説明

電気化学素子

【課題】 集電部と集電板との電気的な接続が安定で、しかも集電体と集電板との溶接強度を十分確保でき、また内部短絡が防止できる電気化学素子を提供する。
【解決手段】 帯状の集電体に活物質が塗着した正極板1に活物質を塗着しない集電体露出部9を形成すると共に集電体露出部9の基部に樹脂被覆13を設け、帯状の集電体に活物質を塗着した負極板2に活物質を塗着しない集電体露出部12を形成すると共に集電体露出部12の基部に樹脂被覆14を設ける。両極板の間にセパレータ3を配して巻回して極板群4に形成したとき両端面に突出した集電体露出部9,12を押圧して溶接面を形成し、それぞれに正極集電板10、負極集電板11を溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池、電気二重層コンデンサなどの極板を巻回構造に構成した電気化学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池、電気二重層コンデンサ等の電気化学素子においては、極板を巻回構造に構成したものが広く用いられている。即ち、帯状の集電体に活物質が塗着された正極板と、帯状の集電体に活物質が塗着された負極板との間に帯状のセパレータを配して渦巻き状に巻回して極板群に形成している。この極板群が電解質と共に金属容器内に収容され、極板群の上下両端面もしくは一端面から正負何れかの極板の集電体を突出させ、この集電体に集電板が接合され、集電板は正極又は負極の外部接続端子となる部位に接続される。
【0003】
集電体と集電板との間の接合は、接合強度を強化させると共に、集電効率を向上させて充放電時の温度上昇を抑制するために、集電体の多点を集電板に接合することが要求されている。また、携帯機器や移動体などのように振動や衝撃が加わる機器に適用すると、極板群が受ける振動や衝撃によって接続部に破断や剥離が生じやすくなるため、集電体から外部接続端子に至る接続強度を向上させた接続構造が求められている。
【0004】
これを実現する従来技術として、極板群の端部から突出している集電体を押圧して折り曲げ、平坦な溶接面を形成した上に集電板を配し、集電体と集電板との間を平坦な溶接面で溶接するようにした構成が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、極板群の端部から突出させた集電体が互いに重なり合うように折り曲げて平坦な面を形成し、この平坦面に集電板を溶接する構造が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−294222号公報
【特許文献2】特開2000−323117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術においては、集電体によって形成された平坦面に集電板を接合する際の加圧による変形が考慮されていなかった。即ち、集電体は極めて薄い箔状金属板であるため、溶接時の加圧を受けると座屈が生じやすく、溶接が一定状態になされないばかりでなく、座屈した部分が正極板と負極板との間を隔離するセパレータを突き抜けて異極の極板に接触して内部短絡を発生させる恐れがあった。
【0007】
本発明は上記従来技術の課題に鑑みて創案されたもので、その目的とするところは、溶接時の加圧によって集電体に座屈が生じ難く正負極間の絶縁性を向上させる構造を備えた電気化学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、帯状の集電体に活物質が塗着された正極板と、帯状の集電体に活物質が塗着された負極板とを、正極板及び負極板より大きな幅に形成された帯状のセパレータを介して巻回した極板群に形成し、前記極板群を容器内に収容されてなる電気化学素子であって、前記正極板及び/又は負極板の集電体は、その幅方向の一方端側に活物質が塗着されない集電体露出部が形成され、集電体露出部はその幅方向のセパレータの幅と略同一位置に至るまでの部位が絶縁被覆されてなり、前記極板群に形成したとき端部から突出した集電体露出部を押圧して折り曲げ形成された溶接面に集電板が溶接されてなることを特徴とするものである。
【0009】
上記構成によれば、集電体露出部の基部は絶縁被覆によって補強されるので、溶接面を形成する際の押圧や溶接時の加圧、あるいは外部からの振動や衝撃を受けたときに集電体露出部が座屈することが防止できる。集電体露出部に座屈が生じると溶接面が一定高さに形成されないため溶接強度が低下し、座屈した集電体露出部がセパレータを突き抜けて異極に接触して内部短絡を発生させる恐れがあるが、絶縁被覆の形成によって溶接強度及び絶縁性が強化されるので、振動や衝撃を受けやすい携帯機器や移動体などの電池電源に適用することが可能な電気化学素子に構成することができる。
【0010】
上記構成において、溶接面は、集電体露出部が絶縁被覆の形成部位の直近位置で折れ曲がるように押圧して形成することにより、溶接面は絶縁被覆及びセパレータの端面で支持される状態となり、溶接面を安定した状態に形成して接合強度を向上させることができ、より座屈が発生し難い構造が得られる。
【0011】
また、絶縁被覆は、活物質の塗着厚さと略同一に形成することにより、集電体露出部はセパレータの間に絶縁被覆により安定して保持される。この絶縁被覆は、絶縁性樹脂の塗布あるいは絶縁性テープの貼着により形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、集電板との接合面である溶接面を形成する押圧時や溶接時の加圧、更には外部からの衝撃等によって集電体露出部が座屈し難くなるので、電気的な接続が確実で安定になされ、座屈による内部短絡の発生を抑制できる高品質の電気化学素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態は、電気化学素子の一例であるリチウムイオン二次電池に本発明の構成を適用した例を示すものである。
【0014】
図1において、実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、帯状の正極集電体1aに活物質1bが塗布された正極板1と、帯状の負極集電体2aに活物質2bが塗布された負極板2とを微多孔ポリエチレンフィルムから成るセパレータ3を間に配して渦巻き状に巻回して極板群4が構成されている。この極板群4を電解液と共に電池缶6内に収納し、電池缶6の開口部はガスケット8を介して封口板7によって封口される。本構成においては、電池缶6が負極外部接続端子となり、封口板7が正極外部接続端子となっている。
【0015】
正極板1は、図2(a)に示すように、アルミニウム箔によって帯状に形成された正極集電体1aの幅方向の一方端側に集電体露出部9を残して両面に正極活物質1bを塗着し、集電体露出部9の活物質塗着面側に樹脂被覆13を設けて構成されている。また、負極板2は、図2(b)に示すように、銅箔によって帯状に形成された負極集電体2aの幅方向の他方端側に集電体露出部12を残して両面に負極活物質2bを塗着し、集電体露出部12の活物質塗着面側に樹脂被覆14を設けて構成されている。また、セパレータ3は、正極板1及び負極板2の活物質塗着部位より大きな幅の帯状に形成されている。
【0016】
より具体的には、正極板1は、電解二酸化マンガン(MnO2)と炭酸リチウム(Li2CO3)とをLi/Mn=1/2となるように混合し、800℃で20時間大気中で焼成したLiMn24と、導電剤のアセチレンブラックと、結着剤のポリフッ化ビニリデンとを、それぞれ重量比で92:3:5の割合で混合したものを正極活物質1bとしている。また、正極活物質1bをペースト状に混練するため、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンは溶媒であるn−メチルピロリドン(NMP)に溶解した液を用いている。尚、上記混合比率は固形分としての割合である。この正極活物質1bのペーストを、厚み15μmのアルミニウム箔から成る正極集電体1aの両面に、一側縁部に幅5mmの非塗布部を残した状態で塗布して正極活物質1b層を形成し、極板寸法は幅55mm長さ570mmとした。正極活物質1b層の両面の膜厚みは同じで、塗布、乾燥後の両面の膜厚みの総和は280μmとし、正極板1の厚みが200μmになるように圧縮成形した。
【0017】
負極板2は、人造黒鉛と結着剤のスチレンブタジエンゴム(SBR)とを重量比97:3の割合で混合したものを負極活物質2bとしている。また、負極活物質2bをペースト状に混練するため、結着剤としてのスチレンブタジエンゴムは水溶性のディスパージョン液を用いている。尚、上記混合比率は固形分としての割合である。この負極活物質2bのペーストを、厚み14μmの銅箔から成る負極集電体2aの両面に、一側縁部に幅3mmの非塗布部を残した状態で塗布して負極活物質2b層を形成し、極板寸法は幅57mm長さ600mmとし、負極板2の厚みが170μmになるように圧縮成形している。
【0018】
上記構成になる正極板1及び負極板2は、極板群4に形成したとき、図1に示すように、極板群4の一方端から正極集電体1aの集電体露出部9が突出し、他方端から負極集電体2aの集電体露出部12が突出するようにセパレータ3を介して巻回される。図示するように前記正極板1の樹脂被覆13及び負極板2の樹脂被覆14は、活物質塗着層の厚さと同等の厚さで、セパレータ3の幅と略同一の幅方向位置までの幅に形成されている。
【0019】
極板群4の一端から突出した正極板1の集電体露出部9及び他端から突出した負極板2の集電体露出部12は、それぞれ一定高さになるように押圧されることにより図示するように折り曲げられる。この押圧により折り曲げられた正極板1の集電体露出部9上には、正極集電板10が超音波溶接され、負極板2の集電体露出部12上には、負極集電板11が抵抗溶接される。この正極集電板10と負極集電板11を接合した極板群4は電池缶6内に収容され、負極集電板11と電池缶6の底部との間を抵抗溶接し、正極集電板10から引き出した正極接続片10aを封口板7にレーザ溶接した後に、電池缶6内に電解液を注入して真空含浸させた後、電池缶6の開口部は封口板7によって封口され、リチウムイオン二次電池として完成する。
【0020】
上記構成により、正極板1の集電体露出部9及び負極板2の集電体露出部12に押圧を加えて正極集電板10及び負極集電板11との溶接面を形成するとき、集電体露出部9,12それぞれの基部に樹脂被覆13,14が設けられていることにより集電体露出部9,12の基部が補強されるので、押圧によって集電体露出部9,12が基部から座屈することがなく、また、溶接時の加圧によって集電体露出部9,12が座屈することがないので、座屈して溶接面の高さ位置が不揃いになることや、座屈した集電体露出部9,12がセパレータ3を突き破って異極極板に接触する内部短絡の発生を防止することができる。また、当該電池を携帯機器や移動体などの電池電源として適用したとき、振動や衝撃を受けることによって集電体露出部9,12が座屈することがなく、振動や衝撃に対する接合強度を確保した電池とすることができる。
【0021】
また、上記構成において、集電体露出部9,12を押圧して折り曲げるとき、折れ曲がる位置が樹脂被覆13,14が設けられた集電体露出部9,12の基部となるように押圧力を加えると、図3に示すように、集電体露出部9,12は樹脂被覆13,14及びセパレータ3上に折り曲げられるので、溶接面がより安定した状態となり、溶接時の加圧によってより座屈が発生しにくい構造が得られる。また、溶接位置が安定してより強固な接合がなされるため、振動や衝撃に対する強度を向上させることができる。
【0022】
以上説明した構成における樹脂被覆13,14は、絶縁性樹脂を塗布して形成されるが、絶縁性のテープを貼着することによって形成することもできる。
【0023】
上記構成になるリチウムイオン電池の耐衝撃強度を検証するために落下試験を実施した結果を以下に示す。実施例に係る電池100個と、比較例とする電池100個について、高さ75cmから電池の正立・倒立・側面方向にそれぞれ一回ずつ落下させることを1サイクルとした。尚、比較例とする電池は、集電体露出部9,12の基部に樹脂被覆13,14を形成していないもので、その他の構成は実施例構成と同一とした。
【0024】
検証は、1サイクル毎に電池の開回路電圧値を測定し、集電体露出部9,12の座屈によってセパレータ3を突き破って異極極板と内部短絡したか否かを判断した。電池の開回路電圧値が降下した時を内部短絡したものと見なし、電池の開回路電圧値が降下した時のサイクル数を比較評価した。また、電池の開回路電圧値が降下した電池については、分解解析することにより、内部短絡個所を確認して内部短絡した電池のみをカウントした。この落下試験の結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

表1からわかるように、実施例の電池は70サイクルで初めて電池の内部抵抗値が上昇したのに対し、比較例の電池では30サイクルで電池の開回路電圧値が降下が観察された。これは、実施例構造の電池の方が集電体露出部9,12が座屈し難くなっている構造が寄与していると考えられる。
【0026】
尚、上記構成では正極板1及び負極板2の両方に樹脂被覆13,14を設けているが、いずれか一方だけでも効果が得られるものである。
【0027】
また、リチウムイオン二次電池に適用した例について説明したが、他の種類の電池や電気二重層コンデンサなどの電気化学素子に同様の構成を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明した通り本発明によれば、集電板を溶接するための溶接面を形成するための加圧時、溶接に必要な加圧時及び外部から受ける振動や衝撃によって集電体露出部が座屈し難く、座屈によって内部短絡を発生させることが抑制されるので、携帯機器や移動体などの電池電源として適用するのに好適な電気化学素子を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を示す模式図。
【図2】同上構成における正極板(a)及び負極板(b)の構成を示す断面図及び平面図。
【図3】実施形態に係るリチウムイオン二次電池の変形例構成を示す模式図。
【符号の説明】
【0030】
1 正極板
1a 正極集電体
1b 正極活物質
2 負極板
2a 負極集電体
2b 負極活物質
3 セパレータ
4 極板群
6 電池缶
9、12 集電体露出部
10 正極集電板
11 負極集電板
13、14 樹脂被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の集電体に活物質が塗着された正極板と、帯状の集電体に活物質が塗着された負極板とを、正極板及び負極板より大きな幅に形成された帯状のセパレータを介して巻回した極板群に形成し、前記極板群を容器内に収容してなる電気化学素子であって、
前記正極板及び/又は負極板の集電体は、その幅方向の一方端側に活物質が塗着されない集電体露出部が形成され、集電体露出部はその幅方向の活物質塗着端からセパレータの幅と略同一位置に至るまでの部位が絶縁被覆されてなり、前記極板群に形成したとき端部から突出した集電体露出部を押圧して折り曲げ形成された溶接面に集電板が溶接されてなることを特徴とする電気化学素子。
【請求項2】
溶接面は、集電体露出部が絶縁被覆の形成部位の直近位置で折れ曲がるように押圧して形成されてなる請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項3】
絶縁被覆は、活物質の塗着厚さと略同一に形成されてなる請求項1又は2に記載の電気化学素子。
【請求項4】
絶縁被覆は、絶縁性樹脂の塗布により形成されてなる請求項1〜3いずれか一項に記載の電気化学素子。
【請求項5】
絶縁被覆は、絶縁性テープの貼着により形成されてなる請求項1〜3いずれか一項に記載の電気化学素子。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−32112(P2006−32112A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208960(P2004−208960)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】