説明

電気絶縁油組成物

【課題】含有される酸化防止剤の添加効果が著しく向上し、耐候性に優れるとともに、長期間使用してもスラッジの発生がない電気絶縁油組成物を提供する。
【解決手段】非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類のうち少なくともいずれかを含み、電界イオン化質量分析法(FI−MS法)により測定された非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類の含有量が90質量%以上である精製鉱油を基油として、フェノール系酸化防止剤を配合した電気絶縁油組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器などに使用される電気絶縁油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁油は、いったん変圧器等に充填された後は長期間に渡って無交換で使用されるため、耐酸化安定性や耐候性が極めて重要である。
これに対して、市販の1種2号絶縁油に酸化防止剤を添加することで耐酸化寿命を延長した電気絶縁油が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
さらに最近では、クレーゲル分析による極性物質の含有量を特定範囲にした基油や、電界イオン化質量分析法によるパラフィン類の含有量を特定範囲にした基油を用いた電気絶縁油が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−306430号公報
【特許文献2】特開2002−260445号公報
【特許文献3】特開2004−164858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポールトランスに代表されるような開放型小型変圧器においては、大型変圧器と比べ油劣化防止方式やメンテナンス状況が異なっており、絶縁油の環境が厳しく、その劣化度合いは大きい。それ故、特許文献1に記載された電気絶縁油を用いても、開放型小型変圧器用としては未だ耐候性が不十分であり、使用中にスラッジの発生は避けられず、また油面計の汚れにより現場の維持管理が困難となるなどの問題がある。
また、特許文献2、3に記載された電気絶縁油でも、耐候性は未だ不十分であり、耐候性の一層の向上が望まれている。
そこで、本発明は、含有される酸化防止剤の添加効果が著しく向上し、耐候性に優れるとともに、長期間使用してもスラッジの発生がない電気絶縁油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記した課題を解決すべく、本発明は、以下のような電気絶縁油組成物を提供するものである。
(1)非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類のうち少なくともいずれかを含む精製鉱油を基油とする電気絶縁油組成物であって、電界イオン化質量分析法(FI−MS法)により測定された前記非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類の前記精製鉱油における含有量が90質量%以上であり、前記基油にフェノール系酸化防止剤を配合したことを特徴とする電気絶縁油組成物。
【0006】
(2)上記(1)に記載の電気絶縁油組成物において、前記フェノール系酸化防止剤の配合量が、組成物全量基準で0.05〜0.5質量%であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
(3)上記(1)または(2)に記載の電気絶縁油組成物において、前記精製鉱油における非環状パラフィン類の含有量が60質量%以上であり、モノシクロパラフィン類の含有量が20質量%以上であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
【0007】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の電気絶縁油組成物において、環分析(n-d-M法)により測定された前記精製鉱油における%CPが90質量%以上であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の電気絶縁油組成物において、組成物全量基準で、硫黄分が10質量ppm以下であり、全窒素分が5質量ppm以下であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の電気絶縁油組成物において、40℃における動粘度が5〜13mm/s、流動点が−30℃以下、および引火点が140℃以上であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電気絶縁油組成物によれば、基油に対する酸化防止剤の添加効果が著しく向上する。それ故、優れた耐候性を発揮できるとともに、長期間使用してもスラッジの発生がない電気絶縁油組成物を提供できる。また、本発明の電気絶縁油組成物を製造するには、必ずしも白土処理を必要としないので、環境面からも好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
本発明の電気絶縁油組成物は、非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類のうち少なくともいずれか含む精製鉱油を基油とする。そして、電界イオン化質量分析法(FI−MS法)により測定された前記非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類の前記精製鉱油における含有量が90質量%以上である。
このような精製鉱油の製造に用いられる原料原油としては、パラフィン基系原油,ナフテン基系原油、混合基系原油およびGTL(Gas To Liquid)基油のいずれも使用できるが、酸化劣化防止の観点よりGTL基油が好ましい。
精製鉱油は、例えば上述した原油を蒸留して得られた留出油および/またはワックスを含む留出油(常圧換算で250〜500℃)を水素化改質、水素化精製、溶剤精製、水素化脱蝋、溶剤脱蝋等の各公知の精製プロセスを適宜組み合わせて製造したものを適宜混合することにより所定の精製鉱油を得ることができる。
ここで、留出油とは原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られたものを意味する。
【0010】
上記した公知の各プロセスを適宜選定し、あるいは得られた精製鉱油を適宜ブレンドすることによって、電界イオン化質量分析法(FI−MS法)により測定された非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類の含有量が90質量%以上である精製鉱油を得ることができる。この精製鉱油は、非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類の含有量が上述した所定量以上であるので、後述するフェノール系酸化防止剤の添加効果に極めて優れている。すなわち、この精製鉱油を基油として、フェノール系酸化防止剤を添加してなる電気絶縁油組成物は、極めて優れた耐酸化安定性を発揮するようになる。
【0011】
非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類の精製鉱油における含有量は、好ましくは、95質量%以上である。また、精製鉱油における非環状パラフィン類の含有量は60質量%以上、かつ、モノシクロパラフィン類の含有量は20質量%以上であることが好ましい。これらのいずれかの成分の含有量が上述した量を下回ると、フェノール系酸化防止剤の添加効果が低下するおそれがある。すなわち、電気絶縁油組成物として十分な耐候性が得られず、絶縁油の変色を生じたりスラッジが発生するおそれがある。精製鉱油における非環状パラフィン類のより好ましい含有量は70質量%以上である。
【0012】
また、本発明において基油として用いられる精製鉱油は、環分析(n-d-M)法により測定された%CP(パラフィン分)が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。%CPが90質量%未満であると、後述するフェノール系酸化防止剤の添加効果が低下するおそれがある。
【0013】
本発明の電気絶縁油組成物は、上述した特定の基油に、フェノール系酸化防止剤が配合されたものである。フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−p−クレゾール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系を挙げることができる。該フェノール系酸化防止剤は一種または二種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の電気絶縁油組成物に適用される酸化防止剤としては、上述のフェノール系酸化防止剤が必須であり、他の種類の酸化防止剤の使用は好ましくない。例えば、窒素系、硫黄系酸化防止剤では、熱あるいは光によって潤滑油組成物の変色を招きやすく、さらには銅を腐食するおそれがあるので好ましくない。ただし、本発明の効果を損なわない範囲での併用は差し支えない。
上記のフェノール系酸化防止剤の配合量は、組成物全量基準で0.05〜0.5質量%であることが好ましい。フェノール系酸化防止剤の配合量が0.05質量%未満では、電気絶縁油組成物としての耐酸化安定性が悪く、耐候性も低下し、使用中に組成物が変色しスラッジが発生する場合がある。一方、フェノール系酸化防止剤の配合量が0.5質量%を超えると電気特性に劣るおそれがある。それ故、耐酸化安定性、耐候性および電気特性のバランスを考慮すると、フェノール系酸化防止剤の配合量は0.1〜0.4質量%であることがより好ましい。
【0014】
本発明の電気絶縁油組成物は、組成物全量基準で硫黄分が10質量ppm以下であり、全窒素分が5質量ppm以下であることが好ましい。電気絶縁油組成物中の硫黄分が10質量ppmを超えると、電気絶縁油組成物の耐酸化安定性や耐候性が低下して、該組成物が変色したり、スラッジが発生するおそれがある。また、全窒素分の含有量が5質量ppmを超えると色相劣化を引き起こし、また誘電正接(tan δ)を悪化させる場合がある。この点から、全窒素分の含有量は3質量ppm以下がさらに好ましい
ここで、硫黄分はJIS K−2541に準拠して測定すればよく、全窒素分は、JIS K−2609に準拠して測定できる。
【0015】
さらに、本発明の電気絶縁油組成物は、40℃における動粘度が5〜13mm/s、流動点が−30℃以下、および引火点が140℃以上であることが好ましい。40℃における動粘度が5mm/s未満では、揮発性が高くなりすぎて、取扱いにおいて安全上問題がある場合があり、一方、40℃における動粘度が13mm/sを超えると流動性が低くなりすぎ取扱いが困難となる。この観点から、より好ましくは5〜12mm/sである。また、流動点が−30℃を超えると、寒冷地での使用に支障が生じるので好ましくなく、引火点が140℃未満では、安全上問題がある場合がある。
ここで、40℃動粘度は、JIS K−2283に準拠して測定すればよく、硫黄分は、JIS K−2541に準拠して測定できる。また、流動点は、JIS K−2269に準拠して測定できる。
なお、特に粘度指数が高く、低流動点の電気絶縁油組成物を得るためには、ワックスを水素化脱蝋装置で、おだやかに処理した異性化油を添加することが好ましい
【0016】
本発明の電気絶縁油組成物には、必要に応じて、ベンゾトリアゾールなどの金属不活化剤を、組成物全量基準で0〜40質量ppm、および/またはポリアルキルメタクリレートなどの流動点降下剤を0〜0.5質量%を本発明の目的を阻害しない範囲で配合することができる。なお、本発明の電気絶縁油組成物の基油に用いられる精製鉱油としては、日本工業規格(JIS C 2320−1993)のうち、電気絶縁油1種2号の規格に合格するものを選択することが好ましい。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例に何ら制限されるものではない。なお、本実施例における各種精製鉱油の性状分析法、および電気絶縁油組成物についての評価法は下記の通りである。
【0018】
(A)精製鉱油の性状分析法
(A-1)電界イオン化質量分析法(FI−MS分析法)
試料油中のパラフィン類、ナフテン類についてのタイプ分析を行い、精製鉱油全量に対する質量%として求めた。分析装置としては、二重収束型質量分析計〔日本電子(株)製,SX−102A型〕を用い、直接導入−電界イオン化(Field Ionization)−質量分析(MS)法により測定した。この場合のイオン化条件は、加速電圧8kV,カソード電圧2kVとした。(出光技法第41巻第6号「FI−MSによる石油留分のタイプ分析」、第43巻第1号「質量分析法による潤滑油分析」を参照。)
【0019】
(A-2)40℃動粘度:JIS K−2283に準拠して測定した。
(A-3)硫黄分:JIS K−2541に準拠して測定した。
(A-4)全窒素分:JIS K−2609に準拠して測定した。
(A-5)流動点:JIS K−2269に準拠して測定した。
【0020】
(B)電気絶縁油組成物の評価法
(B-1)電気特性:JIS C−2101に準拠して測定した。
(B-2)耐酸化安定性(JIS絶縁油酸価試験):JIS C−2101に準拠し、供試油を120℃で、200、250、300、350時間保持した後のスラッジ発生の有無(油の外観)と全酸価を測定した。
(B-3)耐候性試験(自然耐候性試験):直射日光の当たる屋内窓際で、各供試油50mLを、各々、内径3.5cm、高さ6cmのガラス製50mL容器に充填して蓋をした。そして、2、4、6、8カ月間保管した後のスラッジ発生の有無(油の外観)と全酸価を測定した。
【0021】
〔実施例1〕
フィッシャー・トロプシュ(FT)ワックス留分を異性化脱漏工程および水素化仕上げ工程を含む工程で処理した後、減圧蒸留することにより2種類以上の精製基油に分留し規定粘度に調整した軽質留分の精製鉱油Aを得た。性状分析の結果を表1に示す。
この精製鉱油Aに組成物全量基準で0.3質量%の2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)を配合して電気絶縁油組成物(絶縁油A)を調整し、電気特性、耐酸化安定性および耐候性について評価した。結果を表2に示す。
【0022】
〔実施例2〕
フィッシャー・トロプシュ(FT)ワックス留分を異性化脱漏工程および水素化仕上げ工程を含む工程で処理した後、減圧蒸留することにより2種類以上の精製基油に分留し規定粘度に調整した軽質留分の精製鉱油Bを得た。性状分析の結果を表1に示す。
この精製鉱油Bに組成物全量基準で0.3質量%の2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)を配合して電気絶縁油組成物(絶縁油B)を調整し、電気特性、耐酸化安定性および耐候性について評価した。結果を表2に示す。
【0023】
〔比較例1〕
パラフィン基系原油を常圧蒸留し、その常圧残渣油を減圧蒸留して得た減圧留出油を水素化改質精製、水素化脱漏、水素化仕上げの順に処理した後、更に減圧蒸留により所定粘度に調整して軽質留分の精製鉱油Cを得た。性状分析の結果を表1に示す。
この精製鉱油Cに、組成物全量基準で0.3質量%の2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)を配合して電気絶縁油組成物(絶縁油C)を調整し、電気特性、耐酸化安定性および耐候性について評価した。結果を表2に示す。
【0024】
〔比較例2〕
パラフィン基系原油を常圧蒸留し、その常圧残渣油を減圧蒸留して得た減圧留出油を水素化改質精製、水素化脱漏、水素化仕上げの順に処理した後、所定粘度に調整して精製鉱油Dを得た。性状分析の結果を表1に示す。
この精製鉱油Dに、組成物全量基準で0.3質量%の2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)を配合して電気絶縁油組成物(絶縁油D)を調整し、電気特性、耐酸化安定性および耐候性について評価した。結果を表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
〔評価結果〕
上記の結果より、本発明における実施例1、2の電気絶縁油組成物は、電気特性と耐酸化安定性に優れると共に、耐候性にも優れていることが分かる。一方、比較例1、2の電気絶縁油組成物は、実施例1、2と同じ酸化防止剤を同量配合しているにもかかわらず、基油である精製鉱油中のパラフィン類およびモノシクロパラフィン類の割合が少ないため、酸化防止剤の添加効果が発揮されず、電気特性、耐酸化安定性および耐候性に劣っている。
なお、本実施例では、精製鉱油の白土処理を行うことなく、優れた性能の電気絶縁油組成物を得ており、環境保護の観点からも好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の電気絶縁油組成物は、油入り変圧器、油入り遮断器、油入りケーブル、油入りコンデンサ等、特に小型の開放式変圧器などの用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類のうち少なくともいずれかを含む精製鉱油を基油とする電気絶縁油組成物であって、
電界イオン化質量分析法(FI−MS法)により測定された前記非環状パラフィン類およびモノシクロパラフィン類の前記精製鉱油における含有量が90質量%以上であり、
前記基油にフェノール系酸化防止剤を配合したことを特徴とする電気絶縁油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電気絶縁油組成物において、
前記フェノール系酸化防止剤の配合量が、組成物全量基準で0.05〜0.5質量%であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気絶縁油組成物において、
前記精製鉱油における非環状パラフィン類の含有量が60質量%以上であり、モノシクロパラフィン類の含有量が20質量%以上であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電気絶縁油組成物において、
環分析(n-d-M法)により測定された前記精製鉱油における%CPが90質量%以上であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電気絶縁油組成物において、
組成物全量基準で、硫黄分が10質量ppm以下であり、全窒素分が5質量ppm以下であることを特徴とする電気絶縁油組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電気絶縁油組成物において、
40℃における動粘度が5〜13mm/s、流動点が−30℃以下、および引火点が140℃以上であることを特徴とする電気絶縁油組成物。

【公開番号】特開2009−4159(P2009−4159A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162475(P2007−162475)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】