説明

電子線硬化性組成物及びその硬化物

【課題】硬化物の導電性及び耐溶剤性が高い電子線硬化性組成物を提供する。
【解決手段】3官能以上の多官能ビニル系化合物と、脂環族及び/又は芳香族骨格を有する単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電性フィラーとを組み合わせて電子線硬化性組成物を調製する。前記単官能及び/又は2官能ビニル系化合物は、橋架け環式及び/又はビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレートであってもよい。前記多官能ビニル系化合物は、3〜6官能(メタ)アクリレートであってもよい。前記導電性フィラーは、導電性カーボンブラックであってもよい。本発明の電子線硬化性組成物は、電子線を照射して硬化物を製造するために用いられ、溶媒と接触して使用される用途に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性、熱伝導性、耐溶剤性を要求される用途に利用される電子線硬化性組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハーの保存容器、ガソリンタンク、電子・電気機器や半導体製造工場における床材や壁材などの材料には、帯電防止などの点から要求される導電性や熱伝導性に加えて、使用時に有機溶媒と接触するため、耐溶剤性も要求される。従来から、これらの用途に利用される材料としては、導電性フィラーとバインダー樹脂との組み合わせが広く利用されているが、耐溶剤性を向上させる点から、バインダー樹脂として硬化樹脂が使用されている。
【0003】
特開昭60−60166号公報(特許文献1)には、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルオリゴマーの1種以上を主成分とする塗料バインダー、及び酸化スズを主成分とする粒径0.2μm以下の導電性粉末を含有する導電性塗料組成物が開示されている。この文献には、(メタ)アクリレートオリゴマーがウレタン結合を有することにより塗膜の硬度及び耐擦過傷性を向上できると記載されている。さらに、前記組成物を光硬化もしくは放射線硬化により架橋することにより塗膜の耐擦過傷性及び硬度を向上できると記載され、具体的には、イソシアネート化合物及び光増感剤を含む組成物を紫外線照射して硬化物を形成している。
【0004】
しかし、この組成物では、ウレタン結合を有するため、耐溶剤性が充分でなく、溶媒(特に極性の有機溶媒)を用いると、塗膜が膨潤してフィラー間に歪みが発生し、導電性が低下する。また、紫外線硬化であるため、紫外線吸収能を有するフィラー(カーボンブラックなど)では硬化が充分に進行せず、導電性フィラーの使用が制限される。また、酸化スズを用いるため、紫外線の吸収は抑制されているが、光の散乱を抑制するために、粒径を制御する必要がある。さらに、光増感剤などの重合触媒や開始剤が必要となる。
【0005】
特開昭63−33470号公報(特許文献2)には、ポリフェニレンオキシド並びに架橋性ポリマー及び/又は架橋性モノマーを含み、導電性フィラーが分散されている導電性樹脂組成物が開示されている。この文献では、放射線架橋についても記載されているが、具体的には、イソシアネート化合物及び開始剤を含む組成物を加熱硬化している。
【0006】
しかし、この組成物でも、熱可塑性樹脂を含み、かつウレタン結合を有するため、耐溶剤性が低い。さらに、硬化において開始剤が必要である。
【0007】
一方、開始剤を用いることなく、硬化可能な組成物として、電子線硬化性組成物も提案されており、例えば、特開2000−86728号公報(特許文献3)には、3〜12個の(メタ)アクリロイル基を有し、かつ分子量が500未満の(メタ)アクリレート化合物に、1級又は2級アミンを付加させたアミン変性(メタ)アクリレート化合物(A)と、エチレンオキシドなどの水素を引き抜き易い骨格を有する重合性不飽和化合物(B)を含む電子線硬化性組成物が開示されている。この文献では、アミン変性させた(メタ)アクリレート化合物を用いて、電子線硬化における酸素阻害を防止している。
【0008】
しかし、この文献には、フィラーに関しては、硬化物性、粘度調節、コストダウンのために添加する任意の添加剤の一例として記載されているにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−60166号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開昭63−33470号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開2000−86728号公報(特許請求の範囲、段落[0020][0021][0041]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、硬化物の導電性及び耐溶剤性が高い電子線硬化性組成物並びにこの組成物を用いた硬化物の製造方法及び硬化物を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、硬化物を極性の有機溶媒と長期間に亘り接触しても、膨潤などが抑制され、高い導電性を保持できる電子線硬化性組成物並びにこの組成物を用いた硬化物の製造方法及び硬化物を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、導電性フィラーの種類を限定することなく、硬化物の耐溶剤性、導電性及び硬度を向上できる電子線硬化性組成物並びにこの組成物を用いた硬化物の製造方法及び硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、3官能以上の多官能ビニル系化合物と、脂環族及び/又は芳香族骨格を有する単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電性フィラーとを組み合わせて電子線で硬化させると、硬化物の導電性及び耐溶剤性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の電子線硬化性組成物は、3官能以上の多官能ビニル系化合物と、脂環族及び/又は芳香族骨格を有する単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電性フィラーとを含む。前記単官能及び/又は2官能ビニル系化合物は、多環式脂環族及び/又はビスフェノール骨格を有する(メタ)アクリレート(特に、2環〜4環C8−12橋架け環式脂環族骨格を有する2官能(メタ)アクリレート)であってもよい。前記多官能ビニル系化合物は、3〜6官能(メタ)アクリレートであってもよい。前記導電性フィラーは、導電性カーボンブラックであってもよい。前記導電性フィラーの割合は、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して5〜50重量部程度であってもよい。前記単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の割合は、前記多官能ビニル系化合物100重量部に対して10〜100重量部程度であってもよい。前記多官能ビニル系化合物は、アミンで変性されていない多官能ビニル系化合物であってもよい。本発明の電子線硬化性組成物は、重合開始剤を実質的に含有しない組成物であってもよい。また、本発明の電子線硬化性組成物は、イソシアネート基及び/又はウレタン結合を有する化合物を実質的に含有しない組成物であってもよい。さらに、本発明の電子線硬化性組成物は、ポリフェニレンオキシド系樹脂を実質的に含有しない組成物であってもよい。本発明の電子線硬化性組成物は、溶媒と接触して使用される硬化物を形成するための用途に適している。
【0015】
本発明には、前記電子線硬化性組成物に電子線を照射して硬化物を製造する方法も含まれる。さらに、本発明には、この方法で得られた硬化物も含まれる。本発明の硬化物は、ウレタン結合を実質的に含有していない硬化物であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、3官能以上の多官能ビニル系化合物と、脂環族及び/又は芳香族骨格を有する単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電性フィラーとを組み合わせて、電子線で硬化させることにより、硬化物の導電性及び耐溶剤性を向上できる。また、硬化物を極性の有機溶媒と長期間に亘り接触しても、膨潤などが抑制され、高い導電性を保持できる。さらに、導電性フィラーの種類を限定することなく、硬化物の耐溶剤性、導電性及び硬度を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[電子線硬化性組成物]
本発明の電子線硬化性組成物は、3官能以上の多官能ビニル系化合物と、脂環族及び/又は芳香族骨格を有する単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電性フィラーとを含む。
【0018】
(多官能ビニル系化合物)
多官能ビニル系化合物としては、分子内に3以上(例えば、3〜8程度)の重合性基を有していればよく、具体的には、3以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートが汎用される。
【0019】
多官能(メタ)アクリレートとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物、例えば、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、これらの多官能(メタ)アクリレートにおいて、多価アルコールは、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)の付加体であってもよい。アルキレンオキシドの平均付加モル数は、例えば、0〜30モル(特に1〜10モル)程度の範囲から選択できる。これらの多官能(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
これらの多官能ビニル系化合物のうち、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの3〜6官能(メタ)アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3〜4官能(メタ)アクリレートが汎用される。さらに、多官能ビニル系化合物は、アミンで変性されていない多官能ビニル化合物(マイケル付加などによりアミン類が付加していない多官能ビニル化合物)が好ましい。
【0021】
(単官能及び/又は2官能ビニル系化合物)
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物としては、分子内に1又は2つの重合性基を有するとともに、脂環族及び/又は芳香族骨格を有していればよく、具体的には、1又は2つの(メタ)アクリロイル基を有する単官能又は2官能(メタ)アクリレート、スチレンやジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物などが汎用される。
【0022】
脂環族及び/又は芳香族骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどの橋架け環式(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレートなどのアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート;フェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアリールオキシ(ポリ)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのアリールオキシヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの単官能(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
脂環族及び/又は芳香族骨格を有する2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの2〜4環C6−20(特にC8−12)橋架け環式ジ(メタ)アクリレート;2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンなどのビスフェノール類(ビスフェノールA、Sなど)−C2−4アルキレンオキシド付加体[アルキレンオキシドの平均付加モル数0〜30モル(特に1〜10モル)程度]のジ(メタ)アクリレート;オリゴマー[ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートなどの芳香族エポキシ(メタ)アクリレートなど]などが挙げられる。これらの2官能(メタ)アクリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
これらの単官能及び2官能ビニル系化合物のうち、硬化物の耐溶剤性及び強度が高い点から、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、アダマンタンジ(メタ)アクリレートなどの多環式脂環族骨格を有するジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートなどのビスフェノール骨格を有するジ(メタ)アクリレートが好ましく、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなどの橋架け環式脂環族骨格を有するジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0025】
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の割合は、前記多官能ビニル系化合物100重量部に対して1〜200重量部程度の範囲から選択でき、例えば、5〜150重量部、好ましくは10〜100重量部(例えば、10〜80重量部)、さらに好ましくは15〜50重量部(特に20〜30重量部)程度である。
【0026】
(導電性フィラー)
導電性フィラーとしては、例えば、炭素材(例えば、人造黒鉛、膨張黒鉛、天然黒鉛、コークス、導電性カーボンブラックなど)、金属単体又は合金(例えば、鉄、銅、マグネシウム、アルミニウム、金、白金、亜鉛、マンガン、ステンレスなど)、セラミックス類(例えば、フェライト、トルマリン、珪藻土など)などが挙げられる。これらの導電性フィラーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
導電性フィラーの形状は、例えば、粒子状(粉末状)、板状(又は鱗片状)、繊維状、不定形状などが挙げられる。これらの形状のうち、略球状や多角体状などの粒子状が汎用される。
【0028】
導電性フィラーの平均粒径は、10nm〜10μm程度の範囲から適宜選択できるが、硬化物の機械的特性や導電性などの点から、例えば、10〜500nm、好ましくは20〜300nm、さらに好ましくは30〜100nm(特に40〜80nm)程度である。
【0029】
本発明では、このような平均粒径を有し、かつ導電性に優れる粒子状導電性フィラーとして、導電性カーボンブラックを好ましく使用できる。
【0030】
導電性カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ガスブラック、アセチレンブラック、アークブラック、ケッチェンブラックなどが例示できる。これらの導電性カーボンブラックのうち、導電性などの点から、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどが好ましい。さらに、これらの導電性カーボンブラックを組合せた導電性複合カーボンブラックでもよい。
【0031】
導電性カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート)吸油量(A法)は、用途に応じて、10〜1000cm/100g(例えば、30〜500cm/100g)程度の範囲から選択でき、窒素吸着BET比表面積は5〜1000m/g(例えば、10〜300m/g)程度の範囲から選択できる。
【0032】
導電性フィラーの割合は、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して1〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、3〜80重量部、好ましくは5〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部(特に15〜35重量部)程度である。
【0033】
(他の添加剤)
本発明の電子線硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のビニル系化合物を含んでいてもよい。他のビニル系化合物には、単官能ビニル系化合物、2官能ビニル系化合物などが含まれる。
【0034】
他の単官能ビニル系化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレートやエチル(メタ)アクリレートなどのC1−24アルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2−10アルキル(メタ)アクリレート又はC2−10アルカンジオールモノ(メタ)アクリレート;トリフルオロエチル(メタ)アクリレートなどのフルオロC1−10アルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;グリセリンモノ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールモノ(メタ)アクリレート;2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基を有する(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート;ビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0035】
他の2官能ビニル系化合物としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート;グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;脂肪酸変性ペンタエリスリトールなどの酸変性アルカンポリオールのジ(メタ)アクリレート;ポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
他のビニル系化合物の割合は、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して100重量部以下であってもよく、例えば、50重量部以下、好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下(例えば、0.1〜10重量部程度)であってもよい。
【0037】
本発明の電子線硬化性組成物は有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機溶媒のうち、メチルエチルケトンなどのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素などが汎用される。なお、塗布性などの特性を改良する目的を兼ねて、スチレンなどの単官能ビニル系化合物や、(メタ)アクリル酸などの前記他のビニル系化合物を反応性希釈剤として使用してもよい。
【0038】
溶媒の割合は、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して10〜1000重量部程度の範囲から選択でき、例えば、50〜500重量部、好ましくは80〜300重量部、さらに好ましくは100〜200重量部(特に120〜180重量部)程度である。
【0039】
本発明の電子線硬化性組成物は、さらに慣用の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、可塑剤、耐衝撃改良剤、補強剤、分散剤、帯電防止剤、発泡剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
但し、本発明の電子線硬化性組成物は、電子線で硬化されるため、重合開始剤(例えば、光重合開始剤、光増感剤、熱重合開始剤など)を実質的に含有していない。また、イソシアネート基及び/又はウレタン結合を有する化合物(ウレタン(メタ)アクリレート、ポリイソシアネート類など)を実質的に含有していない。そのため、硬化物は、耐溶剤に優れている。さらに、本発明の電子線硬化性組成物は、耐溶剤性の点から、樹脂成分として、熱可塑性樹脂(特に、ポリフェニレンオキシド系樹脂)を実質的に含有しないのが好ましい。
【0041】
[電子線硬化物及びその製造方法]
本発明の電子線硬化物は、前記電子線硬化性組成物に電子線(EB)を照射して得られる。詳しくは、基材の上に液状の電子線硬化性組成物を塗布する塗布工程、塗布された前記硬化性組成物に電子線を照射して硬化する硬化工程を経て製造される。
【0042】
硬化性組成物の塗布方法としては、慣用の方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ディップ・スクイズコーター、ダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、シルクスクリーンコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。これらの方法のうち、バーコーター法やグラビアコーター法などが汎用される。なお、必要であれば、塗布液は複数回に亘り塗布してもよい。
【0043】
硬化性組成物が有機溶媒を含有する場合など、塗布後は、必要に応じて乾燥を行ってもよい。乾燥は、例えば、30〜150℃、好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは50〜70℃程度の温度で行ってもよい。
【0044】
硬化工程において、硬化性組成物に電子線を照射する方法は、電子線照射装置などの露光源によって電子線を照射する方法などが利用できる。照射量(線量)は、塗膜の厚みにより異なるが、例えば、1〜200kGy(グレイ)、好ましくは10〜180kGy、さらに好ましくは30〜150kGy(特に50〜120kGy)程度である。加速電圧は、例えば、10〜1000kV、好ましくは50〜500kV、さらに好ましくは100〜300kV程度である。
【0045】
なお、電子線の照射は、必要であれば、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中で行ってもよい。
【0046】
本発明の電子線硬化物は、導電性に優れ、体積抵抗率が10Ω・cm以下であってもよく、例えば、10Ω・cm以下、好ましくは10Ω・cm以下、さらに好ましくは10Ω・cm以下(特に10Ω・cm以下)であってもよい。
【0047】
本発明の電子線硬化物は、耐溶剤性の点から、ウレタン結合を実質的に含有していないのが好ましい。
【0048】
本発明の電子線硬化物は、基材シートとの積層体であってもよく、例えば、基材シートの一方の面に本発明の電子線硬化物で構成された層が形成された積層体、基材フィルムの両面に本発明の電子線硬化物で構成された層が形成された積層体などであってもよい。前記基材シートは、ガラス、セラミック、金属、プラスチックなどで構成されていてもよいが、硬化物との密着性などの点から、プラスチックが好ましい。プラスチックとしては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、非晶質ポリオレフィンなど)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体など)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステルなど)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12など)、塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニルなど)、ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフイド系樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらのうち、耐熱性などに優れる点から、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などが好ましい。さらに、プラスチックには、前記導電性フィラーを含有していてもよい。
【0049】
積層体において、本発明の電子線硬化物で構成された層(硬化物層)の厚みは、用途に応じて選択できるが、例えば、1〜100μm、好ましくは2〜50μm、さらに好ましくは3〜30μm程度である。基材シートの厚みは、例えば、1〜300μm、好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは20〜150μm程度である。両者の比率は、例えば、基材シート/硬化物層=10/1〜1/1、好ましくは8/1〜1/1、さらに好ましくは5/1〜1/1程度である。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び参考例で用いた配合成分、実施例及び参考例で得られた硬化物の耐溶剤性及び導電性の評価は、以下の方法で測定した。
【0051】
[耐溶剤性:溶媒浸漬試験]
シャーレに溶媒10mlを入れ、硬化塗膜が積層されたガラス板をメチルエチルケトン(MEK)又はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に浸漬し、25℃で24時間静置後、下記式により溶媒浸漬前後の重量変化率を求めた。なお、この試験において、重量変化量(%)が1.5%以下であれば耐溶剤性に優れることを示す。
【0052】
重量変化率(%)={[(溶媒浸漬後の塗膜重量)−(溶媒浸漬前の塗膜重量)]/(溶媒浸漬前の塗膜重量)}×100
[耐溶剤性:外観]
ガラス板又は樹脂シート(ポリアクリルアミド、コロナ放電処理ポリプロピレン)上に作製した硬化塗膜について、耐溶剤性試験終了時の塗膜の状態変化を目視で確認した。
【0053】
○:特に変化が認められない
△:ひび割れが認められた
×:剥離、あるいは膨潤が認められた。
【0054】
[耐溶剤性結果:総合評価]
耐溶剤性結果の評価項目は、[耐溶剤性:溶媒浸漬試験]試験と[耐溶剤性:外観]試験の双方を満足する塗膜を○、一方の試験で問題が生じた塗膜を△、双方の試験で問題が生じた塗膜を×として評価した。
【0055】
[導電性]
JIS K7194に従い、溶媒浸漬試験後の塗膜について、抵抗率測定装置(三菱化学(株)製「Loresta−GP」)を用いて表面抵抗率を測定し、体積抵抗率を求めた。
【0056】
[配合成分]
3官能アクリレート:ペンタエリスリトールトリアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製「PETIA」
脂環族2官能アクリレート:トリシクロデカンジアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製)「IRR214K」
芳香族2官能アクリレート1:ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製「EBECRYL3700」
芳香族2官能アクリレート2:変性ビスフェノールAジアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製「EBECRYL150」
2官能ウレタンアクリレート:脂肪族ウレタンアクリレート、ダイセル・サイテック(株)製「EBECRYL230」
光重合開始剤:ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASFジャパン(株)製「Irgacure184」
カーボンブラック:導電性カーボンブラック、平均粒経50nm、表面積33m/g、東海カーボン(株)製「#4300」。
【0057】
[参考例1〜5]
まず、本発明の電子線硬化性組成物の硬化特性を、電子線照射による硬化物について評価した。すなわち、150mlの蓋付容器に、表1に示すように、アクリレートを秤量し、メチルエチルケトン(MEK)及びトルエン(TOL)の混合溶媒[MEK/TOL=50/50(重量比)]に溶解した。この溶液にカーボンブラックを添加し、自公転式混合脱泡機((株)シンキー製「ARE−250」)で分散組成物を作製した。得られた組成物を、40mm×50mmのガラス板上にバーコーターにより約50μmの厚みに塗工し、60℃で乾燥した。乾燥後の組成物に、窒素雰囲気中で、加速電圧150kV、線量100kGyの電子線を照射し、硬化塗膜を作製した。硬化塗膜の評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例1〜8及び比較例1〜3]
参考例1〜5のアクリレートについて、表2〜3に示すように、アクリレートを組み合わせて、参考例1〜5と同様にして硬化塗膜を作製した。得られた硬化塗膜の評価結果を表2〜3に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
表1の参考例の結果から明らかな通り、脂環族2官能アクリレートを用いた場合には耐溶剤性結果が良好である。また、表2の実施例1〜3の結果から明らかな通り、脂環族2官能アクリレートと3官能アクリレートを用いた場合には3官能アクリレートの量的割合に関わらず耐溶剤性結果が良好である。実施例4〜6と実施例7〜8との対比から芳香族2官能アクリレートを用いた場合には脂環族2官能アクリレートを用いた場合に比べ、溶媒浸漬試験の結果が若干低下する。
【0063】
[実施例9〜16]
上記の実施例、比較例のうち、耐溶剤性に優れていた3官能アクリレートと脂環族又は芳香族2官能アクリレートとの組み合わせについて次の実験を行った。すなわち、150mlの蓋付容器に、表4に示すように、アクリレートを秤量し、メチルエチルケトン(MEK)及びトルエン(TOL)の混合溶媒[MEK/TOL=50/50(重量比)]に溶解した。この溶液にカーボンブラックを添加し、自公転式混合脱泡機((株)シンキー製「ARE−250」)で分散組成物を作製した。得られた組成物を、40mm×50mmのガラス板上にバーコーターにより約50μmの厚みに塗工し、60℃で乾燥した。乾燥後の組成物に、窒素雰囲気中で、加速電圧150kV、線量100kGyの電子線を照射し、硬化塗膜を作製した。硬化塗膜の評価結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
表4の結果から明らかなように、実施例の電子線硬化物は、耐溶剤性及び導電性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の電子線硬化性組成物は、導電性及び耐溶剤を要求される各種の分野に利用され、溶媒と接触する用途、例えば、半導体ウエハーの保存容器、ガソリンタンク、電子・電気機器や半導体製造工場における床材や壁材、各種の電池用部材などの材料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3官能以上の多官能ビニル系化合物と、脂環族及び/又は芳香族骨格を有する単官能及び/又は2官能ビニル系化合物と、導電性フィラーとを含む電子線硬化性組成物。
【請求項2】
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物が、多環式脂環族及び/又はビスフェノール骨格を有する2官能(メタ)アクリレートである請求項1記載の電子線硬化性組成物。
【請求項3】
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物が、橋架け環式脂環族骨格を有する2官能(メタ)アクリレートである請求項1又は2記載の電子線硬化性組成物。
【請求項4】
多官能ビニル系化合物が、3〜6官能(メタ)アクリレートである請求項1〜3のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項5】
導電性フィラーが、導電性カーボンブラックである請求項1〜4のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項6】
導電性フィラーの割合が、多官能ビニル系化合物と単官能及び/又は2官能ビニル系化合物との総量100重量部に対して5〜50重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項7】
単官能及び/又は2官能ビニル系化合物の割合が、多官能ビニル系化合物100重量部に対して10〜100重量部である請求項1〜6のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項8】
多官能ビニル系化合物が、アミンで変性されていない請求項1〜7のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項9】
重合開始剤を実質的に含有しない請求項1〜8のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項10】
イソシアネート基及び/又はウレタン結合を有する化合物を実質的に含有しない請求項1〜9のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項11】
ポリフェニレンオキシド系樹脂を実質的に含有しない請求項1〜10のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項12】
溶媒と接触して使用される硬化物を形成するための請求項1〜11のいずれかに記載の電子線硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の電子線硬化性組成物に電子線を照射して硬化物を製造する方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法で得られた硬化物。
【請求項15】
ウレタン結合を実質的に含有していない請求項14記載の硬化物。

【公開番号】特開2012−149177(P2012−149177A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9178(P2011−9178)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】