説明

電子鍵盤楽器

【課題】筐体を利用して音響空間が構成された電子鍵盤楽器において、その音響空間からの音漏れを防ぐこと。
【解決手段】筐体10は、仕切板13の両端部13a,13bを筐体本体11の一対の案内溝11d,11eにそれぞれ差し入れるとともに、その際に筐体本体11における左右方向の両端それぞれに形成される一対の開口部10b,10bを一対の側蓋16,16によってそれぞれ塞いだことによって、その内部に音響空間10aが形成されている。このことにより、筐体本体11と仕切板13との接合部に隙間が生じにくく、音響空間10aからの音漏れを防ぐことができる。また、これにより、低音域から高音域まで良好な音質、制動の効いた反応(レスポンス)のよい音質を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体を利用して音響空間が構成された電子鍵盤楽器において、その音響空間からの音漏れによる音質劣化を防ぐ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、筐体を利用して音響空間が構成された電子ピアノや電子オルガンなどの電子鍵盤楽器が知られている。
このような電子鍵盤楽器の中には、合成樹脂製の上側筐体および下側筐体によって筐体を構成し、且つこれら上側筐体および下側筐体の少なくとも一方にリブを筐体内部に向けて突出させるよう形成し、さらに上側筐体および下側筐体を合わせることによってその内部に密閉隔離された音響空間を有するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このように密閉隔離された音響空間を備えることにより、単に壁面で囲った音響空間を備える場合に比べて次のような有利な点がある。
(1)低音性能がよい
(2)音切れ・音の反応(レスポンス)がよい
【特許文献1】特開平2−158800号公報(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のような電子鍵盤楽器においては、次のような理由によって上側筐体および下側筐体を合わせた際にこれらの接合面に隙間ができやすく、この隙間から音が漏れるために音質が低下するという問題があった。すなわち、一般に低音域から高音域まで良好な音響特性を得るためには、スピーカボックスは密閉構造で且つ壁厚を大きくした方がよいとされる。そのために上述のリブの厚さを上側筐体や下側筐体の壁部分の厚さより大きく設定すると、上側筐体や下側筐体の成形時における金型内の成形材料(合成樹脂)が冷却固化する際に、肉厚の薄い部分である上側筐体や下側筐体の壁部分が、肉厚の厚い部分であるリブより先に固化するため、肉厚の厚い部分の成形材料が肉厚の薄い部分に引っ張られて歪みが生じやすいからである。
【0005】
なお、筐体を構成する上側筐体および下側筐体を合わせた接合面に生じた隙間に防振テープなどの防振材を装着することによってその隙間を埋めることも考えられるが、このようにした場合にはその分筐体の製造工数や製造コストが増加するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような不具合に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、筐体を利用して音響空間が構成された電子鍵盤楽器において、その音響空間からの音漏れを防ぐ技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る電子鍵盤楽器は、「押出材を利用した筐体に形成された一対の案内溝に仕切板を差し入れ、筐体の両端の開口部を蓋部によって塞ぐことによって音響空間を形成したこと」を特徴とする。
【0008】
具体的には、上述の電子鍵盤楽器(1:この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための最良の形態」欄で用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)は、筐体(10)を備えており、その筐体を利用して音響空間が構成されている。この筐体は、筐体本体(11)と、板状の仕切板(13)と、一対の側蓋(16,16)と、を備えている。筐体本体は、その一部が開放された断面を有する押出材を利用して構成され、開口部と前記押出材の押し出し方向に沿って形成された一対の案内溝(11d,11e)を有する。また、仕切板は、その両端を筐体本体の一対の案内溝へそれぞれ差し入れることによって前記開口部を塞ぐことが可能である。また、側蓋は、仕切板の両端が筐体本体の一対の案内溝にそれぞれ差し入れられた場合に筐体本体における押し出し方向の両端それぞれに形成される一対の開口部(10b)を塞ぐことが可能である。そして、筐体については、仕切板の両端を筐体本体の一対の案内溝にそれぞれ差し入れるとともに、その際に筐体本体における押し出し方向の両端それぞれに形成される一対の開口部を一対の側蓋によってそれぞれ塞いだことによってその内部に音響空間(10a)が形成されている。
【0009】
従来の電子鍵盤楽器においては、上側筐体および下側筐体を合わせた際にこれらの接合面に隙間ができやすく、この隙間から音が漏れるために音質が低下するという問題があった。これに対して本発明によれば、押出材を利用した筐体に形成された一対の案内溝に仕切板を差し入れ、筐体の両端の開口部を蓋部によって塞ぐことによって音響空間を形成したので、筐体本体と仕切板との接合部に隙間が生じにくく、音響空間からの音漏れを防ぐことができる。また、これにより、低音域から高音域まで良好な音質、制動の効いた反応(レスポンス)のよい音質を得ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、仕切板を挿入するための案内溝が上述の押出材の一部として押し出し成形時に形成されるので、従来の電子鍵盤楽器のような筐体を構成する上側筐体および下側筐体を合わせた接合面に生じた隙間に防振テープなどの防振材を装着してその隙間を埋めるようなことをする必要がなく、余分な筐体の製造工数や製造コストが増加することがない。また、例えば筐体本体にレール部材を取り付けることにより案内溝を形成する場合に比べて容易に案内溝を形成することができる。
【0011】
この場合、筐体本体の案内溝の内部にクッション材を備え、案内溝に差し入れられた仕切板の端部との密着性を高めるようにしてもよい(請求項2)。このようにすれば、筐体本体と仕切板との接合部に隙間がさらに生じにくくすることができる。
【0012】
また、上述の音響空間については、その内部に分割部材を入れて左右や上下に分割してもよい(請求項3)。このようにすれば、分割された各音響空間それぞれにスピーカを取り付けることにより、音漏れがない高音質のステレオ音を放音することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
[第一実施形態]
図1(a)は、電子鍵盤楽器1を示す平面図である。また、図1(b)は筐体10を示す斜視図である。なお、図1(a)では電子鍵盤楽器1において、鍵盤20が配置されて演奏者が演奏する側(図1(a)で上側)を「前側」とし、演奏者が演奏する側の反対側(図1(a)では下側)を「後側」とし、演奏者側から見た電子鍵盤楽器1の右側、左側をそれぞれ「右側」、「左側」とする。
【0014】
[電子鍵盤楽器1の構成の説明]
図1(a)に示すように、電子鍵盤楽器1は、筐体10および筐体10の前側に載せられた鍵盤20を備えている。なお、鍵盤20の各部構成については、公知技術にしたがっているのでここでは詳細な説明は省略する。
【0015】
[筐体10の構成の説明]
図1(b)に示すように、筐体10は、筐体本体11、棚板12、仕切板13、スピーカ14、ダクト15、側蓋16を備えている。
【0016】
このうち、筐体本体11は、アルミ材料を押し出し成形した押出材を利用して構成されている。具体的には、筐体本体11は、断面略コの字状の長尺部材であり、コの字の中央部分11aと、その両側に位置する上側翼部11bおよび下側翼部11cとから構成されている。また、この筐体本体11の長さ寸法は、鍵盤20の左右方向の長さ寸法とほぼ等しく設定されている。また、上側翼部11bには、仕切板13の端部13aを案内するための案内溝11dが押出材の押し出し方向に沿って形成されており、一方、下側翼部11cには、仕切板13の端部13bを案内するための案内溝11eが押出材の押し出し方向に沿って案内溝11dと対向するよう形成されている。なお、案内溝11d,11eについては、上側翼部11bおよび下側翼部11cから2つのレール状の突起部をそれぞれ突起させることによって形成されている。また、筐体本体11の上側翼部11bの左右の端部付近には、スピーカ14を取り付けるための取付孔(図示省略)がそれぞれ2つずつ形成されており、これら取付孔にはスピーカ14がそれぞれ取り付けられている。このことにより、本実施形態の電子鍵盤楽器1では、スピーカ14を左右に2つずつ配置したいわゆる2ウェイ構成を有している。また、筐体本体11の下側翼部11cの左右の端部付近には、ダクト15を取り付けるための取付孔(図示省略)がそれぞれ1つずつ形成されており、これら取付孔にはダクト15が取り付けられている。このことにより、本実施形態の電子鍵盤楽器1では、いわゆるバスレフ構造を有している。
【0017】
また、棚板12は、木質材料で構成された板材である。この棚板12の長さ寸法は筐体本体11の長さ寸法とほぼ等しく設定されている。また、棚板12は、その前側に鍵盤20を載せることができるよう構成されている(図1(a)参照)。また、棚板12は、その後側に筐体本体11(より具体的には、下側翼部11c)をビスなどによって取り付けることができるよう構成されている。また、棚板12は、その下面に、電子鍵盤楽器1を支持するスタンド(図示省略)をビスなどによって取り付けることができるよう構成されている。
【0018】
また、仕切板13は、アルミ材料で構成された板材であり、その長さ寸法が筐体本体11の長さ寸法とほぼ等しく設定されている。また、仕切板13は、その高さ寸法が、筐体本体11における上側翼部11bに形成された案内溝11dと下側翼部11cに形成された案内溝11eとの間の寸法より若干小さく設定され、また、その両端部13a,13bの厚み寸法が、筐体本体11の案内溝11d,11eの溝幅寸法よりも若干小さく設定されており、垂直に立てた姿勢でその両端部13a,13bが案内溝11d,11eにそれぞれ差し入れられている。
【0019】
また、側蓋16は、仕切板13の両端が筐体本体11の一対の案内溝11d,11eにそれぞれ差し入れられた場合に筐体本体11における左右方向の両端それぞれに形成される一対の開口部を塞ぐことが可能に構成されており、棚板12や筐体本体11にビスなどで取り付けられている。
【0020】
以上のように構成された筐体10は、仕切板13の両端部13a,13bを筐体本体11の一対の案内溝11d,11eにそれぞれ差し入れるとともに、その際に筐体本体11における左右方向の両端それぞれに形成される一対の開口部10b,10bを一対の側蓋16,16によってそれぞれ塞いだことによって、その内部に音響空間10aが形成されている。
【0021】
なお、電子鍵盤楽器1における各部構成については、公知技術にしたがっているのでここでは詳細な説明は省略する。
[効果]
このように第一実施形態の電子鍵盤楽器1によれば、次のような効果を奏する。すなわち、従来の電子鍵盤楽器においては、上側筐体および下側筐体を合わせた際にこれらの接合面に隙間ができやすく、この隙間から音が漏れるために音質が低下するという問題があった。これに対して第一実施形態の電子鍵盤楽器1によれば、筐体10については、仕切板13の両端部13a,13bを筐体本体11の一対の案内溝11d,11eにそれぞれ差し入れるとともに、その際に筐体本体11における左右方向の両端それぞれに形成される一対の開口部10b,10bを一対の側蓋16,16によってそれぞれ塞いだことによってその内部に音響空間10aが形成されているので、筐体本体11と仕切板13との接合部に隙間が生じにくく、音響空間10aからの音漏れを防ぐことができる。また、これにより、低音域から高音域まで良好な音質、制動の効いた反応(レスポンス)のよい音質を得ることができる。
【0022】
また、第一実施形態の電子鍵盤楽器1によれば、仕切板13の両端部13a,13bをそれぞれ挿入するための案内溝11d,11eが上述の押出材の一部として押し出し成形時に形成されるので、従来の電子鍵盤楽器のような筐体を構成する上側筐体および下側筐体を合わせた接合面に生じた隙間に防振テープなどの防振材を装着してその隙間を埋めるようなことをする必要がなく、余分な筐体の製造工数や製造コストが増加することがない。また、例えば筐体本体にレール部材を取り付けることによって案内溝を形成する場合に比べて容易に案内溝11d,11eを形成することができる。
【0023】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な態様にて実施することが可能である。
【0024】
(1)上記実施形態では、アルミ材料を押し出し成形した押出材を利用して筐体本体11を構成しているが、これは限られず、例えば樹脂材料などの他の素材を押し出し成形した押出材を利用して筐体本体11を構成してもよい。
【0025】
(2)また、上記実施形態では、仕切板13をアルミ材料で構成しているが、これは限られず、仕切板13を樹脂材料や木質材料などの他の材料で構成してもよい。
(3)上記実施形態では、筐体10において、筐体本体11の上側翼部11bに案内溝11dが形成されており、一方、下側翼部11cに案内溝11eが案内溝11dと対向するよう形成されており、これら案内溝11d,11eに板状の仕切板13の両端部13a,13bが差し入れされているが、これには限られず、様々に形成することが考えられる。一例を挙げると、図2(a)に例示するように、筐体110において、筐体本体111の上側翼部111bに案内溝111dを形成し、一方、筐体本体111の中央部分111aに案内溝111eを案内溝111dと対向するよう形成し、これら案内溝111d,111eに板状の仕切板113の両端部113a,113bをそれぞれ差し入れるといった具合である。また、図2(b)に例示するように、筐体120において、筐体本体121の上側翼部121bに案内溝121dを形成し、一方、筐体本体121の中央部分121aに案内溝121eを案内溝121dと対向するよう形成し、これら案内溝121d,121eに、断面が略L字状の仕切板123の両端部123a,123bを差し入れるといった具合である。このように構成しても上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0026】
(4)上記実施形態では、案内溝11d,11eについては、上側翼部11bおよび下側翼部11cから2つのレール状の突起部をそれぞれ突起させることにより形成されているが、これには限られず、図2(c)に例示するように、筐体本体131において、上側翼部131bおよび下側翼部131cの表面からその内部に向けて案内溝131d,131eをそれぞれ形成し、これら案内溝131d,131eに、仕切板133の両端部133a,133bを差し入れるようにしてもよい。このように構成しても上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0027】
(5)上記本実施形態では、スピーカ14を左右に2つずつ配置しているが、これには限られず、スピーカ14を取り付けるための取付孔(図示省略)の数量を変更することにより、例えばスピーカを左右に1つずつ配置してもよいし(いわゆるフルレンジ構成)、スピーカを左右に3つずつ配置してもよい(いわゆる3ウェイ構成)。
【0028】
(6)上記実施形態において、筐体本体11の案内溝11d,11eの内部に例えばクッション材(図示省略)を備え、案内溝11d,11eに差し入れられた仕切板13の両端部13a,13bとの密着性を高めるようにしてもよい。このようにすれば、筐体本体11と仕切板13との接合部に隙間がさらに生じにくくすることができる。
【0029】
(7)上記実施形態において、上述の音響空間については、その内部に分割部材を入れて左右や上下に分割してもよい。一例を挙げると、筐体本体11の中央部分11a、上側翼部11b、下側翼部11c、仕切板13それぞれに案内溝を別途形成して、これらの4つの案内溝の内側に分離用仕切板を入れるといった具合である。このようにすれば、分割された各音響空間それぞれにスピーカを取り付けることにより、音漏れがない高音質のステレオ音を放音することができる。
【0030】
(8)上記実施形態では、スピーカ14を筐体10の上部(筐体本体11の上側翼部11b)に取り付けるよう構成しているが、これには限られず、スピーカ14を筐体10の後部(筐体本体11の中央部分11a)や下部(筐体本体11の下側翼部11c)などに取り付けるよう構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)は電子鍵盤楽器を示す平面図であり、(b)は筐体を示す斜視図である。
【図2】(a)別実施形態の筐体を示す説明図(1)であり、(b)別実施形態の筐体を示す説明図(2)であり、(c)別実施形態の筐体を示す説明図(3)である。
【符号の説明】
【0032】
1・・・電子鍵盤楽器、10,110,120,130・・・筐体、10a・・・音響空間、10b・・・開口部、11,111,121,131・・・筐体本体、11a,111a,121a,131a・・・中央部分、11b,111b,121b,131b・・・上側翼部、11c,111c,121c,131c・・・下側翼部、11d,11e,111d,111e,121d,121e,131d,131e・・・案内溝、12・・・棚板、13,113,123,133・・・仕切板、13a,13b,113a,113b,123a,123b,133a,133b・・・仕切板の端部、14・・・スピーカ、15・・・ダクト、16・・・側蓋、20・・・鍵盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体を利用して音響空間を構成した電子鍵盤楽器であって、
前記筐体は、
その一部が開放された断面を有する押出材を利用して構成され、開口部と前記押出材の押し出し方向に沿って形成された一対の案内溝とを有する筐体本体と、
その両端を前記一対の案内溝へそれぞれ差し入れることによって前記開口部を塞ぐことが可能な仕切板と、
前記仕切板の両端が前記一対の案内溝にそれぞれ差し入れられた場合に前記筐体本体における押し出し方向の両端それぞれに形成される一対の開口部を塞ぐことが可能な一対の側蓋と、
を備え、前記仕切板の両端を前記一対の案内溝にそれぞれ差し入れるとともに、前記一対の開口部を前記一対の側蓋によってそれぞれ塞いだことによってその内部に音響空間が形成されていること
を特徴とする電子鍵盤楽器。
【請求項2】
請求項1に記載の電子鍵盤楽器において、
前記筐体は、
前記案内溝の内部に配置されて前記案内溝に差し入れられた前記仕切板の端部との密着性を高めるためのクッション材を備えること
を特徴とする電子鍵盤楽器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電子鍵盤楽器において、
前記筐体は、前記音響空間を分割するための分割部材をその内部に備えること
を特徴とする電子鍵盤楽器。

【図1】
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【図2】
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