説明

電子線照射システムおよび搬送システム

【課題】ユーザに煩雑な作業を強いることなく、電子線の照射領域において、確実に被照射物同士を密接させて搬送する。
【解決手段】電子線照射システム100は、被照射物Wに電子線を照射する電子線照射装置200と、被照射物を搬送するとともに、電子線照射装置によって被照射物に電子線が照射される領域である照射領域Rに被照射物を通過させる第1搬送装置310と、第1搬送装置よりも被照射物の搬送方向上流側に設けられ、第1搬送装置の搬送速度V1よりも速い搬送速度V2で被照射物を搬送するとともに、第1搬送装置に被照射物を搬出する第2搬送装置320と、第2搬送装置に被照射物を送出する送出部370と、被照射物に応じて、搬送速度V1、搬送速度V2、および、送出間隔PTを制御する制御装置390と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射システムおよび搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具や食品等の滅菌、樹脂の架橋や硬化、悪性腫瘍等の病巣の除去等、様々な分野で利用されている電子線照射装置(例えば、特許文献1、2)が知られている。このような電子線照射装置は、カソード電極と加速器を備えており、カソード電極に電力を供給することでカソード電極から電子線を放出し、その電子線を加速器で加速して被照射物に照射する。電子線照射装置を利用して被照射物に電子線を照射する場合、被照射物は、コンベア等の搬送装置で、被照射物に電子線が照射される領域(照射領域)に、連続的に搬送されることが多い。
【0003】
図8は、従来の搬送装置20を説明するための説明図である。電子線照射装置10は、電子線を加速して放出し、照射領域Rにおいてその電子線を被照射物Wに照射する。ここで、被照射物Wは、搬送装置20を構成するコンベア22等に載置されて照射領域Rに搬送される。このとき、被照射物Wは、前後の被照射物Wと一定間隔S分、離隔されてコンベア22上に載置される。そうすると、被照射物Wと被照射物Wとの間は、被照射物Wに電子線が照射されず、コンベア22に電子線が照射されることとなり、電子線が無駄に消費されてしまう。
【0004】
そこで、照射領域Rに被照射物Wを搬送する第1搬送装置と、第1搬送装置よりも被照射物Wの搬送方向上流側に設置され、被照射物Wを搬送するとともに、第1搬送装置に被照射物Wを搬出する第2搬送装置とを備えておき、第1搬送装置の搬送速度を、第2搬送装置の搬送速度よりも遅くすることで、第1搬送装置において、被照射物Wを密接搬送する技術が開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349998号公報
【特許文献2】特開2003−139898号公報
【特許文献3】特開2002−6098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献3の技術では、照射領域Rにおいて、被照射物Wが前後の被照射物Wと密接して搬送されるので、電子線の無駄な照射を低減することができる。しかし、被照射物Wの長さや、被照射物Wの滅菌に必要な照射時間は、被照射物Wごとに異なる。したがって、特許文献3の技術を利用して、照射領域Rにおいて適切に被照射物W同士を密接させるためには、被照射物Wに応じて、第1搬送装置および第2搬送装置の搬送速度をユーザが手入力で適宜変更しなければならず、ユーザに煩雑な作業を強いることになっていた。
【0007】
ここで、被照射物Wを搬送装置上に載置する際に、予め被照射物W同士を密接させておくことも考えられる。しかし、電子線の照射によって放出される放射線の漏洩を防ぐために、被照射物Wを搬送する搬送装置は、建屋内において複雑な搬送経路をとらなければならず、また、被照射物Wの搬送距離も長くなってしまう。そのため、搬送途中で被照射物Wが詰まってしまい、正常な搬送が行えなくなってしまったり、被照射物Wのカウントの精度が保てず、個数管理ができなくなってしまったりするおそれもある。
【0008】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、被照射物に応じて、第1搬送装置、第2搬送装置、および、第2搬送装置に被照射物を送出する送出部を工夫することで、ユーザに煩雑な作業を強いることなく、電子線の照射領域において、確実に被照射物同士を密接させて搬送することが可能な電子線照射システムおよび搬送システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の電子線照射システムは、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置と、被照射物を搬送するとともに、電子線照射装置によって被照射物に電子線が照射される領域である照射領域に被照射物を通過させる第1搬送装置と、第1搬送装置よりも被照射物の搬送方向上流側に設けられ、第1搬送装置の搬送速度よりも速い搬送速度で被照射物を搬送するとともに、第1搬送装置に被照射物を搬出する第2搬送装置と、第2搬送装置に被照射物を送出する送出部と、被照射物に応じて、第1搬送装置の搬送速度、第2搬送装置の搬送速度、および、送出部の送出間隔を制御する制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
制御装置は、第1搬送装置の搬送速度と、第2搬送装置の搬送速度とを所定の比率に維持してもよい。
【0011】
第1搬送装置は、被照射物を搬送する第1搬送体を含んで構成され、第2搬送装置は、被照射物を搬送する第2搬送体を含んで構成され、第1搬送体および第2搬送体は、制御装置によって回転数が制御される1つのモータに連結され、制御装置は1つのモータを回転させることにより、第1搬送装置の搬送速度と、第2搬送装置の搬送速度とを異ならせてもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の搬送システムは、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置に、被照射物を搬送する搬送システムであって、被照射物を搬送するとともに、電子線照射装置によって被照射物に電子線が照射される領域である照射領域に被照射物を通過させる第1搬送装置と、第1搬送装置よりも被照射物の搬送方向上流側に設けられ、第1搬送装置の搬送速度よりも速い搬送速度で被照射物を搬送するとともに、第1搬送装置に被照射物を搬出する第2搬送装置と、第2搬送装置に被照射物を送出する送出部と、被照射物に応じて、第1搬送装置の搬送速度、第2搬送装置の搬送速度、および、送出部の送出間隔を制御する制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被照射物に応じて、第1搬送装置、第2搬送装置、および、第2搬送装置に被照射物を送出する送出部を工夫することで、ユーザに煩雑な作業を強いることなく、電子線の照射領域において、確実に被照射物同士を密接させて搬送することが可能となる。こうして、電子線の無駄な照射を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電子線照射システムの外観図である。
【図2】図1におけるZ軸方向から電子線照射システムを見た図である。
【図3】搬送システムを説明するための説明図ある。
【図4】制御装置による送出間隔の算出処理を説明するための説明図である。
【図5】第1搬送装置、第2搬送装置、および、第3搬送装置の斜視図である。
【図6】第1搬送装置における第1搬送体を説明するための斜視図である。
【図7】第1搬送装置の昇降機構を説明するための説明図である。
【図8】従来の搬送装置を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(電子線照射システム100)
図1は、電子線照射システム100の外観斜視図であり、図2は、図1におけるZ軸方向から電子線照射システム100を見た図である。なお、図1では、理解を容易にするために電子線照射装置200を支持する支持機構を省略する。
【0017】
図1および図2に示すように、電子線照射システム100は、電子線照射装置200と、搬送システム300とを含んで構成される。
【0018】
(電子線照射装置200)
電子線照射装置200は、カソード電源104と、電子銃110と、高周波ユニット112と、導波管114と、プリバンチャ116と、加速器118と、スキャンホーン120とを備えて構成されている。なお、電子銃110、プリバンチャ116、加速器118、スキャンホーン120は、内部空間(真空室)が連続しており、この内部空間は、イオンポンプ等の真空ポンプ102で高真空状態から超高真空状態(例えば、10E−5Pa以下)に維持される。
【0019】
電子線照射装置200において、電子銃110から放出された熱電子は、プリバンチャ116、加速器118で加速され、スキャンホーン120を通過して、搬送システム300で搬送される被照射物Wに向かって図1中Y軸方向に照射される。以下、電子線照射装置200の各機能部について詳述する。
【0020】
(電子銃110)
電子銃110は、例えば、三極管電子銃であり、カソード電源(交流電源)104から供給された電力によってカソード電極を加熱し、パルス状に印加された高電圧のグリッド電圧(引出電圧)により、電子線を放出する。
【0021】
(高周波ユニット112、導波管114)
高周波ユニット112は、クライストロン等で構成される高周波増幅器112aと、高周波増幅器112aに電力を供給する高周波電源(電力供給部)112bとを含んで構成され、導波管114を通じてプリバンチャ116および加速器118に、例えばSバンドに相当する3GHzのパルス状の高周波電力を供給する。導波管114は、セラミック等で構成されたRF窓114a、114bを通じて、高周波増幅器112aから増幅されて供給される高周波の電圧を加速器118に供給する。導波管114におけるRF窓114aとRF窓114bの間には、六フッ化硫黄(SF)等の絶縁ガスが充填されており、高周波増幅器112aで増幅されて出力された電圧によって導波管114が放電してしまう事態を回避する。なおRF窓114a、114bはSFと真空とを隔てる境界の役割を果たす。
【0022】
(プリバンチャ116)
プリバンチャ116は、電子銃110と加速器118の間に設けられ、導波管114を通じて高周波ユニット112に接続されている。プリバンチャ116は、電子銃110から入射された電子線をバンチング(密度圧縮(速度変調))して、加速器118に送出する。具体的に説明すると、プリバンチャ116内は、高周波増幅器112aから供給された高周波の電圧によって高周波電界が形成されており、プリバンチャ116を通過した電子線は、バンチングされて加速器118に入射する。プリバンチャ116で電子線をバンチングすることにより、加速器118で加速された電子線のエネルギーの分散を小さくすることができ、電子線のエネルギーの均一性を向上させることが可能となる。
【0023】
ここで、プリバンチャ116によって圧縮された電子線の加速器118への入射タイミングが、加速器118における高周波の正位相と同期したときのみ、電子線は加速器118で効率よく加速される。したがって、プリバンチャ116から加速器118への電子線の入射タイミングを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の位相調整手段が設けられている。また、電子線の圧縮率(バンチングされた電子線の長さ)も加速器118による加速効率に影響するため、すなわち、電子線の長さが短い程、加速効率が向上する。したがって、供給する高周波の強度を調整して電子線の長さを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の減衰(アッテネータ)手段が設けられている。
【0024】
(加速器118)
加速器118は、ステンレス(例えばSUS)等で形成され、内部に複数の加速空間を有して構成される。高周波増幅器112aから高周波の電圧(例えば、3GHz)が供給されると、加速器118の複数の加速空間が空間共振器として機能し、空間共振器内に時間的に変化する電界が生じる。そして、この時間的に変化する電界で、プリバンチャ116によって圧縮された電子線を加速する。
【0025】
ここで、電子線の速度と加速空間における正に帯電する(正位相になる)タイミングが同期するように、高周波増幅器112aから供給される電圧の周波数と、加速空間の距離が設計されているため、電子線は加速器118内で徐々に加速され、最終的には、例えば10MeV程度まで加速されて、スキャンホーン120に入射される。
【0026】
なお、ここでは、加速器118として、定在波型の線形(リニアック)加速器を採用しているが、電子を加速できればよく、進行波型の線形加速器や、シンクロトロン、サイクロトロン等の円形加速器を採用することもできる。
【0027】
(スキャンホーン120)
スキャンホーン120は、ステンレス(例えばSUS)等で形成され、その内部空間が加速器118と連結され、加速器118の出口付近に設けられたスキャン電磁石122と、加速器118と連結する端部と対向する端部に設けられた電子線取出部124とを含んで構成される。
【0028】
スキャン電磁石122は、加速器118から入射された電子線を水平方向(図1中X軸方向)に走査(スキャン)する。電子線の進行方向は鉛直方向(図1中Y軸方向)であるため、スキャン電磁石122が鉛直方向に進行する電子線を水平方向に走査することにより、水平方向に幅のある被照射物Wに確実に電子線を照射することができる。
【0029】
電子線取出部124は、例えば、50μm程度の厚みのチタン(Ti)箔で構成され、内部空間と、大気とを隔てる境界の役割を果たす。そして、電子線取出部124から大気雰囲気に放出された電子線は、被照射物Wに照射される。
【0030】
こうして、電子銃110で放出された電子線は、加速器118で加速されて、電子線取出部124を通じて、被照射物Wに照射される。
【0031】
ところで、照射領域Rにおいて、被照射物Wが前後の被照射物Wと離隔して搬送される場合、被照射物Wと被照射物Wとの間に電子線が照射されてしまい電子線が無駄に消費されることになっていた。
【0032】
以下、照射領域Rにおいて、被照射物W同士を密接させて搬送することで、電子線が無駄に消費される事態を回避することが可能な搬送システム300について詳述する。
【0033】
(搬送システム300)
図3は、搬送システム300を説明するための説明図であり、図1におけるY軸方向から搬送システム300を見た図である。図3に示すように、搬送システム300は、第1搬送装置310と、第2搬送装置320と、第3搬送装置330と、第4搬送装置340と、第5搬送装置350と、第6搬送装置360と、送出部370と、被照射物判定部380と、カウンタ382と、通過センサ384と、制御装置390とを含んで構成され、被照射物Wを照射領域Rに搬送したり、照射領域Rから被照射物Wを搬出したりすることで、照射領域Rに被照射物Wを通過させる。ここで、第1搬送装置310、第2搬送装置320、第3搬送装置330、第4搬送装置340、第5搬送装置350、第6搬送装置360は、例えば、コンベアで構成され、被照射物Wを載置した状態で搬送する。
【0034】
第1搬送装置310は、例えば、10〜200mm/secの搬送速度V1で被照射物Wを搬送するとともに、照射領域Rに被照射物Wを通過させる。第2搬送装置320は、第1搬送装置310よりも被照射物Wの搬送方向上流側に設けられ、被照射物Wを搬送するとともに、第1搬送装置310に被照射物Wを搬出する。本実施形態において、第2搬送装置320の搬送速度V2は、第1搬送装置310の搬送速度V1よりも速くなるように、後述する制御装置390によって制御される。また、制御装置390は、搬送速度V1と、搬送速度V2とを所定の比率に維持する。例えば、制御装置390は、搬送速度V2が、搬送速度V1の1.2倍になるように制御する。制御装置390による、搬送速度V1と、搬送速度V2とを所定の比率に維持する機構については、後に詳述する。
【0035】
第3搬送装置330は、第1搬送装置310よりも被照射物Wの搬送方向下流側に設けられ、第1搬送装置310から搬出された被照射物Wを搬送する。第4搬送装置340は、搬入口から搬入された被照射物Wを搬送するとともに、後述する送出部370に被照射物Wを搬出する。第5搬送装置350は、第3搬送装置330から搬出された被照射物Wを搬送するとともに、被照射物Wを第6搬送装置360に搬出する。第6搬送装置360は、第5搬送装置350から搬出された被照射物Wを搬送するとともに搬出口へ被照射物Wを搬出する。本実施形態において、第3搬送装置330の搬送速度V3、第4搬送装置340の搬送速度V4、第5搬送装置350の搬送速度V5、第6搬送装置360の搬送速度V6は、搬送速度V2と実質的に等しい、または、搬送速度V1よりも十分大きな速度で固定されている。また、第4搬送装置340は、通過センサ384によって検出される被照射物Wの有無によって、停止したり、稼働したりするように、制御装置390に制御される。
【0036】
送出部370は、例えばプッシャーで構成され、第4搬送装置340から搬出された被照射物Wを第2搬送装置320に送出(押出)する。被照射物判定部380は、搬送方向における被照射物Wの長さL0を検出する。カウンタ382は、第3搬送装置330に搬送される被照射物Wをカウントする。すなわちカウンタ382は、照射領域Rを通過し、照射領域Rにおいて電子線で滅菌された被照射物Wの個数をカウントする。
【0037】
制御装置390は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により、搬送システム300全体を管理および制御する。ここで、制御装置390は、第1搬送装置310の搬送速度V1、第2搬送装置320の搬送速度V2、送出部370の送出間隔PTを制御する。
【0038】
具体的に説明すると、制御装置390は、まず、電子線照射装置200によって放出される電子線の出力(例えば、10MeV、500pps)と、被照射物Wに必要な照射量と、被照射物判定部380が検出した被照射物Wの長さL0とに基づいて、搬送速度V1を決定する。続いて、制御装置390は、被照射物判定部380が検出した被照射物Wの長さL0に応じて、第1搬送装置310において被照射物Wが密接して搬送されるように、送出間隔PTを算出する。
【0039】
図4は、制御装置390による送出間隔PTの算出処理を説明するための説明図である。図4(a)に示す時刻t1において、被照射物W1が第2搬送装置320から第1搬送装置310に載置され始めてから、図4(b)に示す時刻t2において、被照射物W1が第2搬送装置320から第1搬送装置310へ搬出され、図4(c)に示す時刻t3において、被照射物W1が第2搬送装置320から第1搬送装置310に載置され終わるまでに、L0/V1secかかることになる。すなわち、時刻t1から時刻t3までは、L0/V1secである。
【0040】
そして、時刻t3において、被照射物W1が第2搬送装置320から第1搬送装置310に載置され終わってすぐに、被照射物W1の次に照射領域Rに搬送される被照射物W2が、第2搬送装置320から第1搬送装置310に載置され始めるようにすれば、第1搬送装置310において被照射物W1と被照射物W2とを密接させて搬送することができる。
【0041】
つまり、被照射物Wの長さL0を、搬送システム300で構成される搬送系において最も遅い搬送速度Vminで除した時間間隔L0/Vminで被照射物Wを送出すれば、搬送速度Vminである搬送装置において、被照射物Wが密接して搬送されることになる。なお、L0/Vminより短い間隔で被照射物Wを送出すると、搬送速度Vminである搬送装置(ここでは、第1搬送装置310)において、被照射物Wが詰まってしまい所望する搬送速度を得られない。また、L0/Vminより長い間隔で被照射物Wを送出すると、搬送速度Vminである搬送装置において、被照射物W同士の間隔が離隔することとなる。
【0042】
そこで、制御装置390は、送出部370に送出された被照射物W2が、L0/V1sec後に、第2搬送装置320から第1搬送装置310に載置され始めるように、送出部370による送出間隔(sec)を算出する。すなわち、L0/V1secごとに被照射物Wを送出する。
【0043】
また、制御装置390は、送出部370による送出処理の制御と並行して、第1搬送装置310、第2搬送装置320、第3搬送装置330、第4搬送装置340、第5搬送装置350、第6搬送装置360による搬送処理を制御する。
【0044】
続いて、制御装置390による、第1搬送装置310、第2搬送装置320、第3搬送装置330、第4搬送装置340、第5搬送装置350、第6搬送装置360の搬送処理について説明する。
【0045】
図5は、第1搬送装置310、第2搬送装置320、および、第3搬送装置330の斜視図であり、図6は、第1搬送装置310における第1搬送体312を説明するための斜視図である。
【0046】
図5に示すように、第1搬送装置310は、被照射物Wを搬送する第1搬送体312と、第1搬送体312を駆動する第1ギア314a、314bと、第1ギア314aと第1ギア314bとに歯合するチェーンベルト316とを含んで構成される。
【0047】
詳細に説明すると、図6に示すように、第1搬送装置310の第1搬送体312は、搬送方向(図6中、Z軸方向)の幅が鉛直方向(図6中、Y軸方向)よりも短く形成された、ステンレス製の板状のスラット部312aと、スラット部312aを支持する支持部312bとを含んで構成される。スラット部312aの搬送方向の幅は、例えば、3mmであり、鉛直方向の幅は、例えば15mmであり、図6中、X軸方向の長さは、例えば700mmである。また、スラット部312a間の距離(図6中、Z軸方向の距離)は、例えば、25mmである。
【0048】
このように、照射領域Rを通過する第1搬送体312のスラット部312aにおいて、電子線が照射される面(図6中、XZ平面)の面積を小さく形成することにより、電子線の照射によるスラット部312aの温度上昇を低減することができる。したがって、スラット部312aが変形してしまったり、腐食してしまったりする事態を回避することができる。
【0049】
なお、支持部312bの両端には、第1ギア314a、314bと歯合するチェーンベルト(不図示)が接続されており、第1ギア314a、314bが回転することにより、チェーンベルトが移動するとともに、スラット部312aおよび支持部312bが搬送方向に移動する。
【0050】
図5に戻って説明すると、第2搬送装置320は、コンベア等で構成され、被照射物Wを搬送する第2搬送体322と、第2搬送体322を駆動する第2ギア324a、324bと、第2ギア324aと第2ギア324bとに歯合するチェーンベルト326とを含んで構成される。ここで、第2ギア324aと第2ギア324bとの歯数は実質的に等しく、第1ギア314aと、第2ギア324bとの減速比は、1.2:1(第1ギア314aの歯数/第2ギア324bの歯数=1.2)である。
【0051】
なお、第2搬送体322の両端には、第2ギア324a、324bと歯合するチェーンベルト(不図示)が接続されており、第2ギア324a、324bが回転することにより、チェーンベルトが移動するとともに、第2搬送体322が搬送方向に移動する。
【0052】
第3搬送装置330は、コンベア等で構成され、被照射物Wを搬送する第3搬送体332と、第3搬送体332を駆動する第3ギア334a、334bと、第3ギア334aと第3ギア334bとに歯合するチェーンベルト336とを含んで構成される。ここで、第3ギア334aと第3ギア334bとの歯数は実質的に等しく、第3ギア334aの歯数は、第2ギア324bの歯数と実質的に等しい。すなわち、第1ギア314bと、第3ギア334aとの減速比は、1.2:1(第1ギア314bの歯数/第3ギア334aの歯数=1.2)である。
【0053】
なお、第3搬送体332の両端には、第3ギア334a、334bと歯合するチェーンベルト(不図示)が接続されており、第3ギア334a、334bが回転することにより、チェーンベルトが移動するとともに、第3搬送体332が搬送方向に移動する。
【0054】
また、搬送システム300は、第1ギア314aと第2ギア324bとを歯合するチェーンベルト410aと、第1ギア314bと第3ギア334aとを歯合するチェーンベルト410bと、第1ギア314aを回転させる不図示のモータを備える。
【0055】
したがって、モータによって第1ギア314aが回転すると、チェーンベルト316を通じて第1ギア314bが回転し、これによって支持部312bに接続された不図示のチェーンベルトが移動して第1搬送体312が駆動される。また、モータの回転によって第1ギア314aが回転すると、チェーンベルト410aを通じて第2ギア324bが回転し、この第2ギア324bの回転がチェーンベルト326を通じて第2ギア324aに伝達される。これにより、第2搬送体322の両端に接続された不図示のチェーンベルトが回転して第2搬送体322が駆動される。さらに、モータの回転によって第1ギア314bが回転すると、チェーンベルト410bを通じて第3ギア334aが回転し、この第3ギア334aの回転がチェーンベルト336を通じて第3ギア334bに伝達される。これにより、第3搬送体332の両端に接続された不図示のチェーンベルトが回転して第3搬送体332が駆動される。
【0056】
換言すれば、モータが第1ギア314aを回転させるだけで、第1搬送体312、第2搬送体322、第3搬送体332の3つの搬送体を駆動させることができる。
【0057】
また、上述したように、第1ギア314aの歯数と、第2ギア324bの歯数とを異ならせるとともに、第1ギア314bの歯数と、第3ギア334aの歯数とを異ならせることによって、モータが第1ギア314aを回転させるだけで、第1搬送体312の搬送速度V1と、第2搬送体322の搬送速度V2および第3搬送体332の搬送速度V3とを異ならせることができる。
【0058】
また、第1ギア314a、314b、第2ギア324a、324b、第3ギア334a、334bの歯数は、常に一定であるため、搬送速度V2およびV3は、搬送速度V1に対して所定の比率が維持される関係にあることになる。ここでは、第1ギア314aと第1ギア314bの歯数、第2ギア324aと第2ギア324bの歯数、第3ギア334aと第3ギア334bの歯数、がそれぞれ等しく、第1ギア314aの歯数は、第2ギア324bの歯数の1.2倍であり、第1ギア314bの歯数は、第3ギア334aの歯数の1.2倍であるため、搬送速度V2および搬送速度V3は、搬送速度V1の1.2倍になる。したがって、制御装置390は、モータの回転数を制御して搬送速度V1を制御するだけで、搬送速度V2および搬送速度V3を制御することも可能となる。
【0059】
このように、第1搬送装置310、第2搬送装置320、第3搬送装置330それぞれがギアを備え、各搬送体を駆動するギア同士をチェーンベルト410a、410bで歯合させることにより、1つのモータでいずれかのギアを回転させれば、第1搬送体312、第2搬送体322、第3搬送体332のすべての搬送体を駆動することができる。したがって、第1搬送装置310、第2搬送装置320、第3搬送装置330の駆動源を一つに纏めることができ、搬送システム300全体のコストを低減することが可能となる。
【0060】
また、制御装置390は、搬送速度V4、搬送速度V5、搬送速度V6を搬送速度V2と実質的に等しくなるように制御する。
【0061】
以上説明したように、被照射物Wを照射領域Rに通過させる搬送装置である第1搬送装置310の搬送速度V1を、搬送速度V2より遅くすることで、照射領域Rにおいて、被照射物W同士を密接して搬送することができる。これにより、被照射物Wに照射されない電子線を低減することができる。
【0062】
また、制御装置390は、被照射物判定部380が検出した被照射物Wによって決定される搬送速度V1に基づいて、送出部370の送出間隔PTを算出し、算出した送出間隔PTに基づいて送出部370に被照射物Wを送出させる。そして、第1搬送装置310、第2搬送装置320、第3搬送装置330それぞれがギアを備え、各搬送体を駆動するギア同士をチェーンベルト410a、410bで歯合させる構成であるため、制御装置390が第1ギア314aを回転させるモータの回転数を制御するだけで、搬送速度V1、搬送速度V2、搬送速度V3を制御することができる。したがって、ユーザが、被照射物Wごとに搬送速度V1、搬送速度V2、送出間隔PTを設定せずとも、照射領域Rにおいて適切に被照射物Wを密接させて搬送することが可能となる。
【0063】
さらに、搬送速度V3を搬送速度V1よりも速くすることで、第1搬送装置310で密接して搬送された被照射物Wを離隔することができる。これにより、第3搬送装置330において、カウンタ382が被照射物Wを確実にカウントすることができ、照射領域Rにおいて電子線が照射され、滅菌された被照射物Wの個数管理を確実に遂行することが可能となる。
【0064】
ところで、上述したように、本実施形態において電子線は、電子線照射装置200から鉛直下方向に向かって照射されるが、このときスキャンホーン120によって水平方向に走査される(図2参照)。したがって、電子線は、図2中、Y軸方向に向かって、X軸方向に裾広がりに照射されることになる。ここで、被照射物Wの搬送方向と直交する方向(図2中、X軸方向)の長さを、照射領域Rにおける図2中X軸方向の長さと一致させれば、被照射物Wに照射されない電子線がなくなり、無駄な電子線の照射をさらに低減することができる。
【0065】
そこで、本実施形態の第1搬送装置310は、昇降機構を備える。図7は、第1搬送装置310の昇降機構420を説明するための説明図である。図7に示すように、第1搬送装置310には、第1搬送体312を昇降する昇降機構420が設けられている。昇降機構420は、図7(a)に示す通常状態において、第1搬送体312が第2搬送体322、第3搬送体332と鉛直方向(図7中、Y軸方向)の高さが実質的に等しくなるように、第1搬送体312の高さを維持する。
【0066】
ここで、例えば、被照射物判定部380が検出した被照射物Wの搬送方向と直交する方向(図7中、X軸方向)の長さが、図7中、X軸方向における照射領域Rの幅より短い場合、図7(b)に示すように、制御装置390は、昇降機構420を駆動して、第1搬送体312を鉛直上方向に移動させる。そうすると、被照射物Wと電子線取出部124との距離が近くなり、被照射物Wの搬送方向と直交する方向の長さが、図7中、X軸方向における照射領域Rの幅に近づく(または一致する)ことになる。なお、ここで、チェーンベルト410a、410bは、昇降機構420による第1搬送体312の昇降を許容する程度の遊びを有するように、第1ギア314a、314bと歯合している。
【0067】
このように、第1搬送装置310が昇降機構420を備え、制御装置390が被照射物Wの搬送方向と直交する方向の長さに応じて、昇降機構420を制御して第1搬送体312を昇降させる。これにより、被照射物Wの搬送方向と直交する方向の長さと、図7中、X軸方向における照射領域Rの幅を一致させることができ、被照射物W以外に照射される電子線をさらに低減することが可能となる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0069】
例えば、上述した実施形態では、被照射物Wの長さL0を検出する被照射物判定部380を設けているが、ユーザが制御装置390に被照射物Wの長さL0を入力してもよい。また、上述した実施形態では、被照射物判定部380は、照射領域Rにおける被照射物Wの搬送方向の長さL0を検出しているが、制御装置390が、被照射物Wの種類ごとに、電子線の照射時間を予め記憶しておき、被照射物判定部380が被照射物Wの種類を検出することもできる。この場合、制御装置390は、送出間隔PTを照射時間とする。
【0070】
また、上述した実施形態では、制御装置390が、搬送速度V1と搬送速度V2とを所定の比率に維持しているため、制御装置390は、搬送速度V1および送出間隔PTを算出して、モータおよび送出部370を制御すれば、第1搬送装置310において被照射物Wを密接させて搬送することができる。
【0071】
しかし、制御装置390が、搬送速度V1と搬送速度V2とを所定の比率に維持しない場合、制御装置390は、搬送速度V1、搬送速度V2、および送出間隔PTを、被照射物Wに応じて別々に設定することで、第1搬送装置310において被照射物Wを密接させて搬送することができる。
【0072】
例えば、制御装置390は、まず、電子線照射装置200によって放出される電子線の出力と、被照射物判定部380が検出した被照射物Wの長さL0に基づいて、搬送速度V1を決定する。続いて、制御装置390は、予め記憶している第2搬送装置320の搬送距離L2と、被照射物判定部380が判定した被照射物Wの長さL0に応じて、第1搬送装置310において被照射物Wが密接して搬送されるように、送出間隔PTを算出する。すなわち、制御装置390は、送出部370に送出された被照射物W2が、L0/V1sec後に、第2搬送装置320から第1搬送装置310に載置され始めるように搬送速度V2を算出する。
【0073】
つまり、制御装置390は、第2搬送装置320の長さL2の距離をL0/V1secで搬送できる速度を、搬送速度V2(V2=L2/(L0/V1)=L2×V1/L0)とする。なお、このとき、算出した搬送速度V2が第2搬送装置320の搬送能力を超えている場合、搬送速度V2を第2搬送装置320における最大値に設定し、送出間隔PTを制御するとよい。そうすると、図4(b)に示す状態のときに、第2搬送装置320には、被照射物W1、被照射物W2、被照射物W3が載置されることになる。
【0074】
また、上述した実施形態では、第1搬送装置310が昇降機構420を備えることにより、被照射物Wの鉛直方向の高さを変更しているが、制御装置390がスキャン電磁石122を制御して、スキャン電磁石122による電子線のスキャン幅を変更することによって、被照射物Wの搬送方向と直交する方向の長さと、図7中、X軸方向における照射方向Rの幅を一致させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射システムおよび搬送システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
R …照射領域
V1 …搬送速度
V2 …搬送速度
W …被照射物
100 …電子線照射システム
200 …電子線照射装置
300 …搬送システム
310 …第1搬送装置
312 …第1搬送体
314 …第1ギア
320 …第2搬送装置
322 …第2搬送体
324 …第2ギア
70 …送出部
390 …制御装置
410 …チェーンベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射物に電子線を照射する電子線照射装置と、
前記被照射物を搬送するとともに、前記電子線照射装置によって前記被照射物に電子線が照射される領域である照射領域に該被照射物を通過させる第1搬送装置と、
前記第1搬送装置よりも前記被照射物の搬送方向上流側に設けられ、前記第1搬送装置の搬送速度よりも速い搬送速度で前記被照射物を搬送するとともに、前記第1搬送装置に該被照射物を搬出する第2搬送装置と、
前記第2搬送装置に前記被照射物を送出する送出部と、
前記被照射物に応じて、前記第1搬送装置の搬送速度、前記第2搬送装置の搬送速度、および、前記送出部の送出間隔を制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする電子線照射システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記第1搬送装置の搬送速度と、前記第2搬送装置の搬送速度とを所定の比率に維持することを特徴とする請求項1に記載の電子線照射システム。
【請求項3】
前記第1搬送装置は、
前記被照射物を搬送する第1搬送体を含んで構成され、
前記第2搬送装置は、
前記被照射物を搬送する第2搬送体を含んで構成され、
前記第1搬送体および前記第2搬送体は、前記制御装置によって回転数が制御される1つのモータに連結され、
前記制御装置は前記1つのモータを回転させることにより、前記第1搬送装置の搬送速度と、前記第2搬送装置の搬送速度とを異ならせることを特徴とする請求項1または2記載の電子線照射システム。
【請求項4】
被照射物に電子線を照射する電子線照射装置に、該被照射物を搬送する搬送システムであって、
前記被照射物を搬送するとともに、前記電子線照射装置によって前記被照射物に電子線が照射される領域である照射領域に該被照射物を通過させる第1搬送装置と、
前記第1搬送装置よりも前記被照射物の搬送方向上流側に設けられ、前記第1搬送装置の搬送速度よりも速い搬送速度で前記被照射物を搬送するとともに、前記第1搬送装置に該被照射物を搬出する第2搬送装置と、
前記第2搬送装置に前記被照射物を送出する送出部と、
前記被照射物に応じて、前記第1搬送装置の搬送速度、前記第2搬送装置の搬送速度、および、前記送出部の送出間隔を制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする搬送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−247207(P2012−247207A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116816(P2011−116816)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】