説明

電気素子、集積素子及び電子回路

【課題】温度較正のための煩雑な工程を必要とせず、コストを抑えることができる。
【解決手段】基板11上に、相変化物質14と、相変化物質14を加熱する発熱部13とが並列配置されている。更に、相変化物質14に光を発光部16から光導波路15を介して照射し、相変化物質14を透過した光を光導波路15を介して受光部17によって受光する。そして、発熱部13による加熱を行い、相転移温度時の受光部17によって変換出力された電気信号の変化を検出することで、相変化物質の相転移が起きたことを検出する。これにより、相転移を検出した時の発熱部13の温度に基づいて素子自身で温度較正を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度依存性を有する電気素子、集積素子及び電子回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICやLSIなどの半導体素子の生産に関して、半導体装置メーカの販売する生産設備を導入することによって半導体素子生産への参入障壁が低く、生産拠点はグローバル化している。その結果、半導体素子の価格は非常に安価なものになっている。また、半導体集積回路の製造工程を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術により、大量生産で特性の揃ったCMOSなどの半導体に組み込まれるセンサ等が数多く生産されている。現在のセンサ生産設備の主流はそのようなICやLSIの生産設備を流用している。そして、半導体集積回路の製造工程において、センサで得られる反応量を電圧などの物理量へ変換した値とする目盛付けを行うためには、センサでの反応量を基準となる計量標準に対比させて目盛付けのための温度較正が必要となる。
【0003】
ここでのセンサは温度依存性を持つセンサ、例えば温度変化を加味した測定値を出力可能な圧力センサや温度センサ等がある。この温度依存性を持つ圧力センサの温度較正は、圧力センサを検査器にセットし、検査者又はユーザが温度変化に伴って出力する圧力センサの圧力出力値を既存の圧力出力値のデータと照合することで行われている。また、温度センサには、熱電対、白金測温抵抗体、サーミスタなどがある。この中で、低価格であって広い測定範囲を持つことから汎用されている熱電対の温度センサを例として温度較正について説明する。この熱電対は異なる2種類の金属線の一端を接合した(対にした)接合部に温度を加えると両端の温度差に応じて発生する微弱な熱起電力を測定し、測定した熱起電力に対応する温度値を出力する温度センサである。つまり、このような温度センサは温度変化に対応した熱起電力を出力するものである。この温度センサが正確に温度測定を行うためには温度較正する必要がある。温度較正を行う一般的な方法としては、一定な環境下である恒温槽の中に温度センサを置き、恒温槽内の温度を変化させて温度センサの熱電対からの出力される熱起電力を測定し、測定した熱起電力を温度変化に対する熱起電力の標準値と比較する。そして、この比較値を補正値とし各温度センサの温度較正を行う。
【0004】
この熱電対の温度センサを用いて熱分析装置の温度較正を行う方法として、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1に記載の温度較正を行う方法では、既知の相転移温度を持つ温度標準物質及び熱電対の温度センサを加熱炉内に設置する。そして、加熱炉内の温度を変化させていくと、温度標準物質の融点に相当する温度付近で温度標準物質の吸熱反応が発生する。この温度標準物質の吸熱反応は熱電対のリニアな出力変化での変曲点として検出される。そして、この変曲点の出力が検出されたときの温度を融点温度である温度標準とし、その温度標準を基づいて演算した補正値で熱電対の温度値を較正する。
【0005】
温度較正を行う他の方法として特許文献2に記載のものも知られている。この特許文献2に記載の装置は、高圧高温装置内を適温になるように加熱するヒータに標準物質を直列に接続し、高圧高温装置内の温度を検出しながらヒータへの投入電力を調整する。そして、ヒータによって高圧高温装置内を加熱していき標準物質の相転移が起きたことをヒータの電気抵抗又はヒータへの電圧・電流の変化で捕え、その時の温度を検出する。そして、その時のヒータへの投入電力を基準とし、温度較正を行うものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1によれば、温度較正工程では加熱炉内に温度標準物質を搬送して行われるため、較正精度は熱電対に対する温度標準物質の位置精度に依存する。このため、較正精度を上げるためには位置精度を上げなければならず、位置精度を上げる設備投資等によって素子自体のコスト増につながってしまう。また、上記特許文献1において、温度センサを製品に組み込んだ後に温度較正を行うときは特に製品から温度センサを取り外してユーザが上記温度較正を行うこととなり、この煩雑な温度較正自体がユーザの負担となっていた。また、上記特許文献2によれば、ヒータと相変化物質とが電気的に直列に接続されているので、相変化物質の相転移による電気伝導度の変化に加え、ヒータの電気伝導度の変化も生じる。このため、相変化物質の相転移温度が検出できその温度で較正できたとしても、ヒータの電気伝導度の変化に伴う影響で温度較正の精度が低下してしまうという課題があった。
【0007】
また、いずれの特許文献でも、一定の温度に制御した恒温環境となっている温度標準を備える大規模な設備が必要となる。更に、温度センサや湿度センサなどの熱を扱うセンサの中でも高い精度が求められるような高精度なセンサは細かい温度較正を行う必要となり、汎用なセンサの温度較正に比べて煩雑な工程を必要としていた。そのため、高精度なセンサは温度標準が一定の安定した恒温環境槽内に搬送されて温度変化を細かくして温度較正を行うために長い時間を要することになり、生産効率が悪くなる。そして、それ以外の素子が簡単な電送装置や光学装置で迅速に設定が完了するのに比べ、上記高精度なセンサでは大量生産の製造工程において大量に取り扱うのにボトルネックとなっていてコストを削減することができない。このため、温度較正に要するコストが付加され、温度較正に要した温度センサ本体の価格は温度較正に要しない温度センサ本体の価格に比して数倍ないし数十倍になっている。特に精度の高いものを生産するためには精度の高い温度較正を行うため費用と、かなりの時間を要していた。
【0008】
更に、現在センサの普及は目覚しいとはいえ、このように温度較正技術の進歩が遅いため、一般の半導体素子と同じように簡単に大量に扱われるまでにはなっていない。このため、製造工程において温度較正工程自体を無くすことが最も有効である。また、高い精度を維持しようとすれば、随時簡便に温度較正を実施することが求められるが、出荷後に使用者が温度較正を実施することは実質的に困難である。電気信号でのみ駆動する一般の半導体素子と同じく、電気信号でいつでもどこでも素子自身で温度較正を行うことができる電気素子の提供が望まれている。
【0009】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、温度較正のための煩雑な工程を必要とせず、コストを抑えることができる、電気素子、集積素子及び電子回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、温度依存性を有する電気素子において、既知の相転移温度を持ち、光透過性の相変化物質を有する相変化部と、温度の変化に伴う上記相変化物質の光学特性の変化を検出し、検出した上記相変化物質の光学特性の変化によって上記相変化物質の相転移が起きたことを検出する検出部と、該検出部によって検出した相転移が起きたときの温度を既知の上記相転移温度とする温度較正を行う温度較正部と、を基板上に一体化して設けられていることを特徴とする電気素子である。
また、請求項2の発明は、請求項1記載の電気素子において、上記検出部は、上記相変化物質に光を照射する発光部と、上記相変化物質を透過した光を受光して電気信号に変換出力する受光部とを備え、上記検出部によって、上記受光部から電気信号に基づいて上記相変化物質の相転移が起きたことを検出することを特徴とするものである。
更に、請求項3の発明は、温度依存性を有する電気素子において、既知の相転移温度を持ち、光反射性の相変化物質を有する相変化部と、温度の変化に伴う上記相変化物質の光学特性の変化を検出し、検出した上記相変化物質の光学特性の変化によって上記相変化物質の相転移が起きたことを検出する検出部と、該検出部によって検出した相転移が起きたときの温度を既知の上記相転移温度とする温度較正を行う温度較正部と、を基板上に一体化して設けられていることを特徴とする電気素子である。
また、請求項4の発明は、請求項3記載の電気素子において、上記検出部は、上記相変化物質に光を照射する発光部と、上記相変化物質に反射した光を受光して電気信号に変換出力する受光部とを備え、上記検出部によって、上記受光部から電気信号に基づいて上記相変化物質の相転移が起きたことを検出することを特徴とするものである。
更に、請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化物質を加熱する発熱部を設けたことを特徴とするものである。
また、請求項6の発明は、請求項2又は4に記載の電気素子において、上記発光部から照射された光を上記相変化物質に導く光導波路を設けることを特徴とするものである。
更に、請求項7の発明は、請求項2記載の電気素子において、上記相変化物質を通過した光を上記受光部に導く光導波路を設けることを特徴とするものである。
また、請求項8の発明は、請求項4記載の電気素子において、上記相変化物質に反射した光を上記受光部に導く光導波路を設けることを特徴とするものである。
更に、請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気素子において、少なくとも上記相変化部を設けた領域の上記基板に、空洞を設けることを特徴するものである。
また、請求項10の発明は、請求項9記載の電気素子において、上記発光部から照射されて上記相変化物質に反射した光を上記受光部に導く光路は、上記空洞の壁面で反射する光路であることを特徴とするものである。
更に、請求項11の発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化物質は、国際温度目盛ITS−90に定義されている物質であることを特徴するものである。
また、請求項12の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気素子において、少なくとも上記相変化部を上記基板上に積層することを特徴とするものである。
更に、請求項13の発明は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気素子において、少なくとも上記相変化部を上記基板上に並列に配置することを特徴とするものである。
また、請求項14の発明は、請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気素子において、発熱部に離間させた箇所に上記相変化物質を分散配置したことを特徴とするものである。
更に、請求項15の発明は、請求項14記載の電気素子において、上記発熱部を蛇行配置し、蛇行状の上記発熱部に沿って上記相変化部を並列に設けたことを特徴とするものである。
また、請求項16の発明は、請求項14記載の電気素子において、上記発熱部を蛇行配置し、蛇行状の上記発熱部に沿って上記相変化部を積層に設けたことを特徴とするものである。
更に、請求項17の発明は、請求項14記載の電気素子において、上記発熱部と上記相変化部とが、同心円となるようにそれぞれ配置したことを特徴とするものである。
また、請求項18の発明は、請求項1〜17のいずれか1項に記載の電気素子において、上記発熱部と上記相変化部と間に電気絶縁材を設けることを特徴とするものである。
更に、請求項19の発明は、請求項1〜18のいずれか1項に記載の電気素子において、発熱部による温度検出範囲が上記相転移温度近傍の温度範囲内であることを特徴とするものである。
また、請求項20の発明は、請求項1〜19のいずれか1項に記載の電気素子において、溶解して合金となる複数の上記相変化物質を設け、温度上昇によって上記各相変化物質が溶解して相変化物質の合金となり、合金の相変化物質の光学特性変化を検出して合金の上記相変化物質の相転移を検出することを特徴とするものである。
更に、請求項21の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気素子において、上記相変化部は、異なる既知の相転移温度の複数の上記相変化物質を有し、上記各相変化物質の各光学特性の変化を検出して上記各相変化物質の相転移をそれぞれ検出することを特徴とするものである。
また、請求項22の発明は、請求項1〜21のいずれか1項に記載の電気素子において、少なくとも上記相変化部の周囲を絶縁材で覆う表面保護膜を形成することを特徴とするものである。
更に、請求項23の発明は、請求項1〜22のいずれか1項に記載の電気素子を複数集積したこと特徴とするものである。
また、請求項24の発明は、請求項1〜23のいずれか1項に記載の電気素子と回路素子とを集積することを特徴とする集積回路である。
更に、請求項25の発明は、請求項1〜23のいずれか1項に記載の電気素子を、温度依存性のある半導体又は電子部品と共に集積することを特徴とする電子回路である。
【0011】
本発明においては、基板上に、相変化部、検出部及び温度較正部を一体化して設けられて構成している。そして、検出部によって温度の変化に伴う上記相変化物質の光学特性の変化を検出し、検出した上記相変化物質の光学特性の変化によって上記相変化物質の相転移が起きたことを検出すると、相転移検出部によって検出した相転移が起きたときの温度を既知の相転移温度とする温度較正を行う。このように、基板上に一体化して設けられている相変化物質の相転移が起きたときの温度を既知の相転移温度とする温度較正が素子自身で行うものである。これにより、電気素子を恒温環境槽内で行う従来の温度較正工程を行う必要がなくなり、コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明によれば、温度較正のための煩雑な工程を必要とせず、コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】1つの相変化物質において時間推移における温度変化及び電気抵抗値変化を示す特性図である。
【図2】1つの相変化物質において発熱部に供給される電流に対する発熱部の温度変化及び抵抗値変化を示す特性図である。
【図3】異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する温度変化を示す特性図である。
【図4】異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する発熱部の駆動電流値変化を示す特性図である。
【図5】異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する検出リード線間の出力電圧値変化を示す特性図である。
【図6】異なる相転移温度の2つの相変化物質において印加電圧と出力電圧とから算出した抵抗値変化を示す特性図である。
【図7】異なる相転移温度の2つの相変化物質において抵抗値−温度特性を示す特性図である。
【図8】実施形態の電気素子の並列構造を示す図である。
【図9】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図10】実施形態の電気素子の積層構造を示す図である。
【図11】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図12】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図13】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す平面図である。
【図14】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図15】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図16】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図17】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図18】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図19】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図20】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図21】実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。
【図22】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図23】実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。
【図24】実施形態の電気素子を含む集積素子の構成を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
はじめに、相変化物質の相転移を用いたキャリブレーションの原理について概説する。ここでは相変化物質の相転移を検出する要因が電気抵抗値変化とした例で説明する。
図1は時間推移における温度変化及び電気抵抗値変化を示す特性図である。この例では1つの相変化物質の既知の融点をキャリブレーションに用いる例であり、この例において、図1に示すように一定の電流値の電流を供給させて相変化物質が相転移する温度(融点(凝固点):Mp)になると吸熱反応が生じる。相変化物質が個体であれば温度が上がっていくと相転移温度にて液体となりはじめ、全てが液体となる期間は相転移温度を維持し、全てが液体となった以降は再び温度が上昇する。そのため、発熱部の電気抵抗値において不連続な傾向が出現する。この発熱部の電気抵抗値R2のときの温度が相転移温度と判定できる。つまり、この電気抵抗値R2となったときが相転移温度となったことに相当する。相転移温度と電気抵抗値との関係が1対1の関係となり、この関係を用いることによりキャリブレーションを行うことができる。
【0015】
なお、発熱部の熱容量を小さくし、相変化物質は薄く、かつ均一な温度領域に形成することにより、相変化の時点をより正確に検出できる。具体的には、図1に示すように、相変化物質が固体から液体へ相転移すると、相変化物質が吸熱反応を示し、相変化開始から終了まで温度が変化しないので温度が維持され、発熱部の電気抵抗値の増加傾向が抵抗値の平行状態へ変化する現象として検出される。電気抵抗値の時刻T0から時刻T1の推移はデータとして記憶され、抵抗値と時間の関数として演算される。この関数と時刻T1後に得られるデータを比較し、時刻T2で関数にフィットしないデータが生じれば相転移し、この時既知の相転移温度Mpであると判断する。特に基板に空洞部を形成した熱容量の小さい相変化物質と発熱部の構造であれば、T2=0.1から10[msec]の時刻で、迅速かつ顕著な特性として得ることができる。例えば、後述する図14の発熱部や相変化物質の蛇行配置構造において、発熱部と相変化物質が形成されている箇所の寸法が厚さ2[μm]で100[μm]角、相変化物質がSnで231.928℃の相転移温度であれば、1[msec]で温度標準が得られ、寸法をより一層小さくするとより一層高速にできる。このように、図1に示すように、発熱部の電気抵抗値R2が既知の温度Mpであって、発熱部の既知の抵抗温度係数TCRを用いることによって、発熱部に対しジュール発熱させないように微弱の電流を供給して、発熱部の電気抵抗値を素子の環境温度の検出として用いることができる。なお、後述する複数の異なる相転移温度を得る構造であれば、発熱部の既知の抵抗温度係数TCRを用いずに、未知の抵抗温度係数TCRを導き出すことができる。なお、実施形態において相変化物質はある温度で相転移する物質であればよい。特に、高精度に温度が決められている国際温度目盛として定められる温度を示す物質を用いれば高精度にキャリブレーションできるので、その物質としてはIn、Snなどがある。
【0016】
図2は発熱部に供給される電流に対する発熱部の温度変化及び抵抗値変化を示す特性図である。図2に示すように、相変化物質が固体又は液体から気体へ既知の温度(昇華点又は沸点:Bp)で相転移するので、相変化物質が蒸散して発熱部の熱容量が相変化物質の分減少する。発熱部の熱容量の減少は発熱部の温度(電気抵抗値)を一定割合で増加させている発熱部へ供給する電力量(電気抵抗値)の推移において電流値を増加させ、沸点Bpに達した時に相変化物質が相転移する。熱容量が変化し電気抵抗値は不連続な特性として現れ、この不連続点が既知の沸点Bpである。図1と同様に、発熱部に対しジュール発熱させないように微弱の電流を供給して、発熱部の電気抵抗値を素子の環境温度の検出として用いることができる。
【0017】
次に、複数の相変化物質のそれぞれの既知の相転移温度を用いたキャリブレーションの原理について概説する。なお、以下では2つの相変化物質を用いた例で概説するものとする。
【0018】
図3は異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する温度変化を示す特性図である。同図に示すように、発熱部への電流供給を一定の割合で増加していくことによって、時刻T2で相変化物質Aが相転移する温度(相変化物質A固有の既知の値である融点(凝固点):Mpa)になる。更に、電流を供給し続け温度を上昇させると、時刻T4で相変化物質Bが相転移する温度(相変化物質B固有の既知の値である融点(凝固点):Mpb(>Mpa))になる。なお、これらの素子は、相変化物質を相転移させるのに発熱部を用いず、従来のように素子の環境温度を温度制御することによっても、図3に示す相変化物質の相転移を検出し、既知の温度であることが決定できるので、従来のキャリブレーション設備ほど高精度の温度標準設備でなく空間温度分布のある温度制御精度の低い設備を用いた方法によっても、個々の素子の相変化物質の相転移を検出し、高精度にキャリブレーションできる。そして、所定の抵抗温度係数を有する発熱部をジュール発熱させないように十分小さな電流値を印加し、発熱部の抵抗値を検出することによって、個々の素子の発熱部を温度検出器として用い高精度にキャリブレーションできる。
【0019】
なお、少なくともMpa≠Mpbであればよい。また、異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する発熱部の駆動電流値変化を示す特性図である図4に示すように、出力電圧値を測定し抵抗値に変換してRの偏曲点(多くはΔR=0)が2回出現する期間、時刻T0から時刻T4まで、電流値を増加させる。抵抗値の時間微分値ΔRについて、時刻T0から時刻T1のΔRを記憶し、時刻T2後のΔRと比較する。固体から液体へ相転移を完了するまでは吸熱反応によって印加電力を増しても温度の上昇はなくΔR=0であるので、時刻T2において所定の相変化物質Aは既知の相転移温度Mpaになったと判断できる。同様に、時刻T4において所定の相変化物質Bは既知の相転移温度Mpbになったと判断できる。これによって、図5に示すように、発熱部(ヒータと温度検出部との兼用)の時刻T2における供給電流値と出力電圧値Va、すなわち図6に示す抵抗値Raが温度Mpaの時の値である。また、時刻T4における供給電流値と出力電圧値Vb(図5参照)、すなわち抵抗値Rb(図6参照)が温度Mpbの時の値であることがわかり、発熱部の温度依存性(抵抗値の温度キャリブレーション)を温度と抵抗値の関数として近似する。また、図5に示すように、時刻T5、時刻T6において、測温抵抗体と同じく自己発熱させないように微小な定電流Isを供給することによって、図6に示すように、抵抗値V5/Is及び抵抗値V6/Isを検出し、先の温度と抵抗値の関数を用い、温度C5、温度C6として算出する。図6の破線に示す周囲温度が測定できる。
【0020】
このように、2つの異なる相変化物質がそれぞれ異なる相転移温度の物質であることにより、発熱部の温度が2つの異なる温度になったときにキャリブレーションすることができる。これにより、高精度の温度目盛が付与できる。なお、発熱部の温度依存性(抵抗値の温度キャリブレーション)が求まるので、未知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いることができるし、発熱部の材料が予め既知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いると図7の抵抗値−温度特性が更に精度が高くなる。例えば、発熱部にPtを用いると、
発熱部の抵抗値R(Ω)と温度S(℃)の温度依存性は以下の式(1)で表すことができる。
R=R0×(1+α・S)・・・・(式1)
【0021】
なお、温度係数(TCR)αは3.9083E−03(0℃〜850℃)であって、これに相変化物質Aが例えばInでMpa=156.5985℃のRa、相変化物質Bが例えばSnでMpb=231.928℃のRbにより、温度係数αの補正を行えばさらに精度が高く、0℃〜850℃では線形なので、MpaからMpbまでの範囲以外の温度領域でも精度が確保される。ちなみに、図面では相転移温度が異なる相変化物質の2種類を示しているが、非線形の温度依存性である場合はより多くの異なる既知の相転移温度が必要であって、図面上の相変化物質の種類を増やせばよい。また、相変化物質が相転移したことを検出する要因が電気抵抗値変化とした例で説明したが、その他の相変化物質が相転移したことを示すものとして、体積、応力、質量、熱容量、固有振動数、誘電率、粘性、光透過率、光反射率、光吸収率等がある。
【0022】
次に、実施形態の電気素子の構造について説明するが、1つの相変化物質を用いてその相変化物質の光学特性変化を検出した例で説明する。
金属薄膜が加熱されて空気中の酸素によって酸化され色が変化するので、反射率の変化として検出できる。普通は徐々に酸化が進行するが、加熱ヒータは急速に所定の温度に到達するので、狭い温度範囲での反応として精度よく酸化温度が決定される。透過特性、反射特性、吸収特性等の光学特性が温度に依存して可逆的に変化できる物質である酸化バナジウムのサーモクロミック調光物質は、調光温度を元素添加などにより必要に応じて室温付近に精密に設定することができる。サーモトロピック液晶であって相転移温度が40℃から50℃のMBBA(Methoxy benziliden p-butyl aniline)は、液晶相と液体相とで光学的特性が異なる。これらは、光導波路と光学検出器を配置することによって検出できる。これらの光学特性に関する変化を検出することによって、既知の温度を温度標準に用いることができる。以下、相変化物質の光学特性の一つである光透過性を例としての概略を説明すると、相変化物質は光学的に透明な非結晶と光学的に不透明な結晶との間の相転移を行う物質であって、発光部へ電力を供給し発光させ、光導波路を通じて発熱部に近接させて配置した相変化物質へ光を導く。そして、相変化物質の透明性に応じて、相変化物質から光導波路を通じて受光部で発光部からの光量を検出し、受光部の検出リードにより電気信号として取り出すのである。
【0023】
図8は実施形態の電気素子の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図8に示す電気素子において、図8の(a)に示すように、基板11上に発熱部13を積層する。更にリード12が接続されている発熱部13に離間して相変化物質14が2つの光導波路15間に並列配置されている。また、一方の光導波路15にはこの一方の光導波路15内に光を照射する発光部16が、他方の光導波路15には一方の光導波路15、相変化物質14及び他方の光導波路15を通ってくる光を受光する受光部17がそれぞれ配置されている。発光部15には発光部15に電流を供給するリード18が接続されている。また、受光部16には受光部16が受光した光量を変換した電気信号を検出する検出リード19が接続されている。そして、発熱部13の加熱によって、相変化物質14の相転移温度で結晶性が変化する状態を、相変化物質14の光透過性として発光部16から照射された光を一方の光導波路15を介して相変化物質14に導入し他方の光導波路15を通った光を受光部17で検出する。よって、上述した原理に基づいて光導波路を通過した光の光量を出することで相変化物質14の相変移温度となったことを検知できる。なお、上述したように、本実施例では相変化物質の透過性変化によって相転移を検出した例であるが、それ以外の光学特性についても入射する光が相変化物質14の相転移に伴い、透過または吸収される状態から反射される状態への変化を検出する構成になっても可能である。光導波路15はSiO等の透明材料であって、各リードはAl、Au、または発熱部13と同一のPt、NiCrやSiなどの金属ないし導電性材料から成っている。
【0024】
図9は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図8と異なる図9の電気素子は、発熱部13及び相変化物質14を配置している領域以外を、電気絶縁層20をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞21を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質13も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質14と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。これらの製造方法は、基板11上に、導電性物質の基板であれば電気絶縁層20を積層した後、導電性の電気抵抗物質を薄膜状に蒸着やスパッタリングによって積層し、リード12、検出リード19や発熱部13として半導体微細加工のフォトエッチング技術によってパターン加工する。そして、相変化物質14を、積層された相変化物質が導電性物質あれば電気絶縁層20を介して積層した後、相変化物質14を発熱部13に対応する領域にパターン加工する。基板11上に空洞21を設ける構造においては、発熱部13と相変化物質14の領域周辺に対向する基板となる部位をエッチング除去する。この空洞21によって大きな熱容量の基板の影響を小さくし、小さな熱容量の発熱部13及び相変化物質14の構造が得られ、高速に所定の温度に調節することができる。
【0025】
図10は実施形態の電気素子の積層構造を示す図である。同図において、図9と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図に示す積層構造の電気素子は、図9の並列構造の電気素子と異なり、光導波路15上に相変化物質14が積層されている。このような積層構造を有する電気素子によれば、発熱部13の加熱によって、相変化物質14の相転移温度で結晶性が変化する。一方、発光部16から照射された光を一方の光導波路15を介して他方の光導波路15を通った光が受光部17で検出する際光導波路15から光が染み出る。この染み出た光は、光導波路15に接する相変化物質14で反射、かつ屈折される。そして、相変移に至った相変化物質14の結晶性が変化するため、光導波路15と相変化物質14との境界部分での反射率や屈折率が変化する。これにより、受光部17で受光する光の光量が変化する。よって、上述した原理に基づいて光導波路を通過した光の光量を出することで相変化物質14の相変移温度となったことを検知できる。
【0026】
図11は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図10と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図に示す積層構造の電気素子は、図10の積層構造の電気素子と異なり、光導波路15に隣接して相変化物質14が並列配置されている。このような並列構造を有する電気素子によれば、発熱部13の加熱によって、相変化物質14の相転移温度で結晶性が変化する。一方、発光部16から照射された光を一方の光導波路15を介して他方の光導波路15を通った光が受光部17で検出する際光導波路15から光が染み出る。この染み出た光は、光導波路15に接する相変化物質14で反射、かつ屈折される。そして、相変移に至った相変化物質14の結晶性が変化するため、光導波路15と相変化物質14との境界部分での反射率や屈折率が変化する。これにより、受光部17で受光する光の光量が変化する。よって、上述した原理に基づいて光導波路を通過した光の光量を出することで相変化物質14の相変移温度となったことを検知する。
【0027】
図12は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。同図において、図11と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。相変化物質が表面に露出している構造において、金属材料など酸化しやすい相変化物質の場合に、周囲雰囲気によって金属酸化物に変化して、相転移温度が変化する。また、相変化物質が液化する場合は流動変形によって、温度分布が変わるので、これらはキャリブレーションを繰り返すと再現性が得られない。そこで、図12の電気素子においては、相変化物質14が周囲雰囲気によって化学変化するのを防止するために相変化物質14と共に光導波路15を周囲雰囲気に接しないように電気絶縁層22でパッシベーションする。電気絶縁層22には、SiO、Si、Al等の耐熱性の電気絶縁材料が適している。発光部16から照射された光を一方の光導波路15を介して他方の光導波路15を通った光が受光部17で検出する際光導波路15から光が染み出る。この染み出た光は、光導波路15に接する相変化物質14で反射、かつ屈折される。そして、相変化物質が不透明な金属材料であっても、反射率の小さい多結晶表面の固体と、反射率の大きい平滑な表面の液体との相変化において、光導波路15と相変化物質14との境界部分での反射率や屈折率が変化する。そして、金属材料である、国際温度目盛の定義定点を用い高精度にキャリブレーションする場合には、標準気圧下(10.1325Pa)にて物質の凝固点(融点)を検出する必要がある。この場合、耐熱性の電気絶縁層を被覆した剛性を有する構造によって、耐熱性の電気絶縁層の内部は一定圧力に維持されているので、周囲雰囲気の気圧が変化しても影響を受けず精度が高くなる。
【0028】
図13は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す平面図である。同図において、図12と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図に示す電気素子は、同一の基板11上に、発熱部13、相変化物質14及び光導波路15等を並列配置したユニットを複数設けて一体化したものである。このような構成によれば、一方のユニットにおけるキャリブレーションによる精度保証期間が終了したら、他方のユニットのキャリブレーションを行い、精度保証期間を長期間に渡って実現できる。
【0029】
図14は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図12と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図において電気絶縁層20の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞17の領域に、空洞17と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた電気絶縁層12に、リード12が接続された発熱部13を蛇行配置させ、更に発熱部13に離間させて光導波路15上に相変化物質14を積層させている。そして、相変化物質14上に設けられた各相変化物質14の一端には発光部16が、他端には受光部17がそれぞれ配置されている。なお、各検出リード18はそれぞれ電気的に絶縁されている。よって、既知の相転移温度になると、蛇行配置とした発熱部13と、発熱部13に並列して蛇行配置とした相変化物質14を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。なお、図14に示す電気素子は、発熱部13に相変化物質14を並列させた構造であるが、発熱部13に相変化物質14を積層させた構造でもよい。
【0030】
図15は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図、同図の(c)は同図の(a)のB−B'線断面図である。同図において、図14と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。また、同図の(a)において電気絶縁層22の表記は省略されている。同図に示す電気素子は、基板11の空洞21の領域に、空洞21と周囲雰囲気とが通気する一部開口領域を設けた円形の電気絶縁層12を同心円とする発熱部13を円周配置し、更に発熱部13の内側に離間して光導波路15を、そして光導波路15上に相変化物質14を積層し、最上層に電気絶縁層22で被覆した集積構造を有している。なお、各リード18及び検出リード19はそれぞれ電気的に絶縁されている。このような同心円配置とした発熱部13と、発熱部13に並列して同心円配置とした相変化物質14を、局所に高密度に集中配置し、温度分布を均一にさせ、効率良く高精度にキャリブレーションできる。なお、図15に示す電気素子は、発熱部13に離間して相変化物質14を並列させた構造であるが、発熱部13上に電気絶縁層を介して相変化物質14を積層させた構造でもよい。
【0031】
次に、2つの相変化物質を用いてその相変化物質の光学特性変化を検出する実施形態の電気素子の構造について概説する。
図16は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図である。同図において、図8と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。図16に示す電気素子は、温度検出部を兼用する発熱部に相変化物質31と相変化物質32が並列配置されている。相変化物質31、32を発熱部で加熱し、相変化物質31と相変化物質32は既知の異なる温度で光学的に透明な非結晶と光学的に不透明な結晶との間の相転移を行う物質である。光学検出手段としての受光部17−1、17−2で相転移を検出し、また発熱部13により温度検出するしくみである。相変化物質31,32は平行に隣接した発熱部13によって、相変化物質31、32は既知の温度で光学的に透明な非結晶と光学的に不透明な結晶との間の相転移を行う物質であって、相転移を検出するにあたり、相変化物質31、32への光の入出を光導波路15−1、15−2をそれぞれ介し、発光部16−1、16−2、受光部17−1、17−2としてフォトダイオードが形成されている。発光部16−1、16−2へVaをそれぞれ印加し、発光部16−1、16−2から相変化物質31、32へ光をそれぞれ導く。そして、相変化物質の透明性に応じて、発光部16−1、16−2からの光量を受光部17−1、17−2でVrを出力することによって、相転移を判定する。発熱部13にIhの電流を印加し、発熱部13を発熱させ相変化物質31、32を既知の温度で相転移させる。相転移時の発熱部13の電流Ihと電圧Vhを測定し、抵抗値を算出し、発熱部抵抗値を温度へキャリブレーションすることにより発熱部を温度検出部として用いる。相変化物質の相転移温度で結晶性が変化する状態を、一方から入射光を導入し他方から出射する光透過性を検出する仕組みであるが、入射する光が相転移に伴い透過または吸収される状態から反射される状態に変化するのを検出する仕組みも可能である。光導波路15−1、15−2はSiO等の透明材料であって、各リードはAl、Au、または発熱部と同一のPt、NiCrやSiなどの金属ないし導電性材料から成っている。
【0032】
具体的には、図16に示すように、基板11上に発熱部13を積層する。更にリード12が接続されている発熱部13に離間して相変化物質31が2つの光導波路15−1間に並列配置されている。また、一方の光導波路15−1にはこの一方の光導波路15−1内に光を照射する発光部16−1が、他方の光導波路15−1には一方の光導波路15−1、相変化物質16−1及び他方の光導波路15−1を通ってくる光を受光する受光部17−1がそれぞれ配置されている。発光部15−1には発光部15−1に電流を供給するリード18−1が接続されている。また、受光部16−1には受光部16−1が受光した光量を変換した電気信号を検出する検出リード19−1が接続されている。更には、発熱部13に離間して相変化物質32が2つの光導波路15−2間に並列配置されている。また、一方の光導波路15−2にはこの一方の光導波路15−2内に光を照射する発光部16−2が、他方の光導波路15−2には一方の光導波路15−2、相変化物質16−2及び他方の光導波路15−2を通ってくる光を受光する受光部17−2がそれぞれ配置されている。発光部15−2には発光部15−2に電流を供給するリード18−2が接続されている。また、受光部16−2には受光部16−2が受光した光量を変換した電気信号を検出する検出リード19−2が接続されている。
【0033】
図16の電気素子によれば、発熱部13と相変化物質31、32が極近接し伝熱も均等になり、熱容量も小さく、迅速にキャリブレーションが完了し高精度の温度検出が可能になる。なお、相変化物質31、32が導電性材料あれば電気絶縁層を介して積層した後、相変化物質31、32を発熱部13に対応する領域にパターン加工する。また、基板11がSiであれば、周辺回路を集積しやすい。例えば、バルクシリコン構造のSi基板を用いる場合は、発熱部の材料や相変化物質がSi基板を介して導電しないように、Si基板を熱酸化させることにより表面にSiOを形成するか、Si基板上にCVDやスパッタリングによりSiO、Si、Al等の単層または複層の電気絶縁層を形成する。次に、電気絶縁層上にCVDやスパッタリングによりSi、Pt、NiCr等の発熱部の材料を積層し、フォトエッチングによりパターン形成し発熱部13として配置する。更に、相変化物質31、32をCVDやスパッタリング及び各種薄膜製造方法によって成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。なお、Si基板、電気絶縁層や電気絶縁層上に形成したSiをCMOS素子構造に用いることにより、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。また、SOI(Si On Insulator)構造のSi基板を用いる場合は、BOX層を電気絶縁層とし、SOI層をフォトエッチングによりパターン形成し発熱部として配置する。次に、表面に電気絶縁層を被覆後、電気絶縁層上にCVD、スパッタリングやゾルゲル法など各種薄膜製造方法によって相変化物質を成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。また、基板、BOX層やSOI層をCMOS素子構造として用いることにより、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。
【0034】
図17は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図16と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図16と異なる図17の電気素子は、発熱部13及び相変化物質31、32を配置している領域以外を、電気絶縁層20をマスクとして基板11上にエッチングにより空洞21を設けたものである。このような構造としたことにより、発熱部13を基板11と低熱容量の空間によって断熱性を高め、発熱部13の熱容量を小さくできる。積層した相変化物質31、32も発熱部13と近接し微小量なので、発熱部13とほぼ同じ温度になり、温度分布も均一になる。これによって、相変化物質31、32と発熱部13は迅速な温度制御が可能になるため、高精度のキャリブレーションが迅速に完了できる。
【0035】
図18は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図17と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線断面図である。図17と異なる図18の電気素子は、発光部16−1、16−2と受光部17−1、17−2との間に光導波路を介さずに相変化物質31、32を並列配置している。これにより光導波路を介さずに相変化物質へ光の入出が直結でき、より一層精度が良くなる。
【0036】
図19は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図である。また、同図の(c)は平面図、同図の(d)は同図の(c)のB−B'線断面図である。既知の相転移温度で相転移する各相変化物質は、互いに接触していると相互に拡散し新たな合金や化合物に変化し相転移温度が変化してしまう。そのため、異なる相転移温度の複数の相変化物質を互いに分離させて形成する必要があった。ところが、各相変化物質からなる合金が既知の相転移温度を有することがわかっていれば、各相変化物質を互いに接触させて新たな合金や化合物を形成させておいてもよい。例えば、一方の相変化物質にInを、他方の相変化物質BにSnをそれぞれ選択し、In−Sn合金を形成させ、InとSnの混合比率により融点(凝固点)は2元合金の状態図を参照することにより得られる。そこで、当初から合金を作成しておいてその合金を単独の相変化物資として上述のように集積してもよいが、図19の(a),(b)に示すように、相変化物質31上に相変化物質32を積層しておくことでもよい。つまり、例えばInとSnの任意の混合比率を形成する電気素子の構造としては、基板11上に発熱部13を積層し、発熱部13上に相変化物質31と相変化物質32とを積層配置している。なお、最上層として電気絶縁層で全体をパッシベーションしてもよい。そして、温度較正を行う際、あるいは事前に、発熱部13によって相変化物質31と相変化物質32とを積層したものを、2つの相変化物質の融点のうち高い融点まで加熱して各相変化物質を溶解し、図19の(c)、(d)に示すように相変化物質31と相変化物質32の合金である相変化物質33を生成する。なお、積層厚みの比率により、2つの相変化物質の混合比率が決まるので、2元合金の状態図を参照し相転移温度が設定できることになる。これにより、異なる相転移温度の2種類の相変化物質であっても、更に多数の相転移温度を得ることができる。
【0037】
図20は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のA−A'線断面図である。また、同図の(c)は平面図、同図の(d)は同図の(c)のB−B'線断面図である。同図に示す電気素子において、相変化物質31と相変化物質32とを交互に接触させて隣接配置する。そして、温度較正を行う際、あるいは事前に、発熱部13によって相変化物質31と相変化物質32とを交互に隣接配列したものを、2つの相変化物質の各融点のうち高い融点まで加熱して各相変化物質を溶解し、図20の(c)、(d)に示すように相変化物質31と相変化物質32の合金である相変化物質33を生成する。相変化物質31と相変化物質32とを配置する面積の比率により、2つの相変化物質の混合比率が決まるので、2元合金の状態図を参照し相転移温度が設定できることになる。これにより、異なる相転移温度の2種類の相変化物質であっても、更に多数の相転移温度を得ることができる。
【0038】
図21は実施形態の電気素子の別の並列構造を示す図である。同図において、図18と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は同図の(a)のB−B’線断面図である。図18と異なる図21の電気素子は、基板面に対して垂直に光が出入射する発光部16と受光部17を配置した並列構造を有している。また、基板表面の電気絶縁層20のパターンをマスクとして、基板の構造に依存する速度の異方性エッチングにより、鏡面状の平面を有する空洞21の壁面が形成されている。Si(100)面単結晶基板であればKOH(水酸化カリウム)、TMAH(テトラメチルアンモニアハイドロオキサイド)等のアルカリ性エッチャントを用い、基板11に所定の角度54.7度の(111)結晶面の鏡面状の平面を有する空洞21の壁面を形成する。相変化物質14の相変化、特に光反射率の変化を検出するために、図21の(b)に示すように、発光部16と受光部17間を結ぶ光路(図中点線で示す)で、基板の54.7度の(111)面の空洞21の壁面に張り出した架橋部の電気絶縁層20上に、発光部16と受光部17を配置する。図21の(b)に示す発光部16の裏面から垂直に出射された光が、54.7度の空洞21の壁面、そして空洞21の底面と反射され、相変化物質14の面で反射され、再び空洞21の底面、そして空洞21の壁面で反射され、受光部17へ入射する。この光学系においては、空洞部の深さ、相変化物質の配置箇所、発光部と受光部の位置や距離を設計することにより、同一の基板に一体化することで、光の伝導ロスを少なくし、精度よく相変化物質の相変化に伴う反射率の変化を検出でき、効率良く高感度に温度を測定することができる。
【0039】
図22は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図21と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は裏面の平面図、同図の(c)は同図の(a)、(b)のB−B’線断面図である。図21と異なる図22の電気素子は、基板の裏面から空洞部を貫通させたものである。同図の(c)に示すように、貫通空間23には基板に所定の角度の壁面が形成される。基板裏面の電気絶縁層パターンをマスクとして、基板裏面から、基板の構造に依存する速度の異方性エッチングにより、Si(100)面単結晶基板であればKOH(水酸化カリウム)、TMAH(テトラメチルアンモニアハイドロオキサイド)等のアルカリ性エッチャントを用い、基板に所定の角度54.7度の(111)結晶面の鏡面状の平面を有する貫通空間23の壁面が形成される。図22の(c)に示すように、相変化物質14の相変化、特に光反射率の変化を検出するために、発光部16と受光部17間を結ぶ光路(図中点線で示す)であって、表面の相変化物質14の位置を挟んだ平行位置で、基板裏面の空洞に張り出した電気絶縁層20上に、発光部16と受光部17を配置する。発光部16の裏面から垂直に出射された光が、貫通空間23の壁面で反射され、相変化物質14の面で反射され、再び貫通空間23の壁面で反射され、受光部17へ入射する。この光学系においては、基板の厚さ(空洞部の深さ)、相変化物質の配置箇所、発光部と受光部の位置や距離を設計することにより、同一の基板に一体化することで、光の伝導ロスを少なくし、精度よく相変化物質の相変化に伴う反射率の変化を検出でき、効率良く高感度に温度を測定することができる。
【0040】
図23は実施形態の電気素子の別の積層構造を示す図である。同図において、図22と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。同図の(a)は平面図、同図の(b)は裏面の平面図、同図の(c)は同図の(a)、(b)のB−B’線断面図である。図22と異なる図23の電気素子における空洞21の平面は、同心円に対峙する裏面の位置を中心とし、横切りした半ドーナツ型で抜いた(半円の円環抜き型形状の)曲面形状をなしている。基板裏面の電気絶縁層のパターンをマスクとして、基板の構造に依存しないどの方位に対しても等速度の等方性エッチングにより、Si単結晶基板であれば酸化剤を添加したフッ化水素酸を用いることにより、基板に鏡面状の曲面を有する空洞21の壁面が形成される。なお、このままであると、ドーナツ形状の中心の基板の一部(芯)は表面と接し、伝熱し熱容量が大きくなってしまうので、表面の同心円の中心位置にある孔からエッチングによって基板との伝熱を低減させる間隙24を設ける。図23の(a)に示すように、同心円の中心位置に対峙する基板裏面位置に発光部16を配置する。図23の(c)の点線で示すように、ドーナツ形状の中心に配置した発光部16から出射された光が、このドーナツ形状の内周の空洞21の壁面で反射され、相変化物質14の面で反射され、再び外周の空洞21の壁面で反射され、外周の空洞21の壁面に沿って同心円に配置された受光部17へ入射する。この光学系においては、基板の厚さ(空洞部の深さ)、相変化物質の配置箇所、発光部と受光部の位置や距離を設計することにより、同一の基板に一体化することで、光の伝導ロスを少なくし、精度よく相変化物質の相変化に伴う反射率の変化を検出でき、効率良く高感度に温度を測定することができる。
【0041】
図24は実施形態の電気素子を含む集積素子の構成を示す概略平面図である。同図に示す集積素子は、実施形態の電気素子1、電気素子1の電力供給や検出等を担う電子回路40、上位装置との信号のやり取りを行うための信号の入出力用の入出力端子群50を含んで構成されている。つまり、同図の集積素子は、温度キャリブレーション機能と温度検出を集積化させた素子であって、電気素子1、電子回路40及び出入力端子群50からなる。電子回路40には、インターフェイス、制御回路、レジスタ、ΔΣA/D、発信回路などを含んでいる。また、出入力端子群50には、アドレス、GND、クロック入力、データ入出力、アドレス入力、電源の各端子を備えている。そして、端子電気絶縁性材料のガラスやセラミックからなる基板上に、Si、Pt、NiCr、SiC,Cなどの導電性材料からなる電力供給用の1組のリードとリード先端の発熱部とを配置し、発熱部上に相転移温度が互いに異なる相変化物質を離間させて積層する。なお、2つの相変化物質導電性材料あれば電気絶縁層を介して積層した後、各相変化物質を発熱部に対応する領域にパターン加工する。また、基板がSiであれば、周辺回路を集積しやすい。例えば、バルクシリコン構造のSi基板を用いる場合は、発熱材料や相変化物質がSi基板を介して導電しないように、Si基板を熱酸化させることにより表面にSiOを形成するか、あるいはSi基板上にCVDやスパッタリングによりSiO、Si、Al等の単層または複層の電気絶縁層を形成する。次に、電気絶縁層上にCVDやスパッタリングによりSi、Pt、NiCr等の発熱材料を積層し、フォトエッチングによりパターン形成し発熱部として配置する。更に、各相変化物質をCVDやスパッタリングや各種薄膜製造方法によって成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。なお、Si基板、電気絶縁層や電気絶縁層上に形成したSiをCMOS素子構造に用いることにより、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。また、SOI(Si On Insulator)構造のSi基板を用いる場合は、BOX層を電気絶縁層とし、SOI層をフォトエッチングによりパターン形成し発熱部として配置する。次に、表面に電気絶縁層を被覆後、電気絶縁層上にCVD、スパッタリングやゾルゲル法など各種薄膜製造方法によって相変化物質を成膜、フォトリソグラフによってパターン形成する。また、基板、BOX層やSOI層をCMOS素子構造として用いることにより、同一のチップ内に周辺回路を形成し集積することができる。
【0042】
なお、発熱部13はリード12よりも厚みが薄い、あるいは幅が細くなっているので電気抵抗値が大きく、電流を供給してジュール発熱させることができる。リード12の末端から電流を供給することによって発熱部13がジュール発熱によって温度上昇し、積層した相変化物質14、31、32も発熱部13と近接し微小量なので発熱部13とほぼ同じ温度になる。
【0043】
これらは、異なる相転移温度の複数の相変化物質を、発熱部によって相転移させる温度へ加熱し、それぞれの相転移を検出することによって温度検出部を既知の温度としてキャリブレーションする仕組みである。相変化物質は、狭い温度範囲を再現性良く高い精度で相転移するものである。また、相転移前後において、温度、電気抵抗値、体積、応力、質量、熱容量、固有振動数、誘電率、透過率、または反射率いずれかの変化を伴うが、その変化を検出することができる物質である。更に、高精度にキャリブレーションするためには、相変化物質は、利用する温度に近い相転移温度を有するものであって、狭い相転移温度の特性を持つ金属、酸化物、有機物質が好ましい。
【0044】
なお、より高精度な温度検出を得るためには、国際温度目盛り(ITS-90)に示されている標準物質の凝固点を用い、温度検出範囲に対してできるだけ相転移温度が近いことが好ましく、例えば、一般電子機器に用いられているIC温度センサの温度検出範囲である−40から+125℃であれば、相変化物質AにIn(Mpa=156.5985℃)相変化物質BにSn(Mpb=231.928℃)を選択し、発熱部、温度検出部の物質として、−40から+232℃の範囲で、電気抵抗値の温度依存性において2次以上の抵抗温度係数が小さく、目的の温度検出値の精度に影響を与えない線形の特性を持つ、Ptが適する。キャリブレーションポイントはMpaとMpbの2点であるが、それ以上の数であってもよく、発熱部の材料が高温度で安定したPtやSiであれば、Zn:419.527℃、Al:660.323℃、を用いることによって、さらに精度を高めることができる。
【0045】
また、上述したように相変化物質を相転移させるために発熱部を用いているが、電気素子の設置環境の温度によって温度制御することによっても、相変化物質の相転移を検出し、既知の相転移温度を決定することができる。よって、従来のキャリブレーション設備ほどの高精度の温度標準設備でなく空気温度分布のある温度制御精度の低い設備でよい。また、個々の電気素子の相変化物質の相転移を検出し、高精度にキャリブレーションを行うことができる。
【0046】
以上説明したように、実施形態によれば、図1に示すように、既知の相転移温度を有する相変化物質は、当該相転移温度において相変化する。この相変化を検出することで、既知の相転移温度に達したことが検知できる。そこで、図8に示すように、基板11上に、相変化物質14と、相変化物質14を加熱する発熱部13とが並列配置されている。更に、相変化物質14に光を発光部16から光導波路15を介して照射し、相変化物質14を透過した光を光導波路15を介して受光部17によって受光する。そして、発熱部13による加熱を行い、相転移温度時の受光部17によって変換出力された電気信号の変化を検出することで、相変化物質の相転移を検出する。これにより、相転移を検出した時の発熱部13の温度に基づいて素子自身で温度較正を行うことができる。これにより、発熱部13の加熱制御が簡単になり、発熱部13の加熱による温度分布が制御しやすく、温度精度が確保できる。また、相変化物質の電気伝導度に影響されないので、相変化物質の適用できる種類が多くなり、相転移温度を豊富に選択できキャリブレーション温度の自由度も大きい。そして、相変化物質の相転移温度は既知の値であるので、相転移現象の発生を精度良く検出すれば、温度を高精度に決定することができる。従来のようなキャリブレーション工程実施に伴うコストが削減され、いつでもどこでもだれでもキャリブレーションできるので長期間の精度が維持できる。
【0047】
また、実施形態によれば、図10に示すように、基板11上には、相変化物質14を加熱する発熱部13を設け、発熱部13に対して離間する箇所に光導波路15を並列に設け、この光導波路15上に直接相変化物質14を積層している。また、図11に示すように、光導波路15に相変化物質14を接するように並列配置している。これにより、コストを抑え、複雑な制御を必要とせずに高精度な制御が可能となる。
【0048】
更に、実施態様によれば、発熱部13に隣接させた箇所に相変化物質14を分散配置するために、図14に示すように、発熱部13を蛇行配置し、蛇行状の発熱部13に沿って離間させて光導波路15を並列に設けて、その光導波路15上に相変化物質14を直接積層することにより、局所に高密度配置することができ、より一層高精度な制御が可能となる。また、図15に示すように、発熱部13と相変化物質14とが、同心円となるようにそれぞれ配置され、基板上11に並列又は積層される。これにより、発熱部から均等に加熱され、精度が向上する。
【0049】
また、実施形態によれば、図17に示すように、基板11上には、異なる相転移温度を有する2つの相変化物質31、32と、各相変化物質を加熱する発熱部13とを設ける。そして、各相変化物質の光学特性の変化を検出する。このような構造の電気素子によれば、発熱部13によって加熱していくと、相変化物質31、32の光学特性の一つである光透過性が既知の各相転移温度にてそれぞれ変化する。この変化を検出することで相変化物質31、32の相転移を検出する。これにより、各相変化物質の相転移温度は既知の2つの値であるので、相転移現象の発生を精度良く検出すれば、温度を高精度に決定することができる。
【0050】
更に、実施態様によれば、図21に示すように、相変化物質14に光を発光部16から照射し、空洞内を反射しながら相変化物質14の面に照射される。そして相変化物質14に反射した-光は受光部17によって受光される。そして、発熱部13による加熱を行い、相転移温度時の受光部17によって変換出力された電気信号の変化を検出することで、相変化物質の相転移を検出する。これにより、発熱部13の加熱制御が簡単になり、発熱部13の加熱による温度分布が制御しやすく、温度精度が確保できる。また、相変化物質の電気伝導度に影響されないので、相変化物質の適用できる種類が多くなり、相転移温度を豊富に選択できキャリブレーション温度の自由度も大きい。そして、相変化物質の相転移温度は既知の値であるので、相転移現象の発生を精度良く検出すれば、温度を高精度に決定することができる。
【0051】
また、実施形態によれば、図9等に示すように、少なくとも相変化物質14を設けた領域の基板11に、空洞21を設けている。これにより、迅速な温度制御を行うことができる。
【0052】
更に、実施形態によれば、図12に示すように、少なくとも相変化物質14の周囲を絶縁材で覆う電気絶縁層22を形成している。これにより、相変化物質が周囲雰囲気によって化学変化することを防止でき、高精度な制御を高信頼に行うことができる。
【0053】
また、実施形態によれば、電気素子と回路素子とを集積して集積回路を構成する。これにより、温度依存性のある回路素子の温度に対する制御を精度よく行うことができる。また、自己温度較正機能より回路素子の温度較正工程が不要となり、回路素子自体のコストを抑えることができる。
【0054】
更に、実施形態によれば、電気素子を温度依存性のある半導体又は電子部品に集積する。これにより、大量生産される半導体又は電子部品に対する温度較正する設備や工程が不要となり、どこの製造工場でも生産でき安価な価格で半導体又は電子部品を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 電気素子
11 基板
12 リード
13 発熱部
14 相変化物質
15 光導波路
16 発光部
17 受光部
18 リード
19 検出リード
20 電気絶縁層
21 空洞
22 電気絶縁層
23 貫通空間
24 間隙
31 相変化物質
32 相変化物質
33 相変化物質
40 電子回路
50 入出力端子群
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】
【特許文献1】特許第4178729号公報
【特許文献2】特開平2−039213号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度依存性を有する電気素子において、
既知の相転移温度を持ち、光透過性の相変化物質を有する相変化部と、
温度の変化に伴う上記相変化物質の光学特性の変化を検出し、検出した上記相変化物質の光学特性の変化によって上記相変化物質の相転移が起きたことを検出する検出部と、
該検出部によって検出した相転移が起きたときの温度を既知の上記相転移温度とする温度較正を行う温度較正部と、を基板上に一体化して設けられていることを特徴とする電気素子。
【請求項2】
請求項1記載の電気素子において、
上記検出部は、上記相変化物質に光を照射する発光部と、上記相変化物質を透過した光を受光して電気信号に変換出力する受光部とを備え、上記検出部によって、上記受光部から電気信号に基づいて上記相変化物質の相転移が起きたことを検出することを特徴とする電気素子。
【請求項3】
温度依存性を有する電気素子において、
既知の相転移温度を持ち、光反射性の相変化物質を有する相変化部と、
温度の変化に伴う上記相変化物質の光学特性の変化を検出し、検出した上記相変化物質の光学特性の変化によって上記相変化物質の相転移が起きたことを検出する検出部と、
該検出部によって検出した相転移が起きたときの温度を既知の上記相転移温度とする温度較正を行う温度較正部と、を基板上に一体化して設けられていることを特徴とする電気素子。
【請求項4】
請求項3記載の電気素子において、
上記検出部は、上記相変化物質に光を照射する発光部と、上記相変化物質に反射した光を受光して電気信号に変換出力する受光部とを備え、上記検出部によって、上記受光部から電気信号に基づいて上記相変化物質の相転移が起きたことを検出することを特徴とする電気素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化物質を加熱する発熱部を設けたことを特徴とする電気素子。
【請求項6】
請求項2又は4に記載の電気素子において、
上記発光部から照射された光を上記相変化物質に導く光導波路を設けることを特徴とする電気素子。
【請求項7】
請求項2記載の電気素子において、
上記相変化物質を通過した光を上記受光部に導く光導波路を設けることを特徴とする電気素子。
【請求項8】
請求項4記載の電気素子において、
上記相変化物質に反射した光を上記受光部に導く光導波路を設けることを特徴とする電気素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気素子において、
少なくとも上記相変化部を設けた領域の上記基板に、空洞を設けることを特徴する電気素子。
【請求項10】
請求項9記載の電気素子において、
上記発光部から照射されて上記相変化物質に反射した光を上記受光部に導く光路は、上記空洞の壁面で反射する光路であることを特徴とする電気素子。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化物質は、国際温度目盛ITS−90に定義されている物質であることを特徴する電気素子。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気素子において、
少なくとも上記相変化部を上記基板上に積層することを特徴とする電気素子。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気素子において、
少なくとも上記相変化部を上記基板上に並列に配置することを特徴とする電気素子。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気素子において、
発熱部に離間させた箇所に上記相変化物質を分散配置したことを特徴とする電気素子。
【請求項15】
請求項14記載の電気素子において、
上記発熱部を蛇行配置し、蛇行状の上記発熱部に沿って上記相変化部を並列に設けたことを特徴とする電気素子。
【請求項16】
請求項14記載の電気素子において、
上記発熱部を蛇行配置し、蛇行状の上記発熱部に沿って上記相変化部を積層に設けたことを特徴とする電気素子。
【請求項17】
請求項14記載の電気素子において、
上記発熱部と上記相変化部とが、同心円となるようにそれぞれ配置したことを特徴とする電気素子。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記発熱部と上記相変化部と間に電気絶縁材を設けることを特徴とする電気素子。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の電気素子において、
発熱部による温度検出範囲が上記相転移温度近傍の温度範囲内であることを特徴とする電気素子。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載の電気素子において、
溶解して合金となる複数の上記相変化物質を設け、温度上昇によって上記各相変化物質が溶解して相変化物質の合金となり、合金の相変化物質の光学特性変化を検出して合金の上記相変化物質の相転移を検出することを特徴とする電気素子。
【請求項21】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気素子において、
上記相変化部は、異なる既知の相転移温度の複数の上記相変化物質を有し、上記各相変化物質の各光学特性の変化を検出して上記各相変化物質の相転移をそれぞれ検出することを特徴とする電気素子。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか1項に記載の電気素子において、
少なくとも上記相変化部の周囲を絶縁材で覆う表面保護膜を形成することを特徴とする電気素子。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の電気素子を複数集積したこと特徴とする電気素子。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の電気素子と回路素子とを集積することを特徴とする集積回路。
【請求項25】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の電気素子を、温度依存性のある半導体又は電子部品と共に集積することを特徴とする電子回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−78285(P2012−78285A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225703(P2010−225703)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】