説明

電子線照射装置及び電子線照射方法

【課題】被処理物に電子線照射処理を施す際に、簡易な構成で被処理物の帯電を低減することができる電子線照射装置を提供する。
【解決手段】電子線を照射する際には、中空状の被処理物の口部を導電性支持具で支持することにより、被処理物をアースに繋げた状態とする。被処理物を搬送するとき、その搬送方向は帯状電子線束に対して垂直となる方向とし、被処理物の向きは、被処理物の中心軸が帯状電子線束と平行になるように、或いは、被処理物の中心軸が帯状電子線束に対して垂直になるようにし、かつ被処理物の搬送方向において被処理物の底部が前でアースされた口部が後となるようにする。照射室内において被処理物を搬送し、中空状の被処理物内にガス供給部からのアルゴンガスを流しながら被処理物に電子線を照射して、被処理物に対して滅菌処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に電子線照射処理を施すために用いられる電子線照射装置及び電子線照射方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂製被処理物に電子線照射を施して該被処理物の洗浄・表面改質、殺菌・滅菌等の処理が行われているが、その際、被処理物が電子線照射によって帯電する場合があることが知られている。
【0003】
電子線照射により樹脂製被処理物が帯電するのを防止するには、例えば除電器を用いることができる。一般に、除電器は、イオンを発生させるイオン発生部を有し、そのイオンを利用して静電気を中和する装置である。電子線照射部にPIGイオン源を配設し、そのPIGイオン源から発生させたイオンを被処理物に向けて噴出することにより被処理物に蓄積された電荷を中和する電子線照射装置が案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−25493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したPIGイオン源等の除電器を電子線照射装置に設け、この除電器で発生させたイオンを利用して樹脂製被処理物に蓄積された電荷を中和することにより、樹脂製被処理物の帯電を防止することも可能である。しかしながら、かかる除電器を電子線照射装置に設けると、電子線照射装置が大型となり、製造コストが嵩むという問題がある。このため、樹脂製被処理物に電子線照射処理を施す際に、簡易な構成で、樹脂製被処理物の帯電を防止することができる電子線照射装置の実現が望まれている。
【0006】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、被処理物に電子線照射処理を施す際に、簡易な構成で被処理物の帯電を低減することができる電子線照射装置及び電子線照射方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明は、電子線を照射することにより帯電する被処理物に電子線照射処理を施すために用いられる電子線照射装置であって、前記電子線を発生する電子線発生部と、前記被処理物に前記電子線を照射する処理が行われる照射室と、前記電子線発生部内の真空雰囲気と前記照射室内の照射雰囲気とを仕切ると共に前記電子線を前記照射室内に取り出す照射窓部と、前記被処理物に対して希ガス、窒素ガス又は前記希ガス若しくは前記窒素ガスを含む混合ガスを流すためのガス供給部と、を備え、前記被処理物に前記ガス供給部からの前記希ガス、前記窒素ガス又は前記希ガス若しくは前記窒素ガスを含む混合ガスを流しながら前記被処理物に前記電子線を照射するものである。
【0008】
また、上記の目的を達成するための本発明は、電子線を照射することにより帯電する被処理物に電子線照射処理を施すために用いられる電子線照射方法であって、被処理物にガス供給部からの希ガス、窒素ガス又は希ガス若しくは窒素ガスを含む混合ガスを流しながら、被処理物に電子線を照射するものである。
【0009】
本発明では、被処理物の表面に希ガス、窒素ガス又は希ガス若しくは窒素ガスを含む混合ガスを流しながら、電子線を照射することにより、希ガス又は窒素ガスが電子線によりエネルギーを受けて電離した状態となり、これにより被処理物に滞留した電子が電離したガス雰囲気中に拡散するので、電子線照射処理による被処理物の帯電を低減することができる。ここで、希ガスはアルゴンガスであることが望ましい。また、被処理物の表面というのは、例えば、被処理物がシート状のものである場合は、被処理物の表側の面又は(及び)裏側の面をいい、被処理物が中空状のものである場合は、被処理物の内側の面又は(及び)外側の面をいう。
【0010】
また、被処理物が、電気的に接地されている導電性支持具によって支持されていることが望ましい。これにより、電子線の照射によって被処理物に滞留した電子を電離したガス雰囲気中に拡散させることができると共に、電離したガス雰囲気を介してアースに逃がすことができるので、電子線照射処理による被処理物の帯電を防止することができる。
【0011】
また、被処理物が中空状の樹脂製容器である場合、被処理物の開口している口部を、電気的に接地されている導電性支持具によって支持すると共に、前記被処理物を搬送するとき、その搬送方向は前記電子線発生部から前記照射窓部を介して前記照射室内に照射される前記電子線の帯状電子線束に直交する方向であり、前記被処理物の向きは前記帯状電子線束に対して平行となるような、或いは、前記搬送方向において前記被処理物の底部が前で前記被処理物の接地されている口部が後となるような、姿勢で保持し、希ガス、窒素ガス又は希ガス若しくは窒素ガスを含む混合ガスを被処理物の開口している口部から被処理物の内部に流しながら被処理物に電子線を照射することが望ましい。これにより、中空状の樹脂製容器である被処理物が電子線照射処理により帯電するのを確実に防止することができる。
【0012】
また、前記電子線照射処理は、殺菌処理、滅菌処理又は表面改質処理であってもよい。ここで、表面改質処理というのは、架橋反応、グラフト重合反応、コーティング、親水性向上、強度向上等を含めた広い意味での表面改質処理をいう。
【0013】
また、50kVから500kVまでの範囲内の加速電圧で発生させた電子線は、被処理物に対する浸透深さが比較的浅いので、かかる電子線を被処理物に照射すると、被処理物内に電子が滞留しやすい。このため、本発明の適用対象として特に好ましいのは、50kVから500kVまでの範囲内の加速電圧で発生させた電子線を用いて被処理物に電子線照射処理を施す電子線照射装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電子線照射装置及び電子線照射方法では、被処理物に電子線照射処理を施す際に、除電器等の特別な装置を用いることなく、簡易な構成で、被処理物の帯電を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は本発明の一実施形態である電子線照射装置の概略構成図、同図(b)及び(c)は被処理物を搬送するときの被処理物の向きを説明するための図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態である電子線照射装置の電子線発生部の概略回路図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態である電子線照射装置を用いて被処理物に電子線照射処理を施しているときの様子を示す模式図である。
【図4】図4は電子線照射処理時における帯状電子線束と被処理物との位置関係の一例を説明するための概略斜視図である。
【図5】図5は従来の電子線照射装置を用いて被処理物に電子線照射処理を行ったときの第一試験の結果を示す表である。
【図6】図6は本実施形態の電子線照射装置で中空状の被処理物内にアルゴンガスを流しながら電子線照射処理を行ったときの第二試験の結果を示す表である。
【図7】図7は本実施形態の電子線照射装置を用いて、被処理物を導電性支持具で保持せずアースに対して浮かした状態で被処理物に電子線照射処理を行ったときの第三試験の結果を示す表である。
【図8】図8は本実施形態の電子線照射装置で中空状の被処理物内に窒素ガスを流しながら電子線照射処理を行ったときの第四試験の結果を示す表である。
【図9】図9は照射室内を大気雰囲気とし、被処理物が無い状態で電子線を照射したときの照射室内の発光スペクトルを示す図である。
【図10】図10は照射室内に被処理物を置いて、照射室内を大気雰囲気のままで電子線を照射したときの照射室内の発光スペクトルを示す図である。
【図11】図11は照射室内に被処理物を置いて、照射室内に窒素ガスを流しながら電子線を照射したときの照射室内の発光スペクトルを示す図である。
【図12】図12は照射室内に被処理物を置いて、照射室内にアルゴンガスを流しながら電子線を照射したときの照射室内の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して、本願に係る発明を実施するための最良の形態について説明する。図1(a)は本発明の一実施形態である電子線照射装置の概略構成図、同図(b)及び(c)は被処理物を搬送するときの被処理物の向きを説明するための図、図2はその電子線照射装置の電子線発生部の概略回路図、図3はその電子線照射装置を用いて被処理物に電子線照射処理を施しているときの様子を示す模式図である。
【0017】
一般に、電子線照射装置は、電子線を被処理物に照射して、被処理物に所望の処理を施すために使用されており、例えば樹脂製容器に電子線を照射することにより滅菌処理を施すために使用される。
【0018】
本実施形態の電子線照射装置は、図1及び図2に示すように、電子線発生部10と、照射室20と、照射窓部30と、ビームキャッチャー(電子線捕捉部)24と、ガス供給部40と、を備えるものである。ここでは、具体的に、電子線照射装置として、加速電圧が50kV〜300kVである低エネルギー電子線照射装置を使用している。
【0019】
電子線発生部10は、電子線を発生するターミナル11と、ターミナル11で発生した電子線を真空空間(加速空間)で加速する加速管12とを有するものである。ターミナル11は、熱電子を放出する線状のフィラメント11aと、フィラメント11aを支持するガン構造体11bと、フィラメント11aで発生した熱電子をコントロールするグリッド11cとを含む。
【0020】
加速管12は円筒形状に形成されており、その中心軸が略水平方向を向くように且つ図1(a)の紙面に対して垂直となるように設置されている。この加速管12の中心軸に沿ってフィラメント11aが配置されている。この加速管12には、電子線照射時に二次的に発生するX線が外部へ漏出しないように、鉛遮蔽が施されている。尚、加速管12(電子線発生部10)の内部は、電子が気体分子と衝突してエネルギーを失うことを防ぐため、及びフィラメント11aの酸化を防止するため、図示しないポンプ等により10−4〜10−5Paの真空に保たれている。
【0021】
照射室20は、電子線発生部10の下側に設けられている。図1(a)に示すように、中空状の容器である被処理物Aは、照射室20内において、例えば、左側から右側に搬送される。このようにして搬送される被処理物に、照射窓部30の下方で、照射窓部30から取り出された電子線が照射される。その電子線群は図1(a)の紙面に対して垂直に延在する帯状電子線束Bを形成している。被処理物の搬送方向は、帯状電子線束Bに直交する方向に設定されている。具体的には、例えば、被処理物Aは導電性の保持手段により口部が保持されて、その長手方向が図1の紙面に対して垂直になるように配置され、図示しない搬送装置により、照射室20内において搬送される。なお、以下では、照射室20内において照射窓部30の近傍領域を、照射空間21と称することにする。すなわち、照射空間21とは、電子線を被処理物Aに照射する処理が行われる空間のことである。
【0022】
また、照射室20は、電子線照射時に照射室20内で二次的に発生したX線が外部へ漏出しない構造になっている。すなわち、照射室20それ自体がX線遮蔽構造体となっている。この照射室20は、例えば鉛やステンレス等の材料で形成されている。
【0023】
照射窓部30は、金属箔からなる窓箔31と、窓枠部32と、クランプ板33とを有する。窓枠部32は、窓箔31を冷却すると共に窓箔31を支持するものである。クランプ板33は、照射室20の側から窓箔31を押さえるものである。窓箔31は、電子線発生部10内の真空雰囲気と照射空間21内の照射雰囲気とを仕切ると共に、窓箔31を介して電子線発生部10から照射空間21へ電子線を取り出すためのものである。窓箔31に使用する金属としては、電子線発生部10内の真空雰囲気を十分維持できる機械的強度があって、電子線が透過しやすいように比重が小さくて肉厚が薄く、しかも耐熱性に優れたものが望ましい。
【0024】
ガス供給部40は、被処理物Aに電子線を照射する処理を行う際に、アルゴンガス或いは窒素ガスを照射室内或いは被処理物A内に供給するためのものである。アルゴンガス或いは窒素ガスは、例えばガス供給部40から樹脂製の供給管41とノズル部42を介して、図3に示すように被処理物A内に噴出される。すなわち、本実施形態では、被処理物Aに電子線照射処理を施す際には、中空状容器である被処理物A内にアルゴンガス或いは窒素ガスを流しながら被処理物に電子線を照射する。尚、本発明はアルゴンガスや窒素ガスに限定されるものではなく、希ガスであれば、例えば、ヘリウム、ネオン、クリプトン等であってもよい。また、希ガスと他のガス、例えば窒素ガス等との混合ガスであってもよい。更に、窒素を含む混合ガスであってもよい。また、本発明の供給管41は樹脂製に限定されるものではなく、金属製であってもよい。
【0025】
また、電子線照射装置には、フィラメント11aを加熱して熱電子を発生させるための加熱用電源71と、フィラメント11aとグリッド11cとの間に電圧を印加する制御用直流電源72と、グリッド11cと窓箔31との間に電圧(加速電圧)を印加する加速用直流電源73とが備えられている。
【0026】
加熱用電源71によりフィラメント11aに電流を通じて加熱するとフィラメント11aは熱電子を放出し、この熱電子は、フィラメント11aとグリッド11cとの間に印加された制御用直流電源72の制御電圧により四方八方に引き寄せられる。このうち、グリッド11cを通過したものだけが電子線として有効に取り出される。そして、このグリッド11cから取り出された電子線は、グリッド11cと窓箔31との間に印加された加速用直流電源73の加速電圧により加速管12内の加速空間で加速された後、窓箔31を突き抜け、照射室20内の照射空間21で被処理物Aに照射される。尚、グリッド11cから取り出された電子線の流れによる電流値はビーム電流と称される。したがって、ビーム電流が大きいほど、電子線の量が多くなる。
【0027】
一般に、電子線照射装置では、加速電圧、ビーム電流、被処理物の搬送速度等を所定の値に設定して、被処理物に電子線を照射する処理が行われる。電子線に与えられるエネルギーは加速電圧によって決まる。すなわち、加速電圧を高く設定する程、電子線の得る運動エネルギーが大きくなり、その結果、電子線は被処理物の表面から深い位置まで到達することができるようになる。このため、加速電圧の設定値を変えることにより、被処理物に対する電子線の浸透深さを調整することができる。また、被処理物に電子線が照射されるときに被処理物が受けるエネルギーの量は吸収線量という値で表される。適切な吸収線量を被処理物に与えるためには、ビーム電流を制御することになる。通常は、加熱用電源71と加速用直流電源73とを所定の値に設定し、制御用直流電源72を可変にすることにより、ビーム電流の調整を行っている。被処理物が受ける吸収線量は、ビーム電流に比例し、被処理物の搬送速度に反比例する。このため、ビーム電流や被処理物の搬送速度を変えることにより、電子線の吸収線量を調整することができる。
【0028】
ところで、通常、50kVから300kVまでの範囲内の加速電圧で発生させる電子線は、低エネルギー電子線といわれる。ここで、加速電圧を50kVより小さくすると、照射窓部30から取り出せる電子線の量があまりに少ないので、加速電圧を50kVより小さく設定することは実用的でない。また、300kVから1000kVまでの範囲内の加速電圧で発生させる電子線は、中エネルギー電子線といわれ、1000kVより大きい加速電圧で発生させる電子線は、高エネルギー電子線といわれる。本実施形態では、低エネルギー電子線を発生させる低エネルギー電子線照射装置を用いているが、低エネルギー電子線は、通常、被処理物を透過することができず、電子の一部又は全部が被処理物内に滞留してしまう。これが、電子線照射処理の際に被処理物Aが帯電してしまう原因である。一方、500kVを超える加速電圧で発生させた電子線、及び高エネルギー電子線は、肉厚の薄い中空状の被処理物を透過することができるため、電子線照射処理により被処理物が帯電することは少ない。
【0029】
また、照射室20内には、ビームキャッチャー24が設けられている。ビームキャッチャー24は、図1(a)に示すように、被処理物Aを介して照射窓部30と対向する位置に設置されている。このビームキャッチャー24は、照射空間21を通過してきた電子線を捕捉するものである。ここで、照射空間21を通過してきた電子線には、被処理物Aに照射されずにそのままビームキャッチャー24に到達した電子線だけでなく、被処理物Aを透過してビームキャッチャー24に到達した電子線も該当する。ビームキャッチャー24は、例えば、ステンレスやアルミニウム等で形成されている。
【0030】
本実施形態では、電子線照射装置として低エネルギー電子線を照射するものを用いているので、被処理物Aに対する電子線の浸透深さは比較的浅い。このため、低エネルギー電子線を被処理物Aに照射すると、電子線の一部は被処理物Aに留まってしまい、被処理物Aが帯電してしまう。そこで、本実施形態では、中空状の被処理物内にアルゴンガス或いは窒素ガスを流しながら、被処理物に電子線照射処理を行っている。被処理物内に流すアルゴンガス或いは窒素ガスは電子線照射によりエネルギーを受けて電離した状態となる。このように、被処理物内をアルゴンガス或いは窒素ガスの電離状態の雰囲気とし、この状態で、被処理物に電子線を照射する。すると、図3に示すように、被処理物にとどまろうとしている電子はアルゴンガス或いは窒素ガスの電離状態となっている電離ガス(雰囲気ガス)45中に拡散し、これにより被処理物の帯電が低減されると推察される。
【0031】
また、本実施形態では、中空状の被処理物の口部を導電性支持具50で支持して、被処理物に電子線照射処理を施している。この導電性支持具は、電子線照射装置の筐体を介してアースに繋がっている。このため、被処理物にとどまろうとしている電子は、直接或いは雰囲気ガスを介して、導電性支持具からアースに流れ、これにより被処理物の帯電が防止されると推察される。
【0032】
次に、本実施形態の試験結果に基づいて、上記の被処理物の帯電低減或いは帯電防止の方法について説明する。以下の各試験では、電子線照射装置として岩崎電気株式会社製のEC300/30/30mAの装置を使用し、被処理物としては樹脂製容器を使用している。被処理物Aは窓箔31から被処理物の中心までの距離が約100mmとなるように保持し、この状態で電子線照射処理を行った。
【0033】
本実施形態の試験では、電子線照射処理を施した被処理物にろ過水を入れ、そのろ過水の電荷量を測定することで帯電量の評価を行った。この測定では、エーディーシー製8031(0.01μF)のファラデーカップを使用し、エーディーシー製8240のエレクトロメータで測定している。
【0034】
先ず、従来の電子線照射装置を用いて被処理物に電子線照射処理を施し、この電子線照射による被処理物の帯電量(水の電荷量)を測定する第一試験を行った。図5は、従来の電子線照射装置で被処理物に電子線照射処理を行ったときの第一試験の結果を示す表である。この第一試験における被処理物を搬送するときの被処理物の向き(以下、単に被処理物の向きとも称する。)は、図1(a)に示すように帯状電子線束に対して被処理物の中心軸が平行となるようにしている。また、被処理物の搬送方法は、被処理物を左側から右側に搬送する。被処理物のビーム電流は5mAに、搬送速度は6m/minに設定し、加速電圧は300kVと、275kVと、250kVに設定した。第一試験では、アルゴンガスや窒素ガスを流すことなく、大気中で被処理物に電子線を照射している。
【0035】
第一試験の一回目の試験(加速電圧300kV)では、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過したときに、被処理物内の水の電荷量をファラデーカップで測定した値は-10745〜-12400(10-9C)となった。また、24時間経過したときに、被処理物内の水の電荷量をファラデーカップで測定した値は-3995〜-4640(10-9C)となった。一回目とは加速電圧が異なる二回目及び三回目の試験も、一回目の試験とほぼ同様の結果となった。
【0036】
第一試験の一回目から三回目の試験結果より、従来の電子線照射装置を用いて被処理物に電子線照射処理を施すと、図5に示すように、30分経過しても、その被処理物に収容した水の電荷量は最低でも-8600V(10-9C)、また24時間経過しても、その被処理物に収容した水の電荷量は最低でも-3995(10-9C)という高電荷量であった。
【0037】
次に、本発明の実施形態である電子線照射装置を用いて被処理物に電子線照射処理を施し、この電子線照射による被処理物の帯電量(水の電荷量)を測定する第二試験を行った。図6は、本実施形態の電子線照射装置で中空状の被処理物内にアルゴンガスを流しながら電子線照射処理を行ったときの第二試験の結果を示す表である。第二試験が上述した第一試験と異なるのは、第二試験では、図3に示すように中空状の被処理物A内にガス供給部40からアルゴンガスを流しながら、被処理物に電子線照射処理を施している点、及び被処理物の口部を電気的に接地している導電性支持具で保持している点である。被処理物の搬送速度、ビーム電流等は、第一試験と同じである。流したアルゴンガスは、ガス圧力0.2MPa、ガス流量15L/minである。このアルゴンガスを5分間流して被処理物内を十分に置換した後、試験を行った。東レ製LC-750の酸素濃度計で測定した、被処理物内の酸素濃度は0.05〜0.07%である。第二試験でも、被処理物の搬送方法は左側から右側にし、また被処理物の搬送方向は帯状電子線束Bに直交する方向に設定されている。また、第二試験における被処理物の向きは、一回目の試験では第一試験と同様に、被処理物の中心軸と帯状電子線束とが平行となるように、すなわち、図1(a)に示すように被処理物の中心軸が図1の紙面に対して垂直となるようにしている。二回目の試験では、被処理物の向きは、被処理物の中心軸を帯状電子線束に対して垂直となるようにし、かつ被処理物の搬送方向において被処理物の底部が前で、導電性支持具で保持された口部が後となるようにしている。すなわち、被処理物の向きは、図1(b)に示すようにしている。三回目の試験では、被処理物の向きは、被処理物の中心軸を帯状電子線束に対して垂直となるようにし、かつ被処理物の搬送方向において被処理物の導電性支持具で保持された口部が前で、その底部が後となるようにしている。すなわち、被処理物の向きは、図1(c)及び図4に示すようにしている。なお、図4は電子線照射処理時における帯状電子線束と被処理物との位置関係の一例を説明するための斜視図である。また、上記の第一試験では、加速電圧を変えて三回の試験を行ったが、三回の試験ともほぼ同様の結果が得られた。このため、以下で説明する各試験では、加速電圧を300kVに設定した試験だけを行っている。
【0038】
第二試験の一回目の試験では、電子線照射処理を施した後、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過したときに、被処理物内の水の電荷量をファラデーカップで測定した値は、3つの被処理物とも、検出不可能であった。なお、ファラデーカップで測定した値が検出不可能というのは、ファラデーカップの測定値が-100(10-9C)以下を意味する。この検出不可能という表記は、以下の各試験でも同じことを意味する。
【0039】
第二試験の二回目の試験では、電子線照射処理を施した後、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過したときに、被処理物内のろ過水の電荷量をファラデーカップで測定した値は、3つの被処理物とも、検出不可能であった。
【0040】
第二試験の三回目の試験では、電子線照射処理を施した後、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過したときに、被処理物内の水の電荷量をファラデーカップで測定した値は、-10662〜-11517(10-9C)であった。
【0041】
第二試験の一回目及び二回目の試験結果によれば、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過した後、その被処理物に収容した水の電荷量は検出不可能であった。すなわち、第二試験の一回目及び二回目の試験の電子線照射方法によれば、電子線照射処理による被処理物の帯電を防止することができる。また、第二試験の三回目の試験結果によれば、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過した後、その被処理物に収容した水の電荷量は最低でも、-10662(10-9C)であった。第二試験の一回目から三回目の試験結果より、中空状の被処理物に電子線を照射する場合、被処理物の向きが重要であり、被処理物の向きは、被処理物の中心軸と帯状電子線束とが平行となるようにするか、或いは、被処理物の中心軸を帯状電子線束に対して垂直となるようにし、かつ被処理物の搬送方向において被処理物の底部が前で、電気的に接地している導電性支持具で保持された口部(開口部)が後となるようにする必要があることを確認できた。
【0042】
次に、本実施形態の電子線照射装置を用いた電子線照射処理により被処理物に留まろうとしている電子が、どのようにして被処理物外に逃げているのかを検証するための試験を行った。図7は本実施形態の電子線照射装置を用いて、被処理物を導電性支持具で保持せず、例えば樹脂製桶60に入れるなどして(図7参照)アースに対して浮かした状態とし、被処理物内にアルゴンガスを流しながら、被処理物に電子線照射処理を行ったときの第三試験の結果を示す表である。第三試験が上述した第一試験と異なるのは、第三試験では、図3に示すように被処理物内にアルゴンガスを流しながら、被処理物に電子線照射処理を行っている点、また照射室内をアルゴンガス雰囲気とした点である。流したアルゴンガスは、ガス圧力0.1MPa、ガス流量15L/minである。このアルゴンガスを5分間流して待機した後、試験を行った。第三試験の被処理物の向きは、被処理物の中心軸と帯状電子線束とが平行となるようにしている。被処理物の搬送速度、ビーム電流等は、第一試験と同じである。
【0043】
第三試験では、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過したときに、被処理物内の水の電荷量は-978〜-4306(10-9C)となった。
【0044】
第三試験の結果より、本実施形態の電子線照射装置を用いて被処理物を導電性支持具で保持せずに、アースに対して浮かした状態で、被処理物内にアルゴンガスを流しながら、被処理物に電子線照射処理を施すと、電子線照射処理を施した後、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過したときに、その被処理物に収容した水の電位は、第一試験の結果の半分以下の電位となることを確認できた。したがって、第三試験の電子線照射方法は、上記の従来の電子線照射方法に比べて電子線照射処理による被処理物の帯電を低減することができる。すなわち、第三試験の電子線照射方法によれば、被処理物内にアルゴンガスを流通させながら、電子線照射処理を行うことにより、従来の方法に比べて、電子線照射処理による被処理物の帯電を低減することができる。第三試験より、被処理物にとどまろうとしている電子は、電離状態となっているアルゴンガス雰囲気中に拡散していると考えられる。
【0045】
図8は、本実施形態の電子線照射装置で被処理物内に窒素ガスを流しながら電子線照射処理を行ったときの第四試験の結果を示す表である。第四試験が上述した第二試験と異なるのは、第四試験では、被処理物内に、図3に示すようにガス供給部40から窒素ガスを流しながら、被処理物に電子線照射処理を施している点である。流した窒素ガスは、ガス圧力0.2MPa、ガス流量15L/minである。東レ株式会社製酸素濃度計(LC−750)で計測した、被処理物内の酸素濃度は920〜931ppmである。また、第四試験の被処理物の向きは、被処理物の中心軸が帯状電子線束に対して垂直となるようにし、かつ被処理物の搬送方向において被処理物の底部が前で、電気的に接地されている導電性支持具で保持された口部が後となるようにしている。被処理物の搬送速度、ビーム電流等は、第一試験と同じである。
【0046】
第四試験では、電子線照射処理を施した後、電子線を照射した被処理物にろ過水を入れ、30分経過したときに、被処理物内の水の電荷量をファラデーカップで測定した値は、3つの被処理物とも、検出不可能であった。すなわち、第四試験の電子線照射方法によれば、電子線照射処理による被処理物の帯電を防止することができる。第四試験の場合も、本発明者等は、上述したアルゴンガスを流した第二試験の場合と同様に、電子線照射処理により被処理物にとどまろうとしている電子は電離状態となっている窒素ガス雰囲気中に拡散し、また導電性支持具を介してアースに流れていると考えられる。
【0047】
また、第四試験の場合も、第二試験の場合と同様に、被処理物の向きは、被処理物の中心軸と帯状電子線束とが平行となるようにしても、電子線照射処理による被処理物の帯電を防止することができるが、被処理物の中心軸を帯状電子線束に対して垂直となるようにし、かつ被処理物の搬送方向において、電気的に接地された導電性支持具で保持された被処理物の口部が前で、その底部が後となるようにすると、被処理物の帯電を防止することはできないと推察される。
【0048】
次に、照射室内のアルゴンガス又は窒素ガスが電子線の照射により、電離状態となっていることを確認するため、発光スペクトルを測定する試験を行った。比較のために、まず、照射室内を大気雰囲気とし、被処理物が無い状態で電子線を照射した際の照射空間からの発光スペクトルを測定した。図9は照射室内を大気雰囲気とし、被処理物が無い状態で電子線を照射したときの照射室内の発光スペクトルを示す図である。図9から分かるように、照射室内を大気雰囲気とし、被処理物が無い状態で電子線を照射したときには、特定の励起、イオン化状態を示す発光スペクトルは検出されなかった。
【0049】
図10は照射室内に被処理物を置いて、照射室内を大気雰囲気のままで電子線を照射したときの照射室内の発光スペクトルを示す図である。図10から分かるように、照射室内を大気雰囲気とした状態で、被処理物に電子線を照射したときにも、特定のスペクトルは検出されなかった。
【0050】
図11は照射室内に被処理物を置いて、照射室内に窒素ガスを流しながら電子線を照射したときの照射室内の発光スペクトルを示す図である。照射室内に窒素ガスを流しながら電子線照射処理を行うと、窒素分子の内核電子が電子線からエネルギーを得て、励起状態となり、その励起準位にある電子が下準位に遷移するときに、各エネルギー準位間のエネルギーに相当する波長光が光のスペクトルとして検出される。図11において、約342nm、約362nm、約386nm等に励起窒素分子に帰属される発光ピークが認められる。これら発光スペクトルは典型的な窒素プラズマのものと一致しており、窒素ガスが電離気体の状態となっていることが確認された。
【0051】
図12は照射室内に被処理物を置いて、照射室内にアルゴンガスを流しながら電子線を照射したときの照射室内の発光スペクトルを示す図である。照射室内にアルゴンガスを流しながら電子線照射処理を行うと、窒素ガスと同様に、アルゴン原子の内核電子が電子線からエネルギーを得て、励起状態に上がり、その励起準位にある電子が下準位に遷移する際に、各エネルギー準位間のエネルギーに相当する波長光が放射され、スペクトルとして観測される。図12において、約700nm、約768nm、約778nm等にピークが認められた。これらはアルゴンの励起状態に帰属されるものであり、典型的なアルゴンプラズマのピークと一致していることから、アルゴンは電離気体の状態になっていることが確認された。特にアルゴンなど希ガスの励起状態には、上述のような光放射を伴う遷移の確率が極めて低く、他原子分子との衝突のみによってそのエネルギーを失う準安定励起と呼ばれる準位が存在するため、電子線照射によって容易に電離気体の状態を得ることが期待される。なお、図12では、340〜400nmにもピークが見られるが、このピークは窒素ガスの発光スペクトルであり、窒素ガスが励起状態となっていることを示している。本試験では、照射室内を完全にアルゴンガスで置換しているわけではなく、空気中の窒素が残っている状態で電子線照射処理を行っているので、窒素ガスの発光スペクトルも測定された。なお、図9で、照射室内に窒素があるにもかかわらず、窒素が励起していないのは、電子線のエネルギーが空気中の酸素分子に取られてしまい、窒素が励起し難くなっていたためと推測される。
【0052】
上記の試験結果から、本発明者等は、電子線照射によって、処理室内に供給されるアルゴンガス或いは窒素ガスが電離状態、即ち導電性を有するプラズマ状態となり、電子線照射処理により被処理物に蓄積される電子は、直接又はアルゴンガス雰囲気或いは窒素ガス雰囲気を介して被処理物を保持する導電性支持具からアースに流れており、これにより被処理物への帯電が抑制されるものと推察している。特に本発明の手法によれば、導電性の媒体である電離気体は被処理物の表層のみならず、ある程度内部層にも拡散すると予想され、被処理物表面層および内部層に電荷として蓄積する電子を効果的にアースに輸送するものと考えられる。
【0053】
また、上記の第一試験及び第二試験の結果、並びに発光スペクトル測定により得られたアルゴンガス或いは窒素ガスが電子線照射により電離状態となるという知見により、中空状の樹脂製容器である被処理物に対して電子線照射処理を行うときには、被処理物を電気的に接地された導電性支持具で保持し、被処理物内にアルゴンガス或いは窒素ガスを流しながら電子線照射処理を行うことが望ましいことが分かった。この電子線照射処理を行う際に、被処理物内にアルゴンガス或いは窒素ガスを適量流せば、電子線照射処理による被処理物の帯電を防止することができる。
【0054】
上記の本実施形態によれば、電子線として低エネルギーのものを用いているので、電子線を被処理物Aに照射すると、電子線の一部は被処理物A中に滞留し、被処理物Aが帯電する。しかしながら、電気的に接地した導電性支持具で被処理物を保持した状態で、被処理物の向きを、被処理物の中心軸と帯状電子線束とが平行となるように、或いは、被処理物の中心軸が帯状電子線束に対して垂直となるようにし、かつ被処理物の搬送方向において被処理物の底部が前で、電気的に接地している導電性支持具で保持された口部が後となるようにし、被処理物内にアルゴンガス或いは窒素ガスを流しながら、電子線照射処理を施すことにより、被処理物に留まろうとしている電子は、直接又はアルゴンガス雰囲気或いは窒素ガス雰囲気を介して被処理物を保持する導電性支持具からアースに流れ、電子線照射処理による被処理物の帯電を防止することができる。
【0055】
また、上記の本実施形態の第二試験及び第四試験によれば、上述したように、ガス供給部40からアルゴンガス或いは窒素ガスを被処理物内に供給しながら、被処理物に電子線照射処理を施している。このように照射室20の全体ではなく被処理物A内にアルゴンガス或いは窒素ガスを供給しながら電子線照射処理を行うので、本実施形態の電子線照射装置は、照射室20内の全体にアルゴンガス或いは窒素ガスを供給して電子線照射処理を行う場合に比べて、高価なアルゴンガス或いは窒素ガスの使用量を減らして、電子線照射処理を行う際のコストの低減を図ることができる。
【0056】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【0057】
例えば、上記の実施形態では、被処理物の向きを、被処理物の中心軸と帯状電子線束とが平行となるように、或いは、被処理物の中心軸が帯状電子線束に対して垂直となるようにし、かつ被処理物の搬送方向において被処理物の底部が前で、電気的に接地している導電性支持具で保持された口部が後となるようにする場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、被処理物の向きは、被処理物の搬送方向において被処理物の底部が前で、電気的に接地している導電性支持具で保持された口部が後となるようにすればよく、被処理物の搬送方向に対して被処理物の中心軸が斜めになるようにしてもよい。
【0058】
また、上記の実施形態では、被処理物が中空状の樹脂製容器である場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、被処理物はフィルム状のものであってもよい。この場合、被処理物であるフィルムの表側の面若しくは裏側の面、或いは両面にアルゴンガス又は窒素ガス等を流しながら、被処理物に電子線照射処理を施すことになる。また、この場合、中空状の被処理物の場合と同様に、フィルムの少なくとも一方の端、及び(又は)、電子線照射処理を行っているフィルムの部分を電気的に接地している導電性支持具で保持することが望ましい。
【0059】
また、上記の実施形態では、電子線照射処理が滅菌処理である場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電子線照射処理は殺菌処理であってもよいし、また、架橋反応、グラフト重合反応、コーティング、親水性向上、強度向上等を含めた広い意味での表面改質処理であってもよい。
【0060】
また、上記の実施形態では、アルゴンガス或いは窒素ガスの流量が15L/minである場合について説明したが、これらの雰囲気ガスの流量はこれに限定されるものではない。雰囲気ガスの流量は、被処理物の形状、大きさ等により適量とする。
【0061】
更に、上記の実施形態では、本発明を低エネルギー電子線照射装置に適用した場合について説明したが、当然のことながら、本発明を中・高エネルギー電子線照射装置に適用してもよい。例えば、被処理物の肉厚が厚い場合には、中・高エネルギー電子線を電線に照射しても、電子線が電線の被覆部を透過できずに、その被覆部中に滞留してしまうことがある。このような場合、本発明を適用した中・高エネルギー電子線照射装置は特に効果を発揮し、簡易な構成で、電子線照射処理による被処理物の帯電を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明の電子線照射装置及び電子線照射方法では、被処理物に電子線照射処理を施す際に、除電器等の特別な装置を用いることなく、簡易な構成で、被処理物の帯電を低減することができる。したがって、本発明は、例えば中空状の樹脂製容器に電子線を照射する電子線照射装置、特に低エネルギー電子線照射装置に用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0063】
10 電子線発生部
11 ターミナル
11a フィラメント
11b ガン構造体
11c グリッド
12 加速管
20 照射室
21 照射空間
41 供給管
24 ビームキャッチャー
42 ノズル部
30 照射窓部
31 窓箔
32 窓枠部
40 ガス供給部
45 電離ガス
50 導電性支持具
60 樹脂製桶
71 加熱用電源
72 制御用直流電源
73 加速用直流電源
A 被処理物
B 帯状電子線束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を照射することにより帯電する被処理物に電子線照射処理を施すために用いられる電子線照射装置であって、
前記電子線を発生する電子線発生部と、
前記被処理物に前記電子線を照射する処理が行われる照射室と、
前記電子線発生部内の真空雰囲気と前記照射室内の照射雰囲気とを仕切ると共に前記電子線を前記照射室内に取り出す照射窓部と、
前記被処理物に対して希ガス、窒素ガス又は前記希ガス若しくは前記窒素ガスを含む混合ガスを流すためのガス供給部と、を備え、
前記被処理物に前記ガス供給部からの前記希ガス、前記窒素ガス又は前記希ガス若しくは前記窒素ガスを含む混合ガスを流しながら前記被処理物に前記電子線を照射することを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記希ガスはアルゴンガスであることを特徴とする請求項1記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記被処理物が、電気的に接地されている導電性支持具によって支持されていることを特徴とする請求項1又は2記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記被処理物は中空状の樹脂製容器であり、
前記被処理物の開口している口部が、電気的に接地されている導電性支持具によって支持され、
前記被処理物が搬送されるとき、その搬送方向は前記電子線発生部から前記照射窓部を介して前記照射室内に照射される前記電子線の帯状電子線束に直交する方向であり、前記被処理物の向きは前記帯状電子線束に対して略平行となるような、或いは、前記搬送方向において前記被処理物の底部が前で前記被処理物の接地されている口部が後となるような、姿勢で保持され、
前記希ガス、前記窒素ガス又は前記希ガス若しくは前記窒素ガスを含む混合ガスを前記被処理物の開口している口部から前記被処理物の内部に流しながら前記被処理物に前記電子線を照射することを特徴とする請求項1,2又は3記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記電子線照射処理は、殺菌処理、滅菌処理又は表面改質処理であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記電子線発生部は前記電子線を50kVから500kVまでの範囲内の加速電圧で発生させるものであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項7】
電子線を照射することにより帯電する被処理物に電子線照射処理を施すために用いられる電子線照射方法であって、
前記被処理物にガス供給部からの希ガス、窒素ガス又は前記希ガス若しくは前記窒素ガスを含む混合ガスを流しながら、前記被処理物に前記電子線を照射することを特徴とする電子線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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