説明

電子線装置及び画像表示装置

【課題】電子放出素子を有する電子線装置において、電子放出効率のさらなる向上を図ることにあり、さらに表示品質の高い画像表示装置を提供する。
【解決手段】表面に凹部7を有する絶縁部材2と、ゲート4と、凹部7を挟んでゲート4と対向するカソード6を有する電子線装置において、凹部7の表面にくぼみ部8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられる、電子を放出する電子放出素子を備えた電子線装置と、該電子線装置を用いて構成された画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、カソードから出た電子の多数が対向するゲートに衝突、散乱した後に電子として取り出される電子放出素子が存在する。このような形態で電子を放出する素子として表面伝導型電子放出素子や積層型の電子放出素子が知られており、特許文献1には、積層型の電子放出素子であって、電子放出部近傍の絶縁層に凹部(リセス部)を設けた構成が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−167693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、特許文献1に記載された電子放出素子を有する電子線装置において、電子放出効率のさらなる向上を図ることにあり、さらに表示品質の高い画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1は、表面に凹部を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の表面に位置するゲートと、
前記凹部を挟んで前記ゲートと対向するように前記絶縁部材の表面に位置するカソードと、
前記ゲートを介在させて前記カソードと対向配置されたアノードとを有し、
前記凹部の、カソード側の縁につながる表面に段差構造を有することを特徴とする電子線装置である。
【0006】
本発明の電子線装置においては、下記の構成を好ましい態様として含む。
【0007】
前記段差構造はくぼみ部であり、凹部の開口側に位置する該くぼみ部の側壁と、該凹部の表面のくぼみ部への延長面とがなす角度θ1が以下の関係を満たす請求項1に記載の電子線装置。
【0008】
θ1>tan-1(d/W)
d:カソードが位置している凹部の縁からゲートまでの距離
W:凹部の縁からくぼみ部までの距離
【0009】
前記段差構造は凸部であり、凹部の奥側に位置する該凸部の側壁と、該凸部の底面とがなす角度θ2が以下の関係を満たす請求項1に記載の電子線装置。
θ2>tan-1{(d−h)/(W+S2+(S1−S2)/2)}
d:カソードが位置している凹部の縁からゲートまでの距離
W:凹部の縁からくぼみ部までの距離
S1:凸部の底面の幅
S2:凸部の上面の幅
【0010】
本発明の第2は、上記本発明第1の電子線装置と、前記アノードの外側に位置する発光部材とを有することを特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、電子放出素子の電極間の短絡経路が分断されているため、電極間のリーク電流が低減し、従来よりも高い電子放出効率が得られる。よって、本発明によれば、従来よりも画像品質の高い画像表示装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の電子線装置は、電子を放出する電子放出素子と、該電子放出素子から放出された電子が到達するアノードとを備えている。
【0013】
本発明の電子放出素子は、絶縁部材と、ゲートと、カソードとを有しており、絶縁部材の表面には凹部が設けられ、ゲートとカソードとはいずれも絶縁部材の表面に形成され、該凹部を挟んで対向している。また、アノードはゲートを介在させてカソードと対向配置される。
【0014】
尚、本発明の電子線装置を有する画像表示装置においては、アノードの外側に発光部材として蛍光体などが配置される。
【0015】
本発明においては、上記凹部の、カソード側の縁につながる表面に段差構造を有することを特徴とする。該段差構造として具体的には、凹部表面から掘り下げられたくぼみ部、或いは、凹部表面から突出する凸部である。
【0016】
図1は、本発明の電子線装置の電子放出素子の好ましい一実施形態を示す模式図であり、段差構造としてくぼみ部を形成した例である。図中(a)は平面模式図であり、(b)は(a)のA−A’断面模式図である。
【0017】
図1中、1は基板、2は第1の絶縁層2aと第2の絶縁層2bとからなる絶縁部材であり、4はカソードである。5はゲート上に設けられた突出部であり、ゲート4と突出部5でゲート電極として機能する。6はカソード、7は絶縁部材2に設けられた凹部、8は凹部7に設けられたくぼみ部である。
【0018】
また、図2は、図1の電子放出素子を有する電子線装置の駆動時の構成を示す模式図であり、9はアノード、10は電子放出素子の駆動電源、11はアノードに電圧を印加する高圧電源である。
【0019】
本発明に係る電子放出素子は、ゲート4とカソード6との間に電圧を印加するための電源10により駆動電圧Vfが与えられ、素子電流Ifが流れる。ゲート4及び突出部5には高電位が、カソード6には低電位が与えられる。また、アノード9に電圧をかけるための高圧電源11により、アノード9にアノード電圧Vaが印加され、カソード6から放出された電子がアノード9に捕捉されて放出電流Ieが流れる。ゲート4とカソード6間に印加する電圧としては、10V乃至100Vの範囲が好ましく、より好ましくは10V乃至30Vである。
【0020】
本発明において、電子放出素子の構成部材であるカソード6及び突出部5は、導電性材料の真空蒸着等によって絶縁部材2の表面に成膜する。しかしながら、係る成膜時に凹部7内にも導電性材料が付着し、ゲート4及び/又は突出部5と、カソード6との間で短絡経路を形成する恐れがある。このような短絡を生じた場合、駆動時に電極間のリーク電流が流れ、電子放出効率が低下してしまう。
【0021】
本発明においては、凹部7内に段差構造を形成することで、導電性材料の非成膜領域を形成して係る短絡経路を分断し、リーク電流を低減するものである。
【0022】
より具体的には、凹部7の、カソード6側の縁につながる表面にくぼみ部8又は凸部を形成する。
【0023】
図3は、係る凹部7の拡大断面模式図であり、(a)は図1と同様にくぼみ部8を形成した例であり、(b)は段差構造として凸部15を形成した例である。
【0024】
図3(a)において、導電性材料の成膜時に凹部7の表面に成膜される導電性材料膜がくぼみ部8によって分断される条件は、次の通りである。
【0025】
即ち、凹部7の開口側に位置するくぼみ部8の側壁12と、凹部7の表面の延長面13とがなす角度θ1が、凹部7のゲート4側の縁とくぼみ部8の側壁12の上端とを結ぶ直線14と、凹部7のゲート4側表面とのなす角度θ3とが、θ1>θ3である。
【0026】
よって、カソード6が位置している凹部7の縁からゲート4までの距離をd、凹部7の縁からくぼみ部8までの距離をWとすると、次の関係を満たすものとする。
θ1>tan-1(d/W)
【0027】
当該条件を満たす場合、図3(a)に示すように、凹部7の表面には導電性材料が成膜されない非成膜領域が形成される。図3(a)においては、非成膜領域はくぼみ部8の側壁12と、底面、側壁12に対向する側壁の底面側の一部である。
【0028】
また、段差構造を凸部15とした場合に、導電性材料の成膜時に凹部7の表面に成膜される導電性材料膜が凸部15によって分断される条件は、次の通りである。
【0029】
即ち、凹部7の奥側に位置する該凸部15の側壁16と底面17とのなす角度θ2が、凹部7のゲート4側の縁と凸部15の上面の奥側の端部(側壁16の上端)とを結ぶ直線18と、凹部7のゲート4側表面とのなす角度θ4とが、θ2>θ4である。
【0030】
よって、凸部15の上面の幅をS1、底面の幅をS2とすると、次の関係を満たすものとする。
θ2>tan-1{(d−h)/(W+S2+(S1−S2)/2)}
【0031】
当該条件を満たす場合、図3(b)に示すように、凹部7の表面には導電性材料が成膜されない非成膜領域が形成される。図3(b)において、非成膜領域は凸部15の側壁16と、凸部15よりも奥側の凹部7の表面、及び、第2の絶縁層2bの側壁の一部である。
【0032】
次に、本発明に係る電子放出素子の各部材について説明する。
【0033】
基板1としては、例えば石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、青板ガラス及びSi基板等にスパッタ法等によりSiO2を積層した積層体、アルミナ等のセラミックスの絶縁性を有する基板が用いられる。
【0034】
ゲート4の材料としては、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物が挙げられる。また、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GbB4等の硼化物、TaN,TiN,ZrN,HfN等の窒化物、Si,Ge等の半導体も挙げられる。さらに、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等が挙げられる。
【0035】
突出部5及びカソード6の材料としては、Mo,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pd等の金属や、カーボン、HfC等の仕事関数の低い物質が挙げられる。
【0036】
第1の絶縁層2a、第2の絶縁層2bとしては、SiO2などの酸化物、Si34などの窒化物が挙げられ、高電界に耐えられる耐圧の高い材料が選択される。尚、第2の絶縁層2bは第1の絶縁層2aに対し、あるエッチャントにより選択的にエッチングできる材料を適宜選択する。例えば、第1の絶縁層2aはSi34等の絶縁性材料で構成し、第2の絶縁層2bはSiO2等の絶縁性材料で構成する。
【0037】
第1の絶縁層2aの膜厚としては、50nmから3μmの範囲とすることができる。好ましくは100nmから500nmの範囲であり、第2の絶縁層2bの厚さとしては、1nmから100μmの範囲とすることができる。好ましくは1nmから40nmの範囲である。また、ゲート4の膜厚としては、1nmから100nmとすることができる。
【0038】
凹部7は、開口部がゲート4と第1の絶縁層2aとの側壁面の間に設けられており、開口部の幅は実質的にゲート4と第1の絶縁層2aとの間隔、或いは第2の絶縁層2bの厚さの範囲となる。また、凹部7の深さとしては、1nmから400nmの範囲とすることができる。好ましくは30nmから100nmの範囲である。
【0039】
次に、図4−1、図4−2を参照して、本発明に係る電子放出素子の製造方法の一例を説明する。
【0040】
予め、その表面を十分に洗浄した、基板1上に第1の絶縁層2aをスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法等で形成する(図4−1(a))。
【0041】
次に、所望の部分にフォトリソグラフィー工程で開口部を有するレジストパターン41を形成する(図4−1(b))。
【0042】
エッチングにより、第1の絶縁層2aの表面上において、レジストパターン41の開口部に段差構造となる凹部8を形成する。尚、本工程は絶縁層2aの材料に応じて、エッチング方法を選択すれば良い。ここで、凹部8の深さは数nmから第1の絶縁層2aの厚さまでの範囲で設定され、好ましくは数nm乃至数十nmの範囲で選択される(図4−1(c))。また、くぼみ部8の側壁の角度の調整は、エッチングレート、エッチング時間等により行うことができる。
【0043】
続いて、第1の絶縁層2a上に第2の絶縁層2bをスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成する(図4−1(d))。
【0044】
更に、前記第2の絶縁層2bに続き、ゲート4を堆積する。このゲート4は導電性を有しており、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により形成される(図4−2(e))。
【0045】
次に、フォトリソグラフィー技術により、堆積層である第1の絶縁層2a、第2の絶縁層2b、ゲート4の一部を取り除く。但し、本工程は、基板1の上面までで停止しても良いし、基板1の一部がエッチングされても良い(図4−2(f))。本工程は、具体的には、フォトレジストのスピンコーティング、マスクパターン露光及び現像を行い、ウェットエッチングもしくはドライエッチングで第1の絶縁層2a、第2の絶縁層2b、ゲート4の一部を取り除く工程である。
【0046】
このエッチング工程においては、平滑且つ垂直なエッチング面が望ましく、それぞれの電極及び絶縁層の材料に応じて、エッチング方法を選択すれば良い。
【0047】
続いて、ウェットエッチング等により絶縁部材2に凹部7を形成する。エッチング方法としては、例えば、ゲート4にTaN等を、第1の絶縁層2aにSi34、第2の絶縁層2bにSiO2を選択し、エッチャントにバッファードフッ酸を用いてエッチングをする。これにより、第2の絶縁層2bが選択的にエッチングされ、絶縁部材2の側壁から第2の絶縁層2bのみが後退し、開口部を有する凹部7が形成される(図4−2(g))。また、当該工程において、凹部7の表面となる第1の絶縁層2aの表面にくぼみ部8が露出する。
【0048】
次に、凹部7が形成された絶縁部材2の表面に、突出部5とカソード6を被覆する。この突出部5とカソード6は導電性を有しており、成膜法は、フォトリソグラフィー、斜方蒸着、スパッタ法等から適宜選択される(図4−2(h))。
【0049】
以下、本発明に係る電子放出素子を複数配して得られる電子源を備えた画像表示装置について、図5乃至図8を用いて説明する。
【0050】
図5において、51は電子源基板、52はX方向配線、53はY方向配線であり、また、54は本発明に係る電子放出素子、55は結線である。尚、X方向配線52は、電子放出素子のカソード6を共通に接続する配線であり、Y方向配線53はゲート4を共通に接続する配線である。
【0051】
m本のX方向配線52は、Dx1,Dx2,…Dxmからなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、幅は、適宜設計される。
【0052】
Y方向配線53は、Dy1,Dy2,…Dynのn本の配線よりなり、X方向配線52と同様に形成される。これらm本のX方向配線52とn本のY方向配線53との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは、共に正の整数)。
【0053】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO2等で構成される。例えば、X方向配線52を形成した電子源基板51の全面或いは一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線52とY方向配線53の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が、適宜設定される。X方向配線52とY方向配線53は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0054】
本発明に係る電子放出素子54を構成するゲートとカソード(不図示)は、m本のX方向配線52とn本のY方向配線53と導電性金属等からなる結線55によって電気的に接続されている。
【0055】
配線52と配線53を構成する材料、結線55を構成する材料及びゲート、カソードを構成する材料は、その構成元素の一部或いは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。
【0056】
X方向配線52には、X方向に配列した電子放出素子54の行を選択するための走査信号を印加する、不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線53には、Y方向に配列した電子放出素子54の各列を入力信号に応じて変調するための、不図示の変調信号発生手段が接続される。
【0057】
各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0058】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択して、独立に駆動可能とすることができる。
【0059】
このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示装置について、図6を用いて説明する。図6は画像表示装置の一例を示す模式図であり、一部を切り欠いた状態で示す。
【0060】
図6において、51は電子放出素子を複数配した電子源基板、61は電子源基板51を固定したリアプレート、66はガラス基板63の内面に発光部材としての蛍光体を有する蛍光膜64とメタルバック65等が形成されたフェースプレートである。
【0061】
また、62は支持枠であり、この支持枠62には、リアプレート61、フェースプレート66がフリットガラス等を用いて接続されている。67は外囲器であり、例えば大気中或いは、窒素中で、400乃至500℃の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。
【0062】
また、54は、図1における電子放出素子に相当するものであり、52,53は、電子放出素子のカソード、ゲートとそれぞれ接続されたX方向配線及びY方向配線である。
【0063】
外囲器67は、上述の如く、フェースプレート66、支持枠62、リアプレート61で構成される。ここで、リアプレート61は主に基板51の強度を補強する目的で設けられるため、基板51自体で十分な強度を持つ場合には、別体のリアプレート61は不要とすることができる。
【0064】
即ち、基板51に直接支持枠62を封着し、フェースプレート66,支持枠62及び基板51で外囲器67を構成しても良い。一方、フェースプレート66とリアプレート61との間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器67を構成することもできる。
【0065】
尚、本発明の実施の形態に係る電子放出素子を用いた画像表示装置では、放出した電子軌道を考慮して、素子上部に蛍光体をアライメントして配置する。
【0066】
図8は、本件の画像表示装置に使用した蛍光膜を示す模式図である。カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体の配列により図8(a)に示すブラックストライプ、或いは図8(b)に示すブラックマトリクスなどと呼ばれる黒色導電材81と蛍光体82とから構成すると良い。
【0067】
次に、図6の画像表示装置に、NTSC方式のテレビ信号に基づいたテレビジョン表示を行うための駆動回路の構成例について、図7を用いて説明する。
【0068】
図7において、71は画像表示パネル、72は走査回路、73は制御回路、74はシフトレジスタである。75はラインメモリ、76は同期信号分離回路、77は変調信号発生器、Vx及びVaは直流電圧源である。
【0069】
表示パネル71は、端子Dx1乃至Dxm、端子Dy1乃至Dyn、及び高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続している。
【0070】
端子Dx1乃至Dxmには、表示パネル内に設けられている電子源、即ち、m行n列の行列状にマトリクス配線された電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動する為の走査信号が印加される。
【0071】
一方、端子Dy1乃至Dynには、走査信号により選択された一行の電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御する為の変調信号が印加される。
【0072】
高圧端子Hvには、直流電圧源Vaより、例えば10[kV]の直流電圧が供給されるが、これは電子放出素子から放出される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与する為の加速電圧である。
【0073】
上述のように走査信号、変調信号、及びアノード電極への高電圧印加により、放出された電子を加速して蛍光体へと照射することによって、画像表示を実現する。
【0074】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の目的を達成するものであれば各構成要素が代用物や均等物に置換されたものであってもよい。
【実施例】
【0075】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【0076】
(実施例1)
本例では、図1、及び図3(a)に示される電子放出素子を、図4−1,図4−2の工程に沿って作製した。
【0077】
(工程1)
基板1に青板ガラスを用い、十分洗浄を行った後、スパッタ法により第1の絶縁層2aとして厚さ500nmのSi34膜を堆積した(図4−1(a))。
【0078】
(工程2)
フォトリソグラフィー工程で、ポジ型フォトレジスト(TSMR−8900/東京応化社製)をスピンコーティングし、フォトマスクパターンを用いて露光、現像し、開口部を有するレジストパターン41を形成した(図4−1(b))。
【0079】
その後、パターニングしたフォトレジスト41をマスクとして、第1の絶縁層2aを180℃に熱したリン酸(H3PO4)溶液をエッチング液として、ウェットエッチングを施した。第1の絶縁層2aの表面には、深さ10nmのくぼみ部8が形成された(図4−1(c))。
【0080】
(工程3)
次に、スパッタ法により第2の絶縁層2bとして厚さ20nmのSiO2、ゲート4として20nmのTaNをこの順で堆積した(図4−2(e))。
【0081】
(工程4)
次に、フォトリソグラフィー工程でポジ型フォトレジスト(TSMR−9800/東京応化社製)をスピンコーティングし、フォトマスクパターンを用いて露光、現像し、レジストパターンを形成した。
【0082】
その後、パターニングしたフォトレジストをマスクとして、第1の絶縁層2a、第2の絶縁層2b、及びゲート4を、CF4ガスを用いてドライエッチングして、基板1で停止させた(図4−2(f))。
【0083】
(工程5)
バッファードフッ酸(LAL100/ステラケミファ社製)をエッチング液として、11分間エッチングを施し、第2の絶縁層2aを選択的にエッチングした。これにより、絶縁部材2の側壁表面から60nm程度、第2の絶縁層2bを後退させ、凹部7を形成した(図4−2(g))。
【0084】
(工程6)
次に、斜方蒸着により突出部5、及びカソード6として厚さ10nmのMoを斜め45°上方から選択的に堆積した(図4−2(h))。
【0085】
以上のようにして作製された電子放出素子の断面形状を電子顕微鏡(TEM)にて確認した。その結果、カソード6が位置している凹部7の縁からゲート4までの距離dは20nm、凹部7の縁からくぼみ部8までの距離Wは40nm、くぼみ部8の側壁12と凹部7の表面の延長面とのなす角度θ1は45°であった。
【0086】
よって、θ3=tan-1(d/W)は27°であり、θ1よりも小さい値であった。また、くぼみ部8の側壁12へのMo膜の付着は確認されなかった。
【0087】
本例の電子放出素子のゲート4とカソード6との間に10Vの電圧を印加させたところ、リーク電流は0.03μAであり、従来よりも素子駆動時のリーク電流を低減することができた。
【0088】
(実施例2)
本例では、図3(b)に示す凸部15を有する電子放出素子を作製した。以下に作製工程を示す。
【0089】
(工程1)
実施例1と同様の作業を行った。
【0090】
(工程2)
次に、フォトリソグラフィー工程で、ポジ型フォトレジスト(TSMR−8900/東京応化社製)をスピンコーティングし、フォトマスクパターンを用いて露光、現像し、レジストパターンを形成した。
【0091】
その後、パターニングしたフォトレジストをマスクとして、第1の絶縁層2aを180℃に熱したリン酸(H3PO4)溶液をエッチング液として、ウェットエッチングを施した。これにより、第1の絶縁層2aの表面に、S1=30nm、S2=10nm、h=10nmの凸部15を形成した。
【0092】
(工程3)乃至(工程6)
実施例1と同様の作業を行った。
【0093】
以上のようにして作製された電子放出素子の断面形状を電子顕微鏡(TEM)にて確認した。その結果、カソード6が位置している凹部7の縁からゲート4までの距離dは20nm、凹部7の縁から凸部15までの距離Wは40nm、凸部15の側壁16と底面17とのなす角度θ2は45°であった。
【0094】
よって、θ4=tan-1{(d−h)/(W+S2+(S1−S2)/2)}は9.5°であり、θ2よりも小さい値であった。また、凸部15の側壁16へのMo膜の付着は確認されなかった。
【0095】
また、本例で作製された電子放出素子のゲート4とカソード6間に10Vの電圧を印加させたところ、0.03μAの電流が得られ、従来よりも素子駆動時のリーク電流を低減することができた。
【0096】
(比較例)
本例では、凹部8を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、電子放出素子を作製した。
【0097】
本例の電子放出素子のゲート4とカソード6間に10Vの電圧を印加させたところ、30μA以上のリーク電流が観察された。
【0098】
(実施例3)
本例においては、実施例1の電子放出素子を同様の製法で、基板1上に複数配置し、図5に示すような電子源を作製し、電気特性を評価した。
【0099】
先ず、X方向配線52の1本(Dx1)を選択し、−6V、パルス幅1msec、パルス周期16.6msecのパルス電圧を印加した。これと同期して、Y方向配線53(Dy1乃至Dym)に順次、+13.5V、パルス幅1msec、パルス周期16.6msecのパルス電圧を30秒間印加した。続いて、別のX方向配線52(Dx2乃至Dxn)に関して同様の作業を繰り返すことにより、全ての電子放出素子54に19.5Vのパルス電圧を印加した。この時、非選択の配線はグランドレベルに接続した。
【0100】
次に、同様に、X方向配線52の1本(Dx1)を選択し、−6V、パルス幅0.1msec、パルス周期16.6msecのパルス電圧を印加した。これと同期して、Y方向配線53(Dy1乃至Dym)に順次、+10V、パルス幅0.1msec、パルス周期16.6msecのパルス電圧を印加した。続いて、別のX方向配線52(Dx2乃至Dxn)に関して同様の作業を繰り返すことにより、全ての電子放出素子54に16Vのパルス電圧を印加して電子放出素子54を駆動した。駆動時における各電子放出素子54に流れる素子電流を測定した。
【0101】
次に、Y方向配線53を全てグランドレベルに接続した。そして、X方向配線52の1本(Dx1)を選択し、−6V、パルス幅0.1msec、パルス周期16.6msecのパルス電圧を印加して、選択したX方向配線52(Dx1)に接続した電子放出素子54に流れる素子電流(リーク電流)を測定した。続いて、別のX方向配線52(Dx2乃至Dxn)に関して同様の作業を繰り返し、各X方向配線52に流れるリーク電流の測定を行った。
【0102】
次に、X方向配線52に順次、−6V、パルス幅0.1msec、パルス周期16.6msecのパルス電圧を印加した。そして、これと同期して、Y方向配線53に順次、+10V、パルス幅0.1msec、パルス周期16.6msecのパルス電圧を印加して、全ての電子放出素子54を所定時間連続駆動した。その後、上記方法と同様にして、各X方向配線52に流れるリーク電流の測定を行った。
【0103】
以上のようにして求めた一素子当たりのリーク電流は0.03μA(平均値)であり、実施例1と同等の特性が得られた。
【0104】
(実施例4)
本例では、実施例3の電子源を用いて、図6に示した画像表示装置を作製した。
【0105】
電子源基板51の2mm上方にフェースプレート66を、支持枠62を介して真空中で封着し、外囲器67を形成した。また、電子源基板51とフェースプレート66との間には、スペーサ(不図示)を配置し、大気圧に耐えられる構造とした。また、外囲器67内には容器内を高真空に保つためのゲッター(不図示)を配置した。電子源基板51と支持枠62とフェースプレート66の接合にはインジウムを用いた。
【0106】
以上のようにして完成した画像表示装置において、実施例3と同様にして、パルス電圧を印加し、実施例3と同様にして、素子電流及びリーク電流を測定した。その結果、一素子当たりのリーク電流は0.03μA(平均値)であり、実施例3と同等の特性が得られた。
【0107】
次に、X方向配線52に走査信号を印加し、Y方向配線53に情報信号を印加しながら電子放出素子54を駆動した。この時情報信号としては、+6Vのパルス電圧を用い、走査信号としては−10Vのパルス電圧を用いた。また、高圧端子Hvを通じてメタルバック65に6kVの電圧を印加して、放出電子を蛍光膜64に衝突させ、励起・発光させることで画像を表示したところ、明るい画像を表示することができた。
【0108】
また、実施例3と同様にして電子放出素子54のリーク電流を測定したところ、1素子当たりのリーク電流の平均値は0.03μAであり、実施例3と同等であった。
【0109】
このように、本発明の画像表示装置においては、非選択素子に流れるリーク電流を低減することができた。また、これにより消費電力を低減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の電子線装置の電子放出素子の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図2】図1の電子放出素子の駆動時の構成を示す模式図である。
【図3】本発明に係る電子放出素子の凹部の拡大断面模式図である。
【図4−1】図1の電子放出素子の作製工程を示した模式図である。
【図4−2】図1の電子放出素子の作製工程を示した模式図である。
【図5】本発明に係る電子放出素子を複数配置してなる電子源の概略構成図である。
【図6】本発明の画像表示装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【図7】図6の画像表示装置でテレビジョン表示を行うための駆動回路の一例を示す回路図である。
【図8】図6の画像表示装置における蛍光膜の一例の模式図である。
【符号の説明】
【0111】
1 基板
2a 第1の絶縁層
2b 第2の絶縁層
3 絶縁部材
4 ゲート
5 突出部
6 カソード
7 凹部
8 くぼみ部
9 アノード
10 電源
11 高圧電源
12 くぼみ部の側壁
13 凹部表面の延長面
15 凸部
16 凸部の側壁
17 凸部の底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の表面に位置するゲートと、
前記凹部を挟んで前記ゲートと対向するように前記絶縁部材の表面に位置するカソードと、
前記ゲートを介在させて前記カソードと対向配置されたアノードとを有し、
前記凹部の、カソード側の縁につながる表面に段差構造を有することを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
前記段差構造はくぼみ部であり、凹部の開口側に位置する該くぼみ部の側壁と、該凹部の表面のくぼみ部への延長面とがなす角度θ1が以下の関係を満たす請求項1に記載の電子線装置。
θ1>tan-1(d/W)
d:カソードが位置している凹部の縁からゲートまでの距離
W:凹部の縁からくぼみ部までの距離
【請求項3】
前記段差構造は凸部であり、凹部の奥側に位置する該凸部の側壁と、該凸部の底面とがなす角度θ2が以下の関係を満たす請求項1に記載の電子線装置。
θ2>tan-1{(d−h)/(W+S2+(S1−S2)/2)}
d:カソードが位置している凹部の縁からゲートまでの距離
W:凹部の縁からくぼみ部までの距離
S1:凸部の底面の幅
S2:凸部の上面の幅
【請求項4】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電子線装置と、前記アノードの外側に位置する発光部材とを有することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−86927(P2010−86927A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258014(P2008−258014)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】