説明

電子線装置の自動補正方法、コンピュータプログラム、記録媒体及び電子線装置

【課題】特にアライメント補正用のパターンを備えた試料でなくても、自動的にアライメント補正が行える場合にはアライメント補正を自動的に行えるようにする。
【解決手段】電子線装置の補正に際して、対物レンズの励磁状態に対応した複数のパターン像データを取得するパターン像データ取得ステップ(ST11)と、観察領域のシフト量を求めるシフト量取得ステップとパターン像データが前記観察領域でレンズアライメントの補正に適しているかを判定する補正適否判定ステップ(ST13,16)と、前記シフト量取得ステップで求めたシフト量に基づいてレンズアライメント補正を実行する必要があるかどうかを判定する補正実行判定ステップと(ST18)、前記シフト量からアライメント補正量を求める補正量算出ステップ(ST19)と、前記アライメント補正量に基づいてアライメント補正を行うアライメント補正ステップ(ST20)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子線装置の自動補正方法、コンピュータプログラム、記録媒体及び電子線装置に係り、特に試料上の観察対象領域に電子線を照射して試料から発生する電子により試料像を形成する電子線装置の自動調整方法、コンピュータプログラム、記録媒体及び電子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子線装置として、電子線を偏向器で走査すると共に対物レンズで半導体基板やフォトマスク等の試料に収束させて照射し、試料から発生する二次電子線などの荷電粒子を検出器で検出し、走査用の同期信号発生器の情報に基づいて試料像を取得し、この試料像から半導基板等の評価を行う基板観察装置が知られている。
【0003】
このような電子線装置にあっては、レンズのアライメント補正、非点収差補正、及び、焦点調整が正しく行われていないと、得られる画像の精度が悪化する。このため、従来、電子線装置においては、非点収差補正及び焦点調整(オートフォーカス)については自動調整が行われている。
自動調整を行う場合には、調整する対象、即ち、アライメント補正を行うアライメントコイル、非点収差補正を行うスティグコイル、焦点調整を行う対物レンズから所定のコイル、レンズを選択し、選択された調整対象に印加する電圧等を変化させることにより、試料を走査して画像を取得し、この画像の良否に基づいて選択された調整項目の調整を行っていた。
【0004】
上述のような自動調整を行うものとして以下のものがある。特許文献1には、試料上に照射される電子ビームを細く集束するための集束レンズと、電子ビームを試料上でX方向とY方向へ二次元的に走査するための偏向手段と、電子ビーム通路に配置されたXY方向の非点収差補正装置とを備えた電子ビーム装置において、試料上で二次元的に電子ビームを走査し、この走査によって得られた信号を積分するステップ、この電子ビーム走査を対物レンズの励磁強度を変化させながら多数回行うステップ、対物レンズの励磁強度の変化に伴う非点存在時における積分値の変化曲線の2つのピークの中心とピークとの間のフォーカスのずれ量Dを求めるステップ、このずれ量Dに応じて予め記憶された非点補正装置に供給する複数の非点補正値のうち、求められたずれ量Dに対応した非点補正値を読み出すステップ、各非点補正値を非点収差補正装置に供給してその都度電子ビームを走査し、この走査によって得られた信号を積分するステップ、非点補正の変化に伴う積分値の変化曲線のピーク時における非点補正値を非点収差補正装置にセットするステップよりなる電子ビーム装置における非点収差補正方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、電子線を偏向手段により偏向して走査し、任意の形状をなす試料上から発生する荷電粒子を検出して試料像を得るステップ、この走査を対物レンズの励磁強度を変化させながら得られる試料像に対し、任意の形状をなす試料形状の所定の方向におけるエッジ成分の鮮鋭度を求めるステップ、更に対物レンズの励磁強度の変化と得られた所定の方向ごとの鮮鋭度をもとに、所定の方向ごとにおける対物レンズの励磁強度に対応するピーク位置を算出するステップ、この所定の方向のピーク位置の距離により、対応する非点収差補正コイルを補正するかどうかを判断するステップを備えたものが記載されている。
【特許文献1】特許第3112541号公報
【特許文献2】特開2007−109408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アライメント補正を自動的に行うためには、アライメントずれ量を測定する必要性から、アライメント補正用のパターンが形成された試料の画像を使用しなければならず、このようなパターンが形成されていない試料ではアライメント補正を自動的に行えないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、特にアライメント補正用のパターンを備えた試料でなくても、自動的にアライメント補正が行える場合にはアライメント補正を自動的に行う電子線装置の自動調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、前記の課題は次の手段で解決することができる。請求項1の発明は、対物レンズの励磁を所定の複数の異なる値に設定し、偏向手段を所定の偏向値で駆動してパターンが表示された試料の観察領域を電子線で走査し、試料から発生する荷電粒子を検出して、対物レンズの励磁状態に対応した複数のパターン像データを取得するパターン像データ取得ステップと、前記複数のパターン像データに基づいて前記対物レンズの励磁の変化による前記試料における観察領域のシフト量を求めるシフト量取得ステップと、前記パターン像データが前記観察領域でレンズアライメントの補正に適しているかを判定する補正適否判定ステップと、前記シフト量取得ステップで求めたシフト量に基づいてレンズアライメント補正を実行する必要があるかどうかを判定する補正実行判定ステップと、前記シフト量からアライメント補正量を求める補正量算出ステップと、前記アライメント補正量に基づいてアライメント補正を行うアライメント補正ステップと、を備えることを特徴とする電子線装置の自動調整方法である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載の電子線装置の自動調整方法において、前記試料データ取得ステップは、取得したパターン像データを投影処理してプロファイルデータを生成し、このプロファイルデータをパターン像データとする処理を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1乃至3のいずれか記載の電子線装置の自動調整方法において、前記シフト量取得ステップは、取得した前記複数のパターン像データの鮮鋭度から最適フォーカス値を求め、得られた最適フォーカス値から、シフト量を求める複数枚の試料像を決定し、使用する試料像のパターンにプロファイルの重み付け処理を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、前記請求項1乃至3のいずれか記載の電子線装置の自動調整方法によるアライメントの自動調整と、このアライメントの自動調整で獲得したパターン像データを使用した非点収差の自動補正及びフォーカスの自動補正の内少なくとも一方の自動補正とを行い、すべての自動補正が不必要となるまで前記アライメントの自動調整、前記非点収差の自動補正及びフォーカスの自動補正を繰り返して行うことを特徴とする電子線装置の自動調整方法である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4記載の電子線装置の自動補正方法において、前記アライメントの自動補正を実行したとき、前記フォーカスの自動補正のみを行い、前記アライメントの自動補正が不必要であると判断されたとき、前記取得した複数のパターン像データに基づいて非点収差の自動補正及びフォーカスの自動補正を順次行うことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、前記請求項1乃至5のいずれか記載の電子線装置の自動補正方法をコンピュータで実行することを特徴とするコンピュータプログラムである。
【0014】
請求項7の発明は、請求項6記載のプログラムを格納することを特徴とする記録媒体である。
【0015】
請求項8の発明は、対物レンズの励磁を所定の複数の異なる値に設定し、偏向手段を所定の偏向値で駆動してパターンが表示された試料の観察領域を電子線で走査し、試料から発生する荷電粒子を検出して、対物レンズの励磁状態に対応した複数のパターン像データを取得するパターン像データ取得手段と、前記複数のパターン像データに基づいて前記対物レンズの励磁の変化による前記試料における観察領域のシフト量を求めるシフト量取得手段と、前記パターン像データが前記観察領域でレンズアライメントの補正に適しているかを判定する補正適否判定手段と、前記シフト量取得ステップで求めたシフト量に基づいてレンズアライメント補正を実行する必要があるかどうかを判定する補正実行判定手段と、前記シフト量からアライメント補正量を求める補正量算出手段と、前記アライメント補正量に基づいてアライメント補正を行うアライメント補正手段と、を備えることを特徴とする電子線装置である。
【0016】
請求項9の発明は、請求項8記載の電子線装置において、前記試料データ取得手段は、取得したパターン像データを投影処理してプロファイルデータを生成し、このプロファイルデータをパターン像データとする処理をなすことを特徴とする。
【0017】
請求項10の発明は、請求項9記載の電子線装置において、前記シフト量取得手段は、取得した前記複数のパターン像データの鮮鋭度から最適フォーカス値を求め、得られた最適フォーカス値から、シフト量を求める複数枚の試料像を決定し、使用する試料像のパターンにプロファイルの重み付け処理をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電子線装置において、対物レンズの励磁を所定の複数の異なる値に設定し、偏向手段を所定の偏向値で駆動してパターンが表示された試料の観察領域を電子線で走査し、試料から発生する荷電粒子を検出して、対物レンズの励磁状態に対応した複数のパターン像データを取得し、前記複数のパターン像データに基づいて前記対物レンズの励磁の変化による前記試料における観察領域のシフト量を求め、前記パターン像データがレンズアライメントの補正に適するかを判定し、前記シフト量取得ステップで求めたシフト量に基づいてレンズアライメント補正を実行する必要があるかどうかを判定し、前記シフト量からアライメント補正量を求め、前記アライメント補正量に基づいてアライメント補正を行うようにしたので、特にアライメント補正用のパターンを備えた試料でなくても、試料のパターンにより自動的にアライメント補正が行えるかどうかを判定し、アライメント補正を自動的に行うことができ、電子線装置の自動調整を効率良く行うことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明の実施の形態例に係る電子線装置を走査電子顕微鏡に適用した例について説明する。図1は走査電子顕微鏡の概略構成を示す模式図である。この走査電子顕微鏡10は、図1に示すように、鏡筒11内上部の電子線源12から発生した電子線41を、アライメントコイル13(第1補正手段)、スティグコイル14(第2補正手段)で補正し、対物レンズコイル15(フォーカス調整手段)でフォーカスを調整し、試料を走査する。試料21から発生する二次電子、反射電子などの荷電粒子42を検出器30で検出し、図示しないモニター等の画像表示手段で試料像を表示し観察するものである。通常対物レンズに入射する電子ビームは、そのレンズ軸にアライメントすることで、収差を最小にすることができる。
【0020】
本例に係る走査電子顕微鏡10では、アライメントの補正、非点補正、フォーカス補正の3段階の補正を、記載の順序で行うものとしている。なお、これらの補正は、走査電子顕微鏡10に内蔵され各部を制御するコンピュータにより、プログラムを実行することにより行われる。また、このプログラムはFD、CD等の媒体に格納されたものをコンピュータのHD、ROM等にインストールされて実行される。
【0021】
次に、前記補正の全体の手順について説明する。図2は走査顕微鏡における各補正コイル調整の全体の手順を示すフローチャートである。本例では、補正を開始するとまず観察対象となる試料の所定領域を、フォーカスを変えて走査し複数の画像を取得する(ST1)。ここで、試料にはパターンが形成されており、取得された複数の画像には観察領域に配されたパターン像が形成されている。ここで、電子ビームは、試料上において、プローブ径が可能な限り小さいほうが望ましく、また同時に、プローブ形は真円に近いほうが望ましい。
【0022】
次に、このパターンがアライメント補正に適しているか、即ちアライメント補正が可能か否かを判定する(ST2)。アライメント補正が可能かどうかは、後述するようにパターンの状態により定まる。本例では、後述するように画像全体の状態と、パターンの状態を2回判定する。アライメント補正が可能である場合(ST2のYes)には自動的にアライメントコイル13を調整してアライメント補正(ST3,ST4)を実行し、アライメント補正ができない場合(ST2のNo)には、次の補正である非点補正(ST5〜ST7)に移行する。
【0023】
アライメント補正の実行に際しては、アライメント補正が必要かどうかを判定する(ST3)。アライメント補正が不必要な程度にアライメントが整っていれば、アライメント補正を行わず次の非点補正の処理に移行する(ST3のNo)。アライメント補正が必要な場合、即ち、所定の値以上に軸がずれている場合(ST3のYes)には、アライメント補正を実行する(ST4)。アライメント補正を実行した場合には、非点補正を行うことなく次のフォーカス補正(ST8〜ST10)の処理に移行する。この場合非点補正を行わずフォーカス補正を行うのは、アライメント補正と非点補正とを続けて行うと、両補正が互いに影響をして、補正状態が収束しないからである。このため、本例では、非点補正は、アライメント補正を行わない場合、即ちアライメント補正ができない場合(ST2のNo)と、アライメント補正を行う必要がない場合(ST3のNo)に実行する。
【0024】
非点補正では、まず前記取得した複数のパターンの画像から非点補正が可能かどうかを判定する(ST5)。非点補正が可能かどうかは、パターンの状態により定まり、非点補正が可能である場合(ST5のYes)には自動的にスティグコイル14を調整して非点補正(ST6,ST7)を実行し、非点補正ができない場合(ST5のNo)には、次のフォーカス補正(ST8〜ST10)に移行する。
【0025】
非点補正の実行に際しては、まず非点補正が必要かどうかを判定する(ST6)。非点補正が不必要な程度に非点収差が補正されていれば、非点補正を行わず次のフォーカス補正の処理に移行する(ST6のNo)。非点補正が必要な程度に非点収差がある場合(ST6のYes)には、非点補正を実行する(ST7)。非点補正が終了した後、フォーカス補正(ST8〜ST10)の処理に移行する。尚、非点収差の補正には、発明者らが提案している特開2007−109408号公報に記載の方法を使用することができる。
【0026】
フォーカス補正では、まず前記取得した複数のパターンの画像からフォーカス補正が可能かどうかを判定する(ST8)。フォーカス補正が可能かどうかは、パターンの状態により定まり、フォーカス補正が可能である場合(ST8のYes)には自動的に対物レンズコイル15を調整してフォーカス補正(ST9)を実行し、フォーカス補正ができない場合(ST8のNo)には一連の自動補正処理を終了する。
【0027】
フォーカス補正を実行(ST9)後、フォーカス補正の前にアライメント補正あるいは非点補正が行われているかを判定し、アライメント補正あるいは非点補正が行われている場合には、再度フォーカスの必要な複数枚の画像を撮影(ST1)して、上述した処理を実行し、アライメント補正、非点補正、フォーカス補正のすべての補正が終了するまで、これらの処理(ST1〜ST10)を繰り返す。
【0028】
以下、実施の形態に係る電子線装置の自動調整方法により実行されるアライメント補正について説明する。まずアライメント補正の基本的な考え方について説明する。図3はオートフォーカス処理時における撮影領域のずれの状態を示す模式図である。
【0029】
通常上下極のポールピースの加工精度により、本来期待される軸に対してビームが入射されない。そのため対物レンズ上方に設置したアライメントコイルに偏向磁場もしくは偏向電界を与えることで、二次元的な最適アライメント位置に入射させることができる。
【0030】
またこのレンズアライメントが正しく調整されたかどうかを確認するには、ジャストフォーカスから前後にフォーカスを変化させて、試料上の対象物が移動しないことにより確認できる。すなわち、走査電子顕微鏡10が備えているオートフォーカス機能を作動させ、対物レンズコイル15の励磁を変えた状態で試料の撮影を行うのである。これにより、フォーカスを変更した複数の画像よりレンズアライメントを調整するかどうかの判定及び補正処理を行うことが可能となる。
【0031】
レンズアライメントがずれている状態(図3(a))では、フォーカスを変更した際、即ち対物レンズコイル15の励磁を変更した際に、パターンの位置ずれ(図3(a)中A1、A2)が生じる。一方、レンズアライメントがずれていない状態(図3(b))では、フォーカスを変更しても、パターンのずれが発生しない(図3(b)中A)。本発明は、この現象を利用してアライメントのずれ量を検出し、アライメントの補正を行う。
【0032】
次に本例に係るアライメントの補正の手順について説明する。オートフォーカス処理時に取得するフォーカスの異なる複数の画像より、レンズアライメントを調整するかどうかの判定及び補正処理は、以下の手順で算出する。図4はアライメントの補正の手順を示すフローチャートである。まず、オートフォーカス時にフォーカスの異なるそれぞれの画像データを取得して保存する(ST11)このとき、データをその一部を投影処理したものとして保存することや、画像全部を保存することができる。次に、画像の鮮鋭度より最適フォーカス値を得る(ST12)。このときパターンの有無を判定する(ST13)。この判定は前記アライメント適否判定の(ST2)の最初の判定となる。
【0033】
パターンがないと判断された場合(ST13のNo)には、アライメント補正に適さないものとして終了し、パターンがあると判断された場合(ST13のYes)には、得られた最適フォーカス値より、複数枚のパターンシフト量算出画像を決定する(ST14)。そして、使用するプロファイルの重み付け処理を行う(ST15)。そして、この処理されたプロファイルからアライメント補正に適するかの2回目の判定を行う。この判定は、アライメント補正量を検出できるパターンであるかで判定を行う(ST16)。
【0034】
このアライメント補正ができない場合(ST16のNo)にはアライメント補正は終了する。アライメント補正ができる場合(ST16のYes)には、パターンシフト量を算出し(ST17)、更にアライメント補正量を算出し(ST18)アライメント補正が必要かどうか判定し(ST19)、アライメント補正が必要であれば(ST19のYes)アライメントの自動補正(ST20)を実行し、アライメント補正が不必要、即ちアライメントが整っていれば(ST19のNo)、アライメント補正は終了する。
【0035】
以下各処理について説明する。まず、フォーカスの異なるそれぞれの画像データの取得(ST11)について説明する。本例では、オートフォーカス時に得られるフォーカスの異なる複数画像についてそれぞれ画像の一部を投影処理したプロファイルを保存しておく。このように投影処理を行う場合には画像に対し、電子線ビームの回転角に合わせ、格子状に取得する、あるいはCADデータよりパターン量の多い箇所を抽出するなどの方法を採ることができる。
【0036】
図5はフォーカスの異なる複数の画像から取得されるプロファイルデータを示す図である。フォーカスの異なる画像に付いての画像データは、図5(a)に示すようにフォーカスの状態に応じて複数得られる。本例では、得られた各画像データについて3×3の格子状領域のプロファイルデータを取得する。例えば、図5(b)に示すように、縦横それぞれ3個所において各位置における画像データの輝度を取得して各個所におけるプロファイルデータ(図5(c)、(d))を取得するのである。尚、このプロファイルデータの取得領域は前記格子状領域に限ることなく適宜設定することができる。
【0037】
このように、プロファイルデータを用いることで、複数の原画像のデータを保持する場合に比べ、メモリやHDD等の記憶デバイスの使用量を大幅に減らせ、かつ処理を高速化できる。尚、対象画像が小さく、フォーカスの異なる画像を保存が可能な場合には画像全部を保存するようにしてもよい。
【0038】
次に画像の鮮鋭度より最適フォーカス値を得る処理(ST12)について説明する。
本例では、先ほど取得したプロファイルを保存すると同時に、各プロファイルの鮮鋭度を求める。得られた鮮鋭度より、パターンが存在するかどうかの判断を行い、パターンが存在すると判断した場合には最適フォーカス値を求める。パターンの有無の判断は、レンズアライメントが補正できるかどうかの判定(ST2)のうち最初の判定である。このように、パターンの有無によりアライメント補正が可能であるかを判定しているので、試料にパターンがない場合には以下の処理を行うことなく、アライメント補正の実行を停止するので、無駄な処理を行うことなく迅速に処理を続行することができる。
【0039】
この画像からパターンが存在するかどうかの判定(ST13)を行うには、例えば各画像の鮮鋭度をもとに近似した場合の相関係数が一定値以上であるかどうかに行う。最適フォーカス値も同様に各画像の鮮鋭度をもとに近似した値により算出することができる。
【0040】
次に、得られた最適フォーカス値より、複数枚のパターンシフト量算出画像を決定する処理(ST14)について説明する。ここでは、上述した処理で求めた最適フォーカスより、パターンシフト量算出画像を決定する。求められた最適フォーカスからフォーカスのずれ量が近い複数の画像を抽出する。図6は最適フォーカス値を得るための複数の画像を示す模式図である。本例では画像F1から画像7まで7つの画像を取得している。
【0041】
ここでは、得られた最適フォーカス値を挟む2つの画像のうち所定の量以上ずれている2つの画像を選択する。例えば、得られた最適フォーカス値と、画像F4のフォーカス値が近い場合には、この画像F4を挟む画像F3と画像F5とのプロファイルを比較する。また、最適フォーカスが画像F3と画像F4との間にあるような場合には画像F3と画像F4とを比較する。このようにフォーカスのずれ量の近い画像を選択することにより、高精度なパターンずれ量抽出が可能となる。ここで、最適フォーカスからのずれ量によりプロファイルが変化するため、比較する画像は最適フォーカスからのずれ量が近いことが望ましい。
【0042】
次に、使用するプロファイルの重み付け処理(ST15)について説明する。プロファイル位置によっては、このデータ上に像がまったくなかった場合など、不良なデータが存在することも考えられるので、情報量が少ないプロファイルは排除あるいは、重み付けする必要がある。即ち、ステップST14で得られた最適フォーカス値に最も近い画像を使用して、各プロファイルの情報量を算出して、重み付けを行う。
この重み付けは、次の手順で行う。
【0043】
各プロファイルにおける値に重み付け係数Wを乗じて重み付けを行う、この場合、複数あるプロファイルの分散の平均をσa、対象プロファイルの分散をσmとし、DD=σm/σaを求める。そして、このDが閾値以下である場合にはW=0、閾値以上ではW=1とする処理を行う。
【0044】
この処理では、アライメント補正ができるパターンがあるかの判定(ST16)も行う。即ち対象プロファイルの重み付け係数Wが1となる部分が一定値を超える場合にはパターンがあるとしてアライメント補正が可能であると判断し、一定値以下であればアライメント補正ができないものとして以下の計算対象から除外し、次の非点補正処理に移行する(ST2のNo、ST5)。尚、この重み付けの処理は上述したものに限らず、また、重み付け処理を省略することができる。
【0045】
次にパターンシフト量の算出(ST17)及び補正が必要かどうかの判定(ST18)について説明する。本例では、ステップST14で求めたパターンシフト量の比較対象となる画像の同一位置におけるプロファイルごとにずれ量を算出する。
【0046】
図7は比較対象となる画像データを示す模式図である。例えば図7(a)に示す画像Faの水平方向最上位置におけるプロファイルFa(t)と、図7(b)に示す画像Fbの水平方向最上位置におけるプロファイルFb(t)とを比較する。
【0047】
この比較は例えば以下のように行う。Fa(t)と、Fb(t)の2つのプロファイルを比較するとき、例えば所定の値(2c)の範囲で両プロファイルを比較するものとする。図8は2つのプロファイルの類似度判定処理における処理を示すものであり、(a)は類似度取得の開始状態を示す模式図、(b)は類似度取得の終了状態を示す模式図である。
まず、比較のため2つのプロファイルが領域〔0〜1〕の間であって、Fa(t)が〔0〜(w−2c)〕に、Fb(t)が〔(c)〜(w―c)〕に分布するようにパラメータを変換する。そして、Fb(t)を固定して、Fa(t)の始点を0とした状態から(図8(a))から2cとなる状態((図8)b))になるまでシフトしつつ、比較し類似度S(t)が最大となる個所を求める。下記式(1)に従ってSn(t)を求め、前記プロファイルFa(t)及びFb(t)で、類似度S(t)が最大となる位置tを求める。ここで、wはプロファイルの幅、cは上述したマッチングの無効領域とする。
【0048】
【数1】

…式(1)
【0049】
そして、ここで得られたtの精度を高めるために、tを中心として近傍のS(t−k)からS(t+k)のデータを用い二次近似などによりずれ量Dを算出する(kは任意の定数)。
【0050】
これを各プロファイルについて繰り返し、水平方向のずれ量Xと、垂直方向のずれ量Yとを求める。図9は画像の各方向におけるずれ量取得位置を示す模式図である。例えばスキャンローテーションが0°で、3×3で格子状にプロファイルを取得した場合に得られたずれ量の水平方向距離をDH1,DH2,DH3、鉛直方向距離をDV1,DV2,DV3としたとき(図9参照)、水平方向のずれ量X及び鉛直方向のずれ量Yは、上述の重み付け係数Wより以下の式(2)に基づいて算出できる。
ここで、
:計算に採用する水平方向のプロファイル数
:計算に採用する垂直方向のプロファイル数
とする。
【0051】
【数2】

…式(2)

【0052】
次いで、得られたずれ量(X,Y)に基づいてフォーカス1カウントあたりの像の移動量を求める。取得した画像のピクセルサイズP(1Pixelあたりの大きさ)と、オートフォーカスのフォーカスステップ値F、得られたフォーカス値により算出される高さ補正係数h、焦点深度係数を用いて、式(3)に基づいて、フォーカス1カウントあたりの像の移動量を示すベクトル(X’,Y’)を算出する
【0053】
【数3】

…式(3)
【0054】
そして、取得した画像回転角度θとコイルの取り付けずれ角αに基づいて、(X’,Y’)を回転角度補正し、計算結果に対してゲインとオフセットで補正し、アライメントコイルの補正値を算出する(ST18)。
ここで、
(L,L):現在のレンズアライメント値
(GLX,GLY):レンズアライメント補正ゲイン値
(OLX,OLY):レンズアライメント補正オフセット値
とすると、補正後のレンズアライメント値(ΔL、ΔL)は、式(4)に基づいて得られる。
【0055】
【数4】

…式(4)
【0056】
そして、アライメント補正が必要かどうかの判定を行う(ST19)。この判定は、(ΔLx+ΔLy1/2が、閾値内かどうかにより行う。当該値が閾値内であれば、アライメントが許容される程度に正しく、当該値が閾値以上であればアライメントが狂っており補正が必要であると判定される。そして、閾値外であれば現在のアライメントコイルの値にそれぞれΔLx、ΔLyを加算し、レンズアライメント補正を自動実行する(ST19)。
【0057】
これにより、走査電子顕微鏡10のアライメント補正は終了し、前記図2に示した手順により他の補正、即ち非点補正及びフォーカス補正を所定の手順に従って行い、すべての補正が終了した状態で試料の観察を行うこととなる。
【0058】
以上説明したように、本例に係る電子線装置の自動補正方法によれば、特にアライメント補正用のパターンを備えた試料でなくても、試料のパターンにより自動的にアライメント補正が行えるかどうかを判定し、アライメント補正を自動的に行うことができ、電子線装置の自動調整を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】走査電子顕微鏡の概略構成を示す模式図である。
【図2】走査顕微鏡における各補正コイル調整の全体の手順を示すフローチャートである。
【図3】オートフォーカス処理時における撮影領域のずれの状態を示す模式図である。
【図4】アライメントの補正の手順を示すフローチャートである。
【図5】フォーカスの異なる複数の画像から取得されるプロファイルデータを示す図である。
【図6】最適フォーカス値を得るための複数の画像を示す模式図である。
【図7】比較対象となる画像データを示す模式図である。
【図8】2つのプロファイルの類似度判定処理における処理を示す模式図である。
【図9】画像の各方向におけるずれ量取得位置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0060】
10 走査電子顕微鏡
11 鏡筒
12 電子線源
13 アライメントコイル
14 スティグコイル
15 対物レンズコイル
21 試料
30 検出器
41 電子線
42 荷電粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズの励磁を所定の複数の異なる値に設定し、偏向手段を所定の偏向値で駆動してパターンが表示された試料の観察領域を電子線で走査し、試料から発生する荷電粒子を検出して、対物レンズの励磁状態に対応した複数のパターン像データを取得するパターン像データ取得ステップと、
前記複数のパターン像データに基づいて前記対物レンズの励磁の変化による前記試料における観察領域のシフト量を求めるシフト量取得ステップと、
前記パターン像データが前記観察領域でレンズアライメントの補正に適しているかを判定する補正適否判定ステップと、
前記シフト量取得ステップで求めたシフト量に基づいてレンズアライメント補正を実行する必要があるかどうかを判定する補正実行判定ステップと、
前記シフト量からアライメント補正量を求める補正量算出ステップと、
前記アライメント補正量に基づいてアライメント補正を行うアライメント補正ステップと、
を備えたことを特徴とする電子線装置の自動調整方法。
【請求項2】
前記試料データ取得ステップは、
取得したパターン像データを投影処理してプロファイルデータを生成し、このプロファイルデータをパターン像データとする処理を含むことを特徴とする請求項1記載の電子線装置の自動調整方法。
【請求項3】
前記シフト量取得ステップは、
取得した前記複数のパターン像データの鮮鋭度から最適フォーカス値を求め、
得られた最適フォーカス値から、シフト量を求める複数枚の試料像を決定し、
使用する試料像のパターンにプロファイルの重み付け処理を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の電子線装置の自動調整方法。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれか記載の電子線装置の自動調整方法によるアライメントの自動調整と、このアライメントの自動調整で獲得したパターン像データを使用した非点収差の自動補正及びフォーカスの自動補正の内少なくとも一方の自動補正とを行い、すべての自動補正が不必要となるまで前記アライメントの自動調整、前記非点収差の自動補正及びフォーカスの自動補正を繰り返して行うことを特徴とする電子線装置の自動調整方法。
【請求項5】
前記アライメントの自動補正を実行したとき、前記フォーカスの自動補正のみを行い、前記アライメントの自動補正が不必要であると判断されたとき、前記取得した複数のパターン像データに基づいて非点収差の自動補正及びフォーカスの自動補正を順次行うことを特徴とする請求項4記載の電子線装置の自動補正方法。
【請求項6】
前記請求項1乃至5のいずれか記載の電子線装置の自動補正方法をコンピュータで実行することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項7】
請求項6記載のプログラムを格納したことを特徴とする記録媒体。
【請求項8】
対物レンズの励磁を所定の複数の異なる値に設定し、偏向手段を所定の偏向値で駆動してパターンが表示された試料の観察領域を電子線で走査し、試料から発生する荷電粒子を検出して、対物レンズの励磁状態に対応した複数のパターン像データを取得するパターン像データ取得手段と、
前記複数のパターン像データに基づいて前記対物レンズの励磁の変化による前記試料における観察領域のシフト量を求めるシフト量取得手段と、
前記パターン像データが前記観察領域でレンズアライメントの補正に適しているかを判定する補正適否判定手段と、
前記シフト量取得ステップで求めたシフト量に基づいてレンズアライメント補正を実行する必要があるかどうかを判定する補正実行判定手段と、
前記シフト量からアライメント補正量を求める補正量算出手段と、
前記アライメント補正量に基づいてアライメント補正を行うアライメント補正手段と、
を備えたことを特徴とする電子線装置。
【請求項9】
前記試料データ取得手段は、
取得したパターン像データを投影処理してプロファイルデータを生成し、このプロファイルデータをパターン像データとする処理をなすことを特徴とする請求項8記載の電子線装置。
【請求項10】
前記シフト量取得手段は、
取得した前記複数のパターン像データの鮮鋭度から最適フォーカス値を求め、
得られた最適フォーカス値から、シフト量を求める複数枚の試料像を決定し、
使用する試料像のパターンにプロファイルの重み付け処理をなすことを特徴とする請求項9記載の電子線装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−87598(P2009−87598A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253159(P2007−253159)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】