説明

電極組成物の製造方法

本発明は、pH1の非緩衝水性酸性媒体又はpH4以下の緩衝酸性媒体中に、Si、Sn及びGeから選択される元素Mの粒子の形の電極活性材料と、酸性媒体中でヒドロキシル基と反応することができる反応性基を有するポリマーバインダーと、電子伝導性発生剤とを含有する懸濁液を形成させる工程を含む、電極組成物の製造方法に関する。本発明はまた、前記方法に従って得られる電極、並びにかかる電極を含む電池にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の複合負電極を製造するための組成物、該組成物及び該電極の製造方法、並びに該電極を含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、少なくとも1つの負極又はアノード及び少なくとも1つの正極又はカソードを含み、それらの間に電解質を含浸させたセパレーターが配置されて成る。電解質は、イオンの輸送及び解離が最適化されるように選択される溶剤中にリチウム塩を溶解させることによって形成される。
【0003】
リチウムイオン電池において、各電極は一般的に、リチウムに対して活性な材料とバインダーとしての働きをするポリマー(例えばフッ化ビニリデンコポリマー(PVdF))と電子伝導性付与剤(以下、電子伝導剤又は電子伝導性発生剤とも称する)(例えばカーボンブラック)とを含む複合材料を集電体(current collector)の上に付着させて成る。電池の作動の際に、リチウムイオンが一方の電極から電解質を通ってもう一方の電極へと通じる。電池の放電の際に、所定量のリチウムが電解質から正極の活性材料と反応し、同等量が負極の活性材料から電解質中に導入され、従って電解質中のリチウム濃度は一定であり続ける。正極中へのリチウムの挿入は、外部回路経由で負極から電子が供給されることによって補填される。充電の際には、逆の現象が起こる。
【0004】
Liイオン電池は、ポータブル用電気器具、特に携帯電話、コンピューター及び照明器具、又は大型電気器具、例えば二輪輸送手段(自転車、モペッド)又は四輪輸送手段(電気自動車若しくはハイブリッド自動車)等を含む多くの装置に用いられている。これらの用途すべてについて、可能な限り最高の単位質量当たりのエネルギー密度(Wh/kg)及び単位容量当たりのエネルギー密度(Wh/L)を有する電池を得ることが至上命令となっている。携帯電話、コンピューター及び照明器具に用いられている市販のLiイオン電池において、負極の活性材料は一般的にグラファイトであり、正極の活性材料はコバルト酸化物である。この組合せに基づくLiイオン電池の単位質量当たりのエネルギー密度は、200Wh/kgである。かかる電池は、輸送用途のために用いるのに充分安全ではない。輸送に関連する用途のために販売されているLiイオン電池は、負極における活性材料としてのグラファイト及び正極におけるリン酸鉄を有し、それらの単位質量当たりのエネルギー密度は110Wh/kgである。
【0005】
グラファイトの理論静電容量(capacitance)は372mAh/gグラファイト(グラファイト1g当たり372mAh)であり、Si及びSnの理論静電容量はそれぞれ3580mAh/gSi(Si1g当たり3580mAh)及び1400mAh/gSn(Sn1g当たり1400mAh)である。従って、グラファイトに代えてSi又はSnを使用すると、より少ない容量で同じ静電容量を得ること又は同じ容量の材料でより大きい静電容量を得ることが可能となる。従って、Liイオン電池においてグラファイトをケイ素に置き換えることにより、ポータブル用途について320Wh/kg及び輸送分野の用途において180Wh/kgのエネルギー密度を達成することができる。
【0006】
しかしながら、Si、Sn又はGeのような活性材料の使用には、充電及び放電によって引き起こされるSi粒子の容量の大幅な変化(300%まで)が機械的な制約及び電極の凝集の喪失をもたらすという事実のせいで、欠点がある。この喪失は、時間が経つにつれての静電容量の非常に大幅な低下及び内部抵抗の増大を伴う(N. Obrovac, L. Christensen, Electrochem. Solid-State Lett., 2004, 7, A93)。この欠点は、薄いSiフィルムについてはもっと抑制され、良好なサイクル使用可能性(cyclability)(250nmのSiフィルムについて200サイクルの後に3600mAh/g)を示すことができるが、しかし小さい厚さ故に低い表面静電容量(0.5mAh/cm2)を有する(T. Takamura, S. Ohara, M. Uehara, J. Suzuki, K. Sekine, J. Power Sources, 2004, 129, 96)。しかしながら、これらの薄いフィルムを付着させるための方法に関連する高い費用は、すべてのポータブル用途及び輸送用途についてのそれらの工業的開発を制限する(U. Kasavajjula, C. Wang, A.J. Appleby, J. Power Sources, 2007, 163, 1003)。
【0007】
ポータブル用途については、Si粒子と電子伝導剤(例えばカーボンブラック)及びポリマー性バインダー(例えばPVdF)とを混合することによって、3.0mAh/cm2の表面静電容量を有する厚い負極が得られる。これらの電極の劣ったサイクル使用可能性は、カーボンブラックによって形成される網状構造の崩壊、並びにSi粒子の膨張及び続いての収縮によるSi/炭素の接触の損失、そしてさらにリチウムとの合金を形成する際のそれらの非常に小さい粒子への破壊にも起因するものである(J. H. Ryu, J. W. Kim, Y.-E. Sung, S. M. Oh, Electrochem. Solid-State Lett., 2004, 7, A306; W.-R. Liu, Z.-Z. Guo, W.-S. Young, D.-T. Shieh, H.-C. Wu, M.-H. Yang, N.-L. Wu, J., Power Sources, 2005, 140, 139)。炭素/炭素接触及びSi/炭素接触の損失は、アノードにおける電子の移動を抑制し、結果として合金反応を抑制する。
【0008】
これらの欠点を克服するために、ナノメートル寸法のケイ素粒子を用いること(U. Kasavajjula, C. Wang, A.J. Appleby, J. Power Sources, 2007, 163, 1003; Z. P. Guo, J. Z. Wang, H. K. Liu, S. X. Dou, J., Power Sources, 2005, 146, 448)や、Si及び様々な導電性材料の複合粒子{例えば有機前駆体の分解、化学蒸着(CVD)、機械化学的粉砕、単純な物理的混合、ゲルの反応等によって調製したもの}を用いること{U. Kasavajjula, C. Wang, A.J. Appleby, J. Power Sources, 2007(これはケイ素についてのレビューである)}が提唱されている。また、ナノ構造の活性材料(M. Holzapfel, H. Buqa, W. Scheifele, P. Novak, F.-M. Petrat, Chem. Commun., 2005, 1566)、又はカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーのような導電性剤(S. Park, T. Kim, S. M. Oh, Electrochem. Solid-State Lett., 2007, 10, A142.)も提供されている。しかしながら、これらの手段はいずれも、負極の性能の大幅な改善を達成することを可能にはしていない。最善のサイクル使用安定性は、425mAh/g電極の静電容量を有する電極についての400サイクルに限られている(M. Yoshio, S. Kugino, N. Dimov, J. Power Sources, 2006, 153, 375 and M. Yoshio, T. Tsumura, N. Dimov, J. Power Sources, 2007, 163, 215)。
【0009】
また、pH3の媒体中で、活性剤としてのマイクロメートル寸法のSi粒子、バインダーとしてのカルボキシメチルセルロース及び電子伝導性付与剤としてのカーボンブラックを含有する複合材料を調製することも提唱されている(B. Lestriez, S. Bahri, I. Sandu, L. Roue, D. Guyomard, Electrochemistry Communications, 2007, 9, 2801-2806)。
【0010】
しかしながら、様々な先行技術の刊行物は、酸性媒体中での実施が推奨されない複合電極材料の調製方法に関するものである。この点に関しては、次のものを挙げることができる:W. Porcher, et al. [Electrochemical and Solid-State Letters, 2008, 1, A4-A8] (それによると、活性材料が酸性pHにおいて溶解する場合には、LiFePO4を基材とする正極の酸性水溶液中での製造は有害である);J-H. Lee, et al., [J. Power Sources, 2005, 147, 249-255](それによると、グラファイト及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を基材とする負極は、酸性pHにおいてはCMCのCOO-カルボキシレート官能基がカルボン酸官能基COOHに中和されるせいで電極懸濁液が安定ではないので、6より大きいpH範囲において調製するのが好ましい);C-C. Li, et al., [J. Mater. Sci., 2007, 42, 5773](それによると、LiCoO2及びCMCを基材とする正極は、酸性pHにおいては電極懸濁液が安定ではなくて電気化学的性能が劣ったものとなるので、7より大きいpH範囲において調製するのが好ましい。CMCのカルボキシレート官能基COO-のカルボン酸官能基COOHへの中和はその剪断増粘特性の損失をもたらし、これらの特性は水性電極懸濁液中におけるその使用のための理由である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】N. Obrovac, L. Christensen, Electrochem. Solid-State Lett., 2004, 7, A93
【非特許文献2】T. Takamura, S. Ohara, M. Uehara, J. Suzuki, K. Sekine, J. Power Sources, 2004, 129, 96
【非特許文献3】U. Kasavajjula, C. Wang, A.J. Appleby, J. Power Sources, 2007, 163, 1003
【非特許文献4】J. H. Ryu, J. W. Kim, Y.-E. Sung, S. M. Oh, Electrochem. Solid-State Lett., 2004, 7, A306
【非特許文献5】W.-R. Liu, Z.-Z. Guo, W.-S. Young, D.-T. Shieh, H.-C. Wu, M.-H. Yang, N.-L. Wu, J., Power Sources, 2005, 140, 139
【非特許文献6】Z. P. Guo, J. Z. Wang, H. K. Liu, S. X. Dou, J., Power Sources, 2005, 146, 448
【非特許文献7】M. Holzapfel, H. Buqa, W. Scheifele, P. Novak, F.-M. Petrat, Chem. Commun., 2005, 1566
【非特許文献8】S. Park, T. Kim, S. M. Oh, Electrochem. Solid-State Lett., 2007, 10, A142.
【非特許文献9】M. Yoshio, S. Kugino, N. Dimov, J. Power Sources, 2006, 153, 375
【非特許文献10】M. Yoshio, T. Tsumura, N. Dimov, J. Power Sources, 2007, 163, 215
【非特許文献11】B. Lestriez, S. Bahri, I. Sandu, L. Roue, D. Guyomard, Electrochemistry Communications, 2007, 9, 2801-2806
【非特許文献12】W. Porcher, et al. [Electrochemical and Solid-State Letters, 2008, 1, A4-A8]
【非特許文献13】J-H. Lee, et al., [J. Power Sources, 2005, 147, 249-255]
【非特許文献14】C-C. Li, et al., [J. Mater. Sci., 2007, 42, 5773]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、活性材料M(Si、Sn又はGe)のサブミクロン粒子と炭素粒子とポリマーとの混合物から成る組成物から所定のpH条件下で且つ前記混合物の各種成分の所定の相対割合において複合電極を調製した場合には、前記組成物を酸性媒体中で製造した場合にも、連続サイクルにわたる充電及び放電についての静電容量の維持に関して改善された特性を有する電池が得られることを見出した。任意の理論に縛られることは望まないが、本発明者らは、これらの改善された特性は特に改善された機械的強度の結果物であると考える。
【0013】
本発明の目的は、リチウムイオン電池に用いることが意図される負極を製造するための組成物、該組成物及び該電極の製造方法、並びに前記負極を含む電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に従う組成物は、水性媒体中に活性電極材料、バインダー及び電子伝導性発生剤を懸濁させる工程を含む方法によって調製される。この方法は、
・前記電極活性材料がSi、Sn及びGeから選択される元素Mを含有する粒子の形にあり;該粒子が1μmより小さい平均寸法を有し;
・前記バインダーが酸性媒体中でヒドロキシル基と反応することができる反応性基を有するポリマーであり;
・前記水性媒体がpH1の非緩衝酸性媒体(緩衝剤を加えない酸性媒体)又は強塩基及び有機酸を加えることによって得られるpH4以下の緩衝酸性媒体(緩衝剤を加えた酸性媒体)であり;
・前記酸性水性媒体中に導入される「活性材料、バインダー、電子伝導剤」成分の合計量が組成物の総量の10〜80重量%であり、前記水性媒体中のこれらの成分の割合が次の通り:
・・活性材料の粒子30〜90重量%;
・・バインダー5〜40重量%;
・・電子伝導剤5〜30重量%:
であり、
・有機酸の量が、元素M1g当たり0.5×10-4モル超の含有率に相当しつつ、次の質量比:
(有機酸+強塩基)/(有機酸+強塩基+M+バインダー+電子伝導剤)
が20%以下にとどまり、即ち(d+e)/(a+b+c+d+e)≦0.1
(ここで、a、b、c、d及びeはそれぞれ活性材料、バインダー、電子伝導剤、酸及び塩基の量を表わす)
となる量である:
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に従う電池(D)のサイクリング(サイクル使用)の間の充電/放電サイクルの過程での静電容量及びファラデー収率の変化を示すグラフである。
【図2】図2は、電池(A)、(B)、(C)及び(D)のサイクリングの間のサイクル数Nの関数としての放電についての比静電容量(CSD、mA/h)の変化を比較するグラフである。
【図3】図3は、電池(A)、(B)、(C)及び(D)のサイクリングの間のサイクル数Nの関数としての放電についての比静電容量(CSD、mA/h)の変化を比較するグラフである。
【図4】図4は、電池(E)、(F)、(G)及び(A)のサイクリングの間のサイクル数Nの関数としての放電についての比静電容量(CSD、mA/h)の変化を比較するグラフである。
【図5】図5は、電池(D)、(N)、(O)及び(P)のサイクリングの間のサイクル数Nの関数としての放電についての比静電容量(CSD、mA/h)の変化を比較するグラフである。
【図6】図6は、本発明に従う電池(D)のサイクリングの間の充電/放電サイクルの過程での静電容量及びファラデー収率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
活性材料の粒子は、200nm未満の平均寸法を有するのが好ましい。ケイ素が活性材料として特に好ましい。
【0017】
活性材料の粒子は、元素M単独、MとLiとの合金、又は元素M若しくは合金M−Liと導電性材料Qとを含む複合材料から成ることができる。
【0018】
活性材料が複合粒子の形にある場合、これは様々な方法によって、特にMの存在下における有機前駆体の分解、CVD蒸着、機械化学的粉砕、単純な物理的混合、ゲルの反応又はナノ構造化によって、得ることができる。導電性材料Qは、様々な形の炭素、例えば無定形炭素、グラファイト、カーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバーの形の炭素であることができる。導電性材料Qはまた、リチウムと反応しない金属、例えばNi又はCuであることもできる。
【0019】
バインダーとして用いられるポリマーは、Li0/Li+に関して電位窓0〜5Vにおいて電気化学的に安定なポリマーであって、液状電解質溶剤として用いることができる液状媒体中に不溶であり且つ酸性媒体中でOH基と反応することができる官能基(特にカルボキシル、アミン、アルコキシシラン、ホスホネート及びスルホネート基)を持つものから選択するのが有利である。ポリマーの例としては、特にアクリル酸コポリマー、アクリルアミドコポリマー、スチレンスルホン酸コポリマー、マレイン酸コポリマー、イタコン酸コポリマー、リグノスルホン酸コポリマー、アリルアミンコポリマー、エタクリル酸コポリマー、ポリシロキサン、エポキシアミンポリマー、ポリウレタン及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を挙げることができ、CMCが特に好ましい。
【0020】
電子伝導性発生剤は、カーボンブラック、SPカーボン、アセチレンブラック、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブから選択することができる。
【0021】
本発明の1つの好ましい実施形態に従えば、有機酸の量は、元素M1g当たり5×10-4モル超の含有率に相当し且つ次の質量比:
(有機酸+強塩基)/(有機酸+強塩基+M+バインダー+電子伝導剤)
が10%以下にとどまるものとなる量である。
【0022】
前記酸性水性媒体中に導入される「活性材料、バインダー及び電子伝導剤」成分の合計量は、組成物の総量の20〜60重量%であるのが好ましい。
【0023】
元素Mが粒子の形にある場合、該粒子はその表面の少なくとも一部に酸化物層を有する。それらを含有する組成物のpHは、Mの粒子の表面における酸化物が本質的に基MOHの形にあり且つバインダーとしての働きをするポリマーの反応性官能基がCOOH、NH2、PO32、Si−(OH)3及びSO3H基の形にあるのに充分酸性でなければならない。
【0024】
酸性水性媒体は、初期pH1を得るのに充分な量の強酸を水に加えることによって、又は4以下のpHの緩衝水溶液を用いることによって、得ることができる。緩衝水溶液は、有機酸と強塩基との混合物を充分な量で水に加えることによって得られる。ポリマー性バインダーの反応性基が酸性形態に保たれるように、Mの酸化物がMOHに転化する間pHを一定に保つことを可能にする「有機酸/強塩基」を用いるのが特に有利である。単純に強酸を加えるだけでは、最初に多量の酸を用いることが必要となり、これは、材料を電極材料として用いる場合に電極及び集電体の様々な成分の不可逆的な分解を引き起こすという欠点を有する。
【0025】
強塩基は、アルカリ金属水酸化物であるのが有利である。有機酸は、弱酸から、特にグリシン、アスパラギン酸、ブロモエタン酸、ブロモ安息香酸、クロロエタン酸、ジクロロエタン酸、トリクロロエタン酸、乳酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピクリン酸、サリチル酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、リンゴ酸、フマル酸及びクエン酸から選択される。クエン酸が特に好ましい。
【0026】
本発明に従う負極は、導電性基材上の複合材料によって構成される。これは、上で規定した本発明に従う組成物を前記導電性基材上に塗布し、次いで付着した組成物を乾燥させることによって製造される。
【0027】
導電性基材は電極の集電体を形成させることが意図されるものであり、好ましくは導電性材料のシート、例えば銅、ニッケル又はステンレス鋼のシートである。銅が特に好ましい。
【0028】
導電性基材上に組成物を付着させた後に、周囲温度において空気中で乾燥させる工程及び真空下で70〜150℃の範囲の温度に加熱しながら乾燥させる工程を含む方法によって乾燥を実施することができる。約100℃の温度が好ましい。
【0029】
得られる電極は、集電体としての働きをする導電性基材の上に複合材料の層を含む。導電性基材は、上で規定した通りである。
【0030】
複合材料の成分の割合は、次のようなものである:
・活性材料の粒子 30〜90重量%;
・バインダー 5〜40重量%;
・電子伝導剤 5〜30重量%;
・塩基と有機酸との塩 所定量f:
f/(a+b+c+f)≦0.2である(ここで、a、b及びcは上に示した意味を持ち、fは20重量%未満、好ましくは10重量%未満である)。
【0031】
1つの特定的な実施形態において、初期組成物中の元素MはSiであり、複合電極の活性材料はSiである。
【0032】
別の特定的な実施形態において、元素Mはナノ粒子の形にある。
【0033】
特に好ましい組成物は、元素Mがナノ粒子の形のSiであるものである。
【0034】
組成物の特定的な例は、次の通りである:
・ケイ素粒子80質量%、CMCバインダー8質量%、アセチレンブラック12質量%、
・ケイ素粒子76.25質量%、CMCバインダー8質量%、アセチレンブラック11質量%、クエン酸4.35質量%及びKOH0.4質量%、
・ケイ素粒子50質量%、CMCバインダー25質量%、アセチレンブラック15.5質量%、クエン酸8.7質量%及びKOH0.8質量%、
・ケイ素粒子72.3質量%、CMCバインダー7.2質量%、アセチレンブラック10.8質量%、クエン酸8.7質量%及びKOH0.9質量%。
【0035】
本発明に従う電極複合材料は、改善された特性、特に機械的強度、電解質による分解に対する耐性及び活性材料上のパシベーション層の厚さに関して改善された特性を有する。
【0036】
本発明に従う電極を含むリチウムイオン電池は、本発明の別の主題を構成する。
【0037】
本発明に従うリチウムイオン電池は、少なくとも1つの負極及び少なくとも1つの正極を含み且つそれらの間に固体電解質(ポリマー性若しくはガラス質のもの)が配置され又は液状電解質を含浸させたセパレーターが配置されて成る。この電池は、負極が本発明に従う電極であることを特徴とする。
【0038】
正極は、負極の材料の電位より高い電位においてリチウムイオンを可逆的に挿入することができる材料を有する集電体によって構成される。この材料は一般的に、バインダー及び電子伝導性発生剤をも含む複合材料の形で用いられる。バインダー及び電子伝導剤は、負極について挙げたものから選択することができる。正極においてリチウムイオンを可逆的に挿入することができる材料は、リチウム対に関して2V超の電気化学ポテンシャルを有する材料であるのが好ましく、有利には次のものから選択される:
・LiM24タイプのスピネル構造の遷移金属酸化物及びLiMO2タイプの層状構造の遷移金属酸化物(ここで、MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B及びMoより成る群から選択される少なくとも1種の金属を表わす);
・LiMy(XOz)nタイプのポリアニオン系構造の酸化物(ここで、MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B及びMoより成る群から選択される少なくとも1種の金属を表わし、XはP、Si、Ge、S及びAsより成る群から選択される元素を表わす);
・バナジウムを基剤とする酸化物。
【0039】
LiM24タイプのスピネル構造の酸化物の中では、MがMn及びNiから選択される少なくとも1種の金属を表わすものが好ましい。LiMO2タイプの層状構造の酸化物の中では、MがMn、Co及びNiから選択される少なくとも1種の金属を表わすものが好ましい。LiMy(XOz)nタイプのポリアニオン系構造の酸化物の中では、橄欖(かんらん)石構造のホスフェートが特に好ましく、その組成は式LiMPO4に相当する(ここで、MはMn、Fe、Co及びNiから選択される少なくとも1種の元素を表わす)。LiFePO4が好ましい。
【0040】
電解質は、イオンの移動及び解離が最適化されるように選択された溶剤中にリチウム塩を溶解させることによって形成される。リチウム塩は、LiPF6、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、LiC4BO8、Li(C25SO2)2N、Li[(C25)3PF3]、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(SO2CF3)2及びLiN(SO2F)2から選択することができる。
【0041】
溶剤は、線状又は環状カーボネート、線状又は環状エーテル、線状又は環状エステル、線状又は環状スルホン、スルファミド及びニトリルから選択される1種以上の極性非プロトン性化合物を含む液状溶剤であることができる。溶剤は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びメチルエチルカーボネートから選択される少なくとも2種のカーボネートから成るのが好ましい。
【0042】
電解質の溶剤はまた、溶媒和性ポリマーであることもできる。溶媒和性ポリマーの例としては、ポリ(エチレンオキシド)をベースとする線状、櫛状又はブロック構造の(随意に網状構造を形成する)ポリエーテル;エチレンオキシド若しくはプロピレンオキシド又はアリルグリシジルエーテル単位を含有するコポリマー;ポリホスファゼン;イソシアネートで架橋させたポリエチレングリコールをベースとする架橋網状構造体;仏国特許第9712952号に記載されたオキシエチレンとエピクロロヒドリンとのコポリマー;及び重縮合によって得られ、架橋可能な基の組み込みを可能にする基を有する網状構造体を挙げることができる。また、レドックス特性を有する官能基を有するブロックを含むブロックコポリマーを挙げることもできる。言うまでもないが、上記のリストは限定的なものではなく、溶媒和特性を有する任意のポリマーを用いることができる。
【0043】
電解質の溶剤はまた、上に挙げた極性非プロトン性化合物から選択される極性非プロトン性液状化合物と溶媒和性ポリマーとの混合物をも含むことができる。これは、少ない含有率の極性非プロトン性化合物で可塑化された電解質又は高い含有率の極性非プロトン性化合物でゲル化された電解質が望まれるか否かに応じて、2〜98容量%の液状溶剤を含むことができる。電解質のポリマー溶剤がイオン性官能基を有する場合、リチウム塩は任意(facultatif)である。
【0044】
電解質の溶剤はまた、硫黄、酸素、窒素及びフッ素から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含有する単位を含む非溶媒和性極性ポリマーをも含むことができる。かかる非溶媒和性ポリマーは、アクリロニトリルホモポリマー及びコポリマー、フッ化ビニリデンホモポリマー及びコポリマー、並びにN−ビニルピロリドンホモポリマー及びコポリマーから選択することができる。非溶媒和性ポリマーはまた、イオン性置換基を有するポリマー、特にポリペルフルオロエーテルスルホン酸塩(例えば上記のNafion(登録商標))又はポリスチレンスルホン酸塩であることもできる。電解質が非溶媒和性ポリマーを含有する場合、この電解質が上記の少なくとも1種の極性非プロトン性化合物又は上記の少なくとも1種の溶媒和性ポリマーを含有していることが必要である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を例示するが、しかし本発明がそれらに限定されるわけではない。
【0046】
実施例においては、次のものを用いた:
・Alfa Aesar社より供給された平均寸法100nmの粒子の形で純度99.999%のナノメートルケイ素;
・Alfa Aesar社より供給された平均寸法5μmの粒子の形で純度99.999%のマイクロメートルケイ素;
・Aldrich社より供給された基CH2CO2Na(DS)によるプロトンの置換度が0.7であり且つ重量平均モル質量Mwが90000であるカルボキシメチルセルロースCMC。
【0047】
例1
【0048】
電池の調製
【0049】
初期組成物の調製
【0050】
水100ミリリットル中にクエン酸3.842g及びKOH0.402gを溶解させることによって、pH3の緩衝酸性溶液を調製した。この溶液の緩衝剤濃度をTとする。この溶液0.5ミリリットル中に、ナノメートルケイ素160mg、CMC16mg及びアセチレンブラック24mgを分散させた。分散は、12.5ミリリットル微粉砕用ボウル容器に直径10mmのボール3個を入れたボールミル(Pulverisette 7 Fritsch)を用いて、500rpmにおいて1時間実施した。
【0051】
こうして得られた初期組成物は、ケイ素粒子72.4質量%、CMCバインダー7.2質量%、アセチレンブラック10.8質量%、クエン酸8.7質量%及びKOH0.9質量%から成る。
【0052】
電極の調製
【0053】
厚さ25μm、表面積10cm2の銅集電体に、前記初期組成物の全量を塗布した。次いで、室温において12時間、次いで真空下で100℃において2時間、乾燥を実施した。こうして得られた電極において、集電体上に付着した複合材料の層は10〜20μmの厚さを有し、これはケイ素1〜2mg/cm2の量に相当する。乾燥後に得られた複合材料は、次の組成を有していた:
・ケイ素粒子72.4質量%;
・CMCバインダー7.2質量%;
・アセチレンブラック10.8質量%;
・クエン酸8.7質量%及びKOH0.9質量%。
【0054】
電池の組立て
【0055】
こうして得られた電極を、正極としてのニッケル集電体上に積層されたリチウム金属のシート、ガラスファイバーセパレーター、及びエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合物(EC/DMC=1/1)中に溶解させた1MのLiPF6溶液から成る液状電解質を有する電池(電池Dと称する)に組み込んだ。
【0056】
他の3つの電池を、同じ手順に従い、しかしマイクロメートルケイ素を緩衝pHで(電池B)、ナノメートルケイ素をpH7で(電池C)又はマイクロメートルケイ素をpH7で(電池A)用いて、組立てた。様々な電池に関するデータを下記の表にまとめる。量は重量%として与えられる。
【0057】
【表1】

【0058】
例2
【0059】
電池のサイクリング、比静電容量(capacite specifique)の制限あり
【0060】
例1の手順に従って組立てた4つの電池のサイクリング性能をサイクリングにおいて評価した。サイクリングは、Li+/Liに対して0〜1Vの電位範囲で、1200mAh/gSiに制限された一定の比静電容量において、実施した。900mA/gの電流Iにおいて定電流モードで運転した。これはCのレジム(regime)に相当し、それに従えば各充電及び各放電が1時間で行われる。
【0061】
図1は、本発明に従う電池(D)のサイクリングの間の充電/放電サイクルの過程での静電容量及びファラデー収率(Faraday yield)の変化を示す。比静電容量CS(mAh/g)及びクーロン効率%(percentage coulombic efficacy)をサイクル数Nの関数として与える。それぞれの曲線は、次の通りである:
■ 放電の間のCS、
□ 充電の間のCS、
◇ ファラデー収率。
【0062】
図2は、電池(A)、(B)、(C)及び(D)のサイクリングの間のサイクル数Nの関数としての放電についての比静電容量(CSD、mA/h)の変化を比較する。これは、マイクロメートル粒子及びナノメートル粒子の両方について、pH7と比較しての3に緩衝されたpHによって与えられる実質的な改善を示す。曲線と電池との間の対応は、次の通りである:
○ 電池D
■ 電池C
◇ 電池B
● 電池A。
【0063】
例3
【0064】
電池のサイクリング、比静電容量の制限なし
【0065】
例1の手順に従って組立てた4つの電池のサイクリング性能を、Li+/Liに対して0〜1Vの電位範囲で、静電容量の制限なしで、サイクリングにおいて評価した。サイクリングは、120mA/gの電流Iにおいて定電流モードで運転した。これはC/7.5のレジムに相当し、それに従えば各充電及び各放電が7.5時間で行われる。
【0066】
図3は、電池(A)、(B)、(C)及び(D)のサイクリングの間のサイクル数Nの関数としての放電についての比静電容量(CSD、mA/h)の変化を比較する。これらの結果は、マイクロメートル粒子及びナノメートル粒子の両方について、pH7と比較しての3に緩衝されたpHによって与えられる実質的な改善を示す。
【0067】
曲線と電池との間の対応は、次の通りである:
△ 電池D
▲ 電池C
□ 電池B
■ 電池A。
【0068】
例4
【0069】
電池のサイクリング、比静電容量の制限あり
【0070】
この例では、強酸H2SO4を用い、緩衝剤は用いずに、酸性pHにおいて電池を調製した。こうして調製された電池を、以下の詳述するプロトコルに従って、静電容量の制限ありでサイクリングにおいて研究した。
【0071】
初期組成物の調製
【0072】
水100ミリリットル中に適量の硫酸を溶解させることによって、pH1の非緩衝酸性溶液を調製した。この溶液0.5ミリリットル中に、ナノメートルケイ素160mg、CMC16mg及びアセチレンブラック24mgを分散させた。分散は、12.5ミリリットル微粉砕用ボウル容器に直径10mmのボール3個を入れたボールミル(Pulverisette 7 Fritsch)を用いて、500rpmにおいて1時間実施した。
【0073】
電極の調製
【0074】
厚さ25μm、表面積10cm2の銅集電体に、前記初期組成物の全量を塗布した。次いで、室温において12時間、次いで真空下で100℃において2時間、乾燥を実施した。こうして得られた電極において、集電体上に付着した複合材料の層は10〜20μmの厚さを有し、これはケイ素1〜2mg/cm2の量に相当する。
【0075】
電池の組立て
【0076】
こうして得られた電極を、正極としてのニッケル集電体上に積層されたリチウム金属のシート、ガラスファイバーセパレーター、及びエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合物(EC/DMC=1/1)中に溶解させた1MのLiPF6溶液から成る液状電解質を有する電池(電池Eと称する)に組み込んだ。
【0077】
他の2つの電池を、同じ手順に従い、しかしpH2の非緩衝硫酸溶液を用いて(電池F)又はpH3の非緩衝硫酸溶液を用いて(電池G)、組立てた。様々な電池に関するデータを下記の表にまとめる。量は重量%で与えられる。
【0078】
【表2】

【0079】
電池のサイクリング、比静電容量の制限あり
【0080】
3つの組立て電池のサイクリング性能をサイクリングにおいて評価した。サイクリングは、Li+/Liに対して0〜1Vの電位範囲で、1200mAh/gSiに制限された一定の比静電容量において、実施した。900mA/gの電流Iにおいて定電流モードで運転した。これはCのレジムに相当し、それに従えば各充電及び各放電が1時間で行われる。
【0081】
図4は、電池(E)、(F)、(G)及び(A)のサイクリングの間のサイクル数Nの関数としての放電についての比静電容量(CSD、mA/h)の変化を比較する。pHの変更なしの調製方法と比較して、酸性化は次の順序で性能の改善をもたらす:pH1>pH2>pH3>pH7。曲線と電池との間の対応は、次の通りである:
+ 電池E
■ 電池F
□ 電池G
● 電池C
○ 電池D
【0082】
しかしながら、図4と図1との比較は、クエン酸と強塩基との混合物を用いてpH3に緩衝した場合(例1の電池D)に最良の性能が得られることを示す。
【0083】
例5
【0084】
電池のサイクリング、比静電容量の制限あり
【0085】
この例では、クエン酸緩衝剤及びKOHを用いて酸性pHにおいて電池を調製した。例1において上で用いた参照濃度Tに対して、緩衝剤濃度を次の値に変化させた:T/10、T/4、T/2、3T/4、3T/2、2T。
【0086】
初期組成物の調製
【0087】
水100ミリリットル中にクエン酸0.3842g及びKOH0.0402gを溶解させることによって、pH3の緩衝酸性溶液を調製した。この溶液の緩衝剤濃度は濃度をTとした例1で調製した溶液の緩衝剤濃度の1/10に等しいので、T/10とする。このT/10溶液0.5ミリリットル中に、ナノメートルケイ素160mg、CMC16mg及びアセチレンブラック24mgを分散させた。分散は、12.5ミリリットル微粉砕用ボウル容器に直径10mmのボール3個を入れたボールミル(Pulverisette 7 Fritsch)を用いて、500rpmにおいて1時間実施した。
【0088】
こうして得られた初期組成物は、ケイ素粒子79.83質量%、CMCバインダー7.98質量%、アセチレンブラック11.97質量%、クエン酸0.19質量%及びKOH0.02質量%から成る。
【0089】
電極の調製
【0090】
厚さ25μm、表面積10cm2の銅集電体に、前記初期組成物の全量を塗布した。次いで、室温において12時間、次いで真空下で100℃において2時間、乾燥を実施した。こうして得られた電極において、集電体上に付着した複合材料の層は10〜20μmの厚さを有し、これはケイ素1〜2mg/cm2の量に相当する。乾燥後に得られた複合材料は、次の組成を有していた:
・ケイ素粒子79.2質量%;
・CMCバインダー7.9質量%;
・アセチレンブラック11.9質量%;
・クエン酸1.0質量%及びKOH0.1%。
【0091】
電池の組立て
【0092】
こうして得られた電極を、正極としての銅集電体上に積層されたリチウム金属のシート、ガラスファイバーセパレーター、及びエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合物(EC/DMC=1/1)中に溶解させた1MのLiPF6溶液から成る液状電解質を有する電池(電池Hと称する)に組み込んだ。
【0093】
他の5つの電池を、同じ手順に従い、濃度T/4(電池I)、T/2(電池J)、3T/4(電池K)、3T/2(電池L)又は2T(電池M)の緩衝剤溶液を用いて、組立てた。様々な電池に関するデータを下記の表にまとめる。
【0094】
【表3】

【0095】
この表中、量は重量%で与えられる;Qは元素M1g当たりの有機酸のモル量を表わす;Rは次の質量比を表わす:
(有機酸+強塩基)/(有機酸+強塩基+M+バインダー+電子伝導剤)
【0096】
電池Hの性能をサイクリングにおいて評価した。サイクリングは、Li+/Liに対して0〜1Vの電位範囲で、1200mAh/gSiに制限された一定の比静電容量において、実施した。900mA/gの電流Iにおいて定電流モードで運転した。これはCのレジムに相当し、それに従えば各充電及び各放電が1時間で行われる。
【0097】
下記の表に、試験した各電池について、電池(H)並びに電池(I)、(J)、(K)、(D、例1)、(L)及び(M)(本発明に従う)並びにA(中性pH、非変性)のサイクリングの間の、真の静電容量(mAh/g電極)、充電/放電サイクルの間の各電池の一定比静電容量におけるサイクル数及び平均ファラデー収率を与える。
【0098】
【表4】

【0099】
これらの結果は、有機酸の量は、元素M1g当たり0.5×10-4モル超の含有率に相当するようなものでなければならず、元素M1g当たり5×10-4モル超の含有率に相当するようなものであるのが好ましいということを示している。と言うのも、この値より低いと性能の改善が興味深いものではなくなるからである。次の質量比:
(有機酸+強塩基)/(有機酸+強塩基+M+バインダー+電子伝導剤)
が10%以下にとどまるのが好ましい。と言うのも、この値を超えてもさらなる有意の性能改善は観察されないからである。
【0100】
例6
【0101】
電池のサイクリング、比静電容量の制限あり
【0102】
この例では、有機酸緩衝剤及びKOHを用いることによって、酸性pHにおいて電池を調製した。有機酸は、アスパラギン酸(緩衝pH2)、アスパラギン酸(緩衝pH3.9)だった。無機酸のリン酸(緩衝pH3)を用いて別の電池を調製した。
【0103】
初期組成物の調製
【0104】
水100ミリリットルに所定量の有機酸又は無機酸及び所定量のKOHを溶解させることによって、緩衝酸性溶液を調製した。この溶液0.5ミリリットル中に、ナノメートルケイ素160mg、CMC16mg及びアセチレンブラック24mgを分散させた。分散は、12.5ミリリットル微粉砕用ボウル容器に直径10mmのボール3個を入れたボールミル(Pulverisette 7 Fritsch)を用いて、500rpmにおいて1時間実施した。
【0105】
酸は、有機酸のアスパラギン酸(緩衝pH2若しくは緩衝pH4)又は無機酸のリン酸(緩衝pH3)である。
【0106】
電極の調製
【0107】
厚さ25μm、表面積10cm2の銅集電体に、前記初期組成物の全量を塗布した。次いで、室温において12時間、次いで真空下で100℃において2時間、乾燥を実施した。こうして得られた電極において、集電体上に付着した複合材料の層は10〜20μmの厚さを有し、これはケイ素1〜2mg/cm2の量に相当する。
【0108】
電池の組立て
【0109】
こうして得られた電極を、正極としての銅集電体上に積層されたリチウム金属のシート、ガラスファイバーセパレーター、及びエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合物(EC/DMC=1/1)中に溶解させた1MのLiPF6溶液から成る液状電解質を有する電池に組み込んだ。
【0110】
様々な電池に関するデータを下記の表にまとめる。量は重量%として与えられる。
【0111】
【表5】

【0112】
図5は、電池(D)、(N)、(O)及び(P)のサイクリングの間のサイクル数Nの関数としての放電についての比静電容量(CSD、mA/h)の変化を比較する。
【0113】
曲線と電池との間の対応は、次の通りである:
○ 電池D
■ 電池N
□ 電池O
▲ 電池P
【0114】
この例は、実際に4以下のpH値が緩衝剤を用いた場合のpH値についての上限であることを示す。これらの結果はまた、無機酸(H3PO4)の使用は、有機酸の使用とは対照的に、何ら改善を与えないということも示している。
【0115】
例7
【0116】
この例では、乾燥温度が100℃ではなくて150℃だったという違い以外は、例1に従って電池を調製した。
【0117】
電池の調製
【0118】
この例の電池の調製は、乾燥温度が150℃だったという唯一の違い以外は、例1のものと同じである。
【0119】
電極の調製
【0120】
厚さ25μm、表面積10cm2の銅集電体に、前記初期組成物の全量を塗布した。次いで、室温において12時間、次いで真空下で100℃において2時間、乾燥を実施した。こうして得られた電極において、集電体上に付着した複合材料の層は10〜20μmの厚さを有し、これはケイ素1〜2mg/cm2の量に相当する。乾燥後に得られた複合材料は、次の組成を有していた:
・ケイ素粒子72.4質量%;
・CMCバインダー7.2質量%;
・アセチレンブラック10.8質量%;
・クエン酸8.7質量%及びKOH0.9質量%。
【0121】
電池の組立て
【0122】
こうして得られた電極を、正極としてのニッケル集電体上に積層されたリチウム金属のシート、ガラスファイバーセパレーター、及びエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合物(EC/DMC=1/1)中に溶解させた1MのLiPF6溶液から成る液状電解質を有する電池(電池Qと称する)に組み込んだ。
【0123】
電池のサイクリング、比静電容量の制限あり
【0124】
この電池のサイクリング性能をサイクリングにおいて評価した。サイクリングは、Li+/Liに対して0〜1Vの電位範囲で、1200mAh/gSiに制限された一定の比静電容量において、実施した。900mA/gの電流Iにおいて定電流モードで運転した。これはCのレジムに相当し、それに従えば各充電及び各放電が1時間で行われる。
【0125】
図6は、本発明に従う電池(D)のサイクリングの間の充電/放電サイクルの過程での静電容量及びファラデー収率の変化を示す。比静電容量CS(mAh/g)をサイクル数Nの関数として与える。それぞれの曲線は、次の通りである:
● 放電の間のCS、
○ 充電の間のCS。
【0126】
この例で示された結果は、乾燥温度が電気化学的性能に対して影響を持たないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に電極活性材料、バインダー及び電子伝導性発生剤を懸濁させる工程を含む負極組成物の製造方法であって、
前記電極活性材料がSi、Sn及びGeから選択される元素Mを含有する粒子の形にあり;該粒子が1μmより小さい平均寸法を有し;
前記バインダーが酸性媒体中でヒドロキシル基と反応可能な反応性基を有するポリマーであり;
前記水性媒体がpH1の非緩衝酸性媒体又は強塩基及び有機酸を加えることによって得られるpH4以下の緩衝酸性媒体であり;
前記酸性水性媒体中に導入される「活性材料、バインダー、電子伝導剤」成分の合計量が組成物の総量の10〜80重量%であり、前記水性媒体中のこれらの成分の割合が:
・活性材料の粒子30〜90重量%;
・バインダー5〜40重量%;
・電子伝導剤5〜30重量%:
であり;
有機酸の量が、元素M1g当たり0.5×10-4モル超の含有率に相当しつつ、次の質量比:
(有機酸+強塩基)/(有機酸+強塩基+M+バインダー+電子伝導剤)
が20%以下にとどまるものとなる量である:
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記の活性材料の粒子が200nm未満の平均寸法を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記活性材料の粒子が元素M単独、MとLiとの合金又は元素M若しくは合金M−Liと導電性材料Qとを含む複合材料から成ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記導電性材料Qが炭素から成るか又はリチウムと反応しない金属から成ることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー性バインダーが、Li0/Li+に関して電位窓0〜5Vにおいて電気化学的に安定なポリマーであって、液状電解質溶剤として用いることができる液状媒体中に不溶であり且つ酸性媒体中でOH基と反応可能な官能基を持つ前記ポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーがアクリル酸コポリマー、アクリルアミドコポリマー、スチレンスルホン酸コポリマー、マレイン酸コポリマー、イタコン酸 コポリマー、リグノスルホン酸コポリマー、アリルアミンコポリマー、エタクリル酸コポリマー、ポリシロキサン、エポキシアミンポリマー、ポリウレタン及びカルボキシメチルセルロースから選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電子伝導性発生剤がカーボンブラック、SPカーボン、アセチレンブラック、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
有機酸の量が元素M1g当たり5×10-4モル超の含有率に相当し且つ次の質量比:
(有機酸+強塩基)/(有機酸+強塩基+M+バインダー+電子伝導剤)
が10%以下にとどまるものとなる量であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記酸性水性媒体中に導入される「活性材料、バインダー及び電子伝導剤」成分の合計量が組成物の総量の20〜60重量%であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記強塩基がアルカリ金属水酸化物であり且つ前記有機酸がグリシン、アスパラギン酸、ブロモエタン酸、ブロモ安息香酸、クロロエタン酸、ジクロロエタン酸、トリクロロエタン酸、乳酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピクリン酸、サリチル酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、リンゴ酸、フマル酸及びクエン酸から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
以下のもの:
・Si、Sn及びGeから選択される元素Mを含有する粒子の形にあり且つ該粒子が1μmより小さい平均寸法を有する電極活性材料;
・酸性媒体中でヒドロキシル基と反応可能な反応性基を有するポリマー性バインダー;
・電子伝導性付与剤;
・pH1の非緩衝酸性水性媒体又は強塩基及び有機酸を加えることによって得られるpH4以下の緩衝酸性媒体:
を含むこと、並びに
前記酸性水性媒体中に導入される「活性材料、バインダー、電子伝導剤」成分の合計量が組成物の総量の10〜80重量%であり、前記水性媒体中のこれらの成分の割合が:
・活性材料の粒子30〜90重量%;
・バインダー5〜40重量%;
・電子伝導剤5〜30重量%:
であり;
有機酸の量が、元素M1g当たり0.5×10-4モル超の含有率に相当しつつ、次の質量比:
(有機酸+強塩基)/(有機酸+強塩基+M+バインダー+電子伝導剤)
が20%以下にとどまるものとなる量であること:
を特徴とする、請求項1に記載の方法によって得られる負極組成物。
【請求項12】
前記の活性材料の粒子が200nm未満の平均寸法を有することを特徴とする、請求項11に記載の負極組成物。
【請求項13】
導電性基材上の請求項11又は12に記載の負極組成物から成る負極。
【請求項14】
前記の活性材料の粒子がケイ素粒子であることを特徴とする、請求項13に記載の負極。
【請求項15】
少なくとも1つの負極及び少なくとも1つの正極を含み且つそれらの間に固体電解質が配置され又は液状電解質を含浸させたセパレーターが配置された電池であって、前記負極が請求項13又は14に記載の負極であることを特徴とする、前記電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−516531(P2012−516531A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546923(P2011−546923)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050135
【国際公開番号】WO2010/086558
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【Fターム(参考)】