説明

電気化学素子用電極、その製造方法、およびリチウムイオン電池

【課題】充電時の合金系活物質の膨張に伴う集電体の変形や集電体からの活物質層の剥離を抑制することにより、サイクル特性に優れ、高容量かつ高エネルギー密度の電気化学素子用電極およびリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【解決手段】一実施形態のリチウムイオン電池用負極10は、複数の凸部1aと平坦部1bとを有するシート状の負極集電体1と、負極活物質層2とを備える。負極活物質層2は合金系活物質から形成され、凸部1aに支持された柱状体2aと平坦部1bに配置された粒子2cを有する。粒子2cは、平坦部1bとの間の少なくとも一部に間隙Gを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用負極などに用いられる電気化学素子用電極、およびそれを用いたリチウムイオン電池に関し、詳しくは、合金系活物質を用いた電極構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポータブルコンピュータ、携帯電話などのポータブル機器の開発に伴い、その電源としての電池の需要が増大している。ポータブル機器用の電池には、高容量で、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れていることが要求される。そして、この要求を満たす電池として、リチウムイオン電池が注目されている。
【0003】
リチウムイオン電池の負極活物質は、一般に、黒鉛などの炭素系材料である。一方、高容量かつ高エネルギー密度の負極活物質が新たに開発されており、中でも合金化および脱合金化によってリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する合金系活物質が有望視されている。合金系活物質としては、ケイ素やスズの単体、酸化物、およびこれらの合金が知られている。
【0004】
しかし、合金系活物質は、リチウムイオンの吸蔵に伴って顕著に膨張する。これに対し、合金系活物質を含む活物質層を支持する銅箔などの集電体は、膨張および収縮をほとんど生じない材料である。このため、負極の充電によって合金系活物質がリチウムイオンを吸蔵し、顕著に膨張すると、集電体がその膨張に追従することができないために、大きな応力が発生して集電体に歪みが生じる。その結果、集電体に皺やうねりが生じたり、集電体の切断、集電体からの活物質層の剥離を生じたりする。また、集電体に歪みが生じると、負極と、セパレータおよび正極との間に空間が生じて充放電反応が不均一になるため、局部的な電池の特性低下を引き起こす懸念もある。さらに、活物質層が集電体から剥離すると、負極の電子伝導性が低下するため、充放電のサイクル特性が低下するおそれもある。
【0005】
一方、合金系活物質の膨張に伴う応力を緩和するために、活物質層の内部に空間を設けた構造が提案されている。具体的に、下記特許文献1には、平坦な集電体表面にシリコン薄膜を形成した後、エッチングプロセスを用いて部分的にシリコン薄膜を除去することにより、シリコン薄膜から形成された柱状凸部を備える負極を形成することが提案されている。このような構造によれば、柱状凸部間に空間を確保し、体積膨張をこの空間で収容することにより、集電体にかかる応力を緩和することができる。その結果、集電体の皺の発生を抑制できると記載されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、集電体表面に円柱状の開口を有するレジストパターンを形成し、上記開口内にSn合金などを電析させることにより、集電体上に活物質の柱状体を形成することが提案されている。こうして形成される構造によれば、充電時の活物質の体積膨張を柱状体間の空間によって緩和することができ、集電体と活物質との剥離を効果的に抑制することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−303586号公報
【特許文献2】特開2004−127561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された電極における柱状凸部は、平坦な集電体の表面に下地層を介して形成されている。この柱状凸部の上部は、活物質の膨張の際に隣接する柱状凸部と衝突するまで膨張し、衝突によって膨張が制限される。一方、柱状凸部の下部は、下地層と接触する底面でその膨張が制限される。そのため、柱状凸部の上部と下部の間で膨張量や応力にムラができてしまう。そして、その結果、柱状凸部の内部で不均一に応力が蓄積される。この不均一な応力の蓄積は、活物質が膨張収縮を繰返す場合において、集電体の変形や、集電体からの活物質の剥離を生じさせる原因になる。
【0009】
特許文献2に開示された電極における柱状体は、平坦な集電体の表面に直接形成されている。そして、柱状体以外の部位では集電体の表面が露出しており、この露出部は、対極と対向する。このため、充電時に正極から供給されるリチウムが、負極で活物質に吸蔵されず、集電体の露出部に析出されやすくなる。その結果、放電時には、リチウムが負極から効率良く放出されず、充放電効率が低下する。
【0010】
本発明は、充電時の合金系活物質の膨張に伴う集電体の変形や集電体からの活物質層の剥離を抑制することにより、サイクル特性に優れ、高容量かつ高エネルギー密度の電気化学素子用電極およびリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一局面の電気化学素子用電極は、複数の凸部と前記複数の凸部間に存在する平坦部とを有するシート状の集電体と、前記集電体上に形成された活物質層と、を備え、前記活物質層が、リチウムイオンを吸蔵および放出する合金系活物質から形成された、前記集電体の凸部に支持された柱状体と前記平坦部に配置された粒子とを有し、前記平坦部と前記粒子との間の少なくとも一部に間隙を有する。
【0012】
このような電気化学素子用電極によれば、複数の柱状体間に形成された空間を、電池の容量確保のために有効利用できる。すなわち、同じ量の合金系活物質を集電体に担持する場合において、容量確保を柱状体にのみ担わせるのではなく、平坦部に配置された粒子にも担わせることができる。これにより、柱状体をスリム化ができ、膨張により発生する応力を小さくすることができる。
【0013】
しかも、上記電気化学素子用電極は、特に放電状態において、平坦部と、粒子との間の少なくとも一部に間隙を有している。このため、充電時において、粒子の膨張によって集電体にかかる応力を小さくすることができる。これにより、集電体の変形を抑制し、電極が歪み、皺、伸びなどによるダメージを受けることを抑制できる。粒子は、充電時において、リチウムイオンの吸蔵に伴って膨張した柱状体や、集電体の平坦部と接触して、これらと電気的に接続されることから、たとえ放電時に集電体と接触していなくても、充放電への関与を阻害されることがない。なお、柱状体は、充電時においても、集電体の凸部上に固着された状態で維持される。
なお、間隙は粒子−集電体間の少なくとも一部に形成されていればよく、集電体上に薄膜状の活物質体が形成され、薄膜状の活物質体上に粒子が形成されていてもよい。
【0014】
さらに、集電体の平坦部に粒子が配置されることで、集電体の露出部を低減することができ、充電時にリチウムが集電体表面に析出することを抑制できる。その結果、上記電気化学素子用電極を用いることにより、電気化学素子のサイクル特性や信頼性が向上する。
【0015】
本発明の他の局面の電気化学素子用電極の製造方法は、複数の凸部と前記複数の凸部間に存在する平坦部とを有するシート状の集電体に対し、前記集電体表面の法線方向を挟んで互いに交差する2つ以上の方向から、リチウムイオンを吸蔵および放出する活物質材料を交互に蒸発させることにより、前記凸部の表面に支持された柱状体と前記平坦部の表面に支持された平坦部活物質体とを含む活物質層を形成する活物質層形成工程と、前記活物質層にリチウムイオンを吸蔵させる吸蔵工程と、前記活物質層からリチウムイオンを放出させる放出工程と、を含み、前記活物質形成工程が、さらに、前記活物質材料と反応するガスを主体とした第1雰囲気下で前記活物質材料を蒸発させることによって、前記凸部の表面に柱状体第1領域を形成し、かつ前記平坦部の表面に平坦部活物質体第1領域を形成する第1工程と、前記活物質材料と反応しないガスを主体とした第2雰囲気下で前記活物質材料を蒸発させることによって、前記柱状体第1領域の表面に柱状体第2領域を形成し、かつ前記平坦部活物質体第1領域の表面に平坦部活物質体第2領域を形成する第2工程と、を有する。
【0016】
このような電気化学素子用電極の製造方法によれば、集電体の凸部に活物質材料からなる複数の柱状体を形成するだけでなく、複数の柱状体間に形成された空間部分にも、活物質材料からなる粒子を形成することができる。これにより、集電体上の空間を電池の容量確保のために有効利用できる。
【0017】
また、平坦部に平坦部活物質体を形成した後、充放電(活物質層に対するリチウムの吸蔵および放出の操作)を1回行うことによって、集電体の平坦部に半球状の粒子を形成することができ、さらに、集電体と粒子間の少なくとも一部に間隙を形成することができる。従って、2回目以降の充放電時において、粒子の膨張および収縮によって集電体にかかる応力を小さくすることができる。そして、これにより、集電体の変形を抑制することができ、電極の歪み、皺、伸びなどによるダメージを抑制できる。粒子は、その後の充電時に膨張して、柱状体や集電体の平坦部と接触し、電気的に接続されることから、たとえ放電時に集電体と接触していなくても、充放電への関与を阻害されることがない。
【0018】
また、この製造方法によれば、集電体の平坦部に粒子が形成されることから、集電体の露出部を低減させることができる。これにより、充電時にリチウムが集電体表面に析出することを抑制でき、その結果、電気化学素子のサイクル特性や信頼性が向上する。
【0019】
本発明の他の局面のリチウムイオン電池は、上記電気化学素子用電極と、リチウムイオンを吸蔵および放出する正極と、上記電気化学素子用電極および上記正極を隔離するセパレータと、リチウムイオン伝導性を有する電解質と、を備える。
【0020】
このようなリチウムイオン電池によれば、負極としての電気化学素子用電極における合金系活物質が充電によってリチウムを吸蔵し、顕著に膨張した場合であっても、集電体の変形、および凸部からの柱状体の剥離が抑制される。また、上記電気化学素子用電極は、上記柱状体間の空間内に粒子を備えており、電気化学素子用電極表面における合金系活物質の密度が高くなっていることから、この電気化学素子用電極を負極として用いることにより、リチウムイオン電池が極めて高容量で、かつ高エネルギー密度となる。
【0021】
しかも、上記リチウムイオン電池の負極は、特に放電状態において、集電体の平坦部と粒子との間の少なくとも一部に間隙を有することから、充電時の膨張に伴う集電体の変形が抑制されている。また、上記電気化学素子用電極は、集電体の露出部が低減されており、充電時にリチウムが集電体表面に析出することが抑制されている。これらの結果、上記電気化学素子用電極を負極として用いることにより、リチウムイオン電池のサイクル特性や信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、充電時の合金系活物質の膨張に伴う集電体の変形や集電体からの活物質層の剥離が抑制される。これにより、リチウムイオン電池などの電気化学素子を、サイクル特性および信頼性に優れたものとし、しかも、容量が大きく、エネルギー密度が高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】実施形態におけるリチウムイオン電池用負極の作製直後を示す断面模式図である。
【図1B】図1Aのリチウムイオン電池用負極におけるリチウムの吸蔵状態を示す断面模式図である。
【図1C】図1Aのリチウムイオン電池用負極におけるリチウムの放出状態を示す断面模式図である。
【図2】活物質層の形成装置の一例を示す概略断面図である。
【図3】活物質層の形成方法を模式的に示す説明図である。
【図4】活物質層にリチウム金属を付与する装置の一例を示す概略断面図である。
【図5】実施形態におけるリチウムイオン電池を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る電気化学素子用電極の好ましい実施形態を、リチウムイオン電池用負極を例に挙げて説明する。
【0025】
図1A、図1Bおよび図1Cは、本実施形態のリチウムイオン電池用負極10の断面図であって、順に、負極活物質層2の作製直後、リチウムの吸蔵状態および放出状態を示す。
【0026】
作製直後において、リチウムイオン電池用負極10は、複数の凸部1aおよび複数の凸部1a間に存在する平坦部1bを有するシート状の負極集電体1と、負極集電体1上に形成された負極活物質層2と、を備えている。負極活物質層2は、リチウムイオンを吸蔵および放出する合金系活物質から形成された、凸部1aに支持された柱状体2aと平坦部1bに配置された平坦部活物質体2bとを含む(図1A参照)。
【0027】
1回目のリチウムの吸蔵および放出後において、負極活物質層2は、微視的には、柱状体2aと粒子2cとの集合体であって、隣接する柱状体2a間に形成される空間Sを備えている(図1C参照)。
負極活物質層2の空隙率、すなわち負極活物質層2中での空間Sの体積割合は、放電状態(図1C)において、10〜70%、好ましくは、15〜60%、さらに好ましくは、20〜55%である。空隙率が10%以上であれば、柱状体2aの膨張による応力を緩和することができる。さらに、柱状体2aおよび粒子2cと、電解質との接触面積を十分に確保することができる。空隙率が70%を上回っても、負極活物質層2としての使用は妨げられない。しかしながら、負極10のエネルギー密度が小さくなるため、負極活物質層2を厚くする必要がある。負極活物質層2の空隙率は、例えば、水銀圧入式ポロシメータを用いて測定することができる。
【0028】
負極活物質層2の空隙率が高すぎる場合には、負極活物質層2中での粒子2cの体積割合が低いともいえる。このような場合には、負極活物質層2において、隣接する柱状体2a同士の間に形成される空間の有効利用ができておらず、粒子2cによる容量確保の寄与が小さい。一方、負極活物質層2の空隙率が低すぎる場合には、負極活物質層2中での粒子2cの体積割合が高いともいえる。このような場合には、柱状体2a間に体積膨張を収容するだけの空間を確保しにくい。
【0029】
柱状体2aについて、負極集電体1の凸部1aから頂部までの負極集電体1の法線に沿った高さ(以下、これを単に「柱状体2aの高さ」という。)は、作製直後において、好ましくは1〜50μmであり、さらに好ましくは6〜20μmである。柱状体2aの高さが1μm以上であれば、柱状体2aに十分なエネルギー密度を確保することができる。このため、合金系活物質本来の高容量特性を十分に発揮させることができる。一方、柱状体2aの高さが50μm以下であれば、柱状体2aおよび平坦部活物質体2bが、隣接する柱状体2aによって遮蔽され、充電時にリチウムイオンが到達しなくなる領域が出現することを抑制できる。また、個々の柱状体2aにおける集電抵抗を低く抑制できることから、特にハイレートでの充放電において有利となる。なお、柱状体2aの高さは、放電状態において、好ましくは2〜70μmであり、さらに好ましくは12〜40μm程度である。
【0030】
平坦部活物質体2bについて、負極集電体1の平坦部1bから負極集電体1の法線に沿った最大高さは、作製直後において、好ましくは1.5〜10μmであり、さらに好ましくは2〜6μmである。作製直後の平坦部活物質体2bの最大高さが1.5μm以上であれば、平坦部活物質体2bに十分なエネルギー密度を確保することができ、さらに、負極集電体1表面が露出することを抑制できる。一方、作製直後の平坦部活物質体2bの高さが10μmを超えると、充電状態において隣接する柱状体2aとの間で過大な応力が生じるおそれがある。
【0031】
また、作製直後の平坦部活物質体2bの最大高さは、作製直後の柱状体2aの高さに対し、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは15〜40%である。作製直後において、平坦部活物質体2bの最大高さが柱状体2aの高さに比べて低すぎる場合には、平坦部活物質体2bによる容量確保の寄与が小さくなり、特に充電時には、柱状体2aの下部を十分に支えて応力を分散させる効果が小さくなるおそれがある。一方、高すぎる場合には、充電状態において隣接する柱状体2aとの間で過大な応力が生じるおそれがある。
【0032】
また、放電状態において、粒子2cの最大高さは、好ましくは3〜20μmであり、さらに好ましくは3〜15μm程度である。放電状態における粒子2cの高さが3μm以上であれば、粒子2cに十分なエネルギー密度を確保することができ、さらに、負極集電体1表面が露出することを抑制できる。一方、放電状態における粒子2cの高さが20μmを超えると、充電状態において隣接する柱状体2aとの間で過大な応力が生じるおそれがある。
【0033】
上記リチウムイオン電池用負極10において、柱状体2aは、凸部1aと接し、作製直後の組成がSiOx(0.2≦x≦1.5)で表される柱状体第1領域と、この柱状体第1領域と接し、作製直後の組成がSiOy(0.1≦y≦0.5、y<x)で表される柱状体第2領域と、を有する。また、平坦部活物質体2bは、平坦部1bと接し、作製直後の組成がSiOx(xは上記と同じ)で表される平坦部活物質体第1領域と、この平坦部活物質体第1領域と接し、作製直後の組成がSiOy(yは上記と同じ)で表される平坦部活物質体第2領域と、を有している。
【0034】
活物質層2の作製直後において、平坦部活物質体第1領域の厚み(法線方向に沿った高さ)e1と、平坦部活物質体第2領域の厚み(法線方向に沿った高さ)e2との比e1/e2は、0.03〜0.60、好ましくは0.10〜0.50である。比e1/e2が0.03以上であれば、充放電時の合金系活物質の体積変化を利用して、負極集電体1の平坦部1bとの界面および柱状体2aから、平坦部活物質体2bを分離させ、粒子2cを形成することができる。これにより、放電状態において、負極集電体1の平坦部1bと粒子2cとの間の少なくとも一部に、間隙Gが形成される。また、その結果、粒子2cの膨張に伴って負極集電体1に皺が生じたり、負極集電体1が切断したりすることを抑制できる。また、比e1/e2が0.60以下であれば、粒子2cに十分なエネルギー密度を確保することができ、信頼性の高い充放電サイクル特性を得ることができる。
【0035】
柱状体2aおよび粒子2cを形成する、リチウムイオンを吸蔵および放出する合金系活物質としては、従来から知られた、ケイ素やスズの単体、酸化物、およびこれらの合金などが挙げられる。これらは、特に限定されないが、中でも、SiOx(0≦x<2)で表される酸化ケイ素は、膨張および収縮によって生じる、上記第1領域と上記第2領域との界面での膨張率の差を少なくするという点から好ましい。xの値は、後述するリチウムイオン電池用負極10の製造方法に応じて、適宜設定される。
【0036】
次に、このようなリチウムイオン電池用負極10の製造方法の一例について、詳しく説明する。
リチウムイオン電池用負極10は、複数の凸部1aを備える負極集電体1の表面に、リチウムイオンを吸蔵および放出する合金系活物質を被着させて、柱状体2aおよび平坦部活物質体2bを成長させた後、充放電によりリチウムを吸蔵および放出させることによって得られる。
【0037】
負極集電体1は、例えば、凸部1aの形状に対応した凹部を表面に備える鋼鉄製ローラでシート状の集電体材料をプレスすることによって形成することができる。集電体材料としては、銅箔、銅合金箔などの、従来から負極集電体として用いられているものが特に限定なく用いられる。
【0038】
凸部1aの高さは特に限定されないが、後述する斜方蒸着プロセスを用いて柱状体2aおよび平坦部活物質体2bを成長させる場合には、3〜15μm、さらには、5〜10μmであることが好ましい。凸部1aの高さが低すぎる場合には、斜方蒸着プロセスにおけるシャドウイング(陰影)効果が現れにくくなって平坦部1bに被着する合金系活物質の割合が高くなりすぎる。それにより柱状体2a間に空間が形成されにくくなる傾向がある。また、凸部1aの高さが高すぎる場合には、平坦部1bに被着する合金系活物質の割合が低くなりすぎて、平坦部活物質体2bが形成されにくくなる傾向がある。
【0039】
凸部1aの形状は特に限定されず、柱状、錐状、台形状などが挙げられる。また、凸部1aの配置パターンも特に限定されず、格子状、千鳥状のような規則性をもった配置の他、規則性のないランダムな配置であってもよい。
【0040】
負極集電体1表面に占める平坦部1bの面積割合は、50〜90%、さらには、60〜80%であることが好ましい。平坦部1bの面積割合が低すぎる場合には、隣り合う柱状体2a同士の間に十分な空間を維持することができず、そのために平坦部活物質体2bを形成しにくくなる傾向がある。また、平坦部の面積割合が高すぎる場合には、斜方蒸着プロセスにおけるシャドウイング(陰影)効果が現れにくくなって柱状体2aと平坦部活物質体2bの体積バランスが悪くなる傾向がある。
【0041】
リチウムイオン電池用負極10は負極集電体1の表面に、リチウムイオンを吸蔵および放出する合金系活物質を所定の条件で斜方蒸着することにより、柱状体2aおよび平坦部活物質体2bを成長させることにより得られる。
【0042】
具体的には、図2に示すような蒸着装置30を用いて斜方蒸着することにより形成することができる。
この蒸着装置30の真空チャンバ32内において、負極集電体1は、第1ローラ38と第2ローラ39との間を走行する。そして、第1の蒸着領域34および第2の蒸着領域35を通過する間に、柱状体2aおよび平坦部活物質体2bが成長する。負極集電体1は各ローラ38、39間を必要に応じて往復させる。各蒸着領域34、35を通過する回数は、柱状体2aおよび平坦部活物質体2bに要求される高さに応じて、適宜設定される。
【0043】
第1の蒸着領域34および第2の蒸着領域35の下方に配置されたカーボン製のるつぼ33には、蒸発源33aとしての蒸着材料が保持される。蒸着時には、図示しない電子銃から蒸発源33aに向けて電子ビームが照射され、蒸着材料が加熱される。柱状体2aおよび平坦部活物質体2bの成長は、るつぼ33の上面から蒸発された蒸着材料を負極集電体1の表面に入射させることにより行われる。
【0044】
第1のガスノズル36および第2のガスノズル37は、それぞれ図示しないガス配管に接続し、ガス配管は、マスフローコントローラを経由してガスボンベと接続する。各ノズル36、37は、それぞれ、各蒸着領域34、35を走行する負極集電体1の蒸着面に向かって配置される。
【0045】
本実施形態におけるリチウムイオン電池用負極10の製造においては、従来の負極活物質の斜方蒸着に比べて原料ガスの流量を大きくしたり、真空チャンバ32内の圧力を高めに設定したり、電子ビームの加速電圧を一定にして電流を調整したりすることによって、図3に示すように、蒸発源33aから飛翔してくる原料原子40を、不活性ガス41や他の原料原子(酸素原子など)と衝突させる。そして、衝突により、蒸発源から飛翔してくる原料原子40の負極集電体1表面に対する入射方向に変化をつける。このようにすることにより、凸部1aの影になって原料原子40が入射しにくい平坦部1bに対し、原料原子40を十分に届けることができる。それにより、凸部1aを中心として柱状体2aが成長し、平坦部1bにおいて平坦部活物質体2bが成長する。
【0046】
柱状体2aおよび平坦部活物質体2bの形成は、下記の第1の成膜段階と第2の成膜段階との2段階に分けて行う。
【0047】
<第1の成膜段階>
各ノズル36、37から酸素ガスを真空チャンバ32内に供給する。このとき、排気ポンプ31によって真空チャンバ32内の圧力(第1雰囲気の圧力)を、0.005〜0.1Pa(abs)、特に好ましくは、0.01〜0.1Pa(abs)となるように調整する。酸素ガスの供給量は、活物質の組成がSiOx(0.2≦x≦1.5)で表される範囲となるように設定する。
【0048】
次いで、負極集電体1を搬送して、各蒸着領域34、35を通過させることにより、負極集電体1の各凸部1aおよび平坦部1b上にそれぞれ活物質を堆積させる。負極集電体1を第1ローラ38から第2ローラ39へと搬送した後、逆方向に搬送する。このようにして、正方向および逆方向への負極集電体1の搬送を、柱状体第1領域および平坦部活物質体第1領域が所望の厚みになるまで交互に繰り返す。
【0049】
<第2の成膜段階>
各ノズル36、37からHe、Ne、Arなどの不活性ガスまたはN2、CO2、CO、H2などを導入するか、あるいは酸素ガスの流量を第1の成膜段階よりも少なく設定する。真空チャンバ32内の圧力(第2雰囲気の圧力)は、0.005〜0.1Pa(abs)、特に好ましくは、0.005〜0.05Pa(abs)となるようにガス流量を調整し、さらに、電子ビームのパワーを適宜調整する。酸素ガスの供給量は、活物質の組成がSiOy(0.1≦y≦0.5、y<x)で表される範囲に設定される。
【0050】
次いで、負極集電体1を搬送して、各蒸着領域34、35を通過させることにより、負極集電体1の柱状体第1領域上および平坦部活物質体第1領域上に、それぞれ活物質を堆積させる。負極集電体1を第1ローラ38から第2ローラ39へと搬送した後には、逆方向に搬送する。このようにして、正方向および逆方向への負極集電体1の搬送を、柱状体第2領域および平坦部活物質体第2領域が所望の厚さになるまで交互に繰り返す。
【0051】
柱状体2aおよび平坦部活物質体2bの各第1領域において、活物質の組成は、酸素含有量が比較的高い酸化ケイ素からなっている。このため、凸部1aと柱状体2aとの被着の強度や、平坦部1bと平坦部活物質体2bとの被着の強度は、いずれも大きくなる。
【0052】
一方、柱状体2aおよび平坦部活物質体2bの各第2領域において、活物質の組成は、酸素含有量が比較的低い酸化ケイ素(またはケイ素単体)からなっている。このため、各第1領域との被着の強度を維持しながら、負極活物質層2全体の容量を向上させることができる。
【0053】
各第1領域を形成する活物質の組成は、SiOx(0.2≦x≦1.5)である。このxの値が0.2以上であれば、充電に伴う膨張の程度をSi単体の場合に比べて小さくすることができ、負極集電体1界面への応力を低減することができる。xが1.5を上回ると、各第2領域を形成する活物質との間で酸素含有量の差が大きくなる。その結果、各第1領域と各第2領域との応力差が大きくなり、柱状体2aや平坦部活物質体2b(リチウムの吸蔵および放出後における粒子2c)が、各領域の界面で剥離するおそれがある。
【0054】
各第2領域を形成する活物質の組成は、SiOy(0.1≦y≦0.5、y<x)である。このyの値が0.1以上であれば、充電に伴う膨張をSi単体の場合に比べて小さくすることができ、各第1領域との界面で応力を低減させることができる。また、yが0.5以下であれば、柱状体2aや平坦部活物質体2bの容量を高くすることができる。
【0055】
xおよびyの値は、負極活物質層2の断面を波長分散型X線分光(WDS)によって定量分析することによって、求めることができる。また、WDSの結果に基づいて、柱状体2aおよび平坦部活物質体2bのそれぞれについて、第1領域と第2領域との間のおよその境界を求めることができる。
【0056】
本実施形態におけるリチウムイオン電池用負極10において、負極活物質層2を形成する合金系活物質は、上述のとおり、充電によって一旦吸蔵したリチウムイオンの全てが放電によって放出されず、合金系活物質内に残留して不可逆容量となる。この不可逆容量は、負極活物質層2に対する最初の充電の一部を無駄にする。そこで、負極活物質層2の形成後に、柱状体2aや平坦部活物質体2bに対し、予めリチウムを蒸着して吸蔵させる処理が行われる。
【0057】
リチウムの蒸着には、具体的には、図4に示す真空蒸着装置を用いることができる。
図4に示す真空蒸着装置50のチャンバ52内において、巻出しローラ54と巻取りローラ55との間に負極10を移動させながら、負極10の負極活物質層2上に金属リチウム56を蒸着する。リチウム付与源60は、金属リチウム56を保持し、近接して走行する負極10に面して開口部を有している。リチウム付与源60は図示しない加熱機構によって加熱されている。加熱方法には誘導加熱、抵抗加熱、その他各種方法を用いることができる。加熱された金属リチウム56は、溶解状態で保持された後に、所定のリチウム成膜速度に対応するリチウム蒸発をするために、さらに加熱される。加熱によって発生したリチウム蒸気は、第1キャン57および第2キャン58の周面に沿って走行する負極10における活物質層2の表面に向かって入射する。これにより、柱状体2aおよび平坦部活物質体2bに対して、リチウムを付与することができる。負極活物質層2が負極10の一方の表面にのみ形成されている場合には、リチウムの蒸着を第1キャン57および第2キャン58のいずれか一方のみで行う。
【0058】
このとき、負極10の負極活物質層2に付与するリチウム量は、好ましくは、負極活物質層2における不可逆容量の60〜100%であり、さらに好ましくは、80〜100%である。リチウムの付与量が不可逆容量の60%以上であれば、不可逆容量の残存を減らして、放電状態において粒子2cを負極集電体1から分離させることができる。不可逆容量の100%を上回る量のリチウムを付与しても、不可逆容量の残存をなくすことに寄与をせず、無駄になる。むしろ、リチウムの付与量が極端に過剰になることで、負極活物質層2表面への金属リチウムの析出を招くおそれがある。
なお、不可逆容量分のリチウムは、電池構成前の負極に対し、電解質中で電気化学的に付与することも可能である。
【0059】
次に、このようにして得られたリチウムイオン電池用負極10を用いたリチウムイオン電池の好ましい実施形態を説明する。
【0060】
図5を参照して、本実施形態のリチウムイオン電池11を説明する。図5に示すリチウムイオン電池11は、いわゆる積層ラミネート型であって、リチウムイオン電池用負極10、正極12、およびこれらを隔離するセパレータ13からなる電極群と、リチウムイオン伝導性を有する電解質と、を備える。電極群と、リチウムイオン伝導性を有する電解質(以下、単に「電解質」という。)とは、外装ケース14の内部に収容されている。リチウムイオン電池用負極10は、負極集電体1と、負極集電体1上に形成された負極活物質層2とを有する。正極12は、正極集電体17と、正極集電体17上に形成された正極活物質層18とを有する。集電体1および正極集電体17には、それぞれ負極リード19および正極リード20の一端が接続されており、各リード19、20の他端は、外装ケース14の外部に導出されている。外装ケース14は、樹脂フィルムにアルミニウム箔をラミネートしたラミネートフィルムであって、その開口部21は、樹脂材料からなるガスケット22によって封止されている。
【0061】
本実施形態における正極としては、正極活物質と、必要に応じて、各種の導電剤および結着剤とを、適切な分散媒に分散させた正極合剤を、正極集電板の表面に塗布し、乾燥させたものが挙げられる。
【0062】
正極活物質としては、コバルト酸リチウムおよびその変性体(コバルト酸リチウムにアルミニウムやマグネシウムを固溶させたものなど)、ニッケル酸リチウムおよびその変性体(一部ニッケルをコバルト置換させたものなど)、マンガン酸リチウムおよびその変性体などの複合酸化物を挙げることができる。
【0063】
導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックや、各種グラファイトが挙げられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリレート単位を有するゴム粒子などが挙げられる。これら導電剤および結着剤は、上記例示の成分を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0064】
本実施形態におけるセパレータ、および非水電解質としては、特に限定されず、この分野で公知の各種の材料を用いることができる。
また、リチウムイオン電池の組立て方法は、特に限定されず、この分野で公知の各種の方法を採用することができる。
【0065】
以上の説明では、本発明の実施形態を、リチウムイオン電池用負極を例に挙げて説明したが、本発明の電気化学素子用電極はこれに限定されず、例えば、リチウムイオンキャパシタにおける負極などが挙げられる。
【実施例】
【0066】
[実施例1]
(1)負極集電体の作製
厚さ26μmの合金銅箔(Zr添加量0.02質量%、日立電線(株)製)を一対の鋼鉄製ローラでプレスして、両面に複数の凸部1aを有する負極集電体1を作製した。鋼鉄製ローラには、その表面に、底面が略菱形の凹部を複数有するものを用いた。プレス時の線圧は、1000kgf/cm(約9.81kN/cm)とした。
凸部1aは、負極集電体1の表面で千鳥状に配置されるように形成された。凸部1aは、頂部が略菱形の角柱状であって、高さは10μmであった。また、凸部1aの頂部の菱形は、対角線の長辺側の長さが28μm、短辺側の長さが14μmであった。隣り合う凸部1aの間隔は21μmであった。
【0067】
(2) 負極の作製
次に、図2に示す蒸着装置30を用いて、負極集電体1の凸部1a側の表面に、合金系活物質を蒸着させることにより、活物質層を形成した。蒸着源には、純度99.9999%のケイ素を用いた。柱状体2aおよび平坦部活物質体2bの形成は、下記の第1の成膜段階と第2の成膜段階との2段階に分けて行った。
【0068】
<第1の成膜段階>
各ノズル36、37から酸素ガスを400sccmの流量で真空チャンバ32内に供給し、排気ポンプ31によって真空チャンバ32内の圧力を0.037Pa(abs)となるように調整した。第1および第2ローラ38、39間において、負極集電体1の搬送速度は10m/minとした。そして、第1および第2の蒸着領域34、35において、それぞれ1回通過したときの成膜量は、柱状体第1領域について0.2μmとなるように、平坦部活物質体第1領域について0.06μmとなるように、それぞれ調整した。負極集電体1を第2ローラ39に巻き取った後、第1ローラ38に向かって逆方向に搬送させて、柱状体第1領域および平坦部活物質体第1領域をさらに堆積させた。さらに、負極集電体1の搬送を、第1ローラ38から第2ローラ39へと向かう正方向と、これと反対向きの逆方向とで、交互に繰り返して、柱状体第1領域の高さが2.8μmとなるまで、蒸着を行った。
【0069】
この第1の成膜段階を経ることによって、負極集電体1の凸部1a上に柱状体第1領域が形成され、平坦部1b上に平坦部活物質体第1領域が形成された。各第1領域を構成する活物質の組成は、SiOx(x=1.2)であった。
【0070】
<第2の成膜段階>
各ノズル36、37からHeガスを700sccm導入し、排気ポンプ31によって真空チャンバ32内の圧力を0.01Pa(abs)となるように調整した。このように、第2の成膜段階を0.01Paで行うことによって、平坦部に活物質を多く付着させることができた。この第2の成膜段階では、酸素ガスを導入せずに、真空チャンバ32内へのHeガスの導入量によって第2雰囲気の真空度を調整した。
【0071】
第1および第2ローラ38、39間において、負極集電体1の搬送速度は10m/minとした。そして、第1および第2の蒸着領域34、35において、それぞれ1回通過したときの成膜量は、柱状体第2領域について、0.4μmとなるように、平坦部活物質体第2領域について0.06μmとなるように、それぞれ調整した。負極集電体1を第2ローラ39に巻き取った後、第1ローラ38に向かって逆方向に搬送させて、柱状体第2領域および平坦部活物質体第2領域をさらに堆積させた。さらに、負極集電体1の搬送を、第1ローラ38から第2ローラ39へと向かう正方向と、これと反対向きの逆方向とで、交互に繰り返した。蒸着は、柱状体第1領域上に高さ11μmの柱状体第2領域が形成されるまで繰り返した。
【0072】
この第2の成膜段階を経ることによって、柱状体第1領域上に柱状体第2領域が形成され、平坦部活物質体第1領域上に平坦部活物質体第2領域が形成された。各第2領域を構成する活物質の組成は、SiOy(y=0.1)であった。
【0073】
また、平坦部活物質体第1領域の厚みe1と、平坦部活物質体第2領域の厚みe2との比e1/e2は0.33であった。作製直後において、柱状体2a全体の高さは14μmであって、平坦部活物質体2b全体の高さは2.5μmであった。
【0074】
(3)正極の作製
平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)100質量部と、導電剤としてのアセチレンブラックを3質量部混合した。得られた混合物に、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン溶液を、PVdFの質量に換算して4質量部加えて練合し、ペースト状正極合剤を得た。この正極合剤を、アルミニウム箔からなる厚み15μmの正極集電体17の片面に塗布し、乾燥させて、正極活物質層18を形成した。乾燥後、正極活物質層18の厚みが85μmとなるように圧延して、正極12を得た。
【0075】
(4)積層ラミネート型リチウムイオン電池の作製
負極10および正極12の間に、セパレータ13としてのポリエチレン製微多孔膜(商品名:ハイポア、厚さ20μm、旭化成株式会社製)を介在させて積層し、電極群を作製した。次に、ポリプロピレンからなるタブが形成されたニッケル製負極リード19の一端を、負極10のリード取付け部に溶接した。また、ポリプロピレンからなるタブが形成されたアルミニウム製正極リード20の一端を、正極12のリード取付け部に溶接した。この電極群を、アルミニウムラミネートシートからなる外装ケース14に挿入した。次に、負極リード19および正極リード20を、各タブがガスケット22となるように、外装ケース14の開口部から外部へと導出させて、外装ケース14の開口部21を溶着し、真空封口した。電解液は、真空封口前に、外装ケースの一方の開口部21から注液した。こうして目的とする積層ラミネート型リチウムイオン電池11を得た。
【0076】
電解液には、エチレンカーボネートと、エチルメチルカーボネートと、ジエチルカーボネートとを、体積比3:5:2の割合で含む混合溶媒に、LiPF6を溶解させた非水電解液を用いた。LiPF6の濃度は1mol/Lとした。
【0077】
(5)充放電工程(リチウムを吸蔵させる工程および放出させる工程)
作製した積層ラミネート型リチウムイオン電池11を、1mA/cm2の電流で両極間電圧が4.2Vになるまで充電し、充電状態とした。図1Bに示すように、柱状体2aは充電時に膨張し、負極集電体1の表面に沿った方向において、隣接する柱状体2aが互いに接触した。また、平坦部活物質体2bも充電状態において膨張し、平坦部1bの表面から外方へと向かう方向で、隣接する柱状体2aの底部と接触した。これにより、平坦部1b表面から隣接する柱状体2a同士の最近接位置までの高さにおいて各柱状体2a間に形成される空間は、膨張した平坦部活物質体2bによって充填された。充電状態における負極10の表面および断面の状態は、SEMで観察し、評価した。
【0078】
次に、充電後の積層ラミネート型リチウムイオン電池11を、1mA/cm2の電流で両極間電圧が2Vになるまで放電し、放電状態とした。
放電状態において、負極10の表面および断面の状態をSEMで観察した。図1Cに示すように、平坦部活物質体2bは柱状体2aから分離し、半球状の粒子2cが形成された。また、粒子2cが形成されることによって、粒子と集電体間に間隙Gが形成された。
【0079】
柱状体2aの高さは26μmであって、粒子2cの頂部の高さは4.5μmであった。粒子2cは、平坦部1b表面から隣接する柱状体2a同士の最近接位置までの高さにおいて、各柱状体2a間に形成される粒子収容領域内に存在しており、柱状体2aと粒子2cとは、互いに接触せずに、一定の空間を保っていた。
【0080】
また、放電状態において、負極活物質層2の空隙率を、水銀ポロシメータ((株)島津製作所製、オートポアIII−9410)を用いて測定した。その結果、負極活物質層2の空隙率は40%であった。
【0081】
(6)サイクル特性の評価
積層ラミネート型リチウムイオン電池11に対し、充放電サイクルを25℃で繰り返した。充電は、最大電流を600mA、上限電圧を4.2Vとし、定電流、定電圧充電を2時間30分行った。充電後の休止時間は10分間とした。放電は、放電電流を850mA、放電終止電圧を2.5Vとし、定電流放電を行った。放電後の休止時間は10分間とした。そして、3サイクル目の放電容量W3[mAh]と、500サイクル経過時の放電容量W500[mAh]とから、W500/W3×100で表される値をサイクル容量維持率[%]とした。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例2および比較例1〜3]
第2の成膜段階における真空チャンバ32内の圧力を下記の表1に示す値に設定したこと以外は、実施例1と同様にして、負極活物質層2を形成した。
【0083】
実施例1と、実施例2および比較例1〜3とについて、第2の成膜段階における真空チャンバ32内の圧力(第2雰囲気の圧力)、平坦部活物質体第2領域の厚み、平坦部活物質体第1領域の厚みe1と平坦部活物質体第2領域の厚みe2との比e1/e2、放電状態における粒子2cの形成の有無、平坦部1bにおける金属リチウムの析出の有無(Liの析出)、およびサイクル容量維持率の評価結果を、それぞれ表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
*1:比較例3において、平坦部活物質体2bの厚みは、部分的に0であった。
【0086】
比較例1では、第2の成膜段階において、真空チャンバ内の圧力が0.1Pa(abs)を上回ったことから、平坦部活物質体第2領域の厚みが10μmを超えた。また、平坦部活物質体2bについて、厚みの比e1/e2が0.03を下回り、隣接する柱状体2a間の空間が低下した。その結果、繰り返し充放電を行うと、柱状体2aに割れなどのダメージが発生し、サイクル特性が劣化した。さらに、負極集電体1の歪みによって皺や電極が伸びるという問題が生じた。
【0087】
比較例2では、真空チャンバ内の圧力が0.005Pa(abs)を下回ったことから、平坦部活物質体第2領域の厚みが1.5μm以下となった。また、平坦部活物質体2bについて、厚み比e1/e2が0.60を上回ったため、充放電時の体積変化は小さくなり、負極集電体1の平坦部1bの表面において平坦部活物質体2bが密着した状態で保持された。その結果、平坦部活物質体2bと負極集電体1との接触面積が大きくなって、充放電の繰り返しによって負極集電体1に歪みが生じた。
【0088】
また、比較例3では、負極集電体1の平坦部1b上において、平坦部活物質体2bが部分的に形成されなかった。その結果、負極集電体1の平坦部1b表面が露出し、充電時に正極活物質から供給されるリチウムが析出しやすくなった。このことにより、放電時には、リチウムが負極から効率よく放出されなくなって、充放電効率が低下した。
【0089】
以上の結果により、膨張および収縮の大きな合金系活物質を用いて、充放電サイクル特性などの高い信頼性を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る電気化学素子用電極は、ケイ素などからなる活物質の特徴である高い充放電容量を維持しつつ、優れた充放電サイクル特性および安全性を有するリチウムイオン電池を提供することができ、リチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子にも利用が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 負極集電体、 1a 凸部、 1b 平坦部、 2 負極活物質層、 2a 柱状体、 2b 平坦部活物質体、 2c 粒子、 10 リチウムイオン電池用負極、 11 リチウムイオン電池、 12 正極、 13 セパレータ、 14 外装ケース、 17 正極集電体、 18 正極活物質層、 19 負極リード、 20 正極リード、 21 開口部、 22 ガスケット、 30 真空蒸着装置、 31 排気ポンプ、 32 真空チャンバ、 33 るつぼ、 33a 蒸発源、 34 第1の蒸着領域、 45 第2の蒸着領域、 36 第1のガスノズル、 37 第2のガスノズル、 38 第1ローラ、 39 第2ローラ、 40 原料原子、 41 不活性ガス、 50 リチウム付与用蒸着装置、 51 排気ポンプ、 52 真空チャンバ、 54 巻出しローラ、 55 巻取りローラ、 56 リチウム源、 57 第1キャン、 58 第2キャン、 60 リチウム付与源、 G 間隙、 S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学素子用電極であって、
複数の凸部と前記複数の凸部間に存在する平坦部とを有するシート状の集電体と、前記集電体上に形成された活物質層と、を備え、
前記活物質層が、リチウムイオンを吸蔵および放出する合金系活物質から形成された、前記集電体の凸部に支持された柱状体と前記平坦部に配置された粒子とを有し、
前記平坦部と前記粒子との間の少なくとも一部に間隙を有する、電気化学素子用電極。
【請求項2】
放電状態において、前記集電体と前記粒子との間の少なくとも一部に間隙を有する、請求項1に記載の電気化学素子用電極。
【請求項3】
前記活物質層の空隙率が、放電状態において10〜70%である、請求項1または2に記載の電気化学素子用電極。
【請求項4】
前記粒子の頂部の高さが、放電状態において3〜20μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極。
【請求項5】
前記粒子が、放電状態において半球状である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極。
【請求項6】
前記合金系活物質が、ケイ素酸化物を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極。
【請求項7】
リチウムイオン電池用負極である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極。
【請求項8】
複数の凸部と前記複数の凸部間に存在する平坦部とを有するシート状の集電体に対し、前記集電体表面の法線方向を挟んで互いに交差する2つ以上の方向から、リチウムイオンを吸蔵および放出する活物質材料を交互に蒸発させることにより、前記凸部の表面に支持された柱状体と前記平坦部の表面に支持された平坦部活物質体とを含む活物質層を形成する活物質層形成工程と、
前記活物質層にリチウムイオンを吸蔵させる吸蔵工程と、
前記活物質層からリチウムイオンを放出させる放出工程と、を含み、
前記活物質形成工程が、さらに、
前記活物質材料と反応するガスを主体とした第1雰囲気下で前記活物質材料を蒸発させることによって、前記凸部の表面に柱状体第1領域を形成し、かつ前記平坦部の表面に平坦部活物質体第1領域を形成する第1工程と、
前記活物質材料と反応しないガスを主体とした第2雰囲気下で前記活物質材料を蒸発させることによって、前記柱状体第1領域の表面に柱状体第2領域を形成し、かつ前記平坦部活物質体第1領域の表面に平坦部活物質体第2領域を形成する第2工程と、を有する、電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項9】
前記第2雰囲気の圧力が0.005〜0.1Pa(abs)である、請求項8に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項10】
前記第1雰囲気の圧力が0.005〜0.1Pa(abs)である、請求項8または9に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項11】
前記平坦部活物質体第1領域の厚みe1と、前記平坦部活物質体第2領域の厚みe2との比e1/e2が0.03〜0.60である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項12】
前記活物質材料がSiを含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項13】
前記活物質材料と反応するガスが酸素である、請求項8〜12のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項14】
前記活物質材料と反応しないガスが、He、Ne、Ar、N2、CO2、COおよびH2の群から選ばれる少なくともいずれか1種を含む、請求項8〜13のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項15】
前記活物質層形成工程において、前記平坦部活物質体の最大高さが1.5〜10μmとなるように前記活物質材料の蒸発量を調整する、請求項8〜14のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項16】
前記平坦部活物質体第1領域の組成がSiOx(0.2≦x≦1.5)で表され、かつ前記平坦部活物質体第2領域の組成がSiOy(0.1≦y≦0.5、y<x)で表される、請求項8〜15のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学素子用電極と、リチウムイオンを吸蔵および放出する正極と、前記電気化学素子用電極および前記正極を隔離するセパレータと、リチウムイオン伝導性を有する電解質と、を備える、リチウムイオン電池。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−82008(P2011−82008A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233115(P2009−233115)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】