説明

電気活性バイオポリマー光学デバイスおよび電気活性バイオポリマー電気光学デバイスならびにその製造方法

バイオポリマー光学デバイスの製造方法は、ポリマーを提供する工程、基材を提供する工程、基材の上にそのポリマーをキャストする工程、および有機化合物を酵素的に重合させて、提供されたポリマーと基材との間に導電性ポリマーを生成させる工程を含む。ポリマーは、絹のようなバイオポリマーであってもよく、かつチロシンのような有機化合物を用いて修飾して、チロシン−酵素重合を介して、バイオポリマー光学デバイスの提供されたバルクバイオポリマーと基材またはその他の導電層との間に分子レベルの界面を提供してもよい。酵素的に重合させる工程には、ペルオキシダーゼ酵素反応を用いて有機化合物を触媒することが含まれていてもよい。その結果生じるのは、ポリマーおよびバイオポリマー光学デバイス中で使用するためのポリマー「ワイヤー」を提供する炭素−炭素結合主鎖である。それによって、全てが有機のバイオポリマー電気活性材料が得られ、これは光学的な機能および特徴を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第60/856,297号明細書(出願日:2006年11月3日、発明の名称:「Biopolymer Devices and Methods for Manufacturing the Same」)の優先権の恩典を主張する。
【0002】
政府支援
本発明は、the Air Force Office of Scientific Researchにより交付番号FA95500410363号として与えられた政府支援のもとになされた。本発明に関して政府は一定の権利を保有している。
【0003】
発明の分野
本発明は、電気活性バイオポリマー光学デバイスおよび電気活性バイオポリマー電気光学デバイスならびにそのようなデバイスを製造するための方法に関する。本発明はさらに、バイオポリマー光学デバイスおよびバイオポリマー電気光学デバイスに対する電子工学および電気的集積化に関する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明
光学の分野は、十分に確立されている。光学のいくつかのサブフィールドとしては、回折光学、微小光学、フォトニクス、および導波光学などが挙げられる。研究用途および商業用途のための光学のこれらおよびその他のサブフィールドにおいて、各種の光学デバイスが作製されてきた。例えば、一般的な光学デバイスとしては、回折格子、フォトニック結晶、光流体デバイス、導波路、レンズ、マイクロレンズアレイ、パターン発生器、ビームリシェーパーなどが挙げられる。
【0005】
これらの光学デバイスは、その用途およびその所望される光学的な特性に合わせて、各種の方法を用いて作製される。しかしながら、これらの光学デバイス、およびそれらを製造する際に採用される作製方法には、一般的に、非生分解性材料の顕著な使用が含まれる。例えば、光学デバイスにおいては、ガラス、溶融シリカ、およびプラスチックが一般的に使用される。そのような材料は生分解性でなく、その光学デバイスが使用されなくなって廃棄された後でも、長期間にわたって環境の中に留まる。言うまでもないことであるが、それらの材料のいくつかは、リサイクルおよび再使用することが可能である。しかしながら、リサイクルにおいても、さらなる天然資源を消費することが必要であり、そのような材料に伴う環境コストが増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、環境に対するマイナスの影響を最小限とするような光学デバイスに対する必要性が、充足されないまま残っている。それに加えて、従来からの光学デバイスによっては得られなかった、さらなる機能的特徴を与える光学デバイスに対する必要性が、充足されないまま残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のことを考慮に入れて、本発明の目的は、各種の用途において使用することが可能な、各種の新規なバイオポリマー光学デバイスおよびそのような光学デバイスを製造するための方法を提供することである。
【0008】
本発明の一つの態様は、電気活性バイオポリマー光学デバイスおよび電気活性バイオポリマー電気光学デバイスを提供することである。
【0009】
本発明のまた別の態様は、そのようなバイオポリマー光学デバイスを製造するための方法を提供することである。
【0010】
本発明の一つの利点は、環境に対するマイナスの影響を最小限とするバイオポリマー光学デバイスを提供する点にある。
【0011】
本発明のまた別の利点は、生体適合性があるバイオポリマー光学デバイスを提供する点にある。
【0012】
本発明のさらにまた別の利点は、従来からの光学デバイスによっては得られなかった、さらなる機能的特徴を有するバイオポリマー光学デバイスを提供する点にある。
【0013】
上記のことに関して、本発明の発明者らは、バイオポリマー、特に絹タンパク質が、新規な構造およびその結果としての機能を与えることを認識するに至った。例えば、材料科学の観点からは、クモおよびカイコによって紡ぎ出される絹は、これまで知られている内では最も強く、最も強靱な天然繊維を代表するものであって、機能化、加工、および生体適合性において各種の機会を提供する。5000年を超える歴史の中で、絹は需要のある織物から、科学的に魅力のある繊維へと移行していった。その特徴によって昔の人々を魅了したのと同様に、絹は、その強度、弾性、および生化学的な性質のために、今日この時代においても大いに注目を集めている。自己集合および集合における水の役割についての知見によって、絹の新規な材料特性が拡張した。それらの知見から、ヒドロゲル、超薄膜、厚膜、コンフォーマルコーティング(conformal coating)、三次元多孔質マトリックス、固形ブロック、ナノスケール直径の繊維、および大きな直径の繊維を製造するための新規な加工方法が得られるようになった。
【0014】
絹ベースの材料は、熱力学的に安定なタンパク質二次構造、別な呼び方ではベータシート(βシート)の天然の物理的架橋を用いて、それらの印象的な機械的性質を達成している。したがって、材料を安定化させるための、外部からの架橋反応や後加工による架橋は全く必要としない。絹タンパク質鎖の上に多様なアミノ酸側鎖化学基が存在していることによって、絹を官能化させるための、例えばサイトカイン、モルフォゲン、および細胞結合ドメインなどとの結合化学反応が容易となる。機械的側面、水系加工、室温加工、機能化の容易さ、多様な加工モード、自己形成架橋、生体適合性、および生分解性を考慮に入れると、この範囲の材料特性および生物学的な界面(biological interface)を提供するような、合成ポリマーまたは生物学的に誘導されたポリマー系は、これまで知られていない。
【0015】
本発明によるバイオポリマーデバイス、特に絹タンパク質によって得られるまた別の特有の特徴は、新しい機能を追加するためにバイオポリマーの本来の配列を遺伝子的に変化させたり、あるいは新しい機能を追加するためにバイオポリマーを化学的に修飾したりできる能力である。本発明の方法およびバイオポリマーデバイスは、付加した細胞結合ドメイン(RGD)、レドックストリガー(酸化/還元調節のためのメチオニン)およびリン酸化トリガー(酵素キナーゼ/ホスファターゼ反応)の性能を拡張する。本発明のバイオポリマー光学デバイスはさらに、天然の絹の集合体および構造を維持しながらもさらなる機能を与える、新しいタイプの絹を遺伝子的に再設計する。
【0016】
さらに、本発明の方法を使用すると、チロシンも含めて、各種の芳香族有機化合物を酵素的に重合させて、導電性ポリマーを生成することができる。その有機化合物の重合は、溶液から実施しても、あるいは固体中で実施してもよい。この酵素プロセスは、ペルオキシダーゼ酵素反応によって触媒反応させてもよく、フリーラジカル結合反応に基づいている。その結果生じるのは、ポリマーおよびバイオポリマー光学デバイス中で使用するためのポリマー「ワイヤー」を提供する炭素−炭素結合主鎖である。
【0017】
チロシンを用い、遺伝子的または化学的結合のいずれかを介して、例えば絹のようなバイオポリマーに対するさらなる修飾を行ってもよい。チロシンは、バルク絹タンパク質と、導電層を有する光学的な特徴、またはチロシン−酵素重合を介する特徴との間に、分子レベルの界面を与える。そのために、特有で、全てが有機のバイオポリマー電気活性材料を実現させることができ、これはさらに光学的な特徴も提供する。
【0018】
さらに詳しくは、本発明に従えば、チロシンモノマーを酵素的に架橋させて、導電性ポリマーを形成させることができる。絹のようなバイオポリマーから作製された光学格子を再構築させて、絹の中のチロシンブロックを遺伝子的にコードさせてもよい。チロシン架橋を使用して、導電性ワイヤーを形成させてもよく、さらなる調節を実施して、絹の内部および表面上の両方で、「ワイヤー」が形成される位置を調節してもよい。したがって、本発明によって、バイオポリマー光学デバイスの中に電子的な成分を定方向に(directed)一体化することが可能となる。絹も含めた、これらのバイオポリマー材料は、新規なコンフォーマルコーティングおよび関連の技術のための電子的な性質を目的として使用することができ、それにはさらなる光学的な特徴が含まれる。
【0019】
チロシン部分は、遺伝子工学によるか、または「官能性」融合成分としての表面化学によって、ポリマーまたは絹のようなバイオポリマーの中に組み入れてもよい。例えば、カルボジイミド結合を使用して、チロシン部分を組み入れてもよい。それに続く酵素プロセスを介しての後加工重合によって、絹タンパク質の集合体に沿って結合導管(conjugated conduit)が生成する。その重合工程は、ペルオキシダーゼを用いた二次酵素重合をベースとするものであって、チロシンの炭素−炭素(C−C)結合を相互につなぎ合わせて、導電性ポリマーを生成させる。導電性ポリマーの位置と特徴を精密に調節したナノ層、ナノ繊維、および関連の材料系を形成させうることから、各種の用途のための向上した電子的および光学的機能を有する、コンフォーマルで、軽量の機能保護コーティングを形成させるための、新しい選択肢が生まれる。
【0020】
過酸化水素によって仲介される、ペルオキシダーゼ触媒作用を使用して、広範囲の芳香族化合物から導電性ポリマーを形成させた。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)は、Fe含有ポルフィリンを有する単鎖のβ型ヘムタンパク質を含む糖タンパク質である。芳香族化合物のHRP触媒作用を使用して、導電性ポリマーを形成させた。ペルオキシダーゼ触媒反応を介しての表面上における芳香族化合物の固体重合反応を使用して、導電性ポリマーを形成させた。本発明の一つの実施態様においては、ディップペンナノリソグラフィー(DPN)を使用し、4−アミノチオフェノールおよびチロシンを「インキ」としてパターン化させた。表面誘導配向をもたせた、芳香族モノマーのDPNパターン法を用いて、周囲環境表面反応における酵素重合を促進させて、導電性ポリマーを得た。
【0021】
表面反応の一例には、H水溶液(30%w/w)をMeOH/HO(1:1、体積比)混合物を用いて希釈することにより調製した、0.01MのH標準溶液が含まれていてよい。ペルオキシダーゼまたはヘマチンの触媒作用による重合は、200μLのセイヨウワサビペルオキシダーゼ標準溶液を含むH標準溶液の中に、固体集合体(自立していてもよいし、あるいはガラススライドの表面上にあってもよい)を浸漬させることによって実施してもよい。その反応の後に、その絹の集合体を、緩衝溶液の中に数回浸漬させることによって洗浄する。ペルオキシダーゼ(供与体:過酸化水素オキシドレダクターゼ;EC1.11.1.7)タイプII(セイヨウワサビからのもの)、およびヘマチン(プロシン)は市販されている。
【0022】
ヘマチンは、セイヨウワサビペルオキシダーゼに比較してその分子サイズが小さいために、固体材料反応において有利となるが、このことは、チロシンの拡散が、バルク材料の表面ではなく、例えば、内部ブロックに及ぶということに関連する。典型的なヘマチン反応には、リン酸ナトリウム緩衝液、絹材料、およびヘマチンが含まれる。ペルオキシダーゼ反応の場合と同様に、等モル量の過酸化水素(0.6mmol)を酸化剤として添加する。
【0023】
本発明による電気活性バイオポリマーデバイスには、各種の用途が存在する。例えば、電気活性バイオポリマーデバイスは、電気光学コレクター、ソーラーコレクター、光学的読取りを有する機械式アクチュエーターとして、および軽量で分解性の電気活性デバイスが望まれるその他の用途において使用することができる。
【0024】
他のバイオポリマーまたは合成ポリマーでは、上述のような絹の特徴の範囲に合わせることは不可能ではあるものの、本発明の発明者らは、絹と同様の、または類似した各種の性質を示すいくつかの他のポリマーを同定した。具体的には、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン(pullan)、デンプン(アミラーゼ アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連のポリマーを含む、他の天然バイオポリマーが同定された。バイオポリマー、特に絹の上述の特徴を考慮に入れて、本発明は、新規なバイオポリマー光学デバイスおよびそのようなデバイスを製造するための方法を提供する。
【0025】
本発明の一つの態様においては、導電性ポリマーの製造方法には、ポリマーを提供する工程、基材を提供する工程、基材の上にポリマーをキャストする工程、および有機化合物を酵素的に重合させて、提供されたポリマーと基材との間に導電性ポリマーを生成させる工程が含まれる。一つの実施態様においては、提供されるポリマーが、例えば絹のようなバイオポリマーであるのに対して、他の実施態様においては、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、および関連のバイオポリマー、またはそれらの変形形態および組み合わせなどを含む他のポリマーを使用してもよい。
【0026】
一つの実施態様においては、そのポリマーがマトリックス溶液であってよく、その重合がそのマトリックス溶液から実施されるのに対して、他の実施態様においては、そのポリマーが固形物であってよく、その重合がその固形物から実施される。さらには、一つの実施態様においては、その酵素重合に、ペルオキシダーゼ酵素反応を用いて、その有機化合物を触媒することが含まれていてもよい。例えば、一つの実施態様においては、有機化合物としてチロシンが使用されるが、それに対して他の実施態様においては、下記の他の有機化合物が使用されてもよい:赤血球、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、フェノールスルホンフタレイン、核酸、色素、細胞、抗体、酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、オルガノホスフェートデヒロドゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼ、細胞、ウイルス、タンパク質、ペプチド、小分子(例えば、薬剤、色素、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤)、DNA、RNA、RNAi、脂質、ヌクレオチド、アプタマー、炭水化物、発色団、発光性有機化合物、例えばルシフェリン、カロチンおよび発光性無機化合物(例えば化学色素)、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス薬、集光性化合物、例えばクロロフィル、バクテリオロドプシン、プロトロドプシン、およびポルフィリン、ならびに関連する電子的に活性な化合物、またはそれらの変形形態および組み合わせ。
【0027】
本発明の一つの実施態様においては、ポリマーと基材との間に界面が形成され、その界面はチロシン−酵素重合によって形成された導電層である。その界面には、炭素−炭素(C−C)結合主鎖が含まれていてよい。
【0028】
一つの実施態様においては、その基材を、光学デバイスのためのモールドまたはテンプレートとして機能させてもよい。その基材は、電気光学コレクター、ソーラーコレクター、光学的読取りを有する機械式アクチュエーター、およびその他の、軽量で分解性の電気活性デバイスが望まれるような用途のための、モールドまたはテンプレートとしてもよい。その基材はさらに、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、ビームリシェーパーなどを含むバイオポリマーデバイスのための、モールドまたはテンプレートとしてもよい。その他の幾何学的特徴、例えばホールおよびピットもまた、基材の中に含まれていてよい。
【0029】
本発明のまた別の実施態様においては、少なくともバルクタンパク質、基材、有機化合物、および酵素から作製された導電性ポリマーが提供されるが、その酵素がその有機化合物を重合させて、ポリマーと基材との間に導電性ポリマーを形成させる。その導電性ポリマーは、バイオポリマー、例えば絹であってもよいし、あるいは、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、および関連するバイオポリマー、またはそれらの組み合わせを含むその他のポリマーであってもよい。
【0030】
本発明のこれらおよびその他の利点および特徴は、添付の図面と併せて参照すれば、以下の本発明の好ましい実施態様の詳細な説明から、より明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】本発明の一つの実施態様による、バイオポリマー光学デバイスの製造方法を説明する、概略フロー図である。
【図1B】本発明の一つの実施態様による、バイオポリマー光学デバイスの製造方法を説明する、概略フロー図である。
【図2】8%絹濃度の体積と膜厚との間の関係を示すグラフである。
【図3A】絹から作製されたバイオポリマー膜の写真である。
【図3B】図8Aのバイオポリマー膜の反射率のプリズム結合角度依存性を示すグラフである。
【図3C】図8Aのバイオポリマー膜の光の透過率(transmission)の測定値を示すグラフである。
【図4】RBCをドープした絹光学デバイスの内部におけるヘモグロビン機能の保持性を示す結果のグラフである。
【図5】絹、キトサン、およびコラーゲンの中にキャストされた回折性バイオポリマーデバイスを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
上述のような優れた機能特性および加工性を考慮して、本発明によるバイオポリマー光学デバイスは、絹のようなバイオポリマーを使用して作製したものとして記述する。これに関しては、使用された絹はカイコ絹であった。しかしながら、各種の絹、例えばクモの糸、トランスジェニックの絹、および遺伝子改変の絹、それらの変種および組み合わせなどが存在し、それらを代用品として使用して、本発明によるバイオポリマー光学デバイスを製造してもよい。
【0033】
さらに、絹に代えて、その他の生分解性ポリマーを使用してもよい。例えば、他のバイオポリマー、例えばキトサンは、所望の機械的性質を示し、水中で加工することが可能であり、一般的には光学的用途のための清澄な膜を形成する。それに代えて、特定の用途においては、その他のバイオポリマー、例えば、コラーゲン、セルロース、キチン、ヒアルロン酸、アミロースなどを使用してもよい。合成生分解性ポリマー、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカノエート、および関連のコポリマーもまた、選択的に使用してもよい。そのようなポリマーは、それ自体で使用してもよいし、あるいは、絹やその他のポリマーと組み合わせて使用してもよく、また特定の用途のためのバイオポリマー光学デバイスを製造するために使用してもよい。
【0034】
図1Aは、本発明の一つの実施態様による、バイオポリマー光学デバイスの製造方法を示すフロー図10の概略図である。ステップ11においてバイオポリマーが提供されたならば、プロセスは下のステップ16に進む。そうでない場合には、ステップ12においてバイオポリマーが提供される。そのバイオポリマーが絹であるような例では、カイコ(Bombyx mori)の繭からセリシンを抽出することによってバイオポリマーを提供してもよい。一つの実施態様においては、そのバイオポリマーが溶液、例えばバイオポリマーマトリックス溶液であってもよいし、それに対して他の実施態様においては、使用されるバイオポリマーに応じて、水以外の各種溶媒、または水と他の溶媒の組み合わせを使用してもよい。
【0035】
絹の例においては、絹フィブロイン水溶液を例えば8.0重量%に処理してから、それを用いてバイオポリマー光学デバイスを製造してもよい。言うまでもないことであるが、他の実施態様においては、その溶液濃度を、例えば浸透ストレス技術また乾燥技術により希釈するかまたは濃縮することによって、極めて希薄な濃度(およそ1重量%)から極めて高い濃度(最高30重量%まで)まで変化させてもよい。この点に関しては、他の実施態様においては、用途に合わせて、得られるナノパターン化バイオポリマー光学デバイスの可撓性または強度を最適化させるために、各種の重量パーセントの溶液を使用してもよい。絹フィブロイン水溶液の製造については、国際公開公報第2005/012606号(発明の名称:Concentrated Aqueous Silk Fibroin Solution and Uses Thereof)に詳しい記載がある(これは参照により本明細書に組み入れられる)。さらに、そのポリマーは固形物であってもよく、その場合その固形物を用いて重合を実施する。
【0036】
ステップ16において基材を提供し、バイオポリマー光学デバイスを製造する際のモールドまたはテンプレートとして使用する。その基材の表面は、バイオポリマー光学デバイスの上に形成される、所望の特徴的な様相を有している。この点に関しては、その基材は、製造されるデバイスにおいて望まれる光学的な特徴に合わせて、光学デバイスの表面上の適切なナノパターンであってもよいし、例えばナノパターン化光学格子のような光学デバイスまたはその他の光学デバイスであってもよい。ステップ18において、ポリマー、例えばバイオポリマーマトリックス水溶液または前述の固形物を基材の上にキャストする。乾燥させ、かつそれに続く反応を完了させると、固化されたバイオポリマー膜が基材の表面上に形成される。バイオポリマー膜の厚みは、基材に塗布したバイオポリマーマトリックス溶液または固形ポリマーの体積に依存する。
【0037】
上述の方法で製造したバイオポリマー膜、例えば絹の膜の上に、パターン化されたナノ構造を与えることができる。一つの実施態様においては、基材の表面が平坦であって、そのことにより平坦なバイオポリマー膜が得られるようにしてもよく、そのバイオポリマー膜の表面の上にナノパターンを機械加工してもよい。ナノパターンは、例えばフェムト秒レーザーのようなレーザーを使用するか、あるいはリソグラフィー技術、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィーなどを含む、その他のナノパターン加工技術を使用して、加工してもよい。そのような技術を使用することで、700nmもの細さで間隔が3μm未満のような特徴を有するナノパターンが実証されたが、これについては以下においてさらに詳しく説明する。
【0038】
また別の実施態様においては、基材そのものの表面がその上に適切なナノパターンを有していて、そのため、固化されたバイオポリマー膜をその基材から取り外すと、そのバイオポリマー膜には、その表面上に所望のナノパターンが既に形成されているようにしてもよい。そのような実施形態においては、バイオポリマー膜上で望まれるナノパターンに応じて、その基材が、ナノパターン化光学格子のような光学デバイスであってもよい。その基材の表面をTeflon(商標)およびその他の適切なコーティングで被覆しておいて、バイオポリマーマトリックス溶液が液相から固相へと転移した後に、均質に剥離されるようにしてもよい。得られるバイオポリマー膜中に高度に規定されたナノパターン化構造を形成させるための、ナノパターン化基材を使用したバイオポリマーキャスト方法の性能は検証済みであり、75nmもの細かいナノ構造と5nm未満のRMS表面粗さとを有する絹の膜が実証されている。
【0039】
再度図1Aを参照すると、ステップ20において、有機化合物を酵素的に重合させて、提供されたポリマーと基材との間に導電性ポリマーを生成させる。その酵素反応は、選択されたポリマー(例えば、絹タンパク質)および酵素反応の成分に依存して、その絹タンパク質の天然配列を遺伝子的に変化させて新しい機能を追加するか、あるいは、そのバイオポリマーを化学的に修飾して新しい機能を追加する。本発明の方法は、付加した細胞結合ドメイン(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸−RGD)、レドックストリガー(酸化/還元調節のためのメチオニン)およびリン酸化トリガー(酵素キナーゼ/ホスファターゼ反応)の性能にまで拡張される。本発明の絹タンパク質の酵素重合は、本来の絹の集合体および構造を維持しながらもさらなる機能を提供する新しいタイプの絹を、遺伝子的にさらに再設計する。
【0040】
一つの実施態様においては、重合される有機化合物は、酵素的に重合されて導電性ポリマーを生成することが可能な、芳香族有機化合物、例えばアミノ酸、例えばチロシンであってよい。先に示したように、有機化合物の重合は、溶液から実施しても、固体から実施してもよい。
【0041】
チロシンを用い、遺伝子的または化学的結合を介して、例えば絹のようなバイオポリマーに対するさらなる修飾を行ってもよい。チロシンは、バルク絹タンパク質と、導電層を有する光学的な特徴、またはチロシン−酵素重合を介する特徴との間に、分子レベルの界面を与える。そのために、特有で、全てが有機のバイオポリマー電気活性材料を実現させることができ、これはさらに光学的な特徴も提供する。
【0042】
さらに詳しくは、ステップ210に示すように、チロシンモノマーは、酵素的に架橋されて、導電性ポリマーを形成することができる。ステップ212に見られるように、絹のようなバイオポリマーから作製された光学格子を再構築させて、絹の中のチロシンブロックを遺伝子的にコードさせてもよい。
【0043】
図1B中のステップ22に見られるように、その酵素プロセスは、ペルオキシダーゼ酵素反応により触媒されてもよく、フリーラジカル結合に基づくものである。例えば、過酸化水素によって仲介される、ペルオキシダーゼ触媒作用を使用して、広範囲の芳香族化合物から導電性ポリマーを形成させた。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)は、Fe含有ポルフィリンを有する単鎖のβ型ヘムタンパク質を含む糖タンパク質である。芳香族化合物のHRP触媒作用を使用して、導電性ポリマーを形成させた。ペルオキシダーゼ触媒反応を介しての表面上における芳香族化合物の固体重合反応を使用して、導電性ポリマーを形成させた。本発明の一つの実施態様においては、ディップペンナノリソグラフィー(DPN)を使用し、4−アミノチオフェノールおよびチロシンを「インキ」としてパターン化させた。表面誘導配向をもたせた、芳香族モノマーのDPNパターン法を用いて、周囲環境表面反応における酵素重合を促進させて、導電性ポリマーを得た。
【0044】
チロシン部分は、遺伝子工学によるか、または「官能性」融合成分としての表面化学によって、絹のようなバイオポリマーの中に組み入れることができる。例えば、カルボジイミド結合を使用して、チロシン部分を組み入れてもよい。それに続く酵素プロセスを介しての後加工重合によって、絹タンパク質の集合体に沿って結合導管(conjugated conduit)が生成する。ステップ214に見られるように、その重合工程は、ペルオキシダーゼを用いた二次酵素重合をベースとするものであって、チロシンの炭素−炭素(C−C)結合を相互につなぎ合わせて、導電性ポリマーを生成させる。導電性ポリマーの位置と特徴を精密に調節したナノ層、ナノ繊維、および関連の材料系を形成させうることから、各種の用途のための向上した電子的および光学的機能を有する、コンフォーマルで、軽量の機能保護コーティングを形成させるための、新しい選択肢が生まれる。
【0045】
表面反応の一例には、H水溶液(30%w/w)をMeOH/HO(1:1、体積比)混合物を用いて希釈することにより調製した、0.01MのH標準溶液が含まれていてよい。ペルオキシダーゼまたはヘマチンの触媒作用による重合は、200μLのセイヨウワサビペルオキシダーゼ標準溶液を含むH標準溶液の中に、固体集合体(自立していてもよいし、あるいはガラススライドの表面上にあってもよい)を浸漬させることによって実施することができる。その反応の後に、その絹の集合体を、緩衝溶液の中に数回浸漬させることによって洗浄する。ペルオキシダーゼ(供与体:過酸化水素オキシドレダクターゼ;EC1.11.1.7)タイプII(セイヨウワサビからのもの)、およびヘマチン(プロシン)は市販されている。
【0046】
ヘマチンは、セイヨウワサビペルオキシダーゼに比較してその分子サイズが小さいために、固体材料反応において有利となるが、このことは、チロシンの拡散が、バルク材料の表面ではなく、例えば、内部ブロックに及ぶということに関連している可能性がある。典型的なヘマチン反応には、リン酸ナトリウム緩衝液、絹材料、およびヘマチンが含まれる。ペルオキシダーゼ反応の場合と同様に、等モル量の過酸化水素(0.6mmol)が酸化剤として添加されると考えられる。
【0047】
ステップ24に見られるように、チロシン架橋を使用して、バイオポリマー光学デバイスのための、炭素−炭素(C−C)結合主鎖の結果としての、導電性ポリマー「ワイヤー」を形成させてもよい。ステップ36に見られるように、絹の内部および表面上の両方で、「ワイヤー」が形成される位置を調節するためのさらなる調節を実施してもよい。そのようにして、本発明に従って、バイオポリマー光学デバイスの中への電子構成要素の定方向の一体化を実施してもよい。絹のような、これらのバイオポリマー材料は、新規なコンフォーマルコーティングおよび関連の技術のための電子的な性質のために使用することができ、それにはさらなる光学的な特徴が含まれる。
【0048】
この電気活性バイオポリマーデバイスの各種の用途としては、電気光学コレクター、ソーラーコレクター、光学的読取りを有する機械式アクチュエーターとしての使用、および軽量で分解性の電気活性デバイスが使用されうるその他の用途が挙げられる。
【0049】
実験を実施して、各種のバイオポリマー光導波路を製造することによって、上述の方法の検証を行った。8重量%の絹濃度の絹フィブロイン水溶液の体積と、得られる絹の膜厚との間の関係を図2のグラフ30に示しているが、その絹フィブロイン水溶液は、およそ10平方センチメートルの基材の表面上にキャストした。X軸は絹フィブロイン溶液の体積(単位mL)を示し、Y軸は得られた膜の厚み(単位μm)を示している。
【0050】
言うまでもないことであるが、膜の性質、例えば厚みおよびバイオポリマー含量、さらには光学的な特徴は、そのプロセスで使用されるフィブロインの濃度、堆積させる固形物または絹フィブロイン水溶液の体積、およびキャスト溶液を乾燥させてその構造を固定させるための堆積後(post−deposition)プロセスなどに基づいて、変化させることができる。得られたバイオポリマー光導波路の光学的品質を確保し、バイオポリマー光導波路の各種の特性、例えば透明度、構造的剛性、および可撓性を維持するためには、それらのパラメーターを正確に調節することが望ましい。さらに、バイオポリマーマトリックス溶液に対する添加剤を使用して、バイオポリマー光導波路の特徴、例えば、形態、安定性などを変化させてもよいが、そのようなものとしてはポリエチレングリコール、コラーゲンなどが知られている。
【0051】
10μmの厚みを有するパターン化されていないバイオポリマー膜を、絹フィブロイン水溶液を使用して上述の方法で製造し、Metricon Corporation製の走査型プリズム結合反射率計で特性解析した。図3Aに、製造され特性解析された、パターン化されていないバイオポリマー膜34を示す。バイオポリマー膜34の屈折率を測定すると、633nmでn=1.55であったが、これは通常のボロシリケートガラスの屈折率よりもやや高い。測定された屈折率は、例えば空気−絹バイオフォトニック結晶(BPC)において光学的に使用するための妥当なコントラストを与えるには、十分に高いことが確認された(Δnfibroin−Δnair=0.55)。パターン化されていない絹の膜34の特性解析が、図3Bのグラフ36に示されているが、これからは明らかに、反射率のプリズム結合角度依存性が認められる。グラフ36における振動は、導波光の中へのカップリングによるものであって、導波路材料として絹が使用できることを示している。
【0052】
光学的に平坦な表面上にキャストした絹の膜の粗さを測定すると、2.5〜5ナノメートルの間の二乗平均平方根粗さの値と測定されたが、このことは、633nmの波長では、優にλ/50未満の表面粗さであることを意味している。パターン化された絹回折光学素子の原子間力顕微鏡画像は、適切なモールドで絹の膜をキャストおよびリフトさせることによって得られる超微細加工のレベルを示している。それらの画像は、数百ナノメートル範囲の解像度を示し、コーナーの鮮鋭度からは、数十ナノメートルまでの細かい忠実なパターニングの可能性が示唆される。
【0053】
さらに、パターン化されていない絹の膜34を解析して、透明度を求めた。図3Cは、各種の波長における絹の膜34を通過する光の透過率の測定値を示すグラフ38である。透過率の測定から、パターン化されていない絹の膜34が、可視スペクトル全体にわたって高い透明性を有していたことがわかる。比較のために、コラーゲン、およびポリジメチルシロキサン(PDMS)で同様の厚みの膜をキャストした。自立性についての構造的な安定性が劣っていることが見出され、また得られたバイオポリマー光学デバイスは、薄膜として実施したときに、自立性がなかった。しかしながら、そのようなバイオポリマーでも、構造的な安定性が重要と考えられないような他の用途では使用できる。
【0054】
ここで重要なことは、各種の厚みを有する成形膜を、上述の図1の方法を使用してナノスケールのパターン化を行って、ナノパターン化バイオポリマー光学デバイスを得ることである。
【0055】
本発明に関連して使用するとき、「ナノパターン化」という用語は、バイオポリマー光学デバイスの表面上に得られる極めて小さなパターニングを指す。そのパターニングは、そのサイズがナノメートルスケール(すなわち、10−9メートル)で適切に測定しうる、例えば100nm〜数ミクロンの範囲のサイズであるような、構造的な特徴を有している。さらに、本発明のバイオポリマー光学デバイスには、各種の異なった光学デバイス、例えばレンズ、回折格子、フォトニック結晶、導波路などを組み入れてもよい。
【0056】
各種のナノパターン化バイオポリマー光学デバイスが、絹フィブロイン溶液を用いた上述の本発明の方法を使用して満足のいくレベルで製造された。それらのデバイスには、導波路、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、およびビームリシェーパーが含まれる。具体的には、絹フィブロインの水溶液を、その上にパターンを有する特定の基材の上にキャストした。その基材の表面をTeflon(商標)で被覆しておいて、バイオポリマーマトリックス溶液が液相から固相へと転移した後に、均質に剥離されるようにした。バイオポリマー光学デバイスにおいて高度に規定されたナノパターン化構造を形成させるための、本発明のバイオポリマーキャスト方法の性能が、本発明の光導波路をキャストすることによって検証された。210nmもの低い寸法と、20nm未満の局所的表面粗さを有する、規則的にパターン化された特徴が得られた。先にも述べたように、スムージング技術をさらに使用して、バイオポリマー光導波路の表面粗さをさらに低下させるか、または除去してもよい。
【0057】
生体適合性材料をそのように規則的にパターニングさせることによって、フォトニックバンドギャップを与え、有機物を介して光を処理し、しかも機械的には頑強な光学デバイスを得るために使用することが可能な光学デバイスを製造することが可能となる。それらのデバイスは、本明細書全体で説明しているように、包埋される光学素子の可撓性とタンパク質基材の特有の多様性とが組み合わさっている。本発明によって多くのメリットが得られるが、それには、絹のようなバイオポリマー有機特性を、有機マトリックスの中に包埋された回折および伝送性(transmissive)光学素子の性能と組み合わせて、生物学的に活性な光学素子を作り出すことが含まれる。絹は、分解の調節が可能で、生体適合性で、そして構造的に強い媒体を与え、それを用いて、本発明による光学デバイスを作製することができる。
【0058】
上述の本発明の方法を使用して、伝送性のナノパターン化回折性バイオポリマー光学デバイスを作製した。それらの光学デバイスには、バイオポリマー光導波路、絹ディフューザー、ラインパターン発生器、およびクロスパターン発生器が含まれる。そのような光学デバイスは、適切に形成された波長スケールの表面構造を使用して、光干渉を利用する、予め決められた一次元または二次元の光パターンを作り出す。従来からの材料で作製されたそのような光学デバイスは、いくつかの使用例を挙げれば、画像形成、分光法、ビームサンプリングおよびトランスフォーメーション、ならびに計量法などに適用されてきた。例えば絹バイオポリマーのような生物学的マトリックスの中での光の送達を調節するためにこのアプローチ方法を拡張することによって、基材の中へのフォトンの最適なカップリングを提供してもよく、あるいは設計された光学的な識別性、干渉、または読取りが可能となりうる。
【0059】
本発明によるバイオポリマー光導波路の顕著な利点は、それらが完全に有機で、生体適合性であるので、光導波路を生物学的に活性化された状態とする性能があることである。例えば絹の光導波路の場合には、水をベースとする加工を用いることができる。このことによって、導波路の細胞生存性が向上し、生体適合性についても同様である。
【0060】
ナノパターン化バイオポリマー光学デバイスの生体適合性を確認する目的で、上述のような図1に従って製造した本発明による絹回折格子の中に、赤血球(RBC)を組み入れた。そのRBC−絹フィブロイン溶液は、1mLの80%ヘマトクリットヒトRBC溶液と、5mLの8%絹溶液とを組み合わせることによって調製した。その混合物を、600ライン/mmの光学格子上にキャストし、一夜かけて放置乾燥させた。その膜を、光学格子から取り外し、2時間アニールさせた。そうして得られたRBCをドープした絹回折格子の中には、格子構造が観察された。
【0061】
次いで、そのRBCをドープした絹回折格子を試験して、回折次数を観察した。光伝送実験(optical transmission experiment)を実施して、ヘモグロビン(RBC中に含まれる酸素運搬タンパク質)が、絹回折格子のマトリックスの中でその活性を維持しているかどうかを調べた。図4にその結果のグラフ160を示すが、それは、RBCをドープした絹回折格子の中でヘモグロビン機能が維持されていることを示している。X軸は波長(単位nm)に相当し、Y軸は、RBCをドープした絹回折格子による吸光度を示している。
【0062】
具体的には、RBCをドープした絹回折格子を、蒸留水を充填した石英キュベットの中に挿入し、吸光度曲線を観察した。その結果を、結果のグラフ160の中の線(b)HbOによって示す。図から判るように、線(b)HbOによって示される吸光度曲線は、オキシヘモグロビンの吸収に典型的な二つのピークを示した。次いで、そのキュベットの中に窒素ガスの気泡を通して、ヘモグロビンを脱酸素化させた。15分後に、オキシヘモグロビンの特性吸収ピークが吸光度曲線から消えた。この結果を、結果のグラフ160の中の線(a)Hbによって示す。これらの結果は、次いでキュベットへの窒素の流れを止めると、その結果として、オキシヘモグロビンのピークが再び現れるということで、さらに確認した。その結果を、結果のグラフ160の中の線(c)HbOによって示す。
【0063】
先にも説明したように、代わりのバイオポリマーを使用して、本発明によるナノパターン化バイオポリマー光学デバイスを作製してもよい。図5は、異なった材料を使用してキャストした他の回折性バイオポリマー光学デバイスを示す、写真180を示している。具体的には、キトサン光学デバイス182と、コラーゲン光学デバイス184をさらに、本発明に従って製造した。キトサンに関しては、絹と同様の光回折特性が観察された。
【0064】
上述の説明と、例に挙げて示し説明したナノパターン化バイオポリマー光学デバイスとから、本発明が、生分解性バイオポリマー光学デバイスを提供することは明らかである。本来的に生体適合性であり、水の中で加工することが可能で、調節された寿命で分解することが可能な、高品質のバイオポリマー光学デバイスが製造された。先にも説明したとおり、本発明のバイオポリマー光学デバイスは、小さな有機物質を組み入れることによって、生物学的に活性化させてもよい。具体的には、そのバイオポリマー光学デバイスは、場合によっては、1種または複数の有機指示薬、生細胞、微生物、マーカー、タンパク質などと共にそれを包埋させることによって、生物学的に機能化させることができる。さらに詳しくは、本発明によるバイオポリマー光学デバイスは、以下のような有機物質と共に包埋またはコーティングすることができる:赤血球、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、フェノールスルホンフタレイン、核酸、色素、細胞、抗体、付属書Iにさらに記載されているような、酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、オルガノホスフェートデヒロドゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼ、細胞、ウイルス、タンパク質、ペプチド、小分子(例えば、薬剤、色素、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤)、DNA、RNA、RNAi、脂質、ヌクレオチド、アプタマー、炭水化物、発色団、発光性有機化合物、例えばルシフェリン、カロチンおよび発光性無機化合物(例えば化学色素)、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス薬、集光性化合物、例えばクロロフィル、バクテリオロドプシン、プロトロドプシン、およびポルフィリン、ならびに関連する電子的に活性な化合物、組織もしくはその他の生体物質、その他の化合物、またはそれらの組み合わせ。それらの包埋される有機物質は生物学的に活性であって、そのため、得られたバイオポリマー光学デバイスに生物学的な機能性を加える。
【0065】
有機物質を用いたバイオポリマー光学デバイスの包埋は、例えば、バイオポリマー膜を製造するために使用されるバイオポリマーマトリックス溶液、例えば絹フィブロインマトリックス溶液に、そのような物質を添加することによって実施してよい。固形物を使用してバイオポリマー光学デバイスを製造する実施形態においては、1種または複数のポリマー膜を機能化させることによって、その光学デバイスを生物学的に機能化させることができる。
【0066】
本発明は、ペプチド、酵素、細胞、抗体、または関連の系などの形の不安定な生物学的受容体を直接的に組み入れることが可能になることから、光学デバイスの汎用性を広げ、そのような光学デバイスを生物学的検知デバイスとして機能させることも可能となる。
【0067】
本発明のバイオポリマー光学デバイスは、生体適合性および生分解性が最重要視される環境科学および生命科学において容易に使用することができる。例えば、上述のようなナノパターン化バイオポリマー光学デバイスは、自然環境、例えば人体の中でのモニターを行うのに、存在を感じさせずに使用することができるし、生体内に植え込んでも後日そのデバイスを回収する必要がない可能性もある。本発明のバイオポリマー光学デバイスの分解寿命は、製造プロセスを介して、例えば溶液マトリックスキャストの比率および量または使用するポリマーのタイプを調節することによって、調節することができる。さらに、本発明のバイオポリマー光学デバイスは、環境中に分散させることが可能であり(この場合もまたそれらを後日回収する必要はない)、それによって、検知および検出のための新規で有用なデバイスが提供される。
【0068】
本発明の態様および実施態様についてのここまでの記述は、例示と説明のために提供してきたが、それが全てではなく、開示されたそのままの形に本発明を限定することを意図したものでもない。当業者ならば、上述の教示を読めば、それらの実施態様のある種の修正、順序の入れ替え、追加、および組み合わせが可能であるか、または本発明の実施からもたらされてもよいことは認識するところであると考えられる。したがって、本発明には、添付の特許請求の範囲内に入る各種の修正および等価の変形もまた包含されている。
【0069】
付属書I
絹の膜中における抗体の安定性
材料
抗IL−8モノクローナル抗体(IgG1)は、eBioscience,Inc.から購入した。ヒトポリクローナル抗体IgGおよびヒトIgG ELISA Quantitation Kitは、Bethyl Laboratories Inc.から購入した。研究において使用したその他の全ての化学薬剤は、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。
【0070】
絹の膜中への抗体の捕捉−ヒトポリクローナル抗体IgG
167mLの6%絹溶液と混合した10mLのIgG(1mg/mL)で、絹の膜中IgG濃縮物(1mg/g絹)を作製する。100μLの混合IgG溶液を、96ウェルプレートのそれぞれのウェルに添加し、カバーを開けて、換気フードの中に一夜置いた。その乾燥させた膜は、メタノールを用いて処理するか、未処理のままとした。メタノール処理の場合には、ウェルを90%メタノール溶液中に5分間浸漬させ、換気フードの中で乾燥させた。次いで、乾燥させた96ウェルプレートの全部を、4℃、室温、および37℃で保存した。
【0071】
抗IL−8モノクローナル抗体(IgG1)
83mLの6%絹溶液と混合した0.5mLのIgG1(1mg/mL)で、絹の膜中IgG1濃縮物(0.1mg/g絹)を作製する。50μLの混合IgG1溶液を、96ウェルプレートのウェルに添加し、カバーを開けて、換気フードの中に一夜置いた。その乾燥させた膜は、メタノールを用いて処理するか、未処理のままとした。メタノール処理の場合には、ウェルを90%メタノール溶液中に5分間浸漬させ、換気フードの中で乾燥させた。次いで、乾燥させた96ウェルプレートの全部を、4℃、室温、および37℃で保存した。
【0072】
抗体測定
統計解析のため、同一の条件下で調製した5個のウェルについて測定した。純粋な絹(抗体なし)を対照として使用した。
【0073】
メタノール非処理試料の場合には、100μLのPBS緩衝液(pH7.4)を、ウェルに添加し、それを室温で30分間さらにインキュベートして、膜を完全に溶解させた。次いで、溶液の一定分量を、抗体測定にかけた。メタノール処理試料については、100μLのHFIPをそれぞれのウェルに添加し、それを室温で2時間さらにインキュベートして、膜を完全に溶解させた。その絹HFIP溶液を、換気フード中で一夜乾燥させた。以後のステップはメタノール非処理試料の場合と同様であって、PBS緩衝液を添加し、抗体測定のために溶液をピペットで移した。
【0074】
ELISA
ポリスチレン(96ウェル)マイクロタイタープレートを、抗原コーティング緩衝液(重炭酸塩緩衝液、50mM、pH9.6)中で調製した10μg/mLの濃度の100μLの抗原抗ヒトIgG−アフィニティを用いてコーティングし、次いで室温で保存して一夜インキュベートした。次いでTBS−T緩衝液を用いて、それらのウェルを3回洗浄した。1%のBSA(TBS中)を各ウェル200μLずつ用いて非占有部位(unoccupied site)をブロックし、次いで室温で30分間インキュベートした。次いでTBS−Tを用いて、それらのウェルを3回洗浄した。次いで、段階希釈の血清100μLを用いて、試験ウェルおよび対照ウェルを希釈した。それぞれの希釈は、TBS緩衝液中で実施した。それぞれの希釈に対応する、段階希釈のブランクもまた存在させた。次いでそのプレートを、室温で1時間インキュベートした。プレートを、TBS−T緩衝液を用いて再び洗浄した(5回)。結合された抗体について、抗ヒトIgG−HRP(1:100,000)の適切な結合体を用いて試験し、その100μLをそれぞれのウェルの中にコーティングし、室温で1時間維持した。TBS−Tを用いてプレートを(5回)洗浄した後に、それぞれのウェルに100μLのTMBを添加し、室温で5〜20分間インキュベートした。それぞれのウェルの450nmでの吸光度を、VersaMaxマイクロプレートリーダー(Molecular devices、Sunnyvale,CA)を用いて測定した。

図A:2種の異なったフォーマットで調製し、3種の異なった温度で保存した絹の膜中での初期活性に対する抗体IgG1活性

図B:2種の異なったフォーマットで調製し、3種の異なった温度で保存した絹の膜中での初期活性に対する抗体IgG活性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを提供する工程;
基材を提供する工程;
前記基材の上に前記ポリマーをキャストする工程;
有機化合物を酵素的に重合させて、前記ポリマーと前記基材との間に導電性ポリマーを生成させる工程
を含む、導電性ポリマーの製造方法。
【請求項2】
導電性ポリマーがバイオポリマーである、請求項1に記載の導電性ポリマーの製造方法。
【請求項3】
バイオポリマーが絹である、請求項2に記載の導電性ポリマーの製造方法。
【請求項4】
ポリマーがマトリックス溶液であり、かつ重合が前記マトリックス溶液から実施される、請求項1に記載の導電性ポリマーの製造方法。
【請求項5】
ポリマーが固形物であり、かつ重合が前記固形物から実施される、請求項1に記載の導電性ポリマーの製造方法。
【請求項6】
酵素的に重合させる工程が、ペルオキシダーゼ酵素反応を用いて有機化合物を触媒することを含む、請求項1に記載の導電性ポリマーの製造方法。
【請求項7】
有機化合物がチロシンである、請求項6に記載の導電性ポリマーの製造方法。
【請求項8】
チロシン−酵素重合によって形成された導電層である界面を、ポリマーと基材との間に形成させる工程をさらに含む、請求項7に記載の導電性ポリマーの製造方法。
【請求項9】
界面が、炭素−炭素結合主鎖を含む、請求項8に記載の導電性ポリマーの製造方法。
【請求項10】
バイオポリマーが、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン(pullan)、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマーからなる群、またはそれらの組み合わせより選択される、請求項1に記載の導電性バイオポリマーの製造方法。
【請求項11】
ポリマーがポリジメチルシロキサン(PDMS)である、請求項1に記載のバイオポリマー光導波路の製造方法。
【請求項12】
基材が、光学デバイスのためのテンプレートである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
基材が、電気光学コレクター、ソーラーコレクター、光学的読取りを有する機械式アクチュエーター、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、およびビームリシェーパーのうちの少なくとも一つのためのテンプレートである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
バルクのタンパク質;
基材;
有機化合物;および
前記有機化合物を重合させて、ポリマーと基材との間に導電性ポリマーを生成させる酵素
を含む、導電性ポリマー。
【請求項15】
導電性ポリマーがバイオポリマーである、請求項14に記載の導電性ポリマー。
【請求項16】
バイオポリマーが絹である、請求項15に記載の導電性ポリマー。
【請求項17】
ポリマーがマトリックス溶液であり、かつ重合が前記マトリックス溶液から実施される、請求項14に記載の導電性ポリマー。
【請求項18】
ポリマーが固形物であり、かつ重合が固形物から実施される、請求項14に記載の導電性ポリマー。
【請求項19】
酵素的に重合させる工程が、ペルオキシダーゼ酵素反応を用いて有機化合物を触媒することを含む、請求項14に記載の導電性ポリマー。
【請求項20】
有機化合物がチロシンである、請求項19に記載の導電性ポリマー。
【請求項21】
チロシン−酵素重合によって形成された導電層である界面を、ポリマーと基材との間にさらに含む、請求項20に記載の導電性ポリマー。
【請求項22】
界面が、炭素−炭素結合主鎖を含む、請求項21に記載の導電性ポリマー。
【請求項23】
バイオポリマーが、キトサン、コラーゲン、ゼラチン、アガロース、キチン、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン、デンプン(アミロース アミロペクチン)、セルロース、ヒアルロン酸、および関連するバイオポリマーからなる群、またはそれらの組み合わせより選択される、請求項15に記載の導電性ポリマー。
【請求項24】
ポリマーがポリジメチルシロキサン(PDMS)である、請求項14に記載の導電性ポリマー。
【請求項25】
基材が、光学デバイスのためのテンプレートである、請求項14に記載の導電性ポリマー。
【請求項26】
基材が、電気光学コレクター、ソーラーコレクター、光学的読取りを有する機械式アクチュエーター、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学格子、パターン発生器、およびビームリシェーパーのうちの少なくとも一つのためのテンプレートである、請求項25に記載の導電性ポリマー。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−508852(P2010−508852A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536421(P2009−536421)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/083639
【国際公開番号】WO2008/140562
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(303043726)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (26)
【Fターム(参考)】