説明

電子線装置用試料台

【課題】焦点および収差補正を可能にする電子線装置用試料台を提供する。
【解決手段】電子線が入射する面に、種々の寸法の複数の収差補正用穴を設け、好適には、前記収差補正用の穴は約10nm乃至約100nmの種々のサイズの直径とし、観察試料から約100μm以内の範囲に分布させる。収差補正用穴の収差補正用パターンの代わりに、収差補正用薄膜を電子線装置用試料台に設けてもよい。収差補正用薄膜は、非晶質膜上にアイランド状の結晶粒子が分布しているものである。できるだけ観察試料の近くになるように配置することが望ましく、例えば、観察試料から100μm以内になるようにする。さらに、収差補正用穴の収差補正用パターンの代わりに、直径約10nm〜約100nmサイズの蒸着された複数の金属微粒子を設けてもよい。観察試料から約100μmの範囲内に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を電子線で観察する電子線装置に関し、特に、試料を電子線で捜査して二次電子像および透過像を観察する電子線装置において用いる試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
試料を電子線で観察する電子線装置としては、試料を走査して二次電子像を観察する走査電子顕微鏡(Scan Electron Microscope:SEM)、試料を走査して透過像を観察する走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)などの電子顕微鏡がある。これらのような電子顕微鏡では、高分解能での鮮明な像観察のために収差補正が重要になる。
【0003】
例えば、測長SEMなどでは、装置内部に焦点や収差補正用の標準試料を設けて補正を行うことができる。標準試料としては、特許文献1に記載されているように、特に非点収差補正には、非結晶膜上に結晶粒子のアイランド構造を持ったものが適している。これは、非点収差の方向と量が像の特定方向への伸びとして表されるため、透過像の見え方の違いを利用して容易に補正できるためである。すなわち、低倍率では結晶粒子自身、高倍率では非結晶膜のランダムに配置した原子の透過像が方向性を持たないように補正する。
STEMにおける球面収差補正に関しては、非特許文献1に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−367551号公報
【非特許文献1】中村邦康他「走査線透過電子顕微鏡の球面収差補正とその応用」顕微鏡 Vol.41、No.1、16〜20ページ、2006年
【非特許文献2】M. Haider, et al., "Ultramicroscopy", 81, p163-175, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、収差補正器を組み込んだ収差補正STEMが開発され、さらなる像の高分解能化が進んでいるが、それに伴い、焦点や収差のより厳密な補正が重要になっている。焦点および収差補正を適切に行うためには、標準試料と観察試料との距離が重要な要素となる。
【0006】
収差補正STEMでは、標準試料と観察試料との距離が離れると、試料ごとに持つ磁性の微小な変化により、非点収差やコマ収差が変化するために補正がうまくできず、標準試料で得られた高分解能観察条件が観察試料に移行されないおそれがある。
【0007】
また、測長SEMでは、試料高さ合わせ精度がSTEMに比べて高くない。そのため、標準試料と観察試料との距離が離れると、標準試料位置で収差補正した最適な電子光学条件を観察試料位置で再現できないおそれがある。
【0008】
標準試料によって得られた補正条件を保持した状態で観察試料を観察できるようにするためには、標準試料は観察試料から100μm以内の近傍にあることが重要である。
しかし、従来の電子線装置では、標準試料の設置場所に配慮がなされていなかった。
【0009】
例えばSTEMでは、高分解能ポールピースを使用しているために試料室内部が狭く、観察試料用の試料ホールダと標準試料が接触するおそれがあるので、装置内部に標準試料を設けることは困難であった。
【0010】
一般的に、観察試料は、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いて試料から微小試料片を摘出することによって得られる。このようにして得られた観察試料を固定するための従来の形状の試料台においては、別個の標準試料を観察試料の近傍に設置することは困難である。観察試料としてFIBによって摘出される微小試料片は、電子線が透過できないほど厚く、また、観察試料自身に補正用薄膜部がないため、補正動作を行うことができない。
【0011】
また、二次電子像しか観察できないSEMでは、透過像観察ができないため、非晶質膜構造を利用した収差補正を行うことができない。
【0012】
このように、FIBを用いて試料から観察試料として摘出した微小試料片を固定する試料台を使用するSEM、STEM、収差補正STEMにおいて、焦点および収差補正を行うことを可能にする手段が求められている。
【0013】
上述したことを鑑み、本発明は、焦点および収差補正を可能にする電子線装置用試料台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、観察試料を固定する電子線装置用試料台の電子線が入射する面に複数の収差補正用の穴を設けることによって上記課題を解決した。
【0015】
好適には、前記収差補正用の穴は約10nm乃至約100nmの種々のサイズの直径とし、観察試料から約100μm以内の範囲に分布させる。
前記収差補正用穴は、電子線装置用試料台を貫通してもよく、貫通していなくてもよい。
また、前記収差補正用穴は、円形以外の形状であってもよい。
収差補正用穴の代わりに、収差補正用薄膜、収差補正用金属微粒子を設けてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焦点および収差補正を可能にする電子線装置用試料台が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を説明する。これらの図において、図面を明瞭とするために、各要素の寸法は実際の比率通りに描かれていない。
【0018】
図1は、本発明の電子線装置用試料台の基本的な構成の一例を示す平面図である。電子線装置用試料台1は、直径3mm程度の円筒形であり、観察試料を固定する部分が矩形に切り取られている。電子線が入射する面である電子線装置用試料台1の上面には、直径が約10nm乃至約100nmの1個以上の円形の収差補正用穴2が、規則的又は不規則的に分布して設けられ、収差補正用パターンを構成している。収差補正用穴2は、補正精度を向上させるために、観察試料4の近傍になるように配置することが望ましく、例えば、観察試料4から約100μmの範囲内に配置する。
【0019】
収差補正用穴のサイズは、以下のような理由から決定される。図10は、デフォーカスと収差の関係を説明する図である。図10に示すように、プローブ像の形を測定する際、大きくデフォーカスすると収差は強調されるが、測定の限界が存在する。そのため、常用されるデフォーカス量は±100nm程度である。非特許文献1および2に記載のように、一般に、200kV収差補正STEMにおいて約0.1nmの分解能を得るための収束角は、20〜30mrad程度である。図11は、分解能と収束角の関係を説明する図である。図11に示すように、収束角を25mradとした場合、10nm径の穴は50%形状変化してしまうため、プローブ像が正しく測定できない。また、このようなサイズの穴を高倍率で観察すれば、試料汚染や試料ドリフトの影響が出やすいので問題がある。
【0020】
一方、100nm径の穴は5%しか形状変化しないため、変化量が小さすぎて正しく測定できない。また、100nm径の穴で±100nm以上デフォーカスすると、対物レンズのヒステリシスにより測定結果が安定しない。図12は、横軸が形状補正率を示し、縦軸が補正精度を示すグラフである。上記理由のため、形状変化率に対する補正精度は図12に示すようになり、したがって、収差補正用穴の穴径は約10nm〜約100nmが適当である。
【0021】
図2は、図1に示す収差補正用穴2の形状を示す図であり、図2(a)は図1と同様の平面図、図2(b)は図2(a)の直線AA’における断面図である。図2(b)に示すように、収差補正用穴2の断面形状は、エッジ効果がでるように電子線3が入射してくる方向に向かって広がるテーパ状になっていることが望ましい。
【0022】
図13は、解像度およびエッジ効果と加速電圧の関係を示すグラフである。縦軸が解像度およびエッジ効果を示し、横軸が加速電圧を示す。図13に示すように、入射電子は加速電圧が高いほど試料内部で拡散するため、電子線照射領域の周囲の情報が混入し、SE(Secondary Electron:二次電子)像の解像度およびコントラストが低下してしまう。しかし、エッジ効果は加速電圧が高くなるほど増大するため、収差補正用穴を電子線3が入射してくる方向に向かって広がるテーパ状にすることにより、高コントラストで観察できるようになる。したがって、加速電圧200kVでもエッジの検出率が向上するため、収差補正の精度が向上する。
【0023】
図3は、図1に示す電子線装置用試料台1において試料4を配置する位置を示す平面図である。観察試料4は、例えば、FIB加工装置を用いて、FIBマイクロサンプリング法により、試料から微小な試料片として摘出され、図3に示すような位置に固定される。
【0024】
収差補正用穴は、円形以外の形状であってもよい。図4は、収差補正用穴の種々の形状例を示す平面図である。収差補正用穴2は、円以外の形状であり、複数の曲線又は直線によって成り立っている。
【0025】
また、収差補正用穴は、図1に示すような電子線装置用試料台を貫通するものでなくてもよい。図5はこのような電子線装置用試料台を貫通しない収差補正用穴の形状を示す断面図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)の直線AA’における断面図である。図5(b)に示すように、収差補正用穴6、7は、電子線装置用試料台を貫通しない窪みや溝である。
【0026】
収差補正用穴の収差補正用パターンの代わりに、収差補正用薄膜を電子線装置用試料台に設けてもよい。図6は、このような収差補正用薄膜を有する電子線装置用試料台を示す平面図である。電子線装置用試料台1には、収差補正用薄膜8が嵌めこまれている。収差補正用薄膜8は、非晶質膜上にアイランド状の結晶粒子が分布しているものである。収差補正用薄膜8は、できるだけ観察試料4の近くになるように配置することが望ましく、例えば、観察試料4から100μm以内になるようにする。
【0027】
さらに、収差補正用穴の収差補正用パターンの代わりに、直径約10nm〜約100nmサイズの蒸着された複数の金属微粒子を設けてもよい。図7は、収差補正用金属粒子を有する電子線装置用試料台を示す平面図である。電子線装置用試料台1の上面には、直径約10nm〜約100nmの複数の収差補正用金属微粒子9が蒸着されている。収差補正用金属微粒子9は、補正精度を向上させるために、観察試料4の近傍になるように配置することが望ましく、例えば、観察試料4から約100μmの範囲内に配置する。
【0028】
図8は、本発明の電子線装置用試料台の構成の他の例を示す図である。この図に示す例では、電子線装置用試料台10は、円筒形部分に円錐台形部分の載った針状の形状を有し、円筒形および円錐形の軸を中心に360°回転可能な機構を有する。観察試料4は、針状の電子線装置用試料台10の円錐台部分の上面に固定される。電子線装置用試料台10の円錐台部分の側面には、図1に示す例と同様の、直径が約10nm乃至約100nmの1個以上の円形の収差補正用穴2が、規則的又は不規則的に分布して収差補正用パターンを構成している。図8の収差補正用穴も、電子線が入射してくる方向に向かって広がるテーパ状になっていることが望ましい。これらの収差補正用穴2は、補正精度を向上させるために、観察試料4の近傍になるように配置することが望ましく、例えば、観察試料4から約100μmの範囲内に配置する。図8の収差補正用穴2も、円形以外の形状であってもよい。さらに、収差補正用穴による収差補正用パターンの代わりに、図6に示す例の収差補正用薄膜8や、図7に示す例の収差補正用金属粒子9を設けてもよい。
【0029】
例として、収差補正STEMにおける本発明の電子線装置用試料台の使用方法を説明する。使用する電子線装置用試料台は、上述した図1乃至図8に示すいずれのものを用いても同様である。ここでは、例として図1乃至3に示す電子線装置用試料台を用いて説明する。
【0030】
初めに、FIB加工観察装置等を用いて、FIBマイクロサンプリング法により試料から観察試料4として微小な試料片を摘出する。
【0031】
次に、電子線装置用試料台1を取り付けた試料ホールダを、FIB加工観察装置内に挿入し、摘出した観察試料4を図3に示すような位置において電子線装置用試料台1に固定し、厚さ約100nmまで薄膜加工を行う。
【0032】
観察試料4を薄膜加工した後、試料ホールダを収差補正STEMに挿入し、観察試料4の薄膜加工部を探した後、観察試料4の近傍にある穴2を用いて収差補正操作を行う。
【0033】
以下にこのような収差補正操作の手順をフローチャートを参照して説明する。図9は、本発明の電子線装置用試料台による収差補正手順を説明するフローチャートである。
【0034】
ステップS901で、収差補正用穴がある視野に移動する。
ステップS902で、アンダフォーカス(UF:Under Focus)およびオーバフォーカス(OF:Over Focus)でのSE像/STEM像を取得し、それぞれを比較して一次収差(非点収差)とフォーカスを求め、所定の値になるように調整する。
ステップS903で、電子線を傾斜させながら、傾きの異なる複数個のSE像/STEM像をUFおよびOFにおいて取得し、それぞれを比較して二次収差(三次非点収差)とコマ収差を求め、所定の値になるように調整する。
ステップS904で、より詳細に調整するために、電子線の傾斜方位数を増やし、SE像/STEM像をUFおよびOFにおいて取得し、それぞれを比較して球面収差を求め、所定の値になるように調整する。
ステップS905で、観察試料位置に戻り、観察を開始する。
【0035】
このように、収差補正は、フォーカスを変化させ、UFとOFのデコンボリューションプローブ像を測定することにより実施する。したがって、高精度で補正を行うためには、収差補正用穴のエッジの数が多く、コントラストが高いほどよい。
【0036】
収差補正には、以下のような理由からSTEM像よりSE像が適している。上述したように、収差補正には収差補正用穴のパターンのエッジ変化を用いるため、明瞭に観察できる構造ならば、SE像とSTEM像のどちらを用いてもよい。しかし、STEM像で補正するには、貫通したパターンを観察する必要があり、厚さ方向に積算された情報のため、エッジ変化が正確に出ず、補正精度が低下する可能性がある。
【0037】
一方、SE像は試料表面の情報であり、パターンのエッジ変化が精度良く画像に反映されるので、補正精度が向上する。したがって、収差補正には収差補正用穴のSE像を用いるのがよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、試料を電子線で観察する電子線装置において用いる試料台に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の電子線装置用試料台の基本的な構成の一例を示す平面図である。
【図2】収差補正用穴の形状を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の直線AA’における断面図である。
【図3】電子線装置用試料台において試料を配置する位置を示す平面図である。
【図4】収差補正用穴の種々の形状例を示す平面図である。
【図5】収差補正用穴の形状を示す断面図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の直線AA’における断面図である。
【図6】収差補正用薄膜を有する電子線装置用試料台を示す平面図である。
【図7】収差補正用金属粒子を有する電子線装置用試料台を示す平面図である。
【図8】本発明の電子線装置用試料台の構成の他の例を示す図である。
【図9】本発明の電子線装置用試料台による収差補正手順を説明するフローチャートである。
【図10】デフォーカスと収差の関係を説明する図である。
【図11】分解能と収束角の関係を説明する図である。
【図12】形状変化率と補正精度の関係を示すグラフである。
【図13】解像度およびエッジ効果と加速電圧の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1、10 電子線装置用試料台
2、6、7 収差補正用穴
3 電子線
4 観察試料
8 収差補正用薄膜
9 収差補正用金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察試料を固定する電子線装置用試料台であって、
電子線が入射する面に、種々の寸法の複数の収差補正用穴が設けられていることを特徴とする電子線装置用試料台。
【請求項2】
前記収差補正用穴の直径は約10nm乃至約100nmであることを特徴とする請求項1記載の電子線装置用試料台。
【請求項3】
前記収差補正用穴は、電子線が入射してくる方向に向かって広がるテーパ状であることを特徴とする請求項1記載の電子線装置用試料台。
【請求項4】
前記収差補正用穴は、観察試料から約100μm以内に配置されていることを特徴とする請求項1記載の電子線装置用試料台。
【請求項5】
前記収差補正用穴は、該電子線装置用試料台を貫通していることを特徴とする請求項1記載の電子線装置用試料台。
【請求項6】
前記収差補正用穴は、該電子線装置用試料台を貫通していないことを特徴とする請求項1記載の電子線装置用試料台。
【請求項7】
前記収差補正用穴は、円形ではないことを特徴とする請求項1記載の電子線装置用試料台。
【請求項8】
観察試料を固定する電子線装置用試料台であって、
電子線が入射する面に、非晶質膜上にアイランド状の結晶粒子が分布して成る収差補正用薄膜が設けられていることを特徴とする電子線装置用試料台。
【請求項9】
観察試料を固定する電子線装置用試料台であって、
電子線が入射する面に、粒径約10nm乃至約100nmの複数の収差補正用金属微粒子が蒸着されていることを特徴とする電子線装置用試料台。
【請求項10】
該電子線装置用試料台は、円柱部に円錐台部を載せた形状を有し、前記円柱部および円錐台部の軸を中心に360°回転可能な機構を有し、
試料は前記円錐台部の上面に固定され、
前記収差補正用穴は前記円錐台部の側面に設けられることを特徴とする請求項1記載の電子線装置用試料台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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