電極板の製造方法
【課題】間欠的に形成する塗膜(電極膜)の塗布始端から塗布終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、且つ塗布終端の直線性にも優れる電極板の製造方法を提供する。
【解決手段】塗布ロール104表面の塗膜105に該塗布ロール104の軸方向に沿う切り込み部202,203を所定間隔にて形成し、前記塗布ロール104の回転に伴って移動する前記塗膜105の切り込み部202,203が所定位置に到達したときに前記塗布ロール104とバックアップロール106とを互いに接近離間させることにより、前記被塗布物107表面に前記切り込み部202,203間の塗膜105を間欠的に転写する。
【解決手段】塗布ロール104表面の塗膜105に該塗布ロール104の軸方向に沿う切り込み部202,203を所定間隔にて形成し、前記塗布ロール104の回転に伴って移動する前記塗膜105の切り込み部202,203が所定位置に到達したときに前記塗布ロール104とバックアップロール106とを互いに接近離間させることにより、前記被塗布物107表面に前記切り込み部202,203間の塗膜105を間欠的に転写する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極板の製造方法に関し、特に連続的に走行する被塗布物の表面に間欠的に塗膜を形成する電極板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、燃料電池等の電池電極の製造に、塗布ロールを用いる間欠塗工方法が使用されている。たとえば特許文献1に記載された間欠塗工方法では、図11に示すように、貯留槽101からの塗料102を調厚ロール103と塗布ロール104との間を通過させることで該塗布ロール104表面に塗膜105が形成され、この塗膜105が、バックアップロール106に巻き掛けられて塗布ロール104に近接して走行している帯状の被塗布物107表面に転写される。この状態から、図12に示すように、塗布ロール104と被塗布物107とが相対的に離間されることで、該被塗布物107上の塗膜105に塗布終端108が形成され、それに続く無地部109が被塗布物107に設けられる。このようにして、塗膜105が形成された塗布ロール104と被塗布物107との近接離間が繰り返されることで、被塗布物107にその走行方向に沿って間欠的に塗膜105が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3483072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の間欠塗工方法では、被塗布物107上に形成する個々の塗膜105の内、塗布ロール104と被塗布物107との近接離間に伴って塗布始端および塗布終端が形成されるときと、塗布ロール104と被塗布物107とが一定距離で対峙した状態で塗布始端および塗布終端から十分に離れた定常部分が形成されるときとで、塗布ロール104と被塗布物107との近接部分での流速分布が異なるため、塗布終端108および塗布始端110の近傍の塗膜105は、少なからず盛り上がるか、あるいは図示したように薄くなり、不均一な膜厚分布になるという問題がある。
【0005】
また塗布終端108は塗膜105が引き伸ばされるようにして破断されるため完全な直線状にはならず、尾を引いたような塗料付着が生じるという問題がある。
本発明は、上記問題を解決するもので、塗膜の塗布始端から塗布終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、且つ塗布終端の直線性にも優れる電極板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の電極板の製造方法は、第1ロールとそれに対向する第2ロールおよび第3ロールを配設し、前記第1ロールと前記第2ロールの間に電極塗料を通して前記第1ロールの表面に塗膜を形成し、この前記第1ロールの表面の塗膜を前記第3ロールの表面に沿って走行させる集電体の表面に転写して、前記集電体の表面に間欠的な電極塗膜を形成し電極板を製造する方法において、前記第1ロールの表面に形成され前記第1ロールの回転に伴って移動する前記塗膜に対して、前記第1ロールの軸方向に沿う切り込み部を前記第1ロールの回転方向に沿って所定間隔にて複数に形成するとともに、前記複数の切り込み部の内、任意の第1切り込み部が所定位置に到達した時に前記第1ロールと前記第3ロールとを互いに接近させ、前記第1切り込み部に後続する第2切り込み部が前記所定位置に到達した時に前記第1ロールと前記第3ロールとを互いに離間させることにより、前記第1切り込み部と前記第2切り込み部との間の前記塗膜を前記集電体の表面に転写することを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、間欠的に転写された塗膜の各々は切り込み部を塗布始端および塗布終端とするため、流速分布の影響をほとんど受けず、塗布始端から塗布終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、塗布終端の破断も容易に起こるため直線性にも優れる。
【0008】
前記切り込み部の深さは前記塗膜の膜厚の15%以上50%未満であることが好ましい。前記塗膜を形成する塗料の粘度は200Pa・s以上であることが好ましい。前記塗膜を形成する塗料が電池電極材料であるときに特に都合よい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極板の製造方法によれば、塗布始端から塗布終端に至るまで膜厚精度に優れる塗膜を形成することができ、塗布終端においても尾を引いたような塗料付着がない。かかる電極板の製造方法は、高い膜厚精度が要求される製品、たとえば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、燃料電池などにおける電池電極の製造に適する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の電極板の製造方法の第1工程を示す断面模式図
【図2】同電極板の製造方法の第2工程を示す断面模式図
【図3】同電極板の製造方法の第3工程を示す断面模式図
【図4】同電極板の製造方法の第4工程を示す断面模式図
【図5】同電極板の製造方法に使用する切り込み形成手段を変更した状態を示す断面模式図
【図6】本発明の電極板の製造方法における切り込みおよび膜厚の影響の試験を説明する断面模式図
【図7】図6の試験で用いた切り込み形成手段の一部拡大側面図
【図8】図6の試験の結果を示した図
【図9】本発明の電極板の製造方法により試験的に形成した塗膜断面の写真
【図10】本発明の電極板の製造方法における塗料の粘度とケガキ痕深さ/膜厚との関係を示した図
【図11】従来の電極板の製造方法の一工程を示す断面模式図
【図12】同電極板の製造方法の次工程を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図4は本発明の一実施形態の電極板の製造方法を工程の順に示す断面模式図である。図1〜図4において、先の図11および図12と同じ構成要素については同じ符号を用いている。
【0012】
図1に示す第1工程において、貯留槽101からの塗料102が回転している調厚ロール103と塗布ロール104との間を通過して該塗布ロール104表面に塗膜105が形成される。また塗布ロール104表面の塗膜105に、バックアップロール106に巻き掛けられて走行している帯状の被塗布物107が圧接されて、塗布ロール104表面の塗膜105が被塗布物107表面に転写される。調厚ロール103、塗布ロール104、バックアップロール106、被塗布物107はそれぞれ、特許請求の範囲における第1、第2、第3のロール、集電体に相当する。
【0013】
この際に、塗布ロール104とバックアップロール106とは、被塗布物107と塗布ロール104との間の最も小さい距離が塗布ロール104表面での塗膜105の塗布厚み以下となるまで相対的に近接させておく(この最も小さい距離で対向する被塗布物107と塗布ロール104の対向部どうしを結ぶ仮想平面の位置を転写位置と呼ぶこととする)。
【0014】
一方で、塗布ロール104表面に対してナイフ状の切り込み形成手段201を進退させることで、塗布ロール104表面の塗膜105に、塗膜105の幅方向(紙面と垂直な方向)に沿う塗布終端形成用の切り込み部202および塗布始端形成用の切り込み部203を該塗布ロール104の走行方向に沿って所定間隔にて形成する。切り込み形成手段201の形状については後述する。
【0015】
次に、図2に示す第2工程において、第1工程で形成した切り込み部202が上述の転写位置に来たときに、塗布ロール104と被塗布物107とを相対的に離間させる。このことにより、塗膜105は切り込み部202部分で分離し、被塗布物107表面の塗膜105に切り込み部202の内面に相応する直線状の塗布終端108が形成され、それに続く無地部109が設けられる。
【0016】
次に、図3に示す第3工程において、第1工程で形成した切り込み部203が上述の転写位置に来たときに、塗布ロール104と被塗布物107とを第1工程と同様に近接させる。このことにより、図4に示すように、塗布ロール104上で切り込み部203よりも塗布ロール104の回転方向の上流側にある塗膜105が被塗布物107の表面へ再び転写されていき、切り込み部203の内面を塗布始端110とした塗膜105が被塗布物107表面に形成される。
【0017】
以上のような塗布ロール104と被塗布物107との接近離間を繰り返すことにより、塗布ロール104表面に形成された塗膜105の必要部分だけを正確に切り出して被塗布物107の表面に転写させることができ、塗布始端110から塗布終端108に至るまで盛り上がりや薄塗りのない膜厚精度に優れた塗膜105を間欠的に形成することができる。
【0018】
上述のナイフ状の切り込み形成手段201に代えて、図5に示すロール状の切り込み形成手段211を使用してもよい。この切り込み形成手段211は、刃212,213を所定の間隔で設けたもので、刃212,213が塗布ロール104表面の塗膜105に接触し、且つ刃212,213のない円筒面は塗膜105に接触しない寸法に形成したもので、塗布ロール104に対して適当距離に配置し、塗布ロール104と同方向に同速度で回転させることで、塗膜105に所定の間隔で切り込み部202,203を形成することができる。
【0019】
ただし、これらの切り込み形成手段201、211の形状や切り込み形成方法に限定されるものではなく、塗布ロール104表面の塗膜105に所定の間隔、所定の位置に切り込み部202,切り込み部203を形成できるものであればよい。
【0020】
ここで、切り込み部202,203は、塗布ロール104表面の塗膜105の厚みに対して15%以上の深さとすることが望ましい。このことについて以下に説明する。
図6(a)に示すように、ベース204上に形成した塗膜105に対して、ナイフ状の切り込み形成手段201を図中の矢印の方向に出退させることで、所定深さまで挿入し引き抜いてV状の切り込み部202(あるいは203)を形成した。
【0021】
次に、図6(b)(c)に示すように、塗膜105の切り込み部202(203)を境とした片側の表面に被塗布物107を1kgfの荷重で矢印の方向に押し当て、しかる後に引き上げることにより、被塗布物107の表面へ塗膜105を転写させた。このときの塗膜端部の状態を確認した。
【0022】
なお、ベース204は表面粗さRyが3μmで厚み0.2mmのSUS板を用いた。塗膜105および被塗布物107は、リチウムイオン二次電池の電極に相応するものとした。つまり、被塗布物107は、表面粗さRyが0.1μmで厚み10μmの銅箔を用いた。塗膜105は、リチウムイオン二次電池用負極合剤塗量(グラファイト100g、カルボキシルメチルセルロース2g、水38g)を用いた。塗膜105の膜厚は120〜490μmとし、切り込み部202(203)は25μm〜100μmの深さとした。
【0023】
図6(c)に示すように、切り込み部202(203)を境界として、紙面に垂直な方向の直線状の塗膜端部が形成された場合を正常と評価する。図6(d)に示すように、ベース204上の塗膜105が切り込み部202(203)で分離されずに転写残りが生じ、被塗布物107上の塗膜105に欠けが生じた場合を不良と評価する。
【0024】
なお、切り込み形成手段201は、図7に拡大図示するように、任意の厚みの平板を任意の長さの部分において一端に向けて厚みが徐々に小さくなるように加工し、先端は所定の幅を持たせている。刃厚(平板の厚み)が120μm、刃長(厚みを減じた部分の長さ)が500μm、刃先面取り長(先端の幅)が20μmのものを用いた。刃先面取り長がゼロであっても構わない。
【0025】
試験結果を図8に示す。正常は○印で表し、不良は×印で表す。図8から明らかなように、塗膜の膜厚に関わらず、膜厚の15%以上の深さまで切り込み部を形成した場合に正常と評価されている。このことより、塗膜105に形成する切り込み部202(203)を膜厚の15%以上の深さとすることで、切り込み部202(203)を境界として紙面と垂直な方向に直線状に塗膜端部を形成できると言える。
【0026】
さらに、先に図1〜図4を用いて説明した方法により、つまり回転する塗布ロール104上の塗膜105に切り込み部202,203を形成して被塗布物107表面に転写することにより間欠的な塗膜105を形成し、その塗膜端部を調べた。
【0027】
塗布ロール104は、外径200mmで表面粗さRyが3μmのSUS製ロール(図6について説明したベース204と同様の表面である)を用いた。塗膜105は、図6について説明したのと同一の材料を用いて、膜厚200μm、幅300mmにて形成し、塗布ロール104の回転によって速度30m/minで走行させた。切り込み形成手段201は、先の図7に示す形状で、刃厚が120μm、刃長が500μm、刃先面取り長が20μmのものを使用した。被塗布物107は図6について説明したのと同様の銅箔である。
【0028】
この結果、切り込み部202,203の深さが塗膜105の膜厚の50%以上であるときに、図9に示すような、塗布終端108に塗膜105の欠けが生じる現象が見られた。これは、先の図1〜図4に示すように、塗膜105は回転する塗布ロール104に伴われて移動するので、塗膜105に対して完全なる垂直方向に切り込み形成手段201を出退させることができず、切り込み部202,203の深さが大きい場合に、塗布終端108や塗布始端(図示せず)の塗膜105を脱落させてしまうためと考えられる。したがって、塗布ロール104上の塗膜105に形成する切り込み部202,203の深さは、塗膜105の膜厚の50%未満とすることが望ましい。
【0029】
なお、塗料102の粘度が低すぎると、塗布ロール104表面で未乾燥状態にある塗膜105に切り込み部202,203を形成しても、該塗膜105を被塗布物107の表面に転写する前に切り込み部202,203に周囲の塗料が流れ込み、切り込み部202,203が消失してしまうことが推測される。
【0030】
そこで、28〜3200Pa・sの種々の粘度の塗料を用いて膜厚150μmの塗膜を作製し、各塗膜に150μmの深さの切り込み部、すなわち膜厚に対して100%の深さの切り込み部を形成し、切り込み形成の30秒後の切り込み深さをスポット径2μmのレーザー変位計にて測定した。結果を図9に示す。
【0031】
図9から明らかなように、200Pa・s未満の塗料を用いた場合、その塗膜に膜厚の100%の深さまで切り込み部を形成しても、形成した切り込み部に周囲の塗料が流れ込む現象が顕著であり、直線状の塗膜端部を形成するために望ましい、膜厚の15%の深さの切り込み部を残すことができない。したがって、本発明方法では、粘度200Pa・s以上の塗料を用いることが望ましい。
【0032】
以上のように、本発明の電極板の製造方法を構成する間欠塗工方法によれば、間欠的な塗膜を塗布始端から塗布終端にいたるまで高い膜厚精度にて形成できる。よって、高い膜厚精度が要求される製品、たとえば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、燃料電池などにおける電池電極の製造に利用できる。
【0033】
たとえばリチウムイオン二次電池の電極は次のようにして製造できる。上述の塗膜105の材料を、プラネタリミキサ、三本ロール、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどの一般的な混合・分散装置にて混合することで、粘度500Pasの塗料を得る。この塗料を、上述の実施の形態に記載の方法を用いて被塗布物107の両面に間欠的に配置して塗膜105とし、これをロールプレスにより圧密化する。プレス前後の膜厚比(プレス後膜厚/プレス前膜厚)は、求められる電池性能に依存するが、一般的に0.5〜0.8の範囲である。プレス後の被塗布物107/塗膜105(たとえば幅300mm)を、電池のサイズに合わせてスリットする。スリット後の塗膜幅は電池サイズにより異なるが一般的に25〜60mmである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の電極板の製造方法は、塗布始端から塗布終端にいたるまで高い膜厚精度が要求される製品、たとえば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、燃料電池などにおける電池電極の製造に特に有用である。
【符号の説明】
【0035】
101 貯留槽
102 塗料
103 調厚ロール
104 塗布ロール
105 塗膜
106 バックアップロール
107 被塗布物
108 塗布終端
109 無地部
110 塗布始端
201 切り込み形成手段
202 切り込み部
203 切り込み部
211 切り込み形成手段
212 刃
213 刃
【技術分野】
【0001】
本発明は電極板の製造方法に関し、特に連続的に走行する被塗布物の表面に間欠的に塗膜を形成する電極板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、燃料電池等の電池電極の製造に、塗布ロールを用いる間欠塗工方法が使用されている。たとえば特許文献1に記載された間欠塗工方法では、図11に示すように、貯留槽101からの塗料102を調厚ロール103と塗布ロール104との間を通過させることで該塗布ロール104表面に塗膜105が形成され、この塗膜105が、バックアップロール106に巻き掛けられて塗布ロール104に近接して走行している帯状の被塗布物107表面に転写される。この状態から、図12に示すように、塗布ロール104と被塗布物107とが相対的に離間されることで、該被塗布物107上の塗膜105に塗布終端108が形成され、それに続く無地部109が被塗布物107に設けられる。このようにして、塗膜105が形成された塗布ロール104と被塗布物107との近接離間が繰り返されることで、被塗布物107にその走行方向に沿って間欠的に塗膜105が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3483072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の間欠塗工方法では、被塗布物107上に形成する個々の塗膜105の内、塗布ロール104と被塗布物107との近接離間に伴って塗布始端および塗布終端が形成されるときと、塗布ロール104と被塗布物107とが一定距離で対峙した状態で塗布始端および塗布終端から十分に離れた定常部分が形成されるときとで、塗布ロール104と被塗布物107との近接部分での流速分布が異なるため、塗布終端108および塗布始端110の近傍の塗膜105は、少なからず盛り上がるか、あるいは図示したように薄くなり、不均一な膜厚分布になるという問題がある。
【0005】
また塗布終端108は塗膜105が引き伸ばされるようにして破断されるため完全な直線状にはならず、尾を引いたような塗料付着が生じるという問題がある。
本発明は、上記問題を解決するもので、塗膜の塗布始端から塗布終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、且つ塗布終端の直線性にも優れる電極板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の電極板の製造方法は、第1ロールとそれに対向する第2ロールおよび第3ロールを配設し、前記第1ロールと前記第2ロールの間に電極塗料を通して前記第1ロールの表面に塗膜を形成し、この前記第1ロールの表面の塗膜を前記第3ロールの表面に沿って走行させる集電体の表面に転写して、前記集電体の表面に間欠的な電極塗膜を形成し電極板を製造する方法において、前記第1ロールの表面に形成され前記第1ロールの回転に伴って移動する前記塗膜に対して、前記第1ロールの軸方向に沿う切り込み部を前記第1ロールの回転方向に沿って所定間隔にて複数に形成するとともに、前記複数の切り込み部の内、任意の第1切り込み部が所定位置に到達した時に前記第1ロールと前記第3ロールとを互いに接近させ、前記第1切り込み部に後続する第2切り込み部が前記所定位置に到達した時に前記第1ロールと前記第3ロールとを互いに離間させることにより、前記第1切り込み部と前記第2切り込み部との間の前記塗膜を前記集電体の表面に転写することを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、間欠的に転写された塗膜の各々は切り込み部を塗布始端および塗布終端とするため、流速分布の影響をほとんど受けず、塗布始端から塗布終端に至るまでの膜厚の均一性に優れ、塗布終端の破断も容易に起こるため直線性にも優れる。
【0008】
前記切り込み部の深さは前記塗膜の膜厚の15%以上50%未満であることが好ましい。前記塗膜を形成する塗料の粘度は200Pa・s以上であることが好ましい。前記塗膜を形成する塗料が電池電極材料であるときに特に都合よい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極板の製造方法によれば、塗布始端から塗布終端に至るまで膜厚精度に優れる塗膜を形成することができ、塗布終端においても尾を引いたような塗料付着がない。かかる電極板の製造方法は、高い膜厚精度が要求される製品、たとえば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、燃料電池などにおける電池電極の製造に適する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の電極板の製造方法の第1工程を示す断面模式図
【図2】同電極板の製造方法の第2工程を示す断面模式図
【図3】同電極板の製造方法の第3工程を示す断面模式図
【図4】同電極板の製造方法の第4工程を示す断面模式図
【図5】同電極板の製造方法に使用する切り込み形成手段を変更した状態を示す断面模式図
【図6】本発明の電極板の製造方法における切り込みおよび膜厚の影響の試験を説明する断面模式図
【図7】図6の試験で用いた切り込み形成手段の一部拡大側面図
【図8】図6の試験の結果を示した図
【図9】本発明の電極板の製造方法により試験的に形成した塗膜断面の写真
【図10】本発明の電極板の製造方法における塗料の粘度とケガキ痕深さ/膜厚との関係を示した図
【図11】従来の電極板の製造方法の一工程を示す断面模式図
【図12】同電極板の製造方法の次工程を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図4は本発明の一実施形態の電極板の製造方法を工程の順に示す断面模式図である。図1〜図4において、先の図11および図12と同じ構成要素については同じ符号を用いている。
【0012】
図1に示す第1工程において、貯留槽101からの塗料102が回転している調厚ロール103と塗布ロール104との間を通過して該塗布ロール104表面に塗膜105が形成される。また塗布ロール104表面の塗膜105に、バックアップロール106に巻き掛けられて走行している帯状の被塗布物107が圧接されて、塗布ロール104表面の塗膜105が被塗布物107表面に転写される。調厚ロール103、塗布ロール104、バックアップロール106、被塗布物107はそれぞれ、特許請求の範囲における第1、第2、第3のロール、集電体に相当する。
【0013】
この際に、塗布ロール104とバックアップロール106とは、被塗布物107と塗布ロール104との間の最も小さい距離が塗布ロール104表面での塗膜105の塗布厚み以下となるまで相対的に近接させておく(この最も小さい距離で対向する被塗布物107と塗布ロール104の対向部どうしを結ぶ仮想平面の位置を転写位置と呼ぶこととする)。
【0014】
一方で、塗布ロール104表面に対してナイフ状の切り込み形成手段201を進退させることで、塗布ロール104表面の塗膜105に、塗膜105の幅方向(紙面と垂直な方向)に沿う塗布終端形成用の切り込み部202および塗布始端形成用の切り込み部203を該塗布ロール104の走行方向に沿って所定間隔にて形成する。切り込み形成手段201の形状については後述する。
【0015】
次に、図2に示す第2工程において、第1工程で形成した切り込み部202が上述の転写位置に来たときに、塗布ロール104と被塗布物107とを相対的に離間させる。このことにより、塗膜105は切り込み部202部分で分離し、被塗布物107表面の塗膜105に切り込み部202の内面に相応する直線状の塗布終端108が形成され、それに続く無地部109が設けられる。
【0016】
次に、図3に示す第3工程において、第1工程で形成した切り込み部203が上述の転写位置に来たときに、塗布ロール104と被塗布物107とを第1工程と同様に近接させる。このことにより、図4に示すように、塗布ロール104上で切り込み部203よりも塗布ロール104の回転方向の上流側にある塗膜105が被塗布物107の表面へ再び転写されていき、切り込み部203の内面を塗布始端110とした塗膜105が被塗布物107表面に形成される。
【0017】
以上のような塗布ロール104と被塗布物107との接近離間を繰り返すことにより、塗布ロール104表面に形成された塗膜105の必要部分だけを正確に切り出して被塗布物107の表面に転写させることができ、塗布始端110から塗布終端108に至るまで盛り上がりや薄塗りのない膜厚精度に優れた塗膜105を間欠的に形成することができる。
【0018】
上述のナイフ状の切り込み形成手段201に代えて、図5に示すロール状の切り込み形成手段211を使用してもよい。この切り込み形成手段211は、刃212,213を所定の間隔で設けたもので、刃212,213が塗布ロール104表面の塗膜105に接触し、且つ刃212,213のない円筒面は塗膜105に接触しない寸法に形成したもので、塗布ロール104に対して適当距離に配置し、塗布ロール104と同方向に同速度で回転させることで、塗膜105に所定の間隔で切り込み部202,203を形成することができる。
【0019】
ただし、これらの切り込み形成手段201、211の形状や切り込み形成方法に限定されるものではなく、塗布ロール104表面の塗膜105に所定の間隔、所定の位置に切り込み部202,切り込み部203を形成できるものであればよい。
【0020】
ここで、切り込み部202,203は、塗布ロール104表面の塗膜105の厚みに対して15%以上の深さとすることが望ましい。このことについて以下に説明する。
図6(a)に示すように、ベース204上に形成した塗膜105に対して、ナイフ状の切り込み形成手段201を図中の矢印の方向に出退させることで、所定深さまで挿入し引き抜いてV状の切り込み部202(あるいは203)を形成した。
【0021】
次に、図6(b)(c)に示すように、塗膜105の切り込み部202(203)を境とした片側の表面に被塗布物107を1kgfの荷重で矢印の方向に押し当て、しかる後に引き上げることにより、被塗布物107の表面へ塗膜105を転写させた。このときの塗膜端部の状態を確認した。
【0022】
なお、ベース204は表面粗さRyが3μmで厚み0.2mmのSUS板を用いた。塗膜105および被塗布物107は、リチウムイオン二次電池の電極に相応するものとした。つまり、被塗布物107は、表面粗さRyが0.1μmで厚み10μmの銅箔を用いた。塗膜105は、リチウムイオン二次電池用負極合剤塗量(グラファイト100g、カルボキシルメチルセルロース2g、水38g)を用いた。塗膜105の膜厚は120〜490μmとし、切り込み部202(203)は25μm〜100μmの深さとした。
【0023】
図6(c)に示すように、切り込み部202(203)を境界として、紙面に垂直な方向の直線状の塗膜端部が形成された場合を正常と評価する。図6(d)に示すように、ベース204上の塗膜105が切り込み部202(203)で分離されずに転写残りが生じ、被塗布物107上の塗膜105に欠けが生じた場合を不良と評価する。
【0024】
なお、切り込み形成手段201は、図7に拡大図示するように、任意の厚みの平板を任意の長さの部分において一端に向けて厚みが徐々に小さくなるように加工し、先端は所定の幅を持たせている。刃厚(平板の厚み)が120μm、刃長(厚みを減じた部分の長さ)が500μm、刃先面取り長(先端の幅)が20μmのものを用いた。刃先面取り長がゼロであっても構わない。
【0025】
試験結果を図8に示す。正常は○印で表し、不良は×印で表す。図8から明らかなように、塗膜の膜厚に関わらず、膜厚の15%以上の深さまで切り込み部を形成した場合に正常と評価されている。このことより、塗膜105に形成する切り込み部202(203)を膜厚の15%以上の深さとすることで、切り込み部202(203)を境界として紙面と垂直な方向に直線状に塗膜端部を形成できると言える。
【0026】
さらに、先に図1〜図4を用いて説明した方法により、つまり回転する塗布ロール104上の塗膜105に切り込み部202,203を形成して被塗布物107表面に転写することにより間欠的な塗膜105を形成し、その塗膜端部を調べた。
【0027】
塗布ロール104は、外径200mmで表面粗さRyが3μmのSUS製ロール(図6について説明したベース204と同様の表面である)を用いた。塗膜105は、図6について説明したのと同一の材料を用いて、膜厚200μm、幅300mmにて形成し、塗布ロール104の回転によって速度30m/minで走行させた。切り込み形成手段201は、先の図7に示す形状で、刃厚が120μm、刃長が500μm、刃先面取り長が20μmのものを使用した。被塗布物107は図6について説明したのと同様の銅箔である。
【0028】
この結果、切り込み部202,203の深さが塗膜105の膜厚の50%以上であるときに、図9に示すような、塗布終端108に塗膜105の欠けが生じる現象が見られた。これは、先の図1〜図4に示すように、塗膜105は回転する塗布ロール104に伴われて移動するので、塗膜105に対して完全なる垂直方向に切り込み形成手段201を出退させることができず、切り込み部202,203の深さが大きい場合に、塗布終端108や塗布始端(図示せず)の塗膜105を脱落させてしまうためと考えられる。したがって、塗布ロール104上の塗膜105に形成する切り込み部202,203の深さは、塗膜105の膜厚の50%未満とすることが望ましい。
【0029】
なお、塗料102の粘度が低すぎると、塗布ロール104表面で未乾燥状態にある塗膜105に切り込み部202,203を形成しても、該塗膜105を被塗布物107の表面に転写する前に切り込み部202,203に周囲の塗料が流れ込み、切り込み部202,203が消失してしまうことが推測される。
【0030】
そこで、28〜3200Pa・sの種々の粘度の塗料を用いて膜厚150μmの塗膜を作製し、各塗膜に150μmの深さの切り込み部、すなわち膜厚に対して100%の深さの切り込み部を形成し、切り込み形成の30秒後の切り込み深さをスポット径2μmのレーザー変位計にて測定した。結果を図9に示す。
【0031】
図9から明らかなように、200Pa・s未満の塗料を用いた場合、その塗膜に膜厚の100%の深さまで切り込み部を形成しても、形成した切り込み部に周囲の塗料が流れ込む現象が顕著であり、直線状の塗膜端部を形成するために望ましい、膜厚の15%の深さの切り込み部を残すことができない。したがって、本発明方法では、粘度200Pa・s以上の塗料を用いることが望ましい。
【0032】
以上のように、本発明の電極板の製造方法を構成する間欠塗工方法によれば、間欠的な塗膜を塗布始端から塗布終端にいたるまで高い膜厚精度にて形成できる。よって、高い膜厚精度が要求される製品、たとえば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、燃料電池などにおける電池電極の製造に利用できる。
【0033】
たとえばリチウムイオン二次電池の電極は次のようにして製造できる。上述の塗膜105の材料を、プラネタリミキサ、三本ロール、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどの一般的な混合・分散装置にて混合することで、粘度500Pasの塗料を得る。この塗料を、上述の実施の形態に記載の方法を用いて被塗布物107の両面に間欠的に配置して塗膜105とし、これをロールプレスにより圧密化する。プレス前後の膜厚比(プレス後膜厚/プレス前膜厚)は、求められる電池性能に依存するが、一般的に0.5〜0.8の範囲である。プレス後の被塗布物107/塗膜105(たとえば幅300mm)を、電池のサイズに合わせてスリットする。スリット後の塗膜幅は電池サイズにより異なるが一般的に25〜60mmである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の電極板の製造方法は、塗布始端から塗布終端にいたるまで高い膜厚精度が要求される製品、たとえば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、燃料電池などにおける電池電極の製造に特に有用である。
【符号の説明】
【0035】
101 貯留槽
102 塗料
103 調厚ロール
104 塗布ロール
105 塗膜
106 バックアップロール
107 被塗布物
108 塗布終端
109 無地部
110 塗布始端
201 切り込み形成手段
202 切り込み部
203 切り込み部
211 切り込み形成手段
212 刃
213 刃
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ロールとそれに対向する第2ロールおよび第3ロールを配設し、前記第1ロールと前記第2ロールの間に電極塗料を通して前記第1ロールの表面に塗膜を形成し、この前記第1ロールの表面の塗膜を前記第3ロールの表面に沿って走行させる集電体の表面に転写して、前記集電体の表面に間欠的な電極塗膜を形成し電極板を製造する方法であって、
前記第1ロールの表面に形成され前記第1ロールの回転に伴って移動する前記塗膜に対して、前記第1ロールの軸方向に沿う切り込み部を前記第1ロールの回転方向に沿って所定間隔にて複数に形成するとともに、
前記複数の切り込み部の内、任意の第1切り込み部が所定位置に到達した時に前記第1ロールと前記第3ロールとを互いに接近させ、前記第1切り込み部に後続する第2切り込み部が前記所定位置に到達した時に前記第1ロールと前記第3ロールとを互いに離間させることにより、前記第1切り込み部と前記第2切り込み部との間の前記塗膜を前記集電体の表面に転写することを特徴とする電極板の製造方法。
【請求項2】
前記切り込み部の深さが前記塗膜の膜厚の15%以上50%未満であることを特徴とする請求項1記載の電極板の製造方法。
【請求項3】
前記塗膜を形成する塗料の粘度が200Pa・s以上であることを特徴とする請求項1記載の電極板の製造方法。
【請求項1】
第1ロールとそれに対向する第2ロールおよび第3ロールを配設し、前記第1ロールと前記第2ロールの間に電極塗料を通して前記第1ロールの表面に塗膜を形成し、この前記第1ロールの表面の塗膜を前記第3ロールの表面に沿って走行させる集電体の表面に転写して、前記集電体の表面に間欠的な電極塗膜を形成し電極板を製造する方法であって、
前記第1ロールの表面に形成され前記第1ロールの回転に伴って移動する前記塗膜に対して、前記第1ロールの軸方向に沿う切り込み部を前記第1ロールの回転方向に沿って所定間隔にて複数に形成するとともに、
前記複数の切り込み部の内、任意の第1切り込み部が所定位置に到達した時に前記第1ロールと前記第3ロールとを互いに接近させ、前記第1切り込み部に後続する第2切り込み部が前記所定位置に到達した時に前記第1ロールと前記第3ロールとを互いに離間させることにより、前記第1切り込み部と前記第2切り込み部との間の前記塗膜を前記集電体の表面に転写することを特徴とする電極板の製造方法。
【請求項2】
前記切り込み部の深さが前記塗膜の膜厚の15%以上50%未満であることを特徴とする請求項1記載の電極板の製造方法。
【請求項3】
前記塗膜を形成する塗料の粘度が200Pa・s以上であることを特徴とする請求項1記載の電極板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図9】
【公開番号】特開2011−3365(P2011−3365A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144796(P2009−144796)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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