説明

電気機器絶縁用樹脂組成物と電気絶縁処理してなる電気機器

【課題】コアへの付着が少なく、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減できる電気絶縁用樹脂組成物及びこの電気絶縁用樹脂組成物を用いて電気絶縁処理してなる電気機器を提供する。
【解決手段】80℃における粘度が5〜500mPa・sである電気機器絶縁用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器絶縁用樹脂組成物及びこの電気絶縁用樹脂組成物を用いて電気絶縁処理されてなる電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、トランス等の電気機器は、鉄コアの固着又は防錆、コイルの絶縁若しくは固着等を目的として、電気絶縁用樹脂組成物で処理されている。電気絶縁用樹脂組成物としては、固着性、硬化性、電気絶縁性などのバランスに優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物が広く用いられている。近年の電気機器は、小型・軽量化、高出力化が進んだため、実機スロット内の電線が占有する割合(占積率)が高くなる傾向があり、スロット内の空隙が減少し、電気絶縁用樹脂組成物がスロットの中へ含浸し難くなってきている。
【0003】
特に、ドリップ処理では、予熱後の未だ熱い実機コイルへ電気絶縁用樹脂組成物を滴下しても、電気機器へ滴下した後に電気絶縁用樹脂組成物の温度が上昇して粘度が低下するため、電気絶縁用樹脂組成物が直ぐに垂れてしまい、満足する含浸性が得られず、さらに垂れた電気絶縁用樹脂組成物がコアへ付着してしまうことにより、コアに付着した電気絶縁用樹脂組成物を剥がし取る作業が生じ、生産性が低下してしまう事があった。また、含浸性の向上を目指し、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を増やして滴下するが、電気絶縁用樹脂組成物がまた直ぐに垂れてしまい、満足する含浸性が得られず、更に、垂れた電気絶縁用樹脂組成物が更にコアへ付着してしまうという悪循環が生じ、生産性が低下していた。
【0004】
【特許文献1】特開2002−367432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電気絶縁用樹脂組成物が滴下処理後に電気機器の予熱によって高温にさらされ温度上昇に伴って粘度が下がり垂れ易くなってしまうため、高温でさらされる温度での電気絶縁用樹脂組成物の粘度範囲を規定する事によって、滴下処理後に電気絶縁用樹脂組成物がコイルから垂れ落ちを少なく、含浸性が良好で、且つ、コアへの付着が少なく、結果として、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減できる電気機器絶縁用樹脂組成物及びこの電気機器絶縁用樹脂組成物(電気絶縁用樹脂組成物)を用いて電気絶縁処理してなる電気機器を提供することにある。更に、環境対応の面から、ワニス処理時に発生するVOCを従来の不飽和エポキシエステル樹脂よりも、大幅に低減することが可能となる電気機器絶縁用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、高温でさらされる温度での電気機器絶縁用樹脂組成物((電気絶縁用樹脂組成物)の粘度範囲を規定する事によって、滴下処理後に電気絶縁用樹脂組成物がコイルから垂れ落ちを少なく、含浸性が良好で、且つ、コアへの付着が少なく、結果として、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減できることを見出した。
【0007】
本発明は、以下に関する。
1. 80℃における粘度が5〜500mPa・sである電気機器絶縁用樹脂組成物。
2. 電気機器絶縁用樹脂組成物と、MW35(UL規格1446)またはMW81(UL規格1446)の電線を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上である項1記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
3. (A)ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸とを反応させ、更に不飽和二塩基酸を反応させて得られる不飽和エポキシエステル樹脂10〜60重量部、(B)ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト40〜90重量部、(C)トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート0〜40重量部を含有してなる電気機器絶縁処理用樹脂組成物。
4. (A)ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸とを反応させ、更に不飽和二塩基酸を反応させて得られる不飽和エポキシエステル樹脂10〜60重量部、(B)ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト40〜90重量部、(C)トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート0〜40重量部を含有してなる項1または2記載の電気機器絶縁処理用樹脂組成物。
5. 項1〜4いずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を使用し、ドリップ処理方法により電気絶縁処理してなる電気機器。
【発明の効果】
【0008】
本発明になる電気機器絶縁用樹脂組成物は、高温でさらされる温度での電気絶縁用樹脂組成物の粘度範囲を規定する事によって、滴下処理後に電気絶縁用樹脂組成物がコイルから垂れ落ちを少なく、含浸性が良好で、且つ、コアへの付着が少なく、結果として、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減でき、コアに付着した電気絶縁用樹脂組成物の削り取り作業が削減できる。また、この電気機器絶縁用樹脂組成物は高温における固着性にも優れ、これを用いて電気絶縁処理された電気機器は工業的に極めて優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物(電気絶縁用樹脂組成物)において、特に制限は無く、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化樹脂を、単独で用いても、また複数を組合せて用いても良い。また、これらの電気絶縁用樹脂組成物に、二酸化珪素、窒化アルミニウム、タルク等のフィラーを用いても良く、フィラーは特に制限は無く、単独で用いても、複数を組合せて用いても良い。
【0010】
本発明に用いられる(A)成分は、ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸を反応させて、樹脂酸価を10以下とし、次いで、不飽和二塩基酸を反応させて得られる樹脂酸価が10〜30の不飽和エポキシエステル樹脂であることが好ましい。
【0011】
不飽和エポキシエステルの製造条件には制限が無く、例えば、触媒を用いて100℃〜120℃で、5〜10時間反応させて合成される。本発明に用いられるエポキシドとは、分子あたり1個以上のエポキシ基を含有する化合物で、多価アルコールもしくは、多価フェノールのグリシジルポリエーテル、エポキシ化脂肪酸もしくは、乾性油酸、エポキシジオレフィン、エポキシ化ジ不飽和酸のエステル、エポキシ化飽和ポリエステル等がある。α、β−不飽和塩基酸としては、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸等があり、併用してもさしつかえない。
【0012】
不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸などが用いられる。付加触媒としては、塩化亜鉛、塩化リチウムなどのハロゲン化物、ジメチルサルファイト、メチルフェニルサルファイトなどのサルファイト類、ジメチルスルホキサイド、メチルスルホキサイド、メチルエチルスルホキサイドなどのスルホキサイド類、N−Nジメチルアニリン、ピリジン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの3級アミン及びその塩基酸または臭酸塩、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム塩、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタンなどのメルカプタン類などが用いられる。ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸との反応は、ポリエポキシド1.0モルに対し、α、β−不飽和塩基酸を1.0〜2.0モル反応させる事が望ましい。
【0013】
更に、次の不飽和エポキシエステルと不飽和二塩基酸との反応は、ポリエポキシド1.0モルに対し、α、β−不飽和塩基酸を1.0〜2.0モル反応させて得られた不飽和エポキシエステルに対し、不飽和二塩基酸を、0.1〜1.0モル反応させる事が望ましく、不飽和エポキシエステルのモル数と、α、β−不飽和塩基酸及び不飽和二塩基酸のモル数の合計が、ほぼ同じモル数になる事が望ましい。
【0014】
本発明に用いられる(B)成分は、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト以外に、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレートを用いても良い。(B)成分の使用量は、(A)成分10〜60重量部に対して、40〜90重量部の範囲とされる。
【0015】
本発明に用いられる(C)成分は、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートを用いるが、その使用量は、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0〜40重量部の範囲とされることが好ましい。
【0016】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物(電気絶縁用樹脂組成物)は、コア汚染が少なく、良好な含浸性を得る点から、80℃における粘度が10〜500mPa・sである。また、80℃における粘度は20〜100mPa・sであることが好ましく、30〜80mPa・sであることがさらに好ましい。80℃における粘度が10mPa・s未満であると電気機器へ滴下したワニスが垂れ易くなってコアへ付着し易くなる傾向があり、500mPa・sを超えると浸透性が悪くなって含浸性が低下する傾向がある。
【0017】
本発明の電気機器絶縁用樹脂組成物(電気絶縁用樹脂組成物)は、エアコン用ファン、扇風機、洗濯機等のコンデンサーモートル、電気ドリルなどのアマチュア、テレビ、ステレオ、コンパクトディスクプレーヤー等電源トランスなどの電気機器の絶縁処理に適用される。電気絶縁用樹脂組成物を、電気機器自体、又は電気機器の部品に塗布、含浸、又は充填した後、通常、100〜200℃、好ましくは120〜150℃で加熱することにより、電気絶縁用樹脂組成物を硬化させる。加熱時間は、通常、0.2〜3.0時間である。
【実施例】
【0018】
以下実施例により本発明を説明する。
製造例1
不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)の合成
4、4−イソピリデンジフェノールのジグリシジルエーテル(シェル化学製、EP−828,エポキシ当量188)376重量部、メタクリル酸172重量部、ベンジルジメチルアミン2重量部、ハイドロキノン0.05重量部を反応釜に仕込み、115℃10時間反応させ、樹脂酸価が8となった所で、フマル酸5重量部を仕込み、115℃2時間反応させて樹脂酸価20の不飽和エポキシエステル樹脂を得た。
【0019】
実施例1
不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)40重量部、日立化成工業株式会社製FA−512MT 60重量部、ベンゾイルパーオキサイド1.0重量部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0020】
実施例2
不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)40重量部、日立化成工業株式会社製FA−512MT 60重量部、日立化成工業株式会社製FA−731A 20重量部、ベンゾイルパーオキサイド1.0重量部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0021】
比較例1
不飽和エポキシエステル樹脂(A−1)40重量部、スチレン60重量部、ベンゾイルパーオキサイド1.0重量部を撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0022】
得られた電気絶縁用樹脂組成物について、所定雰囲気温度で粘度、ヘリカルコイル接着力、コア汚染及びステータコイルの含浸性を調べた。その結果を表1に示した。尚、粘度の試験方法は、JIS C 2105に準じて測定を行った。
【0023】
コア汚染及びステータコイルの含浸性は以下の試験方法に準じて評価を行った。
(1)粘度 JIS C 2105に準じて測定
(2)コア汚染の試験方法は、ステータコイル(Φ200mm、質量10kg)を用い、回転速度15回転/分とし、ステータコイルのコア表面温度が80℃の時にコイルエンドのリード線有り側の外側、リード線有り側の内側、リード線無し側の外側、リード線無し側の内側の合計四ヶ所(図1)にノズルを配置し、所定のワニスを20分間に合計300ml滴下し、滴下終了後、回転を続行しながら150℃の乾燥機へ投入し、1h後に乾燥機から取り出して、コア部に付着したワニスの付着の有無を目視で調査した。
(3)含浸性の試験方法は、コア汚染の試験方法でワニス処理したステータコイルのコアをコア積み厚の半分の部位で輪切り状に切断し、スロット内の空隙に対して含浸したワニスの割合を目視で評価した。スロット内の空隙に対して含浸したワニスの割合が70%以上を良好とし、50%未満を含浸不足とした。
(4)VOC
ワニス5.0gをΦ60mm金属シャーレに投入し、130℃×1h硬化を行い、硬化時に減少した重量減少率(%)とした。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示されるように、実施例1及び2で得られた電気絶縁用樹脂組成物は、80℃での粘度が適正範囲内であるため、コア汚染が発生し難く、含浸性が良好である。これに対して、比較例1で得られた電気絶縁用樹脂組成物は、80℃での粘度が適正範囲よりも低く、コア汚染が発生してしまい、含浸不足となっている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】コア汚染の試験方法を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
80℃における粘度が5〜500mPa・sである電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
電気機器絶縁用樹脂組成物と、MW35(UL規格1446)またはMW81(UL規格1446)の電線を組み合わせた時のツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上である請求項1記載の電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸とを反応させ、更に不飽和二塩基酸を反応させて得られる不飽和エポキシエステル樹脂10〜60重量部、(B)ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト40〜90重量部、(C)トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート0〜40重量部を含有してなる電気機器絶縁処理用樹脂組成物。
【請求項4】
(A)ポリエポキシドとα、β−不飽和塩基酸とを反応させ、更に不飽和二塩基酸を反応させて得られる不飽和エポキシエステル樹脂10〜60重量部、(B)ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト40〜90重量部、(C)トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート0〜40重量部を含有してなる請求項1または2記載の電気機器絶縁処理用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を使用し、ドリップ処理方法により電気絶縁処理してなる電気機器。

【図1】
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【公開番号】特開2008−266492(P2008−266492A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112882(P2007−112882)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】