説明

電気接点及びコネクタ端子

【課題】摺動における接点の摩耗を低減させるために潤滑剤を塗布した場合であっても、摺動からくる接触抵抗の上昇を抑制することができ、安定した接触抵抗を保持することができる電気接点及びコネクタ端子を提供する。
【解決手段】一方の接点の接触部分の表面が、銀を主成分とする金属により形成されており、他方の接点の接触部分の表面が、銅ガリウム化合物を主成分とする金属から形成されており、少なくとも一方の表面に、潤滑油を塗布して形成されている電気接点。接点を構成する材料の母材が銅又は銅合金である。銅ガリウム化合物が、CuGaである。一方の端子の接触部分の表面が、銀を主成分とする金属により形成されており、他方の端子の接触部分の表面が、銅ガリウム化合物を主成分とする金属により形成されており、2つの端子の嵌合部の少なくとも一方の表面に、潤滑油が塗布されているコネクタ端子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点及びコネクタ端子に関し、特に、振動が激しい箇所や頻繁な挿抜が行われる箇所などのように、接点間の摺動が激しい箇所で使用される電気接点及びコネクタ端子に関する。
【背景技術】
【0002】
雄型端子と雌型端子とを雌雄嵌合することにより、両端子の接触部分が接触して電気的に通電する電気接点を備えるコネクタや、ポテンシオメータ、ボリュームスイッチなどのような、金属の機械的接触により導通する電気接点には、従来より、一般的に、錫(Sn)、銀(Ag)、金(Au)またはこれらを主成分とする合金によるめっきが施されている。
【0003】
これら金属の内でも、特にAgめっきは、空気中で酸化膜が生じず、また高い導電率を有するため、安定した接触を得ることができ、大電流を扱う箇所でよく利用されている。
【0004】
しかし、車両用や工作機械など振動が激しい箇所で使用された場合には、接点が激しく摺動して、接点の表面が摩耗することが避けられない。
【0005】
そこで、このような摺動を伴う電気接点では、接触面の摩擦を軽減し、磨耗粉の発生を軽減するために、潤滑油を塗布することが古くから行われてきた(例えば、特許文献1〜3)。
【0006】
例えば、Ag同士を対向接触させた電気接点にパラフィンなどを主剤とする潤滑油を塗布した場合、Ag表面の摩擦が低減され、適当な接触荷重の下では、絶縁体である潤滑油を挟んだ状況においても、安定して電流を流すことができる。これは、前記のような所謂境界潤滑状態では、接点表面の微細な凹凸により、部分的な金属接触が存在し、これを導通路として安定して電流が流れるためである。
【0007】
しかし、このような電気接点であっても、摺動を繰り返した場合、接触抵抗が徐々に上昇することがある。これは、摺動の繰り返しにより、前記した部分的な金属接触に凝着剥離が生じ、さらに、これが繰り返されることにより、接点にAgの新生面が生じて、この新生面が触媒作用により潤滑油を劣化させ、生成された反応生成物が接点間に堆積するためと考えられている。
【0008】
そこで、Agと接触させても凝着剥離を生じない鉄(Fe)やニッケル(Ni)などの金属を対向接点として用いることが考えられたが、この場合、摺動による接触抵抗の上昇は見られないものの、これらの金属は大気中で強固な絶縁性酸化膜を形成する特性を有しているため、長期に亘って大気中に放置した場合などには、接触抵抗が高くなり、電気接点として使用することには問題があった。
【0009】
また、化学的活性が低く、新生面の触媒作用が働かないSnめっき接点を用いることも考えられたが、摺動による接触抵抗の上昇は見られないものの、Snの軟化温度は低いため、使用中に高温となる大電流用機器に用いることには問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭6−655号公報
【特許文献2】特公昭32−2872号公報
【特許文献3】実開平04−111111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑み、摺動における接点の摩耗を低減させるために潤滑剤を塗布した場合であっても、摺動からくる接触抵抗の上昇を抑制することができ、安定した接触抵抗を保持することができる電気接点及びコネクタ端子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題の解決につき、種々の実験、検討を行った。その結果、電気接点の一方の材料として銅ガリウム化合物を選択した場合、銅ガリウム化合物は、大気中で高温にさらしても表面酸化膜が厚くならない(例えば、大気中160℃×300時間の熱処理後も6nmと酸化膜は薄い)ために、接点を接触させたときに酸化膜が容易に破壊され接触抵抗を低く抑えることができることが分かった。
【0013】
そして、この銅ガリウム化合物と銀を接触摺動させたところ、摺動後の銀表面には凝着面特有のディンプル模様がみられないことから接点で両者の凝着がなく、接触面にポリアルファオレフィンを主剤とする接点用潤滑油(コンタクトオイル)を塗布して摺動させたときも接触抵抗の上昇が見られないことが分かった。
【0014】
即ち、銅ガリウム化合物、銀ともに大気中では厚い酸化膜が形成されず、接触させたときに容易に表面の酸化膜が破壊されるため、初期の接触抵抗が低い。
【0015】
また、銀と銅ガリウム化合物は接触摺動させても両者が凝着せず、潤滑油を塗布して摺動させても、銀の新生面の触媒作用による潤滑油の劣化、反応生成物の堆積による接触抵抗の上昇が見られず、また表面の磨耗も少ない。
【0016】
請求項1に記載の発明は、上記の知見に基づく発明であり、
一方の接点の接触部分の表面が、銀を主成分とする金属により形成されており、
他方の接点の接触部分の表面が、銅ガリウム化合物を主成分とする金属から形成されており、
少なくとも一方の表面に、潤滑油を塗布して形成されている
ことを特徴とする電気接点である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、
接点を構成する材料の母材が銅又は銅合金であり、
前記一方の接点の少なくとも接触部分の表面に銀層が形成され
前記他方の接点の少なくとも接触部分の表面に銅ガリウム化合物層が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電気接点である。
【0018】
CuまたはCu合金は、導電性に優れると共に、成形性に優れているため、母材として好ましい。また、CuまたはCu合金を母材として用いた場合、薄い銅ガリウム化合物層やAg層を容易に形成することができるため、ガリウムやAgのような高価な材料の使用量を低減しながらも、充分な導電性を確保することができる。そして、このような電気接点の作製方法としては、プレスなど従来の作製方法をそのまま適用することが可能であるため、コストの上昇を抑制することができる。
【0019】
例えば、銅ガリウム化合物層は、母材であるCuの表面に溶融ガリウムを塗布することにより、容易に形成することができる。また、Ag層は、めっきその他の方法により、母材表面に容易に形成することができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、
前記銅ガリウム化合物が、CuGaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気接点である。
【0021】
銅ガリウム化合物としては、CuGaやCuGaなどが好ましく用いられるが、特に、CuGaは常温で溶融ガリウムと銅を接触させるだけで生じ、容易に形成することができるので好ましい。
【0022】
請求項4に記載の発明は、
一方の端子の接触部分の表面が、銀を主成分とする金属により形成されており、
他方の端子の接触部分の表面が、銅ガリウム化合物を主成分とする金属により形成されており、
2つの端子の嵌合部の少なくとも一方の表面に、潤滑油が塗布されている
ことを特徴とするコネクタ端子である。
【0023】
Agを主成分とする金属で形成された端子と、銅ガリウム化合物を主成分とする金属で形成された端子とを、潤滑油が塗布された嵌合部で嵌合接触させているため、各端子が相互に振動する場合や頻繁な挿抜を繰り返す場合であっても、前記した電気接点の場合と同様に、接触抵抗の上昇を抑制することができると共に、表面の磨耗を抑制することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、
端子を構成する材料の母材が銅又は銅合金であり、
前記一方の端子の少なくとも接触部分の表面に銀層が形成されており、
前記他方の端子の少なくとも接触部分の表面に銅ガリウム化合物層が形成されている
ことを特徴とする請求項4に記載のコネクタ端子である。
【0025】
前記した通り、CuまたはCu合金は、導電性に優れると共に、成形性に優れているため好ましく、薄い銅ガリウム化合物層やAg層を容易に形成することができるため、銅ガリウムやAgのような高価な材料の使用量を低減しながらも、充分な導電性を確保することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、摺動における接点の摩耗を低減させるために潤滑剤を塗布した場合であっても、摺動からくる接触抵抗の上昇を抑制することができ、安定した接触抵抗を保持することができる電気接点及びコネクタ端子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の導通状態の電気接点の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態のコネクタ端子の嵌合部分の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施例及び比較例の電気接点の接触抵抗と摺動回数の関係を示す図である。
【図4】本発明の一実施例及び比較例の電気接点を1000回摺動させた後の半球状接点の表面の摺動痕および表面元素マッピングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明を実施の形態に基づいて、図面を用いて説明する。
【0029】
1.電気接点
はじめに、本実施の形態の電気接点の構造と製造方法について説明する。図1は、本発明の実施の形態の導通状態の電気接点の一例を示す断面図である。電気接点1は、一方の接点として、半球状の凸部を有する母材6の表面に銀を主成分とする金属(以下、「Ag系材料」ともいう)として銀層3が設けられた半球状接点2と、他方の接点として平板状の母材7の表面に銅ガリウム化合物を主成分とする金属として銅ガリウム化合物層5が設けられた平板状接点4とで構成され、半球状接点2と平板状接点4の接触部には潤滑油Lが塗布されている。
【0030】
銀層3および銅ガリウム化合物層5は、それぞれ相手側接点と接触する接触部分に設けられている。具体的には、銀層3は、母材6の突出側の表面に設けられ、銅ガリウム化合物層5は、母材6と対向する母材7の表面に設けられている。なお、銀層3および銅ガリウム化合物層5は、それぞれ母材6と母材7の外表面全体に設けられていてもよい。
【0031】
また、電気接点1は、半球状接点2に銅ガリウム化合物層を形成し、平板状接点4に銀層を形成して構成してもよい。
【0032】
母材6、7には、Cu単体、Cuを主成分とする化合物、あるいはCu合金等(以下、「Cu系材料」ともういう)が用いられる。Cuを主成分とする化合物のCu以外の成分としては、例えば、Fe、珪素(Si)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、Ni、クロム(Cr)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、Sn、リン(P)及びアルミニウ(Al)等が挙げられる。またCu合金としてはSn及びPを含有するリン青銅やZnを含有する黄銅等が挙げられる。
【0033】
銀層3に用いられるAg系材料には、Ag単体、Agを主成分とする化合物、あるいはAg合金等が用いられる。Agを主成分とする化合物のAg以外の成分としては、例えば、セレン(Se)、アンチモン(Sb)等が挙げられる。
【0034】
銀層3は、めっき等により形成される。銀層3の厚さは特に限定されないが、厚さが0.3μm未満の場合は母材6が露出する恐れがあり、20μmを超える場合は形成に時間がかかり安価に製造することが難しくなるため、0.3〜20μmに形成することが好ましい。
【0035】
銅ガリウム化合物層5には、例えば、CuGa、CuGaが好ましく用いられる。CuGaからなる銅ガリウム化合物層5は、例えばGaを含む液体状態の金属(溶融金属)を、Cu系材料からなる母材7の表面に塗工することにより形成される。これにより、銅ガリウム化合物層5を容易に形成することができる。
【0036】
具体的には、必要に応じて母材を脱脂洗浄し、また、表面の酸化膜等の絶縁被膜を研磨や酸洗浄等で除去した後、Gaを含む溶融金属を母材7に数分間接触させる。
【0037】
銅ガリウム化合物層5の厚さは特に限定されないが、厚さが0.3μm未満の場合は、母材が露出する恐れがあり、5μmを超える場合は接触抵抗が高くなる恐れがあり、また母材を溶融金属に接触させる時間が長くなり、平坦な被膜を形成することが難しくなる。一方、0.3〜5μmの場合は、母材7が露出する恐れがなく、低い接触抵抗を維持することができる。また、平坦な被膜を形成し易い。このため、0.3〜5μmに形成することが好ましい。
【0038】
上記のGaを含む溶融金属には、Ga単体、あるいはGa合金が用いられる。Ga単体(融点29.7℃)を用いる場合には、加熱溶融させて用いる。
【0039】
Ga合金としては、Cuと反応せず、Cu系材料からなる母材中に侵入しない金属を用い、例えばインジウム(In)を含むGa−In系合金、さらにSnを含むGa−In−Sn系合金が好ましく用いられる。これにより、Ga単体の溶融金属を用いる場合と同様、銅ガリウム化合物からなる導電性被膜を形成することができる。また、加熱が不要、あるいは加熱時間を短くするために、融点が25℃以下、好ましくは10℃以下の合金が好ましく用いられる。
【0040】
具体的には、例えば、Ga60〜80質量%、In10〜30質量%、Sn5〜20質量%を含む合金が好ましく用いられ、このような合金の具体例として、Ga62質量%、In21.5質量%、Sn16質量%からなる合金(融点10.7℃)、Ga62質量%、In25質量%、Sn13質量%からなる合金(融点10.6℃)、Ga62質量%、In23質量%、Sn13質量%、Zn2質量%からなる合金(融点9.8℃)等が挙げられる。
【0041】
溶融金属を母材の表面に塗工する方法は、特に限定されず、例えばディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法、ローラー法、スクリーン印刷等の印刷法、ロールコーター法、カーテンフローコーター法、刷毛塗り法等が用いられる。
【0042】
母材7と溶融金属とを接触させる時間(処理時間)は、1〜15分程度が好ましい。これにより、銅ガリウム化合物層5を確実に形成することができ、製造効率も向上する。また、高温で形成すると表面凹凸が激しくなるため、処理温度は10〜130℃であることが好ましい。
【0043】
なお、上記した処理が終了した後は、余剰の金属は拭取りや高圧ガスや液剤を吹き付けて除去される。また、接点の製造に際しては、母材を予めプレス加工等によって成形した後、上記処理を行ってもよく、また、処理後に所定の形状に成形してもよい。
【0044】
潤滑油Lには、ポリアルファオレフィン等の合成パラフィン系、フルオロエステル油等のフッ素系、シリコンオイル等の潤滑油が用いられ、特に酸素原子を含まない合成パラフィン系の潤滑油が好ましく用いられる。潤滑油Lは、半球状接点2と板状接点4のうちの銅ガリウム化合物層5の側のいずれか一方または両方の接点の表面に塗布される。
【0045】
2.コネクタ端子
次に、コネクタ端子の構造について説明する。図2は、本発明のコネクタ端子の嵌合部分の一例を示す断面図である。コネクタ端子10は、嵌合部分に雄型端子11と雌型端子12が設けられ、両端子の嵌合部に潤滑油Lが塗布されている。図2は、雄型端子11と雌型端子12が嵌合状態で接触して導通している状態を示している。
【0046】
雄型端子11は、雌型端子12に挿入して接続される突起状の挿入部13と、導体(電線)が接続される接続部(図示せず)とで構成されている。雄型端子11は、Cu系材料からなる母材11aの表面に銅ガリウム化合物層11bが形成され、例えば板状、棒状円筒状等の形状に形成される。
【0047】
雌型端子12は、雄型端子11の挿入部13が挿入される嵌合部14と導体(電線)が接続される接続部(図示せず)とで構成されている。雌型端子12は、Cu系材料からなる母材12aの表面に銀層12bを設けることにより形成されている。嵌合部14は、先端が開口した筒状に形成された外装体17の内側に設けられており、雌型端子12が折り返されて形成されたばね片18の内側に設けられている。ばね片18には凸部20が設けられて、接点15を形成している。また、ばね片18と対向するように、Cu系材料からなる母材19aの表面に銀層19bが形成された板状片19が設けられており、板状片19のばね片18との対向面に接点16が形成されている。
【0048】
嵌合部14において雄型端子11の図中上下両方の表面には、潤滑油Lが塗布されている。
【0049】
雌型端子12の嵌合部14に雄型端子11の挿入部13が挿入されると、挿入部13がばね片18の凸部20に接触し、ばね片18が弾性変形する。そして、ばね片18の反発力により、挿入部13が板状片19に押し付けられ、挿入部13とばね片18の凸部20および板状片19とがそれぞれ接点15および接点16で接触し、雄型端子11と雌型端子12とが導通する。
【0050】
なお、図2においては、雄型端子11に銅ガリウム化合物層11bが形成され、雌型端子12に銀層12bが形成される例を示したが、雄型端子11に銀層が形成され、雌型端子12に銅ガリウム化合物層が形成されるようにしてもよい。また、両端子は前記した電気接点の製造と同じくプレス加工等により所定の形状に形成される。
【0051】
3.実施の形態の効果
銅ガリウム化合物とAgとを接触摺動させた場合、接点で両者の凝着剥離が生じておらず、さらに、両者の接触面にポリアルファオレフィンを主剤とする接点用潤滑油(コンタクトオイル)を塗布して摺動させた場合、接点の摩耗が低減されて、接触抵抗の上昇が抑制される。Agについても、同様に、大気中では厚い表面酸化膜が形成されない。このため、表面酸化膜の破壊により凝着剥離が生じることがなく、接点の摩耗が低減されると共に、初期の接触抵抗が低いまま保持される。したがって、車両や工作機械など振動が激しい箇所で使用する場合にも充分に摩耗が抑制され、摺動が繰り返された場合や、長期間放置されることによる接触抵抗の上昇が抑制される。
【実施例】
【0052】
次に、電気接点を例に採り実施例に基づいて具体的に説明する。本実施例は、一方の接点の表面が銀であり、他方の接点の表面がCuGaであり、接点の接触部に潤滑油が塗布された電気接点(Ag/CuGaタイプ)を作製し、摺動を繰り返し行ったときの摩耗の程度および接触抵抗の大きさを、双方の接点の表面が共に銀であり、接点の接触部に潤滑油を塗布した電気接点(Ag/Agタイプ)と比較した例である。
【0053】
[1]電気接点の作製
はじめに、電気接点の作製について説明する。
【0054】
(実施例)
(1)平板状接点の作製
母材には銅板を用いた。先ず、銅板の表面を脱脂洗浄後、100℃に加熱した、溶融Ga中に約1分間浸漬した。溶融Ga中から引き上げた後、表面に付着したGaを拭取り、さらに酸洗浄を行って表面のGaを完全に除去した。
【0055】
次に、X線回折、EPMAなどの計測を行って、表面に厚さ2μmのCuGa層が形成されていることを確認し、一方の接点(電極)とした。
【0056】
(2)半球状接点の作製
銅板に通常の電気めっきにより厚さ2μmの銀層を形成した。次に銀層側が突出するようにプレス加工を行い、半径1mmの半球状の凸部を形成し、他方の接点(電極)とした。
【0057】
(3)潤滑油の塗布
次に、上記した接点を対向させ、前記平板状接点上にポリアルファオレフィンを主剤とする接点用潤滑油(コンタクトオイル)(テトラ社製、C−9300)を薄く塗布し、Ag/CuGaタイプの電気接点を作製した。
【0058】
(比較例)
対向させる2つの接点(半球状接点と平板状接点)の両方に銀層が形成された接点を用いたAg/Agタイプの電気接点としたこと以外は実施例と同様に接点用潤滑油を塗布した電気接点を作製した。
【0059】
[2]電気接点の評価
(1)評価方法
イ.摺動試験
大気中で、実施例および比較例の電気接点に1Nの荷重を加えて、振幅80μmで1000回往復摺動させた。
【0060】
ロ.接触抵抗の測定
摺動試験中、両接点(電極)間の電気抵抗を測定することにより、接触抵抗を測定した。
【0061】
ハ.摩耗の評価
摺動試験終了後、半球状接点の表面を目視、SEMおよびEDS(エネルギー分散型X線分光分析)により観察し、また平板状接点のCuGaの表面を目視およびSEMにより観察して摩耗の程度を評価した。
【0062】
(2)評価結果
イ.接触抵抗
接触抵抗の測定結果を図3に示す。図3の(a)は実施例、(b)は比較例の測定結果を示す図である。図3(a)より、実施例の場合は、初期から摺動試験中全体に亘り接触抵抗が低い値に保たれ、安定していることが分かる。一方、図3(b)より、比較例の場合は、初期の接触抵抗は低いが、200回を過ぎた頃から接触抵抗が上昇し始め、900回を過ぎた時点では初期の10倍以上に上昇すると共に、大きく変動していることが分かる。これは、比較例の場合は、酸化により潤滑油の粘性が高まり、接触抵抗が上昇したと考えられる。
【0063】
ロ.摩耗
実施例および比較例の摺動試験終了後の半球状接点の表面のSEM像および表面元素マッピングを図4に示す。図4の(a)は実施例、(b)は比較例の測定結果を示す図であり、図の左側の1枚はSEM像であり、右側の2枚はそれぞれCuとAgのマッピングを示す図である。目視による観察結果および図4に示すSEM像より、実施例、即ちAg/CuGaタイプの電気接点の場合は、平板状接点のCuGaの表面はAgの移着や摩耗が確認されず、また、半球状接点の表面は銀で覆われたままであった。一方、比較例、即ちAg/Agタイプの電気接点の場合は半球状接点の表面摺動痕が認められ、凝着が起きていることが分かった。
【0064】
また、半球状端子の表面のEDSによる観察で得られたCuとAgのマッピングから、実施例ではCuの存在が認められないのに対して、比較例では母材のCuが露出し、Agが欠落している部分が存在することから、比較例の場合は、摩耗の程度が大きいことが分かった。そして、比較例の場合はAgの凝着摩耗が生じて摺動中にAgの新生面が生成するため、その触媒作用により前記のように潤滑油の酸化が進んだと考えられる。
【0065】
上記したように、本実施例により本発明の電気接点は、接点の摩耗が充分に抑制されると共に、初期の接触抵抗が低く、また摺動を繰り返し行った場合にも接触抵抗が上昇せず、安定していることが確認された。なお、コネクタ端子についても摩耗および接触抵抗等の特性において電気接点と同様に良好な特性が得られる。
【0066】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 電気接点
2 半球状接点
3、12b、19b 銀層
4 平板状接点
5、11b 銅ガリウム化合物層
6、7、11a、12a、19a 母材
10 コネクタ端子
11 雄型端子
12 雌型端子
13 挿入部
14 嵌合部
15、16 接点
17 外装体
18 ばね片
19 板状片
20 凸部
L 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の接点の接触部分の表面が、銀を主成分とする金属により形成されており、
他方の接点の接触部分の表面が、銅ガリウム化合物を主成分とする金属から形成されており、
少なくとも一方の表面に、潤滑油を塗布して形成されている
ことを特徴とする電気接点。
【請求項2】
接点を構成する材料の母材が銅又は銅合金であり、
前記一方の接点の少なくとも接触部分の表面に銀層が形成され
前記他方の接点の少なくとも接触部分の表面に銅ガリウム化合物層が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電気接点。
【請求項3】
前記銅ガリウム化合物が、CuGaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気接点。
【請求項4】
一方の端子の接触部分の表面が、銀を主成分とする金属により形成されており、
他方の端子の接触部分の表面が、銅ガリウム化合物を主成分とする金属により形成されており、
2つの端子の嵌合部の少なくとも一方の表面に、潤滑油が塗布されている
ことを特徴とするコネクタ端子。
【請求項5】
端子を構成する材料の母材が銅又は銅合金であり、
前記一方の端子の少なくとも接触部分の表面に銀層が形成されており、
前記他方の端子の少なくとも接触部分の表面に銅ガリウム化合物層が形成されている
ことを特徴とする請求項4に記載のコネクタ端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−99398(P2012−99398A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247567(P2010−247567)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】