子11Lの6種類である。
【0026】
車両コネクタ8に対向して設けられたセンサコネクタ10のセンタコネクタ端子12は、厚さ0.64mmのりん青銅板から形成され、一端にプレスフィット端子部12pが形成されている。
また、図3に示すように、ハウジング3の側面付近に回路基板4を保持する保持部材Hが配置されている。この保持部材Hは、パワー用導電板6aがそのまま流用されており、パワー用導電板6aと保持部材Hとは同一であり、先端部にプレスフィット端子部Hpが形成されている。
なお、この保持部材Hは、回路基板4の保持機能のみで、回路基板4と電気的には接続されていない。
回路基板4は、スルーホール4aにプレスフィット端子部6ap,6bp,6cp,11p,12p,Hpが圧入されて、機械的に保持されている。
【0027】
カバー7は、ハウジング3と同様の絶縁性樹脂で成形され、超音波溶着機でハウジング3の開口部に形成されたフランジ部3cに溶着されている。
なお、カバー7とハウジング3との溶着は、振動溶着機による振動溶着であってもよい。振動溶着は、カバー7とハウジング3との接合面の面方向に沿って、カバー7を往復振動させ、摩擦熱によりカバー7とハウジング3との樹脂を互いに溶融させて接合している。振動溶着は、カバー7とハウジング3との接合面が大きい場合に適用される。
【0028】
また、超音波溶着機の代わりに、レーザ溶着機によるレーザ溶着であってもよい。
レーザ溶着は、カバー7がレーザ透過率の大きい材料で構成されているとともに、ハウジング3がレーザ吸収率の高い材料で構成されている。そして、レーザ光をカバー7側から照射すると、レーザ光がカバー7を透過して、ハウジング3の接合面でレーザ光が吸収され、発熱する。その熱がカバー7側にも伝導され、カバー7も発熱してカバー7とハウジング3との接合面で相互に溶融し、溶着される。
レーザ溶着は、ソリやヒケが大きい樹脂成形では、接合面にレーザの焦点を合わせることが困難となり用いることはできないが、ソリやヒケが小さな樹脂成形の場合には、溶着自体はバリの発生が無く、振動の発生が無いので、内部部品への振動伝達がないという利点がある。
また、上述した超音波溶着、振動溶着のように、ハウジング3にフランジ部3cを形成する必要が無く、電子制御装置1の小型化が図られる。
【0029】
次に、上記のように構成された電子制御装置1の組立手順について説明する。
先ず、回路基板4上にクリーム半田を塗布し、マイクロコンピュータ13及びその周辺回路素子等の部品を配置し、リフロ装置を用いて、クリーム半田を溶かして各部品を半田付けする。
次に、図1、図2に示すように、ハウジング3をヒートシンク5上に配置し、ネジ20により固定する。その後、半導体スイッチング素子2をヒートシンク5上に配置する。その際、半導体スイッチング素子2の各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDは、位置決め部3bで案内、位置決めされ、導電板6a,6b,6c上に重ね合わされる。
その後、板バネ21及びネジ20を用いて、半導体スイッチング素子2をヒートシンク5に密着して固定する。
そして、半導体スイッチング素子2の端子VS,GT1,OUT,GT2,GND側よりレーザ光を照射し、端子VSとパワー用導電板6a、端子GT1と信号用導電板6c、ブリッジ出力端子OUTと出力用導電板6b、端子GT2と信号用導電板6c、端子GNDとパワー用導電板6aを各々レーザ溶接する。
【0030】
次に、プレスフィット端子部6ap,6bp,6cp,11p,12p,Hpの先端部を、回路基板4のスルーホール4aに挿入した状態で回路基板4をハウジング3の上部に装着する。その後、プレス機でスルーホール4aにプレスフィット端子部6ap,6bp,6cp,11p,12p,Hpを圧入する。
次に、ハウジング3の開口面にカバー7を配置し、超音波溶着機でハウジング3とカバー7とを溶着して、電子制御装置1の組立が完了する。
【0031】
以上説明したように、この実施の形態1の電子制御装置1によれば、両端部にそれぞれ開口部を有するハウジング3と、このハウジング3一方の前記端部に取り付けられたヒートシンク5と、このヒートシンク5に搭載された半導体スイッチング素子2と、ヒートシンク5と対向して設けられているとともに、半導体スイッチング素子2を制御する制御回路を含む電子回路が形成された回路基板4と、基礎部がハウジング3と一体化されて保持されているとともに、回路基板4と半導体スイッチング素子2とを電気的に接続した複数個の導電板6a,6b,6cとを備えたので、電子制御装置1は、従来必要とした半導体スイッチング素子2を搭載した金属基板等が不要となり、小型化されるとともにコストが低減される。
【0032】
また、ヒートシンク5は、ヒートシンク本体40と、切断面5aを除いてヒートシンク本体40の全面を覆ったアルマイト膜25とから構成され、ヒートシンク5の切断面5aは、絶縁性樹脂製のハウジング3の開口部の内壁面3dと対向しているので、半導体スイッチング素子2が取り付けられる部位のアルマイト膜25が破壊等により絶縁不良となる不具合が生じても、電子制御装置1の外側から半導体スイッチング素子2と電気的に短絡されることが無く、絶縁性能の向上した電子制御装置1を得ることができる。
【0033】
また、回路基板4のスルーホール4aに、プレスフィット端子部6ap,6bp,6cp、11p、12p,Hpが圧入されて圧接により電気的に接続されているので、熱応力に対する耐力が向上る。
【0034】
また、導電板6a,6b,6c及びコネクタ端子11,12と回路基板4との電気的接続が圧入のみで行なわれるので、組み立ての時間が短縮されるとともに、組立設備が簡単になり、組立性が向上する。
【0035】
また、各導電板6a,6b,6cは、半導体スイッチング素子2の各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDが導出する導出方向に沿って配置されて、各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDと接合されているので、細長く薄板で電気抵抗の大である各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDを短くすることができ、端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDと回路基板4との間における電気抵抗を小さくすることが可能となり、電気抵抗による発熱を抑制することができる。即ち、大電流を制御できる電子制御装置1を得ることができる。
【0036】
また、導電板6a,6b,6cは、一体成形されたハウジング3の絶縁性樹脂3aで保持されているので、導電板6a,6b,6cと半導体スイッチング素子2の各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDとの溶接の作業性が向上する。
【0037】
また、ヒートシンク5は、長尺の押出形材に予め表面にアルマイト膜25が形成されたヒートシンク素材を用いて形成されているので、切断後の個々のヒートシンク5毎にアルマイト膜を形成する必要が無く、製造コストが低減される。
なお、予め長尺の熱間または冷間圧延された板材の表面にアルマイト膜25が形成されたヒートシンク素材を用いた場合にも、同様に製造コストが低減される。
【0038】
また、ヒートシンク本体40は、高熱伝導のアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されているので、半導体スイッチング素子2の発熱がヒートシンク5で効率良く放熱され、電子制御装置1の放熱性が向上する。
【0039】
また、ヒートシンク本体40の表面に形成された絶縁皮膜は、アルマイト膜25であるので、絶縁皮膜を薄く形成することができ、電子制御装置1の放熱性が向上する。
また、ヒートシンク本体40の表面がアルマイト処理が施されているので、放射率が高くなり、電子制御装置1の放射性が向上する。
なお、絶縁皮膜として、プレコートされた絶縁性樹脂を用いた場合でも絶縁皮膜を薄く形成することができ、電子制御装置1の放熱性が向上する。
【0040】
また、2個の半導体スイッチング素子2は、ヒートシンク5に板バネ21を介してネジ20で一纏めにして固定されているので、半導体スイッチング素子2の固定が容易になり、電子制御装置1の組立性が向上する。
【0041】
また、半導体スイッチング素子2のヒートスプレッダhsとヒートシンク5のアルマイト膜25との間に高熱伝導のグリースが介在しているので、半導体スイッチング素子2からヒートシンク5への放熱経路の熱抵抗が小さくなり、電子制御装置1の放熱性が向上する。
【0042】
なお、半導体スイッチング素子2のヒートスプレッダhsは、ヒートシンク5に高熱伝導の第1の接着性樹脂で固定された場合にも、半導体スイッチング素子2の固定が容易になり、電子制御装置1の組立性が向上するとともに、半導体スイッチング素子2からヒートシンク5への放熱経路の熱抵抗が小さくなり、電子制御装置1の放熱性が向上する。
【0043】
また、前記ハウジング3の取付脚部3Lは、ヒートシンク5が取り付けられた側と反対側に形成されているので、電子制御装置1を被取付体である車両に取り付けた場合、ヒートシンク5は、車両の取付面と反対側に位置し、ヒートシンク5からの放熱性が向上する。
【0044】
実施の形態2.
図7はこの発明の実施の形態2に係る電子制御装置1を示す断面図、図8は図7の電子制御装置1の切断断面に対して直角方向に沿って切断したときの断面図である。
この実施の形態では、ヒートシンク5の外周端面とハウジング3の開口部の内壁面3dとの間には、溝部30が形成されており、この溝部30に第2の接着性樹脂であるシリコン接着剤31が充填されている。
また、車両コネクタ8、モータコネクタ9及びセンサコネクタ10は、防水タイプのコネクタに変更されてハウジング3に一体成形されている。
また、図示されていないが、ハウジング3には、電子制御装置1の内部と外部を連通する呼吸穴が設けられ、この呼吸穴には空気を通すが水を通さない撥水フィルタが取り付けられている。
他の構成は、実施の形態1の電子制御装置1の構成と同じである。
【0045】
この実施の形態による電子制御装置1の組立手順は、ハウジング3の開口部にカバー7を配置し、超音波溶着機でハウジング3とカバー7とを溶着する溶着工程までは、実施の形態1と同じである。
その次に、ハウジング3に形成された呼吸穴に撥水フィルタを熱溶着で取り付ける。
その後、電子制御装置1を反転して溝部30を上側にして、溝部30にシリコン接着剤31を充填する。そして、シリコン接着剤31を硬化させて電子制御装置1の組立が完了する。
なお、呼吸穴については、カバー7に設け、この呼吸穴に撥水フィルタを取り付けてもよい。
また、ハウジング3またはカバー7に呼吸穴を設け、この呼吸穴に予め撥水フィルタを取り付けた後、上記溶接工程、上記溶着工程を行ってもよい。
【0046】
この実施の形態2の電子制御装置1によれば、ハウジング3とヒートシンク5の間には、溝部30が設けられ、この溝部30にシリコン接着剤31が充填されているので、電子制御装置1の内部は外部に対して密封され、外部から電子制御装置1の内部へ水等の浸入が防止でき、電子制御装置1の防水性が向上する。
【0047】
また、ヒートシンク5の切断面5aがシリコン接着剤31で覆われているので、ヒートシンク5の切断面5aが外部に露出することはなく、半導体スイッチング素子2が取り付けられる部位のアルマイト膜25が破壊等により絶縁不良となる不具合が生じても、電子制御装置1の外側から切断面5aを通じて半導体スイッチング素子2と電気的に短絡されることは無く、電子制御装置1の絶縁性能が向上する。
【0048】
また、ヒートシンク5の切断面5aは、シリコン接着剤31で覆われたことにより、ヒートシンク本体40の全面は、アルマイト膜25及びシリコン接着剤31で覆われており、塩水等アルミニウムを腐食させる液体が電子制御装置1に付着しても、ヒートシンク5の腐食は防止され、電子制御装置1の耐食性が向上する。
【0049】
なお、上記の実施の形態1、2では、半導体スイッチング素子2の各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDと、導電板6a,6b,6cとの接合はレーザ溶接としたが、抵抗溶接、TIG溶接等の他の溶接方法であってもよい。
また、溶接以外の超音波接合であってもよい。
また、半導体スイッチング素子2は、ハイサイドMOSFET2HとローサイドMOSFET2Lが集積されたハーフブリッジが1つのパッケージに収納されているとともに、2個1組となって電動モータ22の電流を切り替えるためのブリッジ回路を構成しているものとしたが、ハイサイドMOSFET2HとローサイドMOSFET2Lが別々に構成されて4個の半導体スイッチング素子2でブリッジ回路を構成してもよい。
また、6個の半導体スイッチング素子2でブリッジ回路を構成して3相ブラシレスモータを駆動制御する構成であってもよい。
また、パワーデバイスは半導体スイッチング素子2としたが、ダイオード、サイリスタ等他のパワーデバイスであってもよい。
【0050】
また、導電板6a,6b,6cの板厚を0.8mmとしたが、導電板6a,6b,6cを流れる電流、半導体スイッチング素子2の各端子VS,GT1,OUT,GT2,GNDの間隔等と考慮して、板厚を1.0mm、1.2mm等の他の板厚でもよい。
【0051】
また、自動車の電動式パワーステアリング装置に適用した例について説明したが、アンチロックブレーキシステム(ABS)の電子制御装置、エアーコンディショニング関係の電子制御装置等、パワーデバイスを備えた大電流(例えば25A以上)を扱う電子制御装置に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電動式パワーステアリング装置の電子制御装置を示す断面図である。
【図2】図1の電子制御装置の切断断面に対して直角方向に沿って切断したときの断面図である。
【図3】図1の電子制御装置を示す分解斜視図である。
【図4】図1の電動式パワーステアリング装置のブロック図である。
【図5】図1の電子制御装置の要部を示す斜視図である。
【図6】図1の電子制御装置における各導電板、各コネクタ端子及び保持部材の配置を示す斜視図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る電動式パワーステアリング装置の電子制御装置を示す断面図である。
【図8】図7の電子制御装置の切断断面に対して直角方向に沿って切断したときの断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 電子制御装置、2 半導体スイッチング素子(パワーデバイス)、3 ハウジング、3a 絶縁性樹脂、3d 内壁面、3L 取付脚部、4 回路基板、5 ヒートシンク、5a 切断面、6a パワー用導電板(大電流用導電板)、6b 出力用導電板(大電流用導電板)、6c 信号用導電板(小電流用導電板)、20 ネジ(固定手段)、21 板バネ(弾性手段)、25 アルマイト膜(絶縁皮膜)、30 溝部、31 シリコン接着剤(第2の接着性樹脂)、40 ヒートシンク本体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部にそれぞれ開口部を有する絶縁性樹脂製のハウジングと、
このハウジングの一方の前記端部に取り付けられたヒートシンクと、
このヒートシンクに搭載されたパワーデバイスと、
前記ヒートシンクと対向して設けられているとともに、前記パワーデバイスを制御する制御回路を含む電子回路が形成された回路基板と、
基礎部が前記ハウジングに保持されているとともに、前記回路基板と前記パワーデバイスとを電気的に接続した複数個の導電板とを備え、
前記ヒートシンクは、ヒートシンク本体と、このヒートシンク本体の前記パワーデバイスが搭載される側の面の表面に少なくとも形成された絶縁皮膜とから構成され、
前記ヒートシンク本体の外周端面と前記開口部の内壁面とが対向していることを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記ヒートシンクは、全面に前記絶縁皮膜が形成された長尺のヒートシンク素材を切断して形成された切断面を有していることを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記ヒートシンク本体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子制御装置。
【請求項4】
前記絶縁皮膜は、アルマイト膜であることを特徴とする請求項3に記載の電子制御装置。
【請求項5】
前記絶縁皮膜は、前記ヒートシンク本体の表面にプレコートされた絶縁性樹脂であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電子制御装置。
【請求項6】
前記ヒートシンクは、板材を用いて形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の電子制御装置。
【請求項7】
前記ヒートシンクは、押出形材を用いて形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の電子制御装置。
【請求項8】
前記パワーデバイスは、前記ヒートシンクに第1の接着性樹脂で固定されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の電子制御装置。
【請求項9】
前記第1の接着性樹脂は、高熱伝導の材料で構成されていることを特徴とする請求項8に記載の電子制御装置。
【請求項10】
前記パワーデバイスは、前記ヒートシンクに弾性体を介して固定手段で固定されていることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の電子制御装置。
【請求項11】
前記パワーデバイスと前記ヒートシンクとの間には、高熱伝導のグリースが介在していることを特徴とする請求項10に記載の電子制御装置。
【請求項12】
前記ヒートシンクの前記切断面と前記ハウジングの前記内壁面とが対向していることを特徴とする請求項2〜11の何れか1項に記載の電子制御装置。
【請求項13】
前記ヒートシンクの外周端面と前記開口部の内壁面との間には、溝部が形成されており、この溝部に第2の接着性樹脂が充填されていることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の電子制御装置。
【請求項14】
前記ヒートシンクの前記ヒートシンク本体の前記外周端面と前記内壁面との間の前記溝部に、前記第2の接着性樹脂が充填されていることを特徴とする請求項13に記載の電子制御装置。
【請求項15】
前記ハウジングの他方の前記端部には、被取付体に取り付けられる取付脚部が形成されていることを特徴とする請求項1〜14の何れか1項に記載の電子制御装置。
【請求項16】
前記パワーデバイスは、半導体スイッチング素子であることを特徴とする請求項1〜15の何れか1項に記載の電子制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−166383(P2008−166383A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352271(P2006−352271)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】