説明

電子放出素子、電子源および画像表示装置、並びに情報表示再生装置

【課題】低電界で高放出電流密度が得られる電子放出膜を提供する。
【解決手段】金属と炭素とを含む電子放出膜を備える電子放出素子であって、金属を除いた電子放出膜の密度を、1.2g/cm3以上1.8g/cm3以下とし、電子放出膜中における水素含有量が電子放出膜を構成する全原子に対し15原子%以上40原子%以下とする。さらに、電子放出膜の表面から10nmまでの範囲における金属の濃度を、電子放出膜中に含まれる炭素原子数に対し0.1原子%以上40原子%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子放出膜を備える電子放出素子に関し、特に、テレビ受像機、コンピュータの表示装置、電子線描画装置などに用いられる電子源、画像表示装置、および映像受信表示装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、表面伝導型電子放出素子において、電子放出部を有する薄膜がアモルファスカーボンと導電性微粒子とを有する素子としては、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1に記載された電子放出部は、アモルファスカーボンであり、薄膜部に導電性粒子を有するものである。
【0003】
また、フラットパネルディスプレイ(FPD)の分野においては、ますます低消費電力化が望まれているとともに、ますます高精細化され高輝度化されたFPDが要請されている。
【特許文献1】特開平8−55563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、電子放出材料としては、少しでも低電界で所望の電子放出密度が得られるものが求められている。また、FPDの構成からは、電子放出材料として、幾何形状を均一に制御しやすいものが求められている。
【0005】
したがって、この発明の目的は、低電界で高放出電流密度が得られるほぼ平坦な電子放出膜を有する電子放出素子、および、この電子放出素子を備えた装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明は、
金属および炭素を含む電子放出膜を有する電子放出素子であって、
前記金属を除いた前記電子放出膜の密度が1.2g/cm3以上1.8g/cm3以下であり、
前記電子放出膜における水素含有量が前記電子放出膜を構成する全原子に対し15原子%以上40原子%以下である
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、低電界で高放出電流密度が得られる電子放出素子を提供することができる。そのため、駆動電圧を低減し消費電力を低減することが可能となる。さらに、同表示寸法における高精細化を実現でき、画素寸法が小さくなる場合と比較して放出電流密度を高くできるため、高輝度化されたパネルを提供可能な電子放出素子として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0009】
以下、この発明の前提となる実施形態について図面を用いて説明する。図1に、この実施形態による電子放出膜を示す。図1に示すように、この実施形態による電子放出膜は、水素含有アモルファスカーボンからなるアモルファスカーボン層11に金属粒子12が分散されている。
【0010】
また、この実施形態による電子放出素子は、金属と炭素を含む電子放出膜を備える電子放出素子である。そして、この金属以外の電子放出膜の密度は、1.2g/cm3以上1
.8g/cm3以下である。また、電子放出膜中における水素含有量は、電子放出膜を構
成する全原子に対して、15原子%(atm%)以上40原子%(atm%)以下である。
【0011】
また、この電子放出膜の表面から10nmまでの範囲における上述の金属濃度は、電子放出膜中に含まれる炭素原子数に対して0.1原子%以上40原子%以下である。なお、電子放出膜の表面から10nmを超える領域における金属の濃度に関しては、どのような濃度であっても良く、特に限定されるものではない。また、この実施形態による電子放出膜はほぼ平坦であり、具体的には、電子放出が行われる電子放出膜の表面における、表面平均二乗粗さRmsが10nm以下の電子放出膜である。
【0012】
また、この実施形態による電子放出素子に形成された電子放出膜においては、電子放出膜中の電子伝導は、金属および炭素(カーボン)に依存して行われると考えられる。さらに、電子放出膜からの電子放出は、炭素(カーボン)、水素、金属に依存して行われると考えられる。そのため、電子放出膜内における炭素密度が低くなると、電子放出膜自体がスカスカの状態になり、電子放出部としての電子放出膜の表面への電子伝導パスが減少して、電子放出特性が悪化してしまう。他方、電子放出膜内における炭素密度が高くなると、炭素の結晶性が向上して炭素と水素との結合個所が極端に少なくなる。これにより、電子放出に効く混成軌道を形成しにくくなり、結果として、電子放出が行われるサイトが減少し、電子放出特性が悪くなってしまう。
【0013】
以上のことを勘案すると、この実施形態による電子放出膜中の金属を除いた電子放出膜の密度は、1.2g/cm3以上1.8g/cm3以下が望ましい。さらに、電子放出膜中における水素含有率を、15原子%以上40原子%以下にすることによって、低電界で高放出の電流密度が得られる電子放出膜を形成することができる。
【0014】
また、本発明者の知見によれば、電子放出素子にとって有効に機能する電子放出膜としては、表面近傍の金属濃度が、実用的な範囲として、炭素原子数に対して0.1原子%以上40原子%以下であることが望ましい。これは、電子放出膜の表面付近における金属濃度が、電子放出部数に効いていることに起因すると考えられる。ここで、電子放出膜表面近傍とは、X線光電子分光法(XPS法)による測定時に、電子放出膜表面から10nmまでの範囲である。なお、電子放出膜の表面近傍外、すなわち10nmよりも深い領域においては、金属濃度が0.1原子%以下であっても40原子%以上であってもよい。
【0015】
また、この発明の電子放出素子が備える電子放出膜中の金属を除いた部分は、主成分として炭素と水素とから構成されている。含有される炭素と水素の量に対して、窒素や酸素などの不純物を微量に含有されていてもよいが、炭素や水素の量に対して、同等の量ほど含まれるものではない。さらに電子放出膜の表面は水素により終端(水素終端)され、水素化アモルファスカーボン(α−C:H)が構成されている。なお、電子放出膜の膜密度、含有水素量、炭素に対する金属の密度は、一般的な、X線反射率測定法、ラザフォード散乱分光法(RBS)/水素前方散乱法(HFS)、X線光電子分光法(XPS)、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定可能である。
【0016】
(電子放出膜の製造方法)
以上説明したこの実施形態による電子放出膜の製造方法について以下に説明する。なお、この実施形態による電子放出膜においては、図1に示すように、電子放出膜中に金属粒子12がある程度凝縮した状態で存在している。また、図1に示す電子放出膜の製造方法について図2を参照しつつ説明する。
【0017】
(工程1)
すなわち、図2Aに示すように、まず、表面が十分に洗浄された絶縁性基板21上に、導電膜22、金属薄膜23およびアモルファスカーボン層11を順次形成する。
【0018】
ここで、絶縁性基板21としては、例えば以下のようなものから適宜選択される。例えば、石英ガラス、ナトリウム(Na)などの不純物の含有量を減少させたガラス、青板ガラス、例えばシリコン(Si)基板に酸化シリコン(SiO2)膜を積層させた積層体、
またはアルミナ(Al23)などのセラミックスの絶縁性基板である。
【0019】
また、導電膜22としては、化学気相成長(CVD)法、蒸着法またはスパッタリング法などの一般的な真空成膜法や、印刷技術が利用されて形成される。ここで、導電膜22の材料としては、次のような材料から選択的に選ばれる。具体的には、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの金属や合金材料が挙げられる。また、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、金(Au)、白金(プラチナ(Pt))、バナジウム(Pd)などの金属や合金材料が挙げられる。また、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化タンタル(TaC)、炭化シリコン(SiC)、炭化タングステン(WC)などの炭化物を挙げることもできる。さらに、硼化ハフニウム(HfB2)、硼化ジルコニウム(ZrB2)、硼化ランタン(LaB6)、硼化セレン(CeB6)、硼化イットリウム(YB4)、硼化ガドリニウム(G
dB4)などの硼化物を挙げることもできる。また、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコ
ニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)などの窒化物を挙げることもできる。また、Si、ゲルマニウム(Ge)などの半導体などから適宜選択してもよい。また、導電膜22の膜厚は、10nm以上10μm以下の範囲で設定され、好ましくは10nm以上1μm以下の範囲から選択される。
【0020】
金属薄膜23は、さまざまなCVD法、蒸着法、スパッタ法などの一般的な成膜法により形成される。金属薄膜23の形成は、導電膜22と同一の方法により形成することも、他の方法により形成することも可能である。また、金属薄膜23の材料は、導電膜22と同一の材料にすることも、異なる材料にすることも可能であるが、アモルファスカーボン層11に拡散可能な材料を適宜選択する。この点から、Co、Pt、Niから適宜選択するのが好ましい。また、金属薄膜23を導電膜22と同一の材料で形成する場合には、導電膜22に金属薄膜23を兼用させることも可能である。この場合には、金属薄膜23の形成工程を省略することが可能である。また、金属薄膜23の膜厚としては、1μm以下の範囲内から設定され、好ましくは100nm以下の範囲から選択される。また、金属薄膜23は、アモルファスカーボン層11の積層後に形成して、アモルファスカーボン層11上に形成してもよい。この場合、金属薄膜23の膜厚は、10nm以下の範囲から設定され、好ましくは1nm以下の範囲から選択される。
【0021】
アモルファスカーボン層11は、さまざまなCVD法、スパッタリング法などの一般的な真空成膜法や、有機溶媒を加熱分解する技術により形成される。アモルファスカーボン層11を構成する材料は、主に炭素および水素であるが、窒素や酸素などの元素が微量に混入することは許容される。ここで、アモルファスカーボン層11の膜厚は、10μm以
下の範囲から選択され、好ましくは1μm以下の範囲から選択される。
【0022】
(工程2)
次に、炭化水素ガスを含む雰囲気中において加熱処理が行われる。これにより、図2Bに示すように、アモルファスカーボン層11中に金属粒子12が含まれた、この実施形態による電子放出膜が形成される。なお、炭化水素ガスを含む雰囲気中における加熱処理については、少なくとも一部の時間において炭化水素ガスを含む雰囲気中で加熱処理が行われる。すなわち、この加熱処理の工程中においては、継続して炭化水素ガスを含む雰囲気としてもよく、工程中の一部の時間のみ炭化水素ガスを含む雰囲気中で加熱処理を行うようにしてもよい。
【0023】
また、炭化水素ガスの材料は、CH4、C22、C24、C26、C36およびC78
などから適宜選択される。また、炭化水素ガスを含む雰囲気は、炭化水素ガスのみであってもよく、炭化水素と、H2、N2、Ar、Heなどのガスとの混合ガスであってもよい。また、この工程2におけるアモルファスカーボン層11の質について、工程1におけるアモルファスカーボン層11の質と異なるようにしてもよく、同じであっても良い。
【0024】
また、金属粒子12は、この工程2中に、金属薄膜23の原子がアモルファスカーボン層11に拡散して形成される。金属粒子12に関しては、金属薄膜23の原子が凝集体を形成し、分散して存在していてもよい。
【0025】
以上のようにして、この実施形態による電子放出膜が形成される。そして、この電子放出膜を設けることによって、電子銃などの電子源、電子放出素子などの電子放出を行う種々の素子を形成することができる。
【0026】
(電子放出膜)
次に、上述したこの実施形態による電子放出膜を適用した応用例について説明する。この実施形態による電子放出膜は、引き出し電極などと組み合わせて用いることにより、例えば電子放出素子を構成することができる。さらに、例えば、これらの電子放出素子を基体上に複数個配列させることにより、例えば電子源や画像形成装置を構成することができる。
【0027】
次に、この実施形態による電子放出膜を採用した電子放出素子を用いて構成される表示部としての画像表示装置について説明する。図3に、この実施形態による画像表示装置を示す。
【0028】
図3に示すように、画像表示装置においては、この実施形態による電子放出素子120が並べられて構成される。この電子放出素子120には引き出し電極121が接続されている。また、この画像表示装置には、フェースプレート126および外囲器129が設けられている。このフェースプレート126は、ガラス基板123、蛍光膜124およびメタルバック125から構成されている。そして、外囲器129は、このフェースプレート126を用いて、さらに支持枠128および電子源基板127が設けられて構成されている。なお、この電子源基板127は、電子を出射する電子放出素子120が複数配置されて構成されている。
【0029】
引出し電極121および陰極電極122は、それぞれ行方向配線および列方向配線としての機能を担わせることが可能である。他方、引出し電極121および陰極電極122に、それぞれ行方向配線および列方向配線を接続させて構成することも可能である。
【0030】
また、支持枠128には、低融点のフリットガラスなどを用いてフェースプレート12
6が接合されている。また、フェースプレート126と電子源基板127との間に、スペーサなどの支持体(図示せず)を少なくとも1つ設置させることも可能である。この支持体(スペーサ)を設けることによって、外囲器129を大気圧に対して十分な強度を維持させることができる。
【0031】
画像表示装置は、電子源基板127上に縦横に配置された電子放出素子120、引出し電極121、陰極電極122および外囲器129から構成される。
【0032】
図4に蛍光膜124の構成の一部を模式的に示す。図4に示すように、この蛍光膜124は、発光部材としての蛍光体41および光吸収部材42から構成される。蛍光体41は、表示させたい発光色に対応して規則的に配置される。具体的には、例えば、蛍光体41は、x方向に、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の順に配置され、y方向に同色の蛍光体41が配置される。そして、これらの蛍光体41のうちの必要な蛍光体41を発光させることによって、ガラス基板123の外面に画像が表示される。
【0033】
また、これらの蛍光体41は、相互に光吸収部材42によって仕切られている。この光吸収部材42が設けられていることにより、カラー表示の場合に必要となる三原色の、それぞれの蛍光体41での混色を抑制し、コントラストの低下を抑制することができる。
【0034】
(映像受信表示装置)
次に、この発明の実施形態による情報表示再生装置としての映像受信表示装置について説明する。図5に、この実施形態による映像受信表示装置を示す。なお、この実施形態による映像受信表示装置には、図3に示す画像表示装置が用いられる。
【0035】
図5に示すように、この実施形態による映像受信表示装置は、放送信号を受信する受信器としての映像情報受信装置51、画像信号生成回路52、駆動回路53および電子放出素子を用いた画像表示装置54を有して構成されている。
【0036】
そして、映像情報受信装置51によって受信された映像情報、文字情報および音声情報の信号(以下、映像情報信号)は、画像信号生成回路52に供給され、画像信号が生成されて出力される。ここで、映像情報受信装置51としては、例えば、無線放送、有線放送、インターネットを介した映像放送などを選局しつつ受信可能なチューナなどの受信器を挙げることができる。
【0037】
その後、画像信号生成回路52においては、映像情報から画像表示装置54のそれぞれの画素に対応した画像信号が生成され、駆動回路53に供給される。そして、駆動回路53においては、入力された画像信号に基づいて画像表示装置54に対する印加電圧を制御する。これにより、画像表示装置54に画像が表示される。以上のようにして、この実施形態による映像受信表示装置が構成され、動作される。
【0038】
(第1の実施例)
次に、上述した実施形態に基づいた第1の実施例について説明する。図1および図2については、上述した実施形態におけると同様であり、この第1の実施例に関して具体的に説明する。
【0039】
(工程1)
すなわち、図2Aに示すように、表面が十分に洗浄された石英基板からなる絶縁性基板21上に、例えば真空蒸着法により、TiN膜を蒸着させることにより、導電膜22を形成する。この第1の実施例においては、導電膜22の膜厚は200nmとする。
【0040】
次に、例えばスパッタリング法により、導電膜22上にPtを積層させることにより、金属薄膜23を形成する。この金属薄膜23の膜厚は、例えば20nmである。次に、マイクロ波CVD法により、金属薄膜23上にアモルファスカーボンを気相成長させることにより、アモルファスカーボン層11を形成する。この第1の実施例において、アモルファスカーボン層11の膜厚は、例えば30nmである。また、アモルファスカーボン層11の形成条件としては、使用ガスとして炭化水素ガス(CH4:H2=1:1)が用いられ、基板温度を例えば450℃、雰囲気圧を例えば100Torr(1.33×104Pa
)、印加電力を例えば150Wとする。
【0041】
(工程2)
次に、C22:1%H2/99%Ar=1:1で、雰囲気圧が10Torr(1.33
×103Pa)の炭化水素ガス雰囲気中において、550℃の基板温度で加熱処理を5時
間行う。これにより、図2Bに示すように、Ptがアモルファスカーボン層11中に熱拡散され、アモルファスカーボン層11中に金属粒子12を含んだ電子放出膜25が形成される。なお、アモルファスカーボン層11において、金属であるPtは凝集球を形成しつつ分散されている。
【0042】
その後、この第1の実施例による電子放出膜25のアモルファスカーボンの部分をRBS/HFSにより測定したところ、水素含有量が35原子%であった。また、この第1の実施例による電子放出膜25の金属粒子を除いたアモルファスカーボン部の膜密度は、X線反射率測定の結果とXPSによる含有元素比の測定結果から、1.2g/cm3であることがわかった。また、この第1の実施例の電子放出膜25の表面付近のPtの密度は、XPSによる含有元素比の測定結果から0.1原子%であることがわかった。
【0043】
そして、以上のように形成された電子放出膜25の電子放出特性について測定を行った。図6に、その測定方法の模式図を示す。
【0044】
図6に示すように、アノード電極61と電子放出膜25との間の距離Hに所定の電圧Vを印加して電子放出特性を測定した。アノード電極61は、可視光を透過する石英ガラス上に、透明導電薄膜(ITO、Indium Tin Oxide)と薄膜蛍光体層とが順次積層されて構成されている。そして、このアノード電極61においては、石英ガラスを通して発光画像を観測可能に構成されている。また、この第1の実施例においては、Hは100μm程度であり、印加電圧Vは、0〜5kVである。
【0045】
また、比較のため、電子放出膜の成膜条件を変えて、金属以外の部分の密度が1.1g/cm3である比較用の電子放出膜を形成して、同様の電子放出特性を計測した。その結
果、この第1の実施例による電子放出膜25は比較用の電子放出膜に対して、発光点が約1000倍向上したことが確認された。すなわち、電子放出部が約1000倍になったことに相当する効果が得られた。なお、比較用の電子放出膜に関しては、電子放出が不安定であるとともに、電圧の印加後、放電によって電子放出しなくなったことも併せて確認された。
【0046】
(第2の実施例)
次に、上述の実施形態に基づいた第2の実施例について説明する。なお、この第2の実施例においては、第1の実施例におけると同様の構成については説明を省略する。図7に、この第2の実施例による電子源の製造方法を示す。
【0047】
(工程1)
まず、図7Aに示すように、あらかじめ表面が十分に洗浄された例えば石英基板からなる絶縁性基板21上に、例えば真空蒸着法により窒化チタン(TiN)を蒸着させて導電
膜22を形成する。この第2の実施例においては、導電膜22の膜厚は例えば200nmである。次に、例えばマイクロ波CVD法により、導電膜22上にアモルファスカーボン層11を形成する。この第2の実施例においては、アモルファスカーボン層11の膜厚は例えば50nmである。また、アモルファスカーボン層11の形成条件としては、雰囲気ガスをアセチレン(C22):水素(H2)=3:1とし、この炭化水素ガスを含む雰囲
気圧を100Torr(1.33×104Pa)とする。また、マイクロ波電力を200
W、基板温度を800℃、基板バイアスを−200Vとする。その後、アモルファスカーボン層11上に、例えばスパッタリング法によりコバルト(Co)を、例えば3nm程度の膜厚で形成することにより、金属薄膜23を形成する。
【0048】
(工程2)
次に、圧力が10-6Torr(1.33×10-4Pa)の真空中において、基板温度を650℃として、加熱処理を4時間行うことによって、Coをアモルファスカーボン層11中に熱拡散させる。続いて、加熱処理を30分間行うことによって、図7Bに示すように、アモルファスカーボン層11中に金属粒子12を含んだ電子放出膜25を形成する。なお、この加熱処理条件の一例を挙げると、雰囲気ガスとしてメタンガス(CH4)を用
い、圧力を50Torr(6.67×103Pa)、基板温度を650℃とした。なお、
アモルファスカーボン層11中において、金属であるCoは、凝集球を形成しつつ分散されている。
【0049】
この第2の実施例による電子放出膜25の、金属以外のアモルファスカーボンの部分の水素含有量は、25原子%であった。また、この第2の実施例による電子放出膜25において、金属粒子を除いたアモルファスカーボン部分の膜密度は1.8g/cm3である。
また、この第2の実施例による電子放出膜25の表面付近の金属であるCoの密度は40原子%である。
【0050】
また、比較のため、電子放出膜25の成膜条件を変えて、金属以外の部分の密度が1.9g/cm3である比較用の電子放出膜を形成して、同様の電子放出特性を計測した。そ
の結果、この第2の実施例による電子放出膜25は、比較用の電子放出膜に対して、発光点が約100倍向上したことが確認された。すなわち、電子放出部が約100倍になったことに相当する効果が得られた。
【0051】
(第3の実施例)
次に、上述の実施形態に基づいた第3の実施例について説明する。なお、この第3の実施例においては、第1および第2の実施例におけると同様の構成については説明を省略する。図8に、この第3の実施例による電子源の製造方法を示す。
【0052】
(工程1)
まず、図8Aに示すように、あらかじめ表面が十分に洗浄された例えば石英基板からなる絶縁性基板21上に、例えば真空蒸着法によりプラチナ(Pt)を蒸着させて導電膜22を形成する。この第3の実施例においては、導電膜22の膜厚は例えば200nmである。次に、例えばマイクロ波CVD法により、導電膜22上にアモルファスカーボン層11を形成する。この第3の実施例においては、アモルファスカーボン層11の膜厚は例えば30nmである。また、アモルファスカーボン層11の形成条件としては、雰囲気ガスをアセチレン(C22):水素(H2)=1:1とし、この炭化水素ガスを含む雰囲気圧
を5Torr(6.67×102Pa)とする。また、マイクロ波電力を200W、基板
温度を800℃、基板バイアスを−200Vとする。
【0053】
(工程2)
次に、雰囲気ガスとしてメタン(CH4):水素(H2)=1:1とした炭化水素ガスを
用い、雰囲気圧を100Torr(1.33×104Pa)とした雰囲気中において、基
板温度を650℃として加熱処理を8時間行う。これにより、図8Bに示すように、Ptがアモルファスカーボン層11中に熱拡散され、アモルファスカーボン層11中に金属粒子12が含有されたこの第3の実施例による電子放出膜25が形成される。なお、アモルファスカーボン層11中において、金属であるPtは、凝集球を形成しつつ分散されている。
【0054】
この第3の実施例による電子放出膜25のアモルファスカーボンの部分における水素含有量は15原子%である。また、この第3の実施例による電子放出膜25の金属粒子を除いたアモルファスカーボンの部分の膜密度は1.7g/cm3である。さらに、この第3
の実施例による電子放出膜25の表面付近のプラチナ(Pt)の密度は3原子%である。
【0055】
また、比較のため、電子放出膜25の成膜条件を変えて、電子放出膜25中のアモルファスカーボンの部分の水素含有量が10原子%となる電子放出膜を形成して、同様の電子放出特性を計測した。その結果、この第3の実施例による電子放出膜25は、比較用の電子放出膜に対して、発光点が約100倍向上したことが確認された。すなわち、電子放出部が約100倍になったことに相当する効果が得られた。
【0056】
(第4の実施例)
次に、上述の実施形態に基づいた第4の実施例について説明する。なお、この第4の実施例においては、第1乃至第3の実施例におけると同様の構成については説明を省略する。また、この第4の実施例による電子源の製造方法は、第2の実施例におけると同様に、図7に示される。
【0057】
(工程1)
まず、図7Aに示すように、あらかじめ表面が十分に洗浄された例えば石英基板からなる絶縁性基板21上に、例えば真空蒸着法によりタングステン(W)を蒸着させて導電膜22を形成する。この第4の実施例においては、この第4の実施例においては、導電膜22の膜厚は例えば300nmである。次に、例えばRFプラズマCVD法により、導電膜22上にアモルファスカーボン層11を形成する。この第4の実施例においては、アモルファスカーボン層11の膜厚は例えば80nmである。また、アモルファスカーボン層11の形成条件としては、雰囲気ガスとしてメタンガス(CH4)を用い、雰囲気圧を10
0mTorr(13.3Pa)とする。また、RF電力を400W、RF周波数を13.56MHz、基板温度を450℃、基板バイアスを−200Vとする。その後、スパッタリング法により、アモルファスカーボン層11上にニッケル(Ni)を3nmの膜厚で積層させることにより、金属薄膜23を形成する。
【0058】
(工程2)
次に、圧力が例えば10-6Torr(1.33×10-4Pa)の真空中において、基板温度を650℃として加熱処理を5時間行うことにより、Niをアモルファスカーボン層11中に熱拡散させる。次に、図7Bに示すように、アセチレン(C22):1%H2
99%Ar=1:1の炭化水素ガス雰囲気中において加熱処理を行うことにより、アモルファスカーボン層11中のNiを凝集させる。ここで、加熱処理条件の一例を挙げると、基板温度を650℃とし、加熱時間を30分とする。これにより、アモルファスカーボン層11中において、金属としてのNiは、凝集球を形成しつつ分散される。
【0059】
この第4の実施例による電子放出膜25のアモルファスカーボンの部分の水素含有量は40原子%であった。また、この第4の実施例による電子放出膜25の金属粒子を除いたアモルファスカーボンの部分の膜密度は1.3g/cm3である。さらに、この第4の実
施例による電子放出膜25の表面付近のニッケル(Ni)の密度は10原子%である。
【0060】
また、比較のため、電子放出膜25の成膜条件を変えて、電子放出膜25中のアモルファスカーボンの部分の水素含有量が40原子%以上の45原子%とした電子放出膜を形成して、同様の電子放出特性を計測した。その結果、この第4の実施例による電子放出膜25は比較用の電子放出膜に比して、発光点が約100倍向上したことが確認された。すなわち、電子放出部が約100倍になったことに相当する効果が得られた。
【0061】
(第5の実施例)
次に、上述の実施形態および第1乃至第4の実施例に基づいた素子について説明する。すなわち、上述した第1乃至第4の実施例の電子放出膜25を用いて電子放出素子(図示せず)を形成した。そして、この電子放出素子を例えば720×160のマトリクス状に配置して、図3に示すような外囲器129を作製した。さらに、これを用いて画像表示装置を製造したところ、マトリクス駆動が可能で高精細化された画像表示装置を製造可能となった。
【0062】
以上、この発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値、構成要素はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値、構成要素を用いてもよい。
【0063】
例えば、上述の実施形態において、映像情報受信装置51に音響装置(図示せず)などを接続して、画像信号生成回路52、駆動回路53および画像表示装置54を有するテレビジョンセットを構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の実施形態による電子放出膜を示す断面図である。
【図2】この発明の実施形態による電子放出膜の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】この発明の実施形態による画像表示装置の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施形態による画像表示装置の蛍光膜の構成を示す略線図である。
【図5】この発明の実施形態による電子放出素子を用いた映像受信表示装置の概略構成を示す図である。
【図6】この発明の第1の実施例による電子放出膜の電子放出特性を評価する時の評価方法を説明するための略線図である。
【図7】この発明の第2の実施例による電子放出膜の製造方法を説明するための断面図である。
【図8】この発明の第3の実施例による電子放出膜の製造方法を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0065】
11 アモルファスカーボン層
12 金属粒子
21 絶縁性基板
22 導電膜
23 金属薄膜
25 電子放出膜
41 蛍光体
42 光吸収部材
51 映像情報受信装置
52 画像信号生成回路
53 駆動回路
54 画像表示装置
61 アノード電極
120 電子放出素子
121 電極
122 陰極電極
123 ガラス基板
124 蛍光膜
125 メタルバック
126 フェースプレート
127 電子源基板
128 支持枠
129 外囲器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属および炭素を含む電子放出膜を有する電子放出素子であって、
前記金属を除いた前記電子放出膜の密度が1.2g/cm3以上1.8g/cm3以下であり、
前記電子放出膜における水素含有量が前記電子放出膜を構成する全原子に対し15原子%以上40原子%以下である
ことを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記電子放出膜の表面から10nmまでの範囲における前記金属の濃度が、前記電子放出膜中に含まれる炭素原子数に対して0.1原子%以上40原子%以下であることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記金属が、コバルト、白金、またはニッケルであることを特徴とする請求項1または2記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記電子放出膜の表面が水素により終端されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電子放出素子。
【請求項5】
電子を出射する電子源であって、
請求項1乃至4のいずれか1項記載の電子放出素子を有して構成されている
ことを特徴とする電子源。
【請求項6】
請求項5に記載の電子源と、
発光部材とを有する
ことを特徴とする画像表示装置。
【請求項7】
画像を表示する表示部をさらに有する請求項6に記載の画像表示装置と、
受信した放送信号に含まれる、映像情報、文字情報および音声情報のうちの少なくとも1つの情報を出力する受信器と、
前記受信器から出力された情報を前記表示部に表示させる駆動回路とを有する
ことを特徴とする情報表示再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−32443(P2009−32443A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193165(P2007−193165)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】