説明

電気機械装置、並びに、電機機械装置を用いた移動体およびロボット

【課題】電気機械装置のケーシングで発生する渦電流損失を抑制する。
【解決手段】本発明の電気機械装置は、円筒状の磁石バックヨーク、および、磁石バックヨークの外周に沿って円筒状に配置されたローター磁石、を有するローターと、ローターの外周に沿って円筒状に配置された空芯の電磁コイル、および、円筒状に配置された電磁コイルの外周に配置された円筒状のコイルバックヨーク、を有するステーターと、ステーターおよびローターを覆うケーシングと、を備え、ケーシングの少なくとも一部は、炭素繊維強化プラスチックで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械装置、並びに、電機機械装置を用いた移動体およびロボットに関す
る。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機等の回転電機(本明細書では「電機機械装置」とも呼ぶ)の一例として
、永久磁石がローター磁石として略円筒状に配置されたローターと、ローターの外周に空
芯(コアレス)の電磁コイルが略円筒状に配置されたステーターと、を備える、インナー
ローター型でコアレス型の電気機械装置がある。この電気機械装置のケーシングには、従
来から、アルミニウム合金のように、軽量性や強度性、耐熱性等の確保が容易な金属が用
いられている。
【0003】
ここで、ローター磁石からの磁束は、基本的には、電磁コイルの外周に配置されている
コイルバックヨークよりも内側で磁気回路として閉じるように設定されているが、実際に
は、小型化させるためにコイルバックヨークの外周側に磁束の漏れが生じている。このた
め、コイルバックヨークの外周でステーターを覆うケーシングにおいて渦電流が発生し、
発生した渦電流による損失、いわゆる渦電流損失によって、電気機械装置の効率向上の妨
げとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−210690号公報
【特許文献2】特開2002−322978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、電気機械装置の
ケーシングで発生する渦電流損失を抑制することが可能な技術を提供することを目的とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例と
して実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
電気機械装置であって、
円筒状の磁石バックヨーク、および、前記磁石バックヨークの外周表面に沿って円筒状
に配置されたローター磁石、を有するローターと、
前記ローターの外周に沿って円筒状に配置された空芯の電磁コイル、および、前記円筒
状に配置された電磁コイルの外周に配置された円筒状のコイルバックヨーク、を有するス
テーターと、
前記ステーターおよび前記ローターを覆うケーシングと、
を備え、
前記ケーシングの少なくとも一部は、炭素繊維強化プラスチックで形成されている、電
気機械装置。
発明者は、炭素繊維強化プラスチックが、導電性であるにも関わらず渦電流の発生し難
い材料であることを見出した。上記電機機械装置では、ステーターおよびローターを覆う
ケーシングの少なくとも一部が、炭素繊維強化プラスチックで形成されているので、ケー
シングで発生する渦電流損失を抑制することができ、電気機械装置の効率を向上させるこ
とが可能である。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の電気機械装置であって、
前記ケーシングは、前記コイルバックヨークの外周部を覆う部分が前記炭素繊維強化プ
ラスチックで形成されている、電気機械装置。
ローター磁石からの磁束の多くはコイルバックヨーク方向に向かうので、上記構成の場
合には、コイルバックヨークの外周部を覆う部分を炭素繊維強化プラスチックで形成する
ことにより、渦電流損失を効率的に抑制することができ、電気機械装置の効率を向上させ
ることが可能である。
【0009】
[適用例3]
適用例1に記載の電機機械装置であって、
前記ケーシングは、全体が前記炭素繊維強化プラスチックで形成れている、電気機械装
置。
この場合には、ローター磁石からコイルバックヨークの外周側に漏れた磁束による渦電
流損失だけでなく、コイルバックヨークの外周側以外の方向に向かって漏れた磁束による
渦電流損失も抑制することができ、電気機械装置の効率を向上させることが可能である。
【0010】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一項に記載の電気機械装置であって、
前記ローターの中心部は前記炭素繊維強化プラスチックで形成されている、電気機械装
置。
この場合には、炭素繊維強化プラスチックは、従来ローターを構成する部材として用い
られていた鋼材に比べて軽量性や剛性等に優れるので、従来に比べて軽量性や剛性等に優
れたローターを構成することができ、結果として軽量性や剛性等に優れた電気機械装置を
構成することが可能となる。
【0011】
[適用例5]
適用例2ないし適用例4のいずれか一項に記載の電気機械装置であって、
さらに、前記ローターの内周側に収容されて、前記ローターに連結された回転機構部を
備える、電気機械装置。
この場合には、回転機構部を備える電気機械装置のケーシングで発生する渦電流損失を
抑制することができ、電気機械装置の効率を向上させることが可能である。
【0012】
[適用例6]
適用例5に記載の電機機械装置であって、
前記回転機構部は、少なくとも、前記ローターに連動して回転する連動回転部が前記炭
素繊維強化プラスチックで形成されている、電気機械装置。
この場合には、炭素繊維強化プラスチックは、従来回転機構部の連動回転部を構成する
部材として用いられていた鋼材に比べて軽量性や剛性等に優れるので、従来に比べて軽量
性や剛性等に優れた回転機構部の連動回転部を構成することができ、結果として軽量性や
剛性等に優れた回転機構部を備える電気機械装置を構成することが可能となる。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電動機(モーター
)や発電機などの電気機械装置(回転電機)のほか、電機機械装置を用いた電動移動体や
電動移動ロボットあるいは医療機器等の種々の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施例としてのコアレスモーター10の構成を示す説明図である。
【図2】ケーシングで発生する渦電流損失の測定方法の一例を示す説明図である。
【図3】ケーシング110を炭素繊維強化プラスチックで形成した場合の渦電流損失とアルミニウムで形成した場合の渦電流損失とを比較する説明図である。
【図4】ケーシングを炭素繊維強化プラスチックで形成したときの渦電流が少ない理由を説明する説明図である。
【図5】第2実施例としてのコアレスモーター1000の構成を示す概略断面図である。
【図6】第3実施例としての動力発生装置1100の構成を示す概略断面図である。
【図7】第4実施例としての動力発生装置1100Bの構成を示す概略断面図である。
【図8】本発明の変形例としてモーター/発電機を利用した移動体の一例である電動自転車(電動アシスト自転車)を示す説明図である。
【図9】本発明の変形例としてモーターを利用したロボットの一例を示す説明図である。
【図10】本発明の変形例としてモーターを利用した双腕7軸ロボットの一例を示す説明図である。
【図11】本発明の変形例としてモーターを利用した鉄道車両を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.第1実施例:
図1は、第1実施例としてのコアレスモーター10の構成を示す説明図である。図1(
A)は、コアレスモーター10を中心軸230に平行な面(図1(B)の1A−1A切断
面)で切った断面を模式的に示し、図1(B)は、コアレスモーター10を中心軸230
に垂直な面(図1(A)の1B−1B切断面)で切った断面を模式的に示している。
【0016】
コアレスモーター10は、略円筒状のステーター15が外側に配置され、略円筒状のロ
ーター20が内側に配置されたインナーローター型モーターである。ステーター15およ
びローター20は、ケーシング110内に収容されている。ステーター15は、電磁コイ
ル100A,100Bと、コイルバックヨーク115と、を備えている。ローター20は
、中心軸230と、磁石バックヨーク236と、磁石サイドヨーク215,216と、ロ
ーター磁石200と、軸受け240と、を備えている。
【0017】
ローター20は、回転軸である中心軸230を有しており、中心軸230の外周には、
略円筒状の磁石バックヨーク236が配置されている。磁石バックヨーク236の外周に
沿って、6つのローター磁石200が略円筒状に配置されている。6個のローター磁石2
00は、中心軸230の中心から外部に向かう方向(放射方向)に磁化された永久磁石と
、外部から中心に向かう方向(中心方向)に磁化された永久磁石とが用いられる。磁化方
向が中心方向であるローター磁石200と、磁化方向が放射方向であるローター磁石20
0とは、円周方向に沿って交互に配置されている。中心軸230に沿った方向(以下、単
に「軸方向」と呼ぶ)のローター磁石200の端部には、磁石サイドヨーク215,21
6が設けられている。磁石サイドヨーク215,216は、軟磁性材で形成された略円環
盤状の部材である。中心軸230は、炭素繊維強化プラスチック等の非磁性材で形成され
ており、貫通孔239を有している。中心軸230は、軸受け240で支持されてケーシ
ング110に取り付けられている。軸受け240は、例えば、ボールベアリングによって
構成することができる。また、本実施例では、ケーシング110の内側に、波バネ座金2
60が設けられており、この波バネ座金260は、ローター磁石200の位置決めを行っ
ている。但し、波バネ座金260は省略可能である。
【0018】
ケーシング110は、略円筒形をした筐体である。ケーシングの内周に沿って、二相の
電磁コイル100A,100Bが配列されている。電磁コイル100A,100Bは、有
効コイル領域とコイルエンド領域とを有している。ここで有効コイル領域とは、電磁コイ
ル100A,100Bに電流が流れたときに、ローター20に対して回転方向のローレン
ツ力を与える領域であり、コイルエンド領域は、電磁コイル100A,100Bに電流が
流れたときに、ローター20に対して回転方向と異なる方向(主として回転方向に垂直な
方向)のローレンツ力を与える領域である。ただし、コイルエンド領域は、有効コイル領
域を挟んで2つあり、それぞれのローレンツ力は、大きさが同じで、向きが反対であるの
で、打ち消し合う。有効コイル領域においては、電磁コイル100A,100Bを構成す
る導体配線は、回転軸とほぼ平行な方向であり、コイルエンド領域では、電磁コイル10
0A,100Bを構成する導体配線は、回転方向と平行である。また、有効コイル領域で
は、電磁コイル100A,100Bは、ローター磁石200と重なっているが、コイルエ
ンド領域では、電磁コイル100A,100Bは、ローター磁石200と重なっていない
。なお、電磁コイル100A,100Bを合わせて電磁コイル100とも呼ぶ。電磁コイ
ル100A,100Bとケーシング110との間には、コイルバックヨーク115が設け
られている。コイルバックヨーク115の軸方向の長さは、ローター磁石200の軸方向
の長さとほぼ同じである。中心軸230からコイルバックヨーク115に向かって放射方
向に放射線を引いたとき、放射線は、ローター磁石200をちょうど貫く。すなわち、コ
イルバックヨーク115とローター磁石200は、重なっている。
【0019】
ステーター15には、さらに、ローター20の位相を検出する位置センサーとしての磁
気センサー300が、電磁コイル100A,100Bの各相に1つずつ配置されている。
なお、図1(A)では、一方の磁気センサー300のみを表示している。磁気センサー3
00は、回路基板310の上に固定されており、回路基板310は、ケーシング110に
固定されている。ここで、磁気センサー300は、コイルエンド領域から、中心軸230
に垂線を降ろしたときの垂線上に配置されている。
【0020】
なお、コアレスモーター10は、概略以下の手順で組み立てられる。まず、ローター2
0の一方の軸受け240が第2のケーシング110bに取り付けられるようにローター2
0を組み付ける。次に、内周に電磁コイル100A,100Bが配列された第1のケーシ
ング110aを第2のケーシング110bに組み付ける。そして、ローター20に取り付
けられた他方の軸受け240が第3のケーシング110cに取り付けられるように、第3
のケーシング110cを第1のケーシング110aに組み付ける。これにより、コアレス
モーター10が組み立てられる。
【0021】
ところで、ローター20およびステーター15を収容するケーシング110には、従来
、アルミニウム等の軽量性や強度性、耐熱性等の確保が容易な金属を用いて製造されたケ
ーシングが採用されていた。しかしながら、本発明では、軽量性や、熱伝導性、耐熱性、
加工性、生産性、価格性等に優れている炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon F
iber Reinforced Plastics)を用いて製造されたケーシングが採用されている。炭素繊維
強化プラスチックを用いた理由は、以下で説明する。なお、炭素繊維強化プラスチックを
用いたケーシングの製造は、オートクレープ成形、真空バック成形、フィラメントワイン
ド成形、ハンドレイアップ成形、RTM成形、VART成形等の種々の一般的な成形法の
うち、成形形状に適した成形法が適宜選択されて実行される。
【0022】
図2は、ケーシングで発生する渦電流損失の測定方法の一例を示す説明図である。ステ
ップ1では、まず、標準モーター510の損失特性を測定する。標準モーター510の中
心軸520に、被測定モーター10を接続するためのカップリング530を取り付ける。
この状態で、あらかじめ定められた回転数Nで標準モーター510を回転させて、標準モ
ーター510に加える電圧E1と電流I1を測定する。このときの回転状態は、いわゆる
無負荷回転状態である。このときの標準モーター510の第1の総損失P1allは、E
1×I1となる。また、第1の総損失P1allは、機械損失P1mと銅損失P1cuと
鉄損失P1feの和である。ここで、標準モーター510の電磁コイルの電気抵抗をR1
とすると、銅損失P1cuは、I12×R1で表される。
【0023】
ステップ2では、標準モーター510に被測定モーター10のローター20のみを接続
し、ステップ1と同一の回転数Nで標準モーター510を回転させて、標準モーター51
0に加える電圧E2と電流I2を測定する。このときの第2の総損失P2allはE2×
I2となる。なお、この第2の総損失P2allは、第1の総損失P1allに被測定モ
ーター10の機械損失P2mが加わったものである。すなわち、第2の総損失P2all
と第1の総損失P1allの差分(P2all−P1all)が、被測定モーター10の
機械損失P2mとなる。
【0024】
ステップ3では、被測定モーター10のローター20にケーシング110を加えてステ
ップ1,2と同じ回転数Nで回転させて、標準モーター510に加える電圧E3と電流I
3を測定する。このときの標準モーター510の総損失P3allは、E3×I3となる
。また、総損失P3allは、ステップ2で測定した総損失P2allに、ケーシング1
10に生じる渦電流による渦電流損失Peddyを加えたものである。ここで、渦電流と
は、金属板(アルミニウム製など)などの導電体を強い磁界内で動かしたり、導電体の近
傍の磁界を急激に変化させたりした際に、電磁誘導効果により導電体内で生じる渦状の電
流のことである。被測定モーター10の渦電流損失Peddyは、(P3all−P2a
ll)で算出することができる。
【0025】
図3は、ケーシング110を、炭素繊維強化プラスチックで形成した場合の渦電流損失
と、アルミニウムで形成した場合の渦電流損失と、を比較する説明図である。本実施例で
は、ローター20が回転すると、ローター磁石200も回転するため、このローター磁石
200の回転(移動)により、その外側にあるケーシング110に渦電流が生じる、と考
えられる。
【0026】
従来、炭素繊維強化プラスチックは、導電性を有しているため、ケーシング110を炭
素繊維強化プラスチックで形成しても、ケーシング110を金属で形成するのに比べて渦
電流は、あまり小さくならないと考えられていた。しかし、炭素繊維強化プラスチックを
用いてケーシング110を製造し、渦電流損失を測定したところ、図3に示すように、ケ
ーシング110を、炭素繊維強化プラスチックで形成した方が、アルミニウムで形成した
場合よりも、渦電流損失が極めて小さい結果(約1/20〜約1/2000)が得られた

【0027】
図4は、ケーシングを炭素繊維強化プラスチックで形成したときの渦電流が少ない理由
を説明する説明図である。本実施例では、ケーシング110は、炭素繊維束272Aと炭
素繊維束272Bとを四つ目編みして形成されている。ここで、炭素繊維束272Aは、
炭素繊維271Aの方向が中心軸230(図1)と平行な方向であり、炭素繊維束272
Bは、炭素繊維271Bの方向が中心軸230(図1)の円周に沿った方向である。
【0028】
渦電流は、例えば、ケーシング110を構成する第1のケーシング110aの円筒面の
表面上を閉じた経路で略円形を描くように流れる。まず、炭素繊維束272Aに流れる渦
電流を考える。渦電流は閉じた経路で略円形を描くように流れるので、炭素繊維271A
の向きに対して様々な方向に流れる。ここで、炭素繊維271Aに沿った方向と、炭素繊
維271Aと交わる方向に電流が流れる場合を考える。炭素繊維271Aに沿った方向に
電流が流れる場合、電子は、同一の炭素繊維271A上を移動すればよい。そのため、比
較的電流は流れやすい。一方、電流が炭素繊維271Aと交わる方向に流れる場合、電流
を流しにくい樹脂を介して電子が隣の炭素繊維271Aに移る必要がある。そのため、炭
素繊維271Aと交わる方向には電流が流れにくい。渦電流は、上述したように、略円形
を描く閉じた経路で流れるが、閉じた経路上には、炭素繊維271Aに沿った方向に電流
が流れる部分と炭素繊維271Aと交わる方向に電流が流れる部分とを含んでいる。ここ
で、炭素繊維271Aと交わる方向に電流が流れる部分は、上述したように電流が流れ難
く、いわゆる律速(ボトルネック)となる。炭素繊維束272Bに流れる渦電流について
も同様に炭素繊維271Bと交わる方向に電流が流れる部分は、いわゆる律速(ボトルネ
ック)となる。
【0029】
また、炭素繊維束272Aと272Bとを跨ぐ渦電流については、炭素繊維束272A
の炭素繊維271Aと、炭素繊維束272Bの炭素繊維271Bとの間は、樹脂があるの
で、炭素繊維271Aと炭素繊維271Bとの間の電子の移動が起こりにくい。したがっ
て、炭素繊維束272Aと272Bとを跨ぐ渦電流も流れにくく、いわゆる律速(ボトル
ネック)となる。以上のことから、炭素繊維強化プラスチックで形成された第1のケーシ
ング110aには、閉じた経路上のどこかで電流が流れにくい律速部分(ボトルネック)
が存在するため、渦電流が流れにくくなる。なお、図示および説明を省略するが、第2の
ケーシング110bおよび第3のケーシング110cの表面上においても、同様であり、
渦電流が流れにくくなる。
【0030】
以上のように、ケーシング110の材料として炭素繊維プラスチックを用いた理由は、
炭素繊維強化プラスチックが、軽量性や、熱伝導性、耐熱性、加工性、生産性、価格性等
に優れるので、従来の金属材料に置き換えが可能であるのに加えて、渦電流損失を少なく
することが可能であり、コアレスモーター10の効率を向上させることが可能であるから
である。
【0031】
なお、本実施例では、ローター磁石200の中心方向の面を磁石バックヨーク236で
覆い、軸方向の面を磁石サイドヨーク215,216にて覆っているので、ローター磁石
200から軸方向への磁束漏れを抑制することができる。また、ローター磁石の中心方向
への磁束漏れを磁石バックヨーク236で抑制することができるので、ローターの中央部
に相当する中心軸230に非磁性材、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)や
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:glass fiber reinforced plastics)のような
樹脂複合材や、セラミックス、植物繊維材、樹脂材等を用いることができ、鋼材に比べて
軽量化が容易である。特に、炭素繊維強化プラスチックを用いれば、軽量化だけでなく、
鋼材をも超える剛性に優れ、かつ、電磁コイルの磁束変化により発生する渦電流損失を少
なくして、コアレスモーター10の効率を向上させることが可能である。
【0032】
B.第2実施例:
図5は、第2実施例としてのコアレスモーター1000の構成を示す概略断面図である
。コアレスモーター1000は、第1実施例のローター20とは異なり、中心軸230周
りに回転するローター1121Aを備えている。このローター1121Aは、ケーシング
1122Aに収容されている。中心軸230は、軸方向に延びる貫通孔239を有してお
り、貫通孔239には、導電線束1025が挿通されている。
【0033】
ケーシング1122Aは、第1のケーシング1122aおよび第2のケーシング112
2bが一体化された構造を有している。第1のケーシング1122aは、中心軸230方
向の一方の面が開放された略円筒形状の中空容体である。第2のケーシング1122bは
、中央部に開口部1125が形成された略円環盤形状を有している。第1のケーシング1
122aの底面の中央には、中心軸230を挿通するための貫通孔1221が形成されて
いる。中心軸230と第1のケーシング1122aとは互いに固定的に取り付けられる。
なお、第2のケーシング1122bは、例えば、第1のケーシング1122aの中空部に
、中心軸230を中心としてローター1121Aを収容した後で、第1のケーシング11
22aに対して接着剤で貼り合せることにより一体化される。このとき、第2のケーシン
グ1122bの開口部1125には、ローター1121Aの底面が配置される。また、第
2のケーシング1122bは、ボルトによって第1のケーシング1122aに固定される
ようにしてもよい。ケーシング1122Aの第1のケーシング1122aおよび第2のケ
ーシング1122bは、第1実施例のケーシング110と同様に、炭素繊維強化プラスチ
ックを材料として製造される。
【0034】
ローター1121Aは略円盤形状を有しており、その側壁の外周面には、ローター磁石
200が略円筒形に配列されている。ローター磁石200の磁束の方向は、放射方向であ
る。なお、ローター磁石200の裏側の面(ローター1121Aの側壁側の面)には、磁
力効率を向上させるための磁石バックヨーク1215が配置され、中心軸230方向の面
には、磁石サイドヨーク1216,1217が配置されている。
【0035】
ローター1121Aは、その中央に中心軸230を挿通させるための貫通孔1211を
有している。なお、貫通孔1211の内壁面と、中心軸230の外周面との間には、ロー
ター1121Aが中心軸230を中心に回転可能とするための軸受け240が配置されて
いる。
【0036】
ローター1121Aの第1のケーシング1122aの底面側(図5の紙面右側)には、
貫通孔1211を中心とする略円環状の溝として形成された凹部1212Aが設けられて
いる。ただし、この凹部1212Aはローター1121Aの軽量化のためのものであり、
省略可能である。
【0037】
第1のケーシング1122aの内周面には、電磁コイル100(100A、100B)
が、ローター1121のローター磁石200と間隔を有しつつ対向するように略円筒形に
配列されている。即ち、コアレスモーター1000では、電磁コイル100がステーター
として機能し、中心軸230を中心として、ローター1121Aを回転させる。なお、電
磁コイル100と第1のケーシング1122aとの間には、磁力効率を向上させるための
コイルバックヨーク115が配置されている。なお、ローター磁石200と電磁コイル1
00とコイルバックヨーク115の配置関係は、第1実施例で説明した関係と同じである

【0038】
第1のケーシング1122aの底面には、ローター磁石200の位置を検出する位置検
出部300(「磁気センサー300」とも呼ぶ。)と、ローター1121Aの回転を制御
するための回転制御回路を備える回路基板310が設けられている。位置検出部300は
、例えば、ホール素子によって構成され、ローター磁石200の周回軌道の位置に対応す
るように配置されている。位置検出部300は、回路基板310上に配置され、または信
号線を介して接続されている。
【0039】
回路基板310には、導電線束1025から分岐した導電線が接続されている。また、
回路基板310は、電磁コイル100と電気的に接続されている。回路基板310は、位
置検出部300が出力する検出信号を動力発生装置1100の駆動を制御する制御部(図
示せず)に送信する。また、回路基板310の回転制御回路は、制御部からの制御信号に
従って、電磁コイル100に電力を供給して磁界を発生させ、ローター1121Aを回転
させる。
【0040】
開口部1125に配置されたローター1121Aの底面(図5の紙面左側の底面)は、
負荷接続部としての機能も有しており、外部負荷装置1021の回転軸が、固定用ボルト
1114によって固定される。
【0041】
中心軸230には、第1のケーシング1122aの外側(図5の紙面右側)およびロー
ター1121Aの外側(図5の紙面左側)に、中心軸230の保持性を向上させるための
軸受けリング241が勘合的に取り付けられる。なお、図に示した軸受けリング241は
、わかり易くするために、断面図ではなく側面図で表されている。
【0042】
以上、本実施例においても、ケーシング1122Aの材料として、軽量性や、剛性、熱
伝導性、耐熱性、加工性、生産性、価格性等に優れた炭素繊維強化プラスチックを用いて
、渦電流損失を抑制することができるので、コアレスモーター1000の効率を向上させ
ることが可能である。
【0043】
なお、本実施例では、ローター磁石200の中心方向の面を磁石バックヨーク1215
で覆い、軸方向の面を磁石サイドヨーク1216,1217で覆っているので、第1実施
例のコアレスモーター10のローターの中央部としての中心軸230と同様に、中心軸2
30やローター磁石200等が配置されたローター1121Aの中央部を構成する部材に
非磁性材、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチッ
ク(GFRP)のような樹脂複合材や、セラミックス、植物繊維材、樹脂材等を用いるこ
とができ、軽量化が容易である。特に、炭素繊維強化プラスチックを用いれば、鋼材に比
べて軽量化が可能であるとともに、軽量化だけでなく、鋼材をも超える剛性に優れ、かつ
、電磁コイルからの磁束により発生する渦電流損失を少なくして、コアレスモーター10
00の効率を向上させることが可能である。
【0044】
C.第3実施例:
図6は、第3実施例としての動力発生装置1100の構成を示す概略断面図である。動
力発生装置1100は、中心軸230と、モーター部1120と、回転機構部1130と
を備える。モーター部1120と回転機構部1130とは、後述するように、互いに勘合
して一体化するように配置され、中心軸230は、一体化されたモーター部1120と回
転機構部1130の中央を貫通するように配置される。中心軸230は、軸方向に延びる
貫通孔239を有しており、貫通孔239には、導電線束1025が挿通されている。
【0045】
モーター部1120は、ローター1121と、ケーシング1122とを備える。ロータ
ー1121は略円盤形状を有しており、その側壁の外周面には、ローター磁石200が略
円筒形に配列されている。ローター磁石200の磁束の方向は、放射方向である。なお、
ローター磁石200の裏側の面(ローター1121の側壁側の面)には、磁力効率を向上
させるための磁石バックヨーク1215が配置され、中心軸230方向の面には、磁石サ
イドヨーク1216,1217が配置されている。
【0046】
ローター1121は、その中央に中心軸230を挿通させるための貫通孔1211を有
している。なお、貫通孔1211の内壁面と、中心軸230の外周面との間には、ロータ
ー1121が中心軸230を中心に回転可能とするための軸受け240が配置されている

【0047】
ローター1121の回転機構部1130と対向する側の面には、貫通孔1211を中心
とする略円環状の溝として形成された凹部1212が設けられている。貫通孔1211と
凹部1212とを隔てる略円筒状の隔壁1213の外側の壁面には、ギア歯1121tが
形成されている。以後、このローター1121の中央に設けられたギア歯1121tを有
する隔壁1213を「ローターギア1213」とも呼ぶ。なお、本実施例におけるロータ
ーギア1213は、遊星ギアのサンギアとして機能する。
【0048】
ケーシング1122は、回転機構部1130と対向する側の面が開放された略円筒形状
の中空容体であり、ローター1121を収容する。ケーシング1122は、第2実施例の
ケーシング1122Aと同様に、炭素繊維強化プラスチックを材料として用いて製造され
る。
【0049】
ケーシング1122の底面(図6の紙面右側の面)の中央には、中心軸230を挿通す
るための貫通孔1221が形成されている。中心軸230とケーシング1122とは互い
に固定的に取り付けられる。そして、ケーシング1122の外側には、中心軸230の保
持性を向上させるための軸受けリング241が勘合的に取り付けられている。なお、図6
においても、軸受けリング241については、わかり易くするために、概略断面ではなく
概略側面を示している。
【0050】
ケーシング1122の内周面には、電磁コイル100(100A、100B)が、ロー
ター1121のローター磁石200と間隔を有しつつ対向するように円筒形に配列されて
いる。即ち、モーター部1120では、電磁コイル100がステーターとして機能し、中
心軸230を中心としてローター1121を回転させる。なお、電磁コイル100とケー
シング1122との間には、磁力効率を向上させるためのコイルバックヨーク115が配
置されている。なお、ローター磁石200と電磁コイル100とコイルバックヨーク11
5の配置関係は、第1実施例で説明した関係と同じである。
【0051】
ケーシング1122の底面には、ローター磁石200の位置を検出する位置検出部30
0と、ローター1121の回転を制御するための回転制御回路を備える回路基板310が
設けられている。位置検出部300は、例えば、ホール素子によって構成され、ローター
磁石200の周回軌道の位置に対応するように配置されている。位置検出部300は、回
路基板310上に配置され、または信号線を介して接続されている。
【0052】
回路基板310には、導電線束1025から分岐した導電線が接続されている。また、
回路基板310は、電磁コイル100と電気的に接続されている。回路基板310は、位
置検出部300が出力する検出信号を動力発生装置1100の駆動を制御する制御部(図
示せず)に送信する。また、回路基板310の回転制御回路は、制御部からの制御信号に
従って、電磁コイル100に電力を供給して磁界を発生させ、ローター1121を回転さ
せる。
【0053】
回転機構部1130は、ローター1121のローターギア1213とともに遊星ギアを
構成し、減速機として機能する。回転機構部1130は、ギア固定部1131と、3個の
プラネタリーギア1132と、負荷接続部1133とを備える。なお、図6では便宜上、
2個のプラネタリーギア1132のみを図示してある。
【0054】
ギア固定部1131は、内壁面にギア歯1131tが設けられた略円環状のギアである
アウターギア1311と、アウターギア1311の外周に突出した鍔部1312とを有し
ている。ギア固定部1131は、鍔部1312と、モーター部1120のケーシング11
22の側壁端面とを固定用ボルト1114によって締結することにより、モーター部11
20に固定的に取り付けられる。
【0055】
ギア固定部1131のアウターギア1311は、ローター1121の凹部1212に収
容される。また、アウターギア1311の内周面と、ローターギア1213の外周面との
間には、3個のプラネタリーギア1132が、ローターギア1213の外周に沿って、ほ
ぼ等間隔で配置される。なお、プラネタリーギア1132のギア歯1132tと、アウタ
ーギア1311のギア歯1131tおよびローターギア1213のギア歯1121tとが
互いに噛み合うことにより、これら3種のギア1213,1132,1311は連結され
る。
【0056】
負荷接続部1133は、プラネタリーキャリアとして機能する略円筒形状の部材である
。負荷接続部1133の底面の中央には、中心軸230を挿通する貫通孔1331が設け
られている。貫通孔1331の内壁面と、中心軸230の外周面との間には、負荷接続部
1133が中心軸230を中心に回転可能とするための軸受け240が配置されている。
なお、負荷接続部1133に取り付けられた軸受け240と、ローター1121に取り付
けられた軸受け240との間には、スペーサー1115が配置される。
【0057】
ここで、ギア固定部1131の中央部には、アウターギア1311の内周空間に連通す
る略円形形状の開口部1313が形成されており、負荷接続部1133は、その開口部1
313に配置される。負荷接続部1133のモーター部1120側(図6の紙面右側)の
底面には、ローター1121の凹部1212に収容されたプラネタリーギア1132の回
転軸1132sを回転可能に保持するための軸孔1332が形成されている。
【0058】
負荷接続部1133の外側(図6の紙面左側)には、中心軸230の保持性を向上させ
るための軸受けリング241が勘合的に取り付けられている。さらに、負荷接続部113
3の外側の底面には、外部負荷装置1021の回転軸が固定用ボルト1114によって固
定される。
【0059】
上記構成の回転機構部1130では、アウターギア1311は固定配置されているため
、ローターギア1213の回転に伴って、各プラネタリーギア1132が、自身の回転軸
1132sを中心に回転(「自転」とも呼ぶ。)しつつ、ローターギア1213の周りを
周回移動(「公転」とも呼ぶ。)する。各プラネタリーギア1132の周回移動に伴って
、負荷接続部1133が回転し、負荷接続部1133に接続された負荷に回転駆動力が伝
達される。
【0060】
以上、本実施例においても、ケーシング1122の材料として、軽量性や、剛性、熱伝
導性、耐熱性、加工性、生産性、価格性等に優れた炭素繊維強化プラスチックを用いて、
渦電流損失を抑制することができるので、動力発生装置1100の効率を向上させること
が可能である。
【0061】
また、本実施例においても、第2実施例と同様に、中心軸230やローター磁石200
等が配置されたローター1121の中央部を構成する部材に非磁性材、例えば、炭素繊維
強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)のような樹脂
複合材や、セラミックス、植物繊維材、樹脂材等を用いることができ、鋼材に比べて軽量
化が容易である。特に、炭素繊維強化プラスチックを用いれば、軽量化だけでなく、鋼材
をも超える剛性に優れ、かつ、電磁コイルの磁束変化により発生する渦電流損失を少なく
して、動力発生装置1100の効率を向上させることが可能である。さらにまた、プラネ
タリーキャリアとしての負荷接続部1133に非磁性材料を用いることができ、軽量化が
容易である。特に、炭素繊維強化プラスチックを用いれば、軽量化が可能であるとともに
、鋼材をも超える剛性に優れ、かつ、ローター磁石や電磁コイルからの磁束により発生す
る渦電流損失を少なくして、動力発生装置1100の効率を向上させることが可能である
。なお、本実施例において、プラネタリーキャリアとしての負荷接続部1133が回転機
構部の連動回転部に相当する。
【0062】
D.第4実施例:
図7は、第4実施例としての動力発生装置1100Bの構成を示す概略断面図である。
この動力発生装置1100Bは、遊星ギアを二段重ねた減速機とモーターとを一体化した
構成を有しており、以下の点が第3実施例の動力発生装置1100(図6)と異なる。
【0063】
動力発生装置1100Bは、回転機構部1130Bを有している。回転機構部1130
Bのギア固定部1131Bには、中心軸230の軸方向に並列に重ねて設けられた第1と
第2のアウターギア1311a,1311bが設けられている。第1と第2のアウターギ
ア1311a,1311bは、ギア固定部1131Bがケーシング1122に固定的に取
り付けられたときに、ともにローター1121の凹部1212に収容される。
【0064】
第1のアウターギア1311aは、ローターギア1213と第1のプラネタリーギア1
132aを介して連結される。即ち、ローターギア1213は、一段目の遊星ギアにおけ
るサンギアとして機能する。第1のプラネタリーギア1132aは、プラネタリーキャリ
ア1350に回転可能に取り付けられる。
【0065】
プラネタリーキャリア1350は、比較的径が大きい円筒形状の前段部1351と、比
較的経の小さい円筒形状の後段部1352とが連接された回転部材である。プラネタリー
キャリア1350の前段部1351は、第1と第2のアウターギア1311a,1311
bの間に配置され、その底面に第1のプラネタリーギア1132aの回転軸1132sを
保持するための軸孔1354が設けられている。後段部1352は、側壁面にギア歯11
35tが形成されるとともに、第2のアウターギア1311bの内周空間に配置される。
【0066】
なお、プラネタリーキャリア1350の中央部には、中心軸230を挿通するための貫
通孔1353が、前段部1351および後段部1352をともに貫通して設けられている
。貫通孔1353と中心軸230との間には、プラネタリーキャリア1350を回転可能
とするための軸受け240が配置される。なお、軸受け240同士の間には、適宜、スペ
ーサー1115が配置される。
【0067】
プラネタリーキャリア1350の後段部1352と、第2のアウターギア1311bと
の間には、第2のプラネタリーギア1132bが配置される。即ち、後段部1352は、
二段目の遊星ギアにおけるサンギアとして機能する。第2のプラネタリーギア1132b
は、プラネタリーキャリアとして機能する負荷接続部1133に、回転可能に取り付けら
れる。
【0068】
一段目の遊星ギアでは、ローターギア1213の回転に伴って、第1のプラネタリーギ
ア1132aが自身の回転軸1132sを中心に回転(自転)しつつ、ローターギア12
13の周りを周回移動(公転)する。第1のプラネタリーギア1132aの周回移動に伴
って、プラネタリーキャリア1350の前段部1351が回転する。二段目の遊星ギアで
は、プラネタリーキャリア1350の後段部1352の回転に伴って、第2のプラネタリ
ーギア1132bが自身の回転軸1132sを中心に回転(自転)しつつ、プラネタリー
キャリア1350の後段部1352の外周を周回移動(公転)する。第2のプラネタリー
ギア1132bの周回移動に伴って、負荷接続部1133が回転し、負荷接続部1133
に接続された負荷に回転駆動力が伝達される。
【0069】
以上、本実施例においても、ケーシング1122の材料として、軽量性や、剛性、熱伝
導性、耐熱性、加工性、生産性、価格性等に優れた炭素繊維強化プラスチックを用いて、
渦電流損失を抑制することができるので、動力発生装置1100Bの効率を向上させるこ
とが可能である。
【0070】
また、本実施例においても、第3実施例と同様に、中心軸230やローター磁石200
等が配置されたローター1121の中央部を構成する部材に非磁性材、例えば、炭素繊維
強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)のような樹脂
複合材や、セラミックス、植物繊維材、樹脂材等を用いることができ、鋼材に比べて軽量
化が容易である。特に、炭素繊維強化プラスチックを用いれば、軽量化だけでなく、鋼材
をも超える剛性に優れ、かつ、電磁コイルの磁束変化により発生する渦電流損失を少なく
して、動力発生装置1100Bの効率を向上させることが可能である。さらにまた、ロー
ター1121に連動して回転する連動回転部としてのプラネタリーキャリア1350およ
び負荷接続部1133や、ギア固定部1131Bに、非磁性材料を用いることができ、軽
量化が容易である。特に、炭素繊維強化プラスチックを用いれば、軽量化が可能であると
ともに、鋼材をも超える剛性に優れ、かつ、ローター磁石や電磁コイルからの磁束により
発生する渦電流損失を少なくして、動力発生装置1100Bの効率を向上させることが可
能である。
【0071】
E.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の
要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実
施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において
実施することが可能である。
【0072】
(1)変形例1
上記実施例では、ケーシングの全体を、炭素繊維強化プラスチックで製造した場合につ
いて説明しているが、これに限定されるものではない。例えば、ローター磁石200に対
応するコイルバックヨーク115の外周部を覆うケーシング部分が少なくとも炭素繊維強
化プラスチックで形成されているようにしてもよい。ローター磁石200からの磁束はコ
イルバックヨーク115側の放射方向に向かうように設定されている。従って、少なくと
もコイルバックヨーク115の外周部を覆うケーシング部分を、炭素繊維強化プラスチッ
クで形成すれば、渦電流損失の抑制効果は大きい。また、ローター磁石200の中心軸2
30方向側を覆うケーシング部分が炭素繊維強化プラスチックで形成されているようにし
てもよい。すなわち、ローター磁石からの磁束によって発生する渦電流損失を抑制するよ
うにケーシングの少なくとも一部分が、炭素繊維強化プラスチックで形成されていればよ
い。
【0073】
(2)変形例2
上記実施例では、本願発明の特徴部分を備えるコアレスモーターやコアレスモーターを
備える動力発生装置を例に説明したが、コアレスモーターや動力発生装置等の電動機に限
定されるものではなく、発電機に適用することも可能である。
【0074】
(3)変形例3
また、本発明の特徴を備える電動機や発電機は、以下に示すように、電動移動体や電動
移動ロボットあるいは医療機器の駆動装置として適用することが可能である。図8は、本
発明の変形例としてモーター/発電機を利用した移動体の一例である電動自転車(電動ア
シスト自転車)を示す説明図である。この自転車3300は、前輪にモーター3310が
設けられており、サドルの下方のフレームに制御回路3320と充電池3330とが設け
られている。モーター3310は、充電池3330からの電力を利用して前輪を駆動する
ことによって、走行をアシストする。また、ブレーキ時にはモーター3310で回生され
た電力が充電池3330に充電される。制御回路3320は、モーターの駆動と回生とを
制御する回路である。このモーター3310としては、上述した各種のコアレスモーター
10を利用することが可能である。
【0075】
図9は、本発明の変形例としてモーターを利用したロボットの一例を示す説明図である
。このロボット3400は、第1と第2のアーム3410,3420と、モーター343
0とを有している。このモーター3430は、被駆動部材としての第2のアーム3420
を水平回転させる際に使用される。このモーター3430としては、上述した各種のコア
レスモーター10を利用することが可能である。
【0076】
図10は、本発明の変形例としてモーターを利用した双腕7軸ロボットの一例を示す説
明図である。双腕7軸ロボット3450は、関節モーター3460と、把持部モーター3
470と、アーム3480と、把持部3490と、を備える。関節モーター3460は、
肩関節、肘関節、手首関節に相当する位置に配置されている。関節モーター3460は、
アーム3480と把持部3490とを、3次元的に動作させるため、各関節につき2つの
モーターを備えている。また、把持部モーター3470は、把持部3590を開閉し、把
持部3490に物を掴ませる。双腕7軸ロボット3450において、関節モーター346
0あるいは把持部モーター3470として、上述した各種のコアレスモーターを利用する
ことが可能である。
【0077】
図11は、本発明の変形例としてモーターを利用した鉄道車両を示す説明図である。こ
の鉄道車両3500は、電動モーター3510と、車輪3520とを有している。この電
動モーター3510は、車輪3520を駆動する。さらに、電動モーター3510は、鉄
道車両3500の制動時には発電機として利用され、電力が回生される。この電動モータ
ー3510としては、上述した各種のコアレスモーター10を利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10…コアレスモーター
15…ステーター
20…ローター
100…電磁コイル
100A…電磁コイル
100B…電磁コイル
110…ケーシング
110a,110b,110c…ケーシング
115…コイルバックヨーク
200…ローター磁石
216,217…磁石サイドヨーク
230…中心軸
239…貫通孔
236…磁石バックヨーク
240…軸受け
241…軸受けリング
260…波バネ座金
271A…炭素繊維
271B…炭素繊維
272A…炭素繊維束
272B…炭素繊維束
300…磁気センサー(位置検出部)
310…回路基板
510…標準モーター
520…中心軸
530…カップリング
1000…コアレスモーター
1021…外部負荷装置
1100…動力発生装置
1100B…動力発生装置
1114…固定用ボルト
1115…スペーサー
1120…モーター部
1121,1121A…ローター
1121t…ギア歯
1122,1122A…ケーシング
1122a,1122b…第1と第2のケーシング
1125…開口部
1130,1130B…回転機構部
1131,1131B…ギア固定部
1131t…ギア歯
1132…プラネタリーギア
1132a,1132b…第1と第2のプラネタリーギア
1132s…回転軸
1132t…ギア歯
1133…負荷接続部
1211…貫通孔
1212,1212A…凹部
1213…隔壁(ローターギア)
1121t…ギア歯
1221…貫通孔
1311…アウターギア
1311a,1311b…第1と第2のアウターギア
1312…鍔部
1313…開口部
131t…ギア歯
1331…貫通孔
1332…軸孔
1350…プラネタリーキャリア
1351…前段部
1352…後段部
1353…貫通孔
1354…軸孔
1135t…ギア歯
3300…自転車
3310…モーター
3320…制御回路
3330…充電池
3400…ロボット
3410…第1のアーム
3420…第2のアーム
3430…モーター
3450…双腕7軸ロボット
3460…関節モーター
3470…把持部モーター
3480…アーム
3490…把持部
3500…鉄道車両
3510…電動モーター
3520…車輪
3590…把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械装置であって、
円筒状の磁石バックヨーク、および、前記磁石バックヨークの外周に沿って円筒状に配
置されたローター磁石、を有するローターと、
前記ローターの外周に沿って円筒状に配置された空芯の電磁コイル、および、前記円筒
状に配置された電磁コイルの外周に配置された円筒状のコイルバックヨーク、を有するス
テーターと、
前記ステーターおよび前記ローターを覆うケーシングと、
を備え、
前記ケーシングの少なくとも一部は、炭素繊維強化プラスチックで形成されている、電
気機械装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気機械装置であって、
前記ケーシングは、前記コイルバックヨークの外周部を覆う部分が前記炭素繊維強化プ
ラスチックで形成されている、電気機械装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電気機械装置であって、
前記ケーシングは、全体が前記炭素繊維強化プラスチックで形成されている、電気機械
装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の電気機械装置であって、
前記ローターの中心部は前記炭素繊維強化プラスチックで形成されている、電気機械装
置。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載の電気機械装置であって、
さらに、前記ローターの内周側に収容されて、前記ローターに連結された回転機構部を
備える、電気機械装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電気機械装置であって、
前記回転機構部は、前記ローターに連動して回転する連動回転部が前記炭素繊維強化プ
ラスチックで形成されている、電気機械装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の電気機械装置を備える移動体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の電気機械装置を備えるロボット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−27228(P2013−27228A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161713(P2011−161713)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】