説明

電気接続箱および下カバー

【課題】電子部品が収納され、車両のエンジンルームなどに配置される電気接続箱において、防水性・排水性を保持して品質を向上させる。
【解決手段】下カバー2に電子部品11が収納されて上カバー3が嵌合された電気接続箱1であって、下カバー2のカバー嵌合面および電線出口は、端子接続最下位より下方に位置している。上カバー3には、天面に傷付き防止リブ13が形成されている。電気接続箱1が水没した場合、上カバー3内に密閉空間ができ、空気層の圧力作用により、水は電気接続箱1内に一定の水位(端子より下方)までしか浸入できなくなる。その結果、端子・バスバーへの被水が防止され、電気接続箱1の防水性・排水性が保持される。傷付き防止リブ13により、上カバー3の天面にクラックが入るのを防止し、電気接続箱1の防水性・排水性を長期にわたって維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒューズ、リレー、電子制御ユニットなどの電子部品が収納され、車両のエンジンルームなどに配置されるジャンクションボックス、ヒューズボックス、リレーボックスなどの電気接続箱に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の電気接続箱を例示する垂直断面図、図8は図7に示す電気接続箱のA−A線による断面図である。
【0003】
従来、この種の電気接続箱1においては、図7および図8に示すように、内部への浸水を防ぐため、下カバー2に上カバー3を嵌合させた際に両者間の隙間がなくなるように、下カバー2と上カバー3との間にパッキン4を介装していた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、電気接続箱1内に浸入した水の排除を目的として、下カバー2に排水孔5が設けられている。そのため、電気接続箱1が水没した場合、電気接続箱1内の空気が、グロメット6に挿通された複数本の電線(図示せず)間の隙間を通って外部へ出ていくことにより、排水孔5から水が逆流して電気接続箱1内に浸入する恐れがある。そこで、電気接続箱1内の空気の抜け道を断って浸水を避けるべく、グロメット6内に充填剤を充填して電線間の隙間を埋めていた(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−219539号公報(段落〔0032〕の欄、図2)
【特許文献2】特開2004−23903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これでは次のような課題があった。
【0006】
第1に、パッキン4は、下カバー2と上カバー3との嵌合時に偏り・よれ等が生じないよう均一に組み付けなければならないので、作業性が悪い。
【0007】
第2に、グロメット6内に充填剤を充填するには、特殊な充填設備とその設置スペースとを要するため、高額な設備投資が必要となる。また、グロメット6内で充填剤を凝固させるのに長時間を要するので、作業性が悪い。さらに、充填剤が凝固してしまうと、電線のリサイクル性が低下する。
【0008】
本発明は、こうした課題を解決することが可能な、電気接続箱および下カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、請求項1に係る電気接続箱の発明では、下カバーに電子部品が収納されて上カバーが嵌合された電気接続箱であって、前記下カバーのカバー嵌合面は、端子接続最下位より下方に位置していることを特徴とする。
また、請求項2に係る電気接続箱の発明では、電線出口が端子接続最下位より下方に位置していることを特徴とする。
また、請求項3に係る電気接続箱の発明では、前記上カバーには、天面に傷付き防止リブが形成されていることを特徴とする。
また、請求項4に係る下カバーの発明では、電気接続箱を構成する下カバーであって、カバー嵌合面は、端子接続最下位より下方に位置していることを特徴とする。
また、請求項5に係る下カバーの発明では、電線出口が端子接続最下位より下方に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気接続箱が水没した場合、上カバー内に密閉空間ができ、空気層の圧力作用により、水は電気接続箱内に一定の水位(端子より下方)までしか浸入できなくなる。その結果、端子・バスバーへの被水を防止することができ、電気接続箱の防水性・排水性を保持して品質を向上させることが可能となる。
【0011】
また、パッキンが不要となるので、作業性が向上する。
【0012】
さらに、充填剤が不要となるので、高額な設備投資が不要となるとともに、作業性が向上し、電線のリサイクル性が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
<第1の実施形態>
図1は本発明に係る電気接続箱の第1の実施形態を示す垂直断面図、図2は図1に示す電気接続箱を斜め上方から見た斜視図、図3は図1に示す電気接続箱を斜め下方から見た斜視図、図4は下カバーの斜視図、図5は上カバーの斜視図、図6はグロメットの斜視図である。
【0015】
電気接続箱1は、図1に示すように、ポリプロピレンなどの合成樹脂からなる直方体箱状の下カバー2を有しており、下カバー2には、ヒューズ、リレー、電子制御ユニットなどの電子部品11が搭載されて収納されている。また、下カバー2の底部には、図2および図4に示すように、カバー嵌合面9が形成されており、カバー嵌合面9は端子接続最下位より下方に位置している。ここで、端子接続最下位とは、電子部品11に接続される複数個の端子・バスバー(図示せず)の最下端部の高さを意味する。また、下カバー2の底部には、図3および図4に示すように、半円筒テーパ状の電線案内溝7が一体に形成されており、電線案内溝7の上端は、カバー嵌合面9と同じ高さになっている。そして、電線案内溝7の先端には電線出口8が、カバー嵌合面9より下方(したがって、端子接続最下位より下方)に位置して形成されており、電線出口8には、図6に示す円筒状のグロメット6が着脱自在に取り付けられている。グロメット6には、図1に示すように、複数本の電線14が挿通されており、各電線14の先端は前記各端子・バスバーに接続されている。また、下カバー2の底部の4隅角部にはそれぞれ、図3および図4に示すように、略C字形状に形成された金属ばね製のロック金具10が回動自在に取り付けられている。さらに、下カバー2の底部の下面には、図3に示すように、補強リブ15が格子状に形成されている。
【0016】
また、下カバー2には、図1に示すように、ポリプロピレンなどの合成樹脂からなる直方体箱状の上カバー3が、電子部品11を被覆して保護する形で着脱自在に嵌合している。上カバー3が下カバー2に嵌合した状態では、上カバー3の下面は、下カバー2のカバー嵌合面9に当接して同じ高さとなるため、端子接続最下位より下方に位置することになる。また、上カバー3が下カバー2に嵌合した状態では、図2に示すように、下カバー2と上カバー3とは所定長さL1(例えば、L1=53mm)でオーバーラップしている。さらに、上カバー3の下部の4隅角部には、図2および図5に示すように、それぞれ金具係止片12が、下カバー2の各ロック金具10に対応する位置に一体に形成されており、下カバー2に上カバー3を嵌合させた状態でロック金具10を金具係止片12に係止させることにより、上カバー3を下カバー2にロックすることができる。また、上カバー3の天面には、多数条の傷付き防止リブ13が互いに平行に形成されている。
【0017】
電気接続箱1は以上のような構成を有するので、電子部品11に端子・バスバーが接続された使用状態では、たとえ水没しても十分な防水性・排水性を発現することができる。すなわち、電気接続箱1が水没した場合、上カバー3内に密閉空間ができ、この密閉空間内の空気は抜け道を断たれた状態となる。したがって、電気接続箱1内に浸入した水の水位は、空気層の圧力(空気圧)作用により、この密閉空間の下面、つまり下カバー2のカバー嵌合面9(上カバー3の下面)までしか上昇できない。このとき、電子部品11に接続された端子・バスバーは、この下カバー2のカバー嵌合面9より上方に位置しているので、端子・バスバーへの被水を防止することができる。その結果、電気接続箱1の防水性・排水性を保持し、品質を向上させることが可能となる。
【0018】
また、電線出口8は下カバー2のカバー嵌合面9より下方に位置しているので、上カバー3の密閉空間内の空気が電線出口8から抜け出て水位の上昇を招く心配はない。このように、電線出口8の防水性が電気接続箱1の防水性・排水性に影響しないため、グロメット6に充填剤を充填する必要がない。したがって、特殊な充填設備とその設置スペースとが不要となるばかりか、電気接続箱1の製造時間が大幅に短縮され、さらに、電線14のリサイクル性が高まる。また、グロメット6は、充填剤を充填する必要がないため、図6に示すような簡単な構造のもので足り、被水環境によっては、グロメット6を省いて材料コストおよび組付コストを削減することもできる。
【0019】
さらに、下カバー2と上カバー3との合わせ面の防水性が電気接続箱1の防水性・排水性に影響しないため、この合わせ面にパッキンを取り付ける必要がない。その結果、下カバー2と上カバー3との組付作業性が良好となる。また、パッキンを加圧する必要もないので、ロック金具10は安価なタイプで対応可能である。
【0020】
しかも、下カバー2と上カバー3とは所定長さL1でオーバーラップしているため、高圧水による吹き上げ洗車においても電気接続箱1内に浸水しにくい。
【0021】
また、長時間の冠水路水没走行では、最上水位まで水が浸入するが、電線案内溝7の上端がカバー嵌合面9と同じ高さになっているので、この水は電線案内溝7にしか溜まらないことから、車両が揺れても端子・バスバーへの水はねを抑制することができる。
【0022】
ところで、もし上カバー3の天面にクラックが入ると、密閉空間が密閉でなくなってしまうが、上カバー3の天面には傷付き防止リブ13が形成されているので、上カバー3の天面にクラックが入るのを防止し、電気接続箱1の防水性・排水性を長期にわたって維持することができる。
【0023】
また、ロック金具10は下カバー2に取り付けられているので、ロック金具10が上カバー3に取り付けられている場合と比べて、電気接続箱1の低重心化による設置安定性の向上や、下カバー2が車両に固定されていることによる作業性の向上を図ることができる。
【0024】
<その他の実施形態>
上述の実施形態においては、電線案内溝7の上端がカバー嵌合面9と同じ高さになっている場合について説明したが、電線案内溝7の上端をカバー嵌合面9より高く設定してもよい。
【0025】
上述の実施形態においては、電線出口8を下カバー2に形成した電気接続箱1について説明したが、電線出口8は、端子接続最下位より下方に位置する限り、上カバー3に形成しても構わない。
【0026】
上述の実施形態においては、上カバー3を下カバー2に固定するロック手段としてロック金具10を採用した電気接続箱1について説明したが、ロック金具10以外のロック手段(例えば、アームロック、ねじ締め等)を代用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、自動車、航空機、電車、製造プラント、電化製品、OA機器など各種の産業分野に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る電気接続箱の第1の実施形態を示す垂直断面図である。
【図2】図1に示す電気接続箱を斜め上方から見た斜視図である。
【図3】図1に示す電気接続箱を斜め下方から見た斜視図である。
【図4】下カバーの斜視図である。
【図5】上カバーの斜視図である。
【図6】グロメットの斜視図である。
【図7】従来の電気接続箱を例示する垂直断面図である。
【図8】図7に示す電気接続箱のA−A線による断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1……電気接続箱
2……下カバー
3……上カバー
4……パッキン
5……排水孔
6……グロメット
7……電線案内溝
8……電線出口
9……カバー嵌合面
10……ロック金具
11……電子部品
12……金具係止片
13……傷付き防止リブ
14……電線
15……補強リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下カバーに電子部品が収納されて上カバーが嵌合された電気接続箱であって、
前記下カバーのカバー嵌合面は、端子接続最下位より下方に位置していることを特徴とする電気接続箱。
【請求項2】
電線出口が端子接続最下位より下方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の電気接続箱。
【請求項3】
前記上カバーには、天面に傷付き防止リブが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電気接続箱。
【請求項4】
電気接続箱を構成する下カバーであって、
カバー嵌合面は、端子接続最下位より下方に位置していることを特徴とする下カバー。
【請求項5】
電線出口が端子接続最下位より下方に位置していることを特徴とする請求項4に記載の下カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−288908(P2007−288908A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112852(P2006−112852)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】