説明

電子線殺菌システム

【課題】 不純物の混入を確実に防止しつつオゾンを適切に処理する電子線殺菌システムを提供する。
【解決手段】 電子線殺菌システムは、ボトルの流れの上流側から順に、導入室、殺菌前室、電子線殺菌が行われる殺菌室、ボトルの中のエアブローが行われるすすぎ室、ボトルに内容物が充填される充填室、ボトルにキャップを装着するキャッパ室を備える。各室の圧力は、充填室>キャッパ室=殺菌室>すすぎ室>殺菌前室<導入室の関係を保持する。充填室の空気は充填室の外部に向かって流れるので、充填室の無菌状態は最も厳密に保たれる。すすぎ室には充填室と殺菌室の下流側出口からの空気が集まる。殺菌工程で発生するオゾンとすすぎ工程でボトルから追い出されるオゾンはすすぎ室にバッファされて酸素に変化してから大気中に放出される。殺菌室の上流側出口から殺菌前室に流入したオゾンは、導入室より圧力が低い殺菌前室に滞留して酸素になり大気中に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品容器に電子線を照射して殺菌するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ペットボトル入りの飲料等の容器入り食品は、次のような工程で製造される。まず、容器が殺菌剤により洗浄・殺菌される。次に、付着した殺菌剤を落とすために容器が水ですすがれる。次に、容器に内容物が充填される。次に、容器にキャップが装着される。
【0003】
容器を殺菌剤により洗浄・殺菌する工程に代えて、電子線を照射することにより容器を殺菌する方法が知られている。こうした方法では、洗浄・殺菌に使用される殺菌剤が不要になり、付着した殺菌剤を落とす工程が省略される。
【0004】
特許文献1には、充填工程において、仕上げリンサー、キャッピングいずれかの機械の故障等によって充填ブース内の無菌状態が損なわれる事態に至った場合でも、無菌状態の保持が絶対条件である内容物充填域だけは、無菌状態を保持し得るボトルの殺菌方法を提供するために、第1クリーンルーム内における洗浄殺菌工程に引き続き行われる第2クリーンルーム内におけるボトルの内容物充填が、搬送装置を介して連接され、それぞれ区画された(1)仕上げリンサー室→(2)内容物充填室→(3)キャッピング室を経由して行われ、かつ、各室の圧力差が、(1)<(2)>(3)に設定されていることを特徴とするボトルの殺菌充填方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−287310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、不純物の混入を防止する電子線殺菌システムを提供することである。
本発明の他の目的は、電子線照射により発生するオゾンを適切に処理する電子線殺菌システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0007】
本発明による電子線殺菌システム(1)は、入口から導入される容器(19)を搬送する第1搬送装置(21)を備える殺菌前室(R1)と、第1搬送装置(21)から容器(19)を受け取って搬送する第2搬送装置(22)と容器(19)に電子線を照射する電子線照射装置(20)とを備え、殺菌前室(R1)よりも圧力が高い電子線殺菌室(R2)と、電子線を照射された容器(19)に内容物を充填する充填装置を備え、電子線殺菌室(R2)より圧力が高い充填室(R4)とを備える。
【0008】
本発明による電子線殺菌システム(1)において、殺菌前室(R1)の圧力(P1)は、入口の外側の圧力(P0)よりも低い。
【0009】
本発明による電子線殺菌システム(1)は、電子線殺菌室(R2)と充填室(R4)との間に介設され、電子線殺菌室(R2)の圧力と充填室(R4)の圧力よりも圧力が低い中間室(R3)を備える。
【0010】
本発明による電子線殺菌システム(1)において、中間室(R3)は、容器の内部に気体を供給するブロアを備える。
【0011】
本発明による電子線殺菌システム(1)は、第1開口を備え、第1開口の外部より圧力が低い第1室(R1)と、第1室(R1)と第2開口により接続され、第1室(R1)より圧力が高く、電子線殺菌装置(20)を備える第2室(R2)と、第2室(R2)と第3開口により接続され、第2室(R2)より圧力が低い第3室(R3)と、第3室(R3)と第4開口により接続され、第3室(R3)より圧力が高い第4室(R4)と、第1室(R1)と第3室(R3)とから送り出されたオゾンを処理する処理装置(18)とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不純物の混入を防止する電子線殺菌システムが提供される。
更に本発明によれば、電子線照射により発生するオゾンを適切に処理する電子線殺菌システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明による電子線殺菌システムについて詳細に説明する。
【0014】
図1には、電子線殺菌システムの構成が示されている。電子線殺菌システム1は、導入ライン2、導入室R0、殺菌前室R1、殺菌室R2、リンサ室R3、充填室R4、キャッパ室R5及び排出ライン4を備える。これらの室R0〜R5は、雰囲気中の微粒子が所定の基準量以下となるように制御されるクリーンルームである。導入室R0の内部の圧力はP0、殺菌前室R1の内部の圧力はP1、殺菌室R2の内部の圧力はP2、リンサ室R3の内部の圧力はP3、充填室R4の内部の圧力はP4、キャッパ室14の内部の圧力はP5で表される。
【0015】
導入ライン2は、ペットボトルを成形する成形装置からペットボトルを受け取って搬送する搬送装置を備える。
【0016】
導入ライン2の出口は、導入室R0の入口と連通している。導入室R0は、入口で受け取ったペットボトルを出口まで搬送するスターホイールなどの搬送装置を備える。
【0017】
導入室R0の出口は、殺菌前室R1の入口と連通している。殺菌前室R1は、入口で受け取ったペットボトルを出口まで搬送するスターホイールなどの搬送装置を備える。
【0018】
殺菌前室R1の出口は、殺菌室R2の入口に連通している。殺菌室R2は、電子線照射装置を備える。殺菌室R2は、入口で受け取ったペットボトルを電子線照射装置によって電子線が照射される領域を通って出口まで搬送する搬送装置を備える。殺菌室R2の壁は、電子線照射装置によって電子線が照射されたときに発生するX線が外部に漏れるのを防止する遮蔽用の物質によって覆われている。
【0019】
殺菌室R2の出口は、リンサ室R3の入口に連通している。リンサ室R3は、入口で受け取ったペットボトルを出口まで搬送するスターホイールなどの搬送装置を備える。リンサ室R3は、電子線殺菌が行われるときに発生するオゾンを追い出すためにペットボトルに空気を吹き込むブロアを備える。リンサ室R3は、ペットボトルを水によって洗浄するための洗浄装置を備えることがある。
【0020】
リンサ室R3の出口は、充填室R4の入口に連通している。充填室R4は、入口から受け取ったペットボトルを出口まで搬送するためのスターホイールなどの搬送装置を備える。充填室R4は、ペットボトルに飲料などの内容物を充填する充填装置を備える。
【0021】
充填室R4の出口は、キャッパ室R5の入口に連通している。キャッパ室R5は、入口で受け取ったペットボトルを出口まで搬送するスターホイールなどの搬送装置を備える。キャッパ室R5は、ペットボトルにキャップを装着するキャッパ装置を備える。
【0022】
キャッパ室R5の出口は、排出ライン4の入口に連通している。排出ライン4は、入口で受け取ったペットボトルを所定の場所まで搬送する。
【0023】
電子線殺菌システム1は更に、送風装置6を備える。送風装置6は、殺菌室R2と充填室R4とに空気を送り込む。送風装置6により送り込まれる空気は無菌エアーである。殺菌室R2に送り込まれる空気の量はバルブ12により調節される。充填室R4に送り込まれる空気の量はバルブ10により調節される。殺菌室R2の空気の入口と充填室R4の空気の入口にはHEPAフィルタが設置されている。
【0024】
電子線殺菌システム1は更に、送風装置8を備える。送風装置8は、殺菌前室R1とリンサ室R3との内部の空気を外部に送り出す。殺菌前室R1から送り出される空気の量はバルブ16により調節される。リンサ室R3から送り出される空気の量はバルブ14により調節される。送風装置8の下流側には、バッファ18が接続されている。バッファ18は、殺菌前室R1とリンサ室R3から送り出される空気を一時的に貯蔵する。バッファ18は、オゾンを分解する装置を備えていることが好ましい。
【0025】
図2は、電子線殺菌システム1の構成の変形例を示している。この例では、導入室R0と殺菌前室R1とを結ぶ方向と、殺菌前室R1と殺菌室R2とを結ぶ方向とが略垂直となっている。こうした構成によれば、導入ライン2・導入室R0・殺菌前室R1における流れる空気の流れと、殺菌室R2及びそれよりも下流側の室における空気の流れとが直線上に乗らないために、殺菌前室R1及びそれよりも下流側の室と外界の空気がより確実に隔離され、好ましい。
【0026】
図3には、殺菌前室R1と殺菌室R2との構成が示されている。殺菌前室R1はスターホイール21を備える。スターホイール21はペットボトル19をネックにおいて把持し、殺菌前室R1の入口から出口まで搬送する。殺菌前室R1から送られたペットボトル19は、殺菌室R2入口において持ち替えられ、搬送装置22に渡される。搬送装置22は、受け取ったペットボトル19を殺菌室R2の出口まで搬送する。
【0027】
搬送装置22によって搬送されるペットボトル19には、電子線照射装置20により電子線が照射される。搬送装置22は、通常の搬送装置とは異なる。搬送装置22は、電子線照射領域においてペットボトル19の一定した部位を把持することがなく把持部位を変動させながら搬送する把持部位変更手段を備えている。すなわち、ペットボトル19は、少なくともペットボトル19に電子線が照射される領域において、ペットボトル19と搬送装置22との接点のペットボトル19上の位置が搬送中に変化するように支持される。
【0028】
こうした構成を備える電子線殺菌システム1は、以下のように動作する。
【0029】
室R0〜R5の各々の雰囲気が所定のクラス以下になるように制御される。送風装置6が起動される。バルブ10によって制御された量の空気が充填室R4に送り込まれる。バルブ12によって制御された量の空気が送風機8によって殺菌室R2に送り込まれる。バルブ14によって制御された量の空気がリンサ室R3からバッファ18を経由して外部に送り出される。バルブ16によって制御された量の空気が殺菌前室R1からバッファ18を経由して外部に送り出される。
【0030】
こうした空気の流れにより各室の内部の圧力は次のように制御される。導入室R0の圧力P0は大気圧。P1<P0<P2。P3<P2<P4>P5>P0。排出ライン4の圧力はP5よりも小さい。R0〜R5の各室には圧力計が設置され、それらの圧力計から送信された圧力を示す信号に基づいてバルブ10、12、14、16の開度が制御されることにより上記の圧力の関係が維持されることが好ましい。
【0031】
ペットボトル19が成形される。成形されたペットボトル19が導入ライン2によって電子線殺菌システム1に導入される。ペットボトル19は、導入室R0を通って殺菌前室R1に導入される。ペットボトル19は、スターホイール21によりネック搬送されて殺菌室R2の入口に搬送される。
【0032】
圧力の関係P1<P0<P2が成立しているため、殺菌前室R1には導入室R0と殺菌室R2とから空気が流入する。殺菌前室R1の内部の空気は送風装置8により室外に送り出される。
【0033】
殺菌室R2において、ペットボトル19は搬送装置22に持ち替えられて搬送される。ペットボトル19は、搬送中に電子線照射装置20から電子線が照射されることにより殺菌される。搬送装置22が把持部位変更手段を備えることにより、ペットボトル19の全ての部位に死角なく電子線が照射され、ペットボトル19は隈なく殺菌される。
【0034】
電子線が照射されることにより、オゾンが発生する。圧力の関係P1<P2>P3が成立しているため、オゾンは殺菌前室R1とリンサ室R3とに流れる。殺菌前室R1に流入したオゾンは送風装置8によってバッファ18に送られる。バッファ18において、オゾンは所定の時間貯留されることによって、あるいはオゾン分解装置によって分解されることによって処理された後、大気に放出される。P1<P0であるためオゾンが導入室R0に漏出することが防止される。
【0035】
ペットボトル19は搬送装置22によりリンサ室R3の入口に送られる。リンサ室R3において、ペットボトル19は通常のネック搬送などの搬送装置によって搬送される。リンサ室R3において、ペットボトル19の内部に空気が吹き込まれる。殺菌室R2で発生しペットボトル19の内部に残留したオゾンは外部に押し出される。
【0036】
P2>P3<P4であるため、リンサ室R3でペットボトル19から押し出されたオゾンが殺菌室R2、充填室R4に流れることが防止される。殺菌室R2からリンサ室R3に流入したオゾンと、ペットボトル19から押し出されたオゾンは、送風装置8によってバッファ18に送られ、オゾンが分解された後に大気に放出される。
【0037】
ペットボトル19は充填室R4に送られる。充填室R4において、ペットボトル19に内容物が充填される。充填室R4は、最も高い空気清浄度(空気中の微粒子が最も少ない状態)が要求される場所である。充填室R4の圧力P4は最も高いため、充填室R4の空気はリンサ室R3とキャッパ室R5とに流れ出す。そのため、充填室R4に外部の空気が混入することが防止される。
【0038】
ペットボトル19はキャッパ室R5に送られる。キャッパ室R5において、ペットボトル19にキャップが装着される。キャッパ室R5の圧力は排出ライン4の圧力よりも高いため、キャッパ室R5に清浄度の低い空気が流入することが防止される。
【0039】
本実施の形態における電子線殺菌システムは、ペットボトルを殺菌するために用いられたが、本発明による電子線殺菌システムは、他の食品容器、または医療器具などの殺菌に使用することも可能である。
【0040】
殺菌前室R1とリンサ室R3のいずれかまたは両方に空気を供給する送風機構が設けられた構成も可能である。その際、各室の圧力は既述の関係を満たすように制御される。こうした電子線殺菌システムは、殺菌前室R1またはリンサ室R3の空気の入れ替え量が多くなり、オゾンや塵埃の密度が確実に低く保たれる。
【0041】
本実施の形態の変形例として、リンサ室R3が無い場合が考えられる。その場合、殺菌室R2と充填室R4とが殺菌される対象物が受け渡される開口により接続される。圧力の関係は、P1<P0<P2かつP2<P4>P5>P0とされる。こうした電子線殺菌システムは、発生するオゾン量が問題にならない程度に僅かである場合、または殺菌される対象物の形状によってオゾンが溜まりにくい場合などに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、電子線殺菌システムの構成を示す。
【図2】図2は、電子線殺菌システムの構成を示す。
【図3】図3は、殺菌前室と殺菌室の構成を示す。
【符号の説明】
【0043】
2 導入ライン
4 排出ライン
6 送風装置
8 送風装置
10 バルブ
12 バルブ
14 バルブ
16 バルブ
18 バッファ
19 ペットボトル
20 電子線照射装置
21 スターホイール
22 搬送手段
R0 導入室
R1 殺菌前室
R2 殺菌室
R3 リンサ室
R4 充填室
R5 キャッパ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口から導入される容器を搬送する第1搬送装置を備える殺菌前室と、
前記第1搬送装置から前記容器を受け取って搬送する第2搬送装置と前記容器に電子線を照射する電子線照射装置とを備え、前記殺菌前室よりも圧力が高い電子線殺菌室と、
前記電子線を照射された前記容器に内容物を充填する充填装置を備え、前記電子線殺菌室より圧力が高い充填室
とを具備する
電子線殺菌システム。
【請求項2】
請求項1に記載された電子線殺菌システムであって、
前記殺菌前室の圧力は、前記入口の外側の圧力よりも低い
電子線殺菌システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載された電子線殺菌システムであって、
更に、前記電子線殺菌室と前記充填室との間に介設され、前記電子線殺菌室よりも圧力が低く且つ前記充填室よりも圧力が低い中間室
を具備する
電子線殺菌システム。
【請求項4】
請求項3に記載された電子線殺菌システムであって、
前記中間室は、前記容器の内部に気体を供給するブロアを備える
電子線殺菌システム。
【請求項5】
第1開口を備え、前記第1開口の外部より圧力が低い第1室と、
前記第1室と第2開口により接続され、前記第1室より圧力が高く、電子線殺菌装置を備える第2室と、
前記第2室と第3開口により接続され、前記第2室より圧力が低い第3室と、
前記第3室と第4開口により接続され、前記第3室より圧力が高い第4室と、
前記第1室と前記第3室とから送り出されたオゾンを処理する処理装置
とを具備する
電子線殺菌システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−314407(P2006−314407A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137798(P2005−137798)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(505193313)三菱重工食品包装機械株式会社 (146)
【Fターム(参考)】