説明

電気メッキ装置

【課題】 給電の構造が簡略であり、給電手段に析出した金属の剥離が容易であり、メッキされないワーク部分を無くし、アキシャル電子部品のリード線にもメッキ可能な電気メッキ装置を提供すること。
【解決手段】 電気メッキするアキシャル電子部品6のリード線をカソード化するための給電電極としてワイヤ形状の導線である給電ワイヤ2が用いられ、給電ワイヤ2の一部がメッキ槽5内に配設されアキシャル電子部品6のリード線と接触することで、その被メッキ部への給電が行われる。また、給電ワイヤ2に析出したメッキ金属はダイス3で剥離する。更に、給電ワイヤ2に析出したメッキ金属を剥離後、給電ワイヤ2を繰り返し連続的に使用するために、給電ワイヤ2はエンドレス構造を有すると共に、給電ワイヤ2の送り機構として給電ワイヤ送りプーリ1が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤ電極を用いた電気メッキ装置に関し、特に、複数のリードを有するアキシャル電子部品用として好適な電気メッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電気メッキ装置では、被メッキ物への給電方法として、被メッキ物吊り下げタイプ、バレルタイプ、振動接触タイプ、ワイヤ搬送タイプなどがある。
【0003】
また、バレルタイプや振動接触タイプは、被メッキ物を揺動又は振動させ、揺動や振動により被メッキ物と電極が間欠的に接触して給電する方式を用いている。また、ワイヤ搬送タイプは、特許文献1に示されるようにワーク(被メッキ物)をワイヤ上に載せ搬送しながらメッキするものである。
【0004】
【特許文献1】特開平5−239697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の問題点を特許文献1の例を中心に説明する。特許文献1のワイヤ式メッキ方法は、明細書の説明及び図面から明らかなように、給電(カソード化)ワイヤをワークに接触させると共にワークの搬送に用いている。従って、ワークがワイヤと接触し、かつ搬送されるために、固形で相当な重量の物であるか、或いはワイヤに機械的に固定されること等が必要である。
【0006】
また給電ワイヤに析出した金属の剥離には、特許文献1に記載のように、剥離槽で行う方式がある。しかし、剥離槽を設けるのは設備が大きくなると共に、費用が高くなる欠点がある。
【0007】
また特許文献1に示されるように給電ワイヤにワークを接触させるのみの方式ではワークの給電ワイヤとの接触部はメッキされないという問題があった。
【0008】
更にアキシャル電子部品(同軸方向にリードが引き出された電子部品)の両側に引き出されたリード線のように、被メッキ物が、複数の電気的に独立した構成部分である場合には、一度に両側のリード線をメッキすることが出来ないという問題がある。
【0009】
それに対処するためのバレル式メッキにて、抵抗、ダイオードのような素子の両端にリード線が引き出されたアキシャル電子部品をメッキする場合、リード端子が細いとリードが変形し曲がりが発生し、メッキ後リード線の曲がり修正作業が必要になるという問題、またリード同士が接触し、つながってメッキされる現象が発生するという問題があった。
【0010】
このような状況にあって、本発明の課題は、給電の構造が簡略であり、給電手段に析出した金属の剥離が容易であり、メッキされないワーク部分を無くし、アキシャル電子部品のリード線にもメッキ可能な電気メッキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、従来の電気メッキ装置が有していた問題を解決すべく、鋭意検討した結果、なされたものである。
【0012】
すなわち、本発明の電気メッキ装置では、電気メッキ法による被メッキ物をカソード化するための給電電極としてワイヤ形状の導線である給電ワイヤが用いられ、前記給電ワイヤの一部がメッキ槽内に配設され前記被メッキ物と接触することで前記被メッキ物への給電が行われる。
【0013】
前記給電ワイヤに析出したメッキ金属をダイス又はグラインダ又は回転式刃物で剥離するとよい。
【0014】
前記給電ワイヤに析出したメッキ金属が、半田メッキ又は錫メッキの場合に、前記給電ワイヤの温度を上げて、析出したメッキ金属を溶融して剥離するとよい。
【0015】
前記給電ワイヤに析出したメッキ金属を剥離後、前記給電ワイヤを繰り返し連続的に使用するために、前記給電ワイヤはエンドレス構造を有すると共に、前記給電ワイヤの送り機構が設けられるとよい。
【0016】
前記被メッキ物が磁性体を有する場合に、前記給電ワイヤに被メッキ物を確実かつ安定に接触させるための永久磁石を備えるとよい。
【0017】
前記被メッキ物は複数個の電気的に独立したリードを有し、前記メッキ槽内には複数の給電ワイヤが配設されているとよい。
【0018】
前記給電ワイヤと被メッキ物の接触による非メッキ部分の発生を防止するように、一工程のメッキ中に前記給電ワイヤと被メッキ物の接触位置を変化させるために、前記給電ワイヤのメッキ槽内の配設位置を変化させる機構又は被メッキ物の位置を変える機構を備えるとよい。
【発明の効果】
【0019】
以上に述べた如く、本発明によれば、メッキ槽内の複数の被メッキ物の位置を通るように給電ワイヤを張り、給電することにより、従来は給電が困難であった構造の被メッキ物に対して、給電を簡単に行う手段を提供することが出来る。
【0020】
また従来のバレルメッキ装置では、抵抗、ダイオードのような素子の両端にリード線が引き出されたアキシャル電子部品の場合にリード端子が細いとリードが変形し曲がりが発生するが、本発明の場合は被メッキ物が、隣と独立しているため曲がりが発生するような力は発生しないため、曲がりが無いメッキを提供するものである。また、バレル式の場合は、リード線同士が接触し、つながってメッキされる現象が発生するが、本発明により、つながりメッキを無くする効果がある。
【0021】
また給電ワイヤに析出したメッキ金属をダイス又は回転式刃物又はグラインダで剥離すことを特徴とする電気メッキ装置により、給電ワイヤに析出する金属を簡単に安価に剥離する効果がある。
【0022】
また給電ワイヤに析出したメッキ金属が、半田メッキ及び錫メッキの場合、給電ワイヤの温度を上げて析出金属を溶融して剥離することを特徴とする電気メッキ装置により、剥離が簡単に安価に出来る効果がある。
【0023】
また給電ワイヤに析出したメッキ金属を剥離後、メッキ槽内に再度移動し、繰り返して連続的に利用するために、給電ワイヤがエンドレスの構造になっていることを特徴とする電気メッキ装置により、電極ワイヤが簡単に、再利用出来る効果がある。
【0024】
また被メッキ物を給電ワイヤに接触させる方法として、永久磁石を用いることを特徴とする電気メッキ装置により、給電ワイヤと被メッキ物の電気的接触を確実かつ安定にすることが出来、メッキ厚みが安定する。バレルメッキ対比でバラツキが1/2以下となる。
【0025】
また、抵抗、ダイオードのような素子の両端にリード線が引き出されたアキシャルタイプの電子部品のように被メッキ物が、複数の電気的に独立した構成部品である場合のメッキにおいて、給電材である給電ワイヤを複数本メッキ槽に張ることを特徴とするメッキ装置により、複数同時メッキが可能となる。
【0026】
また給電ワイヤと被メッキ物との接触位置を移動させるため、給電ワイヤ送り装置と給電ワイヤの通過位置を変化させる機構、及び被メッキ物の位置を変える機構を有することを特徴とするメッキ装置により、給電ワイヤと被メッキ物の接触のせいでメッキされなかった部分にもメッキすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態では、給電専用の給電ワイヤをメッキ槽内の複数の被メッキ物の位置を通過するように張ることで給電を行う。また、給電ワイヤに析出したメッキ金属をダイス、回転式刃物若しくはグラインダ、又は加熱溶融の方法により剥離する。こうすると、剥離が簡単に出来るので、剥離機構を給電ワイヤ送り部に組み込み、給電ワイヤをエンドレス構造にし、繰り返して連続的に利用する。
【0028】
また、給電ワイヤと磁性体の被メッキ物を電気的に接触させる方法として、メッキ槽内に永久磁石を配置して、被メッキ物を給電ワイヤ側に吸引して、給電ワイヤと被メッキ物の電気的接触力を増し、品質の良いメッキ方法を可能とする。
【0029】
また、抵抗、ダイオードなどの素子の両端にリード線が引き出されたアキシャル電子部品のように電気的に独立した2本のリードワイヤのメッキにおいて、被メッキ物の構成に対応して複数の給電ワイヤを張ることにより複雑な構造の被メッキ物に対応する。例えば、絶縁性モールド樹脂でインサートモールドされ電気的に独立したリードを有する部品についても、それに対応した給電ワイヤを設置すれば、同時メッキが可能となる。
【0030】
また、本発明は、給電ワイヤ送り機構と、給電ワイヤ通過位置変更機構又は被メッキ物移動機構とを設けることで、給電ワイヤと被メッキ物の接触のせいでメッキされない箇所の発生を防止し、メッキを安定化させる。また被メッキ物の移動機構は、ワーク保持治具を給電ワイヤ通過方向とほぼ直角方向に揺動又は間欠移動させるのがよい。
【実施例1】
【0031】
以下、本発明の実施例として、アキシャル電子部品のメッキを例にして、図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1は本発明の一実施例の電気メッキ装置を示す斜視図である。エンドレス構造の給電ワイヤ2は、メッキ槽5内のメッキ液中を通過し、更に、メッキ槽5の壁に設けられた細い溝を通過し、メッキ槽5の両端部に配置された給電ワイヤ送りプーリ1にかかっている。更に給電ワイヤ2に対して、給電ワイヤ2が貫通するようにダイス3が設けられている。メッキ槽5内のメッキ液中に給電ワイヤ2が略平行に配置される。この平行に配置された給電ワイヤ2の上にワーク保持治具7が下降し、ワークであるアキシャル電子部品6のリード線を給電ワイヤ2に接触させる。
【0033】
その給電ワイヤ2に通電し、メッキが開始されると給電ワイヤ送り機構である給電ワイヤ送りプーリ1が回転し、給電ワイヤ2の送りを行う。また給電ワイヤ2のメッキ槽5内の通過位置を変化させる機構である給電ワイヤ移動ガイドローラ4aと給電ワイヤ移動ガイドローラ4bが給電ワイヤ2に接触している。その給電ワイヤ移動ガイドローラ4a,給電ワイヤ移動ガイドローラ4bが、図1の給電ワイヤ移動ガイドローラ4a,給電ワイヤ移動ガイドローラ4b付近に示す矢印の方向に揺動することにより、給電ワイヤ2の通過位置を変えることが出来、給電ワイヤ2とワークであるアキシャル電子部品6のリード線の接触位置を移動させることが出来る。また被メッキ物の位置を変える機構としてワーク保持治具移動爪8が給電ワイヤ移動ガイドローラ4a,給電ワイヤ移動ガイドローラ4b付近に示す矢印の方向に揺動することにより、同じ効果が得られる。
【0034】
給電ワイヤ2に析出したメッキ金属は、給電ワイヤ2が貫通する様に設けられたダイス3により、そぎ落とされ給電ワイヤ2は再生される。
【0035】
次に、図2は、図1のメッキ槽5の断面200を示す図である。図2でメッキ槽内の配置を説明する。メッキ槽5内にはメッキ液11が満たされている。そのメッキ槽5内にアノード81が設けられている。更に給電ワイヤ2a,給電ワイヤ2bが、給電ワイヤ受け9の上部に配置される。図2では、給電ワイヤ2aと給電ワイヤ2bは一続きの給電ワイヤ2(図1参照)の一部であるが、給電ワイヤ2は被メッキ物の構成により、複数設けることが出来る。また給電ワイヤ受け9は軽量である被メッキ物の場合には不用であり、取り外して使用することが可能である。
【0036】
次に、給電ワイヤ2と磁性体の被メッキ物(アキシャル電子部品6)のリード線6a,リード線6bの電気的接触を確実かつ安定にするために永久磁石10を配置し、磁性体の被メッキ物(例えばリードスイッチなど)を給電ワイヤ側に吸引する。このとき、永久磁石の表面を絶縁樹脂でコーティングして用いるとよい。この方法は、軽量の磁性体被メッキ物の場合やメッキ液中で浮力の大きな被メッキ物に有効である。
【0037】
次に、図3は本実施例での析出メッキ金属剥離部を示す断面図である。給電ワイヤ22をガイド21に通し、ダイス20にて析出金属を剥離する。剥離金属23は、ダイス20の刃部にたまり落下する。給電ワイヤ22は、りん青銅又はピアノ線、鋼線のような高張力鋼を用いる。また、給電ワイヤ22の電気伝導度を良くするために、給電ワイヤ22の表面に金メッキ又は銅メッキを施す。また表面に銅が巻かれたクラッド線を用いてもよい。
【0038】
図4は、析出メッキ金属を回転刃具又はグラインダで剥離する場合の例を示す部分断面図であり、ガイド31の部分のみは断面図で表した。図5は図4のA-A断面図である。図4の給電ワイヤ34をガイド31に通す、次に1対の回転刃具30(又はグラインダホイル)を通過させる。回転刃具又はグラインダホイルは回転シャフト32を中心に回転し、給電ワイヤ34の表面に析出したメッキ金属は、回転刃具又はグラインダホイルにより剥離される。
【0039】
次に、図6は、本発明の他の実施例に係る、加熱溶融によるメッキ金属剥離部を示す断面図である。給電ワイヤ42が、ガイド41を通過し、溶融金属43内を通過し、再度ガイドを通って出て行く。溶融金属43の下側には、ヒータ44が埋め込まれている。こうして、給電ワイヤ42に析出したメッキ金属は、溶融金属43内を通過する際、熱により溶融され剥離される。この溶融剥離方法は、溶解温度の低い半田メッキ及び錫メッキの場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例の電気メッキ装置を示す斜視図。
【図2】図1のメッキ槽の断面を示す図。
【図3】本発明の一実施例での析出メッキ金属剥離部を示す断面図。
【図4】本発明の一実施例に係る析出メッキ金属を剥離する場合の例を示す部分断面図。
【図5】図4のA-A断面図。
【図6】本発明の他の実施例に係る、加熱溶融によるメッキ金属剥離部を示す断面図。
【符号の説明】
【0041】
1 給電ワイヤ送りプーリ
2,2a,2b,22,34,42 給電ワイヤ
3,20 ダイス
4a,4b 給電ワイヤ移動ガイドローラ
5 メッキ槽
6 アキシャル電子部品
6a,6b リード線
7 ワーク保持治具
8 ワーク保持治具移動爪
9 給電ワイヤ受け
10 永久磁石
11 メッキ液
21 ガイド
23 剥離金属
30 回転刃具
31,41 ガイド
32 回転シャフト
43 溶融金属
44 ヒータ
81 アノード
200 断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気メッキ法による被メッキ物をカソード化するための給電電極としてワイヤ形状の導線である給電ワイヤが用いられ、前記給電ワイヤの一部がメッキ槽内に配設され前記被メッキ物と接触することで前記被メッキ物への給電が行われることを特徴とする電気メッキ装置。
【請求項2】
前記給電ワイヤに析出したメッキ金属をダイス又はグラインダ又は回転式刃物で剥離することを特徴とする請求項1記載の電気メッキ装置。
【請求項3】
前記給電ワイヤに析出したメッキ金属が、半田メッキ又は錫メッキの場合に、前記給電ワイヤの温度を上げて、析出したメッキ金属を溶融して剥離することを特徴とする請求項1記載の電気メッキ装置。
【請求項4】
前記給電ワイヤに析出したメッキ金属を剥離後、前記給電ワイヤを繰り返し連続的に使用するために、前記給電ワイヤはエンドレス構造を有すると共に、前記給電ワイヤの送り機構が設けられたことを特徴とする請求項2又は3記載の電気メッキ装置。
【請求項5】
前記被メッキ物が磁性体を有する場合に、前記給電ワイヤに被メッキ物を確実かつ安定に接触させるための永久磁石を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電気メッキ装置。
【請求項6】
前記被メッキ物は複数個の電気的に独立したリードを有し、前記メッキ槽内には複数の給電ワイヤが配設されたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電気メッキ装置。
【請求項7】
前記給電ワイヤと被メッキ物の接触による非メッキ部分の発生を防止するように、一工程のメッキ中に前記給電ワイヤと被メッキ物の接触位置を変化させるために、前記給電ワイヤのメッキ槽内の配設位置を変化させる機構又は被メッキ物の位置を変える機構を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電気メッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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