説明

電極材料、二次電池用電極、電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料、電気二重層キャパシタ分極性電極

【課題】 電極性能の向上を図ることができる電極材料を提供する。
【解決手段】 本発明の電極材料は、球状のフェノール樹脂微粒子と球状のフラン樹脂微粒子の少なくとも一方を炭化して得られた平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物から成る。このように本発明の電極材料は、炭化収率の高いフェノール樹脂やフラン樹脂を原料とした高い炭化密度の炭化物であり、しかもナノオーダーの微粒子であって大きな比表面積を有しており、電極性能を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径がナノオーダーの極微粒子の電極材料に関するものであり、またこの電極材料から得られる二次電池用電極及び電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料、さらにこの電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料から得られる電気二重層キャパシタ分極性電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極材料として、有機物を空気(酸素)を遮断した雰囲気で焼成して炭化させた炭素材料が使用されている。また近年、大容量・急速充電・長寿命等の点から注目されている電気二重層キャパシタの分極性電極に使用される電極材料では、比表面積を大きくして静電容量を高めるために、賦活処理した炭素材料が使用されている。しかし、このように賦活処理をすると炭素材料の密度低下を招くことになるので、体積当りの静電容量が低下してしまうという、相反する問題を抱えている。
【0003】
このため、有機物として、炭化収率の高いフェノール樹脂やフラン樹脂を用い、これらの樹脂を焼成・炭化し、さらに賦活処理することによって、電気二重層キャパシタ分極性電極の材料として用いることが行なわれている(例えば特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開平5−43345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、炭化収率の高いフェノール樹脂やフラン樹脂を焼成して炭化した炭素材料を電極材料として用いることによって、電極性能を向上することができるが、現状ではまだ十分なものとはいえない。
【0005】
従って本発明は、性能をさらに向上することができる電極材料、二次電池用電極、電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料、電気二重層キャパシタ分極性電極を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る電極材料は、球状のフェノール樹脂微粒子と球状のフラン樹脂微粒子の少なくとも一方を炭化して得られた平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物から成ることを特徴とするものである。
【0007】
また請求項2の発明は、請求項1において、上記の球状のフェノール樹脂微粒子は、フェノール類とアルデヒド類とを、分散剤と反応触媒の存在下で、反応系に超音波を照射しながら、付加縮合反応させて得られた平均粒子径が1000nm以下のものであり、上記の球状のフラン樹脂微粒子は、フラン化合物とアルデヒド類とを、分散剤と反応触媒の存在下で、反応系に超音波を照射しながら、付加縮合反応させて得られた平均粒子径が1000nm以下のものであることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項3に係る二次電池用電極は、請求項1又は2に記載の球状の炭化物からなる電極材料を用いて形成されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項4に係る電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料は、請求項1又は2に記載の球状の炭化物からなる電極材料を賦活処理して成ることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項5に係る電気二重層キャパシタ分極性電極は、請求項4に記載の電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料を用いて形成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電極材料は、球状のフェノール樹脂微粒子や、球状のフラン樹脂微粒子を炭化して得られた平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物からなるため、炭化収率の高いフェノール樹脂やフラン樹脂を原料とした高い炭化密度の炭化物であり、しかもナノオーダーの微粒子であって大きな比表面積を有しており、高い電極性能を発揮させることができるものである。
【0012】
また本発明の二次電池用電極は、このような大きな比表面積を有する電極材料を用いて形成しており、しかも電極材料はナノオーダーの球状微粒子であるため、電極材料の充填密度を高くすることができ、導電性を高めて長寿命化など高い性能を得ることができるものである。
【0013】
また本発明の電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料は、このような大きな比表面積を有する電極材料を賦活処理したものであるため、賦活の程度を浅くすることが可能になり、炭素材料の密度低下を防ぐことができるものである。
【0014】
また本発明の電気二重層キャパシタ分極性電極は、このような密度低下のない炭素材料を用いて形成しているために、体積当りの静電容量の低下を防いで、高い電極性能を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0016】
本発明の電極材料は、炭化収率の高いフェノール樹脂やフラン樹脂を炭化して得られる、平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物からなるものである。
【0017】
このようなナノオーダーの炭化物粒子を製造する方法としては、フェノール樹脂やフラン樹脂をナノオーダーの微粒子に粉砕し、このフェノール樹脂やフラン樹脂の微粒子を焼成して炭化するか、あるいはフェノール樹脂やフラン樹脂を焼成して炭化した後に、ナノオーダーの微粒子に粉砕することが考えられるが、これらの場合には、粉砕に極めて高いエネルギーが必要であり、しかも炭化物の表面は不規則な破断面になっていて充填密度を高く得ることができる球状に形成することができない。
【0018】
一方、本出願人が特許第2549365号公報等で提供している方法によれば、粉砕を行なう必要なく、球状のフェノール樹脂やフラン樹脂を得ることができる。すなわち、フェノール類とフラン化合物の少なくとも一方と、アルデヒド類とを、分散剤と反応触媒の存在下で付加縮合反応させることによって、分散剤の作用で水分散性で且つ非沈降性となったフェノール樹脂あるいはフラン樹脂の粒子を生成させ、これを濾過して水を除去することによって、球状のフェノール樹脂粒子あるいはフラン樹脂粒子を得ることができるものである。この方法によれば、粉砕という工程を必要とすることなく、球状のフェノール樹脂粒子あるいはフラン樹脂粒子を得ることができるのである。しかし、この方法によっても、フェノール樹脂粒子やフラン樹脂粒子の粒子径は10μm程度が限界であり、平均粒子径が1000nm以下のナノオーダーの微細な微粒子を得ることはできない。
【0019】
そこで本発明では、次の方法で平均粒子径が1000nm以下の球状のフェノール樹脂微粒子あるいはフラン樹脂微粒子を調製し、そしてこのフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を焼成して炭化することによって、平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物を得るようにしている。
【0020】
すなわち、フェノール類とフラン化合物の少なくとも一方とアルデヒド類とを、分散剤と反応触媒の存在下で、反応系に超音波を照射しながら、付加縮合反応させることによって、平均粒子径が1000nm以下の球状のフェノール樹脂微粒子あるいはフラン樹脂微粒子を調製することができるものである。
【0021】
ここで、上記のフェノール樹脂の原料のフェノール類としては、フェノールの他にフェノールの誘導体を用いることができる。フェノール誘導体としては、例えばm−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノールなど3官能性のもの、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4−又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類などを挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなどを用いることもできる。フェノール類としてはこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0022】
またフラン樹脂の原料のフラン化合物としては、フルフラール、フルフリルアルコールなどを用いることができ、一部にフェノール類を用いることもできる。これらは一種を単独で用いる他、二種以上を併用することもできる。
【0023】
またアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもできる。
【0024】
さらにフェノール樹脂用の反応触媒としては、フェノール類とアルデヒド類を反応させ、ベンゼン核とベンゼン核の間に−NCH結合を生成するような塩基性物質、例えばヘキサメチレンテトラミン、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン等の第1級や第2級のアミン類などを用いることができる。また、ナトリウム、カリウム、リチウムなどアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいは第3級アミン化合物などを挙げることもできる。これらの具体例を挙げると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデセン−7などがある。
【0025】
またフラン樹脂用の反応触媒としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩を用いることができる。さらに塩酸、リン酸、硫酸、キシレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シュウ酸、マレイン酸、無水マレイン酸などを用いることもできる。
【0026】
そして上記のフェノール類とフラン化合物の少なくとも一方と、アルデヒド類と、反応触媒とを反応容器にとり、フェノール類とアルデヒド類、あるいはフラン化合物とアルデヒド類を付加縮合反応させるものであるが、さらに分散剤を反応容器に投入し、また必要に応じてカップリング剤などの添加剤を反応容器に投入し、これらの存在下でフェノール類とアルデヒド類、あるいはフラン化合物とアルデヒド類との反応を行なわせるものである。
【0027】
ここで、フェノール樹脂を調製する場合には、フェノール類に対するアルデヒド類の配合量を、フェノール類1モルに対してアルデヒド類1.1〜3.0モルの範囲が好ましく、反応触媒の配合量は、反応触媒の種類によって大きく異なるが、フェノール類に対して0.05〜10質量%の範囲が好ましい。またフラン樹脂を調製する場合には、フラン化合物に対するアルデヒド類の配合量を、フラン化合物1モルに対してアルデヒド類0.4〜2.5モルの範囲が好ましく、反応触媒の配合量は、反応触媒の種類によって大きく異なるが、フラン化合物に対して0.05〜10質量%の範囲が好ましい。
【0028】
また上記のように反応系に添加する分散剤は、一種の乳化剤としても作用するものであり、例えばアラビアゴム、ポリビニルアルコール、ニカワ、グアーゴム、ガッテガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、可溶化でんぷん、寒天、アルギン酸ソーダなどを挙げることができる。これらのうちから一種単独で、あるいは複数種を併用して使用することができるが、これらの中でも、アラビアゴムやポリビニルアルコールが好ましく用いることができる。分散剤の添加量は、分散剤が有する乳化効果によって大きく異なり、特に限定されるものではないが、フェノール類やフラン化合物に対して0.1〜10.0質量%の範囲が好ましく、特に0.5〜7.0質量%の範囲が好ましい。
【0029】
そして上記の反応は、反応系を攪拌するに足る量の水中で行なわれるものであり、この反応系に超音波を照射しながら、フェノール類とフラン化合物の少なくとも一方とアルデヒド類とを付加縮合反応させるものである。反応の初期では、反応系の溶液は透明に近いが、反応の進行とともに乳白濁になってきて、付加縮合反応で生成されるフェノール類とアルデヒド類の付加縮合物やフラン化合物とアルデヒド類の付加縮合物の粒子が析出してくる。この際に、反応系に超音波を照射することによって反応系の溶液を微細な振動で攪拌することができ、付加縮合反応で生成される粒子が結合することを抑制することができるものであり、しかも分散剤による乳化分散作用によっても粒子が結合することを抑制することができるものであり、球状で且つ平均粒子径が1000nm以下のナノオーダーの、フェノール樹脂微粒子あるいはフラン樹脂微粒子を得ることができるものである。尚、フェノール樹脂微粒子あるいはフラン樹脂微粒子は小さいほど望ましいが、上記の方法で、平均粒子径50nm程度までの微粒子を得ることが可能である。
【0030】
反応系の溶液に超音波を照射するにあたって、超音波の振動数は特に制限されるものではないが、可聴限界の12〜20kHz以上であれば良い。通常は20〜200kHzの範囲が好ましいが、より好ましくは23〜100kHzの範囲であり、さらに好ましくは26〜60kHzの範囲である。超音波の照射の方法は、超音波照射体を反応容器の反応系溶液に差し込んで、反応系の溶液に直接超音波を照射したり、超音波洗浄装置のように反応容器の外側に超音波を照射して、超音波の振動が反応容器を介して反応系の溶液に作用するようにしたり、任意の方法が可能であるが、より効率的に超音波を反応系に作用させるためには、超音波照射体を反応系の溶液に差し込んで行なうようにするのが好ましい。
【0031】
ここで、上記のように反応系に超音波を照射しながら反応を行なわせるにあたって、機械的な攪拌を併用することもできる。このように反応系の溶液を機械的に攪拌すると共に、超音波の照射を行なうことによって、付加縮合反応して得られるフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子の粒子径をより小さなものに形成することができるものである。機械的な攪拌とは、反応系の溶液に強制的な流動を生じさせて系中で混合が発生するようにすることを意味するものであり、例えば一方向あるいは往復の両方向に回転する二枚羽根、三枚羽根、スクリューなどを用いて反応系の溶液を攪拌することができる。
【0032】
このように機械的な攪拌と超音波の照射を併用する場合、反応の初期は機械的な攪拌のみを行ない、途中から超音波の照射を併用するようにすることができる。この方法では、付加縮合反応で生成されるアルデヒド系樹脂粒子の高分子化が進むまで機械的攪拌のみが行なわれ、その後、超音波の照射で微細化させるので、比較的大き目のフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を得ることができるものである。
【0033】
また、反応の初期は超音波の照射のみを行ない、途中から機械的な攪拌を併用するようにすることもできる。この方法では、付加縮合反応で生成されるフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子は超音波の照射によって微細化されており、高分子化が進行した段階で機械的攪拌をして反応系を大きく流動させることによって、反応系の不均一化を防ぐようにすることができるものであり、上記の場合よりも小さいフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を得ることができるものである。
【0034】
さらに、反応の初期から、機械的な攪拌と超音波の照射の両方を行なうことによって、機械的攪拌と超音波照射の相乗効果を得ることができ、均一でより微細なフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を得ることができるものである。
【0035】
そして、上記のように付加縮合反応を所望の程度に進めた後に反応系を冷却し、超音波の照射や攪拌を停止すると、フェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子は反応系の溶液中から分離してくる。この微粒子は微少な含水粒状物となっているので、傾斜法で反応系の溶液を分離した後に濾過するなどして反応系から取り出した後、乾燥することによって、球状粒子としてフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を得ることができるものである。
【0036】
上記のようにしてフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を調製するにあたって、フェノール類あるいはフラン化合物とアルデヒド類との付加縮合反応を、生成されるフェノール樹脂やフラン樹脂が不溶不融性になるまで持続した後に、停止させることによって、完全硬化状態のフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を得ることができる。そしてこの完全硬化させたフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を非酸化性雰囲気で熱処理して焼成し、フェノール樹脂やフラン樹脂を炭化させることによって、本発明に係る電極材料となる平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物を得ることができるものである。非酸化性雰囲気は、フェノール樹脂やフラン樹脂が酸化されないものであればよく、アルゴン、ヘリウム、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に設定することができる。熱処理の条件は、フェノール樹脂やフラン樹脂を焼成して炭化するために、400〜3000℃、1〜100時間程度に設定するのが好ましい。
【0037】
このようにフェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子を焼成して炭化するにあたって、フェノール樹脂微粒子やフラン樹脂微粒子は熱に曝されることによって、微粒子中の低分子量物質が分解して揮散し、抜け跡が空隙となり、焼成して得られた炭化物微粒子には多数の小孔が形成される。このため、平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物からなる電極材料は、極小の微粒子であるために比表面積が大きいことに加えて、多孔であることによっても、比表面積を増大させることができるものである。
【0038】
そしてこのようにして得られる本発明の電極材料を用いて、リチウムイオン二次電池の負極など二次電池の電極を作製することができる。リチウムイオン二次電池の負極などの電極を作製するにあたっては、例えば、電極材料をバインダーと共に溶剤等に分散してスラリー状にし、銅箔等の金属箔にこのスラリーを塗布して乾燥し、プレス成形等することによって行なうことができるものである。
【0039】
ここで、本発明の電極材料は、平均粒子径が1000nm以下のナノオーダーの球状の炭化物からなるので、高い充填密度で電極を形成することができるものである。すなわち、球状粒子は直径が1/10になると、単位体積に充填できる粒子の数は10(つまり1000)倍になり、またこれを球状粒子の表面積として計算すると10倍になる。従って、電極材料の粒子同士の接触点が多くなって高い導電性を有する二次電池電極を形成することができ、電池寿命を延ばすことができると共に、二次電池電極の表面の活性を高めることができ、充・放電容量が高いなど優れた性能を有する二次電池用電極を得ることができるものである。
【0040】
また、この電極を分極性電極として用い、電解液の界面で形成される電気二重層を形成する電気二重層キャパシタを作製することができる。ここで、電気二重層キャパシタの分極性電極は、多くのイオンを吸着できるように比表面積が大きいことが必要である。このため本発明では、上記の平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物からなる電極材料を賦活処理して、単位質量当りの比表面積及び細孔容積を大きくし、物理的化学的吸着性能を向上させた状態で、電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料として使用するようにしている。賦活処理は、水蒸気や二酸化炭素等による気相賦活法、溶融水酸化カリウム等による薬液賦活法など、公知の任意の方法で行なうことができる。
【0041】
本発明の電極材料は平均粒子径が1000nm以下の極微小な球状の炭化物からなり、比表面積が大きいと共に、上記のように炭化の際の焼成によって多孔が形成されるためさらに比表面積が増大されている。このため、比表面積を大きくするための賦活処理の程度を浅くすることができるものであり、賦活処理によって炭化材料の粒子の密度が低下することを抑制することができる、密度低下による体積当りの静電容量の低下を防いで、充・放電容量が高い電気二重層キャパシタ分極性電極を得ることができるものである。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0043】
(実施例1)
二枚羽根の機械式攪拌装置と、新科学産業有限会社製超音波洗浄機「SPM40−02型」の超音波放射体をそれぞれ5L容量のフラスコ内にセットし、このフラスコにフェノールを450質量部、37質量%のホルマリンを460質量部、反応触媒としてヘキサメチレンテトラミンを50質量部、分散剤としてアラビアゴムを45質量部、水を2500質量部、それぞれ仕込んだ。
【0044】
そして攪拌装置を作動させてフラスコ内の反応系を攪拌速度8m/分で攪拌しながら加熱を開始し、約60分を要して沸騰還流させ、約10分後に反応系が乳白色になった後も攪拌を継続し、還流から90分後に、超音波放射体から出力500W、周波数40kHzの超音波を照射しながら、さらに150分間反応させた。
【0045】
次に、加熱を止めて50℃まで冷却した後、攪拌と超音波の照射を停止し、フラスコの内容物をビーカーに払い出した。これを4日間静置した後、傾斜法で上澄み液を除去し、ステンレス製のバットにビーカー中の内容物を払い出した。この内容物を薄く広げて3日間風乾した後、100℃の乾燥機に入れて10時間加熱乾燥することによって、不溶不融性に完全硬化した球状のフェノール樹脂微粒子を得た。
【0046】
この球状のフェノール樹脂微粒子の平均粒子径を株式会社堀場製作所製のレーザー回折式粒度分布測定器「LA−920」で測定した。この測定の結果、D50(累積した質量が50%になったときの粒子径)は850nmであった。
【0047】
次に、この球状フェノール樹脂微粒子を、窒素雰囲気下で、100℃/時間の昇温速度で800℃まで昇温して800℃で3時間加熱処理することによって焼成し、球状の炭化物からなる電極材料を得た。
【0048】
(実施例2)
実施例1と同様に各材料をフラスコに仕込み、そして、超音波放射体から出力500W、周波数40kHzの超音波を照射しながら加熱を開始し、約60分を要して沸騰還流させ、約10分後に反応系が乳白色になった後も超音波の照射を継続し、還流から90分後に攪拌装置を作動させてフラスコ内の反応系を攪拌速度8m/分で攪拌しながら、さらに150分間反応させた。
【0049】
後は、実施例1と同様にして不溶不融性に完全硬化した球状のフェノール樹脂微粒子を得た。この球状のフェノール樹脂微粒子の平均粒子径を実施例1と同様にして測定したところ、D50は680nmであった。次に、この球状フェノール樹脂微粒子を実施例1と同様にして焼成することによって、球状の炭化物からなる電極材料を得た。
【0050】
(実施例3)
実施例1と同様に各材料をフラスコに仕込み、そして、攪拌装置を作動させてフラスコ内の反応系を攪拌速度8m/分で攪拌しながら、且つ超音波放射体から出力500W、周波数40kHzの超音波を照射しながら、加熱を開始し、約60分を要して沸騰還流させ、約10分後に反応系が乳白色になった後も攪拌及び超音波の照射を継続し、還流から240分間反応させた。
【0051】
後は、実施例1と同様にして不溶不融性に完全硬化した球状のフェノール樹脂微粒子を得た。この球状のフェノール樹脂微粒子の平均粒子径を実施例1と同様にして測定したところ、D50は430nmであった。次に、この球状フェノール樹脂微粒子を実施例1と同様にして焼成することによって、球状の炭化物からなる電極材料を得た。
【0052】
(実施例4)
実施例1と同じフラスコに、フルフリルアルコールを470質量部、37質量%のホルマリンを420質量部、反応触媒として85質量%濃度のリン酸水溶液を13質量部、分散剤としてアラビアゴムを20質量部、水を2500質量部、それぞれ仕込んだ。
【0053】
後は実施例3と同じ条件で反応させることによって、不溶不融性に完全硬化した球状のフラン樹脂微粒子を得た。この球状のフラン樹脂粒子の平均粒子径を実施例1と同様にして測定したところ、D50は760nmであった。次に、この球状フラン樹脂微粒子を実施例1と同様にして焼成することによって、球状の炭化物からなる電極材料を得た。
【0054】
(比較例1)
反応の初期から反応の最後まで、攪拌装置による攪拌のみを行なう(超音波の照射はせず)ようにした他は、実施例1と同様にして不溶不融性に完全硬化した球状のフェノール樹脂粒子を得た。この球状のフェノール樹脂粒子の平均粒子径を実施例1と同様にして測定したところ、D50は25000nmであった。次に、この球状フェノール樹脂粒子を実施例1と同様にして焼成することによって、球状の炭化物からなる電極材料を得た。
【0055】
(比較例2)
攪拌装置による攪拌を攪拌速度16m/分に設定するようにした他は、比較例1と同様にして不溶不融性に完全硬化した球状のフェノール樹脂粒子を得た。この球状のフェノール樹脂粒子の平均粒子径を実施例1と同様にして測定したところ、D50は18200nmであった。次に、この球状フェノール樹脂粒子を実施例1と同様にして焼成することによって、球状の炭化物からなる電極材料を得た。
【0056】
(比較例3)
超音波の照射を行なわないようにした他は、実施例4と同様にして不溶不融性に完全硬化した球状のフラン樹脂粒子を得た。この球状のフラン樹脂粒子の平均粒子径を実施例1と同様にして測定したところ、D50は43000nmであった。次に、この球状フラン樹脂粒子を実施例1と同様にして焼成することによって、球状の炭化物からなる電極材料を得た。
【0057】
上記のようにして得た実施例1〜4及び比較例1〜3の電極材料について、その平均粒径のD50を実施例1と同様にして測定した。また実施例1〜4及び比較例1〜3の電極材料の粒子について、密充填かさ密度を測定した。密充填かさ密度の測定は、筒井理化学機械(株)製の「ABD粉体物性測定器」を用いて次のようにして行なった。まず、測定円台に100cmの試料容器を載せると共にさらにこの上に試料容器枠を載せ、これに試料を上部のホッパから供給して試料容器枠が一杯になったら、山になった部分の試料をすり切りヘラですり切る。タッピングを3分間行なった後に試料容器枠を取り外し、試料容器の山になった部分の試料をヘラですり切る。そして次式により密充填かさ密度を求めた。
密充填かさ密度(g/cm
=タッピング後の試料の質量(g)/試料容器の容量(cm
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例5〜8及び比較例4〜6)
次に、上記の実施例1〜4、比較例1〜3で得た電極材料3gに、ポリビニリデンフルオライドをN−メチルピロリドンに10質量%溶解させて調製したバインダー3gを加え、これを混合してスラリー状にした。そしてこのスラリーを厚さ20μm、直径12mmの円形の銅箔に塗布し、130℃で10時間真空乾燥した後、減圧下でプレス成形して電極を作製した。
【0060】
上記の実施例5〜8及び比較例4〜6で得た電極について、充・放電容量を測定した。充・放電容量測定には2電極セルを用いた。対極に金属リチウム、作用極に炭素材料を使用し、セパレータにはポリプロピレン製多孔質膜を用いた。電解液は1モル濃度の過塩素酸リチウムのエチレンカーボネート/ジエチレンカーボネート溶液(50/50質量%)を用いた。そして充・放電は正極、負極間に25mA/gの定電流を流して行ない、両極間の電位差の経時変化を測定することにより放電時間と充電時間を求めた。充・放電容量は、電流密度が一定であるため電流密度に放電時間又は充電時間を積算することにより求めた。またこの充・放電を1サイクルとして、50サイクル充・放電を繰り返した後についても、同様に充・放電容量を求めた。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2にみられるように、各実施例のものは、充・放電容量が大きく、また充・放電を繰り返しても充・放電容量の低下が少なく、電池寿命を延ばすことができることが確認される。
【0063】
(実施例9〜14及び比較例7〜8)
実施例1〜3及び比較例1で得た電極材料を、水蒸気流量5mL、窒素流量2L/分の流速で流通されるロータリーキルン炉の混合ガス雰囲気下、850℃で30分間あるいは60分間処理して賦活処理した。得られた炭素材料について、炭素材料の比表面積の大小の目安となるヨウ素吸着性能をJIS K 1474に準拠して、また密充填かさ密度を上記と同様にして測定した。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
表3にみられるように、粒子径が小さい各実施例のものは、賦活時間が短くとも、高いヨウ素吸着性能を示すことが確認される。
【0066】
(実施例15〜20及び比較例9〜10)
上記のようにして得た実施例9〜14、比較例7〜8の炭素材料1質量部に対して、30質量%濃度の硫酸を1.5質量部含浸して混練し、ペースト状にした。このペースト0.9gを直径30mmの円形の二枚の白金電極にそれぞれ塗付し、ポリプロピレン製セパレータを介して両電極を圧密着することによって、電気二重層キャパシタを製造した。
【0067】
そしてこのようにして得た実施例15〜20及び比較例15〜16の電気二重層キャパシタに0.9Vで1時間充電した後、放電電流10mAの放電を行ない、電気二重層キャパシタの電圧が0.54〜0.45Vまで低下するのに要した時間を測定し、単位時間当たりの静電容量である重量静電容量と単位体積当りの静電容量である容量静電容量を求めた。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
表4にみられるように、各実施例のものは静電容量が大きいことが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状のフェノール樹脂微粒子と球状のフラン樹脂微粒子の少なくとも一方を炭化して得られた平均粒子径が1000nm以下の球状の炭化物から成ることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
球状のフェノール樹脂微粒子は、フェノール類とアルデヒド類とを、分散剤と反応触媒の存在下で、反応系に超音波を照射しながら、付加縮合反応させて得られたものであり、球状のフラン樹脂微粒子は、フラン化合物とアルデヒド類とを、分散剤と反応触媒の存在下で、反応系に超音波を照射しながら、付加縮合反応させて得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の球状の炭化物からなる電極材料を用いて形成されたことを特徴とする二次電池用電極。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の球状の炭化物からなる電極材料を賦活処理して成ることを特徴とする電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料。
【請求項5】
請求項4に記載の電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料を用いて形成されたことを特徴とする電気二重層キャパシタ分極性電極。

【公開番号】特開2007−66669(P2007−66669A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250147(P2005−250147)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000115658)リグナイト株式会社 (34)
【Fターム(参考)】