説明

電気光学デバイス

【課題】KTN結晶で生ずる電歪による衝撃を導電性弾性体に吸収させ、信頼性の高い高速の電気光学デバイスを提供する。
【解決手段】KTN結晶と、該KTN結晶の第1の面および該第1の面と対向する第2の面に形成された電極対と、前記第1の面と接触する第1の導電性弾性体と、該第1の導電性弾性体の前記KTN結晶と接触する面と対向する面に接触する第1の金属ブロックと、前記第2の面と接触する第2の導電性弾性体と、該第2の導電性弾性体の前記KTN結晶と接触する面と対向する面に接触する第2の金属ブロックとを備え、前記第1および第2の金属ブロックの間に電圧を印加して、前記KTN結晶に電界を印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学デバイスに関し、より詳細には、タンタル酸ニオブ酸カリウムを用いて、光スキャナモジュール、可変焦点レンズに適用することができる電気光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プロジェクターをはじめとする映像機器、レーザプリンタ、高分解能な共焦点顕微鏡等において、レーザ光を偏向するための光制御素子に対する要求が高まっている。光を偏向するデバイスとして、ポリゴンミラー、ガルバノミラー、音響光学効果を利用した光回折型の光偏向器、電気光学結晶プリズムなどが知られている。近年、機械駆動部がなく、高速・広角な光偏向を実現できる光制御素子として、電気光学結晶であるタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶を用いた光スキャナが注目を集めている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
KTN結晶は、立方晶において大きな2次の電気光学効果を有している。電極材料としてTiなどの電荷注入型の電極を用いて、KTN結晶に電界を印加すると、KTN結晶内部において、電界の大きさに傾斜が生じる。KTN結晶の有する大きな電気光学効果によって、この電界の傾斜に応じた屈折率の大きな傾斜が起こり、KTN結晶に入射したビームが偏向して、KTN結晶から出射される現象が観測される。
【0004】
図1に、従来のKTN結晶を用いたKTN光スキャナの構成を示す。KTN光スキャナは、直方体のKTN結晶11の対向する面に、平行平板である正極12と負極13とが形成されている。正極12と負極13との間に直流電圧を印加することにより、従来の電気光学結晶プリズムで実現できない大きな偏向角を得ることができる。また、直流電圧に替えて交流電圧を電極間に印加することにより、偏向される光ビームの偏向角を時間的に変化させることもできる。KTN光スキャナは、電気光学定数の大きさによって定まる応答周波数の範囲内の交流電圧に応答することができ(例えば、非特許文献1の図4参照)、1kHz以上の高い周波数の交流電圧に対しても応答することができる。
【0005】
図2に、従来のKTN光スキャナに電界を印加するための構成を示す。KTN光スキャナに電界を印加するためには、正極および負極が形成されているKTN結晶23の両面に、金属ブロック21,22をコンタクトして電界を印加する。金属ブロック21,22は、KTN結晶23に電界を印加するための役割と、KTN結晶23を、偏向される光の光軸上に固定する、すなわちホルダーとしての役割とを有している。また、直方体であるKTN結晶23の少なくとも下面には金属ブロック22を配置してホルダーとし、金属ブロック21の代わりに、金属プローバを用いてコンタクトさせることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2006/137408号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Toshihiro Itoh, Masahiro Sasaura, Seiji Toyoda, Katsue Manabe, Koichiro Nakamura and Kazuo Fujiura, ”High-frequency response of electro-optic single crystal KTaxNb1-xO3 in paraelectric phase,”in Conference on Lasers and Electro-Optics/Quantum Electronics and Laser Science and Photonic Applications, Systems and Technologies 2005 (Optical Society of America, Washington, DC, 2005), JTuC36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気光学結晶に電界を印加すると、圧電効果や電歪効果により、その物理的形状が変化することが知られている。圧電効果とは、歪が印加電界に比例する現象であり、電歪効果とは、歪が印加電界の二乗に比例する現象である。その物理的形状の変化は、圧電効果と電歪効果との和で表される。一般的に、中心対称性を有する結晶系においては、圧電効果が生じないため、電歪効果のみとなる。KTN結晶は、中心対称性を有する立方晶に属するので、電歪効果のみとなる。
【0009】
図1に示したように、直方体状のKTN結晶に平行平板電極を設け、一様な電界E1を(100)方向に印加した場合、電歪効果による形状変化のみを生じる。電界に平行な方向の歪x1および電界に垂直な方向の歪x2,x3は、下式で表される。
1=M1112 (式1)
2=x3=M1212 (式2)
ここで、M11、M12は電歪定数である。M11>0であり、M12<0であるため、電界に平行な方向は伸び、電界に垂直な方向は縮むことになる。従来のKTN光スキャナにおいては、大きな電界を印加したときに、金属ブロックとコンタクトしているKTN結晶の一面と固い金属ブロックとの間に、歪による大きな応力がKTN結晶に付与される。このため、KTN結晶にクラックが発生し、KTN光スキャナを、大きな電界で駆動するのに障害となっていた。特に、数時間程度の短い駆動時間においてクラックが発生し、動作特性が低下するという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、このような問題に鑑みて、電極として導電性ゴムを用い、電歪による衝撃を導電性ゴムに吸収させ、信頼性の高い高速の電気光学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、このような目的を達成するために、電気光学デバイスとしての第1の実施態様は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶と、該KTN結晶の第1の面および該第1の面と対向する第2の面に形成された電極対と、前記第1の面に形成された第1の電極と接触する第1の導電性弾性体と、該第1の導電性弾性体の前記第1の電極と接触する面と対向する面に接触する第1の金属ブロックと、前記第2の面に形成された第2の電極と接触する第2の導電性弾性体と、該第2の導電性弾性体の前記第2の電極と接触する面と対向する面に接触する第2の金属ブロックとを備え、前記第1および第2の金属ブロックの間に電圧を印加して、前記KTN結晶に電界を印加することを特徴とする。
【0012】
光スキャナモジュールとしての第2の実施態様は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶と、該KTN結晶の第1の面および該第1の面と対向する第2の面に形成された電極対と、前記第1の面に形成された第1の電極と接触する第1の導電性弾性体と、該第1の導電性弾性体の前記第1の電極と接触する面と対向する面に接触する第1の金属ブロックと、前記第2の面に形成された第2の電極と接触する第2の導電性弾性体と、該第2の導電性弾性体の前記第2の電極と接触する面と対向する面に接触する第2の金属ブロックとを備え、前記第1および第2の金属ブロックの間に電圧を印加して、前記KTN結晶に電界を印加し、前記KTN結晶に前記電界の印加方向と垂直にレーザ光を入射することにより、前記レーザ光を偏向させることを特徴とする。
【0013】
可変焦点レンズとしての第3の実施態様は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶と、該KTN結晶の第1の面上に形成された第1の正極と、前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の正極と向かい合う位置に形成された第1の負極と、前記第1の面上に形成され、前記第1の正極とは間隔をおいて配置された第2の負極と、前記第2の面上に形成され、前記第2の負極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の正極と、前記第1および第2の正極、前記第1および第2の負極のそれぞれに接触する4つの導電性弾性体と、前記第1の正極および前記第2の負極と接触する導電性弾性体の前記正極および負極と接触する面と対向する面に接触する第1の金属ブロックと、前記第1の負極および前記第2の正極と接触する導電性弾性体の前記負極および正極と接触する面と対向する面に接触する第2の金属ブロックとを備え、前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記第1の陽極および前記第1の陰極からなる第1の電極対の間を透過してから、前記第2の陽極および前記第2の陰極からなる第2の電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、前記第1および第2の電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記第4の面から出射された光の焦点を可変することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、金属ブロックとKTN結晶との間に導電性弾性体を設けたことにより、KTN結晶に電界を印加しても特性が経時的に劣化することがない。電歪効果に起因して生ずる金属ブロックとKTN結晶との間の衝撃を、導電性弾性体により吸収することができ、光スキャナ動作時のKTN結晶のクラックの発生を抑制することができる。これにより、信頼性の高い高速の光スキャナモジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来のKTN結晶を用いたKTN光スキャナの構成を示す図である。
【図2】従来のKTN光スキャナに電界を印加するための構成を示す図である。
【図3】KTN結晶に歪が生じた状態を示す図である。
【図4】実施例1にかかる光スキャナモジュールの構成を示す正面図である。
【図5】実施例2にかかる光スキャナモジュールの構成を示す正面図である。
【図6】実施例4にかかる可変焦点レンズの構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
KTN結晶に電圧を印加すると、結晶の高電界電気伝導に伴う空間電荷が発生する。ここでいう高電界電気伝導とは、電圧と電流の関係がオームの法則からはずれ、電流が電圧に対して非線形に増大する空間電荷制限状態にある領域における電気伝導をいう。この空間電荷制限状態にある領域では、電極から注入される電流に対して結晶内のバルク電流が小さい場合、結晶内に空間電荷が形成される。空間電荷制限状態では、KTN結晶内に発生した空間電荷によって電界が終端され、KTN結晶内の電界分布に傾斜が生じる。
【0017】
空間電荷制限状態にある厚さdのKTN結晶に正極と接地された負極との間に電圧Vを印加すると、以下の式で表される電界Eの空間分布が現れる。
【0018】
【数1】

【0019】
ここでxは、負極から対向する正極に向かう方向における負極と接するKTN結晶の側面からの位置であり、x0は電気光学結晶と電極の物質により決まる定数である。式(3)の右辺のマイナス符号は、電界が正極から負極に向かっていることを示している。
【0020】
この電界の傾斜により、屈折率の変化量に傾斜を生じさせ、ビームの光軸に対して垂直な断面上の光の進行速度分布に傾斜を生じさせる。結果として、光が結晶中を伝搬する間、光の進行方向は、屈折率の傾斜に応じて連続的に変化させられ、偏向角を累積することになる。従って、電界の傾斜を大きくすれば、光スキャナのビームの偏向を効率的に大きくすることができる。
【0021】
次に、式(3)に注目すると、x0は電極から電気光学結晶へのキャリアの注入効率に依存する量であり、x0が小さいほど注入効率が高くなる。x0が小さくできれば、正極と負極との間の電界の差が大きくなり、それに伴い屈折率の傾斜も大きくなることから、ビームの偏向を効率的に大きくすることができる。x0=0とは、x=0のとき、負極において電界が0であることから、電極と電気光学結晶とが理想的なオーミック接触であればよい。KTN結晶において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数が小さくなるにつれて、オーミック接触に近づき、キャリアの注入効率が増大する。ここで、電極材料の仕事関数は、5.0eV未満であることが好ましい。
【0022】
仕事関数が5.0eV未満の電極材料として、Cs(2.14)、Rb(2.16)、K(2.3)、Sr(2.59)、Ba(2.7)、Na(2.75)、Ca(2.87)、Li(2.9)、Y(3.1)、Sc(3.5)、La(3.5)、Mg(3.66)、As(3.75)、Ti(3.84)、Hf(3.9)、Zr(4.05)、Mn(4.1)、In(4.12)、Ga(4.2)、Cd(4.22)、Bi(4.22)、Ta(4.25)、Pb(4.25)、Ag(4.26)、Al(4.28)、V(4.3)、Nb(4.3)、Ti(4.33)、Zn(4.33)、Sn(4.42)、B(4.45)、Hg(4.49)、Cr(4.5)、Si(4.52)、Sb(4.55)、W(4.55)、Mo(4.6)、Cu(4.65)、Fe(4.7)、Ru(4.71)、Os(4.83)、Te(4.95)、Re(4.96)、Be(4.98)、Rh(4.98)のいずれかを用いることができる。()内は仕事関数を示し、単位はeVである。
【0023】
図3に、KTN結晶に歪が生じた状態を示す。式(3)に示したように、結晶内部の電界の大きさが傾斜している空間電荷制限状態では、式(1),(2)に示したように、歪の大きさにも傾斜を生じることになる。図1に示したように正極から負極に向かって直流電圧を印加した場合、図3(a)に示したようにKTN結晶31は反っていると考えられる。また、正極と負極に印加する電圧の向きを交互に入れかえて、一定周波数で繰り返し印加した場合、KTN結晶32は、図3(b)に示したような運動を繰り返すと考えられる。このとき、KTN結晶32は、周波数に応じて、電極にコンタクトされている金属ブロックに、物理的接触を繰り返す。この物理的接触による衝撃によって、KTN結晶にクラックなどが発生してしまうと考えられる。
【0024】
そこで、本実施形態では、金属ブロックとKTN結晶との間に導電性の弾性体を設け、電歪効果に起因して生ずる衝撃を導電性弾性体に吸収させ、クラックの発生を抑制することとした。絶縁性の弾性体を用いたのではKTN結晶に電界を印加できないため、衝撃を吸収する弾性体は導電性である必要がある。
【0025】
導電性弾性体の一例として導電性ゴムを用いる。導電性ゴムは、一般に絶縁性ポリマに導電性物質を分散させた複合導電材料である。添加する導電性物質の種類および添加量によって、導電性ゴムの導電率を、10-6Ω・m〜106Ω・mの広範囲に設定することができる。絶縁性ポリマとしては、主にシリコーンゴム(樹脂)が用いられる。シリコーンゴムは、架橋のコントロールが容易であるため、シリコーンゴムに添加する導電性物質の種類によって選択できる特性の領域が、他の合成ゴムなどに比べ広いというメリットを有する。さらに、シリコーンゴムは、天然ゴム、合成ゴムのように、軟化剤や老化防止剤などの電子部品を汚染、腐食させる各種添加剤を使用する必要がなく、耐熱性や難燃性に優れている。添加材としては、カーボンブラック、導電性酸化チタン、導電性酸化亜鉛が用いられる。中でも、カーボンブラックは、加工性、成形性、コストに優れ、10-2Ω・m〜106Ω・m程度の広範囲の導電率を選択できるので広く用いられる。
【0026】
本実施形態では、導電性ゴムとして、0.01Ω・m〜0.1Ω・mに調整されたカーボンブラック系シリコーンゴムを用いる。導電性ゴムの電気抵抗はなるべく低いほうが、電圧印加時によるジュール熱を抑えられ、KTN光スキャナの特性を安定化できるためである。より好ましくは、これよりも小さい導電率を有する導電性ゴムを用いる。また、ゴムの衝撃に対する性能指標として、衝撃エネルギーの残留率を表す、反発弾性が指標として用いられている。例えば、反発弾性が80%とは、20%の衝撃エネルギーをゴムが緩和・吸収したことを意味する。すなわち、反発弾性が小さいほどゴムに与えられた衝撃エネルギーを緩和・吸収することができる。本実施形態では、反発弾性が40%〜50%の導電性ゴムを用いた。より好ましくは、これよりも小さい反発弾性を有する導電性ゴムを用いる。
【0027】
導電性ゴムの面積は、KTN結晶に形成された電極の面積より小さい方が望ましい。もし、電極の面積より大きな導電性ゴムを用いた場合、結晶上に形成された電極以外の部分において、結晶と導電性ゴムとが直接接触する。この接触した部分から電荷が注入される可能性があり、光スキャナとして設計されたスキャナ動作と異なる動作になってしまうからである。
【0028】
なお、添加材として導電性酸化チタン、導電性酸化亜鉛を添加した導電性ゴムを用いても、同様の効果があるため、導電性ゴムはカーボンブラック系導電性ゴムに限定されるものではない。また、本発明は、光スキャナだけではなく、KTN結晶を用いた光デバイスにも適用することができる。光デバイスでは、例えば、光変調器、光スイッチ、可変焦点レンズなどが挙げられる。
【実施例1】
【0029】
図4に、実施例1にかかる光スキャナモジュールの構成を示す。KTN結晶43は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、4mm×5mm×1.5mmの形状に成形した。4mm×1.5mmの面を光学入射面とし、4mm×5mmの面を電極面とした。電極構造としては、結晶面からTi、Pt、Auを順に積層したTi/Pt/Au構造とした。電極の大きさは、4mm×5mmである。KTN結晶43の光学入射面と電極面ともに、光学研磨を行っている。
【0030】
導電性ゴム42、44は、厚さ1mm、3.8mm×4.8mmの形状であり、カーボンブラックがフィラーとして添加されている。導電率は、0.05Ω・mであり、反発弾性は50%である。金属ブロック41、45は、厚さ3mm、5mm×6mmのアルミまたはジュラルミンを用いる。ここで、KTN結晶の電極に接触する金属ブロックの面積は、KTN結晶の電極の面積以上であればよく、この数字に限定されるものではない。また、この図面には図示していないが、金属ブロック41、45に穴をあけ、絶縁ねじを用いてクランプしている。
【0031】
このKTN結晶43の相転移温度は35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用する。温度制御にはペルチェ素子を用いる。この温度におけるKTN単結晶43の比誘電率は20,000である。KTN結晶43の光学入射面からレーザ光を入射(電界の印加方向と垂直)し、金属ブロック41、45を介して±600Vの電圧を印加したところ、電界の印加方向に約100mradの偏向を確認した。正極と負極に印加する電圧の向きを交互に入れかえて、一定周波数で繰り返し印加した場合、100kHzまで光偏向することを確認した。また、3kHz、±600Vを印加して、40時間以上連続運転後も偏向角の変動がないことを確認した。
【実施例2】
【0032】
図5に、実施例2にかかる光スキャナモジュールの構成を示す。KTN結晶52は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、4mm×5mm×1.5mmの形状に成形した。4mm×1.5mmの面を光学入射面とし、4mm×5mmの面を電極面とした。電極構造は、Ti/Pt/Auとした。電極の大きさは、4mm×5mmである。KTN結晶43の光学入射面と電極面ともに、光学研磨を行っている。
【0033】
導電性ゴム53は、厚さ1mm、3.8mm×4.8mmの形状であり、カーボンブラックがフィラーとして添加されている。導電率は、0.05Ω・mであり、反発弾性は50%である。金属ブロック51、54は、厚さ3mm、5mm×6mmのアルミまたはジュラルミンを用いる。ここで、KTN結晶の電極に接触する金属ブロックの面積は、KTN結晶の電極の面積以上であればよく、この数字に限定されるものではない。また、この図面には図示していないが、金属ブロック51、54に穴をあけ、絶縁ねじを用いてクランプしている。
【0034】
このKTN結晶52の相転移温度は35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用する。温度制御にはペルチェ素子を用いる。この温度におけるKTN単結晶52の比誘電率は20,000である。KTN結晶52の光学入射面からレーザ光を入射(電界の印加方向と垂直)し、金属ブロック51、54を介して±600Vの電圧を印加したところ、電界の印加方向に約100mradの偏向を確認した。正極と負極に印加する電圧の向きを交互に入れかえて、一定周波数で繰り返し印加した場合、100kHzまで光偏向することを確認した。また、3kHz、±600Vを印加して、40時間以上連続運転後も偏向角の変動がないことを確認した。
【0035】
本実施形態では、電気光学結晶としてKTN結晶を用いたが、このKTN結晶に添加不純物として、カリウムを除く周期律表Ia族、またはIIa族の1または複数種を含むようにしてもよい。例えば、KLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3、0<x<1、0<y<1)結晶は、電気光学定数の大きい電気光学結晶と知られている。
【実施例3】
【0036】
実施例3では、図4に示した実施例1にかかる光スキャナモジュールの導電性ゴム42、44に代えて、導電性弾性体としてグラファイトシートを用いた。グラファイトシートとは、天然黒鉛または天然高分子から製造されたシート状のである。例えば、大塚電機製(http://www.otsuka-el.co.jp/product/pro01.html)またはパナソニック製(http://industrial.panasonic.com/www-cgi/jvcr13pz.cgi?J+PZ+2+AYA0002+0+4+JP)のグラファイトシートが知られている。
【0037】
実施例3のスキャナモジュールは、導電性ゴム42、44をグラファイトシートに置き換えた以外は、実施例1と同じ構成となっている。KTN結晶43は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、4mm×5mm×1.5mmの形状に成形した。4mm×1.5mmの面を光学入射面とし、4mm×5mmの面を電極面とした。電極構造としては、結晶面からTi、Pt、Auを順に積層したTi/Pt/Au構造とした。電極の大きさは、4mm×5mmである。KTN結晶43の光学入射面と電極面ともに、光学研磨を行っている。
【0038】
グラファイトシートの導電率は異方性を有しており、シートの面内方向は、例えば、7×10-6Ω・mであり、厚さ方向は、例えば、0.015Ω・mである。いずれの方向の導電率も導電ゴムと比較して良好な導電性を示す。厚さは、典型的な値として、0.025mm〜0.5mmのグラファイトシートが知られている。実施例3では、厚さが0.25mmのグラファイトシートを用いる。面積は、実施例1と同様に3.8mm×4.8mmとした。金属ブロック41、45は、厚さ3mm、5mm×6mmのアルミまたはジュラルミンを用いる。この図面には図示していないが、金属ブロック41、45に穴をあけ、絶縁ねじを用いてクランプしている。
【0039】
このKTN単結晶43の相転移温度は35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用する。温度制御にはペルチェ素子を用いる。この温度におけるKTN単結晶43の比誘電率は20,000である。±600Vの電圧を印加したところ、約100mradの偏向を確認した。正極と負極に印加する電圧の向きを交互に入れかえて、一定周波数で繰り返し印加した場合、100kHzまで光偏向することを確認した。また、3kHz、±600Vを印加して、40時間以上連続運転後も偏向角の変動がないことを確認した。
【実施例4】
【0040】
図6に、実施例4にかかる可変焦点レンズの構成を示す。電気光学材料を板状に加工した基板60の上面に正極61と負極62とを、下面に負極63と正極64とを形成する。基板60は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、7mm×7mm×(厚さT=)4mmの形状に成形する。基板60の6面とも、結晶の(100)面に平行とし、光学研磨を行っている。このKTN単結晶は、相転移温度35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用する。この温度での比誘電率は20,000である。4つの電極は、0.8mm×7mmの帯状で、同一面上の電極の間隔は4mmとする。2つの電極対は、基板60の7mm×7mmの面上に、白金(Pt)を蒸着して形成されている。電極の各辺は、基板60の辺に平行である。
【0041】
これら4つの電極とほぼ同じ面積で厚さ1mmの導電性ゴム65、66、67、68を、各々正極61、負極62、負極63、正極64に密着させ、電気的なコンタクトをとる。さらに、支持板73、74に、外部との配線を行うための円筒上の金属電極69、70、71、72を貫通させ、導電ゴムおよび金属電極との電気的なコンタクトをとる。これらの金属電極61〜64を用いて、外部電源から基板60に電圧を印加する。支持板73、74は、図には明示していないホルダーを用いて固定してある。また、支持板73、74は、絶縁性のものであれば何でもよく、プラスチックやセラミックスが挙げられる。また、実施例4に記載した構造は、電気的コンタクトをとるための一実施例にすぎず、導電ゴムを用いて電圧を印加する構造であればどんな構造でもよい。
【0042】
この可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を、基板60の光学入射面から入射する。入射方向は、電界の印加方向と垂直であり、図6に示した矢印の方向(x軸方向)である。光の偏光は直線で、振動電界の方向は、電界の印加方向と平行なz軸方向である。レーザ光は、正極61と負極63とからなる第1の電極対の間を透過してから、負極62と正極64からなる第2の電極対の間を透過して、基板60から出射される。
【0043】
上下電極間に1000Vの電圧を印加すると、基板60から出射する光は、z軸方向に集光され、シリンドリカル凸レンズとして機能する。焦点距離は72cmである。ここで、印加電圧を500Vにすると、集光効果は小さくなり、焦点距離は290cmになる。また、電圧を印加しない場合は、当然集光効果はなく、焦点距離は無限大である。従って、印加電圧を0Vから1000Vまで変化させることにより、焦点距離を無限大から72cmまで変化させることができる。焦点距離の変更は、印加電圧を変更するだけなので、応答時間は1μs以下であり、従来の可変焦点レンズの応答時間と比較して、3桁以上改善されている。
【0044】
また、光の進行方向はそのままに、偏光を90度回転させて測定を行う。つまり、光の振動電界の方向をy軸方向とする。この場合は、凹レンズとして機能する。印加電圧が1000Vのとき、焦点距離は93cmである。従って、印加電圧を0Vから1000Vまで変化させることにより、焦点距離を無限大から93cmまで変化させることができる。
【0045】
なお、実施例4では、導電ゴムを用いているが、実施例3のようにグラファイトシートを用いてもよい。
【符号の説明】
【0046】
11,23,31,32,43,52 KTN結晶
12,61,64 正極
13,62,63 負極
21,22,41,45,51,54 金属ブロック
42,44,53,65〜68 導電性ゴム
60 基板
69〜72 金属電極
73、74 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶と、
該KTN結晶の第1の面および該第1の面と対向する第2の面に形成された電極対と、
前記第1の面に形成された第1の電極と接触する第1の導電性弾性体と、
該第1の導電性弾性体の前記第1の電極と接触する面と対向する面に接触する第1の金属ブロックと、
前記第2の面に形成された第2の電極と接触する第2の導電性弾性体と、
該第2の導電性弾性体の前記第2の電極と接触する面と対向する面に接触する第2の金属ブロックとを備え、
前記第1および第2の金属ブロックの間に電圧を印加して、前記KTN結晶に電界を印加することを特徴とする電気光学デバイス。
【請求項2】
タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶と、
該KTN結晶の第1の面および該第1の面と対向する第2の面に形成された電極対と、
少なくとも前記第1の面に形成された第1の電極と接触する第1の導電性弾性体と、
該第1の導電性弾性体の前記第1の電極と接触する面と対向する面に接触する第1の金属ブロックと、
前記第2の面と接触する第2の金属ブロックとを備え、
前記第1および第2の金属ブロックの間に電圧を印加して、前記KTN結晶に電界を印加することを特徴とする電気光学デバイス。
【請求項3】
前記KTN結晶は、カリウムを除く周期律表Ia族、またはIIa族の1または複数種を添加不純物として含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電気光学デバイス。
【請求項4】
前記導電性弾性体は、導電性ゴムからなることを特徴とする請求項1、2または3に記載の電気光学デバイス。
【請求項5】
前記導電性弾性体は、グラファイトシートからなることを特徴とする請求項1、2または3に記載の電気光学デバイス。
【請求項6】
タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶と、
該KTN結晶の第1の面および該第1の面と対向する第2の面に形成された電極対と、
前記第1の面に形成された第1の電極と接触する第1の導電性弾性体と、
該第1の導電性弾性体の前記第1の電極と接触する面と対向する面に接触する第1の金属ブロックと、
前記第2の面に形成された第2の電極と接触する第2の導電性弾性体と、
該第2の導電性弾性体の前記第2の電極と接触する面と対向する面に接触する第2の金属ブロックとを備え、
前記第1および第2の金属ブロックの間に電圧を印加して、前記KTN結晶に電界を印加し、前記KTN結晶に前記電界の印加方向と垂直にレーザ光を入射することにより、前記レーザ光を偏向させることを特徴とする光スキャナモジュール。
【請求項7】
前記電極対は、前記KTN結晶の電気伝導に寄与するキャリアに対してオーミック接触となる材料からなることを特徴とする請求項6に記載の光スキャナモジュール。
【請求項8】
前記KTN結晶の電気伝導に寄与するキャリアが電子のとき、前記電極対の材料は、仕事関数が5.0eV未満であることを特徴とする請求項7に記載の光スキャナモジュール。
【請求項9】
タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶と、
該KTN結晶の第1の面上に形成された第1の正極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の正極と向かい合う位置に形成された第1の負極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の正極とは間隔をおいて配置された第2の負極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の負極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の正極と、
前記第1および第2の正極、前記第1および第2の負極のそれぞれに接触する4つの導電性弾性体と、
前記第1の正極および前記第2の負極と接触する導電性弾性体の前記正極および負極と接触する面と対向する面に接触する第1の金属ブロックと、
前記第1の負極および前記第2の正極と接触する導電性弾性体の前記負極および正極と接触する面と対向する面に接触する第2の金属ブロックとを備え、
前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記第1の陽極および前記第1の陰極からなる第1の電極対の間を透過してから、前記第2の陽極および前記第2の陰極からなる第2の電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記第1および第2の電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記第4の面から出射された光の焦点を可変することを特徴とする可変焦点レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−8227(P2011−8227A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92360(P2010−92360)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】