説明

電機・電子機器用Pd合金

【課題】従来のAg−Pd−Cu合金よりも高い硬さの合金が求められる傾向にあり、その対策が要求されている。
【解決手段】Ag25〜50wt%、Pd25〜50wt%、Cu15〜40wt%からなるAg−Pd−Cu合金に、In0.1〜5wt%を添加し、圧延加工後および析出硬化後の硬さを向上させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機・電子機器に使用されるPd合金に関する。
【背景技術】
【0002】
電機・電子機器に使用される金属材料は、低い接触抵抗や耐食性に優れている等の特性が求められるため、Ag−Pd−Cu合金が広く用いられている。近時においては、既存のAg−Pd−Cu合金よりもさらに高い硬さの合金が求められる傾向にあり、その対策が要求されている。
また、半導体集積回路等の検査用プローブピン等のように、低い接触抵抗や耐食性の他に、硬さ(耐摩耗性)等が要求される場合があり、そのような場合には、塑性加工を施した状態で高い硬さを示すPt合金やIr合金等が好んで使用され、また、析出硬化するAu合金やPt合金が好んで使用されるようになった(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4176133号
【特許文献2】特許第4216823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、耐摩耗性を向上させる目的で、塑性加工を施した状態で高い硬さを示すPt合金やIr合金等を望む場合、一般的な加工自体が困難な場合が多い。特に、細線や薄板等の加工は不可能な場合があり、また、加工自体は可能であっても製造工程が多く複雑になってしまう場合が多い。さらに、これらの合金は、材料コストがPd合金に比べ高価となる。
また、析出硬化するAu合金やPd合金等は、加工自体は容易であっても、析出硬化によって所望の硬さまで硬化しないものがある。
そこで、低い接触抵抗で耐食性に優れていて、高い硬さでかつ加工性に優れ、比較的に安価な材料が求められている。
本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は、Ag25〜50wt%、Pd25〜50wt%、Cu15〜40wt%からなるAg−Pd−Cu合金に、In0.1〜5wt%を添加することにより、圧延加工後および析出硬化後の硬さを向上させ、合金の機械特性の向上すなわち耐摩耗性を向上させた電機・電子機器用の材料としたことを特徴とする。
なお、Inの添加量を0.1〜5wt%とする理由は、硬さを向上させるためであり、0.1wt%未満では硬さの向上の効果が得られず、また、5wt%を超えると加工性を劣化させるためである。
また、Agの比率を25〜50wt%とした理由は、Agは比抵抗を下げる役割があり、25wt%未満だとその効果が少なく、50wt%を超えると硬さが低下するためである。
PdとCuは析出硬化に必要な成分であり、共に硬さの値を向上させるものである。
Pdの比率を25〜50wt%とした理由は、Pdが25wt%未満だとその効果が少なく、50wt%を超えると比抵抗が上がってしまい、電機・電子機器用途に向かないものとなる。
Cuの比率を15〜40wt%とした理由は、Cuが15wt%未満だとその効果が少なく、40wt%を超えると耐食性が低下してしまい、電機・電子機器用途に向かないものとなる。
さらに、上記Ag−Pd−Cu−Inの4元合金に、用途に応じて特性を改善する添加元素として、Au、Pt、Re、Rh、Co、Ni、Si、Sn、ZnもしくはBの少なくとも1種を0.01〜3wt%を添加することができる。この添加理由は、硬さをさらに向上させるためである。また、Auは耐酸化性、Ptは耐化学薬品性についても有用であり、Re、RhおよびNiは結晶粒を微細化させる効果材としても作用する。これらの添加元素の配合量は、0.01wt%未満では硬さの向上の効果が得られず、また、3wt%を超えると加工性が劣化する。
【発明の効果】
【0006】
このようにした本発明は、電機・電子機器の使用に適する低い接触抵抗でかつ耐食性に優れ、しかも高い硬さでかつ加工性に優れた材料とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施例を表1に示す。
各実施例では、Pd4元合金をガス溶解し、インゴット(高さ10×幅20×長さ30)を作製した。その後、還元雰囲気中(HとNの混合雰囲気中)で溶体化処理(800°C×1hr)を施したインゴットを高さ2×幅10×長さ20に切断し、断面減少率が約75%になるように圧延したものを試験片とし、析出硬化の条件はHとNの混合雰囲気中にて300〜500°C×1hrで行った。
また、試験片の硬さ測定は、試料の表面を研磨して平滑にした後、ビッカース硬さ試験機でHV0.2にて測定した。表1に、各実施例の組成一覧と圧延加工後および析出硬化後の硬さを示す。
【表1】

【0008】
表1に示す結果より、例えば、比較例1の25Ag−50Pd−25Cu合金に比べて、実施例7のInを0.1wt%、Auを3.0wt%、Niを1.0wt%およびZnを0.3wt%添加した合金は、圧延加工材、およびHとNの混合雰囲気中で380°C×1hrで行った析出硬化材として、共に硬さの向上を確認することができた。
また、比較例2の30Ag−30Pd−40Cu合金に比べて、実施例18のInを1.0wt%、Si0.01wt%およびSnを0.5wt%添加した合金は、圧延加工材、およびHとNの混合雰囲気中で340°C×1hrで行った析出硬化材として、共に硬さの向上が確認できた。
また、比較例3の30Ag−40Pd−30Cu合金に比べて、実施例1のInを3.0wt%添加した合金は、圧延加工材、およびHとNの混合雰囲気中で360°C×1hrで行った析出硬化材として、共に硬さの向上が確認できた。
さらに、比較例4〜6の各Pd合金に対して、同程度のPd合金にInを0.1〜5wt%添加した合金、又は、同程度のPd合金にInを0.1〜5wt%添加し、さらにAu、Pt、Re、Rh、Co、Ni、Si、Sn、ZnもしくはBの少なくとも1種を0.01〜3wt%を添加した各合金においては、圧延加工材および析出加工材として、共に硬さの向上を確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag−Pd−Cuの3元素を基本成分として有する電機・電子機器用Pd合金において、
Ag25〜50wt%、Pd25〜50wt%、Cu15〜40wt%からなるAg−Pd−Cu合金に、In0.1〜5wt%を添加し、圧延加工後および析出硬化後の硬さを向上させたことを特徴とする電機・電子機器用Pd合金。
【請求項2】
請求項1のAg−Pd−Cu−Inの4元合金に、Au、Pt、Re、Rh、Co、Ni、Si、Sn、ZnもしくはBの少なくとも1種を0.01〜3wt%を添加したことを特徴とする電機・電子機器用Pd合金。

【公開番号】特開2011−122194(P2011−122194A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279730(P2009−279730)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000152158)株式会社徳力本店 (29)
【Fターム(参考)】