説明

電子式回路遮断器

【課題】零相変流器を用いることなく漏電の発生を検出することができ、遮断器ケース等の大型化を抑制することができる電子式回路遮断器を提供する。
【解決手段】各変流器10に電線を巻回させてなるコイル部11を設け、コイル部11、11・・に流れる電流を計測し、該計測結果をもとに所定のベクトル演算を行うことによって漏電の発生の検出を可能とした。したがって、零相変流器を用いることなく漏電の発生を検出することができ、遮断器ケース等の大型化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏電の発生を電子的に検出するとトリップ動作する漏電検出機能を備えた電子式回路遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パーマロイを用いた変流器を内蔵しており、該変流器に流れる電流値を計測し、電子的に過電流の発生を検出可能とした電子式回路遮断器は広く知られており、たとえば特許文献1に開示されているようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−173707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上述したような従来の電子式回路遮断器に対して、漏電検出機能をも備えることが望まれている。しかしながら、漏電検出手段としては零相変流器が一般的であり、上記電子式回路遮断器に零相変流器を付加しようとすると、零相変流器を設置するスペースだけ遮断器ケース等を大型化しなければならないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、零相変流器を用いることなく漏電の発生を検出することができ、遮断器ケース等の大型化を抑制することができる電子式回路遮断器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、開閉可能な接点を有する3つの電路と、前記接点を作動させて前記電路をオフする引き外し部と、各前記電路に配設されるパーマロイを用いた変流器と、前記変流器によって各前記電路に流れる電流を計測し、該電流が所定値を超えると前記引き外し部を作動させて前記電路をオフする制御部とを備えた三相三線式電路に使用される電子式回路遮断器であって、各前記変流器に電線を別途巻回させたコイル部と、各前記コイル部に生じる電流を計測し、その計測結果をもとに所定のベクトル演算を実施する演算部とからなる漏電検出手段を備えており、前記制御部は、前記演算部の演算結果にもとづいて各前記電路に漏電が発生しているか否かを判断し、漏電が発生している場合には前記引き外し部を作動させて前記電路をオフすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、各変流器に電線を別途巻回させてなるコイル部を設け、各コイル部に流れる電流を計測し、その計測結果をもとに所定のベクトル演算を行うことによって漏電の発生の検出を可能としている。したがって、零相変流器を用いることなく漏電の発生を検出することができ、遮断器ケース等の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】電子式回路遮断器のブロック構成を示した説明図である。
【図2】コイル部が設けられた変流器の外観を示した説明図である。
【図3】コイル部で検出した電流にもとづいて算出した交流電圧のベクトル図であって、(a)は正常時、(b)は漏電発生時を夫々示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態となる電子式回路遮断器について、図面にもとづき詳細に説明する。
【0010】
図1は、電子式回路遮断器1のブロック構成を示した説明図である。
電子式回路遮断器1は、三相式の電路に使用されるものであって、図示しない遮断器ケースの内部空間に、外部電源2と負荷3とを電気的に接続する3つの電路L1、L2、L3を備えてなる。また、各電路L1、L2、L3には接点4が設けられているとともに、接点4、4・・を開閉するための図示しないハンドル等を有する引き外し部5が設けられている。さらに、電路L1、L2、L3に流れる電流を検出するための電流検出部6、電路L1、L2、L3の電圧を検出するための電圧検出部7、及び電流検出部6や電圧検出部7からの電流情報・電圧情報に基づいて引き外し部5を作動させるCPUを備えた制御部8が設けられている。加えて、各電路L1、L2、L3には、パーマロイを用いた変流器10が配設されており、変流器10、10・・は全て電流検出部6に電気的に接続されている。尚、9は、制御部8等に駆動電源を供給するための電源回路である。
【0011】
以上の電子式回路遮断器1によれば、電源回路9は、たとえば電路L1−L2間と電路L2−L3間との2組の線間電圧をもとにして、制御部8や電流検出部6等の駆動電源を生成する。また、電流検出部6は、変流器10、10・・によって各電路L1、L2、L3の電流を検出し、電流情報I1、I2、I3として制御部8へ出力する。さらに、電圧検出部7は、電路L1−L2間と電路L2−L3間との線間電圧を検出し、電圧情報V1、V2として制御部8へ出力する。そして、制御部8では、電流検出部6及び電圧検出部7から入力された電流情報I1〜I3及び電圧情報V1、V2にもとづいて、過電流や短絡電流の発生等といった通電異常を検出し、該通電異常を検出すると引き外し部5を作動させて接点4、4・・を開くといったトリップ動作を実行させる。
【0012】
さらに、電子式回路遮断器1は、以下に詳述するような漏電検出手段を備えている。ここで、本発明の要部となる電子式回路遮断器1における漏電検出機能について説明する。
漏電検出手段は、電流の検出に使用する変流器10、10・・、各変流器10に電線を巻回させてなるコイル部11、11・・、各コイル部11により検出される電流を交流電圧に変換してサンプリングするサンプルホールド回路12、12・・と、サンプルホールドされた交流電圧をデジタルの電圧情報に変換するA/D変換回路13、13・・と、変換された電圧情報をもとに種々の演算を行う演算処理部14とからなる。尚、コイル部11は、図2(a)に示すように、C字状に形成された変流器10の略中央箇所に電線を巻回させてなる。また、各変流器10は、遮断器ケース内において、図2(b)に示すように、負荷3から延びる電線が接続される負荷側端子を構成する負荷座21の近傍に配置される。
【0013】
上述したような漏電検出手段における漏電検出について、図3にもとづき説明する。
そもそも、外部電源2から供給される交流電圧は位相が120°ずつずれており、電路L1、L2、L3の何れかの一相電圧(たとえば電路L1の一相電圧VD1)と、他の二相間の電圧(たとえば、電路L2、L3間の線間電圧VD23)とでは、位相が90°違い、大きさはVD1=VD23/√3の関係になるという前提がある。
ここで、変流器10、10・・に電流が流れることにより、コイル部11、11・・に電流が流れると、各サンプルホールド回路12・・にて各コイル部11に流れる電流を夫々測定して交流電圧に変換し、A/D変換回路13、13・・にてデジタルの電圧情報に変換した後、演算処理部14へ出力する。そして、演算処理部14では、電圧情報にもとづき所定の一相電圧(ここではVD1とする)と、他の二相の線間電圧(ここではVD23)とを求める。また、線間電圧VD23を90°回転させ、更に1/√3を掛ける(すなわち、VD23にj/√3を掛ける)といった処理を行うとともに、一相電圧VD1と前記処理後の線間電圧VD23との差を求める。
【0014】
ここで、漏電が発生していない場合には、上記前提にもとづき、ベクトル図は図3(a)に示すようになり、VD1−jVD23/√3=0となる。しかしながら、電路L1に漏電が発生すると、その際の電路L1の一相電圧VD1’は、VD1’=VD1+VD0に変化する(尚、VD0とは零相電圧である)。このとき、電路L2の一相電圧VD2及び電路L3の一相電圧VD3も一相電圧VD2’及び一相電圧VD3’に夫々変化するものの、線間電圧VD23’は線間電圧VD23と同じ値となる。また、一相電圧VD1と線間電圧VD23との位相差も変わらないとする(図3(b))。したがって、漏電が発生すると、一相電圧VD1’と上記処理後の線間電圧VD23(=VD23’)との差は、0ではなくVD0となる(VD1’−jVD23’/√3=VD0)。したがって、その差の計算結果(所定のベクトル演算の結果)を制御部8へ出力し、制御部8において当該VD0と予め定められた所定の閾値とを比較する。そして、VD0が閾値を超えると、ノイズ等に起因するものではなく、漏電が発生していると判断し、引き外し部5を作動させる等のトリップ動作を実行する。
【0015】
尚、漏電が発生すると厳密には、一相電圧VD1と線間電圧VD23との位相差は90°ではなくなる。したがって、ベクトルVD1とベクトルVD23との内積を求める、すなわち|VD1|×|VD23|×cosθ(θとは一相電圧VD1と線間電圧VD23との位相差)の計算を行うと何らかの値が生じることになる。そのため、当該値(所定のベクトル演算の結果)を制御部8へ出力し、制御部8において予め定められた所定の閾値と比較すれば、漏電の発生の有無を判断することができる。すなわち、上記方法にかえて、演算処理部14において、一相電圧VD1と線間電圧VD23とを求めるとともに、一相電圧VD1及び線間電圧VD23の絶対値と、一相電圧VD1と線間電圧VD23との位相差を求めることで、漏電の発生を検出することも可能である。
【0016】
以上のような構成を有する電子式回路遮断器1によれば、各変流器10に電線を巻回させてなるコイル部11を設け、コイル部11、11・・に流れる電流を計測し、該計測結果をもとに所定のベクトル演算を行うことによって漏電の発生の検出を可能としている。したがって、零相変流器を用いることなく漏電の発生を検出することができ、遮断器ケース等の大型化を抑制することができる。
【0017】
なお、上記形態では、電路L1についてのみ記載しているが、電路L2、L3についても同様の方法で漏電の発生を検出することができ、電路L2の一相電圧VD2と線間電圧VD13(電路L1、L3間の線間電圧)とから電路L2の漏電の発生を、電路L3の一相電圧VD3と線間電圧VD12(電路L1、L2間の線間電圧)とから電路L3の漏電の発生を夫々検出することができる。そして、制御部8と演算処理部14とでは、全ての電路L1、L2、L3において漏電が発生しているか否かを監視している。
【符号の説明】
【0018】
1・・電子式回路遮断器、2・・外部電源、3・・負荷、4・・接点、5・・引き外し部、6・・電流検出部、7・・電圧検出部、8・・制御部、9・・電源回路、10・・変流器、11・・コイル部、12・・サンプルホールド回路(演算部)、13・・A/D変換回路(演算部)、14・・演算処理部(演算部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉可能な接点を有する3つの電路と、前記接点を作動させて前記電路をオフする引き外し部と、各前記電路に配設されるパーマロイを用いた変流器と、前記変流器によって各前記電路に流れる電流を計測し、該電流が所定値を超えると前記引き外し部を作動させて前記電路をオフする制御部とを備えた三相三線式電路に使用される電子式回路遮断器であって、
各前記変流器に電線を別途巻回させたコイル部と、各前記コイル部に生じる電流を計測し、その計測結果をもとに所定のベクトル演算を実施する演算部とからなる漏電検出手段を備えており、
前記制御部は、前記演算部の演算結果にもとづいて各前記電路に漏電が発生しているか否かを判断し、漏電が発生している場合には前記引き外し部を作動させて前記電路をオフすることを特徴とする電子式回路遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−192607(P2011−192607A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59708(P2010−59708)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000124591)河村電器産業株式会社 (857)
【Fターム(参考)】