説明

電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法

【課題】カーボンナノチューブを備える炭素電極の更なるエネルギー密度の向上を図ることができるとともに、比較的容易に形成可能な電気二重層キャパシタ用炭素電極及びこれを備えた電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ1が絡み合って略球状を呈するように形成した複数のカーボンナノチューブ集合体2と、複数のカーボンナノチューブ集合体2を一体に結合するためのバインダー3とを備え、圧縮成型されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば1000m/gを超える比表面積を備えた活性炭を主材料とする電極(炭素電極)と、水あるいは有機溶剤などを溶媒とする電解質溶液とで構成した電気二重層キャパシタ(EDLC:Electric Double Layer Capacitor)が、蓄電デバイスとして実用化されている。
【0003】
この電気二重層キャパシタは、炭素電極の活性炭の大きな比表面積を利用してファラッド級の静電容量を備え、従来のアルミ電界コンデンサと2次電池の中位の蓄電性能を有するものとされている。また、電解質イオンが溶液内を移動し電極界面に脱吸着することによって充放電が行なわれるため、例えば電極での化学反応を伴う2次電池と比べて、充放電を数百万回繰り返しても電極の劣化が生じにくく、長寿命であり、且つ瞬時に最大電流を供給できるという利点を有している。さらに、電極や電解質溶液に重金属などを含まないため、環境保護の観点からも優れている。このため、電気二重層キャパシタは、例えば燃料電池とのハイブリット化による電気自動車や、エレベータ、自動扉などにおけるエネルギー回収機構、電子機器用バックアップ電源などとして実用化され、もしくはその採用が見込まれている。
【0004】
一方で、活性炭を主材料とした炭素電極を備えた電気二重層キャパシタは、単位体積当たりの蓄積エネルギー量、すなわちエネルギー密度が例えば10Wh/L程度であり、例えば鉛蓄電池(2次電池)の約1/10程度であるため、このエネルギー密度を大きくして蓄電性能を向上させることが強く望まれていた。このエネルギー密度を大きくするには、電極の二重層容量を上げるか、電解質溶液の耐電圧(最大印加電圧)を上げることが考えられ、このうち、電極の容量を上げる手法として、例えば特許文献1や特許文献2に開示されるように、直径が数nm〜数十nmで、長さが数十nm〜数十μmのチューブ状素材であるカーボンナノチューブを用いて炭素電極を形成することが提案されている。このようにカーボンナノチューブを炭素電極の主材料として用いた場合には、その比表面積が活性炭の2〜3倍であるため、面積比容量を大幅に増大することができ、これに伴いエネルギー密度を大幅に増大させることが可能になる。
【0005】
また、特許文献1では、電気二重層キャパシタ用材料(炭素電極)を、せん断力を加えて細分化したカーボンナノチューブと、常温を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩のイオン性液体とからなるゲル状組成物で構成している。一方、特許文献2では、基板を熱CVD(Chemical Vapor Deposition)装置の容器内にセットし、真空中でヒータにより加熱して所定時間保持することにより、高融点の導電性材料からなる導電性基板上に触媒微粒子を高密度で均一に分散形成する。そして、基板の温度を保持した状態で炭素を含むガスを容器内に導入して所定時間保持することにより、炭素を含むガスを熱分解し、触媒微粒子上にカーボンナノチューブを形成する。これにより、カーボンナノチューブを分極性電極として備え、基板を集電体として備えた電気二重層キャパシタ(炭素電極)が製造できる。
【特許文献1】特開2005−79505号公報
【特許文献2】特開2005−145743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された電気二重層キャパシタ用炭素電極においては、極めて高価なイオン性液体を用いているため、炭素電極ひいては電気二重層キャパシタが高コストになるという問題があった。また、特許文献2に開示された電気二重層キャパシタ(炭素電極)においても、導電性基板に触媒を精密に担持させた後に熱CVD法を用いて形成するため、特殊な装置と煩雑な操作を要するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑み、カーボンナノチューブを備える炭素電極の更なるエネルギー密度の向上を図ることができるとともに、比較的容易に形成可能な電気二重層キャパシタ用炭素電極及びこれを備えた電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極は、カーボンナノチューブが絡み合って略球状を呈するように形成した複数のカーボンナノチューブ集合体と、前記複数のカーボンナノチューブ集合体を一体に結合するためのバインダーとを備えて圧縮成型されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極においては、前記カーボンナノチューブの表面が親水性処理されていることが望ましい。
【0011】
さらに、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極においては、微粒子状活性炭が混入していることがより望ましい。
【0012】
また、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極においては、前記微粒子状活性炭が、前記カーボンナノチューブに対して2重量%〜20重量%混入していることがさらに望ましい。
【0013】
さらに、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極においては、前記微粒子状活性炭が、前記カーボンナノチューブに囲繞されて前記カーボンナノチューブ集合体の内部に配されていることが望ましい。
【0014】
また、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極においては、前記バインダーが、隣り合う前記カーボンナノチューブ集合体同士、及び/又は前記カーボンナノチューブ集合体と前記微粒子状活性炭を略点結合するように分散状態で具備されていることがより望ましい。
【0015】
さらに、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極においては、前記バインダーが四フッ化エチレン樹脂であることがさらに望ましい。
【0016】
本発明の電気二重層キャパシタは、上記のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法は、カーボンナノチューブを混合しつつ絡み合わせて略球状の複数のカーボンナノチューブ集合体を形成するカーボンナノチューブ造粒工程と、前記複数のカーボンナノチューブ集合体とバインダーを混合するバインダー混合工程と、前記複数のカーボンナノチューブ集合体と前記バインダーを圧縮して一体成型する圧縮成型工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法においては、前記カーボンナノチューブ造粒工程で、親水性物質を添加して前記カーボンナノチューブを混合することによって、前記カーボンナノチューブの表面を親水性処理することが望ましい。
【0019】
さらに、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法においては、前記バインダー混合工程の前段で、微粒子状活性炭を前記複数のカーボンナノチューブ集合体と混合することがより望ましい。
【0020】
また、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法においては、前記カーボンナノチューブ造粒工程で、前記カーボンナノチューブと微粒子状活性炭を混ぜ合わせながら前記カーボンナノチューブ集合体を形成することによって、前記微粒子状活性炭が前記カーボンナノチューブに囲繞されて内部に配された前記カーボンナノチューブ集合体を形成してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法によれば、カーボンナノチューブが略球状のカーボンナノチューブ集合体として具備されていることによって、従来の例えば細分化した線状のカーボンナノチューブ(球状に造粒していないカーボンナノチューブ)を具備する場合と比較して、かさ密度を大きくすることができる。これにより、カーボンナノチューブを高密度で具備することができるため、電気二重層キャパシタの電解質溶液中の電解質イオンが脱吸着する比表面積を大きくすることができる。よって、エネルギー密度を大きくすることができ、電気二重層キャパシタの蓄電性能を向上させることができる。また、カーボンナノチューブを、例えば高速気流中衝撃法によって短時間で比較的容易に略球状に造粒できるため、炭素電極のコストの上昇を招くことがなく、且つ特殊な装置や煩雑な操作を要することなく、エネルギー密度の大きな炭素電極ひいては電気二重層キャパシタを製造することができる。
【0022】
また、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法においては、カーボンナノチューブの表面が親水性処理されていることによって、カーボンナノチューブ集合体の分散性を向上させることができるため、均一にカーボンナノチューブ集合体が分散した炭素電極を製造することができる。また、親水性処理によりカーボンナノチューブの表面の電解質溶液に対する濡れ性を向上することができる。これにより、電解質イオンが脱吸着できる表面積を増大させることが可能になり、エネルギー密度を大きくして見掛け上の電気二重層の容量を増大することができる。
【0023】
さらに、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法においては、微粒子状活性炭を混入することによって、この微粒子状活性炭をカーボンナノチューブ集合体(カーボンナノチューブ)の隙間に配することができるため、電解質イオンが脱吸着できる表面積のさらなる増大を図ることができ、エネルギー密度を増大することが可能になる。また、この微粒子状活性炭を、カーボンナノチューブに対して2重量%〜20重量%混入することによって好適に微粒子状活性炭をカーボンナノチューブ集合体(カーボンナノチューブ)の隙間に配することができ、上記効果を確実に得ることができる。さらに、カーボンナノチューブ集合体の内部に微粒子状活性炭が配されるようにカーボンナノチューブ集合体を形成することによって、より高密度の炭素電極を形成できる。
【0024】
また、本発明の電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法においては、隣り合うカーボンナノチューブ集合体同士、及び/又はカーボンナノチューブ集合体と微粒子状活性炭が略点結合するようにバインダーを分散状態で具備することによって、バインダーにより電解質溶液が浸透する空隙が閉塞するようなことがなく、すなわち、カーボンナノチューブの表面や微粒子状活性炭の表面に電解質溶液が確実に接触するように炭素電極を形成することができ、確実にエネルギー密度を大きくすることができる。そして、バインダーに、耐熱性や耐薬品性に優れる四フッ化エチレン樹脂を用いることで、カーボンナノチューブ集合体同士やカーボンナノチューブ集合体と微粒子状活性炭を、確実に上記効果が得られるように一体に結合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図1から図5を参照し、本発明の第1実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法について説明する。本実施形態は、カーボンナノチューブを主材料とした電気二重層キャパシタ用炭素電極及びこの炭素電極と電解質溶液からなる電気二重層キャパシタ並びに炭素電極の製造方法に関するものである。
【0026】
本実施形態の電気二重層キャパシタ用炭素電極(以下、炭素電極という)Aは、図1に示すように、カーボンナノチューブ1が絡み合って略球状を呈するように形成した複数のカーボンナノチューブ集合体2と、複数のカーボンナノチューブ集合体2を一体に結合するためのバインダー3とからなり、圧縮して成型したものである。なお、図1は、本実施形態の炭素電極Aの一部を概略的に図示している。
【0027】
本実施形態において、カーボンナノチューブ集合体2は、その粒子径が5μm程度(もしくは1μm以上30μm以下)となるように形成されている。また、バインダー3は、四フッ化エチレン樹脂であり、隣り合うカーボンナノチューブ集合体2同士をこのバインダー3を介して略点結合する量で混入されている。
【0028】
ついで、上記のように構成した炭素電極Aを製造する方法を説明し、本実施形態の電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ、並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0029】
炭素電極Aを製造する際には、はじめに、カーボンナノチューブ集合体1を形成する。このカーボンナノチューブ集合体1は、図2及び図3に示す高速気流中衝撃装置10を用いて製造される。この高速気流中衝撃装置10は、円筒状の衝突リング11と、衝突リング11の開口する両端をそれぞれ塞ぐように設けられた前部カバー12及び後部カバー13と、衝突リング11と前部カバー12と後部カバー13で画成した空間(衝撃室)14内に配置され、衝突リング11の中心軸と同軸の回転軸線を有する回転軸15に接続した円盤状のローター16とから構成されている。ローター16は、ブレード17と呼ばれる複数の板状の突起物を備え、これらブレード17は、回転軸13を中心として放射状に配設されている。また、ローター16は、ブレード17が描く最外周軌道面と衝突リング11の内周面との隙間を0.5〜20mm程度確保した状態で、衝撃室14内に設けられている。
【0030】
さらに、この高速気流中衝撃装置10には、一端が衝突リング11の一部を貫通して衝撃室14内に開口し、他端が前部カバー12の中心部から衝撃室14内に開口した閉回路の循環回路18と、衝突リング11の一部に設けられた第一開閉弁19によって開閉する排出口20とが具備されている。また、循環回路18には、原料を投入するための原料ホッパー21が、第二開閉弁22と原料供給用シュート23を介して連結されている。さらに、衝突リング11には、厚さ方向中央に環状に繋がる中空部11aが形成されており、この中空部11aは、冷却水が流通することにより主に衝突リング11を冷却するための冷却ジャケットとされている。
【0031】
そして、上記のように構成した高速気流中衝撃装置10を用いて略球状のカーボンナノチューブ集合体2を製造する際には、はじめに、第一開閉弁19と第二開閉弁22と閉じた状態で、図示せぬ駆動手段を駆動し回転軸15を回転させてローター16を外周速度100m/s程度で回転させる。これにより、衝撃室14から衝突リング11上の開口、循環回路18、前部カバー12の中心部の開口を経て衝撃室14に戻る循環気流が形成される。
【0032】
ついで、第二開閉弁22を開き、原料ホッパー21から衝撃室14内へカーボンナノチューブ1を投入し、第二開閉弁22を閉じるとともに3分間以上30分間以下の時間でカーボンナノチューブ1の解砕処理を行なう。この解砕処理では、投入したカーボンナノチューブ1が循環回路18を循環しつつブレード17や衝突リング11の内壁面に多数回衝突することによって、カーボンナノチューブ1表面に強い機械的エネルギーが負荷され、これにより、カーボンナノチューブ1が解砕してゆく。そして、カーボンナノチューブ1を解砕処理した後に、ローター16の外周速度を例えばカーボンナノチューブ1が破壊しない60m/s程度の速度に減速すると、解砕したカーボンナノチューブ1が衝撃室14内で凝集してゆく。この凝集とともにカーボンナノチューブ1が転動造粒してゆき、粒子径1μm以上30μm以下の略球状のカーボンナノチューブ集合体2が複数形成される(カーボンナノチューブ造粒工程)。そして、カーボンナノチューブ集合体2の造粒処理を完了した段階で、第二開閉弁22を開くとともに第一開閉弁19を開いて、排出口20からカーボンナノチューブ集合体2を排出する。これにより、本実施形態の炭素電極Aの主材料となるカーボンナノチューブ集合体2の製造が完了する。
【0033】
ここで、カーボンナノチューブ1の表面に親水性処理を施す場合には、原料ホッパー21から衝撃室14内にカーボンナノチューブ1を投入した後に、原料ホッパー21から衝撃室14内に微量の水分やアルコールやカルボン酸などの親水性物質を投入する。このように親水性物質を投入することによって衝撃室14内の空気環境が親水性雰囲気となり、解砕処理や造粒処理を行なっている間に、カーボンナノチューブ1の表面が周囲の親水性物質と化学反応を起こし、このカーボンナノチューブ1の表面に親水性の官能基(例えば、水酸基やカルボキシル基)が導入される。これにより、カーボンナノチューブ1の表面が親水性を有するように処理される。
【0034】
そして、上記のように形成したカーボンナノチューブ集合体2は、従来の炭素電極に用いる形態のカーボンナノチューブ、すなわち例えば細分化した線状のカーボンナノチューブ(球状に造粒していないカーボンナノチューブ)よりもカーボンナノチューブ1を高密度で備えた炭素電極Aの形成を可能にする。具体的に、図4は、従来の炭素電極に用いる形態のカーボンナノチューブ30(図4(a))と、10分間の造粒処理を行なって形成したカーボンナノチューブ集合体2(図4(b))と、30分間の造粒処理を行なって形成したカーボンナノチューブ集合体2(図4(c))とのかさ密度の違いを示したものである。この図に示すように、従来の形態のカーボンナノチューブ30に対して、同量のカーボンナノチューブ1を10分間造粒処理してカーボンナノチューブ集合体2とした場合には体積が約1/3となり、30分間の造粒処理を行った場合には体積が約1/5に低下する。すなわち、造粒処理を行なってカーボンナノチューブ集合体2を形成することによって、かさ密度を3〜5倍に高めることが可能になる。
【0035】
また、図5は、従来の炭素電極に用いる形態のカーボンナノチューブ30(図5(a))と、30分間の造粒処理を行なうとともにカーボンナノチューブ1の表面を親水性処理して形成したカーボンナノチューブ集合体2(図5(b))とを、それぞれ水Wに添加・混合して長時間静置した状態を示している。この図に示すように、従来の形態のカーボンナノチューブ30が早期に沈降するのに対し、本実施形態のカーボンナノチューブ集合体2は、水中に分散した状態が維持され、カーボンナノチューブ1を絡め合わせて球状のカーボンナノチューブ集合体2とし、且つカーボンナノチューブ1の表面を親水性処理することによって、カーボンナノチューブ1に優れた分散性が付与される。
【0036】
そして、上記のようなカーボンナノチューブ集合体2を形成した段階で、複数のカーボンナノチューブ集合体2と適量のバインダー3を混合し(バインダー混合工程)、複数のカーボンナノチューブ集合体2とバインダー3を圧縮して一体成型する(圧縮成型工程)。このとき、カーボンナノチューブ集合体2が、大きなかさ密度にできる性質を備え、且つ分散性に優れているため、隣り合うカーボンナノチューブ集合体2を略点結合する程度の少量のバインダー3を混入するようにした場合においても、確実に両者が均一に混ざり合い、このバインダー3を介してカーボンナノチューブ集合体2が一体に結合する。
【0037】
上記のように圧縮成型して形成した本実施形態の炭素電極Aは、カーボンナノチューブ1が高密度で具備されるため、カーボンナノチューブ1の総表面積が従来の炭素電極よりも大きくなり、電解質イオンのカーボンナノチューブ1の表面での脱吸着量が増大する。これにより、本実施形態の炭素電極Aは、エネルギー密度が大きく、この炭素電極Aを備えた電気二重層キャパシタは、その蓄電性能が向上する。また、このとき、隣り合うカーボンナノチューブ集合体2を略点結合するようにバインダー3が混入されることで、バインダー3によって電解質溶液が浸透する空隙が閉塞することがなく、カーボンナノチューブ1の表面に電解質溶液が確実に接触するため、確実にエネルギー密度が大きくなる。
【0038】
また、カーボンナノチューブ1の表面を親水処理した場合には、電解質溶液の濡れ性が向上し、電解質イオンが脱吸着できる表面積がさらに増大する。このため、エネルギー密度がさらに大きくなり、見掛け上の電気二重層の容量が増大することになる。
【0039】
したがって、上記の電気二重層キャパシタ用炭素電極A及び電気二重層キャパシタ、並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極Aの製造方法によれば、カーボンナノチューブ1が高密度で具備されることで、炭素電極Aのエネルギー密度を大きくすることができ、これを備えた電気二重層キャパシタの蓄電性能を向上させることができる。また、カーボンナノチューブ1を、例えば高速気流中衝撃法によって比較的容易に且つ短時間で略球状に造粒することができるため、炭素電極Aの高コスト化を招くことがなく、且つ特殊な装置や煩雑な操作を必要とせずに、炭素電極Aひいては電気二重層キャパシタを製造することが可能になる。
【0040】
また、カーボンナノチューブ1の表面を親水性処理することによって、カーボンナノチューブ集合体2の分散性を向上させることができ、カーボンナノチューブ集合体2とバインダー3が均一に混合した高品質の炭素電極Aを製造できる。さらに、親水性処理を施すことで、電解質イオンが脱吸着できるカーボンナノチューブ1の表面積が増大するため、さらなるエネルギー密度の増大を図り、見掛け上の電気二重層の容量を大きくすることができる。
【0041】
また、隣り合うカーボンナノチューブ集合体2同士を略点結合するようにバインダー3を混入することで、確実に炭素電極Aのエネルギー密度を大きくすることができる。そして、バインダー3に耐熱性や耐薬品性に優れる四フッ化エチレン樹脂を用いることで確実に上記効果を得ることができる。
【0042】
以上、本発明に係る一実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、カーボンナノチューブ集合体2をその粒子径が5μm程度となるように造粒するものとしたが、特にその大きさを限定する必要はない。
【0043】
また、本実施形態では、バインダー3に四フッ化エチレン樹脂を用い、隣り合うカーボンナノチューブ集合体2同士を略点結合する量でバインダー3を混入するものとしたが、バインダー3は四フッ化エチレン樹脂以外の材料であってもよく、また、電解質溶液が好適に浸透してエネルギー密度を向上させることができれば、隣り合うカーボンナノチューブ集合体2同士が略点結合する量よりも多量のバインダー3を混入してもよい。
【0044】
さらに、本実施形態では、高速気流中衝撃装置(高速気流中衝撃法)10を用いて略球状のカーボンナノチューブ集合体2を形成するものとしたが、他の装置や方法によって球状のカーボンナノチューブ集合体2が形成されてもよい。
【0045】
ついで、図6を参照し、本発明の第2実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法について説明する。本実施形態の炭素電極は、第1実施形態の炭素電極に対し、カーボンナノチューブ集合体と微粒子状活性炭を混合したものである。よって、第1実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0046】
本実施形態の炭素電極Bは、図6に示すように、カーボンナノチューブ1が絡み合って略球状を呈するように形成した複数のカーボンナノチューブ集合体2と、微粒子状活性炭4と、複数のカーボンナノチューブ集合体2を一体に結合するためのバインダー3とからなり、圧縮して成型したものである。なお、図6は、本実施形態の炭素電極Bの一部を概略的に図示している。
【0047】
本実施形態の炭素電極Bは、カーボンナノチューブ集合体2が、第1実施形態と同様に、例えばその粒子径を5μm程度として形成されている。また、例えばその粒子径が5μm程度の微粒子状活性炭4が、カーボンナノチューブ1に対して2重量%〜20重量%の割合で混入されており、複数の微粒子状活性炭4が複数のカーボンナノチューブ集合体2の間に配されている。そして、バインダー3が、隣り合うカーボンナノチューブ集合体2同士、及び/又はカーボンナノチューブ集合体2とこのカーボンナノチューブ集合体2に隣り合う微粒子状活性炭4を略点結合するように混入されている。
【0048】
上記のように構成した炭素電極Bは、第1実施形態に対し、バインダー混合工程の前段で、複数のカーボンナノチューブ集合体2と微粒子状活性炭4を混合してからバインダー3を混合して製造される。
【0049】
そして、このように製造した本実施形態の炭素電極Bにおいては、微粒子状活性炭4を混入して形成されることによって、カーボンナノチューブ集合体2と微粒子状活性炭4が均一に分散状態で混合され、複数のカーボンナノチューブ集合体(カーボンナノチューブ1)2の隙間に微粒子状活性炭4が配置される。これにより、カーボンナノチューブ1の表面に加えて微粒子状活性炭4の表面でも電解質イオンを脱吸着できるため、電解質イオンを脱吸着できる表面積が増大し、エネルギー密度を増大することが可能になる。また、この微粒子状活性炭4を、カーボンナノチューブ1に対して2重量%〜20重量%混入することによって好適に微粒子状活性炭4をカーボンナノチューブ集合体(カーボンナノチューブ1)2の隙間に配することができ、上記効果を確実に得ることができる。よって、本実施形態の炭素電極B及びこれを備えた電気二重層キャパシタにおいては、炭素電極Bのコストの上昇を招くことがなく、且つ特殊な装置や煩雑な操作を要することなく、エネルギー密度を大きくすることができる。
【0050】
また、微粒子状活性炭4を、カーボンナノチューブ1に対し2重量%〜20重量%の割合で混入することによって、カーボンナノチューブ集合体2と微粒子状活性炭4とを互いに分散状態で確実に混合することができ、カーボンナノチューブ集合体2同士及び/又はカーボンナノチューブ集合体2とカーボンナノチューブ集合体2に隣り合う微粒子状活性炭4を、バインダー3を介して略点結合するようにバインダー3を混入することで、カーボンナノチューブ1の表面及び微粒子状活性炭4の表面の大部分を露出させて、確実にエネルギー密度を大きくすることができる。
【0051】
なお、本発明は上記の第2実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、微粒子状活性炭4の粒子径が5μm程度であるものとしたが、特にその大きさを限定する必要はない。また、微粒子状活性炭4を、カーボンナノチューブ1に対し2重量%〜20重量%の割合で混入することとしているが、炭素電極Bのエネルギー密度を大きくすることが可能な範囲で、微粒子状活性炭4の混入量を本実施形態よりも多くしたり少なくしてもよい。
【0052】
ついで、図7を参照し、本発明の第3実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極及び電気二重層キャパシタ並びに電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法について説明する。本実施形態は、第2実施形態と同様に、カーボンナノチューブ集合体とともに微粒子状活性炭を具備して炭素電極が形成されている。よって、第1及び第2実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0053】
本実施形態の炭素電極Cは、図7に示すように、カーボンナノチューブ1が絡み合って略球状を呈するように形成した複数のカーボンナノチューブ集合体2と、微粒子状活性炭と、複数のカーボンナノチューブ集合体2を一体に結合するためのバインダー3とからなり、圧縮して成型されたものである。なお、図7は、本実施形態の炭素電極Cの一部を概略的に図示している。
【0054】
また、本実施形態の炭素電極Cでは、微粒子状活性炭4が、複数のカーボンナノチューブ集合体2の隙間に配されるとともに、カーボンナノチューブ1に囲繞されてカーボンナノチューブ集合体2の内部に配されている。そして、このようなカーボンナノチューブ集合体2は、カーボンナノチューブ造粒工程で、カーボンナノチューブ1と微粒子状活性炭4を混ぜ合わせながら造粒してゆくことにより、微粒子状活性炭4がカーボンナノチューブ1に囲繞された状態で内部に配されて略球状に形成される。
【0055】
上記のように構成した本実施形態の炭素電極Cにおいては、第2実施形態に示した効果に加えて、カーボンナノチューブ集合体2の内部に微粒子状活性炭4が配されていることで、複数のカーボンナノチューブ集合体2の隙間に配される微粒子状活性炭4を少なくすることが可能になり、カーボンナノチューブ1をより高密度にして炭素電極Cを形成することが可能になる。よって、炭素電極Cのエネルギー密度をさらに大きくすることが可能になる。
【0056】
なお、本発明は上記の第3実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、微粒子状活性炭4が、カーボンナノチューブ集合体2の内部に配されるとともに、複数のカーボンナノチューブ集合体2の隙間にも配されているものとしたが、カーボンナノチューブ集合体2の内部にのみ微粒子状活性炭4が配されて炭素電極が形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極が具備するカーボンナノチューブ集合体を形成するための高速気流中衝撃装置の立断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極が具備するカーボンナノチューブ集合体を形成するための高速気流中衝撃装置の側断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極が具備するカーボンナノチューブ集合体と従来の形態のカーボンナノチューブとのかさ密度の違いを示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極が具備するカーボンナノチューブ集合体と従来の形態のカーボンナノチューブとの分散性の違いを示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る電気二重層キャパシタ用炭素電極を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 カーボンナノチューブ
2 カーボンナノチューブ集合体
3 バインダー
4 微粒子状活性炭
10 高速気流中衝撃装置
A 電気二重層キャパシタ用炭素電極(炭素電極)
B 電気二重層キャパシタ用炭素電極(炭素電極)
C 電気二重層キャパシタ用炭素電極(炭素電極)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブが絡み合って略球状を呈するように形成した複数のカーボンナノチューブ集合体と、前記複数のカーボンナノチューブ集合体を一体に結合するためのバインダーとを備えて圧縮成型されていることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極。
【請求項2】
請求項1記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極において、
前記カーボンナノチューブの表面が親水性処理されていることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極において、
微粒子状活性炭が混入していることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極。
【請求項4】
請求項3記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極において、
前記微粒子状活性炭が、前記カーボンナノチューブに対して2重量%〜20重量%混入していることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極において、
前記微粒子状活性炭が、前記カーボンナノチューブに囲繞されて前記カーボンナノチューブ集合体の内部に配されていることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極において、
前記バインダーが、隣り合う前記カーボンナノチューブ集合体同士、及び/又は前記カーボンナノチューブ集合体と前記微粒子状活性炭を略点結合するように分散状態で具備されていることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極において、
前記バインダーが四フッ化エチレン樹脂であることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極を備えることを特徴とする電気二重層キャパシタ。
【請求項9】
カーボンナノチューブを混合しつつ絡み合わせて略球状の複数のカーボンナノチューブ集合体を形成するカーボンナノチューブ造粒工程と、前記複数のカーボンナノチューブ集合体とバインダーを混合するバインダー混合工程と、前記複数のカーボンナノチューブ集合体と前記バインダーを圧縮して一体成型する圧縮成型工程とを備えることを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法において、
前記カーボンナノチューブ造粒工程で、親水性物質を添加して前記カーボンナノチューブを混合することによって、前記カーボンナノチューブの表面を親水性処理することを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法において、
前記バインダー混合工程の前段で、微粒子状活性炭を前記複数のカーボンナノチューブ集合体と混合することを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法。
【請求項12】
請求項9または請求項10に記載の電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法において、
前記カーボンナノチューブ造粒工程で、前記カーボンナノチューブと微粒子状活性炭を混ぜ合わせながら前記カーボンナノチューブ集合体を形成することによって、前記微粒子状活性炭が前記カーボンナノチューブに囲繞されて内部に配された前記カーボンナノチューブ集合体を形成することを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素電極の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−16769(P2008−16769A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189208(P2006−189208)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】