説明

電気機械装置

【課題】アキシャルギャップ型の電気機械装置において、ローター表面に渦電流が生じにくい構造を提供する。
【解決手段】アキシャルギャップ型の電機機械装置であって、回転軸300と、前記回転軸と垂直な円盤面に配置され、磁束の方向が前記回転軸と平行な永久磁石200と、前記円盤面に対向して配置された電磁コイル100と、を備え、前記永久磁石200は、前記電磁コイル100側の面に、前記回転軸300の周りを回る方向に溝210が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルギャップ型の電気機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターは、永久磁石と電磁コイルとの間のローレンツ力により、駆動力を発生させている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−159847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のモーター(電気機械装置)では、高トルク負荷では、コイルに大電流がPWM駆動により供給される。その際にコイルによる電磁界の変化によりローター表面に渦電流損が発生し、ローターを発熱させ、電気機械装置の特性を劣化させる場合があった。
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも1つを解決し、アキシャルギャップ型の電気機械装置において、ローター表面(磁石)に渦電流が生じにくい構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
アキシャルギャップ型の電機機械装置であって、回転軸と、前記回転軸と垂直な円盤面に配置され、磁束の方向が前記回転軸と平行な永久磁石と、前記円盤面に対向して配置された電磁コイルと、を備え、前記永久磁石は、前記電磁コイル側の面に、前記回転軸の周りを回る方向に溝が形成されている、電機機械装置。
この適用例によれば、渦電流の向きと溝の向きが交わる方向なので、渦電流の発生を抑制し易い。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載された電気機械装置において、前記円盤面に配置される前記永久磁石の数がn個(nは3以上の偶数)のとき、前記溝は、頂点が隣接する2つの磁石の境界にある正n角形である、電機機械装置。
この適用例によれば、溝の形状が、回転対称形になるので、永久磁石で発生する渦電流の大きさの偏りを抑制することが可能となる。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の電気機械装置において、前記溝の幅は、50μm以下である、電気機械装置。
磁束密度の劣化を考慮すれば、溝の幅は細い方が好ましく、溝の加工装置の加工精度から、溝の幅は、50μm以下が好ましい。
【0010】
[適用例4]
適用例1から適用例3までのうちのいずれか一項に記載の電気機械装置において、前記溝の深さは、前記永久磁石の磁束方向の長さの半分である、電気機械装置。
溝は、浅すぎると渦電流の抑制効果が少なく、深すぎると物理的強度が弱くなる。そのため、永久磁石の磁束方向の長さ(厚さ)の半分程度が好ましい。
【0011】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、アキシャルギャップモーターの他、アキシャルギャップモーターの磁石の構造等、様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例のアキシャルギャップモーターを示す説明図である。
【図2】永久磁石の表面の構造を拡大して示す説明図である。
【図3】永久磁石の溝構造の別の構成例を示す説明図である。
【図4】渦電流損の測定方法を説明する説明図である。
【図5】渦電流損の特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施例のアキシャルギャップモーターを示す説明図である。図1(A)は、回転軸300と平行な平面で切った断面を示す説明図であり、図1(B)は、回転軸300と垂直な1B−1B線でアキシャルギャップモーターを切った断面を示す説明図であり、永久磁石の表面の形状を示している。図1(C)は、回転軸300と垂直な1B−1B線でアキシャルギャップモーターを切った断面を示す説明図であり、電磁コイルの形状を示している。アキシャルギャップモーター10(以下、単に「モーター10」と呼ぶ。)は、ステーター15と、ローター20とを備える。ステーター15は、電磁コイル100を備え、ローター20は、永久磁石200と、回転軸300と、バックヨーク310と、を備える。
【0014】
永久磁石200は、6個あり、一方の面から見て、回転方向に沿ってN極、S極が交互に現れるように、回転軸300と垂直な円盤形状に、配置されている。各永久磁石200の磁束の方向は、回転軸300の方向と平行である。電磁コイル100は、永久磁石200が形成される円盤面に対して対向するように配置されている。バックヨーク310は、永久磁石200の、電磁コイル100と反対側の面に配置されている。
【0015】
永久磁石200は、電磁コイル100側の面に溝210を有する。本実施例では、溝210は、3重になっており、それぞれの溝210は、永久磁石がN極からS極(あるいはS極からN極)に切り替わる境界線上に頂点がある、正六角形の形状を有している。この正六角形の「六」は、永久磁石200の数「6」から決まったものであり、例えば磁石の数がn個であれば、溝210の形状は正n角形になる。
【0016】
また、永久磁石200の製造方法を考慮すれば、各永久磁石200において、溝210は直線であることが好ましい。すなわち、円盤形状に貼り合わされた永久磁石の製造において、まず、各永久磁石200が、扇型の形状に形成される。次に、各永久磁石200において、ワイヤ放電加工機等により溝210が形成される。このとき溝210が直線である方が、ワイヤ放電加工機等による加工が容易である。次に、6個の永久磁石を円盤形状に貼り合わせる。このような工程で製造されるため、溝210は、各永久磁石200において直線であることが好ましい。
【0017】
本実施例では、電磁コイル100を6極備えている。各電磁コイル100は、角が丸い略三角形形状(略二等辺三角形形状)に巻かれている。電磁コイル100は、永久磁石200と重なる部分と重ならない部分とを有している。重ならない部分をコイルエンド領域101と呼び、重なる部分を有効コイル領域102と呼ぶ。本実施例では、電磁コイル100が為す二等辺三角形の底辺に相当する部分がコイルエンド領域101となり、等辺に対応する部分が有効コイル領域102となる。
【0018】
モーター10の駆動時、各電磁コイル100には、電流が印可される。この電流は、永久磁石200の位相により、大きさや向きが変わる。一般に、導体に電流が流れると、導体の周りに磁界が生じる。本実施例では、電磁コイル100に電流が流れると、電磁コイル100の周りに磁界が生じる。その磁界は、隣接する永久磁石200による磁界を強め、あるいは弱める方向に作用する。ところで、上述したように、電磁コイル100に流れる電流は、永久磁石200の位相により、大きさや向きが変わる。そうすると、電磁コイル100から永久磁石200に作用する磁界もかわる。そのとき、永久磁石200には、その磁界の変化を妨げる方向に磁界が生じるように電流が流れる。この電流は、渦を巻くように流れるため、一般に渦電流と呼ぶ。渦電流が生じると、渦電流損が発生し、モーター10の効率が悪くなる。本実施例では、渦電流の向きは、有効コイル領域102に流れる電流の向きとほぼ平行である。すなわち、渦電流の向きは、放射方向である。したがって、放射方向と交わる方向、すなわち、回転軸300の周りを回る方向に溝210が形成されていると、渦電流の発生を抑制し易い。
【0019】
図2は、永久磁石の表面の構造を拡大して示す説明図である。本実施例では、永久磁石200の溝210幅L1は50μmである。この幅L1の大きさは、本実施例で用いたワイヤ放電加工機に依存する値である。磁束密度の劣化を考慮すれば、50μmよりも小さい幅の方が好ましい。また、溝210の深さL3は、永久磁石200の厚さL2の半分程度が好ましい。溝210は、浅すぎると渦電流の抑制効果が少なく、深すぎると物理的強度が弱くなる。そのため、永久磁石200の厚さL2の半分程度が好ましい。ただし、永久磁石200の磁束密度分布、永久磁石の物理的強度によっては、L3は、永久磁石200の厚さL2の半分程度でなくてもよい。
【0020】
図3は、永久磁石の溝構造の別の構成例を示す説明図である。図1(B)に示した溝210の構成は、溝210の向きは、渦電流流れる方向とほぼ垂直に交わる方向である。しかしながら、渦電流の方向、すなわち、放射方向と交わる方向、すなわち、回転軸300の周りを回る方向に溝210が形成されていればよく、例えば、図3に示すような溝210の構成であってもよい。この形は、辺の中心部が外側に膨らんだ略正三角形形状である。この場合、溝210を中心軸周りに720/6=120度回転させれば、もとの溝210の形状に重なる回転対称形である。このときの上式の分母の「6」は、永久磁石200の数「6」から得られた物であり、一般に、永久磁石200がn個であれば、720/n度の回転対称形である。なお、図1に示した溝210の形状が正n角形になる場合もこの式は満たしている。このように溝210を回転対称形に形成すれば、各永久磁石200で発生する渦電流の大きさの偏りを抑制することが可能となる。これらの溝210は、ローター20の回転時に空気による風損失の発生を抑制するため、溝210を塗装処理又はメッキ処理により覆うことが好ましい。
【0021】
図4は、渦電流損の測定方法を説明する説明図である。測定装置は、駆動モーター400と、カップリング410と、を備える。カップリング410に被測定物を接続し、駆動モーター400を予め定められた回転数で回し、駆動モーターの消費電力を測定する。その測定結果を用いて、渦電流損特性を求める。
【0022】
図4(A)に示す状態では、カップリング410にローター20のみを接続する。そして、予め定められた回転数で駆動モーター400を回し、基準電力Pdを測定する。この場合、ステーター15(電磁コイル100)は接続されないので、逆起電力や渦電流は発生しない。また、ローター20の永久磁石の溝210の有無も基準電力Pdに影響を与えない。
【0023】
次に図4(B)に示すように、カップリング410に被測定モーター10を接続し、モーター10の電磁コイル100のコイル端110を開放した状態で予め定められた回転数で駆動モーター400を回し、基準電力Pn、Psを測定する。ここで、基準電力Pnは、ローター20の永久磁石200に溝210がない場合の電力であり、基準電力Psは、ローター20の永久磁石200に溝210がある場合の電力である。
【0024】
溝210がない場合の渦電流損は、
ΔPn=Pn−Pd
で求まり、
溝210がある場合の渦電流損、
ΔPs=Ps−Pn−Pd
で求まる。
【0025】
図5は、渦電流損の特性を示す説明図である。図5から明らかなように、永久磁石200に溝210がある場合の方が、無い場合よりも、渦電流損が少なくなっている。これは、溝210により、放射方向に電流(渦電流)が流れにくくなっていることに起因すると考えられる。
【0026】
以上、本実施例によれば、回転軸300と、回転軸300と垂直な円盤面に配置され、磁束の方向が回転軸300と平行な永久磁石200と、当該円盤面に対向して配置された電磁コイル100と、を備え、永久磁石200は、電磁コイル100側の面に、回転軸300の周りを回る方向に溝210が形成されている。そのため、渦電流の向きと溝の向きが交わる方向なので、渦電流の発生を抑制し易い。
【0027】
また、溝210は、正六角形であるので、各永久磁石における溝210の形状が、回転対称形になる。その結果、各永久磁石200で発生する渦電流の大きさの偏りを抑制することが可能となる。
【0028】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0029】
10…アキシャルギャップモーター(モーター)
15…ステーター
20…ローター
100…電磁コイル
101…コイルエンド領域
102…有効コイル領域
110…コイル端
200…永久磁石
210…溝
300…回転軸
310…バックヨーク
400…駆動モーター
410…カップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキシャルギャップ型の電機機械装置であって、
回転軸と、
前記回転軸と垂直な円盤面に配置され、磁束の方向が前記回転軸と平行な永久磁石と、
前記円盤面に対向して配置された電磁コイルと、
を備え、
前記永久磁石は、前記電磁コイル側の面に、前記回転軸の周りを回る方向に溝が形成されている、電機機械装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電気機械装置において、
前記円盤面に配置される前記永久磁石の数がn個(nは3以上の偶数)のとき、前記溝は、頂点が隣接する2つの磁石の境界にある正n角形である、電機機械装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気機械装置において、
前記溝の幅は、50μm以下である、電気機械装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのうちのいずれか一項に記載の電気機械装置において、
前記溝の深さは、前記永久磁石の磁束方向の長さの半分である、電気機械装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−259630(P2011−259630A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132607(P2010−132607)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】