説明

電子制御装置

【課題】再起動しなくても、故障の発生と解消に対応することができる電子制御装置を提供すること。
【解決手段】電子制御装置は、アシストモータへの給電と動作とを制御する制御部と、制御部の起動時と動作中とに故障を診断する故障診断部と、CAN通信部とを備える。制御部は、故障診断部により故障を診断して、故障を検出すると、アシストモータへの給電を停止し、その後、CAN通信部により他の装置から、アイドルストップ状態の解除を示す信号を受信すると、故障診断部により再度故障を診断する。当該診断の結果、故障が検出された場合は、アシストモータへの給電の停止が継続され、故障が検出されなかった場合は、アシストモータへ給電が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ制御を行う車両システムに実装される電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、燃料消費量の節減とエミッションの低減とを目的として、車両が信号待ちなどで停車した場合に、エンジンを一時的に自動停止させるアイドルストップ制御を行う車両がある。このような車両では、アイドルストップ制御中には、エンジンを停止させる。そして、アイドルストップ制御の停止後には、エンジン始動用のモータを駆動して、エンジンを再始動させる。エンジン再始動の際の安全性を向上させる技術として、たとえば特許文献1に開示されているものがある。
【0003】
また、従来、たとえば特許文献2〜6に開示されているような、故障診断を行う各種のシステムや装置が、車両システムに実装されている。
【0004】
特許文献2の燃料噴射システムでは、内燃機関の始動後に、燃料噴射装置本体の故障の有無を判別し、故障が発生したことを故障検出手段により検出すると、機関停止のための制御信号を出力して、燃料噴射制御動作を終了する。また、アイドルストップ動作のために内燃機関の回転を停止させる停止命令信号が燃料噴射装置本体から出力されると、模擬故障発生手段から模擬故障信号を出力して、故障検出手段の故障の有無を判別する。
【0005】
特許文献3の故障判定装置では、エンジンの運転状態に応じて変化する温度を検出する温度センサの精度の高い故障診断を行うため、エンジンの始動後に、温度センサの故障を診断する。そして、エンジンが停止され、かつ、温度センサの故障判定条件が満たされた場合に、一定時間経過後に、温度センサの故障を再診断して、診断結果を確定する。
【0006】
特許文献4の制御装置では、エンジン運転中に、アイドルストップ制御のための自動停止条件が成立した時点で、それ以前に実行すべき異常診断が実行されていなければ、自動停止を禁止する。そして、異常診断実行条件を、走行中の条件からアイドル運転時の条件に切り換えて、停車中にエンジンをアイドル運転させた状態で異常診断を実行してから、自動停止を許可する。また、エンジン運転中に実行した異常診断の判定結果がグレーゾーンに属する場合に、自動停止を禁止して、エンジンをアイドル運転させた状態で異常診断を実行し直す。
【0007】
特許文献5のシートベルト装置では、故障診断として、イグニッション状態がOFFからONに切り替わって、ECUが起動した場合に、初期診断が行われる。また、車両がアイドルストップ状態でなくて、走行中である場合に、常時診断が行われる。さらに、アイドルストップ中に、電源電圧が低下して、ECUがリセットされた後、オルタネータの作動により、電源電圧が上昇して、ECUが起動した場合に、リセット診断が行われる。
【0008】
特許文献6の制御装置では、アイドルストップ状態に移行した場合に、EPS(電動パワーステアリング)用モータへの給電を停止し、EPS制御部への給電を停止しない。これにより、従来、EPS制御部に給電を開始した際に行われていた故障診断などの起動処理が、アイドルストップ停止によるエンジンの再始動後に行われなくなる。
【0009】
制御対象の動作を制御する制御装置では、その制御に支障を来たすおそれがある故障を検出した場合、制御対象への給電を停止し、制御対象の制御が行われなくなる。ところが、そのような故障には、一時的で、その後解消するものがある。たとえば、制御対象の給電ライン上に設けられたリレーの故障診断において、絶縁性を有する異物が接点間に挟み込まれると、接点がON状態にならず、制御対象に給電できないので、接点の故障を検出する。しかしその後、振動などにより、異物が接点間から移動すると、上記故障が解消する。
【0010】
このように、一旦検出した故障がその後解消しても、制御装置が制御対象への給電を停止したままであれば、制御対象が駆動することはなく、制御対象の制御が行われることはない。なお、イグニッション状態が、一旦OFFになった後にONになって、制御装置が再起動すると、故障診断はやり直されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−77904号公報
【特許文献2】特開2001−304025号公報
【特許文献3】特開2008−25468号公報
【特許文献4】特開2008−151041号公報
【特許文献5】特開2011−131671号公報
【特許文献6】特開2010−248964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、再起動しなくても、故障の発生と解消に対応することができる電子制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る電子制御装置は、制御対象への給電と動作とを制御する制御部と、制御部の起動時と動作中とに故障を診断する故障診断部と、車両システムの他の装置からアイドルストップ状態の解除を示す信号を受信する受信部とを備える。制御部は、故障診断部により故障を検出すると、制御対象への給電を停止し、その後、受信部によりアイドルストップ状態の解除を示す信号を受信すると、故障診断部により再度故障を診断する。当該診断の結果、故障が検出された場合は、制御対象への給電の停止が継続され、故障が検出されなかった場合は、制御対象へ給電が行われる。
【0014】
また、本発明に係る他の電子制御装置は、制御対象への給電と動作とを制御する制御部と、制御部の起動時と動作中とに故障を診断する故障診断部と、車両システムの他の装置からアイドルストップ状態を示す信号を受信する受信部とを備える。制御部は、故障診断部により故障を検出すると、制御対象への給電を停止し、その後、受信部によりアイドルストップ状態を示す信号を受信すると、故障診断部により再度故障を診断する。当該診断の結果、故障が検出された場合は、制御対象への給電の停止が継続され、故障が検出されなかった場合は、制御対象へ給電が行われる。
【0015】
上記によると、故障が検出されて、制御対象への給電が停止された後、車両がアイドルストップの解除状態またはアイドルストップ状態になったときに、再度故障が診断される。そして、故障が解消していた場合に、制御対象へ給電して、制御対象の動作を制御することができる。よって、電子制御装置は、再起動しなくても、故障の発生と解消に対応することが可能となる。
【0016】
また、本発明では、上記電子制御装置において、制御部の起動時に故障診断部が行う故障診断は、制御部の動作中に故障診断部が行う故障診断と内容が異なっていて、制御対象の動作を停止させる必要がある内容を含み、制御部は、一旦故障を検出した後に行う前記再度の故障診断として、前記起動時の故障診断を故障診断部により行うようにしてもよい。
【0017】
また、本発明では、上記電子制御装置において、故障診断部により故障を検出しても、制御部への給電を継続するようにしてもよい。
【0018】
さらに、本発明では、上記電子制御装置において、制御部は、制御対象の動作を制御中に、車両がアイドルストップ状態になっても、制御対象の動作の制御を継続するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、再起動しなくても、故障の発生と解消に対応することができる電子制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るEPS−ECUの構成図である。
【図2】図1のEPS−ECUに備わる制御部を示した図である。
【図3】車両システムの一例を示した図である。
【図4】図1のEPS−ECUの動作フローチャートである。
【図5】他の実施形態に係るEPS−ECUの動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0022】
まず、本実施形態に係るEPS−ECU(電動パワーステアリングの電子制御装置)100の構成を、図1〜図3を参照しながら説明する。EPS−ECU100は、本発明の「電子制御装置」の一例である。
【0023】
図3に示す、電動パワーステアリングユニットとアイドルストップユニットとは、同一の車両システムに実装されている。電動パワーステアリングユニットにおいて、EPS−ECU100は、アシストモータ10を駆動して、公知の駆動機構50を作動させ、車両のハンドル操作をアシストする。EPS−ECU100は、アイドルストップユニットのIDS−ECU(アイドルストップの電子制御装置)200とCAN(カーエリアネットワーク)により接続されている。
【0024】
アイドルストップユニットにおいて、IDS−ECU200は、所定の停止条件が成立すると、アイドルストップ制御を行い、車両のエンジン70を停止させる。この状態がアイドルストップ状態である。その後、IDS−ECU200は、所定の再始動条件が成立すると、アイドルストップ制御を停止し、スタータモータ60を駆動して、エンジン70を再始動させる。この状態がアイドルストップの解除状態である。
【0025】
IDS−ECU200は、車両がアイドルストップ状態にあることを示すIDS信号と、アイドルストップ状態を解除したことを示すIDS解除信号とを、CANによりEPS−ECU100に送信する。各ECU100、200と各モータ10、60とは、バッテリ80から電力を供給される。
【0026】
図1に示すEPS−ECU100において、制御部1は、CPUやメモリなどから構成されている。電源電圧検出部2は、バッテリ80からEPS−ECU100に入力される電源電圧を検出する。制御電源生成部3は、バッテリ80の電圧を所定の大きさの電圧に変換して、制御部1用の電源を生成する。なお、図1中のVBATは、バッテリ80から各部へ供給される電源を表している。
【0027】
IG(イグニッション)電圧検出部4は、ダイオード39を介して、IGスイッチ40の一端に接続されている。IGスイッチ40の他端は、バッテリ80に接続されている。IG電圧検出部4は、IGスイッチ40の一端に現れる電圧を検出する。たとえば、IGスイッチ40がOFF状態(開状態)になったとき、IG電圧検出部4は、低レベル電圧を検出し、IGスイッチ40がOFF状態になったことを示すIG−OFF信号(低電圧信号)を制御部1に出力する。また、IGスイッチ40がON状態(閉状態)になったとき、IG電圧検出部4は、高レベル電圧を検出し、IGスイッチ40がON状態になったことを示すIG−ON信号(高電圧信号)を制御部1に出力する。
【0028】
トルクセンサ電源生成部6は、FET5のソースに接続されている。FET5のドレインは、電源VBATに接続されている。FET5のゲートは、制御部1に接続されている。制御部1がFET5のゲートに駆動信号を入力して、FET5がON状態になると、トルクセンサ電源生成部6が、電源VBATの電圧を所定の大きさの電圧に変換して、トルクセンサ41用の電源を生成する。
【0029】
トルクセンサ電源電圧検出部7は、トルクセンサ電源生成部6からトルクセンサ41に入力する電源電圧を検出する。トルクセンサ信号検出部8は、トルクセンサ41の出力信号を検出する。制御部1は、トルクセンサ信号検出部8の出力に基づいて、車両のハンドルの回転軸にかかる操舵トルクを検出する。
【0030】
CAN通信部9は、車両システムの他の装置とCANにより通信するためのインタフェイスである。他の装置には、IDS−ECU200が含まれる。制御部1は、IDS−ECU200から送信されたIDS信号とIDS解除信号とを、CAN通信部9により受信する。CAN通信部9は、本発明の「受信部」の一例である。
【0031】
アシストモータ10は、三相ブラシレスモータから構成されている。モータ駆動回路11は、6つのFET12a〜12fと3つのシャント抵抗13a〜13cとを有するブリッジ回路から構成されている。モータ駆動回路11は、アシストモータ10のA相、B相、およびC相に通電して、アシストモータ10を駆動させる。
【0032】
ゲート駆動部14は、モータ駆動回路11の各FET12a〜12fのゲートに駆動信号を入力して、各FET12a〜12fのON・OFF状態を切り替える。制御部1は、ゲート駆動部14にゲート駆動許可信号を入力し、ゲート駆動部14を介してモータ駆動回路11を制御する。詳しくは、制御部1は、ゲート駆動部14により各FET12a〜12fのON・OFF状態を切り替えて、アシストモータ10の各相に流れる電流の大きさと向きを制御する。モータ相電流検出部15は、各シャント抵抗13a〜13cの両端の電圧に基づいて、アシストモータ10の各相に流れる電流を検出する。
【0033】
モータ駆動回路11とアシストモータ10との間には、モータリレー16が設けられている。詳しくは、モータ駆動回路11からアシストモータ10への3つの通電ラインのうち、2つの通電ライン上に、モータリレー16の接点が接続されている。モータリレー16のコイル(図示省略)は、電源VBATとモータリレー駆動部17との間に接続されている。モータリレー駆動部17は、スイッチング素子などから構成されている。
【0034】
制御部1は、モータリレー駆動部17により、モータリレー16のON・OFF状態を切り替える。詳しくは、制御部1は、モータリレー駆動部17を駆動して、モータリレー16のコイルに通電し、モータリレー16の接点をON状態にする。また、制御部1は、モータリレー駆動部17の駆動を停止して、モータリレー16のコイルへの通電を停止し、モータリレー16の接点をOFF状態にする。
【0035】
モータリレー16がON状態になると、モータ駆動回路11とアシストモータ10とが電気的に接続される。モータリレー16がOFF状態になると、モータ駆動回路11とアシストモータ10とが電気的に切断される。モータ端子電圧検出部18は、アシストモータ10の各相の端子にかかる電圧を検出する。
【0036】
バッテリ80とモータ駆動回路11との間には、電源リレー19が設けられている。電源リレー19とモータ駆動回路11との間には、コンデンサ20が設けられている。コンデンサ20とモータ駆動回路11との間には、シャント抵抗21が設けられている。つまり、バッテリ80からモータ駆動回路11への通電ライン上に、電源リレー19の接点、コンデンサ20、およびシャント抵抗21が接続されている。
【0037】
電源リレー19のコイル(図示省略)は、電源VBATと電源リレー駆動部22との間に接続されている。電源リレー駆動部22は、スイッチング素子などから構成されている。制御部1は、電源リレー駆動部22により、電源リレー19のON・OFF状態を切り替える。詳しくは、制御部1は、電源リレー駆動部22を駆動して、電源リレー19のコイルに通電し、電源リレー19の接点をON状態にする。また、制御部1は、電源リレー駆動部22の駆動を停止して、電源リレー19のコイルへの通電を停止し、電源リレー19の接点をOFF状態にする。
【0038】
電源リレー19がON状態になると、バッテリ80とモータ駆動回路11とが電気的に接続される。電源リレー19がOFF状態になると、バッテリ80とモータ駆動回路11とが電気的に切断される。
【0039】
コンデンサ20は、バッテリ80の電圧を平滑化する。モータ/コンデンサ電圧検出部23は、モータ駆動回路11にかかる電圧を検出する。また、モータ/コンデンサ電圧検出部23は、電源リレー19がOFF状態の時に、コンデンサ20の電圧を検出する。過電流検出部24は、シャント抵抗21の両端の電圧に基づいて、モータ駆動回路11に流れる過電流を検出する。
【0040】
自己保持回路25は、電源リレー19と並列に設けられている。自己保持回路25のFET26のドレインは、ダイオード38を介して、バッテリ80に接続されている。FET26のソースは、プリチャージ回路27のダイオード35のカソード、FET28のドレイン、電源電圧検出部2、および制御電源生成部3に接続されている。FET26のゲートは、ダイオード36を介して、IGスイッチ40に接続され、かつ、ダイオード37を介して、制御部1に接続されている。
【0041】
プリチャージ回路27のFET28のソースは、抵抗29の一端に接続されている。抵抗29の他端は、ダイオード35のアノード、電源リレー19、およびコンデンサ20に接続されている。FET28のゲートは制御部1に接続されている。
【0042】
IGスイッチ40がON状態に操作されると、バッテリ80の電力がIGスイッチ40を介して、自己保持回路25のFET26のゲートに入力される(図中のIGN)。すると、FET26がON状態になって、バッテリ80からの電力がダイオード38とFET26とを介して、電源電圧検出部2、制御電源生成部3、リレー16、19のコイル、およびFET5のドレインに供給される。そして、制御電源生成部3が、制御部1に電源を投入して、制御部1が起動する。起動後、制御部1が、FET26のゲートに駆動信号を入力すると、FET26のON状態が保持され、バッテリ80から上記各部への電力の供給が継続される。
【0043】
また、制御部1が、プリチャージ回路27のFET28のゲートに駆動信号を入力すると、FET28がON状態になって、バッテリ80からの電力がダイオード38、FET26、FET28、および抵抗29を介して、コンデンサ20に供給される。コンデンサ20は、電源リレー19がOFF状態の時に、プリチャージ回路27により充電される。
【0044】
モータ駆動回路11、リレー16、19、コンデンサ20、シャント抵抗21、およびサーミスタ30は、同一の基板に実装されている。温度検出部31は、サーミスタ30によりモータ駆動回路11の周囲の温度を検出する。
【0045】
レゾルバ電源生成部32は、制御部1からの出力に基づいて、レゾルバ42用の電源を生成する。レゾルバ電源電圧検出部33は、レゾルバ電源生成部32からレゾルバ42に入力する電源電圧を検出する。レゾルバ信号検出部34は、レゾルバ42の出力信号を検出する。制御部1は、レゾルバ信号検出部34の出力に基づいて、アシストモータ10の回転角度を検出する。
【0046】
制御部1には、図2に示すように、リレー制御部1a、モータ制御部1b、および故障診断部1cが備わっている。これらは、たとえばソフトウェアで構成されている。
【0047】
リレー制御部1aは、モータリレー駆動部17および電源リレー駆動部22を制御して、モータリレー16と電源リレー19のON・OFF状態を切り替える。つまり、制御部1は、リレー制御部1aと各リレー駆動部17、22により、各リレー16、19を駆動して、アシストモータ10に対する給電を制御する。
【0048】
モータ制御部1bは、上述したように各部で検出した、ハンドルの操舵トルク、アシストモータ10の回転角度、およびアシストモータ10の各相の電流と電圧に基づいて、ゲート駆動部14を制御して、モータ駆動回路11によりアシストモータ10を駆動する。つまり、制御部1は、モータ制御部1bとゲート駆動部14により、モータ駆動回路11を駆動して、アシストモータ10の動作を制御する。アシストモータ10は、本発明の「制御対象」の一例である。
【0049】
故障診断部1cは、起動時診断プログラム1dに基づいて、制御部1の起動時に所定の故障を診断する(以下、この故障診断を「起動時診断」という)。また、故障診断部1cは、動作中診断プログラム1eに基づいて、制御部1の動作中に所定の故障を診断する(以下、この故障診断を「動作中診断」という)。
【0050】
故障発生時には、故障診断部1cを主とする、故障検出機能によって故障を検出し、停止手段によってハンドル操作のアシストを停止しなければならない。このため、制御部1は、故障診断部1cにより、起動時に起動時診断を行い、動作中に定期的に動作中診断を行う。その後、アシスト動作を再開する際には、故障のあった箇所が正常に機能することを確認できなければならない。このため、制御部1は、一旦故障を検出した後、故障診断部1cにより、再度起動時診断を行う。
【0051】
起動時診断と動作中診断とは、内容が異なっている。起動時診断は、故障検出機能および停止手段の故障を検出する診断である。起動時診断には、アシストモータ10の動作を停止させる必要のある内容や、ハンドルをロックさせる必要のある内容が含まれている。このため、起動時診断は、制御部1の起動直後や停車中に実施するのが望ましい。起動時診断としては、たとえば、モータリレー16と電源リレー19の各接点のON・OFF固着、モータ駆動回路11のFET12a〜12fのゲート駆動の異常、およびトルクセンサ41への給電・給電停止の異常などがある。
【0052】
一方、動作中診断は、ハンドル操作を正常にアシストしているか否かと、アシストを継続してもよいか否かを確認するために、アシスト機能の故障を検出する診断である。動作中診断は、アシスト機能を停止していないときに実施される。動作中診断としては、たとえば、アシストモータ10やモータ駆動回路11に対して、過電流が流れていないか、電流が正常に流れているか、EPS−ECU100が過熱していないか、などの診断がある。故障診断の結果は、制御部1のメモリに記憶される。
【0053】
次に、EPS−ECU100の動作を、図4を参照しながら説明する。
【0054】
図1のIGスイッチ40がON状態に操作されると、制御部1への給電が開始されて、制御部1が起動し、IG電圧検出部4からIG−ON信号を受信する(図4のステップS1)。そして、制御部1は、電源リレー19、モータリレー16、およびモータ駆動回路11のFET12a〜12fをOFF状態にする(ステップS2)。これにより、アシストモータ10への給電と、アシストモータ10の動作の制御が停止状態のままとなる。
【0055】
次に、制御部1は、故障診断部1cにより起動時診断を実施する(ステップS3)。ここで、起動時診断がOKであれば(ステップS4:YES)、すなわち、起動時診断で故障が検出されなければ、制御部1は、電源リレー19、モータリレー16、およびモータ駆動回路11のFET12a〜12fをON状態にする(ステップS5)。これにより、アシストモータ10への給電が開始される。
【0056】
そして、制御部1は、故障診断部1cにより動作中診断を実施する(ステップS6)。ここで、動作中診断がOKであれば(ステップS7:YES)、すなわち、動作中診断で故障が検出されなければ、制御部1は、アシストモータ10の動作を制御して、ハンドル操作のアシストを実施する(ステップS8)。制御部1は、アシストモータ10の動作の制御中、すなわち、ハンドル操作のアシスト中に、車両がIDS(アイドルストップ)状態になっても、アシストモータ10の動作の制御を継続して、ハンドル操作のアシストを実施する。
【0057】
そして、制御部1は、IG−OFF信号の受信を監視する(ステップS9)。ステップS6〜S9は、IGスイッチ40がON状態にある間、定期的に実行される。
【0058】
その後、IGスイッチ40がOFF状態に操作されると、制御部1は、IG電圧検出部4からIG−OFF信号を受信する(ステップS9:YES)。そして、制御部1は、電源リレー19、モータリレー16、およびモータ駆動回路11のFET12a〜12fをOFF状態にして(ステップS10)、動作を終了する。これにより、アシストモータ10への給電と、アシストモータ10の動作の制御が停止され、アシストモータ10およびハンドル操作のアシストが停止状態になる。また、IGスイッチ40がOFF状態に操作されたことで、制御部1への給電が停止されて、制御部1が停止状態になる。
【0059】
一方、ステップS3の起動時診断で故障が検出されると、制御部1は、起動時診断がOKでないので(ステップS4:NO)、IDS解除信号(アイドルストップ状態の解除を示す信号)の受信を監視する(ステップS12)。また、制御部1は、IG−OFF信号の受信を監視する(ステップS13)。このとき、制御部1への給電は継続される。
【0060】
他方、ステップS6の動作中診断で故障が検出されると、制御部1は、動作中診断がOKでないので(ステップS7:NO)、電源リレー19、モータリレー16、およびモータ駆動回路11のFET12a〜12fをOFF状態にする(ステップS11)。これにより、アシストモータ10への給電と、アシストモータ10の動作の制御が停止される。このとき、制御部1への給電は継続される。ただし、制御部1は、通常より低い電圧で動作する待機状態となる。
【0061】
そして、制御部1は、IDS解除信号の受信を監視する(ステップS12)。また、制御部1は、IG−OFF信号の受信を監視する(ステップS13)。
【0062】
その後、制御部1は、IDS−ECU200からIDS解除信号をCAN通信部9により受信すると(ステップS12:YES)、故障診断部1cにより起動時診断を再度実施する(ステップS3)。
【0063】
先に検出された故障が、前回の起動時診断で検出された故障であって、既に解消している場合は、故障が検出されず、再度の起動時診断がOKとなる(ステップS4:YES)。このため、制御部1は、電源リレー19、モータリレー16、およびモータ駆動回路11のFET12a〜12fをON状態にする(ステップS5)。これにより、アシストモータ10への給電が開始される。この後、制御部1は、以降の処理を実行する。
【0064】
また、前回の起動時診断で検出された故障が、再度の起動時診断を実施するときまでに解消していない場合は、再び故障が検出されて、再度の起動時診断がOKにならない(ステップS4:NO)。このため、制御部1は、再度、IDS解除信号およびIG−OFF信号の受信を監視する(ステップS12およびステップS13)。
【0065】
一方、先に検出された故障が前回の動作中診断で検出された故障であり、かつ、再度の起動時診断で故障が検出されなかった場合は、再度の起動時診断がOKとなる(ステップS4:YES)。このため、制御部1は、電源リレー19、モータリレー16、およびモータ駆動回路11のFET12a〜12fをON状態にして(ステップS5)、アシストモータ10への給電を開始する。
【0066】
そして、制御部1は、故障診断部1cにより動作中診断を再度実施する(ステップS6)。このとき、前回の動作中診断で検出された故障が解消している場合は、故障が検出されず、再度の動作中診断がOKとなる(ステップS7:YES)。このため、制御部1は、アシストモータ10の動作を制御して、ハンドル操作のアシストを実施する(ステップS8)。このとき、制御部1が待機状態にある場合は、待機状態を解除して、通常状態になってから、アシストモータ10の動作を制御し、ハンドル操作のアシストを実施する。この後、制御部1は、以降の処理を実行する。
【0067】
また、前回の動作中診断で検出された故障が、再度の動作中診断を実施するときまでに解消していない場合は、再び故障が検出されて、再度の動作中診断がOKにならない(ステップS7:NO)。このため、制御部1は、電源リレー19、モータリレー16、およびモータ駆動回路11のFET12a〜12fをOFF状態にして(ステップS11)、アシストモータ10への給電と、アシストモータ10の動作の制御を停止する。そして、制御部1は、再度、IDS解除信号とIG−OFF信号の受信を監視する(ステップS12およびステップS13)。
【0068】
その後、IDS解除信号を受信せず(ステップS12:NO)、IGスイッチ40がOFF状態に操作されると、制御部1は、IG電圧検出部4からIG−OFF信号を受信する(ステップS13:YES)。そして、制御部1は動作を終了し、停止状態になる。
【0069】
図4の実施形態では、起動時診断または動作中診断で故障を検出した(ステップS4:NO、ステップS7:NO)後、IDS解除信号を受信したときに(ステップS12:YES)、起動時診断を再度実施している(ステップS3)が、本発明はこれに限定するものではない。
【0070】
これ以外に、たとえば図5に示すように、制御部1が、起動時診断または動作中診断で故障を検出した(ステップS4:NO、ステップS7:NO)後、IDS信号(アイドルストップ状態を示す信号)を受信したときに(ステップS12a:YES)、起動時診断を再度実施する(ステップS3)ようにしてもよい。つまり、図5の実施形態では、制御部1は、起動時診断または動作中診断での故障検出後に、IDS信号の受信を監視する(ステップS12a)。
【0071】
上記各実施形態によると、起動時診断または動作中診断により、故障が検出されて、アシストモータ10への給電が停止された後、車両がアイドルストップの解除状態またはアイドルストップ状態になったときに、起動時診断が再度実施される。
【0072】
そして、先に検出された故障が、前回の起動時診断で検出された故障であって、解消した場合は、再度の起動時診断で故障が検出されず、アシストモータ10へ給電して、アシストモータ10の動作を制御し、ハンドル操作のアシストを実施することができる。
【0073】
また、先に検出された故障が、前回の動作中診断で検出された故障であり、かつ、再度の起動時診断で故障が検出されなかった場合は、アシストモータ10へ給電して、動作中診断が再度実施される。そして、前回の動作中診断で検出された故障が解消した場合は、再度の動作中診断で故障が検出されず、アシストモータ10への給電を継続して、アシストモータ10の動作を制御し、ハンドル操作のアシストを実施することができる。
【0074】
よって、EPS−ECU100では、制御部1が再起動しなくても、故障の発生と解消に対応することが可能となる。
【0075】
また、図4の実施形態では、車両がアイドルストップ状態を解除した直後に、起動時診断を再度実施するので、このとき故障が解消していれば、エンジン始動直後で、車両が動き出そうとしているとき(停車時または極低速時)に、アシストモータ10へ給電して、アシストモータ10の動作を制御し、ハンドル操作のアシストを実施することができる。
【0076】
なお、車両がアイドルストップ状態になる前に、発端となる故障が検出されて、アシストモータ10への給電が停止されているので、アシストモータ10への給電の開始が、エンジン始動時から遅れても、利用者が変化を感じることはない。
【0077】
また、図5の実施形態では、車両がアイドルストップ状態にあるときに、再度起動時診断を実施するので、このとき故障が解消していれば、エンジン始動前の停車中に、アシストモータ10へ給電して、アシストモータ10の動作を制御し、ハンドル操作のアシストを実施することができる。
【0078】
また、上記実施形態では、車両がアイドルストップ状態にあるとき、または、アイドルストップ状態を解除した直後に、すなわち、エンジン始動前の停車中、または、エンジン始動直後に車両が動き出そうとしているときに、アシストモータ10の動作を停止させる必要がある起動時診断を、再度安全に行うことができる。
【0079】
また、上記実施形態では、起動時診断または動作中診断により、故障を検出しても、制御部1への給電を継続するので、制御部1が再度の起動時診断を確実に実施することができる。
【0080】
さらに、上記実施形態では、アシストモータ10の動作の制御中に、車両がアイドルストップ状態になっても、アシストモータ10の動作の制御が継続されるので、ハンドル操作のアシストが実施されて、利用者の便宜を図ることができる。
【0081】
本発明は、上述した以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、上記実施形態では、起動時診断と動作中診断の内容が異なる例を挙げたが、本発明はこれのみに限定するものではない。起動時診断と動作中診断の内容は、全部または一部が一致していてもよいし、一方の内容が他方の内容の一部を省略したものであってもよい。また、故障診断の内容は、上記実施形態で挙げた内容に限定するものではない。
【0082】
また、上記実施形態では、EPS−ECU100に本発明を適用した例を挙げたが、これ以外の車両システムに実装される制御対象を有した電子制御装置に対しても、本発明を適用することは可能である。また、制御対象は、モータ以外の機器であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 制御部
1c 故障診断部
9 CAN通信部
10 アシストモータ
100 EPS−ECU
200 IDS−ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象への給電と動作とを制御する制御部と、
前記制御部の起動時と動作中とに故障を診断する故障診断部と、
車両システムの他の装置からアイドルストップ状態の解除を示す信号を受信する受信部と、を備え、
前記制御部は、
前記故障診断部により故障を検出すると、前記制御対象への給電を停止し、
その後、前記受信部によりアイドルストップ状態の解除を示す信号を受信すると、前記故障診断部により再度故障を診断し、
当該診断の結果、
故障が検出された場合は、前記制御対象への給電の停止を継続し、
故障が検出されなかった場合は、前記制御対象へ給電する、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
制御対象への給電と動作とを制御する制御部と、
前記制御部の起動時と動作中とに故障を診断する故障診断部と、
車両システムの他の装置からアイドルストップ状態を示す信号を受信する受信部と、を備え、
前記制御部は、
前記故障診断部により故障を検出すると、前記制御対象への給電を停止し、
その後、前記受信部によりアイドルストップ状態を示す信号を受信すると、前記故障診断部により再度故障を診断し、
当該診断の結果、
故障が検出された場合は、前記制御対象への給電の停止を継続し、
故障が検出されなかった場合は、前記制御対象へ給電する、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電子制御装置において、
前記制御部の起動時に前記故障診断部が行う故障診断は、前記制御部の動作中に前記故障診断部が行う故障診断と内容が異なっていて、前記制御対象の動作を停止させる必要がある内容を含み、
前記制御部は、一旦故障を検出した後に行う前記再度の故障診断として、前記起動時の故障診断を前記故障診断部により行う、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子制御装置において、
前記故障診断部により故障を検出しても、前記制御部への給電を継続する、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電子制御装置において、
前記制御部は、前記制御対象の動作を制御中に、車両がアイドルストップ状態になっても、前記制御対象の動作の制御を継続する、ことを特徴とする電子制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104347(P2013−104347A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248592(P2011−248592)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)
【Fターム(参考)】