説明

電気化学的センサ

電気化学的センサにおいて、ウインドウ中のデータ点をグループ分けすること、及びデータが変化するサインの勾配の間の2又は3のウインドウを検出することによりピークを検出する。2または3のウインドウにおいて最も高いデータ点を検出することにより、ピークは、より正確に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的センサ及び電気化学的検出方法に関する。
【0002】
電気化学的バイオセンサでは、作用電極が対向電極及び参照電極とともに使用されるが、後者の2つは、擬似参照電極として組み合わせてもよい。以下の文では、文脈が要求しない限り、用語「参照電極」は、擬似参照電極を指すものと解釈されるべきである。測定を行うために、作用電極と参照電極との間に電位差を印加し、得られる電流を電圧の範囲にわたって測定する。流体中に存在する分析対象物の濃度及び分析対象物の種は、固有の電位差で電流の測定結果から導出することができる。測定したボルタンメトリーピーク位置(及び/又は中間点位置)及びボルタンメトリーピーク距離間隔から、補足的な情報を導出することができる。そのようなバイオセンサで使用することができる電極が、WO03/056319に記載されている(この文献を参照として本明細書にその全体で取り込む)。
【0003】
ボルタンメトリーピーク位置から得られる情報を伴う特別な問題は、サンプルの測定結果から導出されるデータ中のピーク自体の位置の決定である。大抵、求められているものは、より大きな勾配上の小さなピークであるが、最高値を見つけるための簡単なアルゴリズムは悪い結果をもたらす。
【0004】
したがって、本発明は、
標的溶液と電気的に接触する作用電極と参照電極との間に、時変電位を印加し;
所定の間隔で前記作用電極及び参照電極の間で流れる電流をサンプリングし;
それぞれが電位の値及び相当する電流の値を含む複数のデータ点を導出し;
前記データ点を、それぞれ複数の連続するデータ点を含む複数の連続するグループに分割し;
それぞれのグループで、電流/電位の勾配のサインを決定し;及び
グループ間で電流/電位の勾配のサインが変化する一組のグループを見つけること、
を含む、電気化学的検出方法を提供する。
【0005】
この方法は、信頼性があり、素早く及び簡単にプログラムされた、標的溶液から導出されるボルタンメトリーデータにおけるピークの位置付けの方法を提供する。連続するデータ点は、事実上データをウインドウイングして、一連のグループに分割され、そしてそれぞれのグループの勾配を決定する。これは、それぞれのグループの最初のデータ点と最後のデータ点との間の線の勾配として、又は線形フィッティング手段によって、非常に簡単に得ることができる。2つの連続するグループで、勾配が正から負へ又はその逆で変化するとき、ピークは、2つのグループの範囲内にあると推定できる。これは、いくつかの用途では、十分なピークの位置であってもよいが、より正確な位置のために、及び/又はピークの高さの測定では、2つのグループにおける最大のデータ点を位置付けることができ、若しくは2つのグループのデータ点を、理論モデルに適合させることができる。ゼロの勾配は、要求通り正かそれとも負とみなすことができる。その代わりに、ピークは、勾配がサインを変化する3つのグループの範囲内にあると決定することができる。
【0006】
本発明の好ましい実施態様では、連続する複数の測定結果を平均化してそれぞれのデータ点を得る。
【0007】
時変電位は、電位の線形の増加又は減少であり、及び前記データ点は、所定の等しい間隔で取られる測定結果から導出することも好ましい。例えば、標的溶液中のコバルトの存在を示すピークの検出のために、50mVs−1の速度で、約−0.6Vから+1.6Vへ線形の増加が適切である。それぞれのデータ点は、ノイズを減少するために数個のサンプルから平均化してもよく、及び例えば走査全体にわたって生み出された44グループを生じるであろう5点のグループにグループ化されてもよい。
【0008】
以下、例示的な実施態様及び添付図面を参照して本発明をさらに説明する。
【0009】
センサ装置は、使い捨て可能であってもよい電極ユニット20が接続されている電子部品ユニット10を含む。電極ユニット20は、複数の作用電極WE1〜WE6並びに参照電極RE及び対向(補助)電極CEを有している。他の実施態様では、より多数又はより少数の作用電極を使用してもよい。本発明のいくつかの実施態様では、参照電極と対向電極とを擬似参照電極として組み合わせてもよい。作用電極と参照電極との間に電気化学的セルが形成されている。電極と電気的に接続している標的溶液の測定を行うためには、様々な電圧(静的及び時変)を作用電極の1つと参照電極との間に印加し、得られる電流を検出する。例えば、上昇する電位を印加し及び電流ピークを検出することにより、コバルト(Co)を検出することができる。これをする方法は、下でさらに示す。
【0010】
センサ装置の電子部品ユニット10の全体的な制御は、システムソフトウェアを記憶するための内部メモリを含むマイクロコントローラ101によって実行される。マイクロコントローラは、専用ASIC、FPGA又は適切にプログラムされた汎用コントローラであってもよい。マイクロコントローラは、デジタル・アナログ変換器103を介してポテンシオスタット104を制御し、アナログ・デジタル変換器102を介してポテンシオスタット102から測定結果を受け取る。ポテンシオスタット104は、所望の電圧を作用電極WE、参照電極RE及び対向電極CEに印加し、セルマルチプレクサ105が、マイクロプロセッサ101の制御の下で、作用電極の適切な一つを選択する。電極は、好ましくは、たとえば約50μm未満の幅を有するマイクロ電極、マイクロバンド電極又はマイクロ電極アレイである。
【0011】
グラフィックス表示装置108が、ユーザに対する操作メニュー、キーパッド109を介して入力されるオプション及び測定結果の表示を可能にする。電気的に消去可能なRAM120が定数及び測定情報の記憶を可能にする。また、センサを医学的又は獣医学的用途で使用する場合、特に患者情報のデータの入力のためにバーコードリーダを設けてもよい。プリンタ、ネットワーク及び他の装置、たとえば患者記録システムへの接続のために、たとえばRS232、Bluetooth、Ethernet、USB又はWiFi(IEEE802.11a、b、gなど)規格に合致するインタフェースを設けてもよい。別々に示されている回路を一つ以上のASIC又はFPGAに組み合わせてもよい。
【0012】
電源は、バッテリーの寿命を最適化しバッテリーの再充電を制御する電力管理ユニット106の制御の下で、バッテリー107から供給される。
【0013】
コバルトピークの検出及び測定のための方法のフローチャートを図2に示す。まず第一に、工程S1で、電気化学的セルに−0.5Vから1.6Vのプレコンディショニングランプ電位を印加する。これは、比較的速い掃引速度、例えば200〜5000mVs−1で実行することができ、いくつかの状況では省いてもよい。工程S2は、0Vから−0.5Vまで掃引してサンプル中の任意のルテニウムを減少させ、セル全体の電位が、約10から200Vm−1の速度で、−0.5Vから1.6Vに上昇する測定ランプ(工程S3)の前のいくつかの状況では省いてもよい。電流の測定結果は、50μVごとについての電流の測定があるために、約1から2kHz、すなわち0.5から1msごとの速度で取る。工程S4で、連続する測定結果、例えば15の測定結果すなわち15ms量の測定結果を、ノイズを減少させるためにデータ点に平均化する。実際は、所定の間隔、例えば10mVごとで電流をサンプリングする。連続するデータ点を、例えば5つのグループにグループ化し、及びそれぞれのグループの勾配又はウインドウを、それぞれのグループの最初のデータ点と最後のデータ点との間の勾配を決定することによって決定する。望むならば、代わりに平均化又は線形フィッティング手段によって、勾配を決定することができる。少なくとも、勾配が正であるか負であるかどうか決定することのみが必要である。ゼロの勾配は、特定することもできるか、又は正かまたは負であるか考えてもよい。これらの演算は、ピークが予測される範囲、例えばコバルトについて1.1から1.6Vに対してのみ実行することができる。工程S6で、2つの隣接するグループの勾配(又は1つがゼロの場合、3つ)を、正から負へ変化したかを決定する。もし立ち下がり掃引が代わりに使用された場合、逆すなわち負から正へ、の試験を使用してもよい。
【0014】
上の手段を発効する適切なプログラムは、マイクロコントローラのメモリ、又は装置内の別のメモリに提供することができ、及び興味のあるピークの検出及び/若しくは測定を与える装置によって実行することができる。その代わりに、外部のコンピュータシステムによって、完全に又は部分的に実行される後続の処理とともに測定サンプルを収集するように、上述した装置を使用してもよい。
【0015】
勾配が変化する範囲内で2つ又は3つのデータ点グループの検出は、いくつかの用途での十分なピークの位置付けであってもよいが、より正確な位置付けが要求され、又はピークで電流の値の測定が望まれる場合、2つ又は3つのグループ中のデータ点が最高値か決定することによって、ピークが検出できる。
【0016】
実例として、簡単化したデータ配置を図3に示す。データ点d1からdnが取り入れられ、ユーザによって配置された電位範囲にわたってウインドウw1からw3へ分割される。それぞれのウインドウ中のデータ点の勾配が、グループ中の最初のデータ点と最後のデータ点とを結びつけ、線l1、l2、l3、によって示される。l1の勾配が正、及びl2のそれが負であれば、ピーク(変曲点)が決定され、ウインドウw1又はw2にあると考えることができる。10のデータ点が、次いで素早く分析され、最高値を見つける。
【0017】
固有の実施態様に関して本発明を説明したが、本発明は、他の形態で具現化してもよい。詳細、例えば掃引の間の電位の変化の速度、サンプリング速度、サンプルをデータ点に平均化、それぞれのウインドウ内のデータ点の数が、検出される種及び実験条件にしたがって変化できることが、評価できるであろう。いくつかの場合では、適切な値が、試験又は参照するサンプルを使用する試用及び誤差によって見つけてもよい。この文献における極性は、IUPAC規則を使用して定義されるが、結果は、他の規則に容易に変換することができる。したがって、本発明の範囲は、前記説明ではなく請求の範囲によって決定される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を取り入れた携帯型電気化学的センサ装置の略図である。
【図2】本発明の実施態様における方法のフローチャートである。
【図3】簡単化したデータ配置における電流対電位のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的溶液と電気的に接触する作用電極と参照電極との間に、時変電位を印加し;
所定の間隔で前記作用電極及び参照電極の間で流れる電流をサンプリングし;
それぞれが電位の値及び相当する電流の値を含む複数のデータ点を導出し;
前記データ点を、それぞれ複数の連続するデータ点を含む複数の連続するグループに分割し;
それぞれのグループで、電流/電位の勾配のサインを決定し;及び
グループ間で電流/電位の勾配のサインが変化する一組のグループを見つけること、
を含む電気化学的検出方法。
【請求項2】
それぞれのグループの勾配が、それぞれのグループの最初のデータ点と最後のデータ点の間の線の勾配として決定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
それぞれのグループの勾配が、線形フィッティング手段によって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
さらに、一組のグループでどのデータ点が最高値であるかを検出する工程を含む、請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項5】
ゼロの勾配を有するグループが、所定のサインであるとみなされる、請求項1、2、3又は4記載の方法。
【請求項6】
前記一組のグループが、2つの隣接したグループを含む、請求項1、2、3、4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記一組のグループが、中間の1つはゼロの勾配を有する3つの隣接したグループを含む、請求項1、2、3又は4記載の方法。
【請求項8】
複数の連続する測定を平均化してそれぞれのデータ点を導く、請求項1〜7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記時変電位が、電位の線形的な増加又は減少である、請求項1〜8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記データ点が、所定の等しい間隔で行われた測定から導出される、請求項1〜9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記電極が、マイクロ電極、マイクロバンド電極又はマイクロ電極アレイである、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
電気化学的センサから導き出されるボルタンメトリーデータでピークを検出するためのコンピュータプログラムであって、プログラムが、コンピュータシステムで実行するとき、コンピュータシステムに;
時変電位を印加したとき、電気化学的セルから流れる電流のサンプルから、それぞれが電位の値及び相当する電流の値を含む複数のデータ点を導出すること;
前記データ点を、それぞれ複数の連続するデータ点を含む複数の連続するグループに分割すること;
それぞれのグループで、電流/電位の勾配のサインを決定すること;及び
グループ間で電流/電位の勾配のサインが変化する一組のグループを見つけること;
のステップ発効させるよう指示するコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【請求項13】
標的溶液と電気的に接触する作用電極と参照電極との間に電位を印加し及び両電極間を流れる電流をサンプリングするためのポテンシオスタットと;
ポテンシオスタットを制御して時変電位を印加し、並びに所定の間隔で、前記作用電極及び参照電極の間を流れる電流をサンプリングするためのコントローラと;
それぞれが電位の値及び相当する電流の値を含む複数のデータ点を導出するために配置されているデータ点発生器と;
前記データ点を、それぞれのグループが、複数の連続するデータ点を含む、複数の連続するグループに分割するために配置されているグループ発生器と;
それぞれのグループで電流/電位の勾配のサインを決定するために配置されている勾配の計算機と;及び
グループの間で電流/電位の勾配のサインが変化する一組のグループを見つけるために配置されている変曲点ロケータと、
を含む電気化学的検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−510156(P2008−510156A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526557(P2007−526557)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003050
【国際公開番号】WO2006/018600
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
2.ETHERNET
【出願人】(500472327)オックスフォード バイオセンサーズ リミテッド (19)
【Fターム(参考)】