説明

電気・電子機器部材用コーティング剤

【課題】 電気・電子機器部材に用いられる各種基材に対する密着性に優れるとともに、シクロヘキサノンなどの溶剤に対する耐溶解性にも優れ、汚染性の少ない電気・電子機器部材用コーティング剤を提供する。
【解決手段】 不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01〜10質量%であるポリオレフィン樹脂(A)と、水性媒体とを含有するコーティング剤であって、ポリオレフィン樹脂(A)に対して、不揮発性水性化助剤の含有量が1質量%以下であることを特徴とする電気・電子機器部材用コーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜中に汚染物質をほとんど残存することのないコーティング剤であって、塗膜の耐水性、耐溶剤性や各種基材との密着性の優れた性能を発現する電気・電子機器部材に好適なコーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂、中でも変性ポリオレフィン樹脂は、様々な材料に対する良好な熱接着性を有していることから、ヒートシール剤、ディレードタック剤、繊維処理剤、及び接着剤用バインダー等の幅広い用途に用いられている。これらの用途にポリオレフィン樹脂は、作業性、安全性、環境の観点から、水性分散体として利用されている。
【0003】
例えば、不飽和カルボン酸の含有量が20質量%程度のエチレン−アクリル酸共重合樹脂やエチレン−メタクリル酸共重合樹脂等のエチレン−不飽和カルボン酸共重合樹脂からなる変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体は従来から知られている。しかし、このような不飽和カルボン酸を20質量%程度含有する樹脂は極性が高いため、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)などの極性の低い材料に対する密着性が不十分であった。また、不飽和カルボン酸の含有量が多い樹脂はイオン性が高く、電気・電子機器の電気特性に対して悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0004】
一方、不飽和カルボン酸含有量がさらに低い変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体は、特許文献1〜3などに開示されている。しかし、これらの水性分散体は、乳化剤(界面活性剤)や保護コロイド等を用いて水性化されたものであった。
乳化剤や保護コロイド等は不揮発性であり、形成される塗膜中にこれらが残存すると、接着界面の状態に大きく影響を与え、基材との密着性が低下する傾向にある。また、これらは親水性が高く、さらに可塑化能力も有しているため、形成される塗膜の耐水性、耐溶剤性が著しく低下してしまうという問題がある。さらに、乳化剤や保護コロイド等を含む塗膜からこれらがブリードアウトして基材等を汚染することが危惧され、電気・電子機器部材に用いた場合にはその電気特性に対して悪影響を及ぼすことも懸念される。
【0005】
そこで、本願発明者らは界面活性剤等の不揮発性化合物を添加せずに、不飽和カルボン酸成分の含有量が低い変性ポリオレフィン樹脂を水性分散体とすることを特許文献4にて報告している。しかし、特許文献4では電気・電子機器部材用の適性に関して検討がなされていなかった。
【0006】
ところで、公知の電気・電子機器部材用コーティング剤にはさまざまな性能が付与されており、例えば、特許文献5では絶縁性能に優れたコーティング剤が示され、特許文献6には帯電防止性能に優れたコーティング剤が示されている。
一方、電気・電子機器部材に多種のコーティング剤を多層化して、それぞれの機能を発現させることがある。例えばシクロヘキサノンなどの溶剤を含んだコーティング剤を、先に形成した塗膜上にオーバーコートすることがある。この場合、先に形成した塗膜には、溶剤に対する耐溶解性能が必要とされる。
しかし特許文献5に記載されたコーティング剤では高温高湿下の絶縁性能を長時間持続可能とするためにワックス成分が大量に含有されており基材に対する汚染性に問題があった。また、特許文献6に記載されたコーティング剤では耐溶剤性能に問題があった。
【特許文献1】特開平9−296081号公報
【特許文献2】特開平7−19699号公報
【特許文献3】特開平9−296081号公報
【特許文献4】国際公開第02/055598号パンフレット
【特許文献5】特開2007−154004号公報
【特許文献6】特開2004−175870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電気・電子機器部材に用いられる各種基材に対する密着性に優れるとともに、シクロヘキサノンなどの溶剤に対する耐溶解性にも優れ、汚染性の少ない電気・電子機器部材用コーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定組成のポリオレフィン樹脂を用いることにより、上記課題が解決できることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01〜10質量%であるポリオレフィン樹脂(A)と、水性媒体とを含有するコーティング剤であって、ポリオレフィン樹脂(A)に対して、不揮発性水性化助剤の含有量が1質量%以下であることを特徴とする電気・電子機器部材用コーティング剤。
(2)不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01〜10質量%であるポリオレフィン樹脂(A)と、水性媒体とを含有するコーティング剤であって、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことを特徴とする電気・電子機器部材用コーティング剤。
(3)20℃のシクロヘキサノンに対して、ポリオレフィン樹脂(A)の溶解成分量が10質量%以下であることを特徴とする(1)または(2)記載のコーティング剤。
(4)190℃、2160g荷重におけるポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01〜500g/10分であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のコーティング剤。
(5)ポリオレフィン樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル成分を含有しており、ポリオレフィン樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が1〜30質量%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のコーティング剤。
(6)無機微粒子(B)を、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、30〜5000質量部含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のコーティング剤。
(7)不飽和カルボン酸成分の含有量が10質量%を超え、かつ30質量%以下であるポリオレフィン樹脂(C)を、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、1〜300質量部含有することを特徴とする(6)記載のコーティング剤。
(8)無機微粒子(B)が金属酸化物であることを特徴とする(6)または(7)に記載のコーティング剤。
(9)基材に(1)〜(8)のいずれかに記載のコーティング剤から媒体を除去した塗膜を設けてなる電気・電子機器用部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、特定組成のポリオレフィン樹脂を含有し、しかもコーティング剤中の不揮発性水性化助剤を低減させたコーティング剤、または、実質的に不揮発性水性化助剤を含有しないコーティング剤は、塗膜の耐溶剤性や各種基材との密着性、高温高湿下での表面抵抗率持続能に優れる。しかも、塗膜中には汚染物質を実質的に含有していないため電気・電子機器部材を汚染することがない。さらには無機微粒子を混合することで帯電防止性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のコーティング剤は、不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01〜10質量%であるポリオレフィン樹脂(A)と、水性媒体とを含有し、コーティング剤中に含有する不揮発性水性化助剤の含有量は、ポリオレフィン樹脂(A)に対して1質量%以下である。
水性媒体とは、水を主成分とする媒体であり、後述する塩基性化合物や水溶性有機溶剤を含有していてもよい。水溶性有機溶剤としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上のものが好ましく、具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0011】
本発明におけるポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分(A1)によって変性されたものである。ポリオレフィン樹脂(A)中の(A1)の含有量は、0.01〜10質量%であることが必要である。(A1)の含有量は、電気・電子機器部材に使用される基材との密着性向上やポリオレフィン樹脂を水性媒体中に微細かつ安定に分散または溶解させる(水性化)ために必要であり、この量は、樹脂の水性化のし易さ、基材との密着性等のバランスの点から、0.1〜8質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜5質量%がさらに好ましく、1〜4質量%が特に好ましい。(A1)の含有量が10質量%を超えると極性の低い基材との密着性が低下してしまう。(A1)の含有量が0.01質量%未満の場合、基材との密着性が低下したり、樹脂を水性媒体中に分散し難くなる。
【0012】
不飽和カルボン酸成分(A1)は、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入され、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、(A1)成分は、ポリオレフィン樹脂(A)中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0013】
ポリオレフィン樹脂(A)中の不飽和カルボン酸成分(A1)のカルボキシル基(酸無水物を含む)の一部または全てが塩基性化合物で中和されていることで、アニオンを生じ、アニオンの静電気的反発力によって樹脂微粒子間の凝集を防ぎ、コーティング剤を安定化させることができる。
塩基性化合物としては、塗膜の耐水性、電気絶縁性の点から、揮発性の塩基性化合物が好ましい。その具体例としては、アンモニアまたは各種の有機アミン化合物、好ましくはアンモニアまたは常圧下での沸点が250℃以下である有機アミン化合物が挙げられる。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。カルボキシル基は、上記した塩基性化合物によって少なくとも一部が中和されていればよく、コーティング剤の分散安定性の点から、中和度は30〜100%であることが好ましく、50〜100%がより好ましく、70〜100%がさらに好ましく、80〜100%が特に好ましい。
【0014】
なお、不飽和カルボン酸成分(A1)として酸無水物を導入した場合には、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、特に塩基性化合物を含有する媒体中では、その一部、または全部が開環してカルボン酸、あるいはその塩の構造をとる場合がある。
【0015】
ポリオレフィン樹脂(A)の主成分であるエチレン系炭化水素成分(A2)は特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、ノルボルネン類等が挙げられ、中でも炭素数2〜6のアルケンが好ましく、これらの混合物を用いることもできる。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、特にエチレン、プロピレンが好ましい。オレフィン成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。オレフィン成分の含有量が50質量%未満では、基材との密着性や耐水性、耐溶剤性等のポリオレフィン樹脂由来の特性が失われてしまう。
【0016】
ポリオレフィン樹脂(A)中には、各種基材との密着性を向上させる点から、(メタ)アクリル酸エステル成分(A3)を含有していることが好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)中の(A3)成分の含有量は、1〜30質量%であることが好ましく、塗膜の耐溶剤性を向上させる点から、この範囲は1〜28質量%であることがより好ましく、1〜25質量%であることがさらに好ましく、1〜23質量%であることが特に好ましい。(A3)成分の含有量が1質量%未満では、基材との密着性が低下する恐れがあり、逆にこの含有量が30質量%を超えると塗膜の耐溶剤性が低下する傾向にある。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル成分(A3)としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、基材との接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。)
【0018】
また、上記成分以外に他の成分をポリオレフィン樹脂(A)全体の10質量%以下程度、含有していてもよい。他の成分としては、ブタジエン、イソプレン等のジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0019】
ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、不飽和カルボン酸含有エチレン樹脂、不飽和カルボン酸含有プロピレン樹脂、不飽和カルボン酸含有エチレン−プロピレン樹脂、不飽和カルボン酸含有エチレン−ブテン樹脂、不飽和カルボン酸含有プロピレン−ブテン樹脂、不飽和カルボン酸含有エチレン−プロピレン−ブテン樹脂、不飽和カルボン酸含有エチレン−酢酸ビニル樹脂、およびさらに(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する樹脂である。中でも、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体が好ましく用いられる。
【0020】
本発明において、ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安である190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.01〜500g/10分であることが好ましく、0.1〜300g/10分であることがより好ましく、1〜200g/10分であることがさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、基材との密着性が低下したり、樹脂の水性化が困難になる。一方、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが500g/10分を超えると、塗膜の耐溶剤性が低下したり、基材との密着性が低下してしまう。
【0021】
塗膜の汚染性を抑制したり、塗膜上に溶剤系コート剤をオーバーコートすることを考慮すると、ポリオレフィン樹脂(A)の20℃におけるシクロヘキサノンに対する溶解成分量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。
【0022】
また、ポリオレフィン樹脂(A)は塩素化されていてもよく、その場合塩素化率は5〜50質量%が適当である。ポリオレフィン樹脂(A)を塩素化する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、塩素化させたい樹脂をクロロホルム等の塩素系溶剤に溶解させた後、紫外線を照射しながら、または、ラジカル発生剤の存在下で、ガス状の塩素を吹き込むことにより行うことができる。
【0023】
本発明のコーティング剤としては、ポリオレフィン樹脂(A)を水性媒体に分散させた水性分散体を用いることができる。ポリオレフィン樹脂(A)を水性媒体に分散する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えは、特開2003−119328号公報などに例示されている方法を用いることが可能である。
【0024】
水性分散体中のポリオレフィン(A)の数平均粒子径は、水性分散体の保存安定性が向上するという観点から、1μm以下であることが好ましく、低温造膜性の観点から0.5μm以下がより好ましく、0.2μm以下が特に好ましく、0.1μm以下がさらに好ましく、0.05μm未満が最も好ましい。さらに、体積平均粒子径に関しても、2μm以下が好ましい。
【0025】
ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体としては市販のものを用いることができ、例えば、ユニチカ社製「アローベースシリーズ」などが挙げられる。
【0026】
本発明のコーティング剤には、帯電防止性が必要とされる用途など必要に応じて、無機微粒子(B)を含有させることができる。無機微粒子(B)の含有量は、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、30〜5000質量部であることが好ましく、100〜3000質量部がさらに好ましく、500〜2000質量部がより好ましい。無機微粒子(B)の含有量が30質量部未満の場合は帯電防止効果が発現され難くなり、5000質量部を超えた場合は、基材との密着性が悪化する傾向にある。
【0027】
無機微粒子(B)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属、金属酸化物および金属錯体などの微粒子が挙げられ、これらは単体で用いても2種類以上を併用して用いてもかまわない。
これらの中でも金属酸化物が微粒子の分散性や導電性の点から好ましい。金属酸化物微粒子の具体例としては、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウム、アルミニウムドープ酸化スズ、タングステンドープ酸化スズ、酸化チタン−酸化セリウム−酸化スズの複合体、酸化チタン−酸化スズの複合体などの酸化スズ系微粒子や、酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化亜鉛などの酸化亜鉛系微粒子や、酸化インジウム、フッ素ドープ酸化インジウム、カドミウムドープ酸化インジウムなどの酸化インジウム系微粒子や、酸化チタン、ニオブドープ酸化チタンなどの酸化チタン系微粒子や、酸化ケイ素、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化鉄、又はこれらの任意の混合物などが挙げられ、それらの溶媒和物や配位化合物も用いることができる。
【0028】
上記の無機微粒子(B)の製造方法は特に限定されないが、たとえば、酸化スズ微粒子は、金属スズやスズ化合物を加水分解または熱加水分解する方法や、スズイオンを含む酸性溶液をアルカリ加水分解する方法、スズイオンを含む溶液をイオン交換膜やイオン交換樹脂によりイオン交換する方法など何れの方法も用いることができる。
【0029】
無機微粒子(B)の数平均粒子径は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましく、20nm以下が最も好ましい。無機微粒子(B)の数平均粒子径が1000nmを超えると、帯電防止性能が安定しない場合がある。無機微粒子(B)の数平均粒子径は、動的光散乱法や電子顕微鏡によって測定することが可能である。
【0030】
金属酸化物微粒子は市販のものを使用することもできる。例えば、酸化スズ微粒子水分散体としては、ユニチカ製「AS20I」、アンチモンドープ酸化スズ系微粒子水分散体としては、石原産業社製「SN−100D」、酸化スズドープインジウム微粒子としては、シーアイ化成社製「ITO」、アルミドープ酸化亜鉛微粒子としては、ハクスイテック社製「23−K」、シリカ微粒子水性分散体としては、日産化学工業社製「スノーテックス20」などが挙げられる。
【0031】
無機微粒子(B)をコーティング剤に含有させる方法は特に限定されず、例えば、水および/又は有機溶媒などの媒体に分散された無機微粒子(B)を撹拌しながらコーティング剤に添加していく方法などが挙げられる。
【0032】
上記無機微粒子(B)を含有したコーティング剤は、不飽和カルボン酸成分の含有量が10質量%を超え、かつ30質量%以下であるポリオレフィン樹脂(C)を含有することが好ましい。無機微粒子(B)を含有したコーティング剤、特に、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して無機微粒子(B)を200質量部以上含有したコーティング剤は、長期保存安定性(ポットライフ)が悪化したり、塗膜の厚みが1μm以上になるように塗膜の厚みを厚く塗布した場合、塗膜にワレが発生することがある。塗膜にワレがあると、さらに別のコーティング剤をオーバーコートした際に、オーバーコート層との密着性が悪化する傾向があり、好ましくない。しかしながら、コーティング剤中にポリオレフィン樹脂(C)が含有していると、この様な長期保存安定性の悪化や、塗膜のワレを抑制することができる。
ポリオレフィン樹脂(C)における不飽和カルボン酸成分の含有量は10質量%を超え、かつ30質量%以下であることが必要である。不飽和カルボン酸成分の含有量が10質量%以下の場合は、塗膜のワレを抑制する効果がなく、30質量%を超えると得られる塗膜の耐水性、耐溶剤性が悪化する傾向がある。
ポリオレフィン樹脂(C)の含有量は、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、1〜300質量部が好ましく、2〜200質量部がより好ましく、5〜100質量部がさらに好ましく、10〜50質量部が特に好ましい。ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が1質量部未満の場合は塗膜のワレ抑制効果が小さく、300質量部を超えた場合は、得られる塗膜の耐水性、耐溶剤性が悪化する傾向がある。
【0033】
ポリオレフィン樹脂(C)の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートは、10〜2000g/10分であることが好ましく、30〜1500g/10分がより好ましく、70〜1000g/10分がさらに好ましく、100〜500g/10分が特に好ましい。メルトフローレートが10g/10分未満の場合は、塗膜のワレ抑制効果が悪化する傾向にあり、2000g/10分以上の場合は得られる塗膜の耐水性、耐溶剤性が悪化する傾向がある。
【0034】
ポリオレフィン樹脂(C)の具体例としては、不飽和カルボン酸含有エチレン樹脂、不飽和カルボン酸含有プロピレン樹脂などが挙げられ、中でもワレ抑制効果に優れるエチレン(メタ)アクリル酸共重合体が好適である。これらポリオレフィン樹脂(C)の溶液及び/又は分散体の製造方法は特に限定されず公知の方法を選択できるが、得られた溶液及び/又は分散体は水系のものが好ましく、さらには乳化剤などの不揮発性の添加剤を含有しないような方法で製造することが好ましい。
【0035】
本発明のコーティング剤には、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、硬化剤をコーティング剤中のポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜30質量部添加することができる。硬化剤の添加量が0.1質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、30質量部を超える場合は、水性分散体の液安定性や加工性等の塗膜性能が低下してしまう。硬化剤としては、自己架橋性を有する硬化剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、アジリジン化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。硬化剤の中でも、耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能向上の点から、イソシアネート化合物、エポキシ化合物が好ましく、イソシアネート化合物が特に好ましい。
【0036】
本発明のコーティング剤には、さらに他の重合体の水性分散体、粘着付与成分等を添加することができる。
他の重合体の水性分散体としては、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用してもよい。
粘着付与成分としては、ロジン類、テルペン類、石油樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂から選ばれる少なくとも1種の成分を用いることができる。ロジン類としては、重合ロジン、不均化ロジン、水素添加ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン、及びこれらのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル、メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールエステル、トリエチレングリコールエステルなどが挙げられる。テルペン類としては、低重合テルペン系、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、テルペンフェノール系、芳香族変性テルペン系、水素添加テルペンなど挙げられる。石油樹脂としては、炭素数5個の石油留分を重合した石油樹脂、炭素数9個の石油留分を重合した石油樹脂、及びこれらを水素添加した石油樹脂、マレイン酸変性、フタル酸変性した石油樹脂などが挙げられる。
【0037】
本発明において、コーティング剤における樹脂含有率(固形分濃度)は、成膜条件、目的とする樹脂層の厚さや性能等により適宜調整され、特に限定されるものではないが、コーティング剤の粘性を適度に保ち、かつ良好なプライマー層形成能を発現させる点で、1〜50質量%が好ましく、3〜50質量%がより好ましく、5〜45質量%がさらに好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0038】
本発明において、コーティング剤中の不揮発性水性化助剤の含有量は、ポリオレフィン樹脂(A)に対して1質量%以下であることが必要であり、この量は少ないほど塗膜の耐水性、耐溶剤性、基材との密着性、耐汚染性、電気絶縁性が向上するため、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。ここで、「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性化助剤を積極的には系に添加しないことにより、結果的にこれらを含有しないことを意味する。こうした不揮発性水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましい。
【0039】
本発明において不揮発性水性化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%を超えるカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0040】
本発明のコーティング剤には、使用目的に応じて顔料または染料を添加してもよい。使用する顔料または染料は特に限定されるものではなく、一般的に使用されているものを適宜選択すればよい。顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、酸化鉄、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾール系、ペリレン系、ペリノン系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラピリジン系、ジオキサジン系などの有機顔料が挙げられる。また、染料としては直接染料や反応染料、酸性染料、カチオン染料、バット染料、媒染染料などが挙げられる。上記の顔料または染料は単独もしくは2種類以上が含有されていても差し支えない。
【0041】
さらに、本発明のコーティング剤には、必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤を添加することも可能である。また、水性分散体の保存安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を添加することも可能である。
【0042】
本発明のコーティング剤は、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂塗膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、基材の特性や架橋剤の種類、配合量等により適宜選択されるものであり、特に限定されず、例えば、加熱温度50〜250℃程度の範囲で使用できる。また、架橋反応を進行させるために20〜60℃程度でエージング処理を行ってもよい。
【0043】
本発明のコーティング剤は、各種材料に対する良好な密着性を有することから、前記のようにしてコーティング剤から水性媒体を除去することにより、良好な塗膜を形成することができる。得られた塗膜は様々な基材に対する密着性が良好であり、塗膜の耐溶剤性、耐汚染性も良好であることから各種基材のプライマーとしての使用が好適である。
【0044】
本発明のコーティング剤より得られる塗膜の導電性の指標となる表面抵抗率(Ω/□)は、特に限定されないが、電気絶縁性能が要求される用途などに用いられる場合などにおいては、1×1015以上であることが好ましい。ただし、帯電防止性能が要求される用途などに用いられる場合などにおいては、1×1013以下であることが好まく、1×1011以下であることがより好ましい。なおこの様な塗膜の表面抵抗率(Ω/□)は、その使用環境において安定した値を保持されることが望まれる。
【0045】
本発明のコーティング剤が塗布される基材としては、紙、合成紙、各種熱可塑性樹脂のフィルムや成形体、ガラス、金属材料(アルミ箔、銅箔など)、プラスチック等が挙げられ、特に限定されないが、本発明のコーティング剤は、比較的低温の条件で熱処理でも基材に対する優れた密着性が得られるため、耐熱性の比較的低い基材、例えば、融点が180℃以下の熱可塑性樹脂(PP、PE等)へ適用できる。中でも、基材としては、合成紙、熱可塑性樹脂フィルム、金属材料が好ましい。
【0046】
基材としての熱可塑性樹脂フィルムは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、製法も限定されるものではない。熱可塑性樹脂フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常5〜500μmの範囲のものを用いる。
【0047】
本発明のコーティング剤から水性媒体を除去してなる塗膜は、前述した基材に設けることが好ましい。塗膜層の厚みは、特に限定されないが、0.01〜30μmであることが好ましく、0.1〜20μmであることがより好ましく、0.1〜10μmであることがさらに好ましく、0.1〜7μmであることが特に好ましい。厚みが0.01μm未満ではプライマーとしての効果が小さく、30μmを超えると乾燥時間が長くなる。
【0048】
上記塗膜をプライマー層として、さらに別の塗剤を塗布、乾燥することで積層体とすることができる。この塗剤は溶剤系でも水系でも差し支えない。また、本発明の塗膜を接着層として別の基材を貼りあわせて積層体としてもよい。
【0049】
得られた塗膜は各種基材への密着性に優れており、かつシクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどの溶剤に対する耐性に優れるため、溶剤系のオーバーコート剤を塗布する場合のプライマーとして好適である。さらに、汚染性がほとんどなく、電気絶縁性に優れる。したがって本発明のコーティング剤は、特に、電気・電子機器部材に用いられる各種基材に好適に使用することができる。具体的には、電気機器、モータ、発電機、相間絶縁等の絶縁塗膜、変圧器、電線の被覆、コンデンサーなどの誘電体塗膜、情報記録用ディスクなどの塗膜などへの適用が可能である。さらには無機微粒子との併用によって帯電防止性に優れ、回路基盤、電子材料用フィルム、電子材料用成形体などへの適用が有効であり、産業上の利用価値は極めて高い。
【実施例】
【0050】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0051】
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
1.ポリオレフィン樹脂(A)の特性
(1)構成
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。ポリオレフィン樹脂は、オルトジクロロベンゼン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
(2)メルトフローレート
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
(3)シクロヘキサノンに対する溶解成分量
ポリオレフィン樹脂(A)5gをシクロヘキサノン50gに入れ、20℃で3日間、撹拌した。その後、ろ過し、フィルター上に残った樹脂を100℃で3時間真空乾燥し、乾燥後の樹脂質量(S)gを測定した。溶解成分の割合は下記式より求めた。
溶解成分量(%)=(5−S)/5×100
【0052】
2.コーティング剤の特性
(1)固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、水性分散体中の固形分濃度(質量%)を求めた。
(2)ポットライフ
水性分散体を室温および40℃で90日放置したときの外観を、次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし
△:2層分離の発生(再度撹拌すると均一な分散体に戻る)
×:固化または凝集や沈殿物の発生
【0053】
3.材料特性
以下の評価においては、熱可塑性樹脂フィルムとして、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm、以下、PET)、2軸延伸ナイロン6フィルム(ユニチカ社製エンブレム、厚み15μm、以下、Ny)、延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製、厚み50μm、以下、PP)、未延伸ポリエチレンフィルム(タマポリ社製、厚み40μm、以下、PE)を用いた。金属材料としてはアルミ箔(厚み50μm)を用いた。
【0054】
(1)塗膜状態
アルミ箔にコーティング剤を、乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、120℃で1分間、乾燥させた。得られたサンプルの塗膜のワレ状態を目視で評価した。
○:ワレなし
△:一部にワレあり
×:全面にワレあり
【0055】
(2)塗膜の耐水性
上記(1)で作製したコート済みのアルミ箔を室温で1日放置した後、60℃の温水に24時間浸漬し、風乾燥後の塗膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし
△:塗膜がくもる
×:塗膜が完全に溶解、または剥離
【0056】
(3)塗膜の耐溶剤性
上記(1)で作製したコート済みのアルミ箔を室温で1日放置した後、40℃のシクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸エチルにそれぞれ24時間浸漬し、風乾燥後の塗膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし
△:塗膜がくもる、または一部に溶解の痕跡あり
×:塗膜が完全に溶解、または剥離
【0057】
(4)耐汚染性
上記(1)で作製したアルミ箔のコート面にPPフィルムを重ね合わせた状態で、0.02MPaの負荷をかけ、25℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置した。それらを剥がした後のPPフィルムの表面(コート面が接していた表面)をATR測定(Perkin Elmer System−2000フーリエ変換赤外分光光度計、分解能4cm−1、512回積算、Ge60°プリズム使用)で分析し糊残りによる汚染物質の有無を確認した。
○:PP由来のピークしか検出されない
×:PP由来のピーク以外のピークが検出される
【0058】
(5)コートフィルムの初期表面抵抗率
PETフィルム上にコーティング剤を、乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、120℃で1分間、乾燥させた。得られたサンプルを室温で1日放置後、JIS−K6911に基づいて、アドバンテスト社製デジタル超高抵抗/微少電流計R8340を用いて、コートフィルムの塗膜の表面固有抵抗値を23℃、65%RHの条件下で測定した。ここでの値を初期値とした。
【0059】
(6)コートフィルムの高温高湿処理後表面抵抗率
上記(5)で得られたコートフィルムを85℃、85RHの高温高湿槽内に放置し、1000時間後にコートフィルムを取り出し、素早くJIS−K6911に基づいて、超高抵抗/微少電流計R8340を用いて、コートフィルムの塗膜の表面固有抵抗値を23℃、65%RHの条件下で測定した。ここでの値を高温高湿処理後値とした。
【0060】
(7)基材/塗膜層の密着性
各種基材にコーティング剤を、乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、90℃で3分間、乾燥させた。得られた積層体を室温で1日放置後、表面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を目視で評価した。
○:全く剥がれなし
△:一部剥がれた
×:全て剥がれた
【0061】
4.原料
<ポリオレフィン樹脂(A)>
ポリオレフィン樹脂(A)としては、市販品であるボンダインHX8290(アルケマ社製、以下HX8290とする)、ボンダインTX8030(アルケマ社製、以下TX8030とする)を用いた。ポリオレフィン樹脂(A)の組成を表1に示す。これらポリオレフィン樹脂(A)は以下に示す水性分散化方法1で水性分散体とした。
(水性分散化方法1)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100gのHX8290又はTX8030、125.0gのイソプロパノール(和光純薬社製)、3.7gのトリエチルアミン(和光純薬社製)および271.3gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なコーティング剤を得た。この様にして得られたHX8290の水性分散体の固形分濃度は20質量%であり、数平均粒子径は78nmであった。またTX8030の水性分散体の固形分濃度は20質量%であり、数平均粒子径は85nmであった(ポリオレフィン樹脂水性分散体の粒子径は、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150を用い、樹脂の屈折率は1.5として求めた)。
【0062】
【表1】

【0063】
<無機微粒子(B)>
無機微粒子(B)としては、市販品であるAS20I(ユニチカ社製、酸化スズ微粒子分散体、数平均粒子径10nm、固形分濃度20質量%)、スノーテックス20(日産化学工業社製、シリカ微粒子分散体、数平均粒子径10nm、固形分濃度20質量%)、スノーテックス20L(日産化学工業社製、シリカ微粒子分散体、数平均粒子径40nm、固形分濃度20質量%)、MP−4540M(日産化学工業社製、シリカ微粒子分散体、数平均粒子径450nm、固形分濃度40質量%)を用いた。
【0064】
<ポリオレフィン樹脂(C)>
ポリオレフィン樹脂(C)としては、市販品であるプリマコール5980I〔ダウケミカル社製、エチレン・アクリル酸重合体、エチレン含有量80質量%・アクリル酸含有量20質量%、メルトフローレート(190℃・2160g荷重)300g/10分、以下5980Iとする〕を用い、以下に示す水性分散化方法2で水性分散化し水性分散体とした。
(水性分散化方法2)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100gの5980I、40.0gのトリエチルアミン(和光純薬社製)および360gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、半透明の均一な水性分散体を得た。この様にして得られた5980Iの水性分散体の固形分濃度は20質量%であり、数平均粒子径は4nmであった(ポリオレフィン樹脂水性分散体の粒子径は、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150を用い、樹脂の屈折率は1.5として求めた)。
【0065】
<添加剤>
添加剤としては、市販品であるニュクレルN1050H〔三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸重合体、エチレン含有量90質量%・メタクリル酸含有量10質量%、メルトフローレート(190℃・2160g荷重)500g/10分、以下オレフィン系添加剤とする〕の水性分散体、ハイドランHW−301(DIC社製、ポリエステル型ウレタン樹脂の水性分散体、固形分濃度44質量%、以下ウレタン系添加剤とする)、アロンタックHV−C9500(東亞合成社製、アクリル樹脂の水性分散体、固形分濃度62質量%、以下アクリル系添加剤とする)、ポバールJF−10(日本酢ビ・ポバール社製、ポリビニルアルコール、完全ケン化タイプ・重合度1000、以下PVA系添加剤とする)の水溶液(固形分濃度10質量%)を用いた。なお、ニュクレルN1050Hは以下に示す水性分散化方法3で水性分散化した。
(水性分散化方法3)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、75gのニュクレルN1050H、28.0gのトリエチルアミン(和光純薬社製)および397gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を160℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、半透明の均一な水性分散体を得た。この様にして得られたニュクレルN1050Hの水性分散体の固形分濃度は15質量%であり、数平均粒子径は150nmであった(水性分散体の粒子径は、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150を用い、樹脂の屈折率は1.5として求めた)。
【0066】
実施例1
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を用いて、コーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0067】
実施例2
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたTX8030の水性分散体を用いて、コーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0068】
実施例3
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてAS20Iを用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、AS20Iの固形分が5000質量部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)と無機微粒子(B)とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0069】
実施例4〜7
ポリオレフィン(A)と無機微粒子(B)の量が表2に示した組成となるように、実施例3と同様の原料と方法でコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0070】
実施例8
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてAS20Iを、ポリオレフィン樹脂(C)として水性分散化方法2で得られた5980Iの水性分散体を用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、AS20Iの固形分が3000質量部、5980Iの水性分散体の固形分が50部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)、無機微粒子(B)及びポリオレフィン(C)とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0071】
実施例9
ポリオレフィン(A)、無機微粒子(B)及びポリオレフィン(C)の量が表2に示した組成となるように、実施例8と同様の原料と方法でコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0072】
実施例10
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてスノーテックス20を用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、スノーテックス20の固形分が800質量部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)と無機微粒子(B)とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0073】
実施例11
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてスノーテックス20を、ポリオレフィン樹脂(C)として水性分散化方法2で得られた5980Iの水性分散体を用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、スノーテックス20の固形分が800質量部、5980Iの水性分散体の固形分が10部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)、無機微粒子(B)及びポリオレフィン(C)とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0074】
実施例12
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてスノーテックス20Lを用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、スノーテックス20Lの固形分が800質量部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)と無機微粒子(B)とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0075】
実施例13
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)として水で2倍希釈したMP−4540Mを用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、MP−4540Mの固形分が800質量部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)と無機微粒子(B)とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0076】
実施例14
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてAS20Iを、添加剤としてオレフィン系添加剤の水性分散体を用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、AS20Iの固形分が800質量部、オレフィン系添加剤の固形分が10部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)、無機微粒子(B)及びオレフィン系添加剤とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0077】
実施例15
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてAS20Iを、添加剤としてウレタン系添加剤を用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、AS20Iの固形分が800質量部、ウレタン系添加剤の固形分が10部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)、無機微粒子(B)及びウレタン系添加剤とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0078】
実施例16
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてAS20Iを、添加剤としてアクリル系添加剤を用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、AS20Iの固形分が800質量部、アクリル系添加剤の固形分が10部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)、無機微粒子(B)及びアクリル系添加剤とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0079】
実施例17
ポリオレフィン(A)として、水性分散化方法1で得られたHX8290の水性分散体を、無機微粒子(B)としてAS20Iを、添加剤としてPVA系添加剤の水溶液を用い、HX8290の水性分散体の固形分100質量部に対して、AS20Iの固形分が800質量部、PVA系添加剤の固形分が10部となるように添加し、撹拌することで、ポリオレフィン(A)、無機微粒子(B)及びPVA系添加剤とを含有したコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0080】
比較例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのHX8290、60.0gのイソプロパノール(和光純薬社製)、2.2gのトリエチルアミン(和光純薬社製)、不揮発性水性化助剤として1.2gのノニオン性乳化剤であるポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル(三洋化成社製ナロアクティーN−100、以下N−100)および176.6gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なコーティング剤を得た。この様にして得られたコーティング剤の固形分濃度は20質量%であり、数平均粒子径は71nmであった(ポリオレフィン樹脂水性分散体の粒子径は、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150を用い、樹脂の屈折率は1.5として求めた)。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0081】
比較例2
特許文献5(特開2007−154004号公報)の実施例1に記載された方法に準じて、アクリル系樹脂とワックスとからなるコーティング剤を得た。得られたコーティング剤のコーティング剤特性及び材料特性を評価した。
【0082】
実施例1〜13の結果を表2に、実施例14〜17の結果を表3に、比較例1、2の結果を表4に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
実施例1〜17と比較例1の比較より、実施例では耐水性、耐溶剤性、耐汚染性、基材への密着性に優れていた。また、実施例1、2では不揮発性水性化助剤を含まないことにより比較例1より絶縁性に優れていた。さらに実施例では高温高湿処理後においても表面抵抗率の大きな変化は見られず安定した性能が保持されていた。
実施例3〜17では、無機微粒子(B)を含有することによって、帯電防止性能が発現された。また、実施例8、9、11に示すように、ポリオレフィン(C)を含有させると、無機微粒子(B)の含有量が多い場合でも塗膜状態が良好となった(実施例4、5、10との比較)。さらにポリオレフィン(C)を含有することでポットライフの改善効果もあることが実施例4と8との比較で確認された。なお、実施例14〜17の結果から、ポリオレフィン(C)以外の添加剤を含有させても、塗膜状態の改善は確認できなかった。
実施例10、12、13の結果から、無機微粒子(B)の粒子径が小さいほど、帯電防止性能、ポットライフ、PPとの密着性が良好になる傾向が確認された。
比較例1の結果から、不揮発性水性化助剤を含有することによって、耐水性、耐溶剤性、耐汚染性、絶縁性、特定の基材への密着性の悪化が確認された。さらに高温高湿処理によって絶縁性のさらなる悪化が確認された。この高温高湿処理による絶縁性の悪化は、塗膜内の不揮発性水性化助剤成分が高温高湿処理によって表面にブリードアウトしたためと推測される。
比較例2は、従来の水系の絶縁性コーティング剤の評価結果であるが、絶縁性及び高温高湿処理による絶縁保持性は良好であったが、不揮発性成分が大量に含有することなどが原因となって、その他の各種特性は劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01〜10質量%であるポリオレフィン樹脂(A)と、水性媒体とを含有するコーティング剤であって、ポリオレフィン樹脂(A)に対して、不揮発性水性化助剤の含有量が1質量%以下であることを特徴とする電気・電子機器部材用コーティング剤。
【請求項2】
不飽和カルボン酸成分の含有量が0.01〜10質量%であるポリオレフィン樹脂(A)と、水性媒体とを含有するコーティング剤であって、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことを特徴とする電気・電子機器部材用コーティング剤。
【請求項3】
20℃のシクロヘキサノンに対して、ポリオレフィン樹脂(A)の溶解成分量が10質量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載のコーティング剤。
【請求項4】
190℃、2160g荷重におけるポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01〜500g/10分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル成分を含有しており、ポリオレフィン樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が1〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項6】
無機微粒子(B)を、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、30〜5000質量部含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項7】
不飽和カルボン酸成分の含有量が10質量%を超え、かつ30質量%以下であるポリオレフィン樹脂(C)を、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、1〜300質量部含有することを特徴とする請求項6記載のコーティング剤。
【請求項8】
無機微粒子(B)が金属酸化物であることを特徴とする請求項6または7に記載のコーティング剤。
【請求項9】
基材に請求項1〜8のいずれかに記載のコーティング剤から媒体を除去した塗膜を設けてなる電気・電子機器用部材。


【公開番号】特開2009−286919(P2009−286919A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141815(P2008−141815)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】