説明

電子源製造装置

【課題】電子源の製造に用いる基板の温度分布を均一とし、電子放出特性の優れた電子源を製造することが可能な電子源製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の電子源製造装置は、電子放出素子が形成された基板を支持する支持体を有し、前記電子放出素子に電圧を印加することにより、前記電子放出素子の活性化を行う電子源製造装置であって、前記支持体は、前記基板の発熱を回収するための液体を流す流路と、前記基板が設けられる側の面に設けられた溝部と、を有し、前記流路と前記溝部とは、前記基板の面と平行な面において、互いに交差するように設けられており、前記溝部と前記基板との間には前記基板の発熱を前記支持体に伝達するためのガスが充填されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子源の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子源として、複数の電子放出素子を備える電子源が知られている。電子放出素子として、表面伝導型電子放出素子は、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面に並行に電流を流すことにより、電子放出が生じる現象を利用するものである。
【0003】
その基本的な構成、製造方法等は、例えば、特許文献1,2に開示されている。
【0004】
そのような電子放出素子を複数備える電子源は、例えば、以下の手順で作製される。
(1)基板上に、導電性膜と、導電性膜に接続された一対の素子電極からなる素子を複数配置する。
(2)それら複数の素子に配線を接続する。
(3)各素子に電圧を印加する。例えば、減圧状態で各素子に電圧を印加することにより亀裂を形成し、各素子を電子放出素子とする。
(4)有機物質ガス雰囲気下で各電子放出素子に電圧を印加することにより電子放出素子の活性化を行う。
【0005】
上記製造方法において、基板は、電圧を印加することにより発熱する。そのような発熱は、基板上において不均一であるため、基板表面の温度分布は不均一となる。それにより、電子放出素子の性能(例えば、電子を放出する性能)にばらつきが生じてしまう。
【0006】
そのような問題に鑑みた従来技術は、例えば、特許文献3に開示されている。特許文献3には、基板から回収する熱量(回収熱量)を基板の位置に応じて異ならせることにより基板の温度分布を均一にする電子源の製造装置が開示されている。
【0007】
図2は、特許文献3に開示されている電子源の製造装置の実施例を表す図である。図2において、基板10と支持体11の間には、ヘリウムガス203が充填されている。さらに、基板の発熱分布を考慮して、内側の4本の水配管(流路)20に対応する位置のヘリウムガスの圧力は5hPa、その外側の各2本の流路20に対応する位置のヘリウムガスの圧力は30hPaとしている。なお、支持体11内の流路20の間の間隔は等間隔としている。上記構成に基づいた支持体を採用することにより、基板の不均一な温度分布(各素子に電圧を印加することで発生する不均一な発熱による温度分布)を抑制することが可能となる。
【0008】
【特許文献1】特開平7−235255号公報
【特許文献2】特開平8−171849号公報
【特許文献3】特開2004−152601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の発明においては、流路に対応した範囲での回収熱量の調整、即ち基板の面に対して一方向のみの調整しかできなかった。そのため、比較的小さな発熱分布や、一方向に直線的に生じる発熱分布の抑制は可能であったが、面状に発生する大きな発熱分布、例えば基板の中心から面方向に放射状に発生する発熱分布等を抑制することはできなかった。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、電子源の製造に用いる基板の温度分布を均一とし、電子放出特性の優れた電子源を製造することが可能な電子源製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電子源製造装置は、
電子放出素子が形成された基板を支持する支持体を有し、前記電子放出素子に電圧を印加することにより、前記電子放出素子の活性化を行う電子源製造装置であって、
前記支持体は、
前記基板の発熱を回収するための液体を流す流路と、
前記基板が設けられる側の面に設けられた溝部と、
を有し、
前記流路と前記溝部とは、前記基板の面と平行な面において、互いに交差するように設けられており、
前記溝部と前記基板との間には前記基板の発熱を前記支持体に伝達するためのガスが充填される
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子源の製造に用いる基板の温度分布を均一とし、電子放出特性の優れた電子源を製造することが可能な電子源製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<電子源製造装置の構成>
まず、本発明の実施の形態に係る電子源製造装置の構成の一例ついて、図面を参照して詳細に説明する。図3、図4は本実施形態に係る電子源製造装置の構成の一例を示す図である。図3は本実施形態に係る電子源製造装置の断面図である。図4は、図3の基板10の周辺部分を詳細に示す斜視図であり、その一部を切り欠いて示したものである。
【0014】
それらの図において、6は電子放出素子となる導電体、7はX方向配線、8はY方向配線、10は基板、11は支持体、12はふた部材、15は気体の導入口、16は排気口、18はシール部材である。また、19は拡散板、20は流路、21は有機物質ガス、22はキャリアガス、23は水分除去フィルタ、24はガス流量制御装置、25a〜25fはバルブ、26は真空ポンプ、27は真空計、28は配管である。また、30は取り出し配線、32a,32bは電源及び電流制御系からなる駆動ドライバー、31a,31bは基板の取り出し配線30と駆動ドライバーとを接続する配線、33は拡散板19の開口部、41は溝部、70はプローブユニットである。
【0015】
支持体11は、基板10を固定(支持)するための部材である。支持体11は、真空チャッキング機構、静電チャッキング機構、または、固定冶具等の固定部を有し、当該固定部により機械的に基板10を固定する。支持体11は、基板10の発熱を回収するための液体(例えば、水)を流すための流路20を有する。流路20に水を流すことにより基板10の温度分布が制御される。支持体11は、基板10が設けられる側の面に溝部41を有する。溝部41は、基板表面の発熱分布に応じて形成される。
【0016】
本実施形態では、流路20と溝部41とを、基板の面と平行な面において互いに交差するように設ける。そして、溝部41と基板10との間に、基板10の発熱を支持体11に伝達するためのガス(例えばヘリウムガス)を充填する。それにより回収熱量を部分的に異ならせることができる。具体的には、電子放出素子の活性化中(電圧印加中)に基板1
0上で発生する不均一な発熱に対して、基板10の表面の温度分布を均一にすることができる。ガスの充填方法は、例えば、図8に示すように、支持体11の溝部41が設けられている位置に上下に貫通する孔を設ければよい。支持体11に設けられた孔には、真空計80、バルブ81、真空ポンプ82、流量制御弁83、ガス容器(ガスが充填された容器)84を有する配管が接続される。具体的には、図8に示すように、支持体11と真空ポンプ82との間の配管に真空計80とバルブ81が位置し、支持体11とガス容器84との間に真空計80と流量制御弁83が位置するような配管が接続される。そして、流量制御弁83を閉じた状態でバルブ81を開き、真空ポンプ82により溝部41と基板10との間を減圧する。その後、バルブ81を閉じ、真空計80の値が所望の値になるように流量制御弁83によりガス容器84から流入するガスの流量を制御しながら、ガスが充填される。
【0017】
ふた部材12は、ガラスやステンレス製のふたである。なお、ふた部材12の材料は、これらに限らず、ガスの放出量(漏れ量)が少ない材料であればよい。ふた部材12は、導電体6が形成された領域(基板10の取り出し配線30の一部(例えば端部)を除く)を覆うように基板10にかぶせる。また、ふた部材12は、少なくとも、1.33×10−1Pa(1×10−3Torr)から大気圧の圧力範囲に耐えられるように構成されている。
【0018】
シール部材18は基板10とふた部材12との接触部分の気密性を保持するためのものである。シール部材18としては、例えば、Oリングやゴム性シート等が用いられる。
【0019】
有機物質ガス21(有機物質のガス)は、後述する電子放出素子の活性化に用いられる。電子放出素子の活性化を行う際に、有機物質ガス21または有機物質ガス21をキャリアガス22(窒素、または、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス)で希釈した混合気体がふた部材12で覆われた空間(以後、“ふた部材12内”と記載する)に導入される。また、後述するフォーミング(亀裂形成)のための通電処理を行う際には、導電体6の亀裂形成を促進するための気体、例えば、還元性を有する水素ガス等を導入することもある。これらの気体は、配管28、バルブ25eを介してふた部材12内に導入される。
【0020】
電子放出素子の活性化に用いる有機物質としては、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、ニトリル類、フェノール、カルボン、スルホン酸等の有機酸類等から適宜選択される。脂肪族炭化水素類は、アルカン、アルケン、アルキンなどである。より具体的には、有機物質は、メタン、エタン、プロパン等のC2n+2で表される飽和炭化水素から選択すればよい。また、エチレン、プロピレン等のC2n等の組成式で表される不飽和炭化水素から選択してもよい。ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、ベンゾニトリル、アセトニトリル等から選択してもよい。
【0021】
有機物質ガス21は、有機物質が常温で気体である場合にはそのまま使用すればよいし、有機物質が常温で液体又は固体の場合には、容器内で蒸発又は昇華させて用いればよい。
【0022】
有機物質ガス21やキャリアガス22の流量や、それらのガスを混合する際の混合比は、ガス流量制御装置24によって制御される。ガス流量制御装置24はマスフローコントローラ及び電磁弁等から構成されている。なお、電子放出素子の活性化に用いるガス(以下、本実施形態では混合気体とする)は必要に応じて配管28の周囲に設けられたヒータ(図示せず)によって適当な温度に加熱された後、導入口15からふた部材12内に導入される。混合ガスの加熱温度は基板10の温度と同等にすることが好ましい。
【0023】
なお、配管28の途中に水分除去フィルタ23を設けて、有機物質ガス21やキャリアガス22中の水分を除去することが好ましい。図3の例では、有機物質ガス21に通ずる配管と、キャリアガス22に通ずる配管とのそれぞれに水分除去フィルタ23を設けているが、それらの配管が連結した後の配管(混合気体が流れる配管)に水分除去フィルタ23を設ける構成としてもよい。水分除去フィルタ23としては、例えば、シリカゲル、モレキュラーシーブ、水酸化マグネシウム等の吸湿材を用いればよい。
【0024】
ふた部材12内に導入された混合ガスは、排気口16を通じて真空ポンプ26により一定の排気速度で排気される。これにより、ふた部材12内の混合ガスの圧力は一定に保持される。本実施形態で用いる真空ポンプ26はドライポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクロールポンプ等の低真空用ポンプであり、オイルフリーポンプが好ましく用いられる。
【0025】
活性化に用いる有機物質の種類にもよるが、上記混合気体の圧力(ふた部材12内の圧力)は混合気体を構成する気体分子の平均自由行程λがふた部材12で覆われた空間の大きさに比べて十分小さくなる程度の圧力以上であることが好ましい。ふた部材12で覆われた空間の大きさは、例えば、覆われた空間の最も長い径、最も短い径、球状近似したときの直径などである。即ち、粘性流領域の真空度(数百Pa(数Torr)から大気圧の圧力)であることが好ましい。これにより、活性化工程の時間の短縮や均一性の向上が期待される。
【0026】
また、ふた部材12の導入口15と基板10との間に拡散板19を設けることが好ましい。これにより、混合気体の流れが制御され、基板全面に均一に有機物質が供給される。そのため、電子放出素子の均一性が向上する。
【0027】
基板10の取り出し配線30はふた部材12の外部に引き出されており、プローブユニット70を用いて配線31a,31bと接続され、駆動ドライバー32a,32bと接続される。
【0028】
本実施形態では、上述した支持体11の構成により、基板10の表面の温度分布を均一にすることができる。それにより、電子放出特性の優れた電子源を製造することができる。具体的には、電子源の電子放出特性の再現性、とりわけ複数の電子放出部を有する電子源における電子放出特性の均一性を向上できる。
【0029】
また、本実施形態では、ふた部材12は基板10上の導電体6のみを覆えばよいため、装置の小型化が可能である。そのため、ふた部材12内への気体の導入、ふた部材12外への気体の排出を短時間で行うことができる。また、基板10の配線がふた部材12外に引き出されているため、基板10と電気的処理を行うための電源装置(駆動ドライバー)との電気的な接続を容易に行うことができる。それにより、製造スピードが向上する。
【0030】
<電子源の製造方法>
次に、本実施形態に係る電子源製造装置を用いた電子源の製造方法の具体例について説明する。
【0031】
まず、導電体6と導電体6に接続された配線とが予め形成された基板10を支持体11上に設置する。そして、基板10上の導電体6が形成された領域(基板10の取り出し配線30の一部(例えば端部)を除く)をふた部材12で覆う。これにより、基板10上に形成されている取り出し配線30の一部分がふた部材12外に露出された状態で、基板上に形成された導電体6が気密な空間内に配置される。
【0032】
次に、ふた部材12内を所望の雰囲気とし、駆動ドライバー32a、bにより、配線31a、31b、及び、取り出し配線30を通じて導電体6に電気的処理、例えば、導電体6への電圧の印加を行う。これにより、導電体6に亀裂(電子放出部)が形成される(フォーミング;亀裂形成)。即ち、電子放出素子が形成される。なお、所望の雰囲気とは、例えば、減圧された雰囲気、炭素化合物等の特定の気体が存在する雰囲気である。
【0033】
そして、ふた部材12内に有機物質を含む混合ガスを流し、ふた部材12内を混合ガス雰囲気とした状態で、駆動ドライバー32a、bにより、配線31a、31b、及び、取り出し配線30を通じて電子放出素子にパルス電圧を印加する。これにより、電子放出素子が活性化される。
【0034】
なお、フォーミングのための電気的処理は異なる雰囲気下にて複数回行ってもよい。例えば、ふた部材12内を第1の雰囲気として電気的処理を行い、次にふた部材12内を第2の雰囲気として電気的処理を行う。それにより、導電体6に良好な電子放出部(亀裂)が形成される。ここで、第1の雰囲気は減圧された雰囲気、第2の雰囲気は炭素化合物等の特定の気体が存在する雰囲気である。
【0035】
以上の工程を経て、電子源が製造される。
【0036】
<電子源を有する画像表示装置の構成>
本実施形態に係る電子源は、画像形成部材と組み合わせることにより、図5に示すような画像表示装置を構成することができる。以下に、本実施形態に係る電子源を有する画像表示装置の構成の一例について説明する。図5は、本実施形態に係る画像表示装置68の構成の一例を示す斜視図であり、その一部を切り欠いて示したものである。なお、本実施形態では、電子放出素子の配置が単純マトリクス配置である場合の例について説明する。即ち、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数配する。そして、同じ行に配された複数の電子放出素子の電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配された複数の電子放出素子の電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続する。
【0037】
図5において、6’は電子放出素子、10は基板(電子源基板)、62は支持枠、66はガラス基板63、蛍光体64及びメタルバック65からなるフェースプレートである。
【0038】
図5の画像形成装置における各電子放出素子には、不図示の走査信号発生手段により、容器外端子Dx1乃至Dxmを通じて走査信号が印加される。また、各電子放出素子には、不図示の変調信号発生手段により、容器外端子Dy1乃至Dynを通じて変調信号が印加される。電子放出素子に走査信号と変調信号を印加することにより、電子放出素子から電子が放出される。
【0039】
メタルバック65または不図示の透明電極には、高圧端子67を通じて高圧(例えば5kV)が印加される。これにより、電子放出素子から放出された電子は加速する。そして、加速した電子が蛍光体64に衝突することにより、蛍光体が励起される(発光する)。これにより画像が表示される。
【0040】
なお、走査信号配線や変調信号配線(上記信号を電子放出素子に印加するための配線;X方向の配線またはY方向の配線)は、図5で示すように容器外端子として(X方向またはY方向の)片側だけに露出させなくてもよい。走査信号配線や変調信号配線は、その信号配線に接続されている容器外端子に近い電子放出素子と遠い電子放出素子との間で印加電圧降下の影響の無い素子数であれば、片側だけに露出させてもよい。しかし、素子数が多い場合には、電圧降下の影響が生じる虞がある。そのような場合には、走査信号配線や変調信号配線を、容器外端子として両側に露出させればよい。なお、信号配線の幅を広く
する、または、信号配線の厚さを厚くすることによっても電圧降下の影響を低減させることができる。
【0041】
<実施例>
以下に、本実施形態に係る電子源製造装置の実施例について詳しく説明する。具体的には、支持体11の構成について詳しく説明する。
【0042】
上述したように、支持体11は、電子放出素子の活性化中など、電子放出素子に電圧を印加することにより基板10上に発生する不均一な発熱に対して基板10表面の温度分布を均一にするという課題を解決するための構成を有する。これにより、各電子放出素子の性能のばらつきを均一にすることができる。具体的には、支持体11は基板10表面の発熱分布に対応して回収熱量を部分的に異ならせることが可能な構成を有する。
【0043】
以下、実施例1,2によりその構成について詳細に説明する。なお、支持体11の構成は、実施例1,2で述べる構成に限定されるものではなく、上記課題が解決される範囲内で各要素の置換や設計変更がなされたものも包含する。
【0044】
<実施例1>
図1は実施例1に係る電子源製造装置の支持体111の構成を示す斜視図である。この支持体111の上に基板10が設置される。活性化処理によって基板10の表面に発生する熱の発熱分布は、基板10の面において、内側(中心)から外側(角部)に向かって大きくなるような放射状の発熱分布となる。例えば、中心が約2W/cm、角部が約4W/cmとなる。
【0045】
図1に示す支持体111は、直線的な流路120を複数有する。複数の流路120は、基板10の面と平行な面において一方向に沿って設けられている。また、複数の流路120は、基板10の面方向に等間隔に配置されている。支持体111には、基板10が設けられる側の面に直線的な溝部101〜103が設けられている。溝部101〜103は、それぞれ、基板10の面と平行な面において複数の流路120と直交するように設けられている。また、溝部101〜103は、内側から外側(両側)に向かって溝部101〜103の順に設けられている。
【0046】
図6は支持体111に基板10(ガラス基板)を設置した状態を示す斜視図である。溝部101〜103は、基板10の直下に位置する。
【0047】
溝部101〜103と基板10との間(溝部101〜103と基板10とによって形成される閉空間)には、各領域(溝部が設けられている領域)の回収熱量を調整するために(基板10の発熱を支持体111に伝達するために)、ヘリウムガスが充填される。また、溝部毎に充填するヘリウムガスの圧力は異ならされている。具体的には、基板10の面と平行な面において、基板10の中心部(中心に近い側)に設けられた溝部に充填するヘリウムガスの圧力は、基板10の中心部の外側(中心から離れている側)に設けられた溝部に充填するヘリウムガスの圧力よりも低くする。
【0048】
本実施例では、溝部101に2500Pa、溝部102に4000Pa、溝部103に6000Paのヘリウムガスが充填される。これにより、発熱の小さい基板10の中心部は、ヘリウムガスの圧力を低くすることにより、熱伝導特性が悪くなる。発熱の大きい基板10の中心部の外側は、ヘリウムガスの圧力を高くすることにより、熱伝導特性が良くなる。
【0049】
このように、溝部毎に充填するヘリウムガスの圧力を異ならせることにより、不均一な
発熱に対して回収熱量を調整することができる。更に、本実施例では、溝部101〜103を、それぞれ、基板10の面と平行な面において複数の流路120と交差させる(複数の流路120を、それぞれ、基板10の面と平行な面において溝部101〜103と交差させる)。それにより、1つの流路または溝部が設けられている領域において、回収熱量を部分的に異ならせることができる。即ち、部分的に異なる温度調整を行うことができる。本実施例では、このような構成にすることにより、基板表面の温度分布を良好(均一)にすることができた。そのため、電子放出素子の電子放出特性が均一な電子源を作製することができた。
【0050】
<実施例2>
図7は実施例2に係る電子源製造装置の支持体311の構成を示す斜視図である。この支持体311の上に基板10が設置される。活性化処理によって基板10の表面に発生する熱の発熱分布は、基板10の面において、内側(中心)から外側(角部)に向かって大きくなるような放射状の発熱分布となる。例えば、中心が約2W/cm、角部が約4W/cmとなる。
【0051】
図7に示す支持体311は、直線的な流路320を複数有する。複数の流路320は、基板10の面と平行な面において一方向に沿って設けられている。また、複数の流路320は、基板10の面方向に等間隔に配置されている。支持体311には、基板10が設けられる側の面に溝部301〜303が設けられている。溝部301は、基板10の面と平行な面において、その中心が基板10の中心と略一致するように設けられた円状の溝部である。溝部302及び溝部303は、基板10の面と平行な面において、その中心が基板10の中心と略一致するように設けられた環状の溝である。溝部302は溝部301の外側、溝部303は溝部302の外側に設けられている。また、溝部301〜303は、それぞれ、基板10の面と平行な面において複数の流路320と交差するように設けられている。
【0052】
図6は支持体311に基板10(ガラス基板)を設置した状態を示す斜視図である。溝部301〜303は、基板10の直下に位置する。
【0053】
溝部301〜303と基板10との間(溝部301〜303と基板10とによって形成される閉空間)には、各領域(溝部が設けられている領域)の回収熱量を調整するために(基板10の発熱を支持体311に伝達するために)、ヘリウムガスが充填される。また、溝部毎に充填するヘリウムガスの圧力は異ならされている。具体的には、基板10の面と平行な面において、基板10の中心部(中心に近い側)に設けられた溝部に充填するヘリウムガスの圧力は、基板10の中心部の外側(中心から離れている側)に設けられた溝部に充填するヘリウムガスの圧力よりも低くする。
【0054】
本実施例では、溝部301に2500Pa、溝部302に4000Pa、溝部303に6000Paのヘリウムガスが充填される。これにより、発熱の小さい基板10の中心部は、ヘリウムガスの圧力を低くすることにより、熱伝導特性が悪くなる。発熱の大きい基板10の中心部の外側は、ヘリウムガスの圧力を高くすることにより、熱伝導特性が良くなる。
【0055】
このように、溝部毎に充填するヘリウムガスの圧力を異ならせることにより、不均一な発熱に対して回収熱量を調整することができる。更に、本実施例では、溝部301〜303を、それぞれ、基板10の面と平行な面において複数の流路320と交差させる(複数の流路320を、それぞれ、基板10の面と平行な面において溝部301〜303と交差させる)。それにより、1つの流路または溝部が設けられている領域において、回収熱量を部分的に異ならせることができる。即ち、部分的に異なる温度調整を行うことができる
。本実施例では、このような構成にすることにより、基板表面の温度分布を良好(均一)にすることができた。そのため、電子放出素子の電子放出特性が均一な電子源を作製することができた。
【0056】
以上述べたように、本実施形態では、支持体に、流路(冷却配管)とそれに交差する溝部とを設けることにより、回収熱量を部分的に異ならせることが可能となる。そのため、基板面状に不均一な発熱が生じても、基板表面の温度分布を均一に保つことができる。それにより、電子放出素子の性能ばらつきを均一にすることができ、電子放出特性の優れた電子源を製造することができる。
【0057】
なお、上記実施例では、支持体が複数の流路と複数の溝部を有する場合について述べたが、支持体は流路と溝部を1つずつ有する構成であってもよいし、どちらか一方を複数有する構成であってもよい。支持体が流路と溝部を1つずつ有する場合には、流路と溝部が基板と平行な面において互いに交差していればよい。支持体が1つの流路と複数の溝部とを有する場合には、基板と平行な面において、流路が複数の溝部と交差していればよい。支持体が1つの溝部と複数の流路とを有する場合には、基板と平行な面において溝部が複数の流路と交差していればよい。それにより、回収熱量を部分的に異ならせることが可能となる。
【0058】
なお、本実施形態では、溝部毎に充填する圧力を異ならせることにより、回収熱量を調整したが、流路ごとに回収熱量を異ならせてもよい。例えば、基板10の面と平行な面において、基板の中心部付近に設けられた流路での回収熱量を、基板の中心部から離れた位置に設けられた流路での回収熱量よりも小さくすればよい。具体的には、基板の中心部付近に設けられた流路に高温の水を流し、基板の中心部から離れた位置に設けられた流路に低温の水を流せばよい。それにより均一な温度分布を得ることができる。また、基板の中心部付近に設けられた流路に流す水の流量を、基板の中心部から離れた位置に設けられた流路に流す水の流量よりも少なくしてもよい。基板の中心部付近に設けられた流路の径(基板が設けられる側の面から流路までの距離)を、基板の中心部から離れた位置に設けられた流路の径よりも小さくしてもよい。また、流路毎に支持体の材質を異ならせてもよい。例えば、基板の中心部付近の支持体の材質として、基板の中心部から離れた位置の支持体の材質よりも熱容量の大きい材質や熱伝導率の小さい材質を用いてもよい。それによっても流路毎に回収熱量を異ならせることができる。
【0059】
なお、流路20に流す液体は、水でなくてもよい。基板の温度を調整することができれば、どのような液体を用いてもよい。また、溝部と基板との間に充填する気体はヘリウムガスに限らない。基板の温度を調整することができればどのような気体を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、実施例1に係る電子源製造装置の支持体の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、電子源の製造装置の従来例を示す図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る電子源製造装置の断面図である。
【図4】図4は、図3の基板の周辺部分を詳細に示す斜視図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る画像表示装置の構成の一例を示す斜視図である。
【図6】図6は、支持体に基板を設置した状態を示す斜視図である。
【図7】図7は、実施例2に係る電子源製造装置の支持体の構成を示す斜視図である。
【図8】図8は、本実施形態における溝部と支持体の間へのガスの充填方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
6 導電体
6’ 電子放出素子
7 X方向配線
8 Y方向配線
10 基板
11,111,311 支持体
12 ふた部材
15 導入口
16 排気口
18 シール部材
19 拡散板
20,120,320 流路
21 有機物質ガス
22 キャリアガス
23 水分除去フィルタ
24 ガス流量制御装置
25a〜25f バルブ
26 真空ポンプ
27 真空計
28 配管
30 取り出し配線
31a,32b 配線
32a,32b 駆動ドライバー
33 開口部
41,101〜103,301〜303 溝部
62 支持枠
63 ガラス基板
64 蛍光体
65 メタルバック
66 フェースプレート
67 高圧端子
68 画像表示装置
70 プローブユニット
80 真空計
81 バルブ
82 真空ポンプ
83 流量制御弁
84 ガス容器
203 ヘリウムガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出素子が形成された基板を支持する支持体を有し、前記電子放出素子に電圧を印加することにより、前記電子放出素子の活性化を行う電子源製造装置であって、
前記支持体は、
前記基板の発熱を回収するための液体を流す流路と、
前記基板が設けられる側の面に設けられた溝部と、
を有し、
前記流路と前記溝部とは、前記基板の面と平行な面において、互いに交差するように設けられており、
前記溝部と前記基板との間には前記基板の発熱を前記支持体に伝達するためのガスが充填される
ことを特徴とする電子源製造装置。
【請求項2】
前記流路は、前記基板の面と平行な面において、一方向に沿って設けられている
ことを特徴とした請求項1に記載の電子源製造装置
【請求項3】
前記流路と前記溝部とは、前記基板の面と平行な面において、互いに直交するように設けられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子源製造装置。
【請求項4】
前記支持体は、前記溝部を複数有し、
前記流路は、前記複数の溝部と、前記基板の面と平行な面において交差する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子源製造装置。
【請求項5】
前記溝部毎に充填されるガスの圧力が異なる
ことを特徴とする請求項4に記載の電子源製造装置。
【請求項6】
前記基板の面と平行な面において、前記基板の中心部に設けられた溝部に充填するヘリウムガスの圧力は、前記基板の中心部の外側に設けられた溝部に充填するヘリウムガスの圧力よりも低い
ことを特徴とする請求項5に記載の電子源製造装置。
【請求項7】
前記支持体は、前記流路を複数有し、
前記溝部は、前記複数の流路と、前記基板の面と平行な面において交差する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子源製造装置。
【請求項8】
前記流路毎に回収熱量が異なる
ことを特徴とする請求項7に記載の電子源製造装置。
【請求項9】
前記基板の面と平行な面において、前記基板の中心部に設けられた流路での回収熱量は、前記基板の中心部の外側に設けられた流路での回収熱量よりも小さい
ことを特徴とする請求項8に記載の電子源製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−272114(P2009−272114A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121115(P2008−121115)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】