説明

電気機器絶縁用樹脂組成物及びこの樹脂組成物を用いた電気機器

【課題】 電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減できる電気絶縁用樹脂組成物及びこの電気絶縁用樹脂組成物を用いた電気機器を提供する。
【解決手段】 80℃における粘度が10〜500mPa・sである電気機器絶縁用樹脂組成物、(A)芳香族多官能エポキシ樹脂50〜99重量部、
(B)脂肪族エポキシ樹脂50〜1重量部、
(C)酸無水物(A)と(B)の合計100重量部に対し、50〜200重量部及び
(D)フェノール樹脂(C)100重量部に対し、0.1〜100重量部
を含有してなる電気機器絶縁用樹脂組成物及び上記の電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気絶縁処理方法が、ドリップ処理方法により電気絶縁処理してなる電気機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物及びこの樹脂組成物を用いた電気機器に関し、詳しくはツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上のモータ、トランス等の電気機器の処理方法に用いる電気絶縁用樹脂組成物及びこの電気絶縁用樹脂組成物を用いて電気絶縁処理してなる電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、トランス等の電気機器は、鉄コアの固着又は防錆、コイルの絶縁若しくは固着等を目的として、電気絶縁用樹脂組成物で処理されている。
電気絶縁用樹脂組成物としては、固着性、硬化性、電気絶縁性等のバランスに優れた不飽和ポリエステル樹脂組成物が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−367432号公報
【0003】
近年の電気機器は、小型・軽量化、高出力化が進んだため、実機スロット内の電線が占有する割合(占積率)が高くなる傾向があり、スロット内の空隙が減少し、電気絶縁用樹脂組成物がスロットの中へ含浸し難くなってきている。
【0004】
特に、ドリップ処理では、予熱後の未だ熱い実機コイルへ電気絶縁用樹脂組成物を滴下しても、電気機器へ滴下した後に電気絶縁用樹脂組成物の温度が上昇して粘度が低下するため、電気絶縁用樹脂組成物が直ぐに垂れてしまい、満足する含浸性が得られず、さらに垂れた電気絶縁用樹脂組成物がコアへ付着してしまうことにより、コアに付着した電気絶縁用樹脂組成物を剥がし取る作業が生じ、生産性が低下してしまうことがあった。
【0005】
また、含浸性の向上を目指し、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を増やして滴下するが、電気絶縁用樹脂組成物がまた直ぐに垂れてしまい、満足する含浸性が得られず、垂れた電気絶縁用樹脂組成物がさらにコアへ付着してしまうという悪循環が生じ、生産性が低下していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物が滴下処理後に電気機器の予熱によって高温にさらされ温度上昇に伴って粘度が下がり垂れ易くなってしまうため、高温でさらされる温度での電気絶縁用樹脂組成物の粘度範囲を規定することによって、滴下処理後に電気絶縁用樹脂組成物がコイルからの垂れ落ちを少なくし、含浸性が良好で、且つ、コアへの付着を少なくしようとするものである。
【0007】
即ち、本発明は、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減できる電気絶縁用樹脂組成物及びこの電気絶縁用樹脂組成物を用いた電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、高温でさらされる温度での電気絶縁用樹脂組成物の粘度範囲を規定する事によって、滴下処理後に電気絶縁用樹脂組成物がコイルから垂れ落ちを少なく、含浸性が良好で、且つ、コアへの付着が少なく、結果として、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減できることを見出した。
【0009】
本発明は、80℃における粘度が10〜500mPa・sである電気機器絶縁用樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、(A)芳香族多官能エポキシ樹脂50〜99重量部、
(B)脂肪族エポキシ樹脂50〜1重量部、
(C)酸無水物(A)と(B)の合計100重量部に対し、50〜200重量部及び
(D)フェノール樹脂(C)100重量部に対し、0.1〜100重量部
を含有してなる電気機器絶縁用樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、前記の電気機器絶縁用樹脂組成物とMW35又はMW81の電線を組み合わせたときのツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上である電気機器絶縁用樹脂組成物に関する。
【0012】
さらに、本発明は、前記の電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気絶縁処理方法が、ドリップ処理方法により電気絶縁処理してなる電気機器に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明になる電気絶縁用樹脂組成物は、高温でさらされる温度での電気絶縁用樹脂組成物の粘度範囲を規定することによって、滴下処理後に電気絶縁用樹脂組成物がコイルから垂れ落ちを少なくし、含浸性が良好で、且つ、コアへの付着が少なく、結果として、電気絶縁用樹脂組成物の滴下量を低減でき、コアに付着した電気絶縁用樹脂組成物の削り取り作業が削減できる。
また、この電気絶縁用樹脂組成物は高温における固着性にも優れ、これを用いて電気絶縁処理された電気機器は工業的に極めて優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、電気絶縁用樹脂組成物は、特に制限は無く、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化樹脂が挙げられ、単独で用いても、複数を組合せて用いてもよい。
【0015】
また、これらの電気絶縁用樹脂組成物に、二酸化珪素、窒化アルミニウム、タルク等のフィラーを用いてもよく、フィラーは特に制限はなく、単独で用いても、複数を組合せて用いてもよい。
【0016】
本発明に用いられる(A)成分の芳香族系多官能エポキシ樹脂は、一分子内にグリシジル基を2個以上有する芳香族系エポキシ樹脂である。
芳香族系多官能エポキシ樹脂には制限が無く、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等がある。
【0017】
本発明に用いられる(B)成分の脂肪族エポキシ樹脂は、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのポリグリシジルエーテル、ネオデカン酸のグリシジルエーテル等がある。
【0018】
本発明に用いられる(C)成分の酸無水物は、3―メチル1,2,3,6、−テトラヒドロ無水フタル酸、3−メチルーヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルー3,6エンドメチレンー1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる(D)成分のフェノール樹脂は、ノボラック樹脂、レゾール樹脂でもよく、住友ベークライト(株)製、商品名PR−16382、群栄化学工業(株)製、商品名PS2607、明和化成(株)製、商品名H−1、H−3等が挙げられる。
【0020】
また、必要に応じて、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を混合させた樹脂組成物に、トリスジメチルアミノメチルフェノール、トリエチルアミン等の3級アミン、または、イミダゾール基を有する化合物、トリアジン類、イソシアヌル酸付加物(2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール等)を用いてもよい。
【0021】
さらに、必要に応じて、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を混合させた樹脂組成物に、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム等の無機充填剤を混合してもよい。
【0022】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、コア汚染が少なく、良好な含浸性を得る点から、80℃における粘度が10〜500mPa・s、好ましくは20〜100mPa・s、より好ましは30〜80mPa・sとされ、80℃における粘度が10mPa・s未満であると電気機器へ滴下したワニスが垂れ易くなってコアへ付着し易くなり、500mPa・sを超えると浸透性が悪くなって含浸性が低下する。
【0023】
本発明になる電気絶縁用樹脂組成物はエアコン用ファン、扇風機、洗濯機等のコンデンサーモートル、電気ドリル等のアマチュア、テレビ、ステレオ、コンパクトディスクプレーヤー等電源トランス等の電気機器の絶縁処理に適用される。
【0024】
電気絶縁用樹脂組成物を、電気機器自体又は電気機器の部品に塗布、含浸又は充填した後、通常、100〜200℃、好ましくは120〜150℃で加熱することにより、電気絶縁用樹脂組成物を硬化させる。加熱時間は、通常、0.2〜3.0時間である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を説明する。
実施例1
三井石油化学(株)製、商品名R140を80重量部、共栄社化学(株)製、商品名エポライト100Eを20重量部、日立化成工業(株)製、商品名MHAC−P80重量部、明和化成(株)製、商品名H−3を20重量部及び旭電化(株)製、商品名EHC−30を1重量部配合し、これらを撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0026】
実施例2
三井石油化学(株)製、商品名R140を80重量部、共栄社化学(株)製、商品名エポライト100Eを20重量部、日立化成工業(株)製、商品名MHAC−Pを90重量部、明和化成(株)製、商品名H−3を10重量部及び旭電化(株)製、商品名EHC−30を1重量部配合し、これらを撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0027】
比較例1
三井石油化学(株)製、商品名R140を80重量部、共栄社化学(株)製、商品名エポライト100Eを20重量部、日立化成工業(株)製、商品名MHAC−Pを100重量部及び旭電化(株)製、商品名EHC−30を1重量部配合し、これらを撹拌混合して電気絶縁用樹脂組成物を調製した。
【0028】
実施例1、2及び比較例1得られた電気絶縁用樹脂組成物について、所定雰囲気温度で粘度、ヘリカルコイル接着力、コア汚染及びステータコイルの含浸性を調べた。その結果を表1に示す。
なお、粘度の試験方法は、JIS C 2105に準じて測定を行った。
また、コア汚染及びステータコイルの含浸性は以下の試験方法に準じて評価を行った。
【0029】
コア汚染の試験方法は、ステータコイル(φ200mm、質量10kg)を用い、回転速度15回転/分とし、ステータコイルのコア表面温度が80℃の時にコイルエンドの (1)リード線有り側の外側、(2)リード線有り側の内側、(3)リード線無し側の外側及び(4)リード線無し側の内側の合計四ヶ所(図1、2参照)にノズルを配置し、所定のワニスを20分間に合計300ml滴下し、滴下終了後、回転を続行しながら150℃の乾燥機へ投入し、1h後に乾燥機から取り出して、コア部に付着したワニスの付着の有無を目視で調査した。
【0030】
含浸性の試験方法は、コア汚染の試験方法でワニス処理したステータコイルのコアをコア積み厚の半分の部位で輪切り状に切断し、スロット内の空隙に対して含浸したワニスの割合を目視で評価した。評価内容は、スロット内の空隙に対して含浸したワニスの割合が70%以上を良好とし、50%未満を含浸不足とした。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示されるように、実施例1及び2で得られた電気絶縁用樹脂組成物は、
80℃での粘度が適正範囲内であるため、コア汚染が発生し難く、含浸性が良好であることが明らかである。
これに対して、比較例1で得られた電気絶縁用樹脂組成物は、80℃での粘度が適正範囲よりも低く、コア汚染が発生してしまい、含浸不足となっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】コア汚染の試験方法に用いられるステータコイルの正面図である。
【図2】図1の側面図である。 1 ステータコイル 2 コア 3 ノズル 4 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
80℃における粘度が10〜500mPa・sである電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)芳香族多官能エポキシ樹脂50〜99重量部、
(B)脂肪族エポキシ樹脂50〜1重量部、
(C)酸無水物(A)と(B)の合計100重量部に対し、50〜200重量部及び
(D)フェノール樹脂(C)100重量部に対し、0.1〜100重量部
を含有してなる電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電気機器絶縁用樹脂組成物とMW35又はMW81の電線を組み合わせたときのツイストペアの寿命評価において、20000hの耐熱温度が155℃以上である電気機器絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の電気機器絶縁用樹脂組成物を用いた電気絶縁処理方法が、ドリップ処理方法により電気絶縁処理してなる電気機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−84662(P2008−84662A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262451(P2006−262451)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】