説明

電気二重層キャパシタ用活性炭および製造法

【課題】電気二重層キャパシタ用電極材として高い静電容量を発現できる活性炭およびその製造法を提供する。
【解決手段】カーボンブラックと炭素前駆体樹脂を混合し、粉砕、焼成した後、酸化性ガス雰囲気中で賦活することを特徴とする電気二重層キャパシタ用活性炭の製造法。またかかる製造方法で得られ、メソポアとミクロポアが適宜な割合で存在し、高い静電容量を発現するとともに十分な導電性を有する電気二重層キャパシタ用活性炭。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い静電容量を有する電気二重層キャパシタ用活性炭およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電極と電解質溶液のような異なる2つの相が接触する界面では、正・負の電荷が非常に短い距離を介して配列、分布する。電極が正の負荷を帯びている場合は、溶液側にはアニオンが配列する。この電荷の配列により生じる層が電気二重層である。
この電気二重層の生成に伴い電極界面に発現する容量を電気二重層容量といい、かかる原理を利用したエネルギ−貯蔵デバイスが電気二重層キャパシタである。
電気二重層キャパシタはその充放電が化学反応を伴わない機構、即ち、イオンの物理的な吸脱着によるため、繰り返し使用における特性低下が非常に小さいこと、使用温度範囲が広いこと、高速充放電性に優れる等、多くの特長を備えており、コンピュ−タ−等の小型電子機器のバックアップ電源に広く使用され、今後はさらに電気自動車等の併用電源として期待されている。
【0003】
電気二重層キャパシタの静電容量は下記の式であらわされる。
静電容量 C=∫ε/(4πδ)・dS
ここでεは電解液の誘電率、δは電極界面からイオン中心までの距離、Sは電極界面の表面積を示す
【0004】
従って、キャパシタに使用される分極性電極の面から考えると、大きな表面積の電極を使用すると、キャパシタの静電容量は増加することになる。
このため、比表面積が大きく、かつ導電性を有する活性炭や活性炭素繊維がキャパシタ用電極材として多く使用されている。
【0005】
現在、主に使用されている活性炭は石炭、ヤシ殻、フェノ−ル樹脂等を酸化性ガス(水蒸気、二酸化炭素、空気等)雰囲気で賦活して製造されているが、活性炭の組織はいずれも光学的に等方性のため、導電性の面で不十分である。導電性が低いと、キャパシタとして内部抵抗が大きくなり、結果的に静電容量の低下をもたらす。
【0006】
また、Randin,,JとYeager,E(J.Electroan.Chm.,36,257(1972)
)によると、活性炭表面がグラファイト層面のエッジ面で形成されると、静電容量が大幅に向上する。しかしながら、通常の光学的に等方性の活性炭では、グラファイト層面のエッジ面とベ−サル面の配置を制御することはできず、この面での改善は期待できない。
電気二重層キャパシタの製造は、通常バインダ−と導電性を確保するための導電材を加えて、集電体とともに電極を形成するが、導電材としては、カーボンブラック、天然黒鉛粉末、酸化ルテニウム等が単独または二種以上配合して使用されている。
例えば、特開平10-4037号には、活性炭と結着剤と特定量のカ−ボンブラックの混合物を用いた電気二重層キャパシタ用電極が記載されている。(特許文献1)
これらの導電材の使用量は、通常1〜50%程度に達するが、導電材を多量に用いることは、本来の電極材の目的以外の余分な成分を含むため、重量当りの容量を低下させることになる。
またカ−ボンブラックや天然黒鉛粉末は、嵩密度が低く、吸油量が大きいため、バインダ−を多量に必要としたり、電極密度を下げる結果になり、体積当りの容量も低下させることになる。
一般にキャパシタの静電容量は、電極の表面積の大きさに従い増大するため、上記のような、比表面積の大きな粉末や繊維状活性炭が使用されているが、比表面積の大きさの割りには、期待した高い静電容量が得られていない。むしろ、静電容量発現を増加させさせるためには、メソ孔を含む好適な孔分布を選択的に有するような活性炭の方が有効という考えがあるが、実用化されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平10-4037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような問題点に鑑み、本発明者は、電気二重層キャパシタ用電極材として高い静電容量を発現できる活性炭およびその製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、キャパシタを形成した際に、用いる電解質のイオン径に適合する好適な孔、即ちミクロポアとメソポアを選択的にあるいは多く含むような表面状態の活性炭を用いた電極材が、高い静電容量を発現できると考えられる。
もともとカ−ボンブラックはメソポアを多く有し、一方活性炭は一般にミクロポアを多く有する。よってカ−ボンブラックを含有する炭素前駆体樹脂を炭化し、賦活した場合、比較的軽度の賦活処理によってキャパシタに必要な量の孔が形成されることになる。
しかもキャパシタ電解質のイオン径に適合したミクロポアとメソポアを選択的に多く含む材料を形成することができる。
また導電性を有するカ−ボンブラックを活性炭の内部に含有しているため、本電極材は後から導電材料をほとんど添加する必要がなく、その点で従来の活性炭より優れている。
【0010】
その結果、従来のように既に製造された活性炭に導電材であるカ−ボンブラックを後から加えるのではなく、原材料として炭素前駆体とカ−ボンブラックを用い、これを特定の条件で混合、焼成、賦活させ活性炭を製造することが、課題解決につながるとの結論を得て、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、カーボンブラックと炭素前駆体樹脂を混合し、粉砕、焼成した後、酸化性ガス雰囲気中で賦活することを特徴とする電気二重層キャパシタ用活性炭の製造法である。
また上記の製造法で得られる活性炭の窒素ガス吸着(BET)法の比表面積が800m2/g以上であることが電気二重層キャパシタ用活性炭として望ましいことがわかった。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明では、原材料としてカ−ボンブラックと炭素前駆体樹脂を用いる。
カーボンブラックとしては、市販のファ−ネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、その他のカ−ボンブラックから適宜選択して使用できる。
これらの中から単独で用いてもよいし、細孔径分布を考慮して複数の銘柄を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0013】
炭素前駆体樹脂としては、フェノ-ル樹脂、フラン樹脂、フタル酸ジビニル樹脂等が好適で、これらを単独または2種以上混合物として用いることができる。液状樹脂の方が好ましいが、固形品を溶剤に溶かして用いることもできる。
【0014】
カーボンブラックと炭素前駆体樹脂の配合割合は、1:0.5〜1:2の範囲が好ましく、1:0.8〜1:1.5がより望ましい。
炭素前駆体樹脂の割合が0.5以下ではカ−ボンブラックとうまく混捏できないこと、多量の溶剤を使用する結果、後の溶剤除去に負担が大きくなることなどの不都合が生じ、さらには樹脂量が絶対的に不足し、本発明本来の目的達成が困難となる。
また、樹脂の割合が2以上であると、賦活によって活性炭にできる細孔に、本来目的とする孔ではないマイクロポアが多く発生し、電極材の嵩密度を低下させたり、導電性を低下させるので問題がある。
【0015】
カーボンブラックと炭素前駆体樹脂の混捏の方法や条件は、均一に混合されれば、特に限定はされない。混捏を助けるために任意の割合で溶剤を加えてもよい。
混捏に用いる装置も特に限定されないが、一般にはプラネタリ−ミキサ−、三本ロ−ル、二軸ニ−ダ−等が好適である。
【0016】
混捏した後は、乾燥、硬化し、ハンマ−ミル、ロ−タリ−ミル、ピンミル、パルベライザ−等の粉砕機により粉砕する。
粉砕後の平均粒径は20μm以下であれば特に問題はないが、より好ましくは10μm以下、7μm以下であればさらに好ましい。
【0017】
次に上記の粉砕物を不活性ガス雰囲気中で、600〜800℃で焼成処理をする。
なお、焼成と粉砕の順序は逆でもよい。
【0018】
最終的に酸化性ガス雰囲気中で700〜1000℃で賦活処理することにより、本発明のキャパシタ用活性炭が得られる。
酸化性ガスとしては、水蒸気、二酸化炭素、空気等が使用できるが、賦活反応の制御、およびコストの面から水蒸気賦活が好ましい。
【0019】
上記のような製造法で得られた本発明の活性炭は以下のような特徴を有する。
まず、本発明の活性炭は、原材料としてカ−ボンブラックを炭素前駆体とともに使用するので、高い導電性を有する。
このため、添加する導電材が極少量か不使用でも、十分な導電性を発揮でき、従来のように多量の導電材を使用することによる問題点を解消できる。即ち、重量当りの静電容量を低下させたり、バインダ−を余分に使用することにより体積当り容量を低下させることがなくなり、静電容量の向上に有効である。
【0020】
また本発明の活性炭は、窒素ガス吸着(BET)法の比表面積が800m2/g以上にもかかわらず、賦活得率が従来に比して高く、嵩密度が大きい活性炭が得られる。
かかる活性炭の表面には、キャパシタ用電極材として静電容量の増加に寄与しないマクロポアが殆ど存在せず、静電容量の向上に有効なメソポアとミクロポアが適宜な割合で存在しているので、高い静電容量を有する電極材が得られる。
これはカ−ボンブラックがもともと有する主としてメソポアと、炭化樹脂の賦活により形成された主としてミクロポアが適度に混在することによるものとみられる。
【0021】
本発明で使用できる結着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等である。
電解液は水系の硫酸および塩酸、非水系のエチレンカ−ボネ−ト、プロピレンカ−ボネ−ト、r−ブチルラクトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等が使用できる。
電解質には安定性に優れるテトラアルキルアンモニウム塩、例えば、(CH34NBF4、(C254NBF4、(C374NBF4、(CH34NPF6、(C254NPF6,(C374NPF6等が使用できる。

【発明の効果】
【0022】
本発明の活性炭は、原材料として炭素前駆体樹脂とともにカ−ボンブラックを用いるので、高い導電性を有する。
従って、キャパシタ用電極材として、新たに導電材を添加しなくても、あるいは極少量の導電材の使用で、高い導電性を発揮できる。
従来は多量の導電材の添加により、また余分なバインダ−の使用によって、重量当り、体積当りの静電容量の低下をきたしていたが、本発明ではかかる問題点を解消でき、静電容量の向上に有効である。
また活性炭表面に形成される細孔が、静電容量の発現に有効なメソポアとミクロポアであり、これらが適宜な割合で存在することになり、この面でも重量当り、体積当りの容量を増加させることができる。
以上のように本発明の活性炭は、電気二重層キャパシタ用電極材として高い静電容量を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に本発明の実施形態について以下の実施例により説明する。
【実施例1】
【0024】
市販のカ−ボンブラック(比表面積:461m2/g、平均細孔径:6.7nm)と液状フェノ−ル樹脂を重量比1/1で混合し、乾燥・硬化後、平均粒径18μmに粉砕した。これを窒素雰囲気中700℃で熱処理焼成後、小型のロ−タリ-キルンを使用して、水蒸気雰囲気中、900℃、1時間の条件で賦活処理をした。得られた活性炭の比表面積は1090m2/g、平均細孔径は2.2nmであった。
上記の活性炭100重量部に対し、結着剤としてスチレンブタジェンゴム(SBR)を2重量部、分散剤としてカルボキシメチルセルロ−ス(CMC)を2重量部加え、蒸留水で希釈しスラリ−を得た。
【0025】
これをドクタ−ブレ−ド法で30μm厚のアルミ箔上に塗布し乾燥後、φ12のサイズに打ち抜き、1t/cm2でプレスして電極とした。
次に、アルゴンガス雰囲気中のグロ−ブボックス内で、2枚の電極シ−トの間にセルロ−ス系多孔質膜を挟んだ二極式コイン型セルを組み立てた。
電解液には電解質としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレ−トを溶解したプロピレンカ−ボネ−ト(濃度1M)を用い、室温で定電流充放電を行い、静電容量を測定した。
電流値は充電と放電で同じ値で充放電を行った。その結果を図1に示す。
【実施例2】
【0026】
硬化後の粉砕を平均粒径が3.5μmになるようにした以外は、実施例1と同様の方法、条件で試料の調整および静電容量の測定をした。
得られた活性炭の比表面積は836m2/g、平均細孔径は2.3nmであった。その結果を図1に示す。
【実施例3】
【0027】
賦活の条件を900℃で3時間とする以外は、実施例2と同様に試料の調整および静電容量の測定をした。
得られた活性炭の比表面積は1375m2/g、平均細孔径は2.7nmであった。その結果を図1に示す。
【実施例4】
【0028】
市販のカ−ボンブラック(比表面積:105m2/g、平均細孔径:26.3nm)と液状フェノ−ル樹脂を1/1で混合し、乾燥・硬化後、平均粒径5μmに粉砕した。これを窒素雰囲気中700℃で熱処理焼成後、小型のロ−タリ−キルンを使用して、水蒸気雰囲気中で、900℃で3時間賦活処理した。
得られた活性炭の比表面積は1176m2/g、平均細孔径は3.0nmであった。
静電容量測定は実施例1と同様に行った。その結果を図1に示す。
(比較例1)
【0029】
市販の樹脂系活性炭(比表面積:3056m2/g、平均細孔径:1.8nm)をそのまま用いて、実施例1と同様に静電容量を測定した。その結果を図1に示す。
(比較例2)
【0030】
市販の椰子殻系活性炭(比表面積:1628m2/g、平均細孔径:1.8nm)をそのまま用いて、実施例1と同様に静電容量を測定した。その結果を図1に示す。
以上の実施例、比較例より、比較例1及び2では補助導電材無しの電極では急速充放電したときに容量の低下が大きいが、実施例1〜4では補助導電材無しの電極を用いて急速充放電を行っても高い容量保持を示すことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は電流密度0.5mA/cm2での静電容量を1としたときの容量保持率を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと炭素前駆体樹脂を混合し、粉砕、焼成した後、酸化性ガス雰囲気中で賦活することを特徴とする電気二重層キャパシタ用活性炭の製造法。
【請求項2】
請求項1において、カーボンブラックと炭素前駆体樹脂の混合割合が1:0.5〜1:2であることを特徴とする電気二重層キャパシタの製造法。
【請求項3】
請求項1または2の製造法によって得られる活性炭において、窒素ガス吸着(BET)法の比表面積が800m2/g以上である電気二重層キャパシタ用活性炭。


【図1】
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【公開番号】特開2006−229099(P2006−229099A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43505(P2005−43505)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000228338)日本カーボン株式会社 (19)
【Fターム(参考)】