説明

電子部品固定治具

【課題】 フレキシブルプリント配線板等の電子部品の浮き、剥離、変形を抑制し、電子部品を取り外す際の作業性を向上させることのできる電子部品固定治具を提供する。
【解決手段】 平坦な基材1の表面に、フレキシブルプリント配線板を保持する左右一対の密着層2を並べ備え、JIS Z 0237に規定される90°引き剥がし法に基づき、幅が10mmで厚さが25μmのポリイミドフィルム4を被着体として一対の密着層2に密着させ、この密着したポリイミドフィルム4を20℃の測定環境で一対の密着層2から剥離する際の密着剥離強度測定における振幅を平均値±5%以内の範囲とする。ポリイミドフィルム4を密着層2から剥離する際の密着剥離強度測定における振幅を平均値±5%以内の範囲とするので、フレキシブルプリント配線板3の浮き、剥離、変形を抑制防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドリングが困難な電子部品、例えばフレキシブルプリント配線板等を搭載固定したり、小型の電子部品を搭載して作業効率に資することのできる電子部品固定治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される携帯機器には配線基板が内蔵されるが、この配線基板としては省スペース化や屈曲性に優れるフレキシブルプリント配線板(FPCともいう)が多用され、このフレキシブルプリント配線板には、単独ではハンドリングが困難な程に小型化された複数の電子部品(例えば抵抗素子、コンデンサ、インダクタ、フィルタ等)が実装される。
【0003】
この電子部品の実装はクリームハンダの印刷作業、電子部品のマウント作業、ハンダリフロー作業等を通じて行われ、これらの作業の後に、検査、洗浄、カットの作業が実施される。これらの作業においては、フレキシブルプリント配線板を平坦に固定したり、工程間で搬送しなければならない関係上、フレキシブルプリント配線板を搭載固定する電子部品固定治具が必要とされる(特許文献1参照)。
係る電子部品固定治具は、図示しないが、基材の表面にフレキシブルプリント配線板を着脱自在に保持する微粘着性の密着層が積層されている。
【特許文献1】特許第3435157号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来における電子部品固定治具は、以上のように基材に微粘着性の密着層が単に積層されるに止まるので、フレキシブルプリント配線板の浮き、剥離、変形が生じることがある。また、従来の電子部品固定治具は、基材にフレキシブルプリント配線板を密着させる場合には、特に大きな支障を来たさないものの、フレキシブルプリント配線板を取り外す際には作業性が悪いという大きな問題がある。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたもので、フレキシブルプリント配線板等の電子部品の浮き、剥離、変形を抑制し、電子部品を取り外す際の作業性を向上させることのできる電子部品固定治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては上記課題を解決するため、基材の両面のうち少なくとも片面の一部に、電子部品を着脱自在に保持する密着層を備え、
JIS Z 0237の90°引き剥がし法に準拠し、幅が10mmで厚さが25μmのポリイミドフィルムを密着層に密着させ、このポリイミドフィルムを20℃の環境で密着層から剥離する際の密着剥離強度の振幅を平均値±5%以内の範囲としたことを特徴としている。
なお、密着層を弾性のエラストマーとし、このエラストマーのJIS A硬度をエラストマーの厚さで除した値を10〜1,500の範囲とすることが好ましい。
【0007】
ここで、特許請求の範囲における密着層は、基材の両面あるいは片面の全部又は一部に単数複数積層される。電子部品には、少なくとも単数複数のフレキシブルプリント配線板、チップ部品、抵抗素子、セラミックコンデンサ、インダクタ、フィルタ等が含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フレキシブルプリント配線板等に代表される電子部品の浮き、剥離、変形を抑制し、しかも、電子部品を取り外す際の作業性を向上させることができるという効果がある。
また、密着層を弾性のエラストマーとすれば、密着層に電子部品が強く押圧されることにより損傷するのを有効に防止することができる。また、エラストマーのJIS A硬度をエラストマーの厚さで除した値を10〜1,500の範囲とすれば、ポリイミドフィルムを剥離する際の密着層の変形量や振幅が大きくなるのを防ぐことができる。さらに、電子部品を有効に保持することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における電子部品固定治具は、図1ないし図5に示すように、平坦な基材1の表面に、フレキシブルプリント配線板3を保持する左右一対の密着層2を並べ備え、JIS Z 0237に規定される90°引き剥がし法に基づき、幅が10mmで厚さが25μmのポリイミドフィルム4を被着体として一対の密着層2に密着させ、この密着したポリイミドフィルム4を20℃の測定環境で一対の密着層2からそれぞれ上方に剥離する際の密着剥離強度測定における振幅を平均値±5%以内の範囲とするようにしている。
【0010】
基材1は、例えば0.5〜10mmの厚さを有する所定の材料により剛性の平板に形成される。この基材1の材料は、特に限定されるものではないが、アルミニウム合金、ステンレス、マグネシウム合金、ガラス繊維強化エポキシ樹脂、ガラスが好ましい。これは、これらの材料が耐熱性、耐熱変形性、加工性に優れること、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ガラス繊維強化エポキシ樹脂の場合には、軽量であるからである。また、ステンレスの場合には、SUS430等磁石による搬送、固定が可能になり、ガラスの場合には、面精度に優れるからである。
【0011】
基材1は、図2に示すように主に平面長方形に形成されるが、必要に応じ、多角形、円形、楕円形、円の一部を切り欠いた形等に形成される。この基材1には、既に実装された電子部品や補強板の位置、形状に応じたザグリ、穴、フレキシブルプリント配線板3用の位置決め穴、電子部品固定治具自体を作業テーブルに位置合わせするための穴等が選択的に加工される。
【0012】
各密着層2は、耐熱性や弾性等に優れるフッ素系やシリコーン系のエラストマー等を使用して平面帯形に形成され、複数のフレキシブルプリント配線板3を着脱自在に密着固定する。この密着層2は、フレキシブルプリント配線板3の実装に使用される場合、ハンダリフロー温度に耐えることが要求され、又溶剤で抽出される成分が300ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とされる。フッ素系のエラストマーの具体例としては、フッ化ビニリデン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン‐プロピレン系フッ素ゴム、フルオロホスファゼン系フッ素ゴム、パーフルオロポリエーテル系フッ素ゴム等があげられる。
【0013】
係る密着層2の製造方法については、特に限定されるものではないが、例えば基材1の全表面又は表面の一部に、上記エラストマー組成物をスクリーン印刷、メタルマスク印刷、ディッピング、ドクターブレードコーティング、ナイフコーティング、バーコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング等の方法により塗布し、硬化させることにより製造することができる。
【0014】
また、金型に基材1をインサートしてコンプレッションやインジェクション等の方法により成形することもできるし、カレンダー、押出、プレス等によりシートを成形し、このシートを基材1に貼着することにより製造することもできる。
【0015】
エラストマー組成物には、界面活性剤や密着層2の強度を向上させる補強性フィラー等が必要に応じて添加されるが、この場合には、混合ムラ等を防止する観点から各種のミキサー等を用いて混合される。
【0016】
密着層2は、そのJIS A硬度/厚さ(mm)の値が10〜1,500、好ましくは10〜1,000の範囲に設定されるとともに、JIS A硬度が20〜75度、好ましくは20〜50度、厚さが0.05〜2mmの範囲に設定される。これは、密着層2のJIS A硬度/厚さ(mm)の値が10未満の場合には、密着層2が柔らかく厚くなるので、剥離時における密着層2の変形量や振幅が大きくなるからである。逆に、密着層2のJIS A硬度/厚さ(mm)の値が1,500を超える場合には、振幅を抑制することができるものの、密着層2が硬く薄くなるので、密着層2にフレキシブルプリント配線板3を十分に保持することができなくなるからである。
【0017】
なお、密着層2のフレキシブルプリント配線板3に対する密着力は、同じ組成であれば、密着層2の表面が鏡面であるほど強くなり、粗面であるほど弱くなる。また、密着層2は、厚くなるほど強くなり、薄くなると弱くなる。このため、密着層2の密着力を意図的・部分的に調整したい場合には、面粗度や厚さを調整すれば良く、それ以外では均一に形成することが好ましい。
具体的な密着強度としては、固定しようとするフレキシブルプリント配線板3等の電子部品により適宜設定すれば良く、固定時には確実に密着し、取り外す際には電子部品が破損変形しないような強度に設定される。
【0018】
JIS Z 0237に規定される90°引き剥がし法の実施に際しては、サンプリング10回/秒とし、平均値を算出することが好ましい。また、振幅値は、最大値‐平均値をプラス側の値とし、平均値‐最小値をマイナス側の値とすることが好ましい。また、密着層2が部分的に形成され、10mm幅で測定できない場合には、測定可能な幅で測定して換算すれば良い。
【0019】
ポリイミドフィルム4の剥離に伴う振幅には、密着層2の硬度や厚さの他、密着層2の表面の凹凸、厚さムラ、材料の混合ムラに伴う硬化ムラ、異物の混入が影響することがあるが、密着層表面の凹凸が影響する場合には、例えば密着層2の低表面張力化、低粘度化、界面活性剤の添加、材料やその硬化方法の変更、材料のろ過等により対処することができる。
【0020】
また、密着層2の厚さムラが問題となる場合には、例えば成形方法、硬化時の傾き(水平度)、基材1の材料の変更等により対処することができる。また、材料の混合ムラに伴う硬化ムラが問題となる場合には、スタティックミキサー、自転公転式ミキサー、ミキシングロール等の選択により対処することができる。さらに、異物の混入が問題となる場合には、製造環境の変更やろ過等により対処することが可能である。
【0021】
上記によれば、ポリイミドフィルム4を密着層2から剥離する際に測定した強度振幅値を平均値±5%以内の範囲とするので、フレキシブルプリント配線板3の浮き、剥離、変形を有効に抑制防止することができる。また、リフロー後における部品の脱落を防止できる他、フレキシブルプリント配線板3を取り外す際の作業性を著しく向上させることができる。また、密着層2のエラストマーの溶剤抽出成分を300ppm以下とすれば、加熱時における低分子成分の揮発や再付着を抑制防止したり、密着部分の移行を有効に防ぐことができる。
【0022】
さらに、密着層2に添加する補強性フィラーとして、ケイ素系表面処理剤により処理されたヒュームドシリカを選択すれば、密着層2の母材強度を向上させて破損を防ぎ、破断した小さなエラストマーの切片が電子部品に付着するのを抑制防止することができる。さらにまた、未処理のヒュームドシリカを分散させるためのオイル成分(ウェッターともいう)の添加が不要となり、移行のおそれのある成分の含有防止も期待できる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明に係る電子部品固定治具の実施例を比較例と共に説明する。
クラス1000のクリーンルーム内において、アルミニウム板からなる基材の表面に、表1に示す条件で左右一対の密着層を間隔をおいて形成し、実施例1〜8、比較例1〜3の電子部品固定治具をそれぞれ製造した後、JIS Z 0237に規定される90°引き剥がし法により、ポリイミドフィルムを20℃の測定環境で密着層から剥離する際の密着剥離強度における振幅を測定した。そして、電子部品固定治具の密着層にフレキシブルプリント配線板を密着させ、フレキシブルプリント配線板の変形、浮き、剥がれ、部品脱落の有無を観察した。
【0024】
基材は、t1.0mm×150mm×250mmの大きさとし、反りやねじれを0.1mm以下とした。また、各密着層は、20mmの幅とし、0.2mm以下の厚さに形成する場合には、スクリーン印刷法を採用した。1.5mmや2mmの厚さに形成する場合には、プレス成形法を採用した。
【0025】
90°引き剥がし法の実施に際しては、サンプリング10回/秒として平均値を算出し、最大値‐平均値をプラス側の振幅とし、平均値‐最小値をマイナス側の振幅とした。また、フレキシブルプリント配線板は、25μmの厚さを有するポリイミド製の基材を備え、この基材の片面に銅箔がパターン形成されており、端子部が金メッキ処理されている。
【0026】
【表1】

【0027】
観察結果
実施例1、2、3、5、6の場合には、振幅値がプラス、マイナス側共に5%の範囲内で十分に小さく、フレキシブルプリント配線板に変形の見られない良好な結果を得ることができた。
実施例4の場合には、界面活性剤を添加しなかった関係上、密着層の表面レベリング性に影響があり、マイナス側の振幅値が若干大きくなったものの、電子部品固定治具の性能に問題は生じなかった。
【0028】
実施例7の場合には、振幅がプラス、マイナス側共に小さいものの、硬度/厚さの値が大きかったため、フレキシブルプリント配線板に若干の浮きが認められた。しかしながら、実用上の問題は生じなかった。
【0029】
これに対し、比較例1では、実施例1の硬化条件を変更し、急激に温度を上昇させたため、硬化ムラが発生して密着層の表面に凹凸が生じた。この結果、マイナス側の振幅値が5%の範囲から逸脱し、リフロー工程によりフレキシブルプリント配線板に部分的な浮きが認められた。
【0030】
比較例2では、密着層の材料を手により混合したため、混合ムラが発生し、振幅値がプラス、マイナス側共に5%の範囲から逸脱した。この結果、リフロー工程によりフレキシブルプリント配線板に部分的な浮きが認められ、しかも、フレキシブルプリント配線板を剥離した際に変形した。
【0031】
比較例3では、密着層の硬度/厚さの値が小さくなった関係上、振幅値がプラス、マイナス側共に5%の範囲から逸脱した。この結果、フレキシブルプリント配線板を剥離した際に変形し、搭載部品も脱落した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る電子部品固定治具の実施形態における90°引き剥がし法の実施状態を示す説明図である。
【図2】本発明に係る電子部品固定治具の実施形態における使用状態を示す平面説明図である。
【図3】図2の断面説明図である。
【図4】本発明に係る電子部品固定治具の実施形態を示す平面説明図である。
【図5】図4の断面説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 基材
2 密着層
3 フレキシブルプリント配線板(電子部品)
4 ポリイミドフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の両面のうち少なくとも片面の一部に、電子部品を着脱自在に保持する密着層を備え、
JIS Z 0237の90°引き剥がし法に準拠し、幅が10mmで厚さが25μmのポリイミドフィルムを密着層に密着させ、このポリイミドフィルムを20℃の環境で密着層から剥離する際の密着剥離強度の振幅を平均値±5%以内の範囲としたことを特徴とする電子部品固定治具。
【請求項2】
密着層を弾性のエラストマーとし、このエラストマーのJIS A硬度をエラストマーの厚さで除した値を10〜1,500の範囲とした請求項1記載の電子部品固定治具。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate