説明

電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着製品及びその剥離方法

【課題】電気剥離性の粘着剤組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】アクリル系ポリマーと、電解液とを含む電気剥離性粘着剤組成物であり、前記電気剥離性粘着剤組成物が、10-11〜10-3S/cmのイオン導電率を有し、前記電解液が、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して、15〜250重量部の割合で使用され、前記電解液が、0.01〜3mol/lの濃度で電解質としての第四級アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を含む有機溶液であることを特徴とする電気剥離性粘着剤組成物により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着製品及びその剥離方法に関する。更に詳しくは、本発明は、電圧を印加するだけで粘着力が低下し、その結果、被着体から容易に剥離可能な電気剥離性粘着剤組成物、電気剥離性粘着製品及びその剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再剥離性の粘着テープが種々の用途(例えば、表面保護フィルム、塗装用マスキングテープ、再剥離可能なメモ等)で使用されている。この粘着テープは、一般的に基材と、その上に積層された粘着剤層とからなる。粘着剤層には、粘着性と共に再剥離性が求められる。即ち、被着体の運搬時、貯蔵時、加工時等には、被着体から剥離しない程度の粘着性と、機能を果たした後には、容易に取り除きうる再剥離性が求められている。
上記粘着性と再剥離性との相反する性質を実現する方法として、例えば特表2003−504504号公報(特許文献1)、WO2007/018239号公報(特許文献2)等に記載された方法が提案されている。
【0003】
特表2003−504504号公報では、電圧印加時に剥離性を有するエポキシ系化合物を含むエポキシ系接着剤が提案されている。実施例に例示されているエポキシ系化合物は、分子中にジスルフィド結合を有する特殊な化合物である。このエポキシ系接着剤を使用することで、電圧印加時に剥離可能な接着剤が提供できると記載されている。
一方、WO2007/018239号公報では、接着剤として、イオン性液体を使用することで、電圧印加時に剥離可能な接着剤が提供できると記載されている。この公報では、イオン性液体とは、室温で液体である溶融塩であり、蒸気圧がなく、高耐熱性、不燃性、高化学安定性等の性質を有するとされている。
【0004】
【特許文献1】特表2003−504504号公報
【特許文献2】WO2007/018239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このエポキシ系接着剤による接合は、60℃及び50Vの条件下で、30分間維持することで剥離するとされており、剥離に加温や長時間の電圧の印加が必要であった。
また、エポキシ系化合物及びイオン性液体は、これらの公報に記載されているように、特殊な構造を有する化合物であるため価格が高く、それらを用いて安価な粘着テープを提供することは困難であった。
そのため、安価な材料を使用して、短時間で加温せずとも剥離可能であり、エポキシ系化合物及びイオン性液体を使用した場合と同等以上の物性を示しうる粘着テープを製造できる電気剥離性粘着剤組成物の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、アクリル系ポリマーと、電解液とを含む電気剥離性粘着剤組成物であり、前記電気剥離性粘着剤組成物が、10-11〜10-3S/cmのイオン導電率を有し、前記電解液が、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して、15〜250重量部の割合で使用され、前記電解液が、0.01〜3mol/lの濃度で電解質としての第四級アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を含む有機溶液であることを特徴とする電気剥離性粘着剤組成物が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、導電性支持体と、その上に形成された電気剥離性粘着剤層とを有し、前記電気剥離性粘着剤層が、上記電気剥離性粘着剤組成物を含むことを特徴とする電気剥離性粘着製品が提供される。
更に、本発明によれば、上記電気剥離性粘着製品を、被着体上に、前記電気剥離性粘着剤層が面するように貼り付けた後、前記電気剥離性粘着剤層に電圧を印加することで、前記電気剥離性粘着製品を前記被着体から剥離することを特徴とする電気剥離性粘着製品の剥離方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電圧の印加により、短時間で加温せずとも剥離可能な粘着剤層を形成しうる電気剥離性粘着剤組成物を安価に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の電気剥離性粘着剤組成物(以下、単に粘着剤組成物という)は、アクリル系ポリマーと電解液とを含んでいる。
【0010】
(アクリル系ポリマー)
アクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーを、任意に重合開始剤の存在下で重合させることで得ることができる。アクリル系ポリマーは、少なくとも被着体に粘着できさえすれば、どのようなポリマーも使用できる。通常、粘着性の観点から、アクリル系ポリマーとしては、1万〜500万の範囲の重量平均分子量を有するポリマーが使用される。
重量平均分子量は、Shodex社製GPC System21を用い、移動相をテトラヒドロフランとして算出した値を意味する。この値は、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0011】
(1)アクリル系モノマー
アクリル系モノマーには、炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが主成分(50重量%以上)として含まれていることが好ましい。なお、(メタ)アクリレートは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0012】
炭素数1〜14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。これらアルキル(メタ)アクリレートの内、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、n−ブチル(メタ)アクリレートが更に好ましく、n−ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0013】
他のアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有モノマー、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等のヒドロキシル基含有モノマーが挙げられる。これら他の(メタ)アクリレートは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。(メタ)アクリレートには、カルボキシル基含有モノマー及びヒドロキシル基含有モノマーが両方含まれていることが好ましい。
【0014】
アクリル系モノマーには、炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが主成分として含有されている。従って、アクリル系モノマーは、他のアクリル系モノマーを使用せず、アルキル(メタ)アクリレートのみからなっていてもよい。また、所望の性能の粘着剤組成物を容易に入手する観点から、他のアクリル系モノマーが50重量%未満及び1重量%以上含まれていることが好ましく、5〜30重量%含まれていることがより好ましく、5〜15重量%含まれていることが更に好ましい。
【0015】
また、カルボキシル基含有モノマー及びヒドロキシル基含有モノマーが両方含まれている場合、両者の含有量は、全モノマー量を100重量部とした場合、1〜20重量部の範囲であることが好ましい。この範囲で両モノマーを使用することで、粘着特性を改善できる。更に、1〜10重量部の範囲であることがより好ましい。
【0016】
更に、(メタ)アクリレートには、必要に応じて、ビニル系モノマーを添加してもよい。ビニル系モノマーとしては、例えば、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルボン酸アミド類、スチレン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。これらビニル系モノマーは、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0017】
(2)重合開始剤
任意に使用される重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫化物、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)−プロピオンアミジン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラハイドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルペルオキシピバレイト等の過酸化物系重合開始剤;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとにより構成されたレドックス系重合開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0018】
重合開始剤は、アクリル系モノマー100重量部に対して0.005〜1重量部の範囲で使用することが好ましい。この範囲で重合開始剤を使用することで、粘着特性が改善されたアクリル系ポリマーを形成できる。更に、重合開始剤の使用量は、0.1〜0.5重量部の範囲であることがより好ましい。
【0019】
(3)他の成分
他の成分としては、基体上への粘着剤組成物の使用容易性の観点から、有機溶剤が含まれていてもよい。この有機溶剤としては、特に限定されず、粘着剤組成物に使用可能な公知の有機溶剤が挙げられる。例えば、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素が挙げられる。これら有機溶剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
なお、有機溶剤を使用する場合、アクリル系ポリマーからなる固形分含量が10重量%以上となるように、その使用割合を調整することが好ましい。また、使用割合は、固形分含量が20〜50重量%となるように調製されていることが好ましい。
【0020】
(4)粘度
粘着剤組成物は、固形分含量が40重量%のとき、1000mPa・s以上の粘度を有していることが好ましい。この粘度を有することで、電圧の非印加時の粘着性を確保できる。より好ましい粘度は、2000〜10000mPa・sである。
粘度は、粘着剤組成物を25℃になるように調温し、その後、トキメック社製BH型粘度計を用い、回転数が10rpmの条件により測定した値である。
【0021】
(電解液)
電解液は、10-6〜10-2S/cmのイオン導電率を有する。この範囲のイオン導電率を有することで、粘着剤組成物に電圧の印加による十分な剥離性を付与できる。より好ましいイオン導電率は、10-3〜10-2S/cmである。イオン導電率の測定法は、実施例の欄に記載する。
電解液は、電解質としての第四級アンモニウム塩又はアルカリ金属塩と、有機溶剤とを含む有機溶液からなる。
【0022】
(1)電解質
(a)第四級アンモニウム塩
第四級アンモニウム塩としては、(R)4NX(式中Rは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基、Xはハロゲン原子、ClO4、BF4又はPF6)、[(R)4N]2Y(式中Rは、上記と同一、YはSO4)等が挙げられる。
Xがハロゲン原子の場合、例えば、テトラブチル、テトラプロピル、テトラエチル、テトラメチル、トリエチルブチル、トリエチルプロピル、トリエチルメチル等のアンモニウムブロミド又はアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0023】
XがBF4の場合、例えば、テトラブチル、テトラプロピル、テトラエチル、テトラメチル、トリエチルブチル、トリエチルプロピル、トリエチルメチル等のアンモニウムテトラフルオロボレートが挙げられる。
XがPF6の場合、例えば、テトラブチル、テトラプロピル、テトラエチル、テトラメチル、トリエチルブチル、トリエチルプロピル、トリエチルメチル等のアンモニウムヘキサフルオロフォスフェートが挙げられる。
【0024】
XがClO4の場合、例えば、テトラブチル、テトラプロピル、テトラエチル、テトラメチル、トリエチルブチル、トリエチルプロピル、トリエチルメチル等のアンモニウムパークロレートが挙げられる。
YがSO4の場合、例えば、テトラブチル、テトラプロピル、テトラエチル、テトラメチル、トリエチルブチル、トリエチルプロピル、トリエチルメチル等のアンモニウムサルフェートが挙げられる。
【0025】
上記第四級アンモニウム塩は、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。また、以下で説明するアルカリ金属塩と組み合わせて使用してもよい。
上記第四級アンモニウム塩の内、ホウ素含有有機電解質塩である(R)4NBF4が好ましい。このアンモニウム塩を使用すれば、粘着剤組成物の電気剥離特性をより向上できる。特に、Rが、同一又は異なって、メチル基又はエチル基である第四級アンモニウム塩は、粘着剤組成物の電気剥離特性をより向上できるので好ましい。
【0026】
(b)アルカリ金属塩
アルカリ金属塩としては、LiCl、Li2SO4、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33等が挙げられる。なお、これら例示は、リチウム塩であるが、ナトリウム塩やカリウム塩であってもよい。これらアルカリ金属塩は、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
上記アルカリ金属塩の内、LiN(SO2CF32が好ましい。これら好ましいアルカリ金属塩を使用すると、電気剥離特性をより向上できる。
【0027】
(c)使用量
電解液は、0.01〜3mol/lの濃度で電解質を含んでいる。この濃度の範囲で電解質を含むことで、電圧の印加時の剥離性の確保と、電圧の非印加時の粘着性の確保を高い次元で両立実現できる。より好ましい濃度は0.1〜2.0mol/lであり、更に好ましい濃度は0.5〜2.0mol/lである。
【0028】
(2)有機溶媒
有機溶媒としては、粘着剤組成物の電圧の印加時の剥離性と、電圧の非印加時の粘着性を阻害しない有機溶媒であれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類、プロピオン酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸オクチル等の鎖状カルボン酸エステル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類、アセトニトリルのようなニトリル類、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類が挙げられる。これら有機溶媒は、1種のみ使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
上記有機溶媒中、30以上の比誘電率を有する有機溶媒を使用することが好ましい。この比誘電率の有機溶媒を使用することで、電圧の印加時の剥離性をより向上できる。この比誘電率を有する有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(89.8)、プロピレンカーボネート(64.92)、γ−ブチロラクトン(39.1)、N−メチル−2−ピロリドン(32.2)等が挙げられる(括弧内は約25℃における比誘電率を意味する)。より好ましい比誘電率の範囲は、60以上である。
【0030】
(アクリル系ポリマーと電解液の使用割合)
電解液は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、15〜250重量部の範囲で使用される。この範囲で使用することで、電圧の印加時の剥離性の確保と、電圧の非印加時の粘着性の確保を両立実現できる。より好ましい電解液の使用割合は、40〜120重量部である。
【0031】
(他の成分)
アクリル系ポリマーに架橋剤を作用させることで、架橋させてもよい。架橋剤としては、トルエンジイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネート等のイソシアネート系架橋剤が挙げられる。架橋剤の使用割合は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、1重量以上であることが好ましい。架橋させることで、粘着剤組成物を支持体上に層として形成した場合、その層の耐クリープ性や耐せん断性を改良できる。より好ましい使用割合は、5〜10重量部である。
また、粘着剤組成物には、帯電防止剤、着色剤、酸化防止剤、充填材等が含まれていてもよい。
【0032】
(粘着剤組成物の製造方法)
粘着剤組成物は、アクリル系ポリマーと電解液と任意に架橋剤とを公知の方法で攪拌することにより得ることができる。
【0033】
(粘着剤組成物の用途)
粘着剤組成物の用途としては、リサイクルが必要な金属材(例えば、アルミニウム、貴金属)と他の部材との接着用途が挙げられる。この用途では、電圧の印加により容易に金属材を回収できるので、例えば家電リサイクルに有用である。
また、センサーと被着体との接着用途が挙げられる。この用途では、電圧の印加により容易にセンサーを回収でき、センサーを繰り返し使用できるので、経済的である。
【0034】
更に、動物のトラッキングマーカーに使用される首輪の接着用途が挙げられる。この用途では、トラッキングの必要がなくなれば、首輪を接合する部分に遠隔操作で電圧を印加することで、動物から首輪を外すことができる。
製造工程中において、部品の仮止めに粘着剤組成物を使用できる。例えば、LSIチップのダイシング時のウェハの仮止めに使用することが挙げられる。この用途では、電圧を印加することで、仮止め状態を容易に解除できる。
【0035】
人工衛星をその筐体から切り離す際の両者の接着用途に使用できる。従来、切り離しは、ジェット噴射のような微妙な制御が困難な方法が使用されていた。しかし、粘着剤組成物を使用すれば、電圧を印加することで微妙な制御が可能であり、人工衛星に与える物理的なダメージも軽減できる。
【0036】
(電気剥離性粘着製品)
電気剥離性粘着製品(以下、単に粘着製品ともいう)は、導電性支持体と、その上に形成された電気剥離性粘着剤層とを有している。電気剥離性粘着剤層は、上記粘着剤組成物を含んでいる。
粘着製品の形状は、特に限定されず、導電性支持体の形状に応じて決定される。例えば、導電性支持体が箔状である場合は、製品は粘着テープとなる。
【0037】
導電性支持体としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の金属、これら金属の合金、導電性金属酸化物(ITO等)からなる箔(厚さ100μm未満)や板(厚さ100μm以上)等、これら金属又は合金が混合されるかコーティングされた繊維を含有した布、これら金属又は合金を含有した樹脂シート、これら金属、合金又は導電性金属酸化物からなる層を備えた樹脂板が挙げられる。
【0038】
(剥離方法)
上記粘着製品は被着体に粘着させることができる。被着体は特に限定されないが、導電性を有していることが好ましい。
粘着製品の被着体からの剥離は、粘着製品を構成する電気剥離性粘着剤層に電圧を印加することにより行うことができる。例えば、導電性支持体と被着体に端子を接続し、端子間に電圧を印加する方法や、導電性支持体と電気剥離性粘着剤層に端子を接触させ、端子間に電圧を印加する方法等が挙げられる。
【0039】
印加される電圧は、剥離ができさえすれば特に限定されないが、1V以上であることが好ましく、3V以上であることがより好ましい。電圧の上限は剥離の観点からは特に規定されないが、電圧印加装置や被着体への影響を考慮すると、200Vであることが好ましい。印加時間は、例えば、1秒以上であることが好ましく、3秒以上であることがより好ましい。印加時間の上限は、剥離の観点からは特に規定されないが、被着体への影響を考慮すると、10分間であることが好ましい。更に、剥離時の温度は、常温(約25℃)でもよく、常温より低い温度や高い温度でもよい。剥離作業の容易性から、常温で行うことが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
(アクリル系ポリマーの調製)
n−ブチルアクリレート(三菱化学社製)91重量部、アクリル酸(三菱化学社製)8重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(日本触媒社製)1重量部とからなるモノマー混合物と、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、純正化学社製)0.2重量部と、溶剤(酢酸エチル:トルエン(重量比)=9:1)186重量部とを、窒素気流中、85℃で5時間重合反応させてアクリル系粘着剤を得た。得られたアクリル系粘着剤は、樹脂分(アクリル系ポリマー:重量平均分子量約80万)を35重量%含み、7000mPa・sの粘度を有していた。
【0041】
(電解液の調製)
第四級アンモニウム塩としてのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(Et4NBF4、キシダ化学社製)を、有機溶剤としてのプロピレンカーボネート(PC、キシダ化学社製)に濃度1.0mol/lになるように常温で溶解させて電解液を得た。
【0042】
(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系粘着剤100重量部(アクリル系ポリマー35重量部)に、イソシアネート系架橋剤としてのコロネートL−55E(日本ポリウレタン社製)2.0重量部と上記電解液14重量部とを添加し、常温で10分間攪拌し、脱泡することで粘着剤組成物を得た。
【0043】
(イオン導電率の測定)
粘着剤組成物のイオン導電率を次のようにして測定した。測定は、Solartron社製1260周波数応答アナライザを用い、ACインピーダンス法によって行った。具体的には、二極式セル(東洋システム社製)を用いて粘着剤組成物をステンレスで挟み、テフロン(登録商標)製のスペーサーによって、一定の面積(1.3cm2)と厚さ(0.004cm)の円盤状に制御した。このセルに振幅が10mVの電圧を印加し、振幅を規定する周波数を1MHz〜0.1Hzへと変化させたときに得られるCole−Coleプロットを等価回路を用いてカーブフィットすることにより抵抗を求めた。面積A、厚さL及び抵抗Rbを下記式に代入することで、粘着剤組成物のイオン導電率σを算出した。
(式)σ=L/(Rb×A)
(σ:イオン導電率、Rb:バルク抵抗、L:サンプルの厚さ(cm)、A:サンプルの面積(cm2))
【0044】
(電気剥離性粘着製品の調製)
上記粘着剤組成物を、シリコーン剥離剤をコーティングしたPETシート上に塗工し、得られた塗膜を100℃で2分間乾燥させることで、厚さ40μmの電気剥離性粘着剤層を得た後、導電性支持体としてのアルミニウム基材(100μm)に電気剥離性粘着剤層を貼り合わせた。その後、40℃で3日間養生させることで、粘着テープとしての電気剥離性粘着製品を得た。得られた電気剥離性粘着製品を下記評価に付した。結果を表1に示す。
【0045】
(電気剥離性粘着製品の評価)
(1)粘着力の測定
得られた粘着テープを幅25mm、長さ250mmにカットして試料片を得た。研磨したステンレス板(被着体)に試料片を置き、2kgのゴムローラを用いて300mm/分の速度で試料片の長さ方向に1往復させることで、試料片を圧着して評価サンプルを得た。圧着30分後、JIS Z−0237に準拠して、島津製作所社製オートグラフAGS−Hを用いて、引張速度300mm/分で180°の角度に剥がす(180°ピールする)のに要した力(粘着力:N/25mm)を測定した。
【0046】
上記と同様に用意した試料サンプルの圧着30分後、図1(a)及び(b)に示すように評価サンプルの導電性支持体と被着体に電極を取り付け、100Vの電圧を3分間印加した。印加後、上記と同様にして180°ピールするのに要した力を測定した。
図1(a)及び(b)は電圧印加方法の概略説明図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は断面図である。図中、1は導電性支持体、2は電気剥離性粘着剤層、3は被着体、4は直流電源を意味する。
【0047】
(2)剥離形態の評価
剥離後の電気剥離性粘着剤層を観察し、粘着剤層が被着体と導電性支持体の両方に存在する場合を「凝集破壊」とし、被着体側に存在せず、導電性支持体側にのみ存在する場合を「界面剥離」とした。
(3)電気剥離性の評価
電気剥離性は、電圧印加後の粘着力の低下度合いにより評価した。電圧印加前の粘着力に対する電圧印加後の粘着力の割合(%)を粘着力の維持率として算出する。維持率が10%以下の場合を電圧の印加による剥離が容易であるとして◎とし、10%より大きく50%以下の場合を剥離が可能であるとして○とし、50%より大きい場合を剥離が困難であるとして×とした。
【0048】
実施例2〜16及び比較例1〜7
電解液を表1に示す種類の電解質及び有機溶剤、濃度及び添加量とし、表1に示す導電性支持体を使用すること以外は、実施例1と同様にして電気剥離性粘着製品を得た。得られた電気剥離性粘着製品を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0049】
なお、表1のこれら実施例及び比較例中、Et3MeNBF4は東洋合成工業社製のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート(第四級アンモニウム塩)を、LiTFSIはアルドリッチ社製のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SO2CF32、アルカリ金属塩)を、EC−PCはキシダ化学社製のエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの重量比1:1の溶媒を、GBLは純正化学社製のγ−ブチロラクトンを、NMPは純正化学社製のN−メチル−2−ピロリドンを、ITO−PETはアルドリッチ社製のPET基材上にITO(Indium Tin Oxide)膜を備えた導電性支持体(表面抵抗値35Ω/sq)を、それぞれ意味する。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から、電解液の未添加の比較例1及び添加量が少ない比較例2〜6は、いずれも電圧印加により粘着力が低下しなかった。これに対して、実施例では電圧印加による粘着力の低下が見られた。
電解液の添加量が多い比較例7は、製膜自体ができなかった。
実施例1、2及び実施例4から、電解質濃度が、1.0mol/lの場合、電圧印加により特に粘着力を低下できることが分かった。また、実施例3〜8から、電解液の添加量が、40重量部以上の場合、電圧印加により特に粘着力を低下できることが分かった。
【0052】
実施例9、10及び15から、電解液の有機溶媒の種類を変えても、電圧印加による粘着力の低下が見られた。また、実施例11〜17から、電解質の種類を変えても、電圧印加による粘着力の低下が見られた。実施例18から、導電性支持基材の種類を変えても、電圧印加による粘着力の低下が見られた。
【0053】
実施例19
比較例1、実施例5〜8、14及び18の電気剥離性粘着製品から評価サンプルを採取し、その評価サンプルに、5Vの電圧を10秒間印加すること以外は、実施例1と同様にして粘着力を測定した。結果を表2に示す。表2では参考のため電圧印加前の粘着力と、100Vの電圧を3分間印加後の粘着力を合わせて示す。
【0054】
【表2】

【0055】
5Vの電圧を10秒間印加する条件は、100Vの電圧を3分間印加する条件よりシビアな条件であるが、実施例の電気剥離性粘着製品は、低電圧短時間印加条件でも粘着力の低下が顕著に見られた。
【0056】
実施例20
比較例1、実施例4及び11の電気剥離性粘着製品から評価サンプルを4個採取し、それぞれの評価サンプルに、100Vの電圧を、3秒間、10秒間、1分間及び3分間印加後の粘着力を測定した。測定法は実施例1と同様とした。得られた結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3の結果を図2にプロットした。
表3及び図2から、実施例の電気剥離性粘着製品は、いずれも短時間で粘着力が著しく低下していることがわかる。
【0059】
実施例21
比較例1、実施例4及び11の電気剥離性粘着製品から評価サンプルを3個採取し、それぞれの評価サンプルに、10V、50V及び100Vの電圧を3分間印加後の粘着力を測定した。測定法は実施例1と同様とした。得られた結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4の結果を図3にプロットした。
表4及び図3から、実施例の電気剥離性粘着製品は、いずれも低電圧で粘着力が著しく低下していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】電圧印加方法の概略説明図である。
【図2】粘着力と電圧印加時間との関係を示すグラフである。
【図3】粘着力と印加電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 導電性支持体、2 電気剥離性粘着剤層、3 被着体、4 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーと、電解液とを含む電気剥離性粘着剤組成物であり、前記電気剥離性粘着剤組成物が、10-11〜10-3S/cmのイオン導電率を有し、前記電解液が、前記アクリル系ポリマー100重量部に対して、15〜250重量部の割合で使用され、前記電解液が、0.01〜3mol/lの濃度で電解質としての第四級アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を含む有機溶液であることを特徴とする電気剥離性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記第四級アンモニウム塩が、ホウ素含有有機電解質塩である請求項1に記載の電気剥離性粘着剤組成物。
【請求項3】
前記ホウ素含有有機電解質塩が、式(R)4NBF4(式中Rは、同一又は異なって、メチル基又はエチル基)である請求項2に記載の電気剥離性粘着剤組成物。
【請求項4】
前記電解液が、30以上の比誘電率の有機溶剤を含む請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気剥離性粘着剤組成物。
【請求項5】
前記30以上の比誘電率の有機溶剤が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンから選択される請求項4に記載の電気剥離性粘着剤組成物。
【請求項6】
前記アクリル系ポリマーが、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートと、カルボキシル基含有アクリル系モノマーと、ヒドロキシル基含有アクリル系モノマーとの共重合体からなる請求項1〜5のいずれか1つに記載の電気剥離性粘着剤組成物。
【請求項7】
導電性支持体と、その上に形成された電気剥離性粘着剤層とを有し、前記電気剥離性粘着剤層が、請求項1〜6のいずれか1つに記載の電気剥離性粘着剤組成物を含むことを特徴とする電気剥離性粘着製品。
【請求項8】
請求項7に記載の電気剥離性粘着製品を、被着体上に、前記電気剥離性粘着剤層が面するように貼り付けた後、前記電気剥離性粘着剤層に電圧を印加することで、前記電気剥離性粘着製品を前記被着体から剥離することを特徴とする電気剥離性粘着製品の剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−37354(P2010−37354A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198057(P2008−198057)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(592103442)ビッグテクノス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】