電気的処理によるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を高めたアブラナ科野菜及びその製品
【課題】電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜及びその製品を提供する。
【解決手段】処理対象のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与える、板状の電極又はワイヤー電極による電気穿孔処理をした後、これに通電加熱を利用して又は恒温水槽による湯浴加熱を利用して、所定の温度に加熱することにより、アブラナ科野菜の形を残したままACE阻害活性を強化したアブラナ科野菜を得ることからなる、電気的処理による野菜の処理方法、電気穿孔により、電圧が0超〜5000V/cm、パルス時間が10〜120μs、パルス付加間隔が100ms〜10s、パルス回数が1〜99回の条件で、穿孔処理を行う、上記電気的処理による野菜の処理方法、及びACE阻害活性を高めた野菜及びその製品。
【効果】ACE阻害活性が高められた有形の中島菜等のアブラナ科野菜及びその製品を提供することができる。
【解決手段】処理対象のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与える、板状の電極又はワイヤー電極による電気穿孔処理をした後、これに通電加熱を利用して又は恒温水槽による湯浴加熱を利用して、所定の温度に加熱することにより、アブラナ科野菜の形を残したままACE阻害活性を強化したアブラナ科野菜を得ることからなる、電気的処理による野菜の処理方法、電気穿孔により、電圧が0超〜5000V/cm、パルス時間が10〜120μs、パルス付加間隔が100ms〜10s、パルス回数が1〜99回の条件で、穿孔処理を行う、上記電気的処理による野菜の処理方法、及びACE阻害活性を高めた野菜及びその製品。
【効果】ACE阻害活性が高められた有形の中島菜等のアブラナ科野菜及びその製品を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的処理によるアンジオテンシンI変換酵素(以下、ACEと称する。)阻害活性を高めた中島菜等のアブラナ科野菜及びその製品に関するものであり、更に詳しくは、中島菜等のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、電気穿孔処理と通電加熱処理を利用して中島菜等のアブラナ科野菜のACE阻害活性を増大させる、電気的処理による、ACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜及びその製品に関するものである。本発明は、中島菜等のアブラナ科野菜のACE阻害活性が高められた有形の中島菜等のアブラナ科野菜及びその製品を提供することを可能とする電気的処理によるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を高めた中島菜等のアブラナ科野菜に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
アブラナ科野菜の一種である中島菜は、石川県の能登地方で古くから栽培されている冬の伝統野菜である。近年の研究により、図1(非特許文献1)に示すように、中島菜は、他の野菜に比べて、血圧上昇抑制の効果が高いことが報告されている(非特許文献2)。この血圧上昇抑制は、ACE阻害活性に因るものであり、体内のレニン・アンジオテンシン系による血圧調節に関与している。
【0003】
レニン・アンジオテンシン系による血圧調節とは、肝臓が分泌するレニン基質にレニンが作用してアンジオテンシンIが生産され、これにACEが作用して、アンジオテンシンIIを生産し、このアンジオテンシンIIが脳に作用することによって、動脈収縮が起こり、血圧を上昇させるという仕組みである。つまり、ACEの働きが弱まれば、血圧上昇抑制となる。
【0004】
中島菜に含まれる血圧上昇抑制の効果成分は、耐熱性が高く、通常の調理では、その機能が失われない(非特許文献1、2)。更に、図2,3(非特許文献1)から明らかなように、このACE阻害能は、栽培環境の影響を受けにくく、安定していることが分かる。これを受けて、石川県は、中島菜を戦略作物に選定し、生産・需要の拡大に取り組んでおり、図4(非特許文献4)に示すように、ここ数年で、中島菜の生産量は、年々上昇している。更に、平成19年度から、コンビニエンスストアや外食産業が中島菜の利用を開始し、今後、更に中島菜の消費量が上昇すると考えられている。
【0005】
しかし、中島菜については、その課題の一つとして、生産量が、消費量に対して間に合わなくなってきていることが挙げられる。中島菜の収穫が可能な時期は、12月〜3月であるが、12月〜1月に収穫されたものは、葉の大きさが大きいことや、芳香成分が少ないことから、利用されにくく、結果として、2月〜3月に収穫されたものが市場に出ている。中島菜は、もともと冬の伝統野菜であることから、通年の供給が難しく、現在は、時期外での需要に応えるために、乾燥粉末等の方法で保存、供給されている。
【0006】
石川県の農業総合研究センターは、供給量の更なる増加と、ACE阻害能の強化を目的として、中島菜をペースト化してACE阻害能を増強させるペースト技術を開発した(特許文献1)。すなわち、この技術は、中島菜を、ミキサーでペースト化した後に、60℃、30分間の加熱処理を行う技術であり、細胞組織に局在する血圧上昇抑制の効果成分の前駆体と関連酵素が、ペースト化によって、効率良く巡り会い、該効果成分を、より多く生産するものと考えられる。この技術により、12月〜1月収穫の中島菜でも、食品素材として供給することができ、伸び続ける需要に対して、中島菜の供給向上が期待されている。
【0007】
また、この技術により、中島菜のACE阻害能が高まり(図5、出典:石川県農業総合研究センター 資料より)、少量の中島菜でも、高い効果(図6、出典:石川県農業総合研究センター 資料より)が期待できるようになった。しかし、この技術では、中島菜をペースト化する必要があり、消費者及び業界の要望である、ACE阻害能が高められた有形の中島菜の提供には、応えることができないという問題があり、当技術分野においては、それを解決することを可能とする新しい技術を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−244313号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】三輪章志,吉村香奈子,中島菜のアンジオテンシンI変換酵素阻害能について,石川県農業総合研究センター研究報告,No.21,45〜51(1998)
【非特許文献2】榎本俊樹,北陸地方の農水産物の栄養評価と加工食品への利用,日本食品工学会誌,Vol.50,No.9,379〜385(2003)
【非特許文献3】三輪章志,ACE活性阻害能が強い中島菜の加工利用について,食品と技術,2006,4月号,11〜16(2006)
【非特許文献4】(社)食品需給研究センター編,食料産業クラスターの波動60〜63,平成20年3月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、中島菜等のアブラナ科野菜をペースト化することなく、ACE阻害活性が高められた有形の中島菜等のアブラナ科野菜を提供することを可能とする新しい技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、中島菜等のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与える電気穿孔と通電加熱に着目し、中島菜等のアブラナ科野菜に電気穿孔と通電加熱又は恒温水槽による湯浴加熱を施すことにより、ACE阻害活性が高められた有形の中島菜等のアブラナ科野菜を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与えることで、ACE阻害活性が高められた有用の中島菜等のアブラナ科野菜を提供することを可能とする電気的処理による中島菜等のアブラナ科野菜の処理方法及びその製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)処理対象のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与える、所定形状の電極による電気穿孔処理をした後、これを、通電加熱を利用して又は恒温水槽による湯浴加熱を利用して、所定の温度に加熱することにより、アブラナ科野菜の形を残したままACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜を得ることを特徴とする電気的処理によるアブラナ科野菜の処理方法。
(2)電気穿孔処理を、板状の電極又はワイヤー電極により行う、前記(1)に記載のアブラナ科野菜の処理方法。
(3)アブラナ科野菜として、中島菜(Brassica campestris cultivar Nakajimana)を使用する、前記(1)又は(2)に記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
(4)電気穿孔により、電圧が0超〜5000V/cm、パルス時間が10〜120μs、パルス付加間隔が100ms〜10s、パルス回数が1〜99回の条件で、穿孔処理を行う、前記(1)から(3)のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
(5)通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理により、少なくとも60℃、5分加熱の条件を満たすように加熱する、前記(1)から(4)のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
(6)上記電気穿孔処理及び通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理を、中島菜の葉、及び/又は葉柄に施す、前記(1)から(5)のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の方法により、ACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜。
(8)前記(7)に記載のACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜を含有する食品又は飲料。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
以下、本明細書では、本発明について、アブラナ科野菜の一種の中島菜(Brassica campestris cultivar Nakajimana)を代表例として説明するが、本発明は、中島菜に限定されるものではなく、中島菜と同様のACE阻害活性を有するアブラナ科(Brassicaceae)に属する野菜についても同様に適用することが可能であり、本発明の適用対象として、中島菜の他に、例えば、シロナ、菜の花、小松菜、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ワサビ、水菜、ハクサイ、ケール、カラシナ、チンゲンサイ、ダイコン、カブ等が例示される。本発明は、中島菜をペースト化することなく、中島菜に電気穿孔と通電加熱を施すことにより、ACE阻害活性が高められた有形の中島菜を提供することを可能とした点に特徴を有するものである。
【0014】
本発明において、中島菜とは、能登半島の中央に位置する七尾市中島町を中心に栽培されているツケナ類を意味する。中島菜の葉形は、ダイコンのような羽深裂で、葉縁は粗い鋸歯状で、色は濃緑である。中島菜は、主として2月〜3月に収穫され、漬物、和え物、煮物、炒め物等として食されている。本発明において、アブラナ科野菜とは、その全体、あるいは葉、茎、花等からなる一部又は全部の部位を指す。
【0015】
本発明の方法において、アブラナ科野菜は、収穫後、付着している泥等を水等で洗浄した生鮮野菜、あるいは、洗浄後、冷蔵保存、冷凍保存したものを使用することが可能であり、収穫から加工までの間、高鮮度に保持されているものであれば、いずれも使用することができる。
【0016】
本発明者らは、中島菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微少な損傷を与えて、血圧上昇抑制の効果成分の前駆体と関連酵素が巡り会えるようにすれば、ペースト化することなく、ACE阻害活性を高めることができると考え、更に、この個々の細胞に、微少な損傷を与える手段として、電気穿孔に着目し、上記課題を解決することを試みた。電気穿孔とは、細胞に対して電場をかけると、膜電位が誘導され、その膜電位があるレベルを超えた段階で、細胞膜に孔が開くという現象である。
【0017】
脂質二重膜で構成される細胞膜は、極性部分と脂質部分の相互位置関係より、電気的にコンデンサーと見なすことができ、静電場に晒された場合には、細胞膜表面に誘導膜電位が生じて、その電位差に応じて、極性部分が互いに強く引き付け合うことになる。この引き付け合う力が、細胞膜の弾性を超えたときに、膜に孔が開くと考えられており、その時点で、誘導膜電位は、臨界膜電位と呼ばれている。以上の経緯を模式図として示したのが、図7(出典:群馬大学 工学部 環境プロセス工学科 大嶋研究室,非加熱殺菌〜高電圧パルス電界(PEF)・オゾン・銀〜,FOOMA JAPAN 2009 アカデミックプラザ研究発表要旨集,Vol.16,33)である。
【0018】
誘導膜電位は、以下の式で表すことができる(文献:Kinoshita,K.,Hibino,M.,Shigemori,M.,Hirano,K.,Kirino,Y.,and Hayakawa,T.,(1992),Events of membrane electroporation visualized on a time scale from microsecond to second,In Guide to Electroporation and Electrofusion(edited by D.C.Chan,B.M.Chassy,J.A.Saunders and A.E.Sowers),New York Academic Press,pp24−46)。
式:ΔΨ=3/2FaEcosΦ{1−exp(−t/τ)}
【0019】
上記式において、Fは膜の特性因子、aは球状細胞の半径(cm)、Eは印可電圧(V)、φは電場方向と半径ベクトルのなす角度(rad)、tは電界が定常状態に達してからの時間(s)、τは緩和時間、である。この式で、大きな影響を与えると考えられる因子は、半径と印可電圧である。また、この臨界膜電位(Ψc)は、細胞の種類のよらず、約1Vであると報告されている(文献:Sale,A.J.H.and W.A.Hamilton(1968),Effects of high electric fields on microorganisms−lysis of erythrocytes and protoplasts,Biochimica et Biophysics Acta,163:37−43)。
【0020】
先に述べたように、機能性の向上には、組織細胞に局在する機能性成分の前駆体と関連酵素の巡り会いに続いて、一定温度に昇温する必要があるが、この手段として、本発明者らは、通電加熱と、恒温水槽にて加熱する湯浴加熱に着目した。通電加熱とは、材料に直接電流を流し、その際に生じるジュール熱を利用する加熱法である。この通電加熱は、組成や構造が均一な材料においては、全体の均一発熱と、条件によっては、迅速な昇温が期待できると共に、外部加熱の際に生じやすい過剰加熱による品質劣化を避けることができる。
【0021】
通電加熱での発熱量qは、使用周波数に依存する発熱寄与分を無視すれば、次の式で表すことができる。
式:q=κ(gradV)2
ここで、κは材料自身の持つ電気伝導度(抵抗Rの逆数1/R)、Vは印可電圧である。このときの昇温速度は、次の式で表すことができる。
式:dT/dt=(gradV)2κ/ρCp
ここで、ρは密度、Cpは比熱である。発熱量及び昇温速度は、材料自身の持つ電気伝導度に依存するが、一般の食品や食品材料は、充分量の水分と様々な電解質を含んでいるため、電気伝導度は大きいと考えられる。
【0022】
本発明において、材料の中島菜は、採取した後、例えば、MA包装ができる適宜の袋に収容し、冷蔵保存し、高鮮度に保持され、使用に供される。しかし、中島菜の採取後の保存方法については、適宜の手法を使用することが可能である。本発明では、中島菜に対して、電気穿孔処理を施すが、電気穿孔の条件として、電圧が0超〜5000V/cm、好適には、160〜1600V/cm(葉柄)、500〜5000V/cm(葉)、パルス時間が10〜120μs、パルス付加間隔が100ms〜10s、パルス回数が1〜99回、の条件があげられる。
【0023】
電気穿孔処理は、試料の中島菜を、パルス発生装置内にセットし、高電圧パルスを当て、高電圧オシロスコープで、電圧、パルス形、パルス間隔を確認して、実施される。この場合、電極として、板状の電極や、ワイヤー電極が使用され、例えば、板状のチタン電極又はワイヤー状のチタン電極が好適に使用される。後記する実施例に示されるように、電気穿孔に必要な印加電圧は、中島菜の葉では、500〜5000V/cm、葉柄では、160〜1600V/cmが好適である。
【0024】
電気的処理によるACE阻害活性の変化については、中島菜は、葉、葉柄と共に、ACE阻害活性を示し、電気穿孔処理後の60℃、30分加熱の条件を満たすような加熱で、ACE阻害活性が更に増加する。
【0025】
次に、中島菜を、60℃、30分加熱の条件を満たすように加熱する手段としては、通電加熱が、均一で迅速な昇温が可能であり、また、時間及びエネルギーを大幅に節約でき、更に、精密な温度制御が可能であり、素材品質の変動が少ないことから、好適である。しかし、中島菜を加熱する手段として、必要に応じて、恒温水槽にて加熱する湯浴加熱を採用することも適宜可能である。
【0026】
本発明より、原形を留めながら加工に適した高機能性食品素材の作製に、電気穿孔処理が有効であることが確認された。電気穿孔処理の効果は、3000V/cm、パルス回数30回付近で最大となることが分かった。また、一般の外部加熱に比べて、通電加熱処理の優位性は確認されたが、一方で、素材のセット方法で注意が必要となることも判明した。これらの知見を総合して、従前のペースト化技術と比較して、コスト、素材形態等から、電気的処理の優位性が確認された。本発明の成果より、本発明は、中島菜をはじめ、その他のアブラナ科野菜へ広く適用できることが確認された。
【0027】
本発明において、ACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜は、そのままの形態で食品素材とすることができ、また、これらの乾燥物を食品素材とすることもできる。本発明のアブラナ科野菜を原料として、ACE阻害活性の効果成分の粗精製品を得ることができ、血圧上昇抑制剤として、その有効性が期待でき、しかも、該粗精製品は、従来、食品として利用されてきたアブラナ科野菜を原料としていることから高い安全性を有している。
【0028】
更に、本発明のACE阻害活性の高められたアブラナ科野菜は、食品又は飲料の原料として用いることができ、その場合、アブラナ科野菜に加えて、必要により、適宜、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色剤、香料、調味料等の食品添加物を配合することが可能である。また、これらの食品又は飲料の種類、形態等については制限はなく、例えば、食品の場合は、必要に応じて、粉末、顆粒、錠剤、液体等の適宜の形態に加工することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)組織全体を破壊することなく、ACE阻害活性が強化された有形の中島菜等のアブラナ科野菜を提供することができる。
(2)電気穿孔処理及び通電加熱処理という簡便な手段を適用することにより、ACE阻害活性を強化した中島菜等のアブラナ科野菜素材を提供することができる。
(3)ACE阻害活性を強化した中島菜等のアブラナ科野菜に関する従来の素材と比べて、中島菜等のアブラナ科野菜の組織全体を保ち、かつACE阻害活性が強化された中島菜等のアブラナ科野菜を提供することができる。
(4)中島菜等のアブラナ科野菜に電気的処理を施すだけで、そのACE阻害活性を強化することが実現できる。
(5)少量の中島菜等のアブラナ科野菜でも、高いACE阻害活性が期待できる新しい電気化学的処理を利用した野菜の処理技術を提供することができる。
(6)中島菜等のアブラナ科野菜をペースト化することなく、その形を保持した有形の状態で、ACE阻害活性を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】他の野菜とのACE阻害能比較を示す。
【図2】中島菜の栽培場所、収穫時期別ACE阻害能の比較を示す。
【図3】栽培法による中島菜ACE阻害能の比較を示す。
【図4】中島菜の生産量と利用企業数を示す。
【図5】ペースト化中島菜の加熱処理によるACE阻害能の変化(濃度1.56mg/mlで測定した場合)を示す。
【図6】ACE阻害活性50%となる中島菜凍結乾燥粉末の濃度を示す。
【図7】電気穿孔のイメージ図を示す。
【図8】電気穿孔条件を示す。
【図9】電気穿孔用機材の概要を示す。
【図10】サンプル作成模式図を示す。
【図11】通電加熱ユニットを示す。
【図12】中島菜の葉の昇温速度測定方法を示す。
【図13】中島菜の葉、葉柄のACE阻害活性(%)を示す。
【図14】通電加熱の昇温速度の比較を示す。
【図15】中島菜の葉と葉柄の昇温速度を示す。
【図16】未処理の中島菜の周波数変化による昇温速度を示す。
【図17】電気穿孔処理を行った中島菜の周波数変化による昇温速度を示す。
【図18】板状電極の電気穿孔処理装置の一例を示す。
【図19】ワイヤー電極の電気穿孔処理装置の一例を示す。
【図20】通電処理(電気穿孔処理)を行った場合、及び無処理(対照)の場合の中島菜のACE活性阻害能を示す。
【図21】電気穿孔処理後に通電加熱した中島菜と通電加熱のみを行った中島菜のACE活性阻害能の比較を示す。
【図22】電気穿孔処理における通電回数の違いがACE活性阻害能に及ぼす影響を示す。
【図23】電気穿孔処理条件の違いによる拡散時間ごとの拡散係数の減少量の推移を示す。
【図24】電気穿孔処理後に温湯加熱を行った場合のACE活性阻害能の変化を示す。
【図25】移動式ワイヤー電極で中島菜葉柄部を電気穿孔処理する場合の処理量の影響を示す。
【図26】移動式ワイヤー電極で中島菜葉部を電気穿孔処理する場合の重ね合わせの有無の影響を示す。
【図27】アブラナ科野菜を電気穿孔した場合のACE活性阻害能への影響を示す。
【図28】ワイヤー電極、板状電極を示す。
【図29】板状電極の設置間隔を示す。
【図30】板状電極の固定間隔を示す。
【図31】印加電圧が不安定化し始める電気伝導度を示す。
【図32】中島菜の電場処理を示す。
【図33】電気穿孔処理条件による拡散係数の差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
本実施例では、電気穿孔に伴う膜損傷と、それに続く機能性成分の増大、通電加熱又は恒温水槽による湯浴加熱処理による昇温等について、中島菜を対象に検討し、有形で、かつACE阻害活性を強化した素材開発に関する有益な結果を得た。
【0033】
1.実験材料及び方法
1.1 実験材料
中島菜は、石川県農業総合研究センターで栽培された晩抽系・字中島(平成19年採取種子)を使用した。採取後は、P−プラス(住友ベークライト株式会社)に入れ、4℃で冷蔵保存し、可及的速やかに使用した。ここで、P−プラスとは、MA包装ができる袋のことであり、使用されるフィルムは、30〜100ミクロンの小さな微孔を持ち、この微孔から包装内の青果物が呼吸を続けるために必要な酸素を取り入れ、二酸化炭素を逃がす仕組みになっている。ミクロの孔と青果物自身が行う呼吸とのバランスにより、袋内がゆっくりと「低酸素・高二酸化炭素」になり、やがて平衡状態になるとされ、この袋の使用で、中島菜の鮮度維持に努めた。
【0034】
1.2 電気穿孔処理
図8に示す条件で、中島菜に対して、電気穿孔処理を行った。本実施例では、図に示す種々の電圧とパルス条件で実験を行った。電気穿孔に要する印可電圧時間は、nsレベルとされており、選定したパルス幅、パルス付加間隙は、共に十分な値と考えられる。
【0035】
電気穿孔用機材の概要は、図9に示す通りである。電源部であるECM830(BTX)において、パルスを発生させ、ユニット内の試料に高電圧パルスを当てた。また、高電圧オシロスコープであるENHANCER400(BTX)において、適用した電圧、パルス形、パルス間隙を確認した。ユニットは、アクリル製の槽であり、電極間距離が一定になるように調整した。電極は、腐食の問題を避け、食品衛生法に沿うために、板状のチタン電極を用いた。ユニット内を蒸留水で満たして、高絶縁性として、高電圧印加を可能とし、その中に、目的試料の中島菜を、アクリル槽のサイズに合わせて入れた。電気穿孔処理前後の温度は、汎用型記録計であるB430MEMORY HiLOGGER(HIOKI)で、K型熱電対を用いて、計測した。
【0036】
1.3 透過型顕微鏡による中島菜の細胞観察
カミソリで薄くスライスした中島菜の葉と葉柄を、AXIO Imager(ZEISS)を用いて、100〜400倍で撮影し、pixelスケールを測定した。同様にして、血球計算板(ERMA)を用いて、pixelスケールを測定し、単位換算した。複数の細胞を測定して、平均値を算出した。
【0037】
1.4 電気的処理によるACE阻害活性の変化
図1にあるように、中島菜は、他の野菜に比べ、高いACE阻害能を持っていることが知られている。また、石川県農業総合研究センターの研究により、中島菜をペースト化し、60℃で30分加熱することにより、更にACE阻害能が高まることが報告されている。そこで、以下の表に示す温度処理条件、電気穿孔処理条件で、電気穿孔処理及び湯浴加熱を施し、ACE阻害活性を測定した。また、サンプルは、−20℃で凍結保存し、凍結乾燥処理後に測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
なお、ACE阻害活性測定は、石川県農業総合研究センターが行った。以下に、その測定方法を記載する。
(1)試薬
・基質溶液:ヒプリル−L−ヒスチジル−L−ロイシン四水和物(和光純薬工業社製)10mgを、リン酸バッファー(pH=8.5)10mlに溶解した。
・酵素溶液:ウサギ肺由来アンジオテンシン変換酵素(シグマ社製)0.25Uを、リン酸バッファー(pH=8.5)10mlにて溶解した。
・抽出液:処理後、凍結乾燥を行った中島菜乾燥粉末0.25gを、リン酸バッファー(pH=8.5)10mlで振とう抽出し、濾過することにより、濾液を得た。この濾液を、リン酸バッファーで適宜希釈して抽出液とし、以下のACE阻害活性試験に供した。今回の試験では、1時間振とう抽出した。また、濾液は、4倍希釈して、活性測定用サンプルとした。
【0041】
(2)ACE阻害活性測定
試験管に、基質溶液50μl、抽出液100μlを加え、混合し、37℃で5分間プレインキュベーションした。これに、酵素溶液200μlを添加し、37℃で1時間インキュベーションすることにより、酵素反応を行った。その後、3%メタリン酸を100μl添加し、酵素反応を停止した。本酵素反応溶液を、下記に示す条件のHPLCに供し、得られた馬尿酸のピーク面積より、以下の式を基に、ACE阻害活性(%)を求めた。
【0042】
式:ACE阻害活性(%)=〔1−(B−C)/A〕×100
A=抽出液の代りにリン酸バッファーを加えたときのピーク面積(コントロール)
B=抽出液を加えたときのピーク面積
C=酵素液の代りにリン酸バッファーを加えたときのピーク面積(サンプルブランク)
【0043】
(3)HPLC分析条件
HPLC分析の条件を以下に示す。
カラム:MightysilRP−18GP 250×4.6mm(関東化学)
カラム温度:40℃
移動相A:0.01Mリン酸カリウムバッファー(pH2.8)
移動相B:100%アセトニトリル
グラジエント:0分から15分までA液80%、B液20%からA液75%、B液25%のリニアグラジエント、15分から20分までA液80%、B液20%で保持
流量:0.75ml/min
注入量:50μl
検出:UV226nm
【0044】
1.5 通電加熱
実験機器の通電加熱ユニットは、図11の通りである。周波数発生器であるFG−143にて、周波数を変更し、増幅器である4510 PRECISION POWER AMPLIFIER(NE)にて、電圧を変化させた。電流、電圧、電力の実測値は、パワーメーターである3332 POWER HITESTER(HIOKI)で計測した。また、温度は、マルチレコーダーである8421−50に接続したシール型熱電対にて測定した。電極槽は、電気穿孔ユニットと同様に、アクリル槽であり、食品衛生法に従って、板状チタン電極を用いた。液媒は、25mM NaClを用いた。
【0045】
1.6 通電加熱による昇温速度
石川県農業総合研究センターで開発されたペースト化技術では、ペースト化した中島菜を、60℃で30分加熱することで、更に、ACE阻害能が上昇すると報告されている。本実施例では、電気穿孔処理時の電極を通電加熱用とすれば、設備の縮小等の利点が多い。先に述べたように、通電加熱は、材料に直接電流を流し、その際に生じるジュール熱を利用する加熱法であるため、従来の外部加熱法に比べて、均一迅速な昇温と精密な温度制御が可能である。そこで、中島菜における通電加熱による昇温特性を、葉と葉柄について調べた。
【0046】
通電加熱により、60℃に達するまでの昇温速度を測定した。温浴加熱との比較における通電加熱条件は、表3に示す通りである。中島菜をシール型熱電対に巻き付けることによって、葉の中を流れる電流による昇温を測定した(図12)。一方、葉柄については、導管が電極と平行になるように設置し、葉柄中心部付近に挿入したシール型熱電対で昇温を測定した。
【0047】
【表3】
【0048】
1.7 周波数変化による昇温速度の違い
ダイコンにおける通電加熱処理では、周波数によって、昇温速度に違いがみられるが、ある温度からの昇温速度は、周波数に依存しないという報告がされている(文献:Imai,T.,Uemura,K.,Ishida,N.,Yoshizaki,S.,Noguchi,A(1995),Ohmic heating of Japanese white radish Rhaphanus sativus L.International Journal of Food Sceience and Technology,30,461−472)。
【0049】
また、湯浴で穏やかに30℃まで加温したダイコンと、通電加熱によって、常温(約20℃)から30℃に加熱したダイコンを、1H−NMRにて測定した結果、通電加熱を行ったダイコンのほうが、組織細胞間での水の移動が増加することから、細胞の微少な損傷が発生していると考えられている(文献:Imai,T.,Uemura,K.,Ishida,N.,Yoshizaki,S.,Noguchi,A(1995),Ohmic heating of Japanese white radish Rhaphanus sativus L.International Journal of Food Sceience and Technology,30,461−472)。
【0050】
上記報告者らは、高い周波数で、組織が示す低いインピーダンスによる高電流でのジュール熱増大よりも、低い周波数で、より長い時間、プラスマイナスの電界に晒されることによって、ダイコン細胞に電気穿孔が生じ、その結果、加速度的にダイコンの電気抵抗が低下して、より大きなジュール熱が発生すると考えており、よって、低い周波数での昇温速度増加が顕著であるとし、特定温度以上では、膜構造の熱破壊で、ジュール熱発生が周波数に関係なく一定となるために、昇温速度も一定になると解析した。この報告より、電気穿孔処理を行った中島菜は、通電加熱時に、その昇温速度が周波数に依存することなく一定となることが考えられ、以下の表に示す周波数依存性の比較における通電加熱条件、電気穿孔処理条件で、電気穿孔処理前後での中島菜の昇温速度を検討した。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
2.実験結果・考察
2.1 透過型顕微鏡による中島菜の細胞観察
中島菜の葉の細胞、葉柄の細胞を、透過型顕微鏡により細胞観察した結果、それぞれ細胞の平均半径は、葉で12μm、葉柄で41μmであった。この値を用いて、電気穿孔発生に要する電位Eを概算してみると、以下の式、
式:ΔΨ=3/2FaEcosΦ{1−exp(−t/τ)}6)
より、膜電位(ΔΨ)を1と想定して、他の値をそれぞれF(形状係数)=0〜1、cosΦ{1−exp(−t/τ)}=0〜1と置くと、膜電位(ΔΨ)が1Vを超えるために必要な電位(電圧)Eは、葉で、約513V/cm、葉柄で、約162V/cmと計算できる。しかし、細胞は、かなりの巾で大小が観察され、葉では、500〜5000V/cm、葉柄では、160〜1600V/cmが電気穿孔に必要な印加電圧と考えられた。
【0054】
2.2 電気的処理によるACE阻害活性の変化
表6に、サンプル作成条件、図13に、電気穿孔処理後の中島菜のACE阻害活性(%)を示した。中島菜は、葉、葉柄共に、ACE阻害活性を示し、電気穿孔処理後の60℃、30分加熱で、ACE阻害活性が更に増加し、電気穿孔処理の有用性が確認できた。葉と葉柄のいずれもが、加熱処理又は電気穿孔のみで、ACE阻害活性が大幅に増加している。
【0055】
【表6】
【0056】
加熱処理のみでACE阻害活性が増加する原因として、60℃という、植物にとってはかなり高温の加熱で、細胞組織の損傷が引き金となって、ACE阻害活性が生じたと考えられる。これが事実とすれば、30分の加熱でも、機能するACE阻害活性発現に関連する酵素は、ある程度の耐熱性を有すると考えられ、同時に、機能性成分の前駆体は、常温でも、関連酵素に感受性を持ち、加熱によって変性することで、更に感受性が増大し、結果として、更にACE阻害活性が増加したと考えられる。
【0057】
2.3 通電加熱による昇温速度
図14に、通電加熱時の印可電圧を、12.99V/cm、18.18V/cm、23.38V/cmに変えた場合の温度上昇を示した。印可電圧の増加につれ、昇温速度は大きくなった。現在、中島菜の加熱処理方法(外部加熱)では、多くの時間とエネルギーを必要とすることから、通電加熱は、その特徴から、均一で迅速な昇温が可能であると同時に、時間及びエネルギーを大幅に節約できると思われる。更に、精密な温度制御が可能であり、素材品質の変動を少なくなることから、高品質化にも寄与することになる。図15は、中島菜の葉と葉柄を同時に、12.99V/cm、18.18V/cm、23.38V/cmで通電加熱したものである。このグラフから、葉と葉柄の昇温速度は、ほぼ一定であり、実用に際して好都合な結果を得た。
【0058】
2.4 周波数変化による昇温速度の違い
図16、17に、未処理及び電気穿孔処理後の中島菜について、周波数を変動した場合の昇温変化を示した。未処理の、60Hz control、600Hz control、6KHz controlの中島菜では、周波数が高くなるにつれて、昇温速度が低下し、60Hz E.P.、600Hz E.P.、6KHz E.P.の電気穿孔処理では周波数依存性が消失している。これらの結果は、ダイコンを対象とした通電加熱研究を進めたImai,Tら(1995)の報告と、非常に良く一致しており、Imai,Tらは、通電加熱時に、電気穿孔の現象が発生している報告している。
【実施例2】
【0059】
1.実験方法
供試材料として、石川県農業総合研究センター内ほ場で栽培した中島菜を用いた。板状の電極、ワイヤー電極による電気穿孔処理を行った。板状の電極の場合は、5、1、0.2cm幅に切断した中島菜を、葉と葉柄に分けて、図18の装置で電気穿孔処理した。処理条件は、電極間距離1cm、印加電圧3,000V/cmにおいて、パルス回数30と99回とで比較検討した。
【0060】
ワイヤー電極の場合は、5〜10cm幅に切断した中島菜を、葉と葉柄に分けて、図19の装置で電気穿孔処理した。処理条件は、図の装置で電極間距離5cm印加電圧2,000〜2,400V/cm、ワイヤー電極移動スピード10cm/30秒において、パルス回数10、30、50回で比較検討した。中島菜のACE活性阻害能を測定するために、凍結乾燥粉末に、400mMリン酸緩衝液を加え、振とう抽出した。これに、ACEと基質を加え、37℃で1時間反応させた。その反応物の馬尿酸量をHPLCで測定し、その減少量から、ACE活性阻害能を算出した。コントロールとして、リン酸緩衝液を用いた。
【0061】
移動式ワイヤー電極を用いた通電処理装置の効果確認を行った。電気穿孔処理条件は、1回あたりの処理量を約15g、通電パルス回数を20回(電極10往復)、1区あたりの処理量を約100g(おおむね6葉程度)とし、対照として、無処理区、参考データとして、60℃30分温湯加熱区を設定した。
【0062】
また、電気穿孔処理後に通電加熱した中島菜と通電加熱のみを行った中島菜のACE活性阻害能の比較を行った。その場合、処理方法は、電気穿孔処理+通電加熱、通電加熱のみ、無処理(対照)とし、電気穿孔処理のパルス回数は30回とし、通電加熱処理は石川県立大学所有の通電加熱処理装置を用い、電極間隔10cm、最高温度60℃で15分間加熱した。
【0063】
2.結果
板状の電極の装置では、切断幅を変えた中島菜に、パルス回数99回又は30回で電気穿孔処理を行ったところ、いずれも、同程度のACE阻害能が得られた。これにより、形状が違っても、印可電圧3000V/cm、パルス回数30回でACE阻害能向上効果が得られると考えられた。なお、1回の処理量は、最大3gであった。
【0064】
ワイヤー電極の装置では、パルス回数10回相当の電気穿孔処理でACE阻害能の向上が認められた。また、1回の処理量は、25gであり、板状電極の装置の8倍以上に増やすことができた。更に、いずれの装置とも、電気穿孔処理した中島菜は、温湯加熱処理によりACE阻害能が更に向上した。これにより、ワイヤー電極の装置では、電気穿孔処理のスケールアップ化が可能と考えられた。
【0065】
通電処理(電気穿孔処理)を行った中島菜のACE活性阻害能は、無処理の中島菜より高くなっており、ワイヤー電極を用いた通電処理を行うことにより、ACE活性阻害能が向上することが確認された。その結果を、図20に示す。
【0066】
また、電気穿孔処理後に通電加熱した中島菜と通電加熱のみを行った中島菜のACE活性阻害能の比較では、60℃で15分通電加熱した場合でも、通電加熱のみよりも電気穿孔処理後に通電加熱したものの方がACE活性阻害能が高いことが確認された。その結果をまとめて図21に示す。
【実施例3】
【0067】
本実施例では、移動式ワイヤー電極で中島菜葉部を電気穿孔処理した場合の組織内の水の拡散係数の変化を調べた。
中島菜を、おおむね5cm角に切断した。1回あたり1枚を電気穿孔処理した。パルス回数は、10回(5往復)、30回(15往復)、50回(25往復)とした。1区あたりの処理量は、5cm幅分1枚とした。NMRにより水の拡散係数を分析した。NMRの測定は、ESX400(1Hの共鳴周波数400MHz)を用いた。各サンプルの中心部を、おおむね3cm角で切り出し、筒状に丸めてNMR測定管に入れ、PGSTE法により拡散時間を0.1〜1.0secまで変化させて、それぞれの拡散係数を測定した。その結果を図22に示す。
【0068】
水の拡散係数は、組織内での移動できる範囲が小さい場合(制限拡散)は、拡散時間が長くなるほど大きく減少する。図を見ると、電気穿孔処理した中島菜は、無処理の中島菜よりも拡散係数の減少幅が小さくなっており、電気穿孔処理により、中島菜組織内の水が移動できる範囲が大きくなっていること、すなわち、細胞膜の破壊が起きていること、が確認された。
【0069】
また、パルス回数30回程度までは、パルス回数が多くなるほど組織の破壊程度が大きくなるが、30回以上では、パルス回数が多くなっても組織破壊の程度はあまり変わらないものと考えられる。板状電極を用いた電気穿孔処理試験においても、ほぼ同様の結果が得られていることから、移動式ワイヤー電極を用いた場合でも、板状の電極と同様の効果が得られるものと考えられる。
【0070】
また、ワイヤー電極を用いた電気穿孔処理における通電回数の違いがACE活性阻害能に及ぼす影響を調べた。電気穿孔処理条件は、1回あたり処理量が約20g(おおむね1葉)、通電パルス回数は、上記の方法と同様として、1区あたりの処理量は約90〜100g(4葉程度)とし、各区とも2往復とした。
【0071】
電気穿孔後の処理は、通電処理した中島菜は葉部と葉柄部に分けて冷凍乾燥し、それぞれACE活性阻害能を測定した。無処理の中島菜を対照とした。その結果を、図23に示す。パルス回数10回以上(電極5往復)でACE活性阻害能の向上が認められた。
【0072】
更に、ワイヤー電極を用いた電気穿孔処理における通電回数の違いがACE活性阻害能に及ぼす影響を調べた。電気穿孔処理条件は、上記方法と同様とした。その結果を、図24に示す。加熱しないものでは、無処理の方がACE活性阻害能が高かったが5・10・15分加熱のいずれでも、電気穿孔処理したものの方がACE活性阻害能が高くなった。電気穿孔処理すると、加熱時にACE活性阻害能が向上し易くなるものと考えられる。
【実施例4】
【0073】
本実施例では、移動式ワイヤー電極を用いて中島菜を処理した。
1.ワイヤー電極
電極は、長さ6cm×φ1mmのチタン製針金をアクリル板に固定したものを2個1対で用いた。電極部分は、6cm×φ1mmとし、この部分が向かい合わせになるように、2枚1対で使用した。
【0074】
2.電極の移動装置
電極の移動装置は、次のようなものを試作した。
電極の移動距離:10cm(電極の長さと移動距離から、6cm×1cm=60cm2の面積に通電処理が可能)
電極の設置間隔:約5〜10cmで調整可能
電極の移動速度:往路は約8〜33秒/10cmで9段階に可変、復路は約13秒/10cmで固定。
【0075】
実際には、「往路動作の制御回路(電極を左に10cm移動させる。速度可変)」「復路動作の制御回路(電極を右に10cm移動させる。速度固定)+電極をホームポジションで停止させる回路(光センサーで電極の到着を感知し停止させる)」を組み合わせて、電極の移動を制御した。往路動作・復路動作は、前の動作が停止した後にボタンを押して開始するようになっているため、実際の動作の際には、動作停止からボタンを押すまでの間に若干のタイムラグが出る。
【0076】
処理水槽の容量:縦12cm×横48cm×深さ12cm(最大容量約6.9リットル、電極をすべて水没させるためには、5リットル程度水をいれる必要がある。)
処理サンプルの設置方法:中島菜を、5cm幅に切り、台所用の水切りネット中に縦5cm前後、横10cm前後、幅は電極間隔より5mm程度狭い幅に収まるように中島菜を詰め、中島菜が電極に直接接しないように、ネットを電極間にぶら下げた(電極と中島菜が接すると火花が発生するため)。中島菜入りネットが浮き上がってくる場合は、ガラス製のビー玉をおもりとして使用した。
【0077】
葉部のみ、ないしは葉部・葉柄部込みで処理する場合、6×10×4.5cm内に収めることが可能な重量は、最大で約25g程度あったことから、基本的な1回あたりの処理重量は、20〜25g程度とした。なお、検討内容によっては、より少量で電気穿孔処理を行うこともあった。なお、電極の移動装置は、試作機のため、移動速度の設定などに制限があるが、実用化に際しては、電極の移動距離・移動速度(往復とも)が任意に設定できるようにするのが望ましい。
【0078】
3.通電用の電源
最大出力15kVの直流電源に、簡易なパルス電流発生装置を組み合わせて使用した。簡易パルス電流発生装置は、一定間隔に複数の電極を取り付けたアクリル製円筒状容器の中心に、アクリル棒に電極を1本取り付けたものを設置し、アクリル棒を回転させ、内側と外側の電極が近接したときにのみ電流が流れるようにしたものである。パルス間隔は、外周部の電極の設置間隔と、回転部の回転速度で調整した。
【0079】
本実施例で試作した装置は、回転部が1周1秒〜7秒で16段階に速度を変えることができ、外周部の電極は90°間隔で4本設置してあることから、回転部を1周1秒で回転させることにより、1秒当たり5回のパルス電流を通電することができた。実際には、想定した電圧・パルス間隔で直流のパルス電流を流すことができるものであれば、パルス電流を発生させるための機構は、どのようなものでも構わない。できれば、当初検討した細胞融合用の電気穿孔処理装置のように、パルス長も任意に設定できることが望ましい。
【0080】
4.電気穿孔処理試験
電極が移動しながら部分的に通電していくことになるため、往復操作回数×2をパルス回数とみなした。試作装置で調整可能な部分については、電極間隔は5cm、電極の往路動作は13秒/10cm(復路動作とほぼ同スピード)、パルス間隔は1秒当たり5回とした。この場合、電極を1往復させる間のパルス回数は130回となる。すなわち、5×10cm2の面積をワイヤー電極が移動しながら65回のパルス通電を往復で2回行うことになるので、任意の1ヶ所に対しては、2回パルス通電することになる。
【0081】
使用した電源装置は、最高15kV出力可能なものであるが、超純水を入れ、中島菜を設置した水槽に通電した場合、最大で約12kV程度(詳しくは11600V前後)までしか電圧が上がらなかった。また、数回処理を繰り返すと、パルス電流が部分的に10kVを下回る様になった。そのため、電気穿孔処理時の印加電圧は11〜12kV(電極間5cmの場合2200〜2500V/cm)とし、10kVを下回るようになった時点で、水槽中の水を交換した。
【0082】
5.ACE活性阻害能の測定
電気穿孔処理サンプル及び無処理サンプルは、−80℃で凍結した後、真空凍結乾燥機で乾燥した。その後、各サンプルを粉砕して粉末にした。各乾燥粉末200μgに抽出用バッファ(pH8.5)8mlを加え、2時間振とうした。その後、ろ過して得られた上澄液を抽出用バッファで4倍に希釈し、測定用サンプルとした。
【0083】
測定サンプル100μlに、基質液(ヒプリル−ヒスチジル−L−ロイシン)50μlとACE酵素液200μlを加えて、37℃で1時間反応させた後、メタリン酸ナトリウム水溶液100μlを加えて反応を停止した。反応液中の馬尿酸(酵素反応生成物)の量を、HPLCで測定した。同様に、サンプル液の代わりに、抽出用バッファを加えて反応させたものをコントロールとし、「コントロールの馬尿酸量に対するサンプル反応液中の馬尿酸の減少割合」を算出して、ACE活性阻害能とした。数値が高いほど阻害能が高いことを示す。
【0084】
6.ワイヤー電極で中島菜葉柄部を電気穿孔処理する場合の処理量の影響
実験方法として、サンプリング及び1回あたりの処理量は、5cm長に切断した中島菜の葉柄部を、6本を1列に並べた状態、ないしは18本を9本ずつ2列に並べた状態でネットに入れ、試料調製に際しては、1枚の葉から5cmの葉柄部切片を3本取り、1本から必ず3つの処理(6本処理・18本処理・無処理)を行うようにし、パルス回数は30回(15往復)とし、1回あたりの処理量は、葉柄部切片36本分(約80〜90g)を1区とした。実験は2回行い、平均値を求めた。
【0085】
電気穿孔後の処理は、各サンプルをそれぞれ凍結乾燥し、ACE活性阻害能を測定した。その結果を、図25に示す。6本処理・18本処理ともに無処理よりもACE活性阻害能が上昇したが、6本処理の方がやや高い値となった。葉柄部をなるべく重ねずに処理する方が電気穿孔処理の効果は高いが、重なった状態で処理しても効果はあるものと考えられる。
【0086】
また、ワイヤー電極で中島菜葉部と電気穿孔処理する場合の重ね合わせの有無の影響を調べた。実験方法として、サンプリング方法及び処理量は、中島菜の葉部を5cm×7〜10cm程度に切断し、1枚のみないしは3枚重ねたものを台所用ネットに封入した。1枚の葉から必ず異なる2処理ないし3処理を行うサンプルを採集した。
【0087】
パルス回数は30回(15往復)として、1区あたりの処理量は約35g(所定量になるまで各条件の電気穿孔処理を繰り返した)、1反復とした。電気穿孔後の処理は、各サンプルをそれぞれ凍結乾燥し、ACE活性阻害能を測定した。その結果を、図26に示す。1枚処理・3枚重ね処理ともに無処理よりもACE活性阻害能が上昇したが、1枚処理の方がやや高い値となった。1回あたりの処理量を考えた場合、複数枚を重ねた方が効率的であると考えられる。
【実施例5】
【0088】
本実施例では、中島菜以外のアブラナ科野菜を電気穿孔処理した場合のACE活性阻害能への影響、及び電極の形状の違いによる影響について検討した。
1.中島菜以外のアブラナ科野菜を電気穿孔処理した場合のACE活性阻害能への影響について
1.1実験方法
供試材料として、津幡町内のスーパーで購入した白菜(長野県産)とチンゲンサイ(石川県産)を用いた。処理方法は、電気穿孔処理のみとし、電気穿孔処理後に、60℃、30分加熱し、無処理を対照とした。パルス回数は。50回(25往復)とした。
【0089】
1区あたりの処理量としては、幅5cm以内に設置できる量を検討した結果、1回あたりの処理量は、白菜で50g程度、チンゲンサイで23〜25g程度とした。これを複数回繰り返し、まとめて1区とした。加熱処理として、1区分をまとめて60℃の温湯中に入れ、30分加熱した後、流水中で急冷した。電気穿孔処理後の処置として、各サンプルをそれぞれ凍結乾燥し、ACE活性阻害能を測定した。
【0090】
1.2結果
上記実験の結果を表7及び図27に示す。白菜では、電気穿孔処理のみでもACE活性阻害能がわずかではあるが向上し、加熱と組み合わせることにより、更に向上した。チンゲンサイは、電気穿孔処理のみではACE活性阻害能がわずかに下がったが、加熱と組み合わせることにより大幅に上昇した。中島菜以外のアブラナ科野菜でも、電気穿孔処理と加熱処理を組み合わせることによりACE活性阻害能を向上させることが可能であり、最適な条件で処理すれば、電気穿孔処理のみでもACE活性阻害能を向上させることは可能であると考えられた。
【0091】
【表7】
【0092】
2.電極の形状の違いによる通電時の電圧の変化
2.1試験内容
最大出力15kVの直流電源に簡易なパルス電流発生装置を組み合わせた電気穿孔処理を用い、チタン製電極の形状の違いによる通電処理時の電圧の違いについて検討した。
【0093】
2.2試験方法
(1)使用した電極
1)6cm×φ1mmワイヤー電極1対(電極間隔5cm)を使用し、縦12cm×横48cm×深さ12cm処理水槽に対して超純水5リットルを用いた。
2)縦6cm×横5cm板状電極1対(電極間隔5cm)を使用し、縦5cm×横5cm×深さ6.5cm処理水槽に対して超純水180ミリリットルを用いた。
3)縦30cm×横30cm板状電極1対(電極間隔10cm)を使用し、縦14cm×横31cm×深さ30cm処理水槽に対して、超純水10リットルを用いた(水槽の形状の都合で電極の上部が水面から2cmほど出た状態で使用)。
【0094】
図28〜30に、使用した電極の写真を示す。図中、左からワイヤー電極、6cm×5cm板状電極、30cm×30cm板状電極を示す。上記1)において、6cm×5cm板状電極は、5cm間隔に設置した(図29)。また、上記Cの30cm×30cm板状電極は、間隔が10cmで固定されているものを使用した(図30)。
【0095】
(2)観察項目
1)電極を設置した処理水槽に超純水のみを入れて通電した場合の最高電圧と、2)電極を設置した処理水槽に超純水と中島菜を入れて通電した場合の最高電圧と(この際の中島菜は、おおむね5cm幅に切断したものを使用し、使用量は、水槽と電極間隔に応じて適宜量とした。)、3)上記iiの状態で通電を続けて、電圧が不安定化し始めた時の処理槽中の水の電気伝導度(通電時の電圧が単発的に10kVを下回るようになった時点を不安定化開始とした)を観察した。
【0096】
3.結果及び考察
上記実験の結果を表8及び図31に示す。中島菜を電場処理した場合の、拡散係数と拡散時間の関係を図32〜33に示す。超純水のみで通電した場合は、電極の形状の違いにより最高電圧に差が見られたが、中島菜に通電した場合の最高電圧は、電極の形状の違いによる差は僅かであった。一方、中島菜を通電処理する際に電圧が不安定になる電気伝導度は、電極の面積が大きくなるほど低くなる傾向であった。
【0097】
本実施における検討では、電極ごとに容積の異なる処理水槽を用いているため中島菜の処理量と電気伝導度を直接比較することはできないが、処理水槽の容量や電気穿孔処理の印加電圧・パルス回数が同じであれば、電極の形状が異なっても中島菜の処理量と電気伝導度の関係は同様になると推測される。
【0098】
ワイヤー電極と所定の水槽を用い、水を取り替えずに20g前後の中島菜を30回通電する処理を連続して繰り返した場合、電気伝導度が2mS/cmに到達するのは1回目処理の開始直後であり、10mS/cmには2回程度、25mS/cmには4〜5回程度通電処理を繰り返した際に到達することを確認している。このことから、電極を大きくすることにより一度に電気穿孔処理可能な量はむしろ減少すると考えられ、できるだけ簡便な電源装置で大量に中島菜の電気穿孔処理を行いたい場合には移動式ワイヤー電極を使用する必要があると考えられる。上記図32〜33の結果は、電場処理により、中島菜に孔が形成されていることを示す。
【0099】
【表8】
【0100】
図31に示されるように、実際の処理においては、印加電圧が不安定化し始めた際の電気伝導度には幅が見られており、エラーバーがその範囲を示す。幅が見られる要因としては、処理水槽中の水の電気伝導度以外に中島菜の形状・部位・組織中の細胞損傷部位や程度なども電圧の変動に影響するためと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上詳述したとおり、本発明は、電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜及びその製品に係るものであり、本発明により、組織全体を破壊することなく、ACE阻害活性が強化された有形の中島菜等のアブラナ科野菜を提供することができ、電気穿孔処理及び通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理という簡便な手段を適用することにより、ACE阻害活性を強化した中島菜等のアブラナ科野菜素材を提供することができる。また、本発明により、ACE阻害活性を強化した中島菜に関する従来の素材と比べて、中島菜等の組織全体を保ち、かつACE阻害活性が強化された中島菜等を提供することができる。本発明により、中島菜等をペースト化することなく、その形を保持した有形の状態で、ACE阻害活性を強化することができる。本発明は、中島菜等のアブラナ科野菜に電気的処理を施すだけで、そのACE阻害活性を強化することが実現でき、少量の中島菜等でも高いACE阻害活性が期待できる新しい電気化学的処理を利用したアブラナ科野菜に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的処理によるアンジオテンシンI変換酵素(以下、ACEと称する。)阻害活性を高めた中島菜等のアブラナ科野菜及びその製品に関するものであり、更に詳しくは、中島菜等のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、電気穿孔処理と通電加熱処理を利用して中島菜等のアブラナ科野菜のACE阻害活性を増大させる、電気的処理による、ACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜及びその製品に関するものである。本発明は、中島菜等のアブラナ科野菜のACE阻害活性が高められた有形の中島菜等のアブラナ科野菜及びその製品を提供することを可能とする電気的処理によるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を高めた中島菜等のアブラナ科野菜に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
アブラナ科野菜の一種である中島菜は、石川県の能登地方で古くから栽培されている冬の伝統野菜である。近年の研究により、図1(非特許文献1)に示すように、中島菜は、他の野菜に比べて、血圧上昇抑制の効果が高いことが報告されている(非特許文献2)。この血圧上昇抑制は、ACE阻害活性に因るものであり、体内のレニン・アンジオテンシン系による血圧調節に関与している。
【0003】
レニン・アンジオテンシン系による血圧調節とは、肝臓が分泌するレニン基質にレニンが作用してアンジオテンシンIが生産され、これにACEが作用して、アンジオテンシンIIを生産し、このアンジオテンシンIIが脳に作用することによって、動脈収縮が起こり、血圧を上昇させるという仕組みである。つまり、ACEの働きが弱まれば、血圧上昇抑制となる。
【0004】
中島菜に含まれる血圧上昇抑制の効果成分は、耐熱性が高く、通常の調理では、その機能が失われない(非特許文献1、2)。更に、図2,3(非特許文献1)から明らかなように、このACE阻害能は、栽培環境の影響を受けにくく、安定していることが分かる。これを受けて、石川県は、中島菜を戦略作物に選定し、生産・需要の拡大に取り組んでおり、図4(非特許文献4)に示すように、ここ数年で、中島菜の生産量は、年々上昇している。更に、平成19年度から、コンビニエンスストアや外食産業が中島菜の利用を開始し、今後、更に中島菜の消費量が上昇すると考えられている。
【0005】
しかし、中島菜については、その課題の一つとして、生産量が、消費量に対して間に合わなくなってきていることが挙げられる。中島菜の収穫が可能な時期は、12月〜3月であるが、12月〜1月に収穫されたものは、葉の大きさが大きいことや、芳香成分が少ないことから、利用されにくく、結果として、2月〜3月に収穫されたものが市場に出ている。中島菜は、もともと冬の伝統野菜であることから、通年の供給が難しく、現在は、時期外での需要に応えるために、乾燥粉末等の方法で保存、供給されている。
【0006】
石川県の農業総合研究センターは、供給量の更なる増加と、ACE阻害能の強化を目的として、中島菜をペースト化してACE阻害能を増強させるペースト技術を開発した(特許文献1)。すなわち、この技術は、中島菜を、ミキサーでペースト化した後に、60℃、30分間の加熱処理を行う技術であり、細胞組織に局在する血圧上昇抑制の効果成分の前駆体と関連酵素が、ペースト化によって、効率良く巡り会い、該効果成分を、より多く生産するものと考えられる。この技術により、12月〜1月収穫の中島菜でも、食品素材として供給することができ、伸び続ける需要に対して、中島菜の供給向上が期待されている。
【0007】
また、この技術により、中島菜のACE阻害能が高まり(図5、出典:石川県農業総合研究センター 資料より)、少量の中島菜でも、高い効果(図6、出典:石川県農業総合研究センター 資料より)が期待できるようになった。しかし、この技術では、中島菜をペースト化する必要があり、消費者及び業界の要望である、ACE阻害能が高められた有形の中島菜の提供には、応えることができないという問題があり、当技術分野においては、それを解決することを可能とする新しい技術を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−244313号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】三輪章志,吉村香奈子,中島菜のアンジオテンシンI変換酵素阻害能について,石川県農業総合研究センター研究報告,No.21,45〜51(1998)
【非特許文献2】榎本俊樹,北陸地方の農水産物の栄養評価と加工食品への利用,日本食品工学会誌,Vol.50,No.9,379〜385(2003)
【非特許文献3】三輪章志,ACE活性阻害能が強い中島菜の加工利用について,食品と技術,2006,4月号,11〜16(2006)
【非特許文献4】(社)食品需給研究センター編,食料産業クラスターの波動60〜63,平成20年3月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、中島菜等のアブラナ科野菜をペースト化することなく、ACE阻害活性が高められた有形の中島菜等のアブラナ科野菜を提供することを可能とする新しい技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、中島菜等のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与える電気穿孔と通電加熱に着目し、中島菜等のアブラナ科野菜に電気穿孔と通電加熱又は恒温水槽による湯浴加熱を施すことにより、ACE阻害活性が高められた有形の中島菜等のアブラナ科野菜を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与えることで、ACE阻害活性が高められた有用の中島菜等のアブラナ科野菜を提供することを可能とする電気的処理による中島菜等のアブラナ科野菜の処理方法及びその製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)処理対象のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与える、所定形状の電極による電気穿孔処理をした後、これを、通電加熱を利用して又は恒温水槽による湯浴加熱を利用して、所定の温度に加熱することにより、アブラナ科野菜の形を残したままACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜を得ることを特徴とする電気的処理によるアブラナ科野菜の処理方法。
(2)電気穿孔処理を、板状の電極又はワイヤー電極により行う、前記(1)に記載のアブラナ科野菜の処理方法。
(3)アブラナ科野菜として、中島菜(Brassica campestris cultivar Nakajimana)を使用する、前記(1)又は(2)に記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
(4)電気穿孔により、電圧が0超〜5000V/cm、パルス時間が10〜120μs、パルス付加間隔が100ms〜10s、パルス回数が1〜99回の条件で、穿孔処理を行う、前記(1)から(3)のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
(5)通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理により、少なくとも60℃、5分加熱の条件を満たすように加熱する、前記(1)から(4)のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
(6)上記電気穿孔処理及び通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理を、中島菜の葉、及び/又は葉柄に施す、前記(1)から(5)のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の方法により、ACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜。
(8)前記(7)に記載のACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜を含有する食品又は飲料。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
以下、本明細書では、本発明について、アブラナ科野菜の一種の中島菜(Brassica campestris cultivar Nakajimana)を代表例として説明するが、本発明は、中島菜に限定されるものではなく、中島菜と同様のACE阻害活性を有するアブラナ科(Brassicaceae)に属する野菜についても同様に適用することが可能であり、本発明の適用対象として、中島菜の他に、例えば、シロナ、菜の花、小松菜、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ワサビ、水菜、ハクサイ、ケール、カラシナ、チンゲンサイ、ダイコン、カブ等が例示される。本発明は、中島菜をペースト化することなく、中島菜に電気穿孔と通電加熱を施すことにより、ACE阻害活性が高められた有形の中島菜を提供することを可能とした点に特徴を有するものである。
【0014】
本発明において、中島菜とは、能登半島の中央に位置する七尾市中島町を中心に栽培されているツケナ類を意味する。中島菜の葉形は、ダイコンのような羽深裂で、葉縁は粗い鋸歯状で、色は濃緑である。中島菜は、主として2月〜3月に収穫され、漬物、和え物、煮物、炒め物等として食されている。本発明において、アブラナ科野菜とは、その全体、あるいは葉、茎、花等からなる一部又は全部の部位を指す。
【0015】
本発明の方法において、アブラナ科野菜は、収穫後、付着している泥等を水等で洗浄した生鮮野菜、あるいは、洗浄後、冷蔵保存、冷凍保存したものを使用することが可能であり、収穫から加工までの間、高鮮度に保持されているものであれば、いずれも使用することができる。
【0016】
本発明者らは、中島菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微少な損傷を与えて、血圧上昇抑制の効果成分の前駆体と関連酵素が巡り会えるようにすれば、ペースト化することなく、ACE阻害活性を高めることができると考え、更に、この個々の細胞に、微少な損傷を与える手段として、電気穿孔に着目し、上記課題を解決することを試みた。電気穿孔とは、細胞に対して電場をかけると、膜電位が誘導され、その膜電位があるレベルを超えた段階で、細胞膜に孔が開くという現象である。
【0017】
脂質二重膜で構成される細胞膜は、極性部分と脂質部分の相互位置関係より、電気的にコンデンサーと見なすことができ、静電場に晒された場合には、細胞膜表面に誘導膜電位が生じて、その電位差に応じて、極性部分が互いに強く引き付け合うことになる。この引き付け合う力が、細胞膜の弾性を超えたときに、膜に孔が開くと考えられており、その時点で、誘導膜電位は、臨界膜電位と呼ばれている。以上の経緯を模式図として示したのが、図7(出典:群馬大学 工学部 環境プロセス工学科 大嶋研究室,非加熱殺菌〜高電圧パルス電界(PEF)・オゾン・銀〜,FOOMA JAPAN 2009 アカデミックプラザ研究発表要旨集,Vol.16,33)である。
【0018】
誘導膜電位は、以下の式で表すことができる(文献:Kinoshita,K.,Hibino,M.,Shigemori,M.,Hirano,K.,Kirino,Y.,and Hayakawa,T.,(1992),Events of membrane electroporation visualized on a time scale from microsecond to second,In Guide to Electroporation and Electrofusion(edited by D.C.Chan,B.M.Chassy,J.A.Saunders and A.E.Sowers),New York Academic Press,pp24−46)。
式:ΔΨ=3/2FaEcosΦ{1−exp(−t/τ)}
【0019】
上記式において、Fは膜の特性因子、aは球状細胞の半径(cm)、Eは印可電圧(V)、φは電場方向と半径ベクトルのなす角度(rad)、tは電界が定常状態に達してからの時間(s)、τは緩和時間、である。この式で、大きな影響を与えると考えられる因子は、半径と印可電圧である。また、この臨界膜電位(Ψc)は、細胞の種類のよらず、約1Vであると報告されている(文献:Sale,A.J.H.and W.A.Hamilton(1968),Effects of high electric fields on microorganisms−lysis of erythrocytes and protoplasts,Biochimica et Biophysics Acta,163:37−43)。
【0020】
先に述べたように、機能性の向上には、組織細胞に局在する機能性成分の前駆体と関連酵素の巡り会いに続いて、一定温度に昇温する必要があるが、この手段として、本発明者らは、通電加熱と、恒温水槽にて加熱する湯浴加熱に着目した。通電加熱とは、材料に直接電流を流し、その際に生じるジュール熱を利用する加熱法である。この通電加熱は、組成や構造が均一な材料においては、全体の均一発熱と、条件によっては、迅速な昇温が期待できると共に、外部加熱の際に生じやすい過剰加熱による品質劣化を避けることができる。
【0021】
通電加熱での発熱量qは、使用周波数に依存する発熱寄与分を無視すれば、次の式で表すことができる。
式:q=κ(gradV)2
ここで、κは材料自身の持つ電気伝導度(抵抗Rの逆数1/R)、Vは印可電圧である。このときの昇温速度は、次の式で表すことができる。
式:dT/dt=(gradV)2κ/ρCp
ここで、ρは密度、Cpは比熱である。発熱量及び昇温速度は、材料自身の持つ電気伝導度に依存するが、一般の食品や食品材料は、充分量の水分と様々な電解質を含んでいるため、電気伝導度は大きいと考えられる。
【0022】
本発明において、材料の中島菜は、採取した後、例えば、MA包装ができる適宜の袋に収容し、冷蔵保存し、高鮮度に保持され、使用に供される。しかし、中島菜の採取後の保存方法については、適宜の手法を使用することが可能である。本発明では、中島菜に対して、電気穿孔処理を施すが、電気穿孔の条件として、電圧が0超〜5000V/cm、好適には、160〜1600V/cm(葉柄)、500〜5000V/cm(葉)、パルス時間が10〜120μs、パルス付加間隔が100ms〜10s、パルス回数が1〜99回、の条件があげられる。
【0023】
電気穿孔処理は、試料の中島菜を、パルス発生装置内にセットし、高電圧パルスを当て、高電圧オシロスコープで、電圧、パルス形、パルス間隔を確認して、実施される。この場合、電極として、板状の電極や、ワイヤー電極が使用され、例えば、板状のチタン電極又はワイヤー状のチタン電極が好適に使用される。後記する実施例に示されるように、電気穿孔に必要な印加電圧は、中島菜の葉では、500〜5000V/cm、葉柄では、160〜1600V/cmが好適である。
【0024】
電気的処理によるACE阻害活性の変化については、中島菜は、葉、葉柄と共に、ACE阻害活性を示し、電気穿孔処理後の60℃、30分加熱の条件を満たすような加熱で、ACE阻害活性が更に増加する。
【0025】
次に、中島菜を、60℃、30分加熱の条件を満たすように加熱する手段としては、通電加熱が、均一で迅速な昇温が可能であり、また、時間及びエネルギーを大幅に節約でき、更に、精密な温度制御が可能であり、素材品質の変動が少ないことから、好適である。しかし、中島菜を加熱する手段として、必要に応じて、恒温水槽にて加熱する湯浴加熱を採用することも適宜可能である。
【0026】
本発明より、原形を留めながら加工に適した高機能性食品素材の作製に、電気穿孔処理が有効であることが確認された。電気穿孔処理の効果は、3000V/cm、パルス回数30回付近で最大となることが分かった。また、一般の外部加熱に比べて、通電加熱処理の優位性は確認されたが、一方で、素材のセット方法で注意が必要となることも判明した。これらの知見を総合して、従前のペースト化技術と比較して、コスト、素材形態等から、電気的処理の優位性が確認された。本発明の成果より、本発明は、中島菜をはじめ、その他のアブラナ科野菜へ広く適用できることが確認された。
【0027】
本発明において、ACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜は、そのままの形態で食品素材とすることができ、また、これらの乾燥物を食品素材とすることもできる。本発明のアブラナ科野菜を原料として、ACE阻害活性の効果成分の粗精製品を得ることができ、血圧上昇抑制剤として、その有効性が期待でき、しかも、該粗精製品は、従来、食品として利用されてきたアブラナ科野菜を原料としていることから高い安全性を有している。
【0028】
更に、本発明のACE阻害活性の高められたアブラナ科野菜は、食品又は飲料の原料として用いることができ、その場合、アブラナ科野菜に加えて、必要により、適宜、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色剤、香料、調味料等の食品添加物を配合することが可能である。また、これらの食品又は飲料の種類、形態等については制限はなく、例えば、食品の場合は、必要に応じて、粉末、顆粒、錠剤、液体等の適宜の形態に加工することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)組織全体を破壊することなく、ACE阻害活性が強化された有形の中島菜等のアブラナ科野菜を提供することができる。
(2)電気穿孔処理及び通電加熱処理という簡便な手段を適用することにより、ACE阻害活性を強化した中島菜等のアブラナ科野菜素材を提供することができる。
(3)ACE阻害活性を強化した中島菜等のアブラナ科野菜に関する従来の素材と比べて、中島菜等のアブラナ科野菜の組織全体を保ち、かつACE阻害活性が強化された中島菜等のアブラナ科野菜を提供することができる。
(4)中島菜等のアブラナ科野菜に電気的処理を施すだけで、そのACE阻害活性を強化することが実現できる。
(5)少量の中島菜等のアブラナ科野菜でも、高いACE阻害活性が期待できる新しい電気化学的処理を利用した野菜の処理技術を提供することができる。
(6)中島菜等のアブラナ科野菜をペースト化することなく、その形を保持した有形の状態で、ACE阻害活性を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】他の野菜とのACE阻害能比較を示す。
【図2】中島菜の栽培場所、収穫時期別ACE阻害能の比較を示す。
【図3】栽培法による中島菜ACE阻害能の比較を示す。
【図4】中島菜の生産量と利用企業数を示す。
【図5】ペースト化中島菜の加熱処理によるACE阻害能の変化(濃度1.56mg/mlで測定した場合)を示す。
【図6】ACE阻害活性50%となる中島菜凍結乾燥粉末の濃度を示す。
【図7】電気穿孔のイメージ図を示す。
【図8】電気穿孔条件を示す。
【図9】電気穿孔用機材の概要を示す。
【図10】サンプル作成模式図を示す。
【図11】通電加熱ユニットを示す。
【図12】中島菜の葉の昇温速度測定方法を示す。
【図13】中島菜の葉、葉柄のACE阻害活性(%)を示す。
【図14】通電加熱の昇温速度の比較を示す。
【図15】中島菜の葉と葉柄の昇温速度を示す。
【図16】未処理の中島菜の周波数変化による昇温速度を示す。
【図17】電気穿孔処理を行った中島菜の周波数変化による昇温速度を示す。
【図18】板状電極の電気穿孔処理装置の一例を示す。
【図19】ワイヤー電極の電気穿孔処理装置の一例を示す。
【図20】通電処理(電気穿孔処理)を行った場合、及び無処理(対照)の場合の中島菜のACE活性阻害能を示す。
【図21】電気穿孔処理後に通電加熱した中島菜と通電加熱のみを行った中島菜のACE活性阻害能の比較を示す。
【図22】電気穿孔処理における通電回数の違いがACE活性阻害能に及ぼす影響を示す。
【図23】電気穿孔処理条件の違いによる拡散時間ごとの拡散係数の減少量の推移を示す。
【図24】電気穿孔処理後に温湯加熱を行った場合のACE活性阻害能の変化を示す。
【図25】移動式ワイヤー電極で中島菜葉柄部を電気穿孔処理する場合の処理量の影響を示す。
【図26】移動式ワイヤー電極で中島菜葉部を電気穿孔処理する場合の重ね合わせの有無の影響を示す。
【図27】アブラナ科野菜を電気穿孔した場合のACE活性阻害能への影響を示す。
【図28】ワイヤー電極、板状電極を示す。
【図29】板状電極の設置間隔を示す。
【図30】板状電極の固定間隔を示す。
【図31】印加電圧が不安定化し始める電気伝導度を示す。
【図32】中島菜の電場処理を示す。
【図33】電気穿孔処理条件による拡散係数の差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
本実施例では、電気穿孔に伴う膜損傷と、それに続く機能性成分の増大、通電加熱又は恒温水槽による湯浴加熱処理による昇温等について、中島菜を対象に検討し、有形で、かつACE阻害活性を強化した素材開発に関する有益な結果を得た。
【0033】
1.実験材料及び方法
1.1 実験材料
中島菜は、石川県農業総合研究センターで栽培された晩抽系・字中島(平成19年採取種子)を使用した。採取後は、P−プラス(住友ベークライト株式会社)に入れ、4℃で冷蔵保存し、可及的速やかに使用した。ここで、P−プラスとは、MA包装ができる袋のことであり、使用されるフィルムは、30〜100ミクロンの小さな微孔を持ち、この微孔から包装内の青果物が呼吸を続けるために必要な酸素を取り入れ、二酸化炭素を逃がす仕組みになっている。ミクロの孔と青果物自身が行う呼吸とのバランスにより、袋内がゆっくりと「低酸素・高二酸化炭素」になり、やがて平衡状態になるとされ、この袋の使用で、中島菜の鮮度維持に努めた。
【0034】
1.2 電気穿孔処理
図8に示す条件で、中島菜に対して、電気穿孔処理を行った。本実施例では、図に示す種々の電圧とパルス条件で実験を行った。電気穿孔に要する印可電圧時間は、nsレベルとされており、選定したパルス幅、パルス付加間隙は、共に十分な値と考えられる。
【0035】
電気穿孔用機材の概要は、図9に示す通りである。電源部であるECM830(BTX)において、パルスを発生させ、ユニット内の試料に高電圧パルスを当てた。また、高電圧オシロスコープであるENHANCER400(BTX)において、適用した電圧、パルス形、パルス間隙を確認した。ユニットは、アクリル製の槽であり、電極間距離が一定になるように調整した。電極は、腐食の問題を避け、食品衛生法に沿うために、板状のチタン電極を用いた。ユニット内を蒸留水で満たして、高絶縁性として、高電圧印加を可能とし、その中に、目的試料の中島菜を、アクリル槽のサイズに合わせて入れた。電気穿孔処理前後の温度は、汎用型記録計であるB430MEMORY HiLOGGER(HIOKI)で、K型熱電対を用いて、計測した。
【0036】
1.3 透過型顕微鏡による中島菜の細胞観察
カミソリで薄くスライスした中島菜の葉と葉柄を、AXIO Imager(ZEISS)を用いて、100〜400倍で撮影し、pixelスケールを測定した。同様にして、血球計算板(ERMA)を用いて、pixelスケールを測定し、単位換算した。複数の細胞を測定して、平均値を算出した。
【0037】
1.4 電気的処理によるACE阻害活性の変化
図1にあるように、中島菜は、他の野菜に比べ、高いACE阻害能を持っていることが知られている。また、石川県農業総合研究センターの研究により、中島菜をペースト化し、60℃で30分加熱することにより、更にACE阻害能が高まることが報告されている。そこで、以下の表に示す温度処理条件、電気穿孔処理条件で、電気穿孔処理及び湯浴加熱を施し、ACE阻害活性を測定した。また、サンプルは、−20℃で凍結保存し、凍結乾燥処理後に測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
なお、ACE阻害活性測定は、石川県農業総合研究センターが行った。以下に、その測定方法を記載する。
(1)試薬
・基質溶液:ヒプリル−L−ヒスチジル−L−ロイシン四水和物(和光純薬工業社製)10mgを、リン酸バッファー(pH=8.5)10mlに溶解した。
・酵素溶液:ウサギ肺由来アンジオテンシン変換酵素(シグマ社製)0.25Uを、リン酸バッファー(pH=8.5)10mlにて溶解した。
・抽出液:処理後、凍結乾燥を行った中島菜乾燥粉末0.25gを、リン酸バッファー(pH=8.5)10mlで振とう抽出し、濾過することにより、濾液を得た。この濾液を、リン酸バッファーで適宜希釈して抽出液とし、以下のACE阻害活性試験に供した。今回の試験では、1時間振とう抽出した。また、濾液は、4倍希釈して、活性測定用サンプルとした。
【0041】
(2)ACE阻害活性測定
試験管に、基質溶液50μl、抽出液100μlを加え、混合し、37℃で5分間プレインキュベーションした。これに、酵素溶液200μlを添加し、37℃で1時間インキュベーションすることにより、酵素反応を行った。その後、3%メタリン酸を100μl添加し、酵素反応を停止した。本酵素反応溶液を、下記に示す条件のHPLCに供し、得られた馬尿酸のピーク面積より、以下の式を基に、ACE阻害活性(%)を求めた。
【0042】
式:ACE阻害活性(%)=〔1−(B−C)/A〕×100
A=抽出液の代りにリン酸バッファーを加えたときのピーク面積(コントロール)
B=抽出液を加えたときのピーク面積
C=酵素液の代りにリン酸バッファーを加えたときのピーク面積(サンプルブランク)
【0043】
(3)HPLC分析条件
HPLC分析の条件を以下に示す。
カラム:MightysilRP−18GP 250×4.6mm(関東化学)
カラム温度:40℃
移動相A:0.01Mリン酸カリウムバッファー(pH2.8)
移動相B:100%アセトニトリル
グラジエント:0分から15分までA液80%、B液20%からA液75%、B液25%のリニアグラジエント、15分から20分までA液80%、B液20%で保持
流量:0.75ml/min
注入量:50μl
検出:UV226nm
【0044】
1.5 通電加熱
実験機器の通電加熱ユニットは、図11の通りである。周波数発生器であるFG−143にて、周波数を変更し、増幅器である4510 PRECISION POWER AMPLIFIER(NE)にて、電圧を変化させた。電流、電圧、電力の実測値は、パワーメーターである3332 POWER HITESTER(HIOKI)で計測した。また、温度は、マルチレコーダーである8421−50に接続したシール型熱電対にて測定した。電極槽は、電気穿孔ユニットと同様に、アクリル槽であり、食品衛生法に従って、板状チタン電極を用いた。液媒は、25mM NaClを用いた。
【0045】
1.6 通電加熱による昇温速度
石川県農業総合研究センターで開発されたペースト化技術では、ペースト化した中島菜を、60℃で30分加熱することで、更に、ACE阻害能が上昇すると報告されている。本実施例では、電気穿孔処理時の電極を通電加熱用とすれば、設備の縮小等の利点が多い。先に述べたように、通電加熱は、材料に直接電流を流し、その際に生じるジュール熱を利用する加熱法であるため、従来の外部加熱法に比べて、均一迅速な昇温と精密な温度制御が可能である。そこで、中島菜における通電加熱による昇温特性を、葉と葉柄について調べた。
【0046】
通電加熱により、60℃に達するまでの昇温速度を測定した。温浴加熱との比較における通電加熱条件は、表3に示す通りである。中島菜をシール型熱電対に巻き付けることによって、葉の中を流れる電流による昇温を測定した(図12)。一方、葉柄については、導管が電極と平行になるように設置し、葉柄中心部付近に挿入したシール型熱電対で昇温を測定した。
【0047】
【表3】
【0048】
1.7 周波数変化による昇温速度の違い
ダイコンにおける通電加熱処理では、周波数によって、昇温速度に違いがみられるが、ある温度からの昇温速度は、周波数に依存しないという報告がされている(文献:Imai,T.,Uemura,K.,Ishida,N.,Yoshizaki,S.,Noguchi,A(1995),Ohmic heating of Japanese white radish Rhaphanus sativus L.International Journal of Food Sceience and Technology,30,461−472)。
【0049】
また、湯浴で穏やかに30℃まで加温したダイコンと、通電加熱によって、常温(約20℃)から30℃に加熱したダイコンを、1H−NMRにて測定した結果、通電加熱を行ったダイコンのほうが、組織細胞間での水の移動が増加することから、細胞の微少な損傷が発生していると考えられている(文献:Imai,T.,Uemura,K.,Ishida,N.,Yoshizaki,S.,Noguchi,A(1995),Ohmic heating of Japanese white radish Rhaphanus sativus L.International Journal of Food Sceience and Technology,30,461−472)。
【0050】
上記報告者らは、高い周波数で、組織が示す低いインピーダンスによる高電流でのジュール熱増大よりも、低い周波数で、より長い時間、プラスマイナスの電界に晒されることによって、ダイコン細胞に電気穿孔が生じ、その結果、加速度的にダイコンの電気抵抗が低下して、より大きなジュール熱が発生すると考えており、よって、低い周波数での昇温速度増加が顕著であるとし、特定温度以上では、膜構造の熱破壊で、ジュール熱発生が周波数に関係なく一定となるために、昇温速度も一定になると解析した。この報告より、電気穿孔処理を行った中島菜は、通電加熱時に、その昇温速度が周波数に依存することなく一定となることが考えられ、以下の表に示す周波数依存性の比較における通電加熱条件、電気穿孔処理条件で、電気穿孔処理前後での中島菜の昇温速度を検討した。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
2.実験結果・考察
2.1 透過型顕微鏡による中島菜の細胞観察
中島菜の葉の細胞、葉柄の細胞を、透過型顕微鏡により細胞観察した結果、それぞれ細胞の平均半径は、葉で12μm、葉柄で41μmであった。この値を用いて、電気穿孔発生に要する電位Eを概算してみると、以下の式、
式:ΔΨ=3/2FaEcosΦ{1−exp(−t/τ)}6)
より、膜電位(ΔΨ)を1と想定して、他の値をそれぞれF(形状係数)=0〜1、cosΦ{1−exp(−t/τ)}=0〜1と置くと、膜電位(ΔΨ)が1Vを超えるために必要な電位(電圧)Eは、葉で、約513V/cm、葉柄で、約162V/cmと計算できる。しかし、細胞は、かなりの巾で大小が観察され、葉では、500〜5000V/cm、葉柄では、160〜1600V/cmが電気穿孔に必要な印加電圧と考えられた。
【0054】
2.2 電気的処理によるACE阻害活性の変化
表6に、サンプル作成条件、図13に、電気穿孔処理後の中島菜のACE阻害活性(%)を示した。中島菜は、葉、葉柄共に、ACE阻害活性を示し、電気穿孔処理後の60℃、30分加熱で、ACE阻害活性が更に増加し、電気穿孔処理の有用性が確認できた。葉と葉柄のいずれもが、加熱処理又は電気穿孔のみで、ACE阻害活性が大幅に増加している。
【0055】
【表6】
【0056】
加熱処理のみでACE阻害活性が増加する原因として、60℃という、植物にとってはかなり高温の加熱で、細胞組織の損傷が引き金となって、ACE阻害活性が生じたと考えられる。これが事実とすれば、30分の加熱でも、機能するACE阻害活性発現に関連する酵素は、ある程度の耐熱性を有すると考えられ、同時に、機能性成分の前駆体は、常温でも、関連酵素に感受性を持ち、加熱によって変性することで、更に感受性が増大し、結果として、更にACE阻害活性が増加したと考えられる。
【0057】
2.3 通電加熱による昇温速度
図14に、通電加熱時の印可電圧を、12.99V/cm、18.18V/cm、23.38V/cmに変えた場合の温度上昇を示した。印可電圧の増加につれ、昇温速度は大きくなった。現在、中島菜の加熱処理方法(外部加熱)では、多くの時間とエネルギーを必要とすることから、通電加熱は、その特徴から、均一で迅速な昇温が可能であると同時に、時間及びエネルギーを大幅に節約できると思われる。更に、精密な温度制御が可能であり、素材品質の変動を少なくなることから、高品質化にも寄与することになる。図15は、中島菜の葉と葉柄を同時に、12.99V/cm、18.18V/cm、23.38V/cmで通電加熱したものである。このグラフから、葉と葉柄の昇温速度は、ほぼ一定であり、実用に際して好都合な結果を得た。
【0058】
2.4 周波数変化による昇温速度の違い
図16、17に、未処理及び電気穿孔処理後の中島菜について、周波数を変動した場合の昇温変化を示した。未処理の、60Hz control、600Hz control、6KHz controlの中島菜では、周波数が高くなるにつれて、昇温速度が低下し、60Hz E.P.、600Hz E.P.、6KHz E.P.の電気穿孔処理では周波数依存性が消失している。これらの結果は、ダイコンを対象とした通電加熱研究を進めたImai,Tら(1995)の報告と、非常に良く一致しており、Imai,Tらは、通電加熱時に、電気穿孔の現象が発生している報告している。
【実施例2】
【0059】
1.実験方法
供試材料として、石川県農業総合研究センター内ほ場で栽培した中島菜を用いた。板状の電極、ワイヤー電極による電気穿孔処理を行った。板状の電極の場合は、5、1、0.2cm幅に切断した中島菜を、葉と葉柄に分けて、図18の装置で電気穿孔処理した。処理条件は、電極間距離1cm、印加電圧3,000V/cmにおいて、パルス回数30と99回とで比較検討した。
【0060】
ワイヤー電極の場合は、5〜10cm幅に切断した中島菜を、葉と葉柄に分けて、図19の装置で電気穿孔処理した。処理条件は、図の装置で電極間距離5cm印加電圧2,000〜2,400V/cm、ワイヤー電極移動スピード10cm/30秒において、パルス回数10、30、50回で比較検討した。中島菜のACE活性阻害能を測定するために、凍結乾燥粉末に、400mMリン酸緩衝液を加え、振とう抽出した。これに、ACEと基質を加え、37℃で1時間反応させた。その反応物の馬尿酸量をHPLCで測定し、その減少量から、ACE活性阻害能を算出した。コントロールとして、リン酸緩衝液を用いた。
【0061】
移動式ワイヤー電極を用いた通電処理装置の効果確認を行った。電気穿孔処理条件は、1回あたりの処理量を約15g、通電パルス回数を20回(電極10往復)、1区あたりの処理量を約100g(おおむね6葉程度)とし、対照として、無処理区、参考データとして、60℃30分温湯加熱区を設定した。
【0062】
また、電気穿孔処理後に通電加熱した中島菜と通電加熱のみを行った中島菜のACE活性阻害能の比較を行った。その場合、処理方法は、電気穿孔処理+通電加熱、通電加熱のみ、無処理(対照)とし、電気穿孔処理のパルス回数は30回とし、通電加熱処理は石川県立大学所有の通電加熱処理装置を用い、電極間隔10cm、最高温度60℃で15分間加熱した。
【0063】
2.結果
板状の電極の装置では、切断幅を変えた中島菜に、パルス回数99回又は30回で電気穿孔処理を行ったところ、いずれも、同程度のACE阻害能が得られた。これにより、形状が違っても、印可電圧3000V/cm、パルス回数30回でACE阻害能向上効果が得られると考えられた。なお、1回の処理量は、最大3gであった。
【0064】
ワイヤー電極の装置では、パルス回数10回相当の電気穿孔処理でACE阻害能の向上が認められた。また、1回の処理量は、25gであり、板状電極の装置の8倍以上に増やすことができた。更に、いずれの装置とも、電気穿孔処理した中島菜は、温湯加熱処理によりACE阻害能が更に向上した。これにより、ワイヤー電極の装置では、電気穿孔処理のスケールアップ化が可能と考えられた。
【0065】
通電処理(電気穿孔処理)を行った中島菜のACE活性阻害能は、無処理の中島菜より高くなっており、ワイヤー電極を用いた通電処理を行うことにより、ACE活性阻害能が向上することが確認された。その結果を、図20に示す。
【0066】
また、電気穿孔処理後に通電加熱した中島菜と通電加熱のみを行った中島菜のACE活性阻害能の比較では、60℃で15分通電加熱した場合でも、通電加熱のみよりも電気穿孔処理後に通電加熱したものの方がACE活性阻害能が高いことが確認された。その結果をまとめて図21に示す。
【実施例3】
【0067】
本実施例では、移動式ワイヤー電極で中島菜葉部を電気穿孔処理した場合の組織内の水の拡散係数の変化を調べた。
中島菜を、おおむね5cm角に切断した。1回あたり1枚を電気穿孔処理した。パルス回数は、10回(5往復)、30回(15往復)、50回(25往復)とした。1区あたりの処理量は、5cm幅分1枚とした。NMRにより水の拡散係数を分析した。NMRの測定は、ESX400(1Hの共鳴周波数400MHz)を用いた。各サンプルの中心部を、おおむね3cm角で切り出し、筒状に丸めてNMR測定管に入れ、PGSTE法により拡散時間を0.1〜1.0secまで変化させて、それぞれの拡散係数を測定した。その結果を図22に示す。
【0068】
水の拡散係数は、組織内での移動できる範囲が小さい場合(制限拡散)は、拡散時間が長くなるほど大きく減少する。図を見ると、電気穿孔処理した中島菜は、無処理の中島菜よりも拡散係数の減少幅が小さくなっており、電気穿孔処理により、中島菜組織内の水が移動できる範囲が大きくなっていること、すなわち、細胞膜の破壊が起きていること、が確認された。
【0069】
また、パルス回数30回程度までは、パルス回数が多くなるほど組織の破壊程度が大きくなるが、30回以上では、パルス回数が多くなっても組織破壊の程度はあまり変わらないものと考えられる。板状電極を用いた電気穿孔処理試験においても、ほぼ同様の結果が得られていることから、移動式ワイヤー電極を用いた場合でも、板状の電極と同様の効果が得られるものと考えられる。
【0070】
また、ワイヤー電極を用いた電気穿孔処理における通電回数の違いがACE活性阻害能に及ぼす影響を調べた。電気穿孔処理条件は、1回あたり処理量が約20g(おおむね1葉)、通電パルス回数は、上記の方法と同様として、1区あたりの処理量は約90〜100g(4葉程度)とし、各区とも2往復とした。
【0071】
電気穿孔後の処理は、通電処理した中島菜は葉部と葉柄部に分けて冷凍乾燥し、それぞれACE活性阻害能を測定した。無処理の中島菜を対照とした。その結果を、図23に示す。パルス回数10回以上(電極5往復)でACE活性阻害能の向上が認められた。
【0072】
更に、ワイヤー電極を用いた電気穿孔処理における通電回数の違いがACE活性阻害能に及ぼす影響を調べた。電気穿孔処理条件は、上記方法と同様とした。その結果を、図24に示す。加熱しないものでは、無処理の方がACE活性阻害能が高かったが5・10・15分加熱のいずれでも、電気穿孔処理したものの方がACE活性阻害能が高くなった。電気穿孔処理すると、加熱時にACE活性阻害能が向上し易くなるものと考えられる。
【実施例4】
【0073】
本実施例では、移動式ワイヤー電極を用いて中島菜を処理した。
1.ワイヤー電極
電極は、長さ6cm×φ1mmのチタン製針金をアクリル板に固定したものを2個1対で用いた。電極部分は、6cm×φ1mmとし、この部分が向かい合わせになるように、2枚1対で使用した。
【0074】
2.電極の移動装置
電極の移動装置は、次のようなものを試作した。
電極の移動距離:10cm(電極の長さと移動距離から、6cm×1cm=60cm2の面積に通電処理が可能)
電極の設置間隔:約5〜10cmで調整可能
電極の移動速度:往路は約8〜33秒/10cmで9段階に可変、復路は約13秒/10cmで固定。
【0075】
実際には、「往路動作の制御回路(電極を左に10cm移動させる。速度可変)」「復路動作の制御回路(電極を右に10cm移動させる。速度固定)+電極をホームポジションで停止させる回路(光センサーで電極の到着を感知し停止させる)」を組み合わせて、電極の移動を制御した。往路動作・復路動作は、前の動作が停止した後にボタンを押して開始するようになっているため、実際の動作の際には、動作停止からボタンを押すまでの間に若干のタイムラグが出る。
【0076】
処理水槽の容量:縦12cm×横48cm×深さ12cm(最大容量約6.9リットル、電極をすべて水没させるためには、5リットル程度水をいれる必要がある。)
処理サンプルの設置方法:中島菜を、5cm幅に切り、台所用の水切りネット中に縦5cm前後、横10cm前後、幅は電極間隔より5mm程度狭い幅に収まるように中島菜を詰め、中島菜が電極に直接接しないように、ネットを電極間にぶら下げた(電極と中島菜が接すると火花が発生するため)。中島菜入りネットが浮き上がってくる場合は、ガラス製のビー玉をおもりとして使用した。
【0077】
葉部のみ、ないしは葉部・葉柄部込みで処理する場合、6×10×4.5cm内に収めることが可能な重量は、最大で約25g程度あったことから、基本的な1回あたりの処理重量は、20〜25g程度とした。なお、検討内容によっては、より少量で電気穿孔処理を行うこともあった。なお、電極の移動装置は、試作機のため、移動速度の設定などに制限があるが、実用化に際しては、電極の移動距離・移動速度(往復とも)が任意に設定できるようにするのが望ましい。
【0078】
3.通電用の電源
最大出力15kVの直流電源に、簡易なパルス電流発生装置を組み合わせて使用した。簡易パルス電流発生装置は、一定間隔に複数の電極を取り付けたアクリル製円筒状容器の中心に、アクリル棒に電極を1本取り付けたものを設置し、アクリル棒を回転させ、内側と外側の電極が近接したときにのみ電流が流れるようにしたものである。パルス間隔は、外周部の電極の設置間隔と、回転部の回転速度で調整した。
【0079】
本実施例で試作した装置は、回転部が1周1秒〜7秒で16段階に速度を変えることができ、外周部の電極は90°間隔で4本設置してあることから、回転部を1周1秒で回転させることにより、1秒当たり5回のパルス電流を通電することができた。実際には、想定した電圧・パルス間隔で直流のパルス電流を流すことができるものであれば、パルス電流を発生させるための機構は、どのようなものでも構わない。できれば、当初検討した細胞融合用の電気穿孔処理装置のように、パルス長も任意に設定できることが望ましい。
【0080】
4.電気穿孔処理試験
電極が移動しながら部分的に通電していくことになるため、往復操作回数×2をパルス回数とみなした。試作装置で調整可能な部分については、電極間隔は5cm、電極の往路動作は13秒/10cm(復路動作とほぼ同スピード)、パルス間隔は1秒当たり5回とした。この場合、電極を1往復させる間のパルス回数は130回となる。すなわち、5×10cm2の面積をワイヤー電極が移動しながら65回のパルス通電を往復で2回行うことになるので、任意の1ヶ所に対しては、2回パルス通電することになる。
【0081】
使用した電源装置は、最高15kV出力可能なものであるが、超純水を入れ、中島菜を設置した水槽に通電した場合、最大で約12kV程度(詳しくは11600V前後)までしか電圧が上がらなかった。また、数回処理を繰り返すと、パルス電流が部分的に10kVを下回る様になった。そのため、電気穿孔処理時の印加電圧は11〜12kV(電極間5cmの場合2200〜2500V/cm)とし、10kVを下回るようになった時点で、水槽中の水を交換した。
【0082】
5.ACE活性阻害能の測定
電気穿孔処理サンプル及び無処理サンプルは、−80℃で凍結した後、真空凍結乾燥機で乾燥した。その後、各サンプルを粉砕して粉末にした。各乾燥粉末200μgに抽出用バッファ(pH8.5)8mlを加え、2時間振とうした。その後、ろ過して得られた上澄液を抽出用バッファで4倍に希釈し、測定用サンプルとした。
【0083】
測定サンプル100μlに、基質液(ヒプリル−ヒスチジル−L−ロイシン)50μlとACE酵素液200μlを加えて、37℃で1時間反応させた後、メタリン酸ナトリウム水溶液100μlを加えて反応を停止した。反応液中の馬尿酸(酵素反応生成物)の量を、HPLCで測定した。同様に、サンプル液の代わりに、抽出用バッファを加えて反応させたものをコントロールとし、「コントロールの馬尿酸量に対するサンプル反応液中の馬尿酸の減少割合」を算出して、ACE活性阻害能とした。数値が高いほど阻害能が高いことを示す。
【0084】
6.ワイヤー電極で中島菜葉柄部を電気穿孔処理する場合の処理量の影響
実験方法として、サンプリング及び1回あたりの処理量は、5cm長に切断した中島菜の葉柄部を、6本を1列に並べた状態、ないしは18本を9本ずつ2列に並べた状態でネットに入れ、試料調製に際しては、1枚の葉から5cmの葉柄部切片を3本取り、1本から必ず3つの処理(6本処理・18本処理・無処理)を行うようにし、パルス回数は30回(15往復)とし、1回あたりの処理量は、葉柄部切片36本分(約80〜90g)を1区とした。実験は2回行い、平均値を求めた。
【0085】
電気穿孔後の処理は、各サンプルをそれぞれ凍結乾燥し、ACE活性阻害能を測定した。その結果を、図25に示す。6本処理・18本処理ともに無処理よりもACE活性阻害能が上昇したが、6本処理の方がやや高い値となった。葉柄部をなるべく重ねずに処理する方が電気穿孔処理の効果は高いが、重なった状態で処理しても効果はあるものと考えられる。
【0086】
また、ワイヤー電極で中島菜葉部と電気穿孔処理する場合の重ね合わせの有無の影響を調べた。実験方法として、サンプリング方法及び処理量は、中島菜の葉部を5cm×7〜10cm程度に切断し、1枚のみないしは3枚重ねたものを台所用ネットに封入した。1枚の葉から必ず異なる2処理ないし3処理を行うサンプルを採集した。
【0087】
パルス回数は30回(15往復)として、1区あたりの処理量は約35g(所定量になるまで各条件の電気穿孔処理を繰り返した)、1反復とした。電気穿孔後の処理は、各サンプルをそれぞれ凍結乾燥し、ACE活性阻害能を測定した。その結果を、図26に示す。1枚処理・3枚重ね処理ともに無処理よりもACE活性阻害能が上昇したが、1枚処理の方がやや高い値となった。1回あたりの処理量を考えた場合、複数枚を重ねた方が効率的であると考えられる。
【実施例5】
【0088】
本実施例では、中島菜以外のアブラナ科野菜を電気穿孔処理した場合のACE活性阻害能への影響、及び電極の形状の違いによる影響について検討した。
1.中島菜以外のアブラナ科野菜を電気穿孔処理した場合のACE活性阻害能への影響について
1.1実験方法
供試材料として、津幡町内のスーパーで購入した白菜(長野県産)とチンゲンサイ(石川県産)を用いた。処理方法は、電気穿孔処理のみとし、電気穿孔処理後に、60℃、30分加熱し、無処理を対照とした。パルス回数は。50回(25往復)とした。
【0089】
1区あたりの処理量としては、幅5cm以内に設置できる量を検討した結果、1回あたりの処理量は、白菜で50g程度、チンゲンサイで23〜25g程度とした。これを複数回繰り返し、まとめて1区とした。加熱処理として、1区分をまとめて60℃の温湯中に入れ、30分加熱した後、流水中で急冷した。電気穿孔処理後の処置として、各サンプルをそれぞれ凍結乾燥し、ACE活性阻害能を測定した。
【0090】
1.2結果
上記実験の結果を表7及び図27に示す。白菜では、電気穿孔処理のみでもACE活性阻害能がわずかではあるが向上し、加熱と組み合わせることにより、更に向上した。チンゲンサイは、電気穿孔処理のみではACE活性阻害能がわずかに下がったが、加熱と組み合わせることにより大幅に上昇した。中島菜以外のアブラナ科野菜でも、電気穿孔処理と加熱処理を組み合わせることによりACE活性阻害能を向上させることが可能であり、最適な条件で処理すれば、電気穿孔処理のみでもACE活性阻害能を向上させることは可能であると考えられた。
【0091】
【表7】
【0092】
2.電極の形状の違いによる通電時の電圧の変化
2.1試験内容
最大出力15kVの直流電源に簡易なパルス電流発生装置を組み合わせた電気穿孔処理を用い、チタン製電極の形状の違いによる通電処理時の電圧の違いについて検討した。
【0093】
2.2試験方法
(1)使用した電極
1)6cm×φ1mmワイヤー電極1対(電極間隔5cm)を使用し、縦12cm×横48cm×深さ12cm処理水槽に対して超純水5リットルを用いた。
2)縦6cm×横5cm板状電極1対(電極間隔5cm)を使用し、縦5cm×横5cm×深さ6.5cm処理水槽に対して超純水180ミリリットルを用いた。
3)縦30cm×横30cm板状電極1対(電極間隔10cm)を使用し、縦14cm×横31cm×深さ30cm処理水槽に対して、超純水10リットルを用いた(水槽の形状の都合で電極の上部が水面から2cmほど出た状態で使用)。
【0094】
図28〜30に、使用した電極の写真を示す。図中、左からワイヤー電極、6cm×5cm板状電極、30cm×30cm板状電極を示す。上記1)において、6cm×5cm板状電極は、5cm間隔に設置した(図29)。また、上記Cの30cm×30cm板状電極は、間隔が10cmで固定されているものを使用した(図30)。
【0095】
(2)観察項目
1)電極を設置した処理水槽に超純水のみを入れて通電した場合の最高電圧と、2)電極を設置した処理水槽に超純水と中島菜を入れて通電した場合の最高電圧と(この際の中島菜は、おおむね5cm幅に切断したものを使用し、使用量は、水槽と電極間隔に応じて適宜量とした。)、3)上記iiの状態で通電を続けて、電圧が不安定化し始めた時の処理槽中の水の電気伝導度(通電時の電圧が単発的に10kVを下回るようになった時点を不安定化開始とした)を観察した。
【0096】
3.結果及び考察
上記実験の結果を表8及び図31に示す。中島菜を電場処理した場合の、拡散係数と拡散時間の関係を図32〜33に示す。超純水のみで通電した場合は、電極の形状の違いにより最高電圧に差が見られたが、中島菜に通電した場合の最高電圧は、電極の形状の違いによる差は僅かであった。一方、中島菜を通電処理する際に電圧が不安定になる電気伝導度は、電極の面積が大きくなるほど低くなる傾向であった。
【0097】
本実施における検討では、電極ごとに容積の異なる処理水槽を用いているため中島菜の処理量と電気伝導度を直接比較することはできないが、処理水槽の容量や電気穿孔処理の印加電圧・パルス回数が同じであれば、電極の形状が異なっても中島菜の処理量と電気伝導度の関係は同様になると推測される。
【0098】
ワイヤー電極と所定の水槽を用い、水を取り替えずに20g前後の中島菜を30回通電する処理を連続して繰り返した場合、電気伝導度が2mS/cmに到達するのは1回目処理の開始直後であり、10mS/cmには2回程度、25mS/cmには4〜5回程度通電処理を繰り返した際に到達することを確認している。このことから、電極を大きくすることにより一度に電気穿孔処理可能な量はむしろ減少すると考えられ、できるだけ簡便な電源装置で大量に中島菜の電気穿孔処理を行いたい場合には移動式ワイヤー電極を使用する必要があると考えられる。上記図32〜33の結果は、電場処理により、中島菜に孔が形成されていることを示す。
【0099】
【表8】
【0100】
図31に示されるように、実際の処理においては、印加電圧が不安定化し始めた際の電気伝導度には幅が見られており、エラーバーがその範囲を示す。幅が見られる要因としては、処理水槽中の水の電気伝導度以外に中島菜の形状・部位・組織中の細胞損傷部位や程度なども電圧の変動に影響するためと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上詳述したとおり、本発明は、電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜及びその製品に係るものであり、本発明により、組織全体を破壊することなく、ACE阻害活性が強化された有形の中島菜等のアブラナ科野菜を提供することができ、電気穿孔処理及び通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理という簡便な手段を適用することにより、ACE阻害活性を強化した中島菜等のアブラナ科野菜素材を提供することができる。また、本発明により、ACE阻害活性を強化した中島菜に関する従来の素材と比べて、中島菜等の組織全体を保ち、かつACE阻害活性が強化された中島菜等を提供することができる。本発明により、中島菜等をペースト化することなく、その形を保持した有形の状態で、ACE阻害活性を強化することができる。本発明は、中島菜等のアブラナ科野菜に電気的処理を施すだけで、そのACE阻害活性を強化することが実現でき、少量の中島菜等でも高いACE阻害活性が期待できる新しい電気化学的処理を利用したアブラナ科野菜に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与える、所定形状の電極による電気穿孔処理をした後、これを、通電加熱を利用して又は恒温水槽による湯浴加熱を利用して、所定の温度に加熱することにより、アブラナ科野菜の形を残したままACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜を得ることを特徴とする電気的処理によるアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項2】
電気穿孔処理を、板状の電極又はワイヤー電極により行う、請求項1に記載のアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項3】
アブラナ科野菜として、中島菜(Brassica campestris cultivar Nakajimana)を使用する、請求項1又は2に記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項4】
電気穿孔により、電圧が0超〜5000V/cm、パルス時間が10〜120μs、パルス付加間隔が100ms〜10s、パルス回数が1〜99回の条件で、穿孔処理を行う、請求項1から3のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項5】
通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理により、少なくとも60℃、5分加熱の条件を満たすように加熱する、請求項1から4のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項6】
上記電気穿孔処理及び通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理を、中島菜の葉、及び/又は葉柄に施す、請求項1から5のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法により、ACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜。
【請求項8】
請求項7に記載のACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜を含有する食品又は飲料。
【請求項1】
処理対象のアブラナ科野菜の組織全体を破壊することなく、組織内の個々の細胞に微小な損傷を与える、所定形状の電極による電気穿孔処理をした後、これを、通電加熱を利用して又は恒温水槽による湯浴加熱を利用して、所定の温度に加熱することにより、アブラナ科野菜の形を残したままACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜を得ることを特徴とする電気的処理によるアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項2】
電気穿孔処理を、板状の電極又はワイヤー電極により行う、請求項1に記載のアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項3】
アブラナ科野菜として、中島菜(Brassica campestris cultivar Nakajimana)を使用する、請求項1又は2に記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項4】
電気穿孔により、電圧が0超〜5000V/cm、パルス時間が10〜120μs、パルス付加間隔が100ms〜10s、パルス回数が1〜99回の条件で、穿孔処理を行う、請求項1から3のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項5】
通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理により、少なくとも60℃、5分加熱の条件を満たすように加熱する、請求項1から4のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項6】
上記電気穿孔処理及び通電加熱処理又は恒温水槽による湯浴加熱処理を、中島菜の葉、及び/又は葉柄に施す、請求項1から5のいずれかに記載の電気的処理によるACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜の処理方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法により、ACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜。
【請求項8】
請求項7に記載のACE阻害活性を高めたアブラナ科野菜を含有する食品又は飲料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図21】
【図4】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図21】
【図4】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2012−40002(P2012−40002A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158381(P2011−158381)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】
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