説明

電子楽器

【課題】聴者の位置に拘らず、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる電子楽器を提供すること。
【解決手段】本実施形態の電子ピアノ1によれば、スピーカ9L(L)およびスピーカ10R(L)から楽音のLチャンネルを出力し、スピーカ9R(R)およびスピーカ10L(R)から楽音のRチャンネルを出力する。これにより、低域音を主とする成分と、高域音を主とする成分とを、ピアノ本体2内で合成することができると共に、楽音の中域音の伝播領域をMの領域に広げることができる。よって、ピアノ本体2外において、低域音或いは高域音のいずれか一方の成分が、聴者の位置によって支配的になることを低減することができる。従って、聴者の位置に拘らず、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子楽器に関し、特に、聴者の位置に拘らず、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる電子楽器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鍵の押鍵に対応してステレオ方式の楽音を出力する電子楽器に関しては、例えば、特開2006−003429号公報の図12に記載の電子楽器が知られている。この電子楽器では、56L,56R,57L,57Rの4つのスピーカが設けられており、スピーカ56Lおよび57Lからは、鍵の押鍵に対応する楽音の左チャンネルを上方へ向けて出力し、スピーカ56Rおよび57Rからは、鍵の押鍵に対応する楽音の右チャンネルを上方へ向けて出力する。これにより、電子楽器から出力される楽音に広がりを持たせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−003429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述の電子楽器では、楽音の左チャンネルの伝播方向、即ち、楽音の低域音を主とする成分の伝播方向は、スピーカ56Lとスピーカ57Lとを直線で結ぶ方向(例えば、スピーカ56Lの中心とスピーカ57Lの中心とを直線で結ぶ方向)が支配的となり、楽音の右チャンネルの伝播方向、即ち、楽音の高域音を主とする成分の伝播方向は、スピーカ56Rとスピーカ57Rとを直線で結ぶ方向が支配的となる。これにより、この電子楽器においては、楽音の低域音を主とする成分の伝播方向と、楽音の高域音を主とする成分の伝播方向とが交差する位置は(楽音の低域音を主とする成分と、楽音の高域音を主とする成分との大部分が合成される位置は)、上述の電子楽器から離れた位置となる。その結果、伝播方向が交差する位置までにおいては、低域音を主とする成分と高域音を主とする成分との合成が少なくなる。よって、伝播方向が交差する位置と電子楽器との間に聴者が存在する場合には、その聴者へ、低域音或いは高域音のいずれか一方の成分が支配的となった楽音を与え、結果、不自然なステレオ方式の楽音(広がりの少ない楽音)を与えてしまうという問題点があった。また、上述の電子楽器の左側(スピーカ56Lおよびスピーカ57Lが配置される側)に聴者が存在する場合には、その聴者へ、低域音の成分が支配的となった楽音を与える一方で、上述の電子楽器の右側(スピーカ56Rおよびスピーカ57Rが配置される側)に聴者が存在する場合には、その聴者へ、高域音の成分が支配的となった楽音を与えることとなる。よって、この場合も、不自然なステレオ方式の楽音(広がりの少ない楽音)を与えてしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、聴者の位置に拘らず、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる電子楽器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載の電子楽器は、出力するステレオ方式の楽音に対応して設けられた複数の鍵を有する鍵盤と、その鍵盤が取り付けられると共に、上方へ向けて開放された開口部が設けられた筐体と、その筐体内において前記鍵盤の低音側に配置され、前記鍵の押鍵に対応する前記楽音の左チャンネルを前記筐体の開放部へ向けて出力する左配置第1スピーカと、前記左配置第1スピーカに対して前記鍵盤の高音側に配置され、前記鍵の押鍵に対応する前記楽音の右チャンネルを前記筐体の開放部へ向けて出力する右配置第1スピーカと、前記筐体内において前記左および右配置第1スピーカよりも前記鍵盤に対して奥側に配置されると共に、前記鍵盤の低音側に配置され、前記鍵の押鍵に対応する前記楽音の右チャンネルを前記筐体の開放部へ向けて出力する左配置第2スピーカと、前記筐体内において前記左および右配置第1スピーカよりも前記鍵盤に対して奥側に配置されると共に、前記左配置第2スピーカに対して前記鍵盤の高音側に配置され、前記鍵の押鍵に対応する前記楽音の左チャンネルを前記筐体の開放部へ向けて出力する右配置第2スピーカとを備えている。
【0007】
請求項2記載の電子楽器は、請求項1記載の電子楽器において、前記左および右配置第2スピーカは、前記左および右配置第1スピーカの離間距離よりも短い離間距離となる位置に配置されると共に、前記左および右配置第1スピーカの離間範囲内に配置されるものである。
【0008】
請求項3記載の電子楽器は、請求項2記載の電子楽器において、前記筐体は、その筐体内において前記鍵盤側から前記奥側方向へ弦を張るアコースティックグランドピアノを模った形状であり、前記左配置第2スピーカは、前記アコースティックグランドピアノとして前記筐体が使用されると想定した場合に、その筐体内に設けられる長駒の配設位置に対応する位置に配置されており、前記右配置第2スピーカは、前記アコースティックグランドピアノとして前記筐体が使用されると想定した場合に、その筐体内に設けられる短駒の配設位置に対応する位置に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の電子楽器によれば、鍵盤の低音側に配置される左配置第1スピーカは、楽音の左チャンネルを筐体の開口部へ向けて出力し、鍵盤の高音側に配置される右配置第1スピーカは、楽音の右チャンネルを筐体の開口部へ向けて出力する。これとは逆に、左および右配置第1スピーカよりも奥側に配置され、鍵盤の低音側に配置される左配置第2スピーカは、楽音の右チャンネルを筐体の開口部へ向けて出力し、左および右配置第1スピーカよりも奥側に配置され、鍵盤の高音側に配置される右配置第2スピーカは、楽音の左チャンネルを筐体の開口部へ出力する。よって、楽音の左チャンネルの伝播方向、即ち、楽音の低域音を主とする成分の伝播方向は、左配置第1スピーカと右配置第2スピーカとを直線で結ぶ方向が支配的となる。同様に、楽音の右チャンネルの伝播方向、即ち、楽音の高域音を主とする成分の伝播方向は、左配置第1スピーカと右配置第2スピーカとを直線で結ぶ方向が支配的となる。これにより、楽音の低域音を主とする成分の伝播方向と、楽音の高域音を主とする成分の伝播方向とを、筐体内で交差させることができる。つまり、低域音を主とする成分と、高域音を主とする成分とを、筐体内で合成することができる。結果、筐体外において、低域音或いは高域音のいずれか一方の成分が、聴者の位置によって支配的になることを低減することができる。従って、聴者の位置に拘らず、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができるという効果がある。なお、第1スピーカと第2スピーカとを直線で結ぶ方向とは、例えば、第1スピーカの中心と第2スピーカの中心とを直線で結ぶ方向や、第1スピーカの外周と第2スピーカの外周とに接する接線の方向が例示される。
【0010】
請求項2記載の電子楽器によれば、請求項1記載の電子楽器の奏する効果に加え、左および右配置第2スピーカは、左および右配置第1スピーカの離間距離よりも短い離間距離となる位置であると共に、左および右配置第1スピーカの離間範囲内に配置される。よって、左および右配置第2スピーカから出力される楽音により、左配置第1スピーカと右配置第1スピーカとの間に定位する楽音を形成することができる。従って、特に、鍵盤付近あるいは奥側付近に聴者が位置する場合であっても、その聴者に、左配置第1スピーカと右配置第1スピーカとの間に定位する楽音が不足しているという違和感を与えてしまうことを低減することができる。結果、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができるという効果がある。
【0011】
請求項3記載の電子楽器によれば、請求項2記載の電子楽器の奏する効果に加え、アコースティックグランドピアノとして筐体が使用されると想定した場合に、その筐体内に設けられる長駒の配設位置に対応する位置に(想定される長駒の配設位置に対応する位置に)、左配置第2スピーカが配置され、その筐体内に設けられる短駒の配設位置に対応する位置に(想定される短駒の配設位置に対応する位置に)、右配置第2スピーカが配置される。よって、左配置第2スピーカから出力される楽音の右チャンネルにより、アコースティックグランドピアノの長駒を介して出力される楽音を模倣することができ、右配置第2スピーカから出力される楽音の左チャンネルにより、アコースティックグランドピアノの短駒を介して出力される楽音を模倣することができる。従って、請求項3記載の電子楽器によれば、アコースティックグランドピアノから出力される楽音を忠実に模倣することができ、結果、アコースティックグランドピアノから出力されたかのような楽音を聴者へ与えることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態である電子ピアノの斜視図である。
【図2】電子ピアノの電気的構成を示したブロック図である。
【図3】(a)は、各スピーカの配置位置を示した電子ピアノの上面図であり、(b)は、各スピーカから出力される楽音の伝播を模式的に示した図である。
【図4】矢印Z方向視における第2実施形態の電子ピアノの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である電子ピアノ1において、大屋根8が開放されている状態を示す斜視図である。なお、以下の説明においては、電子ピアノ1を演奏者から見た場合の手前側(図3(a)の紙面下側)を「前」、奥側(図3(a)の紙面上側)を「後」とし、多数の鍵3の低音側(図3(a)の紙面左側)を「左」とし、更に、鍵3の高音側(図3(a)の紙面右側)を「右」として説明する。
【0014】
図1に示すように、電子ピアノ1は、アコースティックグランドピアノ(弦を水平に張ったピアノ)を模した電子ピアノであり、水平方向に延設される底板(図示せず)の周縁を側板13で取り囲むことにより形成されるピアノ本体2と、そのピアノ本体2に固着される鍵盤4と、ピアノ本体2に対して回動可能に連結される大屋根8と、その大屋根8を開放状態でピアノ本体2に支持する支持棒11と、ピアノ本体2を支持する3本の脚6と(左右一対の脚部のみ図示し、後方の脚部は図示せず)、ピアノ本体2から下方へ延びるペダル7とを有している。
【0015】
ピアノ本体2は、後述するCPU22等が搭載された電子回路や各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)等を内蔵する筐体である。このピアノ本体2の前面には、複数の鍵3が設けられた鍵盤4が固着される。また、ピアノ本体2の上面には、平板状の響板5が設けられており、その響板5には、上方に向けて開放された4つの開口部が設けられている。その各開口部には、4個のスピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)が、振動板を上方に向けて嵌め込まれている。なお、各スピーカに記載のアルファベット「L,R」は、スピーカの配置位置を示しており、各スピーカに記載の括弧書きのアルファベット「(L),(R)」は、出力するステレオ方式の楽音のチャンネルを示している。例えば、スピーカ9L(L)であれば、響板5の左側に配置され、楽音のLチャンネル(左チャンネル)を出力する。なお、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)の配置の詳細については、図3を参照して後述する。
【0016】
次に、図2を参照して、電子ピアノ1の電気的構成について説明する。図2は、電子ピアノ1の電気的構成を示したブロック図である。
【0017】
電子ピアノ1は、CPU22と、ROM23と、RAM24と、フラッシュメモリ25と、鍵盤4と、操作パネル26と、ペダル7と、音源27とを有し、これらは、バスライン30を介して互いに接続されている。更に、電子ピアノ1は、D/A変換器28と、アンプ29L,29Rと、スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)とを有している。音源27は、D/A変換器28の入力に接続され、D/A変換器28の出力は、アンプ29L,29Rの各入力に接続されている。アンプ29Lの出力は、スピーカ9L(L),10R(L)に接続され、アンプ29Rの出力は、スピーカ9R(R),10L(R)に接続されている。
【0018】
CPU22は、演算処理装置であり、ROM23は、CPU22により実行される各種の制御プログラムやその実行の際に参照される固定値データを記憶するメモリである。RAM24は、ROM23に記憶される制御プログラムの実行に当たって各種のデータ等を一時的に記憶するための書き換え可能なメモリである。フラッシュメモリ25は、電子ピアノ1の電源がオフされた場合でも、内容を継続して記憶する不揮発性のメモリである。
【0019】
鍵盤4は、複数の白鍵3および黒鍵3(図1参照)を有している。演奏者により押鍵が行われると、CPU22は、その押鍵に応じた速度を各鍵毎に算出する。また、演奏者により離鍵が行われると、CPU22は、その離鍵に応じた速度を各鍵毎に算出する。ここで、本実施形態の電子ピアノ1では、演奏者による押鍵または離鍵が行われた場合には、公知の処理と同様の処理を行う。
【0020】
操作パネル26は、各種ボリュームやスイッチ等を有しており、各種モードや楽音のパラメータ等を、演奏者により設定可能に構成されている。ペダル7は、鍵盤4の下方且つ演奏者の足元に配置され、演奏者が足で踏み込むことにより操作を行う装置である。
【0021】
音源27は、DSP27aを内蔵しており、鍵盤4の押鍵が行われた場合に、CPU22から出力される楽音情報に対応する音高および音色のステレオ方式のデジタル楽音信号を生成する一方、鍵盤4の離鍵が行われた場合には、デジタル楽音信号の生成を停止する。ここで、ステレオ方式のデジタル楽音信号とは、Lチャンネル(左チャンネル)およびRチャンネル(右チャンネル)を有するデジタル楽音信号を示している。音源27からステレオ方式のデジタル楽音信号が出力されると、D/A変換器28により、ステレオ方式のデジタル楽音信号が、ステレオ方式のアナログ楽音信号へ変換される。
【0022】
D/A変換器28により出力されたLチャンネルのアナログ楽音信号は、アンプ29Lに入力されて、増幅される。そして、増幅された楽音信号が楽音に変換され、スピーカ9L(L),10R(L)から出力される。これにより、スピーカ9L(L),10R(L)から出力される楽音は、押鍵に対応する楽音のLチャンネル、即ち、楽音の低域音を主とする成分となる。
【0023】
一方、D/A変換器28により出力されたRチャンネルのアナログ楽音信号は、アンプ29Rに入力されて、増幅される。そして、増幅された楽音信号が楽音に変換され、スピーカ9R(R),10L(R)から出力される。これにより、スピーカ9R(R),10L(R)から出力される楽音は、押鍵に対応する楽音のRチャンネル、即ち、楽音の高域音を主とする成分となる。
【0024】
次に、図3を参照して、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)の配置位置の詳細について説明する。図3(a),(b)は、矢印Z(図1参照)方向視における電子ピアノ1の上面図である。なお、図3においては、ピアノ本体2、鍵盤4、響板5および各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)以外の部材については、図示を省略している。
【0025】
ここで、図3(a)は、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)の配置位置を示しており、図3(b)は、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)から出力される楽音の伝播を模式的に示している。
【0026】
図3(a)に示すように、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)は、ピアノ本体2内に配置されている。具体的には、スピーカ9L(L)は、響板5において鍵盤4側(前側)に配置されると共に、鍵盤4の低音側(左側)に配置され、スピーカ9R(R)は、響板5において鍵盤4側(前側)に配置されると共に、鍵盤4の高音側(右側)に配置されている。
【0027】
また、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)も、ピアノ本体2内に配置されている。具体的には、スピーカ10L(R)は、響板5においてスピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)よりも鍵盤4に対して後側(奥側)に配置されると共に、鍵盤4の低音側(左側)に配置されている。また、スピーカ10R(L)は、響板5においてスピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)よりも鍵盤4に対して後側(奥側)に配置されると共に、鍵盤4の高音側(右側)に配置されている。
【0028】
ここで、図3(b)を参照して、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)から出力される楽音の伝播について説明する。スピーカ9L(L)は、押鍵に対応する楽音のLチャンネルを出力し、スピーカ9R(R)は、押鍵に対応する楽音のRチャンネルを出力する。これとは逆に、スピーカ10L(R)は、押鍵に対応する楽音のRチャンネルを出力し、スピーカ10R(L)は、押鍵に対応する楽音のLチャンネルを出力する。よって、楽音のLチャンネルの伝播方向、即ち、楽音の低域音を主とする成分の伝播方向は、スピーカ9L(L)とスピーカ10R(L)とを直線で結ぶ方向である矢印Ya方向が支配的となる。同様に、楽音のRチャンネルの伝播方向、即ち、楽音の高域音を主とする成分の伝播方向は、スピーカ9R(R)とスピーカ10L(R)とを直線で結ぶ方向である矢印Yb方向が支配的となる。これにより、楽音の低域音を主とする成分の伝播方向と、楽音の高域音を主とする成分の伝播方向とを、ピアノ本体2内で交差させることができる。つまり、低域音を主とする成分と、高域音を主とする成分とを、ピアノ本体2内で合成することができると共に、楽音の中域音の伝播領域をMの領域に広げることができる。よって、ピアノ本体2外において、低域音或いは高域音のいずれか一方の成分が、聴者の位置によって支配的になることを低減することができる。従って、聴者の位置に拘らず(ピアノ本体2外の前側、後側、右側または左側に聴者が居ても)、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる。
【0029】
なお、図3(a)に示すように、電子ピアノ1では、スピーカ10L(R)の中心PL2とスピーカ10R(L)の中心PR2との離間距離aは、スピーカ9L(L)の中心PL1とスピーカ9R(R)の中心PR1との離間距離dよりも短い距離となっている。更に、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)は、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離内に配置されている。
【0030】
ここで、離間距離内とは、響板5における次の領域を示している。即ち、スピーカ9L(L)の左側の外周に接すると共に、鍵盤4の左右方向に垂直な接線S1と、スピーカ9R(R)の右側の外周に接すると共に、鍵盤4の左右方向に垂直な接線S2と、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の後側(奥側)の外周に接する接線S3とで囲まれる響板5における領域(図3(a)の斜線部分)を示している。
【0031】
上述したスピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)の配置位置により、鍵盤4から後側(奥側)方向を視た場合に、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)は、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に位置することになる。よって、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)から出力される楽音により、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に定位する楽音を形成することができる。従って、特に、鍵盤4付近あるいはピアノ本体2の後側(奥側)付近に聴者が位置する場合であっても、その聴者に、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に定位する楽音が不足しているという違和感を与えてしまうことを低減することができる。結果、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる。
【0032】
また、図3(a)に示すように、電子ピアノ1では、ピアノ本体2の左端からピアノ本体2の右端へ、スピーカ10L(R)の中心PL2およびスピーカ10R(L)の中心PR2を通る直線を引いた場合に、スピーカ10L(R)の中心PL2からピアノ本体2の左端までの距離bと、スピーカ10R(L)の中心PR2からピアノ本体2の右端までの距離cとを足した距離よりも、離間距離aを短い距離としている。このように、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)を極力近づけることによっても、低域音を主とする成分と、高域音を主とする成分とを、ピアノ本体2内で合成することができる。
【0033】
更に、図3(a)に示すように、電子ピアノ1では、アコースティックグランドピアノ(鍵盤4側から後側(奥側)方向へ弦を水平に張ったピアノ)としてピアノ本体2が使用されると想定された場合に、そのピアノ本体2内に設けられる長駒の配置位置に対応する位置(想定される長駒の配置位置上)に、スピーカ10L(R)を配置している。また、アコースティックグランドピアノとしてピアノ本体2が使用されると想定された場合に、そのピアノ本体2内に設けられる短駒の配置位置に対応する位置(想定される短駒の配置位置上)に、スピーカ10R(L)を配置している。
【0034】
よって、スピーカ10L(R)から出力される楽音のRチャンネルにより、アコースティックグランドピアノの長駒を介して出力される楽音を模倣することができ、スピーカ10R(L)から出力される楽音のLチャンネルにより、アコースティックグランドピアノの短駒を介して出力される楽音を模倣することができる。従って、電子ピアノ1によれば、アコースティックグランドピアノから出力される楽音を忠実に模倣することができ、結果、アコースティックグランドピアノから出力されたかのような楽音を聴者へ与えることができる。
【0035】
以上の通り、本実施形態の電子ピアノ1によれば、スピーカ9L(L)およびスピーカ10R(L)から楽音のLチャンネルを出力し、スピーカ9R(R)およびスピーカ10L(R)から楽音のRチャンネルを出力する。これにより、低域音を主とする成分と、高域音を主とする成分とを、ピアノ本体2内で合成することができると共に、楽音の中域音の伝播領域をMの領域に広げることができる。よって、ピアノ本体2外において、低域音或いは高域音のいずれか一方の成分が、聴者の位置によって支配的になることを低減することができる。従って、聴者の位置に拘らず、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる。
【0036】
次に、図4を参照して、第2実施形態の電子ピアノ1、即ち、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)の配置位置を変更した電子ピアノ1について説明する。図4は、矢印Z(図1参照)方向視における第2実施形態の電子ピアノ1の上面図であり、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)の配置位置を示している。なお、図4においては、図3と同様に、ピアノ本体2、鍵盤4、響板5およびスピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)以外の部材については、図示を省略している。
【0037】
図4に示すように、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)は、図3に示す第1実施形態と同様、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離内に配置されている。そして、スピーカ10L(R)の中心PL2とスピーカ10R(L)の中心PR2との離間距離aは、距離bと距離cとの和よりも、短い距離としている。そして、スピーカ10L(R)は、想定される長駒の配置位置に対応する位置(長駒の配置位置上)に配置され、スピーカ10R(L)は、想定される短駒の配置位置に対応する位置(短駒の配置位置上)に配置されている。
【0038】
その上で、図4に示すように、スピーカ10L(R)の鍵盤4の低音側(左側)の外周と接線S1とが接するように、スピーカ10L(R)を配置している。これに合わせて、離間距離aを保つ位置、且つ短駒の配置位置上に、スピーカ10R(L)を配置している。このように、スピーカ10L(R)の配置位置は、第1実施形態の電子ピアノ1に示すように(図3参照)、接線S1から鍵盤4の高音側(右側)に離間した位置に限られるものではない。なお、スピーカ10L(R)を、図4に示す位置に配置したとしても、楽音の低域音を主とする成分の伝播方向と、楽音の高域音を主とする成分の伝播方向とを、ピアノ本体2内で交差させることができる。よって、聴者の位置に拘らず(ピアノ本体2外の前側、後側、右側または左側に聴者が居ても)、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる。また、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)から出力される楽音により、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に定位する楽音を形成することができる。よって、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に定位する楽音が不足しているという違和感を与えてしまうことを低減することができる。更には、アコースティックグランドピアノから出力される楽音を忠実に模倣することができる。
【0039】
以上、本実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。
【0040】
上述の第1実施形態および第2実施形態においては、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に定位する楽音が不足しているという違和感を与えてしまうことを低減すると共に、アコースティックグランドピアノから出力される楽音を忠実に模倣するために、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離内であり、且つ、想定される長駒の配置位置に対応する位置に、スピーカ10L(R)を配置し、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離内であり、且つ、想定される短駒の配置位置に対応する位置に、スピーカ10R(L)を配置した。しかし、これに限られるものではなく、アコースティックグランドピアノから出力される楽音を模倣する必要がなければ、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)を、想定される長駒および短駒の配置位置に関係なく、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離内に配置すれば良い。この構成の場合でも、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に定位する楽音を形成することができる。従って、特に、鍵盤4付近あるいはピアノ本体2の後側(奥側)付近に聴者が位置する場合であっても、その聴者に、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に定位する楽音が不足しているという違和感を与えてしまうことを低減することができる。
【0041】
また、上述の第1実施形態および第2実施形態においては、スピーカ10L(R)の中心PL2とスピーカ10R(L)の中心PR2との離間距離aを、距離bと距離cとを足した距離よりも、短い距離にすることによっても(スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)を極力近づけることによっても)、低域音を主とする成分と、高域音を主とする成分とを、ピアノ本体2内で合成したが、これに限られるものではない。即ち、低域音を主とする成分と高域音を主とする成分との合成は、矢印Ya,Yb(図3(b)参照)をピアノ本体2内で交差させることが最も効果的であり、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)を極力近づけることによる合成は、補助的となる。よって、矢印Ya,Ybをピアノ本体2内で交差させることで、低域音を主とする成分と高域音を主とする成分との合成が十分に行われる場合には、スピーカ10L(R)の中心PL2とスピーカ10R(L)の中心PR2との離間距離aを、距離bと距離cとを足した距離よりも、短い距離とする必要はない。この場合には、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)を、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離内に配置した上で、スピーカ10L(R)の中心PL2とスピーカ10R(L)の中心PR2との離間距離aを、距離bと距離cとを足した距離と同一の距離、或いは距離bと距離cとを足した距離よりも長い距離としても良い。
【0042】
また、上述の第1実施形態および第2実施形態においては、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)を配置する対象を、アコースティックグランドピアノを模した電子ピアノ1としたが、これに限られるものではない。即ち、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)を配置する対象を、電子オルガンやシンセサイザーとしても良い。なお、例えば、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)を配置する対象を、電子オルガンとした場合に、その電子オルガンにおいては、電子ピアノ1と比較して前後方向(奥側方向)の幅が狭いことを理由に、スピーカ9L(L)とスピーカ9R(R)との間に定位する楽音を形成する必要がなければ、スピーカ10L(R)およびスピーカ10R(L)の配置位置を、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離内に限る必要はない。よって、このときには、スピーカ10L(R)、またはスピーカ10R(L)のいずれか一方、若しくは両方を、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離外に配置しても良い(例えば、スピーカ10L(R)とスピーカ10R(L)との離間距離aを、スピーカ9L(L)およびスピーカ9R(R)の離間距離dよりも長い距離としても良い)。なお、この場合であっても、楽音の低域音を主とする成分の伝播方向と、楽音の高域音を主とする成分の伝播方向とを、電子オルガン内で交差させることができる。つまり、低域音を主とする成分と、高域音を主とする成分とを、電子オルガン内で合成することができると共に、楽音の中域音の伝播領域を広範囲にすることができる。よって、聴者の位置に拘らず、その聴者へ、自然なステレオ方式の楽音(自然な広がりを持つ楽音)を与えることができる。
【0043】
また、上述の第1実施形態および第2実施形態においては、各スピーカ9L(L),9R(R),10L(R),10R(L)を、響板5に設けられた各開口部に嵌め込むことで、各スピーカの振動板を上方に向けたが、各スピーカの振動板の向きは、これに限られるものではない。即ち、各スピーカの振動板を、ピアノ本体2の後側(奥側)方向へ向けて、或いは、ピアノ本体2の前側(鍵盤4側)方向へ向けても良い。また、各スピーカの振動板を、斜めに向けて、具体的には、ピアノ本体2の後側(奥側)方向と上方との間へ向けて、或いは、ピアノ本体2の前側(鍵盤4側)方向と上方との間へ向けても良い。更には、各スピーカの振動板の向きを、各々のスピーカでバラバラにしても良い。なお、各スピーカの振動板を上方以外に向けた場合には、各々のスピーカの振動板が向いた方向に合わせて響板5に、例えば、各スピーカの振動板よりも径が小さい開口部を複数設ける。そして、その複数の開口部へ向けて、各々のスピーカが楽音を出力する構成(複数の開口部へ、各々のスピーカの振動板を向けた構成)にすれば良い。
【符号の説明】
【0044】
2 ピアノ本体(筐体)
4 鍵盤
9L(L) スピーカ(左配置第1スピーカ)
9R(R) スピーカ(右配置第1スピーカ)
10L(R) スピーカ(左配置第2スピーカ)
10R(L) スピーカ(右配置第2スピーカ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力するステレオ方式の楽音に対応して設けられた複数の鍵を有する鍵盤と、
その鍵盤が取り付けられると共に、上方へ向けて開放された開口部が設けられた筐体と、
その筐体内において前記鍵盤の低音側に配置され、前記鍵の押鍵に対応する前記楽音の左チャンネルを前記筐体の開放部へ向けて出力する左配置第1スピーカと、
前記左配置第1スピーカに対して前記鍵盤の高音側に配置され、前記鍵の押鍵に対応する前記楽音の右チャンネルを前記筐体の開放部へ向けて出力する右配置第1スピーカと、
前記筐体内において前記左および右配置第1スピーカよりも前記鍵盤に対して奥側に配置されると共に、前記鍵盤の低音側に配置され、前記鍵の押鍵に対応する前記楽音の右チャンネルを前記筐体の開放部へ向けて出力する左配置第2スピーカと、
前記筐体内において前記左および右配置第1スピーカよりも前記鍵盤に対して奥側に配置されると共に、前記左配置第2スピーカに対して前記鍵盤の高音側に配置され、前記鍵の押鍵に対応する前記楽音の左チャンネルを前記筐体の開放部へ向けて出力する右配置第2スピーカとを備えていることを特徴とする電子楽器。
【請求項2】
前記左および右配置第2スピーカは、前記左および右配置第1スピーカの離間距離よりも短い離間距離となる位置に配置されると共に、前記左および右配置第1スピーカの離間範囲内に配置されるものであることを特徴とする請求項1記載の電子楽器。
【請求項3】
前記筐体は、その筐体内において前記鍵盤側から前記奥側方向へ弦を張るアコースティックグランドピアノを模った形状であり、
前記左配置第2スピーカは、前記アコースティックグランドピアノとして前記筐体が使用されると想定した場合に、その筐体内に設けられる長駒の配設位置に対応する位置に配置されており、
前記右配置第2スピーカは、前記アコースティックグランドピアノとして前記筐体が使用されると想定した場合に、その筐体内に設けられる短駒の配設位置に対応する位置に配置されていることを特徴とする請求項2記載の電子楽器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−2509(P2011−2509A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143513(P2009−143513)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000116068)ローランド株式会社 (175)
【Fターム(参考)】