説明

電気的に作動させられる環形体

血管(116)内を搬送するための装置(100)は、伸展部分(104)と、伸展部分の両側に配置された第1および第2固定部分(102,106)とを含み、各部分は個々にアドレス可能な電気活性ポリマーを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療のさまざまな用途に用いられる電気活性ポリマー(electro−active polymer)に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルシステムは、治療器具および薬剤を体内へ搬送するために使用されてきた。そのようなシステムは、鍵穴手術(key−hole surgery)等の低侵襲性外科的処置と共に使用されている。
【0003】
現在のカテーテルシステムは、治療器具および薬剤を体内に配置するためにガイドワイヤを使用することが多い。現在のシステムを有効に活用するためには、ガイドワイヤを正確かつ精密に操作する技術を必要とする。
【0004】
電気活性ポリマーは、外的な刺激、例えば、電流によって、力を付与できる、すなわち運動可能な器具において使用することができる。電流による電気活性ポリマーの相対的な体積変化が、湾曲、拡張または収縮等の動きを生じさせる。二層の導電性ポリマーおよび支持基板(carrier substrate)、例えば、金属やポリマーから形成されるものもある。そのような器具は、マイクロメートルからセンチメートルまでの横方向寸法と、ナノメートルからミリメートルまでの層厚さを有することができる。電気活性ポリマーに関する他の情報およびその用途は、1996年8月3日付けで出願された特許文献1;2000年6月18日付けで出願された特許文献2;2002年6月11日付けで出願された特許文献3;2004年4月8日付けで出願された特許文献4;1997年12月30日付けで出願され、2000年8月25日付けで付与された特許文献5;および2004年5月5日付けで出願され、2005年8月23日付けで付与された特許文献6に記載されており、これら特許文献に開示された内容は本願においても開示されたものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第96/28841号
【特許文献2】国際公開第00/78222号
【特許文献3】国際公開第03/39859号
【特許文献4】国際公開第04/92050号
【特許文献5】米国特許第6103399号明細書
【特許文献6】米国特許第6933659号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電気活性ポリマーを有効に使用した、血管内を搬送するための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、血管内を搬送するための装置は、伸展部分(extensor segment)と、伸展部分の両側に配置された第1および第2固定部分(first and second anchor segments)を含み、各部分は、個々にアドレス可能な(individually−addressable)電気活性ポリマーを備える。
【0008】
実施例は以下の1つまたは複数の特徴を含むことが可能である。このような部分の少なくとも1つは、エージェント(agent)を運ぶように構成される。この装置は、各部分の電気活性ポリマーを作動させるために、電流を提供するように連結された電源を含む。装置は、部分と対応する電気活性ポリマーを作動させるために、制御信号を送るように構成された制御器を含む。電気活性ポリマーはポリピロールポリマーを含む。部分と対応する電気活性ポリマーは、個々にアドレス可能なバルク作動型(bulk−actuating)電気活性ポリマーを含む。部分と対応する電気活性ポリマーは、個々にアドレス可能な長さ作動型(length−actuating)電気活性ポリマーを含む。部分は、作動によって分岐部(folk)を形成するように構成された、1対の電気活性ポリマーからなる指部を含む。部分は一連の下位部分(sub−segment)を含み、各下位部分は、該下位部分と対応する個々にアドレス可能な電気活性ポリマーを含む。伸展部分は複数のひも状体(ligament)を含み、各ひも状体は、該ひも状体と対応する個々にアドレス可能な電気活性ポリマーを含む。部分は、作動によってその部分の配向を変えるように構成された、1対の個々にアドレス可能な電気活性面を含む。伸展部分は、螺旋形状に巻き付けられた複数のアドレス可能なひも状体を含む。少なくとも1つの部分は、作動によってエージェントを固定するように構成された、単独で作動可能なエージェント保持型(agent−holding)電気活性ポリマーを含む。このような部分の少なくとも1つは、X線不透過材料を含む。装置は、部分と電気的に結合された外部電源を含む。このような電気的結合は誘導結合であってもよい。装置は、部分と電気的に結合された電池を含む。
【0009】
別の態様においては、血管内で装置を進める方法は、血管内に第1固定部分を固定する工程と、伸展部分を伸長させる工程と、血管内の第2固定部分を固定する工程と、第1固定部分を血管から解放する工程と、伸展部分を収縮させる工程とを含む。
【0010】
実施例は以下の1つまたは複数の特徴を含むことが可能である。このような方法は、血管内の装置を操舵する工程を含む。この方法は、固定部分の第1側面を延伸させつつ、固定部分の第2側面を収縮させる工程を含む。方法は、推進力の速度を制御する工程を含む。方法は、推進力の方向を制御する工程を含む。方法は搬送装置の部分にエージェントを取り付ける工程を含む。
【0011】
さらに別の実施例においては、人工環形体(synthetic annelid)は、複数の接続された部分を含み、各部分は他の部分とは独立して作動可能である。
実施例において、部分は、該部分と対応する電気活性ポリマーを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】人工環形体制御システムを示す図。
【図2】環形体の動きを示す図。
【図3】環形体の動きを示す図。
【図4】環形体の動きを示す図。
【図5】環形体の動きを示す図。
【図6】環形体の動きを示す図。
【図7】環形体の固定機構を示す図。
【図8】環形体の固定機構を示す図。
【図9】環形体の固定部分の構成を示す断面図。
【図10】環形体の伸展部分の構成を示す図。
【図11】環形体の伸展部分の構成を示す図。
【図12】環形体に取り付けられたエージェントを示す図。
【図13】環形体に取り付けられたエージェントを示す図。
【図14】環形体に取り付けられたエージェントを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の例においては、人工環形体100は、中央伸展部分104の両側に第1および第2固定部分102,106を有する。固定部分102,106および伸展部分104が協働することにより、環形体100は血管組織網内を通過することができる。幾つかの実施例においては、環形体100は、体内の他の方法では到達できないような位置へエージェントを搬送する。他の実施例においては、このような器具は、血管組織網を横断するときに、使用者が環形体を視覚化できるようにX線不透過材料を含んでいる。
【0014】
本明細書で使用されるように、管(vessel)は、一般的な管(pipe、tube)だけではなく、動脈や静脈を含む。また、エージェント(agent)は、一般に医療用以外の用具に加えて、薬剤や、ステント、バルーン、グラフト、フィルター等の医療器具を総称している。体(body)とは、物理的な対象物と同様に、人体や動物体を含む。
【0015】
固定部分102,106および伸展部分104には、電気活性ポリマー(EAP)、例えば、ポリピロールポリマーが組み込まれている。
使用者は、EAPに電流を流して、これらの部分102,104,106を活性化(activate)、すなわち「作動(actuate)」させて、これらの部分の質量、寸法、形状や配向性をプリセット状態から操作することにより、図2−6に関して詳細に述べるように、環形体100を血管内に進める。使用者は、外部の操作棒108を使ってEAPを選択的に作動させて、環形体100が血管内を通過する際に、その方向と速度の両方を電気的に制御する。操作棒108は、部分102,104,106に対して選択的に電流を流す制御器109と相互に作用することにより、これらの部分を作動させて移動させる。例えば、使用者が操作棒108を基端方向または先端方向へ軽く叩くと、環形体100は基端方向または先端方向へゆっくりと進む。使用者が操作棒108を基端方向または先端方向へ押すと、環形体100はより速く基端方向または先端方向へ進む。制御器109は環形体の外部に配置されても、あるいは、環形体に組み込まれてもよい。
【0016】
幾つかの実施例においては、制御器109は、部分102,104,106と電源112と間において、マイクロカテーテル114内を通って延びる電線110を介して、これらの部分に電流を流す。他の実施例においては、電源は外部電源112である。外部電源112は操作棒108と一体化されることにより、電流が電線から環形体100へ送られる。これに代えて、外部電源112は、環形体100に電流を誘導する誘導電源であってもよい。これは、部分102,104,106を作動させる電流を環形体100に誘導したり、あるいは、これらの部分を作動させるための電力を提供する電池を充電する。したがって、環形体100は、電線110なしで動力を供給され得る。
【0017】
さらに他の実施例においては、電源は電池である。電源として電池113を使用することにより、環形体100からマイクロカテーテル114内を貫通して延びる電線110の必要性が除去される。幾つかの実施例においては、電池式システムおよびバックアップ電力システムとして機能する外部電源の両方を特徴とする。
【0018】
使用者が選択的に部分102,104,106を作動させることにより、環形体100は血管組織網内を進む。図1−6に示す例においては、血管118内に環形体100を配置後(図1)、使用者は第1固定部分102を作動させる(図2)。第1固定部分102は作動すると、その直径が拡大する。このことにより、血管の近接する領域を引張荷重、すなわち圧縮荷重下に置いて、環形体100を固定する。使用者は次に、図3に示すように、伸展部分104を作動させる。伸展部分104は作動すると、環形体100を伸長させる。使用者はさらに、図4に示すように、第2固定部分106を作動させる。第1固定部分102と同様に、第2固定部分106は作動するとその直径を拡大して、血管の近接する領域を引張荷重、すなわち圧縮荷重下に置いて、環形体100を固定する。さらに、使用者が、第1固定部分102(図5)の作動を止めて固定を解除し、図5に示すように伸展部分104の作動を止める。その結果、図6に示すように、器具は伸展部分104が伸長した程度によって決まる距離で移動させられる。第2固定部分106の作動を止めて、図2−6に示す作動順序を繰り返すことによって、使用者が環形体100を体の中央に近い方向(proximally)へ移動させる。図2−6の工程を逆に行うことにより、使用者はまた環形体100を体から遠位の方向(distally)へ移動させることができる。このようにして環形体を血管組織網内において横断させることにより、ガイドワイヤやガイドカテーテルを従来使用している用途において、それらの必要性を排除することが可能である。
【0019】
幾つかの実施例においては、部分102,104,106の各々は、一連の個々にアドレス可能な作動下位部分を備えることにより、環形体100を微細に制御された状態で血管内において進めることができる。これらの実施例により、使用者が、環形体の1つの下位部分に対して、他の下位部分に影響を与えることなく、微細な移動を起こさせることができる。
【0020】
図7に示す実施例において、使用者は、固定部分106の対向する第1および第2側面120,122を作動させて、第1側面120を収縮させて、第2側面1122を伸長させる。その結果、使用者は、固定部分の配向を変更して、環形体100を実質的に操舵する。さらに、この実施例において、固定部分102,106の配向を変更することにより、使用者は、血管内の分岐点(すなわち通路の交差部分)の特定の側枝部内へ環形体100を方向付けることができる。
【0021】
図8に示される別の実施例においては、固定部分102,106は、個々に作動可能な指部124,126を備える。作動すると、指部124,126は、(上記したように)配向を変え揺動して、血管壁に環形体100を固定する分岐構造を形成する。
【0022】
固定部分102,106は、同一の構造断面を有することが可能であるが、そのような断面を有する必要はない。固定部分102,106は、任意の断面を有することが可能であるが、図9は、円形断面128および三角断面130を含む可能な断面を示す。図9に示すように、いずれの場合においても、断面は、中実132であってもよく、あるいは、1つの穴134または複数の穴136を有してもよい。幾つかの実施例においては、血管内の血流を促進するために、断面には1つまたは複数の穴が設けられる。
【0023】
これまでに説明した実施例では、伸展部分104は、固定部分102,106を接続する単一の直管である。他の実施例においては、図10に示すように、伸展部分104は、複数のひも状体138,140,142を備えており、その各々が独立して作動可能な伸展体である。図10の複数のひも状体の実施例により、環形体100が血管の生体構造に極めて適合することが可能である。例えば、ひも状体の全てではなく幾つかを伸長させると、環形体100は湾曲する。これは湾曲した血管内を通過するために有効である。幾つかの実施例において、ひも状体138,140,142の各々が、個々に作動可能な一連の伸展下位部分を有することにより、使用者が、血管内の環形体100の移動をより適切に制御することができる。図11において、伸展部分104は、螺旋形状144に巻き付けられた1つまたは複数のひも状体を特徴とする。形成された螺旋形状144により、使用者は血管内の環形体100の移動を良好に制御できる。螺旋形状144により、環形体100は血管内で移動する際に捻れる。
【0024】
図12−13に示す例においては、エージェント146は、特定の位置へ搬送するために環形体100に取り付けられる。エージェントは、伸展部分104に沿って、または、固定部分102,106の一方あるいは両方に取り付けられる。エージェント146を係合させる1つの方法は、固定部分102,106の穴148にエージェントを挿入することである。穴148は、単独で作動可能なエージェント保持型EAPを含む。作動すると、図14に示すように、固定部分は、エージェント146を挟持する(符号150)。エージェント146は次に、血管内を通って体内の所望の位置へ搬送される。環形体100が所望の位置にエージェント146を搬送すると、固定部分102,106は作動を止められて、エージェント146に対する把持力を緩めて、血管内へエージェントを放出する。
【0025】
幾つかの実施例において、環形体100は他の環形体100と共に使用することができる。例えば、2つ以上の環形体を順に配列することも可能である。
他の実施例は以下の請求項の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内を搬送するための装置であって、
伸展部分と、
前記伸展部分の両側に配置される第1および第2固定部分とを備え、
各部分が、該部分と対応する個々にアドレス可能な電子活動的なポリマーを有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記部分の少なくとも1つが、エージェントを運ぶように形成される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
各部分の電気活性ポリマーを作動させるために、電流を提供するように連結された電源をさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項4】
部分と対応する電子活性ポリマーを作動させるために、制御信号を方向付けるように構成された制御器をさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項5】
電気活性ポリマーがポリピロールポリマーを含む請求項1に記載の装置。
【請求項6】
部分と対応する電気活性ポリマーが、個々にアドレス可能なバルク作動型電気活性ポリマーを含む請求項1に記載の装置。
【請求項7】
部分と対応する電気活性ポリマーが、個々にアドレス可能な長さ作動型電気活性ポリマーを含む請求項1に記載の装置。
【請求項8】
作動によって分岐部を形成するように、部分が1対の電気活性ポリマー指部を含む請求項1に記載の装置。
【請求項9】
部分が1連の下位部分を含み、各下位部分が、該部分と対応する個々にアドレス可能な電子活動的なポリマーを有する請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記伸展部分が複数のひも状体を含み、各ひも状体は、該ひも状体と対応する個々にアドレス可能な電気活性ポリマーを有する請求項1に記載の装置。
【請求項11】
部分が、作動によって該部分の配向を変えるように、1対の個々にアドレス可能な電気活性側面を含む請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記伸展部分が螺旋形状に巻き付けられた複数の個々にアドレス可能なひも状体を含む請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つの部分が、作動によってエージェントを固定するように、個別に作動可能なエージェント保持型電気活性ポリマーを含む請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記部分の少なくとも1つが、X線不透過材料を含む請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記部分と電気的に結合された外部電源をさらに含む請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記電気的結合は誘導結合を含む請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記部分に電気的に結合された電池をさらに含む請求項1に記載の装置。
【請求項18】
複数の接続された部分を備える人工環形体であって、各部分は他の部分から独立して作動可能である環形体。
【請求項19】
部分が、該部分と対応する電気活性ポリマーを有する請求項18に記載の環形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−501209(P2010−501209A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524775(P2009−524775)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/075955
【国際公開番号】WO2008/022168
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】