説明

電極基板とそれを用いた微生物・微粒子測定装置

【課題】微小な電極基板上の電極パターンの損傷や汚れの付着を防止し、かつ電極への被検査溶液の供給率の低下を抑える構造を有する電極カバー及び測定装置を提供すること。
【解決手段】基板2と、電極3と、電極3の基板2とは対向する方向に設けられたカバー5を有し、カバー5が空隙6を介して電極3を覆い、空隙6が開口7、8により外部と接続する構造を有し、カバー5により電極3への接触や汚れの付着を防ぎ、また、開口7、8より被検査溶液が空隙6へ流出入することで電極近傍への被検査溶液の連続的な供給が可能となり測定感度の低下を抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極を利用した微生物や微粒子の操作および測定が可能な電極基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、食中毒や感染症などの原因となり、人体に何らかの害を及ぼす可能性がある微生物を迅速、簡便、高感度に定量測定するニーズは特に高い。食品の製造工程や微生物検査施設を備えない診療所など、その場で微生物検査を実施することで、これらの防止、予防が可能になるためである。また、いわゆるバイオセンサにおいて、抗体など特定の物質に特異的に結合する物質を標識したポリスチレンなどの人工微粒子を用いて、検体中の生化学的物質を定量測定する際に、検体中の微粒子数あるいはその結合状態を定量測定する必要がある。このように、昨今、液体中に含まれる微粒子を迅速、簡便、定量的に測定する要求は高い。
【0003】
従来、微生物の検査法として最も一般的に用いられるのは培養法である。培養法は、培地上に微生物検体を塗抹し、微生物が生育条件下で培養を行い、形成される培地上のコロニー数を計数することで微生物数を定量する方法である。しかし、コロニー形成までに通常1〜2日、微生物種によっては数週間を要するため、迅速な検査を実施できない問題があった。また、濃縮や希釈、培地への塗抹などが必要なため、専門家による操作が必要であり、簡便な検査が実施できない、あるいは操作上のバラツキによる精度低下があった。
【0004】
迅速、簡便、高感度な微生物数測定法として、誘電泳動とインピーダンス計測を組み合わせたDEPIM法がある(例えば特許文献1)。
【0005】
DEPIM法は、微生物を誘電泳動力によってマイクロ電極に捕集し、同時にマイクロ電極のインピーダンス変化を測定することによって被検査溶液中の微生物数を定量測定する方法である。微生物に働く誘電泳動力を十分大きくし、微生物を電極ギャップに確実に捕集する必要があるため、このような微小物質の応答を検出する電極は、パターンが非常に微細であるが、電極部分は基板上に露出している。よって、電極取り扱いの際の破損や電極パターンの損傷を防ぐため、電極を保護する工夫が必要となってくる。
【0006】
電極パターンを覆うカバーを設けている例として、特許文献2と特許文献3に開示されるバイオセンサがある。これらは、電極基板上に作製した電極パターン上方に、スペーサーを介しカバーを設け、電極上に微小な空間を作製する。前記空間への微量な被検査溶液の導入と前記空間における反応を、電極によりモニターする。前記空間には、一つの入り口が設けられている。
【特許文献1】特開2003−334059号公報
【特許文献2】特開2004−4017号公報
【特許文献3】特開平10−311817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の構成では、覆いにより電極の露出を保護することで、電極操作や測定の際、指や粉塵の電極部分への接触による電極パターンの損傷や汚れの付着を避けることができた。しかし、前記従来の構成では、電極への接触を避けるために電極上部に覆いを設けると、電極基板と覆い間のごく微小な隙間を通じ被検溶液導入しなければならず、電極への被検査供給量がごく微量に限定されるという課題を有していた。また、電極反応後の被検査溶液の排出機能や循環機能には欠けているため、常に新しい溶液が電極近傍へ行き渡らず、測定効率が低下するという課題を有していた。さらに、これらのスペーサーやカバーの貼り合わせに接着剤を使用しているため、被検査溶液中に接着剤成分が溶け出した場合、夾雑物質となる可能性がある。
【0008】
本発明は前記従来の問題を解決するためになされたものであり、電極パターン部分への指の接触や油脂や粉塵の付着を防ぎ、また、電極への安定した被検査溶液の供給を絶えず行うことができる、電極基板、測定装置、及び電極基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる電極基板は、基板と、導電性を持ち前記基板の上に設けられた電極と、前記電極につながり前記電極からの信号を伝達する端子と、前記電極の前記基板とは対向する方向に設けられたカバーを有し、前記カバーが空隙を介して前記電極の一部または全部を覆い、前記空隙が少なくとも2つ以上の開口により外部と接続しており、前記開口が空隙を挟む位置に配置されているため、前記カバーにより前記電極の損傷や電極への汚れの付着を防ぐことができ、前記2つ以上の開口を介し前記空隙へ被検査溶液が出入可能であり、電極近傍へ被検査溶液を十分供給できる。
【0010】
第2の発明にかかる電極基板は、前記電極と前記カバーの距離が1mm以上であるため、前期被検査溶液の空隙への流出入が制限されず、電極近傍へ十分な被検査溶液の供給ができる。また、前記電極と前記カバーの距離が5mm以下であるため、前記攪拌手段による前期被検査溶液の攪拌作用を妨げることなく測定できる。
【0011】
第3の発明にかかる電極基板は、前記カバーが前記基板の厚みと等しいもしくは、基板厚みよりも微小に大きい凹部を持ち、前記凹部に前記基板が挟まれることで前記カバーに固定化されるため、カバーの脱着が可能となる。また、カバーの大きさを持ちやすい大きさに調節することで、電極基板のハンドリングが容易となる。さらに、接着剤を使用しないため、被検査溶液へ接着剤成分が溶け出し夾雑物質となる可能性を抑えることができる。
【0012】
第4の発明にかかる電極基板は、前記カバーと前記電極基板は同一基板より成型され、前記カバーが前記基板の一部であるため、カバーのみを成型する工程と電極基板に取り付ける工程を省略でき、作業工程の簡略化や材料費の削減が可能となる。
【0013】
第5の発明にかかるカバー付電極基板は、前記カバー上に径10mm以上5mm以下の開口を少なくとも一つ以上持っており、前記空隙を挟む位置に配置される開口を介して供給される基板表面に平行な方向への被検査溶液の流れに加え、カバー上に設けた径10mm以上5mm以下の開口を介し、基板表面に垂直な方向へも被検査溶液供給が可能となる。よって、電極近傍への被検査溶液供給効率がさらに向上する。前記10mm以上の開口は、被検査溶液中の微生物・微粒子の最大径よりも大きく、前記微生物・微粒子がカバー上の開口を介し、空隙へ流入できる構造となっている。前記5mm以下の開口では、前記カバーと前記電極間の距離を1mmに設定し、電極を手で持ち操作した時に、指が電極や電極パターン面に接触しない大きさとなっている。
【0014】
かかる構成は、前記被検溶液中の微生物や微粒子を効率よく電極近傍に供給し、かつ指の接触による電極表面への汚れの付着や電極センサ部分の損傷を防ぐことができる。
【0015】
第6の発明にかかる電極基板作製方法は、基板に少なくとも1個以上の電極と端子をパターンニングする工程と前記カバー部とおりしろ部の間に折り曲げ線を入れる工程と前記基板において1つの電極基板となるように切断する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
かかる工程は、複数個の電極パターンを平らな基板に一度に作製後、切り出し、カバーに当たる部分を折り曲げるため、電極パターンの作製工法は限定されず、一度に大量のカバー一体型電極基板を作製できる。また、折り曲げ形成のため、カバー成形には大掛かりな装置が必要なく、簡便に作製できる。
【0017】
第7の発明にかかる電極基板及び測定装置は、基板と、電極と、前記電極からの信号を伝達する端子と、前記電極とは対向する方向に設けられたカバーとを有し、前記カバーが空隙を介して前記電極を覆い、前記空隙が少なくとも2つ以上の開口により外部と接続しており、前記開口が空隙を挟む位置に配置されている電極基板と、被検査溶液と、前期被検査溶液の保持部と、前記電極を前記被検査溶液へ浸す工程と、前記被検査溶液の攪拌手段を有し、前記攪拌手段により攪拌することで、空隙において電極がパターンされた基板表面に平行な方向へ被検査溶液の流れが形成され、電極近傍の溶液が循環されるため、絶えず新しい被検査溶液を電極近傍に供給できる。また、前記攪拌手段と前記空隙における被検査溶液の循環作用により、反応が進む電極近傍とバルクでの被検査溶液の濃度差が是正され、被検溶液全体の濃度を均一に保った状態での測定が可能となる。
【0018】
さらに、前記開口を介し空隙へ流入した被検査溶液中の微生物・微粒子の応答を、前記電圧印加部により電圧を印加した電極と、前記測定部と、制御演算部を用い、計測できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る電極基板とそれを用いた微生物・微粒子測定装置および測定方法電極基板によれば、前記電極カバーが前記空隙を介して前記電極を覆う構造であり、電極基板操作時の指の電極への接触を防ぎ、油脂や粉塵の電極への付着や電極の損傷とそれらに伴う応答値の攪乱を防ぐことができる。また、前記2つ以上の開口を介し、前記空隙において被検査溶液が循環されるため、絶えず新しい被検査溶液を電極近傍に供給でき、測定感度の低下を抑えることができる。さらに、前記攪拌手段と前記空隙における被検査溶液の循環作用により、反応が進む電極近傍とバルクでの被検査溶液の濃度差が是正され、被検溶液全体の濃度を均一に保った状態での測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ここで、本発明における微生物・微粒子の定義について説明する。本発明で言う微生物・微粒子とは、ポリスチレンやそれらに何らかのコーティングを施した粒子、カーボンナノチューブ、金コロイドなどの金属粒子、細菌、真菌、放線菌、リケッチア、マイコプラズマ、ウイルス、として分類されているいわゆる微生物、原生動物や原虫のうちの小型のもの、生物体の幼生、動植物細胞、精子、血球、核酸、蛋白質等も含む広い意味での微生物・微粒子である。
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1、図2、図3は本発明の実施の形態1による電極基板の正面図、断面図と斜視図を示す。図1は図2のA−A’断面における電極基板1の断面を正面から見た正面図である。図2は、図3のB−B’断面における、電極基板1の断面図である。図3は、電極基板1の斜面図である。
【0023】
電極基板1は、基板2と、基板2の上に設けられた電極3と、電極3と導通する端子4と、電極3の上方に設けられたカバー5で構成されている。カバー5と電極3の間にはスペーサー19により隙間が作製されており、空隙6と、空隙6を挟んで外部と接続している開口7、8が設けられている。
【0024】
電極3がカバー5で保護されているため、電極基板1を操作する際に、直接電極3に指が触れない。また、本電極基板1の電極3を流れのある被検査溶液に浸した際、開口7より被検査溶液が流入し、開口8へ流出する方向の流れ、または、開口8から開口7へ向かう流れにより、空隙6と開口7、8が被検査溶液の通路となり、電極3近傍への微生物や粒子の連続的な供給が可能となり、電極感度の低下を抑えることができる。
【0025】
次に、本発明の実施の形態1による電極基板1を用いた測定装置23及びその動作を説明する。
【0026】
図4は、本発明の測定装置23の構成を示す図である。図4において、10は測定対象物が含まれる被検査溶液11を保持する溶液保持部、24は、電極基板1の端子4から導通を得るとともに電極基板1を固定する接続部、1は微細パターンが施された電極3を含む電極基板、12は電圧印加部、13は電極反応を測定する測定部、14は測定装置全体の制御や測定した応答の演算を行う制御演算部である。
【0027】
電極基板1は、初めに、接続部24に挿入され、端子4を介して電極3と電圧印加部12および測定部13は電気的に接続され、同時に固定される。
【0028】
電極基板1は、微生物が含まれた被検査溶液11を保持した溶液保持部10内に浸漬される。溶液保持部10は、マグネチックスターラーなどの攪拌手段15を設けることができる。被検査溶液11を溶液保持部10内で攪拌することにより被検査溶液11内での測定対象物濃度を均一にすることができ、かつ、多くの測定対象物を電極近傍に導くことができるため、より効率的測定でき、測定時間の短縮や測定感度低下の抑制が可能である。
【0029】
攪拌方法は、選択可能であり、マグネチックスターラーによる攪拌、棒状の攪拌器具によりかき混ぜる方法、溶液保持部10自体が回転することによる攪拌等がある。攪拌速度は、被検査溶液中の粒子や微生物が十分還流する速度に設定する。
【0030】
電圧印加部12は電極に所定の電圧を印加し、被検査溶液11中の測定対象物の電極反応を、測定部13により測定、測定した値は制御演算部14に渡る。また、制御演算部14は、電圧印加部12を制御し、電極に特定の電圧を印加する。さらに、制御演算部14は、測定部13が測定したデータを受け取り、被検査溶液中に含まれる測定対象物の濃度演算が行なわれる。演算結果は、逐次メモリに格納、または、LCDなどの表示部16に結果表示を行う。
【0031】
次に、電極基板1の寸法を説明する。電極3とカバー5間の距離は、1mm以上5mm以下が好ましい。1mm以下では、電極3への被検査溶液の接触が阻害され、電極感度が低下するが、1mm以上5mm以下では、電極3近傍に被検査溶液の流れが形成されるため、被検査溶液が循環し絶えず新しい被検査を電極3に供給でき、電極感度の低下を抑えることができる。
【0032】
一方、本発明に用いた溶液保持部10は、径20mmの円柱型セルであり、電極は、水面に挿入されている。電極3とカバー5間の距離が5mmを超える電極カバーを装着すると、カバーがセル底部に位置する攪拌手段15の上部を覆ってしまう。攪拌機能がカバー5により阻害されてしまい、新しい被検査の電極3への供給効率が低下するため、電極感度の低下を招く。
【0033】
カバー5の面積は、電極3の面積と等しいまたは大きいことが望ましい。かかる構成では、電極3への粉塵の接触を避けることができ、電極3表面への汚れの付着や電極3の損傷を防ぐことができる。よって、センサの保存を容易にし、また、測定環境も限定されない。
【0034】
次に、電極基板1の材料及び作成方法を説明する。本発明の実施の形態に示す電極基板1は、基板2に電極3および端子4をパターニングする工程、電極3上にカバー5を固定する工程を経て、作製される。電極3および端子4をパターニングする工程は、選択した材料で所望のパターンを形成できれば、フォトリソグラフィー、レーザー加工、スクリーン印刷、インクジェット印刷など、生産性やコストなどを勘案して最も適切な加工法が選択可能である。
【0035】
電極3上にカバー5を固定する工程は、図1に示すように、電極3とカバー5とをスペーサー19を介して固定してもよい。固定方法は、接着剤を使用しない工法が好ましく、熱による融着、超音波接合、UVランプによる光接合、ネジ止め型などから選択される。
【0036】
本発明における基板2は、樹脂基板を用いたが、絶縁性の材料であればいずれも使用可能であり、例えば、ガラス、セラミックなど基板材料の使用を妨げるものではない。また、電極3は導電性の材料であればいずれも使用可能であり、Au、Ag、Alなどの金属粒子含有の導電性ペースト、カーボンなども選択可能である。
【0037】
(実施の形態2)
図5は本発明の実施の形態2による電極基板1の断面図である。実施の形態1と同様の構造を持つ電極基板であるが、カバー5は、基板2の厚みと等しい、もしくは、基板厚みよりも微小に大きい凹部22を持ち、凹部22に基板2が挟まれることでカバー5に固定化される。これにより、溝22からの基板2の取り外しが可能となり、また、カバーの大きさが限定されないため、基板2が小さい場合でも指で持ちやすく、電極のハンドリングも向上する。さらに、接着剤を使用しないため、被検査溶液へ接着剤成分が溶け出し夾雑物質となる可能性を抑えることができる。
【0038】
凹部22の厚みの許容差は、基板2がカバー5に固定されるなら任意であるが、基板2の厚み+0mmから基板2の厚み+0.2mmが好ましい。基板2、カバー5の材料は、曲げや伸縮が可能な樹脂材料が適する。上記材料を用いると上記許容差に縛られず、凹部22の厚みが基板2の厚みより小さい場合もはめ込むことができる。凹部22の深さは基板2がカバー5に固定されるなら任意であるが、1mm以上5mm以下が固定の確実性の点から好ましい。
【0039】
本発明の実施の形態2による電極基板1を用いた電極操作及び動作、測定装置は実施の形態1における電極基板1と同様である。
【0040】
(実施の形態3)
図6は本発明の実施の形態3による電極基板1の概略図である。
【0041】
図6Aは、図6Cの展開図である。図6Bは図6CのA−A’断面におけるカバー付電極基板1の断面図である。図6Cは、図6DのB−B’断面における、電極基板1の断面図である。図6Dは、電極基板1の斜面図である。
【0042】
カバー5が基板2と一体になっていることが実施の形態1と相違し、以下では、その相違点のみを説明する。
【0043】
本実施の形態による電極基板1の基板2は、図6Aに示すように、電極3と端子4がパターニングされる電極配置部25と、必要に応じて形成されるおりしろ部26と、カバー5となるカバー部27からなる。電極配置部25とおりしろ部26、および、おりしろ部26とカバー部27は、それぞれ所定の角度で曲げられ、電極配置部25とカバー部27が対向している。
【0044】
また、図6Cを参照すると、おりしろ部26の厚み分だけカバー5と電極3の間には空隙6が形成され、上面視でカバー5のおりしろ部26を除く3方向に開口7、8、9が形成されている。かかる構成により、カバー部27であるカバー5が電極3の上方に位置し、電極3がカバー5で保護され、また、本カバー付電極基板1の電極3を流れのある被検査溶液に浸した際、開口7、8、9から空隙6へと被検査溶液が流入・流出する方向の流れが生じる。
【0045】
これらの構造により、電極操作の際、電極3に指が触れず、かつ、電極近傍への被検査溶液の供給を連続的に行うことができる。また、電極とカバーを一枚の同一基板上に作製でき、カバー作製に要するのは折り曲げ工程のみであるため、作業工程の簡略化や基板材料費の削減が期待できる。さらに、作製時に接着剤を使用しないため、被検査溶液への夾雑物質の流出を最低限に抑えることができ、測定値が安定する。
【0046】
電極基板1の作製方法は、基板2に電極3および端子4をパターニングする工程、基板2の電極配置部25とおりしろ部26とカバー部27の間に2つの折り曲げ線18を入れる工程、折り曲げ線18でカバー5が電極3の上方に配置するように折り曲げる工程を経て、作製される。
【0047】
実施の形態3で使用する基板2の材料は、基板上へ電極作成後に圧力や熱などの外部からの力を加えることで、折り曲げ形成が可能な樹脂材料を用いる。厚みは、加工性の良い500mm以下の樹脂材料が適する。
【0048】
図6において、2つの折り曲げ線18の間のおりしろ部26の長さと、電極配置部25とおりしろ部26、および、おりしろ部26とカバー部27の曲げ角度α、βは、電極3とカバー5の間の電極3とカバー5間の距離が1mm以上となるよう選ばれる。おりしろ部の長さは好適には1mm以上10mm以下である。
【0049】
曲げ角度α、βはそれぞれ0°から180°であり、好適には90°である。カバー部27は、少なくとも電極3の表面積と等しい、または大きい表面積を持つことが電極3への指の接触回避の点から望ましい。
【0050】
本実施形態の別の一例としておりしろ部26を省略した電極基板1を図7に示す。図7Aは、図7Bの展開図である。基板2は、電極3と端子4がパターニングされる電極配置部25と、カバー5となるカバー部27からなる。電極配置部25とカバー部27の間に一つの折り曲げ線18が形成され、30°の角度で曲げられ、カバー部27が電極3を覆い、空隙6を形成している。曲げ角度は、90°以下から選択される。
【0051】
本発明の実施の形態3による電極基板1を用いた電極操作及び動作、測定装置は実施の形態1における電極基板1と同様である。図8には作製方法のフローと作製した物を示す図を記載した。
【0052】
また、図8に示すように、端子4間領域をおりしろ部26およびカバー部27として折り返し、カバー5を作製することにより、一つの基板材料シートから取れるカバー付電極基板1の個数を最大にすることができる。これにより、高価な樹脂基板を用いた際でも、材料コストの大幅な削減が見込まれる。
【0053】
(実施の形態4)
図9、図10は本発明の実施の形態4による電極基板の概略図である。図9A、9Bは、それぞれ、カバー5がメッシュ状の開口20を持つ電極基板1の斜面図と断面図であり、図10A、10Bは、それぞれ、カバー5に開口21を持つ電極基板1の斜面図と断面図である。
【0054】
実施の形態1と同様の構造を持つ電極基板であるが、電極3とカバー5間の距離が1mm〜5mmの条件下において、カバー5は10mm径以上のメッシュ構造20により構成されている、または、5mm径以下の開口21を最低一つ以上有していることを特徴とする。10mmの開口は被検査溶液中の微生物・微粒子の径よりも大きく、5mmの開口は、電極3とカバー5間の距離が1mmを有する電極基板1を手で操作した際に、指が電極部や電極パターン面に接触しない大きさの上限である。
【0055】
なお、開口の形状は円形にこだわらない。開口を形成できる多角形であればよい。
【0056】
カバー5は、これにより、電極に対して水平方向の開口7、8を介する、電極に対して水平方向の流れだけでなく、電極に対して垂直方向への被検査溶液供給も可能となり、電極近傍へのより効果的な被検査溶液の供給と感度の上昇が期待できる。
【0057】
電極操作の際、カバー5と空隙6、開口7〜9、20、21により、電極3に指が触れず、かつ、連続的な電極近傍への被検査溶液の供給が可能となる。
【0058】
10mm以上のメッシュの材料は、生体分子や粒子が付着しにくいもの、5mm以下の開口を持つカバーは、加工性の良い樹脂材料とする。
【0059】
本発明の実施の形態4による電極基板1を用いた電極操作及び動作、測定装置は実施の形態1における電極基板1と同様である。
【実施例】
【0060】
次に、実施の形態3に示した電極基板1、実施の形態1に示した測定装置23を用い、DEPIM法(特許文献1)により被検査溶液中の細菌の電気化学応答をモニターした結果を示す。
【0061】
図4に示すように、電極基板1を被検査溶液11に浸し、攪拌手段15であるスターラーにより攪拌しながら、電圧印加部12より電極3へ特定の周波数と電圧をもった交流電圧を印加した。
【0062】
図11は、電極3の一例を示す部分斜視図である。図11において、2は基板、17a、17bは基板2上に形成され一対の極をなす電極である。電極17a、17b間に交流電圧を印加することにより、電極17a、17b間に不平等電界が誘起され、微生物を誘電泳動し17a、17b間のギャップに捕集する。それと同時に、測定部において17a、17b間のギャップに捕集した微生物の応答を測定した。測定結果は演算部14に渡り、電極17a、17b間のインピーダンスを算出、インピーダンスより被検査溶液中に含まれる微生物濃度を算出した。
【0063】
被検査溶液には、4.1×10(cfu/mL)に調製した大腸菌懸濁液を5mL使用した。
【0064】
電極とカバーの間の距離を0.5mm、1mm、2mm、5mmとしたカバー付電極基板を作製し、それぞれの距離に対する電極感度をプロットした。カバーがない時の電極基板と同程度の感度を得るために、電極とカバーの間の距離と電極感度の関係を検証した。カバーの寸法は、横10.9mm、縦8mm,電極基板の大きさは、横10.9mm、縦24mmとした。
【0065】
図12は、カバー無電極基板とカバー付電極基板の感度を比較するために、カバー無し電極基板を用いた測定の感度をcontrol(100%)と規定し、カバー付電極基板の測定感度の割合をプロットした。
【0066】
電極とカバーの間の距離が1mm以下の時は、カバー無電極感度の50〜60%であったが、電極とカバーの間の距離を1mm以上に設定すると、カバーがないときの80%の感度を得ることができた。よって、電極とカバーの間の距離が1mm以上である本発明の電極基板1は、電極3への被検査溶液の供給が十分行なわれ、感度の低下を抑えることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明にかかる電極基板は、電極操作の際に、油脂や粉塵の付着、電極の損傷を抑え、かつ、被検査溶液の電極部分への供給が可能となり、安定した応答を得られる。よって、電極を利用した微生物や微粒子の操作および測定が可能な電極基板等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態1による電極基板の正面図
【図2】本発明の実施の形態1による電極基板の断面図
【図3】本発明の実施の形態1による電極基板の斜面図
【図4】本発明の実施の形態1による装置の構成図
【図5】本発明の実施の形態2による電極基板の断面図
【図6】本発明の実施の形態3による電極基板の正面図と断面図と斜視図
【図7】本発明の実施の形態3による電極基板の正面図と断面図
【図8】本発明の実施の形態3による電極基板の作製方法のフロートと作成物を示す図
【図9】本発明の実施の形態4による電極基板の斜面図と断面図
【図10】本発明の実施の形態4による電極基板の斜面図と断面図
【図11】本発明の実施の形態1による電極部分の構成図
【図12】本発明の実施例によるカバー無電極に対するカバー付電極の感度を示す図
【符号の説明】
【0069】
1 電極基板
2 基板
3 電極
4 端子
5 カバー
6 空隙
7,8,9 開口
10 溶液保持部
11 被検査溶液
12 電圧印加部
13 測定部
14 制御演算部
15 攪拌手段
16 表示部
17a,17b 電極構造
18 折り曲げ線
19 スペーサー
20 メッシュ型カバーの開口
21 開口
22 凹部(溝)
23 測定装置
24 接続部
25 電極配置部
26 おりしろ部
27 カバー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基板と、導電性を持ち前記基板の上に設けられた電極と、前記電極につながり前記電極からの信号を伝達する端子と、前記電極の前記基板とは対向する方向に設けられたカバーを有し、前記カバーが空隙を介して前記電極の一部または全部を覆い、前記空隙が少なくとも2つ以上の開口により外部と接続しており、前記開口が空隙を挟む位置に配置されることを特徴とする電極基板。
【請求項2】
前記電極と前記カバーの距離が1mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電極基板。
【請求項3】
前記カバーが前記基板の厚みと等しい、もしくは基板厚みよりも微小に大きい凹部を持ち、前記電極基板を前記カバーに挟み込む構造を特徴とする請求項1または2に記載の電極基板。
【請求項4】
前記カバーと前記電極基板は同一基板より成型され、前記カバーと前記電極基板が一体となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の電極基板。
【請求項5】
前記カバー上に径10mm以上5mm以下の開口を少なくとも一つ以上持っていることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の電極基板。
【請求項6】
基板に少なくとも1個以上の電極と端子をパターンニングする工程と前記カバー部とおりしろ部の間に折り曲げ線を入れる工程と前記基板において1つの電極基板となるように切断する工程と、を有することを特徴とする電極基板の作製方法。
【請求項7】
少なくとも基板と、導電性を持ち前記基板の上に設けられた電極と、前記電極につながり前記電極からの信号を伝達する端子と、前記電極の前記基板とは対向する方向に設けられたカバーとを有し、前記カバーが、空隙を介して前記電極の一部または全部を覆い、前記空隙が少なくとも2つ以上の開口により外部と接続しており、前記開口が空隙を挟む位置に配置されている電極基板と、被検査溶液と、前期被検査溶液を保持する溶液保持部と、前記電極を前記被検査溶液へ浸す工程と、前記被検査溶液を攪拌する攪拌手段と、前記端子と電気的に導通する接続部と、前記接続部につながり前記電極に電圧を印加する電圧印加部と、前記接続部につながり前記電極の応答を測定する測定部と、前記電圧印加部と前記測定部につながる計算手段である制御演算部と、前記制御演算部につながる表示部を有することを特徴とし、前記電極を用いて前記被検査溶液中の微生物や微粒子の反応を測定する微生物・微粒子測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−69096(P2009−69096A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240565(P2007−240565)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】