説明

電気分解による金属の製造方法

【課題】アノードとカソードとの間におけるガスまたは溶質の物質移動に起因する問題を抑制することが可能な、電気分解による金属の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融金属塩にアノードおよびカソードを浸漬して電解セルを形成し、真空雰囲気中で電解セルに通電して電気分解を行い、金属を生成することを特徴とする電気分解による金属の製造方法。前記溶融金属塩が1以上のハロゲン化物、または1以上のハロゲン化物と金属酸化物との混合塩であり、前記アノードが炭素、前記カソードがTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,B,Al,Ga,In, アルカリ金属、アルカリ土類金属もしくは希土類元素の酸化物、またはこの酸化物を含む混合物であってもよい。また、前記溶融金属塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属もしくは希土類元素のハロゲン化物、またはこれらと金属酸化物の混合物であってもよく、この場合にアノードを炭素としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解による金属の製造方法に関し、特に、再酸化の発生または不純物による汚染を抑制可能な金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の製錬方法としては、例えば以下の4つの方法が挙げられる。第1の方法は、鉱石の還元が不要であり、単に不純物を分離する方法である。この方法で製錬が可能な金属は、例えばAu、AgおよびCuのような、貴な金属に限られる。第2の方法は、例えば鉱石中の金属化合物を、還元剤を用いて還元する方法である。例えば、Feの製錬では、鉱石中の酸化鉄を、還元剤として炭素を用いて還元する。この方法を適用する場合には、製錬の目的とする金属よりも強力な還元剤が必要である。第3の方法は、水溶液電解による方法である。この方法は、例えばPbのように、水より還元されやすい金属の製錬に適用される。水より還元されにくい金属に適用すると、水が電気分解され、金属は還元されない。
【0003】
第4の方法は、溶融塩電解による方法である。これは、溶融した金属塩を溶媒として電気分解を行う方法であり、特に上述の方法では製錬が困難な、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類元素等の卑な金属を製錬するのに有効な方法である。溶融塩とは、塩化物やフッ化物等の金属塩を融点以上に加熱して液体としたものをいう。
【0004】
また、溶融塩電解法は、Tiの製錬方法としても有望視されている。現在、Tiの製錬方法としては、高純度のTiが得やすく、コストが低いことから、クロール法が主流である。しかし、クロール法には、プロセスがバッチ式であり生産性が悪いこと、鉱石から得たTiO2を塩化させ、蒸留精製し、還元しなければならず、さらに得られたスポンジチタンを溶解する等、工程数が多いこと、および消費エネルギーが多いことといった問題がある。
【0005】
この問題に対し、特許文献1では、TiO2をカソードとして溶融CaCl2中で電気分解を行うことにより、TiO2の還元によりTiを直接得る方法が提案されている。特許文献1で提案されている方法は、クロール法と比べて必要な工程が少なく、プロセスの連続化が可能であるとともに、理論上必要なエネルギーが少ないといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO99/064638号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Jiao and D. J. Fray, "Development of an Inert Anode for Electrowinning in Calcium Chloride-Calcium Oxide Melts", Metallurgical and Materials Transactions B, Volume 41B, pp.74-79, (February 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、溶融塩電解による製錬では、金属塩を溶融させ、高温に保持する。そのため、溶融塩中には、イオンや、還元により製錬された金属が溶融したものが溶質として存在し、製錬過程においては、この溶質の拡散が比較的早く進行するため副反応が生じやすい。例えば、還元された金属が再酸化される逆反応や、電極材に由来する不純物による金属の汚染が容易に発生する。
【0009】
例えば、Ca、Na、K等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の製錬の場合には、これらの金属の溶融塩の電気分解によってカソードの表面に生成した金属が、溶融塩に溶解してアノードへ拡散し、再酸化されやすい。また、電気分解によってアノードで発生したガスは、溶融塩中または溶融塩外に放出された後でカソード方向へ拡散し、カソードの表面に生成した金属を、溶融塩内外において再酸化させることがある。さらに、Nd、Sm等の希土類金属の製錬の場合には、製錬過程で生成する中間生成物が再酸化されやすい。いずれの場合とも、再酸化の発生に伴う電力の損失が大きく、金属の製造効率が低くなる。
【0010】
また、上述した溶融CaCl2中でのTiO2の電気分解によるTiの製錬の場合には、溶媒である溶融CaCl2中に、アノードとして使用される炭素が炭酸イオンとして溶解し、これに含まれる炭素によって、カソードの表面に生成したTiが汚染されることが知られている(非特許文献1)。製錬後のTiからの炭素の除去は熱力学的に不可能である。アノードとして使用される炭素による汚染は、溶融塩の電気分解によって希土類金属を製錬する場合にも発生する。
【0011】
このような、溶融塩の内外に存在するガスまたは溶融塩中の溶質の拡散に伴う再酸化の発生や、アノードを構成する物質による汚染、すなわちアノードとカソードとの間における物質移動に起因する問題を抑制するために、アノードとカソードとの間における隔膜の設置が従来から行われている。しかし、隔膜は、固形物質の拡散の防止には威力を発揮するものの、溶融塩の内外に存在するガスや溶融塩中の溶質の拡散を十分に抑制することができないという課題があった。また、隔膜は、高温の溶融塩中に設置されるため耐久性が不十分であり長期にわたって安定して製錬を行うことができないという課題もあった。
【0012】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、アノードとカソードとの間におけるガスまたは溶質の物質移動に起因する問題を十分に抑制することが可能な、電気分解による金属の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明者らが検討したところ、溶融塩電解を真空中で行うことにより、上述のアノードとカソードとの間における物質移動に起因する問題を十分に抑制することができることを知見した。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は下記(1)〜(5)の金属の製造方法にある。
【0015】
(1)溶融金属塩にアノードおよびカソードを浸漬して電解セルを形成し、真空雰囲気中で電解セルに通電して電気分解を行い、金属を生成することを特徴とする電気分解による金属の製造方法。
【0016】
(2)前記溶融金属塩が1以上のハロゲン化物、または1以上のハロゲン化物と金属酸化物との混合塩であり、前記アノードが炭素、前記カソードがTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、B、Al、Ga、In、アルカリ金属、アルカリ土類金属もしくは希土類元素の酸化物、またはこの酸化物を含む混合物であることを特徴とする前記(1)に記載の電気分解による金属の製造方法。
【0017】
(3)前記溶融金属塩が、H以外の第1族元素、Be以外の第2族元素または希土類元素のハロゲン化物であることを特徴とする前記(1)に記載の電気分解による金属の製造方法。
【0018】
(4)前記溶融金属塩が、2以上の前記ハロゲン化物の混合塩、または、1以上の前記ハロゲン化物と金属酸化物との混合塩であることを特徴とする前記(3)に記載の電気分解による金属の製造方法。
【0019】
(5)前記アノードが炭素であることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の電気分解による金属の製造方法。
【0020】
(6)前記アノードと前記カソードとの間に隔膜を設けることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の電気分解による金属の製造方法。
【0021】
本発明において、「溶融金属塩」とは、金属塩もしくは2以上の金属塩を混合した混合塩の溶融物、またはこれらの金属塩もしくは混合塩に金属酸化物を加えた混合塩の溶融物をいい、以下、単に「溶融塩」ともいう。また、「希土類元素」とは、周期表の3族に属するSc、Yおよびランタノイド(原子番号57〜71の15元素)を指し、金属状態の希土類元素を以下、「希土類金属」ともいう。
【発明の効果】
【0022】
本発明の金属の製造方法によれば、アノードとカソードとの間におけるガスまたは溶質の物質移動に起因する問題を抑制することができるため、純度の高い金属の製造が可能であるとともに、効率よく操業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の電気分解による金属の製造方法が適用可能な製造装置の構成図である。
【図2】試験に用いた電気分解による金属の製造装置の構成図である。
【図3】カソードの写真である。
【図4】電気分解を行った後の焼結TiO2ペレットの写真である。
【図5】電気分解を行った後の焼結TiO2ペレットのX線回折測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.製造装置の構成
図1は、本発明の電気分解による金属の製造方法が適用可能な製造装置の構成図である。同図に示すように、この製造装置は、溶融塩1を収容する電解槽2と、直流電源3に接続されたアノード4およびカソード5を備える。アノード4およびカソード5は、溶融塩1に浸漬され、直流電源3とともに電解セル6を構成する。また、電解槽2は、反応容器7内に配置される。反応容器7は、不図示の真空ポンプによって排気し、操業中において内部を真空にすることが可能である。ここでいう真空とは、反応容器7の内部の圧力が大気圧未満である状態をいい、操業中における反応容器7の内部の圧力は0.3atm以下が好ましく、10-3atm以下がより好ましい。
【0025】
2.製造方法
2−1.金属酸化物の電気分解による金属の製造方法
Tiを例として、金属酸化物の電気分解による金属の製造方法について説明する。前記図1に示す装置を用いてTiO2を電気分解することによってTiを製造する場合、アノード4として炭素を用い、カソード5としてTiO2焼結材を用いる。TiO2焼結材は、TiO2粉末を焼結して作製する。カソード5として用いるTi焼結材は、金網で包んだ状態としてもよいし、金属製の籠の中に入れた状態としてもよい。また、TiO2焼結材に孔を開け、針金を通して吊り下げてもよい。金網、金属籠および針金としては、Ni製のものを使用することができる。
【0026】
溶融塩1に用いる金属塩としては、塩化物、フッ化物等のハロゲン化物およびこれらを2以上混合した混合塩、ならびにこれらの金属塩または混合塩に金属酸化物を混合させたものを用いることができる。混合塩とすることにより、金属塩の融点を下げることができるとともに、アノード表面におけるハロゲンガスの発生を抑制することにより後述する一酸化炭素および二酸化炭素の発生を促進し、電気分解の進行を促進することができる。
【0027】
溶融塩1に用いる金属塩の一例として、塩化物としては、NaCl、CaCl2、SrCl2、BaCl2、NdCl3等、フッ化物としては、NaF、MgF2等が挙げられる。また、混合塩としては、これらの塩化物およびフッ化物から選択した2種以上の金属の混合塩、NaClとSmCl3との混合塩等、金属塩と酸化物との混合物としては、LiFとSm23との混合物等が挙げられる。
【0028】
反応容器7の内部を、通常の溶融塩電解で一般的に行われるように、不活性ガス(例えばAr)雰囲気とした状態で電解セル6への通電を開始すると、アノード4の表面では、下記(1)式および(2)式で表される主反応と、下記(3)式で表される副反応の3種類の酸化反応が生じる。(1)式および(2)式の主反応では、アノード4を構成する炭素から一酸化炭素および二酸化炭素が生成し、生成した一酸化炭素および二酸化炭素は反応容器7内に放出される。(3)式の副反応では、アノード4を構成する炭素から炭酸イオンが生成し、生成した炭酸イオンは溶融塩1内をカソード5に向かって移動する。
C(s)+O2-→CO(g)+2e- …(1)
C(s)+2O2-→CO2(g)+4e- …(2)
C(s)+3O2-→CO32-+4e- …(3)
【0029】
一方、カソード5の表面では、下記(4)式で表される主反応によってTiO2が還元され、Tiが生成する。同時に、下記(5)式で表される副反応によって、上記(3)式の副反応で生成した炭酸イオンが分解して炭素が生成する。
TiO2(s)+4e-→Ti(s)+2O2− …(4)
CO32-+4e-→C(s)+3O2- …(5)
【0030】
上記(5)式の副反応で生成した炭素はアノード4に由来するものであり、上記(4)式の主反応で生成したTiに不純物として混入し、Tiを汚染する。さらには、(1)式の主反応で生成した一酸化炭素および(2)式の主反応で生成した二酸化炭素も、Tiを汚染する。
【0031】
このアノード4に由来する炭素による汚染を抑制するために、アノード4とカソード5との間に隔膜を設置することが従来から行われている。しかし、隔膜は、高温の溶融塩中での耐久性が不十分であり、長期にわたって安定して製錬を行うことができないという課題がある。しかも、溶融塩の内外に存在するガスや溶融塩中のイオン等の溶質の拡散は、隔膜では十分に抑制することができない。
【0032】
これに対して、本発明の方法では、反応容器7の内部を操業中常に真空とするため、すなわち真空雰囲気中で電解セル6に通電にするため、アノードにおける上記(1)式および(2)式の主反応で生成した一酸化炭素および二酸化炭素が溶融塩1の液面から排出されやすい。また、上記(3)式の副反応で生成した炭酸イオンの、下記(6)式で表される分解反応が促進されるため、上記(5)式の副反応が抑制される。そのため、上記(4)式の主反応で生成したTiは、溶融塩の内外に存在するガスおよびアノード4に由来する炭素による汚染が抑制される。
CO32-→CO2+O2- …(6)
【0033】
このように、本発明によれば、隔膜では抑制することが困難な、溶融塩の内外に存在するガスや溶融塩中の溶質の物質移動に起因するTiの汚染を抑制することができる。そのため、長期にわたって安定して純度の高いTiを製造することができる。また、炭素は電気抵抗が小さいため、アノード4として炭素を使用することにより、効率よくTiを製造することができる。
【0034】
また、アノード4とカソード5との間に反応容器7の内部を仕切る隔膜を設けてもよい。隔膜を設けることによって、固体の汚染物質がアノード側からカソード側へ移動するのを抑制することができ、より純度の高いTiを製造することができる。
【0035】
以上説明したような、金属酸化物を電気分解することによって金属を製造する方法は、上述のTiの他に、Zr、Hf、V、Nb、Ta、B、Al、Ga、In、アルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類元素にも適用可能である。この場合も、金属酸化物をカソードとする。金属酸化物は単体に限られず、金属酸化物を含む混合物であってもよい。
【0036】
2−2.溶融塩の電気分解による金属の製造方法
Caを例として、溶融塩の電気分解による金属の製造方法について説明する。前記図1に示す装置を用いて、CaCl2の電気分解によってCaを製造する場合、アノード4の上方に、蒸発したCaを凝縮させる板状の凝縮部材(不図示)を配置する。また、アノード4として炭素を用い、カソード5として一般的なステンレス鋼、炭素鋼等の鉄を用いる。また、溶融塩1として、溶融CaCl2を用いる。
【0037】
この場合、アノード4の表面では下記(7)式で表される還元反応によって塩素ガスが生成する。カソード5の表面では、下記(8)式で表される酸化反応によって、Caが生成する。生成したCaは、蒸発し、凝縮部材の表面で凝縮する。
2Cl- → Cl2 + 2e- …(7)
Ca2+ + 2e- → Ca …(8)
【0038】
反応容器7の内部を真空としない従来の方法では、カソード5の表面で生成したCaが溶融塩1中を拡散し、アノード4の表面で再酸化されてCa2+となるため製造効率が悪く、電力の損失が大きかった。しかし、本発明の方法では、反応容器7の内部を操業中常に真空とするため、比較的蒸気圧が高いCaを、再酸化される前に蒸発させ、回収することができる。
【0039】
また、Caを蒸発させずに、金属Caの固体として連続的に引き上げて回収する手法でも、反応容器7の内部を操業中常に真空とすることにより、アノード4で発生する塩素ガスが速やかに反応容器7の外部に排出されるため、塩素ガスと金属Ca固体との接触による再酸化も抑制することが可能である。
【0040】
このように、金属の溶融塩を電気分解によって製錬する方法は、Caの他に、H以外の第1族元素(アルカリ金属)、Be以外の第2族元素(アルカリ土類金属)および希土類元素に適用可能である。
【0041】
溶融塩1に用いる金属塩としては、上記適用可能な金属の塩化物、フッ化物等のハロゲン化物およびこれらを2以上混合した混合塩、ならびにこれらの金属塩または混合塩に金属酸化物を混合させたものを用いることができる。混合塩とすることにより、金属塩の融点を下げることができるとともに、アノード表面におけるハロゲンガスの発生を抑制でき、電気分解の進行を促進することができる。混合塩とした場合には、カソードの表面に貴な金属が優先的に生成する。
【0042】
溶融塩1に用いる金属塩の一例として、塩化物としては、CaCl2の他に、NaCl、SrCl2、BaCl2、NdCl3等、フッ化物としては、NaF、MgF2等が挙げられる。また、混合塩としては、これらの塩化物およびフッ化物から選択した2種以上の金属の混合塩、NaClとSmCl3との混合塩等、金属塩と酸化物との混合物としては、LiFとSm23との混合物等が挙げられる。
【0043】
Caを製造する場合において、溶融塩は、CaCl2とCaOの混合塩としてもよい。また、希土類金属を製造する場合には、溶融塩は、希土類元素のハロゲン化物と酸化物の混合塩を用いる。これらの場合には、前記(1)〜(3)式の反応によってアノードとして用いられた炭素から一酸化炭素、二酸化炭素および炭酸イオンが生成する。さらに、炭酸イオンは前記(5)式の反応によって分解して炭素が生成する。そのため、従来の方法では、これらの一酸化炭素、二酸化炭素および炭素によってカソードの表面に生成したCaまたは希土類金属が汚染されていた。しかし、本発明の方法では、反応容器7の内部を操業中常に真空とするため、上述の通り、上記(1)式および(2)式の反応により生成した一酸化炭素および二酸化炭素が溶融塩の液面から排出されやすく、また、前記(6)式で表される炭酸イオンの分解反応が促進されるため、上記(5)式の反応による炭素の生成が抑制される。そのため、カソードの表面に生成したCaまたは希土類金属は、溶融塩の内外に存在するガスおよびアノードに由来する炭素による汚染が抑制され、高純度とすることができる。
【0044】
また、アノード4とカソード5との間に反応容器7の内部を仕切る隔膜を設けてもよい。隔膜を設けることによって、固体の汚染物質がアノード側からカソード側へ移動するのを抑制することができ、より純度の高い金属を製造することができる。
【実施例】
【0045】
本発明の効果を確認するため、以下の試験を実施して、その結果を評価した。
【0046】
1.試験条件
1−1.試験装置
図2は、試験に用いた電気分解による金属の製造装置の構成図である。同図に示すように、この製造装置は、溶融塩1を収容する電解槽2と、直流電源3に接続されたアノード4およびカソード5を備えていた。アノード4およびカソード5は、溶融塩1に浸漬され、直流電源3とともに電解セル6を構成した。電解槽2は、反応容器7内に配置した。反応容器7は、Arガスを供給、排出可能とするとともに、図示しない真空ポンプによって排気し、内部を真空にすることを可能とした。溶融塩1を加熱する電気炉8を、反応容器7を囲繞するように配置した。反応容器7溶融塩1の温度を測定するために、熱電対9を溶融塩1に浸漬した。熱電対9は、ステンレス製の保護管10内に挿入し、溶融塩1に直接接触しないようにした。
【0047】
反応容器7はインコネル製とし、電解槽2はステンレス製のるつぼを用いた。直流電源3は2電極4端子法のポテンショガルバノスタットとした。溶融塩1は溶融CaCl2、アノード4は炭素棒とした。
【0048】
図3は、カソードの写真である。カソード5は、同図に示すように、Ni製の金網5aに包んだ直径約1cmの焼結TiO2ペレット5bとした。
【0049】
1−2.電解条件
溶融塩1の温度は930℃とし、直流電源3に2電極法を適用し、3.0Vの定電圧で5時間の電解セル6の通電を行い、カソード5の焼結TiO2ペレット5bを電気分解した。本発明例では、反応容器7内を真空ポンプで排気しながら、10-3atm以下の真空雰囲気中で通電を実施した。比較例では、反応容器7に所定量のArガスを供給、排出することにより、1atmのAr雰囲気中で、通電を実施した。
【0050】
2.試験結果
図4は、通電によって電気分解を行った後の焼結TiO2ペレットの写真である。本発明例、比較例ともに、電気分解によって白色のTiO2が還元され、灰色の多孔質Tiが得られた。
【0051】
図5は、電気分解を行った後の焼結TiO2ペレットのX線回折測定結果を示す図である。同図に示すように、Ar雰囲気中で電気分解した比較例の焼結TiO2ペレットでは、TiCに由来するピークが明確に現れていることから、アノードを構成する炭素による汚染が著しいことがわかる。一方、真空雰囲気中で電気分解した本発明例の焼結TiO2ペレットでは、TiCに由来するピークが極めて小さく、アノードを構成する炭素による汚染が低減されたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の金属の製造方法によれば、アノードとカソードとの間におけるガスまたは溶質の物質移動に起因する問題を抑制することができるため、純度の高い金属の製造が可能であるとともに、効率よく操業を行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1:溶融塩、 2:電解槽、 3:直流電源、 4:アノード、 5:カソード、
5a:金網、 5b:焼結TiO2ペレット、 6:電解セル、 7:反応容器、
8:電気炉、 9:熱電対、 10:保護管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属塩にアノードおよびカソードを浸漬して電解セルを形成し、真空雰囲気中で電解セルに通電して電気分解を行い、金属を生成することを特徴とする電気分解による金属の製造方法。
【請求項2】
前記溶融金属塩が1以上のハロゲン化物、または1以上のハロゲン化物と金属酸化物との混合塩であり、前記アノードが炭素、前記カソードがTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、B、Al、Ga、In、アルカリ金属、アルカリ土類金属もしくは希土類元素の酸化物、またはこの酸化物を含む混合物であることを特徴とする請求項1に記載の電気分解による金属の製造方法。
【請求項3】
前記溶融金属塩が、H以外の第1族元素、Be以外の第2族元素または希土類元素のハロゲン化物であることを特徴とする請求項1に記載の電気分解による金属の製造方法。
【請求項4】
前記溶融金属塩が、2以上の前記ハロゲン化物の混合塩、または、1以上の前記ハロゲン化物と金属酸化物との混合塩であることを特徴とする請求項3に記載の電気分解による金属の製造方法。
【請求項5】
前記アノードが炭素であることを特徴とする請求項3または4に記載の電気分解による金属の製造方法。
【請求項6】
前記アノードと前記カソードとの間に隔膜を設けることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電気分解による金属の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−136766(P2012−136766A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291739(P2010−291739)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】