電子線装置および電子線装置における浮遊磁場測定方法
【課題】電子顕微鏡における高分解能像観察時など、電子光学系上に存在する浮遊磁場は像を劣化させる直接的な要因の一つであり、その影響の程度を評価し対策を採ることが必要である。しかし、従来の電子線のスポットを評価・観察する方法では、感度・精度共に十分ではなく、しかも、像観察光学系とは異なる光学条件での測定であるため、測定結果が正しく像観察条件を評価できない場合もあった。
【解決手段】本発明では例えば高分解能像観察光学系において、試料位置を電子光学系の光軸上に変化させて格子像を観察し、格子像のコントラストとそのときの試料位置との関係より、結像に影響を与えている浮遊磁場を定量的に評価する。
【解決手段】本発明では例えば高分解能像観察光学系において、試料位置を電子光学系の光軸上に変化させて格子像を観察し、格子像のコントラストとそのときの試料位置との関係より、結像に影響を与えている浮遊磁場を定量的に評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンズを有する電子線装置と、その装置内部の浮遊磁場測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡など電子光学系を有する電子線装置においては、通常電子レンズとして磁界型レンズが使用される。磁界型レンズは電子線の進行方向(電子光学系の光軸)と平行方向の局所的強磁場による結像作用を利用するもので、最も一般的に用いられている電子レンズである。電子レンズの磁場の強弱は焦点距離の変化に対応し、対物レンズではフォーカス調整に、結像レンズ系では像倍率の変更などに利用される。一方、電子線の進行方向と垂直方向の磁場は、ローレンツ力として電子線の進行方向を直接的に変更する。そのため、比較的弱磁場にて電子線の偏向器として用いられることが一般的である。
【0003】
電子線の場合には光線と異なり、電子線の通過経路を真空排気しなければならないことから、電子光学系は、金属製の密閉容器内に構築されることが一般的である。このとき、真空容器を高透磁率材料(例えば、純鉄やパーマロイなど)とすることによって、容器外部の磁場が電子線の経路に侵入しないよう遮蔽することができ、比較的容易に磁場対策を採ることができる。ただし、磁場に対する遮蔽は電場に対する遮蔽とは異なり、高透磁率材料側に磁場を優先的に透過させることによって、相対的に対策を必要としている空間、部分の磁場強度を低下させているだけで、原理上完全には遮蔽し得ない。
【0004】
このような事情から、高分解能像観察、特に収差補正装置を導入した高分解能像観察法、および電子線ホログラフィーなど高精度で電子線を制御しなければならない場合には、電子線の経路内に残存する浮遊磁場、とりわけ時間的に変動する磁場に対しては、細心の対策が必要とされる。特に、先述のとおり、光軸に垂直方向の磁場成分は、電子線を直接偏向させるため影響が大であり、その測定と対策は重要である。
【0005】
一般的には、例えば非特許文献1に開示されているように、浮遊磁場が時間的に電子線を偏向することを利用してその浮遊磁場の大きさ、位置を推定する。図13にその原理を模式的に示す。図14(図14A、図14B)に測定の状況および測定結果を示す。電子線の進行方向に幅lに渡って時間的に変化する光軸2に垂直方向の磁場26(磁束密度ΔB)があるとき、磁場中に入射した速度vの電子は、図13のようなある1点25を中心とした回転半径rの等速円運動を行う。その結果、電子線は偏向角αを持って磁場領域26を射出する軌道27を描く。この偏向角αは、電子が磁場より受けるローレンツ力と遠心力のつり合いより、
【0006】
【数1】
【0007】
と表わされる(但し、λ = h/mvを用いた)。ここでeは電子の電荷量、hはプランク定数、λは電子線の波長である。
【0008】
この電子線への偏向角αを浮遊磁場存在領域の電子線の進行方向下流側、距離Lの点で観察し(図14A参照)、ΔSource=2αLより、電子線のスポット10の形状のゆがみ、もしくは分裂として計測し(図14B参照)、浮遊磁場ΔBを求めている。
【0009】
【数2】
【0010】
図14より明らかなように、この従来の浮遊磁場測定方法では、高感度に測定するには、浮遊磁場の存在領域と電子線スポット10の観察位置は離れている方が望ましく(L → 大)、また、スポット10は小さく、かつ同時にスポット位置の観察倍率は高いことが望まれる。しかし、これらの条件を満たす光学系は、試料像観察条件からは大きく外れていることが多い。従って、浮遊磁場を測定しても、試料像観察時には別途に異なる光学系を構築しなければならず、測定結果が直接、観察像の良否に関係しない場合もある。
【0011】
なお、電子線装置に関連するその他の技術として、特許文献1には、基本的な電子顕微鏡本体に加え、ホログラフィー観察において要求する空間分解能を入力する手段と、入力された値及び装置固有のパラメータから要求された空間分解能を実現する電子線バイプリズム位置及び試料位置を算出するための計算装置及び、得られた計算結果を実現するためのこれら二つの位置を移動させる機構を設けてたものが開示されている。試料位置移動手段として、ネジのピッチを利用した回転式機構が開示されている。また、非特許文献2には、電子レンズの収差の影響を受けず高コントラストで格子像を記録する方法として、暗視野結像実験に関する記載がある。また、非特許文献3には電子波の位相および二波の位相差、そしてアハラノフ・ボーム効果に関する記載がある。
【0012】
【特許文献1】特開2007−335083号公報
【非特許文献1】後藤憲一、山崎修一 共編:詳解 電磁気学演習 (昭和58年)(共立出版)p400
【非特許文献2】Tetsuya Akashi、Akiara Sugawara、Takaho Yoshida、Tsuyoshi Matsuda、Ken Harada and Akira Tonomura: Proceedings of 16 th International Microscopy Congress (IMC16), (Sapporo, Japan, September 3 - 8, 2006) Vol. 2 , pp. 585.
【非特許文献3】A. Tonomura: Electron Holography, 2nd ed. (Springer, Heidelberg. Germany,1999), Captor 6, page 52.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先述のごとく、浮遊磁場、特に光軸と垂直方向成分を有し、時間的にその強度、方位が変化する磁場は、その変動が電子顕微鏡において画像取得中(露光時間内)に作用した場合には、異なる画像が重畳されて観察されることになり、電子顕微鏡像劣化の直接的原因となる。そのため、装置全体だけでなく、電子線の経路を集中的に高透磁率材料で覆ったり、あるいは、装置全体に問題となる浮遊磁場と逆方向でかつ同じ強度の磁場を積極的に印加することによって相殺するなどの対策が採られている。いずれにしても、電子顕微鏡像に直接影響を与えている浮遊磁場を測定することは、対策の方針を決定するためにも、対策の良否を評価するためにも重要である。
【0014】
しかし、真空に封じられ、多数の電子レンズから構成される電子顕微鏡光学系においては、センサーを用いて浮遊磁場ΔBを検出することは現実的に困難であり、一般的には先述のとおり、電子ビームをスポット状にして、そのスポットの形状の不均一性(一方向への伸長)やスポットの分裂もしくは振動などを通じて測定、あるいは定性的な観察を行っているのみであった。この電子線のスポットを用いる方法は、スポットのサイズによって検出感度が異なること、通常の透過型電子顕微鏡においては、電子線のスポットを観察する光学系は試料像を結像観察するための光学系と異なることなどから、高分解能観察や、電子線ホログラフィーにおいては、電子線のスポットを拡大投影する光学系によって浮遊磁場の程度を評価しても、像観察に影響を与える浮遊磁場を評価できておらず、結局試行錯誤に磁場対策を行い、実験によって実際の像を観察して効果の程を知るしかなかった。
【0015】
本発明の目的は、電子線装置内の電子光学系上に存在し、結像に影響を与える浮遊磁場を高感度に検出し、定量的に評価できる浮遊磁場の測定手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明は、電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記試料像を観察あるいは記録するための画像観察・記録装置とを有する電子線装置であって、前記照射光学系、前記試料保持装置、前記結像レンズ系及び前記画像観察・記録装置を制御する情報処理装置を備え、前記試料を前記電子線の光軸上で複数の位置に移動させ、前記各々の位置において得られる前記試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化から、当該装置内における前記試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策の有効性の程度を測定・評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、結晶体の試料を用い、高分解能像(格子像)観察光学系で格子像観察倍率において観察される試料像のコントラストもしくはコントラスト変化の様子から、光学系中の浮遊磁場を測定する方法およびそれを可能とする装置を提供するものである。本方法の原理は、二波を干渉結像させる際に二波の経路が包む空間内に存在する時間的に変動する浮遊磁場によって生じる位相差(アハラノフ・ボーム効果による位相差(非特許文献3参照))の揺らぎを干渉縞のコントラストの劣化として評価するもので、電子線が浮遊磁場から受けるローレンツ力によって偏向される程度を測定する先述の電子線スポットの偏向検出方法とは原理的に異なる。
【0019】
本発明では、電磁ノイズとしての浮遊磁場の強度、方位は時間的に常に揺らいでいるが、その揺らぎの程度は一連の干渉像観察の所要時間内には大きく変化しないとき、この揺らぎの程度を測定・評価するために、試料を光軸上異なる点に移動もしくは複数配置することを可能とし、そのおのおのの位置での干渉像を観察し、そのコントラストの変化の具合から当該干渉像を形成するに至った二波の電子線経路中に存在する浮遊磁場の揺らぎの程度を測定する。二波の経路は空間的に離れるほど該経路により包まれる空間が大きくなり、該閉空間内に取り込まれる浮遊磁場の量が増えるので該浮遊磁場を高感度に検出できる。また、結晶体など格子間隔が小さく大きな回折角を得られる試料のとき、および回折角が大きい低加速電圧電子線ほど同様に該浮遊磁場を高感度に検出できる。
【0020】
以下、まず、本発明の浮遊磁場測定の原理に関して説明する。
<1.二波の分離と格子像(二波干渉結像)>
本発明の方法では、同一光源から出発し異なる軌道を経由する複数の電子線の間に生じる干渉現象を利用する。複数の波に分割するために結晶体を用いる。これは振幅分割型の干渉計に該当し、結像するには格子像観察法と同様の光学系が必要となる。従って、格子像観察法と同様の光学条件での評価実験を検討する。特に簡単のため、二波結像の格子像実験についてモデルを与える。これは、結晶格子により回折された二波による格子像(干渉縞)を記録する方法である。
【0021】
図1に示すごとく(g、−g)の光軸に対称な2つの回折波を用いて説明を行うが、透過波や散乱波など、本質的にはどんな二波による結像系にでも一般的に成立する。図1において、2は光軸、3は試料、5は対物レンズ(対物レンズの主面)、8は干渉縞、11は対物レンズにより結像された電子源の像(クロスオーバー)、22は電子線の波面、27は電子線の軌道、36は対物レンズの後側焦点面、71は対物レンズによる試料の像面、93はビームストッパーを示している。
【0022】
まず、図1の様に光学系の諸パラメータを定め、光学系の倍率をMとすると、ブラッグの回折条件(式(3))より以下の諸式を得る。
【0023】
【数3】
【0024】
【数4】
【0025】
【数5】
【0026】
ここで、aは対物レンズ5(対物レンズの主面)と試料3との距離、bは対物レンズ5(対物レンズ主面)と試料の像面71との距離、θはブラッグ角、dは結晶格子間隔、fは対物レンズの焦点距離、qは光軸2と対物レンズによる電子源の像11(回折点)との距離である。
【0027】
レンズ後側焦点面36上の回折点11を光源と考えると干渉縞間隔sは、
【0028】
【数6】
【0029】
で与えられ、結晶格子間隔dの空間周波数の2倍の空間周波数を持つ干渉縞(格子像)となる。すなわち、回折角θは波長λに依存するが、得られる格子像は倍率のみに依存し波長に依らない。
【0030】
なお、図1では、簡単のため磁界レンズによる光軸を中心とした電子線の回転及びそれに伴う像の回転を描いていないが、この省略によって本発明が議論する電子光学系の一般性を失うものではない。また、レンズ自身も主面を単線で表わす省略を行っている。図1以降の光学系を表わす図についても同様の省略を行う。
【0031】
また、図1で描いた2つの回折波(g、−g)で構成される干渉縞8は暗視野格子像と呼ばれるもので、電子レンズの収差の影響を受けず(厳密には収差の影響を相殺して結像する)、高コントラストで格子像を記録する方法として知られている(非特許文献2参照)。電子線の可干渉性を有効に用いるため、フォーカスはずれ量Δfは、式(7)に基づくことが望ましい。ここでCsは球面収差係数、hklは回折波ghklの次数、qhklはその回折波ghklの空間周波数である。
【0032】
【数7】
【0033】
<2.電子軌道と位相差>
本発明の方法では、同一光源から出発し異なる軌道を経由する電子線の間に生じる干渉現象を利用する。図2は電子軌道27と波面22(等位相面)の関係を描いた模式図である。図2のような電子源1と観察点(電子源の像10)の関係の場合、光源1からでた電子線が各々の軌道27を経て観察点10に達した時の電子線の位相差Δφは式(8)で表わされる。
【0034】
【数8】
【0035】
式(8)右辺の第1項Δφ1は幾何光学的光路差(波数の経路積分)、第2項Δφ2は電場の寄与であり光線の場合の屈折率に相当する。第3項Δφ3は磁場の寄与で、加速電圧(電子線の波長)に依存しないことを特徴とする。本発明では、電子顕微鏡像に与える浮遊磁場の影響を考察するため、幾何光学的位相差の第1項Δφ1と磁場の寄与の第3項Δφ3についてそれぞれ検討する。(非特許文献3参照)
<3.幾何光学的光路への浮遊磁場の影響>
前節では試料が結晶体で、入射電子線が該試料によってブラッグ回折を受ける場合を示したが、さらに図3のごとく、2つの回折波(g、−g)の経路中に浮遊磁場24(磁束密度ΔB)が存在する場合を検討する。電子顕微鏡像の解像度など像質に最も大きな影響を与える対物レンズにおいては、試料ホルダー、対物絞りなどの電子光学部品がレンズ主面近傍に配置される構造となっており、そのため磁場遮蔽は他の部分と比較して弱いのが実状である。そこで、時間的に変動する浮遊磁場は、対物レンズの後側焦点面36の電子線の流れの下流側の幅lの範囲に局所的に存在していると仮定する。上記の事情であるため、この仮定でも一般性は失わない。
【0036】
図3に、浮遊磁場の領域を含む場合の光学系を示す。ある瞬間を考えると、結晶性試料3にて回折を受けた各々の電子軌道27は、それぞれ浮遊磁場ΔBにてローレンツ力による偏向を受け、格子像8は横方向に移動する(図3では右方向)。像観察点は、高倍率のため光軸2のごく近傍のみであるから、観察像では格子像の縞位置が横に移動したように観察される。すなわち、観察された干渉縞の位相が変化することになる。観察点での格子像の位相の変化量Δφ1を、浮遊磁場ΔBにより生じた虚光源15からの光路長より求めると、虚光源15の位置の変位量は1次近似の範囲(式19)でlαであることから、右側回折点g(虚光源)からの光路長LRと、左側回折点−g(虚光源)からの光路長LLとは各々、
【0037】
【数9】
【0038】
【数10】
【0039】
【数11】
【0040】
となる。以上より、光路差Δl、および位相差Δφ1を得る。
【0041】
【数12】
【0042】
【数13】
【0043】
式(12)より、浮遊磁場による格子像の幾何光学的光路差ΔLによる位相差Δφ1は波長λに依存せず、浮遊磁場の強さ(磁束密度ΔB)と、その磁場の存在領域lに依存することがわかる。すなわち、時間的に変化する浮遊磁場ΔBが領域lに存在するとき、位相差Δφ1分だけ異なる干渉縞8が重畳されて観察されることになり、干渉縞8のコントラストが劣化する。つまり、観察される縞のコントラストと浮遊磁場の間には一定の関係があり、その関係は一連の実験の時間内では一定とみなせる。
<4.磁場に起因した位相差>
式(8)の第3項のごとく、位相差Δφ3に対する磁場の寄与は加速電圧に依存しない。ストークスの定理により、2つの軌道の間に存在する磁束密度Bで決まった変化を受ける(式(13))。これがアハラノフ・ボーム効果(AB効果)である(非特許文献3参照)。
【0044】
【数14】
【0045】
従って、二波の電子線で囲まれる浮遊磁場の存在領域Sの面積が求まれば、位相差Δφ3が求められる。前節と同様に図3に示した光学系のパラメータ、および浮遊磁場の存在領域の場合、2つの回折電子線の軌道27で囲まれる面積Sは式(14)のように表わされる。
【0046】
【数15】
【0047】
これより位相差Δφ3は、式(15)のように表わされる。
【0048】
【数16】
【0049】
すなわち、式(12)と同様に、時間的に変化する浮遊磁場ΔBが領域lに存在するとき、位相差Δφ3分だけ異なる干渉縞8が重畳されて観察されることになり、干渉縞8のコントラストが劣化する。しかし、式(12)とは異なり、式(15)は実験者が変更可能なパラメータ(電子線の波長λ、結晶の格子間隔d、試料位置a)を含んでいる。
<5.浮遊磁場の評価法>
浮遊磁場ΔBが正負の方向に揺動するので、時間的に積分して表われる縞のにじみ量は、各々の位相差の絶対値の和として取り扱う。すなわち、式(8)、式(12)と式(15)より、二波の位相差はΔφは、
【0050】
【数17】
【0051】
で表わされる。
【0052】
つまり、観察される縞のコントラストと浮遊磁場の間には式(16)に基づき一定の関係があるが、浮遊磁場からの寄与分(式(15)に基づく位相差)には、実験者により以下のとおりパラメータを変更する余地が残されている。
【0053】
(1) 電子線の加速電圧を変更し波長λを変更する。
【0054】
(2) 対象とする結晶体、もしくは結晶の方位を変更し格子間隔dを変更する。
【0055】
(3)試料位置aを変更する。
【0056】
これらのパラメータ変更によって、浮遊磁場についての情報を得ることが可能である。この実験者によって変更可能なパラメータ(λ、d、およびa)のうち、図4のごとく試料位置(試料とレンズ主面との距離)aを変更し、観察される干渉縞8のコントラスト変化より浮遊磁場ΔBを評価する方法およびそれを可能とする装置を提供することが、本発明の根幹である。
【0057】
例えば、試料位置を変更(試料とレンズ主面との距離aを増加させる)しながら格子像の観察を行い、格子像のコントラストが失われるときには時間的に変動する位相差がちょうど2π(Δφ = 2π)に達したときとみなし、そのときの試料3とレンズ主面5との距離alimを求めると、式(16)より浮遊磁場ΔBの強度について、式(17)の関係を得る。
【0058】
【数18】
【0059】
式(17)では浮遊磁場の存在領域lが未定であるが、通常は、対象としている電子レンズ(ここでは対物レンズ)の焦点距離f程度と考えられるので、l=fとして、式(18)を得る。
【0060】
【数19】
【0061】
この式(18)より、浮遊磁場を概算することが可能である。なお、格子像のコントラスト消失は、例えばアモルファス像のコントラストとの比較において、格子像のコントラストがノイズレベル以下となり、実効的に格子像8が判別できなくなるときと考えられる。
【0062】
なお、式(17)において、浮遊磁場の存在領域lは上記電子レンズの焦点距離fに限定されないことはいうまでも無い。例えば、電子レンズのポールピースギャップ間に浮遊磁場が存在していると見なせるときには、ギャップ長さGを浮遊磁場の存在領域lに置き換えて、式(17)から浮遊磁場ΔBの強度を求めても良い。その他、電子線装置内の浮遊磁場の存在領域を大まかに特定できる任意のパラメータを式(17)の存在領域lの代わりに用いて式(18)相当の演算式を得ても良い。
【0063】
本発明により浮遊磁場の測定を行う手順を、図5にフローチャートとして示す。それぞれを説明する。なお、必要な情報は観測者がコンピュータのモニタ画面などを通じて予め入力し、記憶手段に記録されているものとする。
(ステップ1):格子像観察条件、例えば、電子線の波長、格子間隔、観察条件(フォーカスはずれ量、記録時の倍率など)を定める。
(ステップ2):観測者が必要に応じて装置を操作し、装置の光学系をステップ1で定めた観察条件に合わせる。
(ステップ3):試料中のアモルファス部の画像を格子像観察と同条件にて観察し、その画像を記録媒体や記録装置に記録する。
(ステップ4):得られたアモルファス部の画像より、画像のノイズレベルを決定する。これには例えば、画像のフーリエ変換などを利用して装置が自動的に決定してもよい。
(ステップ5):光学系をステップ1で定めた観察条件に合わせる。
(ステップ6):格子像を観察し、その画像を記録媒体や記録装置に記録する。
(ステップ7):格子像のコントラストを評価する。
(ステップ8):ステップ4で求めた画像のノイズレベルと比較する。
(1)ノイズレベルより格子像のコントラストの方が大きいとき(Yes)→試料をレンズ主面からさらに移動させるための移動量を定め(ステップ9)→試料を移動させる(ステップ10)→ステップ5に戻る。
(2)ノイズレベルより格子像のコントラストの方が大きくないとき(No)→ステップ11へすすむ。
(ステップ11):試料位置、もしくはここまでに試料を移動させてきた移動量の積分値を元に、レンズ主面から試料までの距離alimを算出し、その結果を記録装置に記録する。
(ステップ12):式(18)に基づき、浮遊磁場量ΔBを求め、記録装置に記録する。
(ステップ13):ステップ10で求めた浮遊磁場量ΔBをモニタに表示する。
(ステップ14):一連の測定を終了する。
【0064】
図5のフローチャートは、ステップ1の条件設定、ステップ8等の判定など、実験者がモニタ画面を見ながら必要な情報を装置に入力することで実現される。なお、図5のフローチャートに基づき、浮遊磁場ΔBを自動測定するシステムを構築することも可能である。すなわち、一連の測定を装置が自動的に行うものとしても良い。
<6.浮遊磁場の評価精度>
本発明の手法が、どの程度浮遊磁場に対して感度を持っているか評価してみる。式(17)もしくは式(18)の係数h/2eはちょうど超伝導磁束量子1個の保持する磁束量(Φ0 = 2×10-15Wb(ウェーバー))に対応している。また、電子線の波長λと格子間隔dの比λ/dは、およそ1/50〜1/100程度の値となる。すなわち、評価可能な浮遊磁場の強度ΔBは、1個の磁束量子が浮遊磁場の存在領域lを定める面積(例えば浮遊磁場の存在領域lを対物レンズの焦点距離f程度とすると、f2〜3 mm2)に存在する場合に対応する。これは大変に弱い磁場に相当する(例えば、地磁気3×10-5Wb/m2(= 0.3G(ガウス))は、磁束量子の面密度に直すと15000個/mm2に対応する)。従って本手法が、地磁気の1/105以下の弱磁場に対して評価可能な方法であることがわかる。
<電子線装置>
図6に、本発明に関するシステムとしての電子線装置の全体を模式的に示す。図6は、汎用型の透過型電子顕微鏡を用いる場合を想定した模式図であるが、本発明はこの模式図に記載の形態に限るものではない。
【0065】
電子源1が電子線の流れる方向の最上流部に位置し、電子源1を射出した電子線は加速管40にて所定の速度の電子線とされた後、照射光学系4(第1の照射(コンデンサ)レンズ41、第2の照射(コンデンサ)レンズ42を経て試料3に照射される。試料3は、可動式の試料保持機構38に設置されており、試料の制御ユニット39により光軸方向における試料の位置、すなわち試料とレンズ主面との距離aが調節される。試料3を透過した電子線は回折波の選択などの処理が対物絞り92にて行われ、電子線の進行方向に試料3よりも下流側の対物レンズ5にて結像される。この結像作用は、対物レンズ5よりも下流側の複数の結像レンズ系(第1の結像レンズ61、第2の結像レンズ62、第3の結像レンズ63、第4の結像レンズ64)に引き継がれ、最終的に電子線装置の観察・記録面89に干渉縞8が結像される。電子線装置の観察・記録面89に対応して画像観察・記録媒体79が設けられている。後で詳細に述べるように、制御系コンピュータ51は、装置全体を制御し、試料像の観察や浮遊磁場の測定を行うための情報処理装置として機能するものであり、この情報処理装置が試料位置(試料とレンズ主面との距離)aを変更することで、観察・記録面89に結像された像、すなわち格子像あるいは干渉縞8は、画像観察・記録装置に記録される。すなわち、格子像あるいは干渉縞8は、制御ユニット78で制御される電子顕微鏡フィルムやCCDカメラなど画像観察・記録媒体79を通じて画像記録装置77に記録される。
【0066】
なお、可動式の試料保持機構38は、例えばネジのピッチを利用した回転式機構(特許文献1参照)でもよいし、圧電素子を用いた機構でもよい。回転機構の場合は、回転角度が試料位置aを与え、圧電素子機構の場合は、印加電圧より試料位置aを知ることとなる。
【0067】
電子源1、加速管40への印加電圧、試料3の位置、および各電子レンズの励磁状態などは、装置全体を制御する情報処理装置である制御系コンピュータ51及びこれに接続された各ユニットの制御系、すなわち電子源の制御ユニット19、加速管の制御ユニット49、第1の照射レンズの制御ユニット48、第2の照射レンズの制御ユニット47、試料の制御ユニット39、対物レンズの制御ユニット59、対物絞りの制御ユニット97、第1の結像レンズの制御ユニット69、第2の結像レンズの制御ユニット68、第3の結像レンズの制御ユニット67、第4の結像レンズの制御ユニット66、画像観察・記録媒体の制御ユニット78でコントロールされている。52は制御系コンピュータのモニタ、76は画像観察・記録装置77のモニタである。
【0068】
なお、実際の装置では、この模式図で示した他に、電子線の進行方向を変化させる偏向系、電子線の透過する領域を制限する対物絞り92以外の絞り機構などが存在し、それらの装置もまたコンピュータ51に接続された制御系でコントロールされている。
【0069】
制御系コンピュータ51は、試料位置の制御のために必要な制御パラメータ値等をGUI等で入力する入力装置53、演算手段、及び電子顕微鏡の観測条件探索あるいは動作制御のために必要となる情報を格納する記憶手段、例えばメモリや各種ストレージ装置、表示モニタを含む出力装置を備えている。記憶手段に格納される情報としては、装置が格子像観察に必要な条件を決定するのに必要な情報、例えば、試料の材料や観察条件関する情報などである。更に、上記の情報の探索あるいは動作制御を実行するための各種のソフトウェアが格納されており、演算手段によりこれらのソフトウェアが実行される。
【0070】
これらのソフトウェアには、照射光学系、試料保持装置、結像レンズ系及び画像観察・記録装置を制御し、図5のフローチャート等に基づく一連の演算処理を実行し、制御系コンピュータ51を、浮遊磁場の測定を行うための情報処理装置として機能させるプログラムも含まれている。
【0071】
浮遊磁場の測定を行う場合、情報処理装置は、試料を電子線の光軸上で複数の位置に移動させ、各々の位置において得られる試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化から、当該装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を測定するように機能する。
【0072】
すなわち、浮遊磁場測定を行う場合、情報処理装置は、格子像観察光学系を制御すると共に、試料保持機構を制御して試料を電子線の光軸上の複数の位置に移動させたときに画像観察・記録装置により得られる各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化を求め、最小距離alimを測定し、演算手段において式(17)あるいは式(18)により、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を算出し、モニタ52に表示する機能を実行する。この場合、浮遊磁場を算出するための式(17)中の浮遊磁場の存在領域lは、前記したように、対物レンズ5の焦点距離fやポールピースギャップ長さなど、図6にLBで表示した磁場の残存する範囲を特定して、適宜設定し、式(18)に代わるものとして採用しても良い。
【0073】
また、画像のノイズレベルの設定や格子像のコントラストの観察・評価は、例えば、実験者がモニタ76に表示される画像を見ながら行っても良い。
【0074】
実験者は、モニタに表示された浮遊磁場の算出結果に基き、電子線装置に対して必要な磁場遮蔽対策を施し、以降の電子線装置の本来の計測に備える。
【0075】
なお、偏向系や、電子線の透過する領域を制限する対物絞り92以外の絞り機構については、本発明には直接の関係が無いので、この図では割愛する。なお、この模式図に示すごとく電子光学装置は真空容器18中に組み立てられ、真空ポンプにて継続的に真空排気されているが、真空系についても本発明とは直接の関係がないため割愛する。
【実施例1】
【0076】
本発明の第一の実施例として、電子線装置における暗視野格子像観察光学系の具体的な構成例及びそれを用いた浮遊磁場の測定方法を、図7で説明する。
図7に、本発明を実施する場合の暗視野格子像観察光学系の模式図を示す。簡単のため、光軸2に対称な二波のみが結像に寄与するような対物絞り92、ビームストッパー93が、対物レンズ5の後側焦点面36に挿入されている様子を示している。図7のAは、例えば通常の試料位置に結晶性試料3をセットし、ブラッグ回折を受けた多波を対物レンズ5に取り込み、対物絞り92、ビームストッパー93にて選択された二波を結像し、対物レンズの像面71に生じた干渉縞8(格子像)を、さらに電子線の進行方向下流側の結像レンズ61にて、拡大することを表わした模式図である。72は第1の結像レンズ61による試料の像面を示している。結像レンズ61は、浮遊磁場測定に伴う結晶性試料3の移動に伴い結晶性試料3と対物レンズ5の距離が変化したことに伴う試料倍率の補正を行う。
【0077】
図7のBは、図7のAの光学系において試料の位置を光軸2に沿って、電子線の光源側に移動させたときの模式図である。ブラッグ角(θ = λ/d)は、電子線の波長λと結晶の格子間隔dのみによって定まるため、対物レンズ近傍での回折波は図7のAの場合と比較して空間的に広がっている。すなわち、格子像8に与える浮遊磁場ΔBの影響の大きさは、回折波に囲まれた閉空間の大きさ(式(15)の面積S)に依存し、これは幾何学的に一意に定まる。
【0078】
光学系中の浮遊磁場の領域24に残存する浮遊磁場ΔBの大きさは、格子像8のコントラストの劣化として、直接的に観察・測定できる。
【0079】
情報処理装置は、試料を前記電子線の光軸上で複数の位置に移動させ、各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化に基き、演算手段により、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場ΔBを算出し、モニタに表示する。
【0080】
図7の例では、試料位置を光源側に移動させているが、パラメータに変化を与えるだけならば、対物レンズによる結像が可能であれば試料位置はレンズ側に移動させてもよい。一般に高分解能観察時には、試料位置は対物レンズの前側焦点位置のわずかだけ光源側に配置されるため、図7のように試料位置を光源側に移動させる方がパラメータを大きく変更できる。
【0081】
また、試料位置を光源側に移動させたことによる対物レンズの倍率の減少分を、対物レンズより電子線の進行方向下流側の結像レンズ系の倍率を増大させることによって補い、最終的に記録される格子像の倍率を一定にする。これは、記録系の性能(例えば、MTF(Modulation Transfer Function))の影響を小さくするための施策である。図7のBでは、倍率一定を示すため、結像レンズ61の位置を変更して描いているが、実際の電子顕微鏡においては、結像レンズ61の焦点距離を変更することによって同等の効果を得ている。
【0082】
格子像観察光学系においては、透過波と回折波など光軸に対する伝播角度の異なる複数の波が干渉にかかわるため、対物レンズの球面収差、色収差の影響、フォーカスはずれ量の影響が干渉縞(格子像)に重畳される。しかし、本実施例1(図7)では、光軸2に対称な二波のみを対物絞り92とビームストッパー93にて選択して結像に用いているため、両波間での収差の影響は相殺される。そのため、図8と比較したときには、誤差の少ない測定結果を得ることができる。但し、フォーカスはずれ量は式(8)で定める値とする。
【0083】
本実施例によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策を施した場合にはその対策の有効性の程度を測定・評価し、適切な磁場遮蔽を実施することが可能となる。
【実施例2】
【0084】
本発明の第二の実施例として、電子線装置における格子像観察光学系の具体的な構成例を図8、及びそれを用いた浮遊磁場の測定例を、図9〜図10で説明する。
【0085】
図8に、本発明を実施する場合の光学系の構成例を示す。図7の例に対して、ビームストッパー93を用いない。その他の関係は図7と全く同様である。
図8のA、Bは、例えば通常の試料位置に結晶性試料3をセットし、ブラッグ回折を受けた多波(三波)を対物レンズ5によって結像し、対物レンズの像面71に生じた干渉縞8(格子像)を、さらに電子線の進行方向下流側の結像レンズ61にて、拡大することを表わした模式図である。光学系中の浮遊磁場の領域24に残存する浮遊磁場ΔBの大きさは、格子像8のコントラストの劣化として、直接的に観察・測定できる。
【0086】
浮遊磁場測定を行う場合、情報処理装置は、画像観察・記録装置により得られる各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化に基き、演算手段において式(18)等により、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場ΔBを算出し、モニタに表示する。
【0087】
図8の例では、ビームストッパー93を用いないため、通常の試料像の観察時の高分解能像観察と全く同じ観察条件で、浮遊磁場を測定できる利点がある。その反面、対物レンズの球面収差、色収差の影響、フォーカスはずれ量の影響が干渉縞(格子像)に重畳されるので観察される格子像の縞間隔s、方位、コントラストには十分な注意が必要である。すなわち、複数の波の干渉がかかわるため、多波結像では式(18)による評価には誤差が大きくなる傾向がある。しかし、観察条件が揃えば浮遊磁場ΔBの大きさに関する相対的な判断は誤らない。
【0088】
図9(図9A、図9B)に、図8を実施した実験結果の一例を示す。図9Aは、図8Aのように、試料位置を通常の高分解能観察位置(a0 = 2.4 mmフォント変更のみ)より0.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 0.6 mm)の縞間隔72pmの格子像、図9Bは試料位置を通常の高分解能観察位置より3.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 3.6 mm)の縞間隔72pmの格子像である。さらに試料位置を、2mm光源側に移動したとき(Δa = 5.6 mm)には、縞間隔72pmの格子像は観察されなかった。これよりalim = 8 mm、浮遊磁場の存在領域lが対物レンズの焦点距離(f = 1.6 mm)程度とすると、格子像を形成させた二波の方位と垂直方向に、浮遊磁場が磁束密度1×10-9Wb/m2(= 1×10-5G)程度残存していると評価できる。但し、この評価では、先述のとおり、球面収差等の影響を無視している。なお、試料には金の単結晶薄膜を用い、電子線の加速電圧は400kVで実験を行った。
【0089】
図10には、図9での実験の後、磁場遮蔽対策を実施し、その後で行った図9と同様の実験結果の一例を示す。同じ金の結晶薄膜を用い、同じ加速電圧(400kV)での実験であるが、試料位置を通常の高分解能観察位置(a0 = 2.4 mmフォント変更のみ)より5.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 5.6 mm)、すなわちa = 8 mmでも縞間隔72pmの格子像は観察された。この結果から、浮遊磁場の影響が軽減していることがわかる。磁場遮蔽対策の効果の現れである。
【0090】
本実施例によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策の有効性の程度を測定・評価し、適切な磁場遮蔽を実施することが可能となる。
【実施例3】
【0091】
本発明の第三の実施例として、ビームストッパーの回転による浮遊磁場の方位角依存性の測定方式の具体的な構成例及びそれを用いた浮遊磁場の測定方法を、図11で説明する。
図11は、対物レンズ5の後側焦点面36に挿入するビームストッパー93を、光軸2を中心軸として回転させる場合の模式図である。試料位置の変更や、対物レンズの下段の結像レンズ系については割愛している。
【0092】
【数20】
【0093】
結晶体では全方位にブラッグ回折波が発生しているが、回折波は離散的にしか存在しないため、細かく浮遊磁場ΔBの方位依存性を測定することはできない。それでも測定される浮遊磁場ΔBの方位は、およそ平板状ビームストッパー93の長方向に一致する。なお、本図では電子レンズを光学ガラスレンズのごとく描いているが、これは模式図であり、電子レンズによる光軸2を中心とした電子線の回転に伴う像の回転についても割愛している。この作図上の省略は、他の図についても同様である。
【0094】
浮遊磁場測定を行う場合、情報処理装置は、画像観察・記録装置により得られる各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化に基き、最小距離alimを測定し、演算手段において、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場ΔBを算出し、モニタに表示する。
【0095】
本実施例によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策の有効性の程度を測定・評価し、適切な磁場遮蔽を実施することが可能となる。
【実施例4】
【0096】
本発明の第四の実施例として、試料とビームストッパーの回転による浮遊磁場の方位角依存性の測定方式の具体的な構成例及びそれを用いた浮遊磁場の測定方法を、図12で説明する。
【0097】
図12は、試料3と対物レンズ5の後側焦点面36に挿入するビームストッパー93とを共に光軸2を中心軸として回転させる場合の模式図である。
【0098】
【数21】
【0099】
このように、試料とビームストッパーの両方を同時に回転させることによって、遊磁場ΔBの方位角依存性を詳細に測定することが可能となる。実施例3で、回折波が空間中で離散的にしか存在していないため、浮遊磁場ΔBの方位についても離散的にしか測定できないことを述べたが、その欠点に対する解決策である。
【0100】
【数22】
【0101】
浮遊磁場測定を行う場合、情報処理装置は、画像観察・記録装置により得られる各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化に基き、演算手段において、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場ΔBを算出し、モニタに表示する。
【0102】
本実施例によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策の有効性の程度を測定・評価し、適切な磁場遮蔽を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の原理に関し、暗視野格子像の結像光学系を示す模式図である。
【図2】本発明の原理に関し、電子軌道と波面の関係を示す模式図である。
【図3】本発明の原理に関し、浮遊磁場による回折電子線の軌道の変化を示す模式図である。
【図4】本発明の原理に関し、試料位置の変更による回折電子線の軌道の変化を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態になる浮遊磁場測定の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明が適用される電子線装置の一例の概要を示す模式図である。
【図7】本発明の実施例1として、暗視野格子像観察光学系を用いた場合の手法を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例2として、図6の装置において、格子像観察光学系を用いた場合の手法を示す模式図である。
【図9A】実施例2において、本発明の手法を用い、通常の高分解能観察位置より0.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 0.6 mm)の実験結果を示す図である。
【図9B】実施例2において、本発明の手法を用い、通常の高分解能観察位置より3.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 3.6 mm)の実験結果を示す図である。
【図10】実施例2において、磁場遮蔽対策後の格子像観察光学系を用い、通常の高分解能観察位置より5.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 5.6 mm)の、実験結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例3として、ビームストッパーを光軸を中心軸として回転させるときの手法を示す模式図である。
【図12】本発明の実施例4として、試料とビームストッパーを光軸を中心軸として回転させるときの手法を示す模式図である。
【図13】従来から知られている磁場(ローレンツ力)による電子線の偏向の原理を示す模式図である。
【図14A】磁場による電子線の偏向の従来の測定の方法(測定の状況)を示す模式図である。
【図14B】磁場による電子線の偏向の従来の測定の方法(測定の結果)を示す模式図である。
【符号の説明】
【0104】
1…電子源、10…電子源の像、11…対物レンズにより結像された電子源の像(クロスオーバー)、12…第1の結像レンズにより結像されたクロスオーバーの像、15…対物レンズにより結像されたクロスオーバーの虚像、18…真空容器、19…電子源の制御ユニット、2…光軸、22…電子線の波面、24…浮遊磁場の領域、25…磁場により円弧軌道を描く電子線の回転中心、26…磁場の領域、27…電子線の軌道、3…試料、36…対物レンズの後側焦点面、38…試料保持機構、39…試料の制御ユニット、4…照射光学系、40…加速管、41…第1の照射(コンデンサ)レンズ、42…第2の照射(コンデンサ)レンズ、47…第2の照射レンズの制御ユニット、48…第1の照射レンズの制御ユニット、49…加速管の制御ユニット、5…対物レンズ、51…制御系コンピュータ、52…制御系コンピュータのモニタ、53…制御系コンピュータのインターフェース、59…対物レンズの制御ユニット、61…第1の結像レンズ、62…第2の結像レンズ、63…第3の結像レンズ、64…第4の結像レンズ、66…第4の結像レンズの制御ユニット、67…第3の結像レンズの制御ユニット、68…第2の結像レンズの制御ユニット、69…第1の結像レンズの制御ユニット、71…対物レンズによる試料の像面、72…第1の結像レンズによる試料の像面、76…画像観察・記録装置のモニタ、77…画像記録装置、78…画像観察・記録媒体の制御ユニット、79…画像観察・記録媒体、8…格子像あるいは干渉縞、89…観察・記録面、92…対物絞り、93…ビームストッパー、97…対物絞りの制御ユニット。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンズを有する電子線装置と、その装置内部の浮遊磁場測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡など電子光学系を有する電子線装置においては、通常電子レンズとして磁界型レンズが使用される。磁界型レンズは電子線の進行方向(電子光学系の光軸)と平行方向の局所的強磁場による結像作用を利用するもので、最も一般的に用いられている電子レンズである。電子レンズの磁場の強弱は焦点距離の変化に対応し、対物レンズではフォーカス調整に、結像レンズ系では像倍率の変更などに利用される。一方、電子線の進行方向と垂直方向の磁場は、ローレンツ力として電子線の進行方向を直接的に変更する。そのため、比較的弱磁場にて電子線の偏向器として用いられることが一般的である。
【0003】
電子線の場合には光線と異なり、電子線の通過経路を真空排気しなければならないことから、電子光学系は、金属製の密閉容器内に構築されることが一般的である。このとき、真空容器を高透磁率材料(例えば、純鉄やパーマロイなど)とすることによって、容器外部の磁場が電子線の経路に侵入しないよう遮蔽することができ、比較的容易に磁場対策を採ることができる。ただし、磁場に対する遮蔽は電場に対する遮蔽とは異なり、高透磁率材料側に磁場を優先的に透過させることによって、相対的に対策を必要としている空間、部分の磁場強度を低下させているだけで、原理上完全には遮蔽し得ない。
【0004】
このような事情から、高分解能像観察、特に収差補正装置を導入した高分解能像観察法、および電子線ホログラフィーなど高精度で電子線を制御しなければならない場合には、電子線の経路内に残存する浮遊磁場、とりわけ時間的に変動する磁場に対しては、細心の対策が必要とされる。特に、先述のとおり、光軸に垂直方向の磁場成分は、電子線を直接偏向させるため影響が大であり、その測定と対策は重要である。
【0005】
一般的には、例えば非特許文献1に開示されているように、浮遊磁場が時間的に電子線を偏向することを利用してその浮遊磁場の大きさ、位置を推定する。図13にその原理を模式的に示す。図14(図14A、図14B)に測定の状況および測定結果を示す。電子線の進行方向に幅lに渡って時間的に変化する光軸2に垂直方向の磁場26(磁束密度ΔB)があるとき、磁場中に入射した速度vの電子は、図13のようなある1点25を中心とした回転半径rの等速円運動を行う。その結果、電子線は偏向角αを持って磁場領域26を射出する軌道27を描く。この偏向角αは、電子が磁場より受けるローレンツ力と遠心力のつり合いより、
【0006】
【数1】
【0007】
と表わされる(但し、λ = h/mvを用いた)。ここでeは電子の電荷量、hはプランク定数、λは電子線の波長である。
【0008】
この電子線への偏向角αを浮遊磁場存在領域の電子線の進行方向下流側、距離Lの点で観察し(図14A参照)、ΔSource=2αLより、電子線のスポット10の形状のゆがみ、もしくは分裂として計測し(図14B参照)、浮遊磁場ΔBを求めている。
【0009】
【数2】
【0010】
図14より明らかなように、この従来の浮遊磁場測定方法では、高感度に測定するには、浮遊磁場の存在領域と電子線スポット10の観察位置は離れている方が望ましく(L → 大)、また、スポット10は小さく、かつ同時にスポット位置の観察倍率は高いことが望まれる。しかし、これらの条件を満たす光学系は、試料像観察条件からは大きく外れていることが多い。従って、浮遊磁場を測定しても、試料像観察時には別途に異なる光学系を構築しなければならず、測定結果が直接、観察像の良否に関係しない場合もある。
【0011】
なお、電子線装置に関連するその他の技術として、特許文献1には、基本的な電子顕微鏡本体に加え、ホログラフィー観察において要求する空間分解能を入力する手段と、入力された値及び装置固有のパラメータから要求された空間分解能を実現する電子線バイプリズム位置及び試料位置を算出するための計算装置及び、得られた計算結果を実現するためのこれら二つの位置を移動させる機構を設けてたものが開示されている。試料位置移動手段として、ネジのピッチを利用した回転式機構が開示されている。また、非特許文献2には、電子レンズの収差の影響を受けず高コントラストで格子像を記録する方法として、暗視野結像実験に関する記載がある。また、非特許文献3には電子波の位相および二波の位相差、そしてアハラノフ・ボーム効果に関する記載がある。
【0012】
【特許文献1】特開2007−335083号公報
【非特許文献1】後藤憲一、山崎修一 共編:詳解 電磁気学演習 (昭和58年)(共立出版)p400
【非特許文献2】Tetsuya Akashi、Akiara Sugawara、Takaho Yoshida、Tsuyoshi Matsuda、Ken Harada and Akira Tonomura: Proceedings of 16 th International Microscopy Congress (IMC16), (Sapporo, Japan, September 3 - 8, 2006) Vol. 2 , pp. 585.
【非特許文献3】A. Tonomura: Electron Holography, 2nd ed. (Springer, Heidelberg. Germany,1999), Captor 6, page 52.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先述のごとく、浮遊磁場、特に光軸と垂直方向成分を有し、時間的にその強度、方位が変化する磁場は、その変動が電子顕微鏡において画像取得中(露光時間内)に作用した場合には、異なる画像が重畳されて観察されることになり、電子顕微鏡像劣化の直接的原因となる。そのため、装置全体だけでなく、電子線の経路を集中的に高透磁率材料で覆ったり、あるいは、装置全体に問題となる浮遊磁場と逆方向でかつ同じ強度の磁場を積極的に印加することによって相殺するなどの対策が採られている。いずれにしても、電子顕微鏡像に直接影響を与えている浮遊磁場を測定することは、対策の方針を決定するためにも、対策の良否を評価するためにも重要である。
【0014】
しかし、真空に封じられ、多数の電子レンズから構成される電子顕微鏡光学系においては、センサーを用いて浮遊磁場ΔBを検出することは現実的に困難であり、一般的には先述のとおり、電子ビームをスポット状にして、そのスポットの形状の不均一性(一方向への伸長)やスポットの分裂もしくは振動などを通じて測定、あるいは定性的な観察を行っているのみであった。この電子線のスポットを用いる方法は、スポットのサイズによって検出感度が異なること、通常の透過型電子顕微鏡においては、電子線のスポットを観察する光学系は試料像を結像観察するための光学系と異なることなどから、高分解能観察や、電子線ホログラフィーにおいては、電子線のスポットを拡大投影する光学系によって浮遊磁場の程度を評価しても、像観察に影響を与える浮遊磁場を評価できておらず、結局試行錯誤に磁場対策を行い、実験によって実際の像を観察して効果の程を知るしかなかった。
【0015】
本発明の目的は、電子線装置内の電子光学系上に存在し、結像に影響を与える浮遊磁場を高感度に検出し、定量的に評価できる浮遊磁場の測定手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明は、電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記試料像を観察あるいは記録するための画像観察・記録装置とを有する電子線装置であって、前記照射光学系、前記試料保持装置、前記結像レンズ系及び前記画像観察・記録装置を制御する情報処理装置を備え、前記試料を前記電子線の光軸上で複数の位置に移動させ、前記各々の位置において得られる前記試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化から、当該装置内における前記試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策の有効性の程度を測定・評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、結晶体の試料を用い、高分解能像(格子像)観察光学系で格子像観察倍率において観察される試料像のコントラストもしくはコントラスト変化の様子から、光学系中の浮遊磁場を測定する方法およびそれを可能とする装置を提供するものである。本方法の原理は、二波を干渉結像させる際に二波の経路が包む空間内に存在する時間的に変動する浮遊磁場によって生じる位相差(アハラノフ・ボーム効果による位相差(非特許文献3参照))の揺らぎを干渉縞のコントラストの劣化として評価するもので、電子線が浮遊磁場から受けるローレンツ力によって偏向される程度を測定する先述の電子線スポットの偏向検出方法とは原理的に異なる。
【0019】
本発明では、電磁ノイズとしての浮遊磁場の強度、方位は時間的に常に揺らいでいるが、その揺らぎの程度は一連の干渉像観察の所要時間内には大きく変化しないとき、この揺らぎの程度を測定・評価するために、試料を光軸上異なる点に移動もしくは複数配置することを可能とし、そのおのおのの位置での干渉像を観察し、そのコントラストの変化の具合から当該干渉像を形成するに至った二波の電子線経路中に存在する浮遊磁場の揺らぎの程度を測定する。二波の経路は空間的に離れるほど該経路により包まれる空間が大きくなり、該閉空間内に取り込まれる浮遊磁場の量が増えるので該浮遊磁場を高感度に検出できる。また、結晶体など格子間隔が小さく大きな回折角を得られる試料のとき、および回折角が大きい低加速電圧電子線ほど同様に該浮遊磁場を高感度に検出できる。
【0020】
以下、まず、本発明の浮遊磁場測定の原理に関して説明する。
<1.二波の分離と格子像(二波干渉結像)>
本発明の方法では、同一光源から出発し異なる軌道を経由する複数の電子線の間に生じる干渉現象を利用する。複数の波に分割するために結晶体を用いる。これは振幅分割型の干渉計に該当し、結像するには格子像観察法と同様の光学系が必要となる。従って、格子像観察法と同様の光学条件での評価実験を検討する。特に簡単のため、二波結像の格子像実験についてモデルを与える。これは、結晶格子により回折された二波による格子像(干渉縞)を記録する方法である。
【0021】
図1に示すごとく(g、−g)の光軸に対称な2つの回折波を用いて説明を行うが、透過波や散乱波など、本質的にはどんな二波による結像系にでも一般的に成立する。図1において、2は光軸、3は試料、5は対物レンズ(対物レンズの主面)、8は干渉縞、11は対物レンズにより結像された電子源の像(クロスオーバー)、22は電子線の波面、27は電子線の軌道、36は対物レンズの後側焦点面、71は対物レンズによる試料の像面、93はビームストッパーを示している。
【0022】
まず、図1の様に光学系の諸パラメータを定め、光学系の倍率をMとすると、ブラッグの回折条件(式(3))より以下の諸式を得る。
【0023】
【数3】
【0024】
【数4】
【0025】
【数5】
【0026】
ここで、aは対物レンズ5(対物レンズの主面)と試料3との距離、bは対物レンズ5(対物レンズ主面)と試料の像面71との距離、θはブラッグ角、dは結晶格子間隔、fは対物レンズの焦点距離、qは光軸2と対物レンズによる電子源の像11(回折点)との距離である。
【0027】
レンズ後側焦点面36上の回折点11を光源と考えると干渉縞間隔sは、
【0028】
【数6】
【0029】
で与えられ、結晶格子間隔dの空間周波数の2倍の空間周波数を持つ干渉縞(格子像)となる。すなわち、回折角θは波長λに依存するが、得られる格子像は倍率のみに依存し波長に依らない。
【0030】
なお、図1では、簡単のため磁界レンズによる光軸を中心とした電子線の回転及びそれに伴う像の回転を描いていないが、この省略によって本発明が議論する電子光学系の一般性を失うものではない。また、レンズ自身も主面を単線で表わす省略を行っている。図1以降の光学系を表わす図についても同様の省略を行う。
【0031】
また、図1で描いた2つの回折波(g、−g)で構成される干渉縞8は暗視野格子像と呼ばれるもので、電子レンズの収差の影響を受けず(厳密には収差の影響を相殺して結像する)、高コントラストで格子像を記録する方法として知られている(非特許文献2参照)。電子線の可干渉性を有効に用いるため、フォーカスはずれ量Δfは、式(7)に基づくことが望ましい。ここでCsは球面収差係数、hklは回折波ghklの次数、qhklはその回折波ghklの空間周波数である。
【0032】
【数7】
【0033】
<2.電子軌道と位相差>
本発明の方法では、同一光源から出発し異なる軌道を経由する電子線の間に生じる干渉現象を利用する。図2は電子軌道27と波面22(等位相面)の関係を描いた模式図である。図2のような電子源1と観察点(電子源の像10)の関係の場合、光源1からでた電子線が各々の軌道27を経て観察点10に達した時の電子線の位相差Δφは式(8)で表わされる。
【0034】
【数8】
【0035】
式(8)右辺の第1項Δφ1は幾何光学的光路差(波数の経路積分)、第2項Δφ2は電場の寄与であり光線の場合の屈折率に相当する。第3項Δφ3は磁場の寄与で、加速電圧(電子線の波長)に依存しないことを特徴とする。本発明では、電子顕微鏡像に与える浮遊磁場の影響を考察するため、幾何光学的位相差の第1項Δφ1と磁場の寄与の第3項Δφ3についてそれぞれ検討する。(非特許文献3参照)
<3.幾何光学的光路への浮遊磁場の影響>
前節では試料が結晶体で、入射電子線が該試料によってブラッグ回折を受ける場合を示したが、さらに図3のごとく、2つの回折波(g、−g)の経路中に浮遊磁場24(磁束密度ΔB)が存在する場合を検討する。電子顕微鏡像の解像度など像質に最も大きな影響を与える対物レンズにおいては、試料ホルダー、対物絞りなどの電子光学部品がレンズ主面近傍に配置される構造となっており、そのため磁場遮蔽は他の部分と比較して弱いのが実状である。そこで、時間的に変動する浮遊磁場は、対物レンズの後側焦点面36の電子線の流れの下流側の幅lの範囲に局所的に存在していると仮定する。上記の事情であるため、この仮定でも一般性は失わない。
【0036】
図3に、浮遊磁場の領域を含む場合の光学系を示す。ある瞬間を考えると、結晶性試料3にて回折を受けた各々の電子軌道27は、それぞれ浮遊磁場ΔBにてローレンツ力による偏向を受け、格子像8は横方向に移動する(図3では右方向)。像観察点は、高倍率のため光軸2のごく近傍のみであるから、観察像では格子像の縞位置が横に移動したように観察される。すなわち、観察された干渉縞の位相が変化することになる。観察点での格子像の位相の変化量Δφ1を、浮遊磁場ΔBにより生じた虚光源15からの光路長より求めると、虚光源15の位置の変位量は1次近似の範囲(式19)でlαであることから、右側回折点g(虚光源)からの光路長LRと、左側回折点−g(虚光源)からの光路長LLとは各々、
【0037】
【数9】
【0038】
【数10】
【0039】
【数11】
【0040】
となる。以上より、光路差Δl、および位相差Δφ1を得る。
【0041】
【数12】
【0042】
【数13】
【0043】
式(12)より、浮遊磁場による格子像の幾何光学的光路差ΔLによる位相差Δφ1は波長λに依存せず、浮遊磁場の強さ(磁束密度ΔB)と、その磁場の存在領域lに依存することがわかる。すなわち、時間的に変化する浮遊磁場ΔBが領域lに存在するとき、位相差Δφ1分だけ異なる干渉縞8が重畳されて観察されることになり、干渉縞8のコントラストが劣化する。つまり、観察される縞のコントラストと浮遊磁場の間には一定の関係があり、その関係は一連の実験の時間内では一定とみなせる。
<4.磁場に起因した位相差>
式(8)の第3項のごとく、位相差Δφ3に対する磁場の寄与は加速電圧に依存しない。ストークスの定理により、2つの軌道の間に存在する磁束密度Bで決まった変化を受ける(式(13))。これがアハラノフ・ボーム効果(AB効果)である(非特許文献3参照)。
【0044】
【数14】
【0045】
従って、二波の電子線で囲まれる浮遊磁場の存在領域Sの面積が求まれば、位相差Δφ3が求められる。前節と同様に図3に示した光学系のパラメータ、および浮遊磁場の存在領域の場合、2つの回折電子線の軌道27で囲まれる面積Sは式(14)のように表わされる。
【0046】
【数15】
【0047】
これより位相差Δφ3は、式(15)のように表わされる。
【0048】
【数16】
【0049】
すなわち、式(12)と同様に、時間的に変化する浮遊磁場ΔBが領域lに存在するとき、位相差Δφ3分だけ異なる干渉縞8が重畳されて観察されることになり、干渉縞8のコントラストが劣化する。しかし、式(12)とは異なり、式(15)は実験者が変更可能なパラメータ(電子線の波長λ、結晶の格子間隔d、試料位置a)を含んでいる。
<5.浮遊磁場の評価法>
浮遊磁場ΔBが正負の方向に揺動するので、時間的に積分して表われる縞のにじみ量は、各々の位相差の絶対値の和として取り扱う。すなわち、式(8)、式(12)と式(15)より、二波の位相差はΔφは、
【0050】
【数17】
【0051】
で表わされる。
【0052】
つまり、観察される縞のコントラストと浮遊磁場の間には式(16)に基づき一定の関係があるが、浮遊磁場からの寄与分(式(15)に基づく位相差)には、実験者により以下のとおりパラメータを変更する余地が残されている。
【0053】
(1) 電子線の加速電圧を変更し波長λを変更する。
【0054】
(2) 対象とする結晶体、もしくは結晶の方位を変更し格子間隔dを変更する。
【0055】
(3)試料位置aを変更する。
【0056】
これらのパラメータ変更によって、浮遊磁場についての情報を得ることが可能である。この実験者によって変更可能なパラメータ(λ、d、およびa)のうち、図4のごとく試料位置(試料とレンズ主面との距離)aを変更し、観察される干渉縞8のコントラスト変化より浮遊磁場ΔBを評価する方法およびそれを可能とする装置を提供することが、本発明の根幹である。
【0057】
例えば、試料位置を変更(試料とレンズ主面との距離aを増加させる)しながら格子像の観察を行い、格子像のコントラストが失われるときには時間的に変動する位相差がちょうど2π(Δφ = 2π)に達したときとみなし、そのときの試料3とレンズ主面5との距離alimを求めると、式(16)より浮遊磁場ΔBの強度について、式(17)の関係を得る。
【0058】
【数18】
【0059】
式(17)では浮遊磁場の存在領域lが未定であるが、通常は、対象としている電子レンズ(ここでは対物レンズ)の焦点距離f程度と考えられるので、l=fとして、式(18)を得る。
【0060】
【数19】
【0061】
この式(18)より、浮遊磁場を概算することが可能である。なお、格子像のコントラスト消失は、例えばアモルファス像のコントラストとの比較において、格子像のコントラストがノイズレベル以下となり、実効的に格子像8が判別できなくなるときと考えられる。
【0062】
なお、式(17)において、浮遊磁場の存在領域lは上記電子レンズの焦点距離fに限定されないことはいうまでも無い。例えば、電子レンズのポールピースギャップ間に浮遊磁場が存在していると見なせるときには、ギャップ長さGを浮遊磁場の存在領域lに置き換えて、式(17)から浮遊磁場ΔBの強度を求めても良い。その他、電子線装置内の浮遊磁場の存在領域を大まかに特定できる任意のパラメータを式(17)の存在領域lの代わりに用いて式(18)相当の演算式を得ても良い。
【0063】
本発明により浮遊磁場の測定を行う手順を、図5にフローチャートとして示す。それぞれを説明する。なお、必要な情報は観測者がコンピュータのモニタ画面などを通じて予め入力し、記憶手段に記録されているものとする。
(ステップ1):格子像観察条件、例えば、電子線の波長、格子間隔、観察条件(フォーカスはずれ量、記録時の倍率など)を定める。
(ステップ2):観測者が必要に応じて装置を操作し、装置の光学系をステップ1で定めた観察条件に合わせる。
(ステップ3):試料中のアモルファス部の画像を格子像観察と同条件にて観察し、その画像を記録媒体や記録装置に記録する。
(ステップ4):得られたアモルファス部の画像より、画像のノイズレベルを決定する。これには例えば、画像のフーリエ変換などを利用して装置が自動的に決定してもよい。
(ステップ5):光学系をステップ1で定めた観察条件に合わせる。
(ステップ6):格子像を観察し、その画像を記録媒体や記録装置に記録する。
(ステップ7):格子像のコントラストを評価する。
(ステップ8):ステップ4で求めた画像のノイズレベルと比較する。
(1)ノイズレベルより格子像のコントラストの方が大きいとき(Yes)→試料をレンズ主面からさらに移動させるための移動量を定め(ステップ9)→試料を移動させる(ステップ10)→ステップ5に戻る。
(2)ノイズレベルより格子像のコントラストの方が大きくないとき(No)→ステップ11へすすむ。
(ステップ11):試料位置、もしくはここまでに試料を移動させてきた移動量の積分値を元に、レンズ主面から試料までの距離alimを算出し、その結果を記録装置に記録する。
(ステップ12):式(18)に基づき、浮遊磁場量ΔBを求め、記録装置に記録する。
(ステップ13):ステップ10で求めた浮遊磁場量ΔBをモニタに表示する。
(ステップ14):一連の測定を終了する。
【0064】
図5のフローチャートは、ステップ1の条件設定、ステップ8等の判定など、実験者がモニタ画面を見ながら必要な情報を装置に入力することで実現される。なお、図5のフローチャートに基づき、浮遊磁場ΔBを自動測定するシステムを構築することも可能である。すなわち、一連の測定を装置が自動的に行うものとしても良い。
<6.浮遊磁場の評価精度>
本発明の手法が、どの程度浮遊磁場に対して感度を持っているか評価してみる。式(17)もしくは式(18)の係数h/2eはちょうど超伝導磁束量子1個の保持する磁束量(Φ0 = 2×10-15Wb(ウェーバー))に対応している。また、電子線の波長λと格子間隔dの比λ/dは、およそ1/50〜1/100程度の値となる。すなわち、評価可能な浮遊磁場の強度ΔBは、1個の磁束量子が浮遊磁場の存在領域lを定める面積(例えば浮遊磁場の存在領域lを対物レンズの焦点距離f程度とすると、f2〜3 mm2)に存在する場合に対応する。これは大変に弱い磁場に相当する(例えば、地磁気3×10-5Wb/m2(= 0.3G(ガウス))は、磁束量子の面密度に直すと15000個/mm2に対応する)。従って本手法が、地磁気の1/105以下の弱磁場に対して評価可能な方法であることがわかる。
<電子線装置>
図6に、本発明に関するシステムとしての電子線装置の全体を模式的に示す。図6は、汎用型の透過型電子顕微鏡を用いる場合を想定した模式図であるが、本発明はこの模式図に記載の形態に限るものではない。
【0065】
電子源1が電子線の流れる方向の最上流部に位置し、電子源1を射出した電子線は加速管40にて所定の速度の電子線とされた後、照射光学系4(第1の照射(コンデンサ)レンズ41、第2の照射(コンデンサ)レンズ42を経て試料3に照射される。試料3は、可動式の試料保持機構38に設置されており、試料の制御ユニット39により光軸方向における試料の位置、すなわち試料とレンズ主面との距離aが調節される。試料3を透過した電子線は回折波の選択などの処理が対物絞り92にて行われ、電子線の進行方向に試料3よりも下流側の対物レンズ5にて結像される。この結像作用は、対物レンズ5よりも下流側の複数の結像レンズ系(第1の結像レンズ61、第2の結像レンズ62、第3の結像レンズ63、第4の結像レンズ64)に引き継がれ、最終的に電子線装置の観察・記録面89に干渉縞8が結像される。電子線装置の観察・記録面89に対応して画像観察・記録媒体79が設けられている。後で詳細に述べるように、制御系コンピュータ51は、装置全体を制御し、試料像の観察や浮遊磁場の測定を行うための情報処理装置として機能するものであり、この情報処理装置が試料位置(試料とレンズ主面との距離)aを変更することで、観察・記録面89に結像された像、すなわち格子像あるいは干渉縞8は、画像観察・記録装置に記録される。すなわち、格子像あるいは干渉縞8は、制御ユニット78で制御される電子顕微鏡フィルムやCCDカメラなど画像観察・記録媒体79を通じて画像記録装置77に記録される。
【0066】
なお、可動式の試料保持機構38は、例えばネジのピッチを利用した回転式機構(特許文献1参照)でもよいし、圧電素子を用いた機構でもよい。回転機構の場合は、回転角度が試料位置aを与え、圧電素子機構の場合は、印加電圧より試料位置aを知ることとなる。
【0067】
電子源1、加速管40への印加電圧、試料3の位置、および各電子レンズの励磁状態などは、装置全体を制御する情報処理装置である制御系コンピュータ51及びこれに接続された各ユニットの制御系、すなわち電子源の制御ユニット19、加速管の制御ユニット49、第1の照射レンズの制御ユニット48、第2の照射レンズの制御ユニット47、試料の制御ユニット39、対物レンズの制御ユニット59、対物絞りの制御ユニット97、第1の結像レンズの制御ユニット69、第2の結像レンズの制御ユニット68、第3の結像レンズの制御ユニット67、第4の結像レンズの制御ユニット66、画像観察・記録媒体の制御ユニット78でコントロールされている。52は制御系コンピュータのモニタ、76は画像観察・記録装置77のモニタである。
【0068】
なお、実際の装置では、この模式図で示した他に、電子線の進行方向を変化させる偏向系、電子線の透過する領域を制限する対物絞り92以外の絞り機構などが存在し、それらの装置もまたコンピュータ51に接続された制御系でコントロールされている。
【0069】
制御系コンピュータ51は、試料位置の制御のために必要な制御パラメータ値等をGUI等で入力する入力装置53、演算手段、及び電子顕微鏡の観測条件探索あるいは動作制御のために必要となる情報を格納する記憶手段、例えばメモリや各種ストレージ装置、表示モニタを含む出力装置を備えている。記憶手段に格納される情報としては、装置が格子像観察に必要な条件を決定するのに必要な情報、例えば、試料の材料や観察条件関する情報などである。更に、上記の情報の探索あるいは動作制御を実行するための各種のソフトウェアが格納されており、演算手段によりこれらのソフトウェアが実行される。
【0070】
これらのソフトウェアには、照射光学系、試料保持装置、結像レンズ系及び画像観察・記録装置を制御し、図5のフローチャート等に基づく一連の演算処理を実行し、制御系コンピュータ51を、浮遊磁場の測定を行うための情報処理装置として機能させるプログラムも含まれている。
【0071】
浮遊磁場の測定を行う場合、情報処理装置は、試料を電子線の光軸上で複数の位置に移動させ、各々の位置において得られる試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化から、当該装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を測定するように機能する。
【0072】
すなわち、浮遊磁場測定を行う場合、情報処理装置は、格子像観察光学系を制御すると共に、試料保持機構を制御して試料を電子線の光軸上の複数の位置に移動させたときに画像観察・記録装置により得られる各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化を求め、最小距離alimを測定し、演算手段において式(17)あるいは式(18)により、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を算出し、モニタ52に表示する機能を実行する。この場合、浮遊磁場を算出するための式(17)中の浮遊磁場の存在領域lは、前記したように、対物レンズ5の焦点距離fやポールピースギャップ長さなど、図6にLBで表示した磁場の残存する範囲を特定して、適宜設定し、式(18)に代わるものとして採用しても良い。
【0073】
また、画像のノイズレベルの設定や格子像のコントラストの観察・評価は、例えば、実験者がモニタ76に表示される画像を見ながら行っても良い。
【0074】
実験者は、モニタに表示された浮遊磁場の算出結果に基き、電子線装置に対して必要な磁場遮蔽対策を施し、以降の電子線装置の本来の計測に備える。
【0075】
なお、偏向系や、電子線の透過する領域を制限する対物絞り92以外の絞り機構については、本発明には直接の関係が無いので、この図では割愛する。なお、この模式図に示すごとく電子光学装置は真空容器18中に組み立てられ、真空ポンプにて継続的に真空排気されているが、真空系についても本発明とは直接の関係がないため割愛する。
【実施例1】
【0076】
本発明の第一の実施例として、電子線装置における暗視野格子像観察光学系の具体的な構成例及びそれを用いた浮遊磁場の測定方法を、図7で説明する。
図7に、本発明を実施する場合の暗視野格子像観察光学系の模式図を示す。簡単のため、光軸2に対称な二波のみが結像に寄与するような対物絞り92、ビームストッパー93が、対物レンズ5の後側焦点面36に挿入されている様子を示している。図7のAは、例えば通常の試料位置に結晶性試料3をセットし、ブラッグ回折を受けた多波を対物レンズ5に取り込み、対物絞り92、ビームストッパー93にて選択された二波を結像し、対物レンズの像面71に生じた干渉縞8(格子像)を、さらに電子線の進行方向下流側の結像レンズ61にて、拡大することを表わした模式図である。72は第1の結像レンズ61による試料の像面を示している。結像レンズ61は、浮遊磁場測定に伴う結晶性試料3の移動に伴い結晶性試料3と対物レンズ5の距離が変化したことに伴う試料倍率の補正を行う。
【0077】
図7のBは、図7のAの光学系において試料の位置を光軸2に沿って、電子線の光源側に移動させたときの模式図である。ブラッグ角(θ = λ/d)は、電子線の波長λと結晶の格子間隔dのみによって定まるため、対物レンズ近傍での回折波は図7のAの場合と比較して空間的に広がっている。すなわち、格子像8に与える浮遊磁場ΔBの影響の大きさは、回折波に囲まれた閉空間の大きさ(式(15)の面積S)に依存し、これは幾何学的に一意に定まる。
【0078】
光学系中の浮遊磁場の領域24に残存する浮遊磁場ΔBの大きさは、格子像8のコントラストの劣化として、直接的に観察・測定できる。
【0079】
情報処理装置は、試料を前記電子線の光軸上で複数の位置に移動させ、各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化に基き、演算手段により、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場ΔBを算出し、モニタに表示する。
【0080】
図7の例では、試料位置を光源側に移動させているが、パラメータに変化を与えるだけならば、対物レンズによる結像が可能であれば試料位置はレンズ側に移動させてもよい。一般に高分解能観察時には、試料位置は対物レンズの前側焦点位置のわずかだけ光源側に配置されるため、図7のように試料位置を光源側に移動させる方がパラメータを大きく変更できる。
【0081】
また、試料位置を光源側に移動させたことによる対物レンズの倍率の減少分を、対物レンズより電子線の進行方向下流側の結像レンズ系の倍率を増大させることによって補い、最終的に記録される格子像の倍率を一定にする。これは、記録系の性能(例えば、MTF(Modulation Transfer Function))の影響を小さくするための施策である。図7のBでは、倍率一定を示すため、結像レンズ61の位置を変更して描いているが、実際の電子顕微鏡においては、結像レンズ61の焦点距離を変更することによって同等の効果を得ている。
【0082】
格子像観察光学系においては、透過波と回折波など光軸に対する伝播角度の異なる複数の波が干渉にかかわるため、対物レンズの球面収差、色収差の影響、フォーカスはずれ量の影響が干渉縞(格子像)に重畳される。しかし、本実施例1(図7)では、光軸2に対称な二波のみを対物絞り92とビームストッパー93にて選択して結像に用いているため、両波間での収差の影響は相殺される。そのため、図8と比較したときには、誤差の少ない測定結果を得ることができる。但し、フォーカスはずれ量は式(8)で定める値とする。
【0083】
本実施例によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策を施した場合にはその対策の有効性の程度を測定・評価し、適切な磁場遮蔽を実施することが可能となる。
【実施例2】
【0084】
本発明の第二の実施例として、電子線装置における格子像観察光学系の具体的な構成例を図8、及びそれを用いた浮遊磁場の測定例を、図9〜図10で説明する。
【0085】
図8に、本発明を実施する場合の光学系の構成例を示す。図7の例に対して、ビームストッパー93を用いない。その他の関係は図7と全く同様である。
図8のA、Bは、例えば通常の試料位置に結晶性試料3をセットし、ブラッグ回折を受けた多波(三波)を対物レンズ5によって結像し、対物レンズの像面71に生じた干渉縞8(格子像)を、さらに電子線の進行方向下流側の結像レンズ61にて、拡大することを表わした模式図である。光学系中の浮遊磁場の領域24に残存する浮遊磁場ΔBの大きさは、格子像8のコントラストの劣化として、直接的に観察・測定できる。
【0086】
浮遊磁場測定を行う場合、情報処理装置は、画像観察・記録装置により得られる各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化に基き、演算手段において式(18)等により、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場ΔBを算出し、モニタに表示する。
【0087】
図8の例では、ビームストッパー93を用いないため、通常の試料像の観察時の高分解能像観察と全く同じ観察条件で、浮遊磁場を測定できる利点がある。その反面、対物レンズの球面収差、色収差の影響、フォーカスはずれ量の影響が干渉縞(格子像)に重畳されるので観察される格子像の縞間隔s、方位、コントラストには十分な注意が必要である。すなわち、複数の波の干渉がかかわるため、多波結像では式(18)による評価には誤差が大きくなる傾向がある。しかし、観察条件が揃えば浮遊磁場ΔBの大きさに関する相対的な判断は誤らない。
【0088】
図9(図9A、図9B)に、図8を実施した実験結果の一例を示す。図9Aは、図8Aのように、試料位置を通常の高分解能観察位置(a0 = 2.4 mmフォント変更のみ)より0.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 0.6 mm)の縞間隔72pmの格子像、図9Bは試料位置を通常の高分解能観察位置より3.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 3.6 mm)の縞間隔72pmの格子像である。さらに試料位置を、2mm光源側に移動したとき(Δa = 5.6 mm)には、縞間隔72pmの格子像は観察されなかった。これよりalim = 8 mm、浮遊磁場の存在領域lが対物レンズの焦点距離(f = 1.6 mm)程度とすると、格子像を形成させた二波の方位と垂直方向に、浮遊磁場が磁束密度1×10-9Wb/m2(= 1×10-5G)程度残存していると評価できる。但し、この評価では、先述のとおり、球面収差等の影響を無視している。なお、試料には金の単結晶薄膜を用い、電子線の加速電圧は400kVで実験を行った。
【0089】
図10には、図9での実験の後、磁場遮蔽対策を実施し、その後で行った図9と同様の実験結果の一例を示す。同じ金の結晶薄膜を用い、同じ加速電圧(400kV)での実験であるが、試料位置を通常の高分解能観察位置(a0 = 2.4 mmフォント変更のみ)より5.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 5.6 mm)、すなわちa = 8 mmでも縞間隔72pmの格子像は観察された。この結果から、浮遊磁場の影響が軽減していることがわかる。磁場遮蔽対策の効果の現れである。
【0090】
本実施例によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策の有効性の程度を測定・評価し、適切な磁場遮蔽を実施することが可能となる。
【実施例3】
【0091】
本発明の第三の実施例として、ビームストッパーの回転による浮遊磁場の方位角依存性の測定方式の具体的な構成例及びそれを用いた浮遊磁場の測定方法を、図11で説明する。
図11は、対物レンズ5の後側焦点面36に挿入するビームストッパー93を、光軸2を中心軸として回転させる場合の模式図である。試料位置の変更や、対物レンズの下段の結像レンズ系については割愛している。
【0092】
【数20】
【0093】
結晶体では全方位にブラッグ回折波が発生しているが、回折波は離散的にしか存在しないため、細かく浮遊磁場ΔBの方位依存性を測定することはできない。それでも測定される浮遊磁場ΔBの方位は、およそ平板状ビームストッパー93の長方向に一致する。なお、本図では電子レンズを光学ガラスレンズのごとく描いているが、これは模式図であり、電子レンズによる光軸2を中心とした電子線の回転に伴う像の回転についても割愛している。この作図上の省略は、他の図についても同様である。
【0094】
浮遊磁場測定を行う場合、情報処理装置は、画像観察・記録装置により得られる各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化に基き、最小距離alimを測定し、演算手段において、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場ΔBを算出し、モニタに表示する。
【0095】
本実施例によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策の有効性の程度を測定・評価し、適切な磁場遮蔽を実施することが可能となる。
【実施例4】
【0096】
本発明の第四の実施例として、試料とビームストッパーの回転による浮遊磁場の方位角依存性の測定方式の具体的な構成例及びそれを用いた浮遊磁場の測定方法を、図12で説明する。
【0097】
図12は、試料3と対物レンズ5の後側焦点面36に挿入するビームストッパー93とを共に光軸2を中心軸として回転させる場合の模式図である。
【0098】
【数21】
【0099】
このように、試料とビームストッパーの両方を同時に回転させることによって、遊磁場ΔBの方位角依存性を詳細に測定することが可能となる。実施例3で、回折波が空間中で離散的にしか存在していないため、浮遊磁場ΔBの方位についても離散的にしか測定できないことを述べたが、その欠点に対する解決策である。
【0100】
【数22】
【0101】
浮遊磁場測定を行う場合、情報処理装置は、画像観察・記録装置により得られる各々の位置における試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化に基き、演算手段において、装置内における試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場ΔBを算出し、モニタに表示する。
【0102】
本実施例によれば、試料観察時と同じ結像光学系、および光学条件において、浮遊磁場の影響を定量的かつ高精度に計測することが可能となり、光学系内に残存する浮遊磁場が観察像に与えている影響の程度、該浮遊磁場への対策の有効性の程度を測定・評価し、適切な磁場遮蔽を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の原理に関し、暗視野格子像の結像光学系を示す模式図である。
【図2】本発明の原理に関し、電子軌道と波面の関係を示す模式図である。
【図3】本発明の原理に関し、浮遊磁場による回折電子線の軌道の変化を示す模式図である。
【図4】本発明の原理に関し、試料位置の変更による回折電子線の軌道の変化を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態になる浮遊磁場測定の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明が適用される電子線装置の一例の概要を示す模式図である。
【図7】本発明の実施例1として、暗視野格子像観察光学系を用いた場合の手法を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例2として、図6の装置において、格子像観察光学系を用いた場合の手法を示す模式図である。
【図9A】実施例2において、本発明の手法を用い、通常の高分解能観察位置より0.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 0.6 mm)の実験結果を示す図である。
【図9B】実施例2において、本発明の手法を用い、通常の高分解能観察位置より3.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 3.6 mm)の実験結果を示す図である。
【図10】実施例2において、磁場遮蔽対策後の格子像観察光学系を用い、通常の高分解能観察位置より5.6mm光源側に移動させたとき(Δa = 5.6 mm)の、実験結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例3として、ビームストッパーを光軸を中心軸として回転させるときの手法を示す模式図である。
【図12】本発明の実施例4として、試料とビームストッパーを光軸を中心軸として回転させるときの手法を示す模式図である。
【図13】従来から知られている磁場(ローレンツ力)による電子線の偏向の原理を示す模式図である。
【図14A】磁場による電子線の偏向の従来の測定の方法(測定の状況)を示す模式図である。
【図14B】磁場による電子線の偏向の従来の測定の方法(測定の結果)を示す模式図である。
【符号の説明】
【0104】
1…電子源、10…電子源の像、11…対物レンズにより結像された電子源の像(クロスオーバー)、12…第1の結像レンズにより結像されたクロスオーバーの像、15…対物レンズにより結像されたクロスオーバーの虚像、18…真空容器、19…電子源の制御ユニット、2…光軸、22…電子線の波面、24…浮遊磁場の領域、25…磁場により円弧軌道を描く電子線の回転中心、26…磁場の領域、27…電子線の軌道、3…試料、36…対物レンズの後側焦点面、38…試料保持機構、39…試料の制御ユニット、4…照射光学系、40…加速管、41…第1の照射(コンデンサ)レンズ、42…第2の照射(コンデンサ)レンズ、47…第2の照射レンズの制御ユニット、48…第1の照射レンズの制御ユニット、49…加速管の制御ユニット、5…対物レンズ、51…制御系コンピュータ、52…制御系コンピュータのモニタ、53…制御系コンピュータのインターフェース、59…対物レンズの制御ユニット、61…第1の結像レンズ、62…第2の結像レンズ、63…第3の結像レンズ、64…第4の結像レンズ、66…第4の結像レンズの制御ユニット、67…第3の結像レンズの制御ユニット、68…第2の結像レンズの制御ユニット、69…第1の結像レンズの制御ユニット、71…対物レンズによる試料の像面、72…第1の結像レンズによる試料の像面、76…画像観察・記録装置のモニタ、77…画像記録装置、78…画像観察・記録媒体の制御ユニット、79…画像観察・記録媒体、8…格子像あるいは干渉縞、89…観察・記録面、92…対物絞り、93…ビームストッパー、97…対物絞りの制御ユニット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記試料像を観察あるいは記録するための画像観察・記録装置とを有する電子線装置であって、
前記照射光学系、前記試料保持装置、前記結像レンズ系及び前記画像観察・記録装置を制御する情報処理装置を備え、
前記試料を前記電子線の光軸上で複数の位置に移動させ、前記各々の位置において得られる前記試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化から、当該装置内における前記試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を測定することを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記試料の像とは結晶格子像であって、前記像コントラストの変化とは、該格子像のコントラストが所定のレベルよりも小さくなる状態であることを特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項2において、
該格子像コントラストが比較判断される所定のレベルを定めるのは、前記試料のアモルファス部分が作る像のコントラストであり、前記格子像にとってのノイズであることを特徴とする電子線装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記情報処理装置は、
該装置内部の浮遊磁場をΔBとし、
電子の電荷をeとし、
プランク定数をhとし、
前記電子線の波長をλとし、
前記試料として用いる結晶の観察される格子間隔をdとし、
測定対象となす電子レンズの焦点距離をfとし、
測定対象となす電子レンズの主面と試料との距離が変更可能であり格子像が観察されない最小距離をalimとするとき、
前記浮遊磁場を下記の式(18)により評価することを特徴とする電子線装置。
【数1】
【請求項5】
請求項1において、
前記情報処理装置は、
前記試料の格子像観察条件を設定する機能と、
当該装置の光学系を所定の観察条件に合わせる機能と、
前記試料中のアモルファス部の画像を格子像観察と同条件にて観察し、それらの画像を記録する機能と、
得られた前記アモルファス部の画像より、該画像のノイズレベルを決定する機能と、
前記格子像を観察し、該画像を記録する機能と、
前記格子像のコントラストを評価する機能と、
前記求めた画像のノイズレベルと比較し、前記ノイズレベルより前記格子像のコントラストの方が大きいときは前記試料をレンズ主面からさらに移動させるための移動量を定め、前記試料保持機構を制御して前記試料を移動させて前記画像の観察、記録、評価及び比較を繰り返し、前記ノイズレベルより前記格子像のコントラストの方が大きくないときは、前記結像レンズ系のレンズ主面から前記試料までの距離を算出し、記録する機能と、
前記算出された距離に基づき、前記浮遊磁場を評価する機能とを有することを特徴とする電子線装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記格子像及び前記浮遊磁場の評価結果をモニタに表示することを特徴とする電子線装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記結像レンズ系は、対物レンズと該対物レンズの像面に生じた前記格子像を前記電子線の進行方向下流側で拡大する一つもしくは複数の結像レンズを備えたことを特徴とする電子線装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記試料の結像に際して、絞りを用いて透過波、もしくは散乱波を選択することを特徴とする電子線装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記光軸に垂直な平面内で、該光軸を軸として前記絞りを回転させることを特徴とする電子線装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記光軸に垂直な平面内で、該光軸を軸として前記試料を回転させることを特徴とする電子線装置。
【請求項11】
電子線の光源と、
前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、
前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持機構と、
前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、
前記試料像を観察あるいは記録するための画像観察・記録装置と、
前記照射光学系、前記試料保持装置、前記結像レンズ系及び前記画像観察・記録装置を制御する情報処理装置とを備えており、
前記情報処理装置は、
前記試料を、同一光源から出発した電子線を少なくとも2つの波に振幅分割し異なる軌道を経由させるための回折格子として用い、
前記少なくとも2つの波を干渉結像させる際に前記各波の経路が包む空間内に存在する時間的に変動する浮遊磁場によって生じる位相差の揺らぎを干渉縞のコントラストの劣化として評価することを特徴とする電子線装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記試料と試料より電子線の進行方向下流側1番目にある前記結像レンズ系のレンズの主面との距離を変更し、
前記試料のおのおのの位置で前記少なくとも2つの波で構成される干渉縞を観察し、そのコントラストの変化の具合から当該干渉縞を形成するに至った前記少なくとも2つの電子線の経路中に存在する前記浮遊磁場の揺らぎの程度を測定することを特徴とする電子線装置。
【請求項13】
請求項12において、
該装置内部の浮遊磁場をΔBとし、
電子線の電荷をeとし、
プランク定数をhとし、
電子線の波長をλとし、
試料として用いる結晶の観察される格子間隔をdとし、
前記浮遊磁場の存在領域をlとし、
前記試料と前記レンズ主面との距離を変化させながら干渉縞の観察を行い、干渉縞のコントラストが失われるときの前記試料と前記レンズ主面との距離alimを求め、下記の式(17)より浮遊磁場ΔBの強度を得ることを特徴とする電子線装置。
【数2】
【請求項14】
請求項13において、
前記式(17)中の存在領域lを、測定対象となす前記結像レンズ系の前記電子レンズの焦点距離fに置き換えて、前記浮遊磁場ΔBの強度を得ることを特徴とする電子線装置。
【請求項15】
請求項13において、
前記式(17)中の存在領域lを、測定対象となす前記結像レンズ系の前記電子レンズのポールピースギャップ長さGに置き換えて、前記浮遊磁場ΔBの強度を得ることを特徴とする電子線装置。
【請求項16】
請求項11において、
前記結像レンズ系の前記電子レンズの後側焦点面に挿入され、二波の電子線のみを結像に寄与させる対物絞り及びビームストッパーを備えたことを特徴とする電子線装置。
【請求項17】
電子線装置内の浮遊磁場測定方法であって、
前記電子線装置は、電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持機構と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記試料像を観察あるいは記録するための画像観察・記録装置と、前記照射光学系、前記試料保持装置、前記結像レンズ系及び前記画像観察・記録装置を制御する情報処理装置とを備ており、
前記試料を電子線の光軸上複数の位置に移動させ、
前記の各々の位置において得られる前記試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化から、前記試料と前記試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を測定し、
前記浮遊磁場の測定結果をモニタに表示することを特徴とする電子線装置における浮遊磁場測定方法。
【請求項18】
請求項17において、
前記試料の像とは結晶格子像であって、前記像コントラストの変化とは、該格子像のコントラストが所定のレベルよりも小さくなる状態であることを特徴とする電子線装置における浮遊磁場測定方法。
【請求項19】
請求項17において、
該装置内部の浮遊磁場をΔBとし、
電子の電荷をeとし、
プランク定数をhとし、
電子線の波長をλとし、
試料として用いる結晶の観察される格子間隔をdとし、
測定対象となす電子レンズの焦点距離をfとし、
測定対象となす電子レンズの主面と試料との距離が変更可能であり格子像が観察されない最小距離をalimとするとき、
前記浮遊磁場を下記の式(18)により評価することを特徴とする電子線装置における浮遊磁場測定方法。
【数3】
【請求項20】
請求項17において、
試料より電子線の進行方向下流側1番目にある前記結像レンズ系のレンズの後側焦点面に挿入されたビームストッパーを前記光軸を中心軸として回転させる、もしくは前記試料と前記ビームストッパーとを共に前記光軸を中心軸として回転させて前記浮遊磁場を測定することを特徴とする電子線装置における浮遊磁場測定方法。
【請求項1】
電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記試料像を観察あるいは記録するための画像観察・記録装置とを有する電子線装置であって、
前記照射光学系、前記試料保持装置、前記結像レンズ系及び前記画像観察・記録装置を制御する情報処理装置を備え、
前記試料を前記電子線の光軸上で複数の位置に移動させ、前記各々の位置において得られる前記試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化から、当該装置内における前記試料と試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を測定することを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記試料の像とは結晶格子像であって、前記像コントラストの変化とは、該格子像のコントラストが所定のレベルよりも小さくなる状態であることを特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項2において、
該格子像コントラストが比較判断される所定のレベルを定めるのは、前記試料のアモルファス部分が作る像のコントラストであり、前記格子像にとってのノイズであることを特徴とする電子線装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記情報処理装置は、
該装置内部の浮遊磁場をΔBとし、
電子の電荷をeとし、
プランク定数をhとし、
前記電子線の波長をλとし、
前記試料として用いる結晶の観察される格子間隔をdとし、
測定対象となす電子レンズの焦点距離をfとし、
測定対象となす電子レンズの主面と試料との距離が変更可能であり格子像が観察されない最小距離をalimとするとき、
前記浮遊磁場を下記の式(18)により評価することを特徴とする電子線装置。
【数1】
【請求項5】
請求項1において、
前記情報処理装置は、
前記試料の格子像観察条件を設定する機能と、
当該装置の光学系を所定の観察条件に合わせる機能と、
前記試料中のアモルファス部の画像を格子像観察と同条件にて観察し、それらの画像を記録する機能と、
得られた前記アモルファス部の画像より、該画像のノイズレベルを決定する機能と、
前記格子像を観察し、該画像を記録する機能と、
前記格子像のコントラストを評価する機能と、
前記求めた画像のノイズレベルと比較し、前記ノイズレベルより前記格子像のコントラストの方が大きいときは前記試料をレンズ主面からさらに移動させるための移動量を定め、前記試料保持機構を制御して前記試料を移動させて前記画像の観察、記録、評価及び比較を繰り返し、前記ノイズレベルより前記格子像のコントラストの方が大きくないときは、前記結像レンズ系のレンズ主面から前記試料までの距離を算出し、記録する機能と、
前記算出された距離に基づき、前記浮遊磁場を評価する機能とを有することを特徴とする電子線装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記格子像及び前記浮遊磁場の評価結果をモニタに表示することを特徴とする電子線装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記結像レンズ系は、対物レンズと該対物レンズの像面に生じた前記格子像を前記電子線の進行方向下流側で拡大する一つもしくは複数の結像レンズを備えたことを特徴とする電子線装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記試料の結像に際して、絞りを用いて透過波、もしくは散乱波を選択することを特徴とする電子線装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記光軸に垂直な平面内で、該光軸を軸として前記絞りを回転させることを特徴とする電子線装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記光軸に垂直な平面内で、該光軸を軸として前記試料を回転させることを特徴とする電子線装置。
【請求項11】
電子線の光源と、
前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、
前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持機構と、
前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、
前記試料像を観察あるいは記録するための画像観察・記録装置と、
前記照射光学系、前記試料保持装置、前記結像レンズ系及び前記画像観察・記録装置を制御する情報処理装置とを備えており、
前記情報処理装置は、
前記試料を、同一光源から出発した電子線を少なくとも2つの波に振幅分割し異なる軌道を経由させるための回折格子として用い、
前記少なくとも2つの波を干渉結像させる際に前記各波の経路が包む空間内に存在する時間的に変動する浮遊磁場によって生じる位相差の揺らぎを干渉縞のコントラストの劣化として評価することを特徴とする電子線装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記試料と試料より電子線の進行方向下流側1番目にある前記結像レンズ系のレンズの主面との距離を変更し、
前記試料のおのおのの位置で前記少なくとも2つの波で構成される干渉縞を観察し、そのコントラストの変化の具合から当該干渉縞を形成するに至った前記少なくとも2つの電子線の経路中に存在する前記浮遊磁場の揺らぎの程度を測定することを特徴とする電子線装置。
【請求項13】
請求項12において、
該装置内部の浮遊磁場をΔBとし、
電子線の電荷をeとし、
プランク定数をhとし、
電子線の波長をλとし、
試料として用いる結晶の観察される格子間隔をdとし、
前記浮遊磁場の存在領域をlとし、
前記試料と前記レンズ主面との距離を変化させながら干渉縞の観察を行い、干渉縞のコントラストが失われるときの前記試料と前記レンズ主面との距離alimを求め、下記の式(17)より浮遊磁場ΔBの強度を得ることを特徴とする電子線装置。
【数2】
【請求項14】
請求項13において、
前記式(17)中の存在領域lを、測定対象となす前記結像レンズ系の前記電子レンズの焦点距離fに置き換えて、前記浮遊磁場ΔBの強度を得ることを特徴とする電子線装置。
【請求項15】
請求項13において、
前記式(17)中の存在領域lを、測定対象となす前記結像レンズ系の前記電子レンズのポールピースギャップ長さGに置き換えて、前記浮遊磁場ΔBの強度を得ることを特徴とする電子線装置。
【請求項16】
請求項11において、
前記結像レンズ系の前記電子レンズの後側焦点面に挿入され、二波の電子線のみを結像に寄与させる対物絞り及びビームストッパーを備えたことを特徴とする電子線装置。
【請求項17】
電子線装置内の浮遊磁場測定方法であって、
前記電子線装置は、電子線の光源と、前記光源から放出される電子線を試料に照射するための照射光学系と、前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持機構と、前記試料の像を結像するための結像レンズ系と、前記試料像を観察あるいは記録するための画像観察・記録装置と、前記照射光学系、前記試料保持装置、前記結像レンズ系及び前記画像観察・記録装置を制御する情報処理装置とを備ており、
前記試料を電子線の光軸上複数の位置に移動させ、
前記の各々の位置において得られる前記試料の像コントラスト、もしくは該像コントラストの変化から、前記試料と前記試料像観察面までの電子線の通過経路上に存在する浮遊磁場を測定し、
前記浮遊磁場の測定結果をモニタに表示することを特徴とする電子線装置における浮遊磁場測定方法。
【請求項18】
請求項17において、
前記試料の像とは結晶格子像であって、前記像コントラストの変化とは、該格子像のコントラストが所定のレベルよりも小さくなる状態であることを特徴とする電子線装置における浮遊磁場測定方法。
【請求項19】
請求項17において、
該装置内部の浮遊磁場をΔBとし、
電子の電荷をeとし、
プランク定数をhとし、
電子線の波長をλとし、
試料として用いる結晶の観察される格子間隔をdとし、
測定対象となす電子レンズの焦点距離をfとし、
測定対象となす電子レンズの主面と試料との距離が変更可能であり格子像が観察されない最小距離をalimとするとき、
前記浮遊磁場を下記の式(18)により評価することを特徴とする電子線装置における浮遊磁場測定方法。
【数3】
【請求項20】
請求項17において、
試料より電子線の進行方向下流側1番目にある前記結像レンズ系のレンズの後側焦点面に挿入されたビームストッパーを前記光軸を中心軸として回転させる、もしくは前記試料と前記ビームストッパーとを共に前記光軸を中心軸として回転させて前記浮遊磁場を測定することを特徴とする電子線装置における浮遊磁場測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【公開番号】特開2010−153315(P2010−153315A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332897(P2008−332897)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、電子ビームの高輝度化・単色化に関する要素技術の開発(高分解能観察と環境要因に関する研究) 委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、電子ビームの高輝度化・単色化に関する要素技術の開発(高分解能観察と環境要因に関する研究) 委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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