説明

電極反応分布測定システムおよび電極反応分布測定方法

【課題】 燃料電池の電極−電解質構造体の電極反応分布を簡便に得るための電極反応分布測定システムおよび電極反応分布測定方法を提供する。
【解決手段】 電極反応分布測定システムを、測定対象となる燃料電池の電極−電解質構造体に接続され、該電極−電解質構造体の全電流または端子間電圧を制御する1つの負荷装置と、該電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々における反応電流を測定する電流測定装置と、該電極−電解質構造体の前記複数の部分領域の各々における電解質抵抗を測定する抵抗測定装置と、前記複数の部分領域のうちの同一の部分領域における反応電流と電解質抵抗との測定を同時に行うように当該電極反応分布測定システムを制御する測定制御装置とを含むよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、燃料電池の電極−電解質構造体の電極反応分布を得るための電極反応分布測定システムおよび電極反応分布測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ガスの電気化学的反応を利用して、化学エネルギを直接電気エネルギに変換する燃料電池は、カルノー効率の制約を受けないため発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ないことから、近年、発電用、低公害の自動車用電源等、種々の用途が期待されている。燃料電池は、その電解質により分類することができ、例えば、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体電解質型燃料電池、固体高分子型燃料電池等が知られている。
【0003】一般に、燃料電池は、電解質とその両側に設けられた一対の電極(燃料極・空気極)とを有する電極−電解質構造体を発電単位とし、燃料極に水素や炭化水素等の燃料ガスを、空気極に酸素や空気等の酸化剤ガスをそれぞれ供給して、ガスと電解質と電極との3相界面において電気化学的な反応を進行させることにより電気を取り出すものである。
【0004】このように、燃料電池では、電極−電解質構造体の全体で均一に電極反応が進行することが重要となる。しかし、電極−電解質構造体の場所によって電解質中の水分量や電解質の劣化の程度、また、燃料ガス中の水素濃度や空気中の酸素濃度等が異なることにより、電極−電解質構造体の全体で電極反応が均一に進行しない場合がある。つまり、電極−電解質構造体の部分ごとで電極反応の程度に差が生じる場合がある。したがって、この電極−電解質構造体の部分ごとにおける電極反応の程度を把握することで、電解質や電極触媒等の構成部材の最適化や燃料ガスや酸化剤ガスの加湿量等の最適化を図ることが可能となり、さらに、電極−電解質構造体の劣化原因や劣化の進行具合等を知ることができる。
【0005】電極−電解質構造体における電極反応の分布を調査する方法として、例えば、Electrochim.Acta,43,3773−3783(1998)には、電極−電解質構造体における集電体の電極に接しない側を所定の領域に区分けし、その所定の領域ごとの反応電流を測定する方法が示されている。また、J.Appl.Electrochem,28,663−672(1998)には、電極−電解質構造体における電極を分割することで測定部分とそれ以外の部分とに分け、両部分にそれぞれ負荷装置を接続して測定部分における反応電流と電解質の抵抗とを測定する方法が示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前者のように反応電流を測定するだけでは、電解質中の水分量や電解質の劣化の程度等を正確に把握できないため、電極反応の程度を充分に調査することは困難である。また、後者では、電極を分割した構造体を使用しているが、そのような構造体は製作し難い。さらに、測定部分とそれ以外の部分とで負荷装置を分けており、両部分に同じ負荷がかかるように電位を合わせて種々の測定を行うことは困難である。
【0007】本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、燃料電池の電極−電解質構造体の電極反応分布を簡便に得るための電極反応分布測定システムおよび電極反応分布測定方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の電極反応分布測定システムは、イオン導電体となる電解質と該電解質を挟んで両側に設けられた一対の電極とを有する電極−電解質構造体を含んで構成される燃料電池の該電極−電解質構造体の電極反応分布を得るための電極反応分布測定システムであって、測定対象となる燃料電池の電極−電解質構造体に接続され、該電極−電解質構造体の全電流または端子間電圧を制御する1つの負荷装置と、該電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々における反応電流を測定する電流測定装置と、該電極−電解質構造体の前記複数の部分領域の各々における電解質抵抗を測定する抵抗測定装置と、前記複数の部分領域のうちの同一の部分領域における反応電流と電解質抵抗との測定を同時に行うように、当該電極反応分布測定システムを制御する測定制御装置とを含むことを特徴とする(請求項1に対応)。
【0009】すなわち、本発明の電極反応分布測定システムは、出力を制御可能な1つの負荷装置を用い、電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々における反応電流と電解質抵抗とを測定し、かつ、測定制御装置により複数の部分領域のうち同一の部分領域では両測定を同時に行うようにするシステムである。本測定システムは、電極−電解質構造体の全電流または端子間電圧を制御する1つの負荷装置を用いているため、各測定領域における電位合わせは必要なく、各部分領域における反応電流と電解質抵抗とを簡便に測定することができる。また、この負荷装置により電極−電解質構造体全体の反応電流または端子間電圧が制御される。
【0010】また、反応電流に加えて電解質抵抗をも測定し、複数の部分領域のうち同一の部分領域では両測定を同時に行うものであるため、各部分領域ごとの反応電流と電解質抵抗とを同時に得ることができる。そして、各部分領域ごとの反応電流および電解質抵抗の値より、電極−電解質構造体における電流分布および電解質抵抗分布を得ることができ、電解質中の水分量や電解質の劣化の程度等の電極−電解質構造体の状態をより正確に把握することができる。
【0011】本発明の電極反応分布測定システムは、複数の部分領域の各々に電流測定装置と抵抗測定装置とをそれぞれ接続した態様を採用することができる。この場合、同一の部分領域についてだけでなく、すべての部分領域について反応電流と電解質抵抗とを同時に測定することができる。一方、電流測定装置と抵抗測定装置とをそれぞれ1つずつ使用した態様とすることもできる。この場合、例えば、本発明の電極反応分布測定システムを、電流測定装置および抵抗測定装置の測定する部分領域を切り替える切替装置を含み、測定制御装置は電流測定装置の測定する部分領域と抵抗測定装置の測定する部分領域とが同一の部分領域となるように切替装置を制御する部分領域制御部を含む態様とすればよい(請求項2に対応)。
【0012】例えば、電磁リレーや半導体スイッチを使用したリレー等の切替装置を用いることにより、電流測定装置および抵抗測定装置の測定する部分領域を切り替えることができる。そして、測定制御装置における部分領域制御部で電流測定装置の測定する部分領域と抵抗測定装置の測定する部分領域とが同一の部分領域となるように切替装置を制御することで、同一の部分領域では両測定を同時に行うことが可能となる。つまり、本態様を採用すれば、電流測定装置と抵抗測定装置とをそれぞれ1つずつ使用し切替装置を制御するだけで、電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々について、反応電流と電解質抵抗とを同時に測定することができる。
【0013】さらに、測定制御装置が、電流測定装置と抵抗測定装置との両方が測定する同一の部分領域を、複数の部分領域の全てにわたって順次切り替えるように切替装置を制御する走査制御部を含む態様とすることが望ましい(請求項3に対応)。複数の部分領域の全てにわたって順番に反応電流と電解質抵抗とを測定することで、電極−電解質構造体における電流分布および電解質抵抗分布を得ることができる。
【0014】また、本発明の電極反応分布測定システムは、測定された複数の部分領域の各々の反応電流および電解質抵抗に基づいて、電極−電解質構造体の電極反応分布を表示する表示装置を含む態様とすることができる(請求項4に対応)。本態様を採用すれば、電極−電解質構造体の電極反応分布を容易に把握することができる。表示装置は、例えば、モニタ、プリンタ等の出力装置とそれに出力させるためのプログラムとを備えていればよい。そして、例えば、コンピュータ本体に複数の部分領域の各々の反応電流および電解質抵抗を処理させて、例えば、グラフィックス表示等により、電極−電解質構造体の電極反応分布をモニタに出力させればよい。
【0015】ここで、部分領域とは、電極−電解質構造体の面方向におけるある領域を意味する。複数の部分領域として、例えば、上記ある領域が電極−電解質構造体の面方向において複数点在する態様が挙げられる。具体的には、電極−電解質構造体のコーナー部および中心部をそれぞれ部分領域とする態様や、一定の方向に等間隔で部分領域を設けた態様、さらに電極−電解質構造体の面方向においてランダムに部分領域を設けた態様等を採用することができる。また、電極−電解質構造体の面方向における一部分だけに上記点在する部分領域を設けた態様でもよい。部分領域が複数点在する本態様では、点在する部分領域の各々における反応電流および電解質抵抗に基づいて、目的とする電極−電解質構造体の部分の電極反応分布を得ることができる。また、例えば、測定された反応電流および電解質抵抗に基づいて、測定された部分領域以外の部分における反応電流および電解質抵抗を補間することにより、電極−電解質構造体の全領域における電極反応分布を得ることができる。
【0016】また、複数の部分領域として、電極−電解質構造体の全領域が区分されたものである態様が挙げられる。(請求項5に対応)。本態様では、電極−電解質構造体の面方向における全領域が、任意に設定された面積を有する複数の領域に区分され、その領域の各々が部分領域となる。つまり、複数の部分領域の間には隙間が無く、各々の部分領域をすべて合わせると電極−電解質構造体の全領域となる態様である。電極−電解質構造体の全領域を複数の部分領域に分けて、その部分領域ごとに反応電流と電解質抵抗とを測定することで、電極−電解質構造体の全体にわたる電極反応分布を正確かつ簡便に把握することができる。
【0017】電極−電解質構造体は、電解質とそれを挟んで両側に設けられた一対の電極とを有し、電極自体が集電機能をも果たすものである場合以外は、通常、電極の両側に設けられた一対の集電体も有する。電極−電解質構造体が一対の集電体を有する場合、本発明の電極反応分布測定システムは、一対の集電体の少なくともいずれか一方が複数の部分領域の各々に対応して複数に区分され、区分された集電体が互いに絶縁された燃料電池を測定対象とし、電流測定装置および抵抗測定装置が、区分された集電体の各々を介して複数の部分領域の各々における反応電流および電解質抵抗を測定するものである態様を採用することができる(請求項6に対応)。
【0018】一対の集電体のいずれか一方が複数の部分領域の各々に対応して複数に区分されているため、その区分された各々の集電体を介して、複数の部分領域の各々における反応電流および電解質抵抗を測定することができる。また、区分された集電体は互いに絶縁されているため、他の部分領域の影響を受けることなく、各集電体に対応する複数の部分領域の各々における反応電流および電解質抵抗を正確に測定することができる。なお、一対の集電体の両方が上述したように複数に区分されていてもよい。この場合は、両方の集電体について同じように測定を行うことができる。
【0019】また、本発明の電極反応分布測定システムは、複数の部分領域の各々に対応する電極−電解質構造体の部分の各々と負荷装置との間にそれぞれ直列に接続される複数の抵抗体を含む態様を採用することができる(請求項7に対応)。抵抗体は、特に限定されるものではなく、反応電流および電解質抵抗の測定時に抵抗値が既知なものであればよい。抵抗体の抵抗値は、測定領域となる部分領域の面積に応じて設定すればよく、部分領域の面積が同じであれば同じ抵抗値の抵抗体を用いればよい。面積が異なる部分領域については部分領域ごとに違う抵抗値の抵抗体を用いればよい。また、抵抗体の抵抗値は、電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々に対応する電解質の部分の各々における抵抗値に比べて小さく、かつ 抵抗体の端子間電圧を測定できる程度に大きいことが望ましい。抵抗体を用いた本態様を採用すれば、接続された各抵抗体を利用して反応電流および電解質抵抗を簡便に測定することができる。
【0020】ここで、本発明の電極反応分布測定システムにおける反応電流の測定は、その態様が特に限定されるものではない。例えば、複数の部分領域の各々に対応する電極−電解質構造体の部分の各々と負荷装置との間にそれぞれ電流計を接続して測定することができる。より望ましい態様として上記抵抗体を用いた態様を採用した場合には、例えば、電流測定装置を、複数の抵抗体の各々の端子間直流電圧に基づいて、複数の部分領域の各々における反応電流を測定するものとすることができる(請求項8に対応)。つまり、直接反応電流を測定しなくても、測定された端子間直流電圧に基づいて複数の部分領域の各々における反応電流を得ることができる。さらに、電流測定装置を1つ使用し、電流測定装置の測定する部分領域を順次切り替える態様を採用すれば、1つの電流測定装置で複数の抵抗体の各々の端子間直流電圧を順次測定することができ、測定された端子間直流電圧に基づいて、複数の部分領域の各々における反応電流を得ることができる。
【0021】同様に、本発明の電極反応分布測定システムにおける電解質抵抗の測定も、その態様が特に限定されるものではない。上記抵抗体を用いた態様を採用した場合には、例えば、抵抗測定装置を、複数の部分領域の各々に対応する電極−電解質構造体の部分の各々とそれらに接続される複数の抵抗体の各々とにわたって交流電流を流す交流電源部を含み、該交流電流を流すことによって複数の抵抗体の各々に生じる端子間交流電圧に基づいて、複数の部分領域の各々における電解質抵抗を測定するものとすることができる(請求項9に対応)。抵抗体自体の抵抗が各抵抗体が接続された電極−電解質構造体の各々の部分に対応する電解質の部分の抵抗と比較して極めて小さいため、交流電流を流した際に各抵抗体に生じる端子間交流電圧は、上記電解質の部分の抵抗にほぼ反比例する。そのため、端子間交流電圧を測定することで、複数の部分領域の各々に対応する電解質の抵抗を得ることができる。
【0022】また、上記同様、抵抗測定装置を1つ使用し、抵抗測定装置の測定する部分領域を順次切り替える態様を採用すれば、1つの抵抗測定装置で複数の抵抗体の各々の端子間交流電圧を順次測定することができ、測定された端子間交流電圧に基づいて、複数の部分領域の各々における電解質抵抗を得ることができる。
【0023】本発明の電極反応分布測定方法は、イオン導電体となる電解質と該電解質を挟んで両側に設けられた一対の電極とを有する電極−電解質構造体を含んで構成される燃料電池の該電極−電解質構造体の電極反応分布を得るための電極反応分布測定方法であって、測定対象となる燃料電池の電極−電解質構造体に、該電極−電解質構造体の全電流または端子間電圧を制御する1つの負荷回路を接続し、該電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々における反応電流を測定する電流測定装置と、該電極−電解質構造体の前記複数の部分領域の各々における電解質抵抗を測定する抵抗測定装置とを用いることによって、前記複数の部分領域のうちの同一の部分領域における反応電流と電解質抵抗との測定を同時に行うことを特徴とする(請求項10に対応)。
【0024】すなわち、本発明の電極反応分布測定方法は、1つの負荷回路において、電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々における反応電流と電解質抵抗との測定を、同一の部分領域では同時に行う方法である。本測定方法は、上述したように、電極−電解質構造体の全電流または端子間電圧を制御する1つの負荷回路を用いているため、各測定領域における電位合わせは必要なく、各部分領域における反応電流と電解質抵抗とを簡便に測定することができる。また、反応電流に加えて電解質抵抗をも測定し、複数の部分領域のうち同一の部分領域では両測定を同時に行うものであるため、各部分領域ごとの反応電流と電解質抵抗とを同時に得ることができる。そして、各部分領域ごとの反応電流および電解質抵抗の値より、電極−電解質構造体における電流分布および電解質抵抗分布を得ることができ、より正確に電極−電解質構造体の劣化状態等を把握することができる。なお、上記本発明の電極反応分布測定システムにおいて説明した種々の態様は、本発明の電極反応分布測定方法においても適用することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】本発明の電極反応分布測定システムの実施形態について図1〜6を用いて詳しく説明する。なお、本発明の電極反応分布測定システムを説明する中で、本発明の電極反応分布測定方法をも説明する。
【0026】最初に、本発明の一実施形態である電極反応分布測定システムが測定対象とした燃料電池について述べる。図1に測定対象とした燃料電池の外観を模式的に示し、図2にその燃料電池の主構成要素となる電極−電解質構造体の縦断面を拡大して示す。測定対象とした燃料電池10は、図1に示すように、エンドプレート11と絶縁材12とステンレス部材13と絶縁材14と電極−電解質構造体20と銅板15と絶縁材16とエンドプレート17とが積層されて形成されている。そして、燃料ガスが供給口19aから、酸化剤ガスが供給口19bからそれぞれ供給される。供給口19aから酸化剤ガスを、供給口19bから燃料ガスを供給してもよい。また、図示しないが、それぞれのガスの排出口は別に設けられている。なお、供給口19a、19bを排出口として用いてもよく、その場合は図示しない排出口が上記ガスの供給口として用いればよい。そして、銅板15には端子18が設けられ、後に示す負荷装置30と交流電圧測定器60とに接続される。また、測定領域となる複数の部分領域の各々に対応する電極−電解質構造体20の部分の各々は、リード線21により後に示す抵抗装置40を構成する各々の抵抗体へ接続されている。
【0027】電極−電解質構造体20は、図2に示すように、イオン導電体となる電解質22と電解質22を挟んで両側に設けられた一対の電極23a、23bと、一対の電極23a、23bのさらに両側に設けられた一対の集電体24、25とから構成される。複数の部分領域は、この電極−電解質構造体20の全領域を区分して形成されている。そして、一対の集電体24、25のうち一方の集電体24が複数の部分領域の各々に対応して複数に区分され、区分された集電体は互いに絶縁されている。これら区分された集電体の各々を介して複数の部分領域の各々における反応電流および電解質抵抗が測定される。また、複数の部分領域の各々に対応した集電体の各々は、ビニル被覆された集電端子26とはんだ付けにより接続され、集電端子26は、各々の抵抗体へ繋がるリード線21とはんだ付けにより接続されている。
【0028】次に、本発明の一実施形態である電極反応分布測定システムについて述べる。図3に、本発明の一実施形態である電極反応分布測定システムの概略を示し、図4に、その主な回路図を示す。電極反応分布測定システム1は、上記測定対象となる燃料電池10と、電極−電解質構造体の全電流または端子間電圧を制御する1つの負荷装置30と、抵抗装置40と、電流測定装置としての直流電圧測定器50と、抵抗測定装置としての交流電圧測定器60と、測定する部分領域を切り替えるリレー回路70と、リレー回路70を制御するリレー制御装置80と、モニタ91と、コンピュータ本体92と、入力装置となるキーボード93とを含んで構成される。
【0029】負荷装置30は、燃料電池10の端子18と抵抗装置40とに接続され、一つの負荷回路を形成している。抵抗装置40は、電極−電解質構造体20の測定領域となる複数の部分領域の各々に対応した集電体24の各々と負荷装置30との間にそれぞれ直列に接続された複数の抵抗体の集合体である。なお、1つの抵抗体の抵抗値は2mΩとした。直流電圧測定器50により、抵抗装置40を構成する抵抗体401〜410の各々に生じる端子間直流電圧が測定され、そのデータがコンピュータ本体92に入力される。また、交流電圧測定器60から、電極−電解質構造体20と抵抗装置40とにわたって交流電流が流され、抵抗装置40を構成する抵抗体401〜410の各々に生じる端子間交流電圧が測定される。そして、そのデータがコンピュータ本体92に入力される。モニタ91には、コンピュータ本体92からの出力データとして、電極−電解質構造体20の電極反応分布が表示される。
【0030】コンピュータ本体92は、リレー制御装置80に信号を送り、測定領域となる部分領域を指示する。そして、リレー回路70において指定された部分領域に接続されたスイッチ701が閉じ、測定する部分領域に対応する電極−電解質構造体20の部分である集電体241に接続された抵抗体401に生じる端子間直流電圧が直流電圧測定器50により測定される。また、同時に、交流電圧測定器60から、測定する部分領域に対応する電極−電解質構造体の部分である集電体241とそれに接続された抵抗体401とにわたって交流電流が流され、抵抗体401に生じる端子間交流電圧が交流電圧測定器60により測定される。
【0031】上記両測定が完了すると、コンピュータ本体92により、測定領域として上記とは異なる部分領域が指示され、同じように両測定が行われる。コンピュータ本体92は、測定領域となる部分領域を複数の部分領域の全てにわたって順次切り替えるようリレー制御装置80を制御する。また、直流電圧測定器50および交流電圧測定器60からの測定値はコンピュータ本体92に入力、処理され、電極反応分布としてモニタ91に表示される。
【0032】なお、本実施形態では、コンピュータ本体92とキーボード93とが測定制御装置として機能し、測定制御装置における部分領域制御部としてリレー制御装置80が機能する。また、リレー回路70が切替装置として機能し、モニタ91とコンピュータ本体92とが表示装置として機能する。
【0033】本実施形態の電極反応分布測定システムを用い、燃料電池の電極反応分布を測定した結果を図5および図6に示す。まず、図5に、モニタに表示された電極反応分布の一例を示す。図5において、モニタの左部分には、反応電流の測定条件等が示されている。また、中央部分には電極−電解質構造体全体の反応電流および電解質抵抗の経時変化に加え、部分領域の各々における電流密度および電解質抵抗の経時変化が示されている。なお、中央部分の右下方には電極−電解質構造体を区分した各部分領域が示されている。そして、モニタの右部分には、ある測定時における部分領域の各々における電流密度および電解質抵抗が棒グラフで表され、これにより電極反応分布を容易に把握することができる。
【0034】また、図6は、負荷装置を制御して電極−電解質構造体全体における電流密度を0.5A/cm2として作動させた場合の、ある測定時の部分領域の各々における電流密度および電解質のイオン伝導度を示す。なお、電解質のイオン伝導度は、電解質抵抗の値の逆数を部分領域の面積で除して算出した。図6に示すように、電極−電解質構造体の部分領域(番号1〜10)によって、電流密度と電解質のイオン伝導度は異なることがわかる。また、電流密度と電解質のイオン伝導度とはほぼ同じ傾向で分布している。このように、本発明の電極反応分布測定システムを用いることにより、電極−電解質構造体の電極反応分布を簡便に把握することができることが確認できた。
【0035】なお、以上説明した本発明の電極反応分布測定システムおよび電極反応分布測定方法の実施形態は例示にすぎず、本発明の電極反応分布測定システムおよび電極反応分布測定方法は、上記実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0036】
【発明の効果】本発明の電極反応分布測定システムは、1つの負荷装置を用い、電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々における反応電流と電解質抵抗とを測定し、かつ、測定制御装置により複数の部分領域のうち同一の部分領域では両測定を同時に行うようにするシステムである。本発明の電極反応分布測定システムによれば、電極−電解質構造体の電極反応分布を簡便に得ることができ、電解質中の水分量や電解質の劣化の程度等の電極−電解質構造体の状態を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 測定対象とした燃料電池の外観を模式的に示す。
【図2】 測定対象とした燃料電池の主構成要素となる電極−電解質構造体の縦断面を拡大して示す。
【図3】 本発明の一実施形態である電極反応分布測定システムの概略を示す。
【図4】 本発明の一実施形態である電極反応分布測定システムの主な回路図を示す。
【図5】 モニタに表示された電極反応分布の一例を示す。
【図6】 ある測定時における部分領域の各々における電流密度および電解質のイオン伝導度を示す。
【符号の説明】
1:電極反応分布測定システム
10:燃料電池 20:電極−電解質構造体 30:負荷装置
40:抵抗装置 50:直流電圧測定器 60:交流電圧測定器
70:リレー回路 80:リレー制御装置
91:モニタ 92:コンピュータ本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 イオン導電体となる電解質と該電解質を挟んで両側に設けられた一対の電極とを有する電極−電解質構造体を含んで構成される燃料電池の該電極−電解質構造体の電極反応分布を得るための電極反応分布測定システムであって、測定対象となる燃料電池の電極−電解質構造体に接続され、該電極−電解質構造体の全電流または端子間電圧を制御する1つの負荷装置と、該電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々における反応電流を測定する電流測定装置と、該電極−電解質構造体の前記複数の部分領域の各々における電解質抵抗を測定する抵抗測定装置と、前記複数の部分領域のうちの同一の部分領域における反応電流と電解質抵抗との測定を同時に行うように、当該電極反応分布測定システムを制御する測定制御装置とを含むことを特徴とする電極反応分布測定システム。
【請求項2】 前記電流測定装置と前記抵抗測定装置とを各々1つずつ含み、前記電流測定装置および前記抵抗測定装置の測定する前記部分領域を切り替える切替装置を含み、前記測定制御装置は、前記電流測定装置の測定する部分領域と前記抵抗測定装置の測定する部分領域とが同一の部分領域となるように前記切替装置を制御する部分領域制御部を含む請求項1に記載の電極反応分布測定システム。
【請求項3】 前記測定制御装置は、前記電流測定装置と前記抵抗測定装置との両方が測定する前記同一の部分領域を、前記複数の部分領域の全てにわたって順次切り替えるように前記切替装置を制御する走査制御部を含む請求項2に記載の電極反応分布測定システム。
【請求項4】 測定された前記複数の部分領域の各々の前記反応電流および前記電解質抵抗に基づいて、前記電極−電解質構造体の電極反応分布を表示する表示装置を含む請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電極反応分布測定システム。
【請求項5】 前記複数の部分領域は前記電極−電解質構造体の全領域が区分されたものである請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電極反応分布測定システム。
【請求項6】 前記電極−電解質構造体は、一対の電極の両側に設けられた一対の集電体を有し、該一対の集電体の少なくともいずれか一方が前記複数の部分領域の各々に対応して複数に区分され、区分された集電体が互いに絶縁された燃料電池を測定対象とし、前記電流測定装置および前記抵抗測定装置は、前記区分された集電体の各々を介して前記複数の部分領域の各々における反応電流および電解質抵抗を測定するものである請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電極反応分布測定システム。
【請求項7】 前記複数の部分領域の各々に対応する前記電極−電解質構造体の部分の各々と前記負荷装置との間にそれぞれ直列に接続される複数の抵抗体を含む請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の電極反応分布測定システム。
【請求項8】 前記電流測定装置は、前記複数の抵抗体の各々の端子間直流電圧に基づいて、前記複数の部分領域の各々における反応電流を測定するものである請求項7に記載の電極反応分布測定システム。
【請求項9】 前記抵抗測定装置は、前記複数の部分領域の各々に対応する前記電極−電解質構造体の部分の各々とそれらに接続される前記複数の抵抗体の各々とにわたって交流電流を流す交流電源部を含み、該交流電流を流すことによって前記複数の抵抗体の各々に生じる端子間交流電圧に基づいて、前記複数の部分領域の各々における電解質抵抗を測定するものである請求項7または請求項8に記載の電極反応分布測定システム。
【請求項10】 イオン導電体となる電解質と該電解質を挟んで両側に設けられた一対の電極とを有する電極−電解質構造体を含んで構成される燃料電池の該電極−電解質構造体の電極反応分布を得るための電極反応分布測定方法であって、測定対象となる燃料電池の電極−電解質構造体に、該電極−電解質構造体の全電流または端子間電圧を制御する1つの負荷回路を接続し、該電極−電解質構造体の複数の部分領域の各々における反応電流を測定する電流測定装置と、該電極−電解質構造体の前記複数の部分領域の各々における電解質抵抗を測定する抵抗測定装置とを用いることによって、前記複数の部分領域のうちの同一の部分領域における反応電流と電解質抵抗との測定を同時に行うことを特徴とする電極反応分布測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2003−77515(P2003−77515A)
【公開日】平成15年3月14日(2003.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−267583(P2001−267583)
【出願日】平成13年9月4日(2001.9.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】